東京高等裁判所 平成11年(行コ)215号 判決 2000年3月16日
控訴人
鈴木正治
右訴訟代理人弁護士
山本博
同
安養寺龍彦
同
戸谷豊
被控訴人
保土ヶ谷税務署長 田口武尚
右指定代理人
小池充夫
同
岡村雅彦
同
軽部勝治
同
佐藤繁
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が控訴人に対し平成六年七月八日付けでした被相続人鈴木フミの相続税の更正処分(ただし、平成八年四月八日付け裁決により一部取り消された後のもの)のうち、相続税の課税価格四億七八七四万五〇〇〇円、納付すべき相続税額二億〇四九四万一八〇〇円を超える部分を取り消す。
三 被控訴人が控訴人に対し平成六年七月八日付けでした被相続人鈴木フミの相続税に係る無申告加算税の賦課決定処分(ただし、平成八年四月八日付け裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
第二事案の概要
次のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決四頁四行目の「認定した」の次に「などの」を加える。
二 一一頁末行の「(以下」から一二頁一行目の「いう。)」までを削り、同二行目の「本件山林」を「そのうちの丙山林及び丁山林(以下、併せて「本件山林」という。)」にそれぞれ改める。
三 一八頁三行目の「通則法」の前に「ただし、前記裁決により一部取消後の税額で、」を加える。
第三当裁判所の判断
一 本案前の争点(本件更正処分取消しの訴えの適否)について
当裁判所も、控訴人の本件更正処分の取消しの訴えは不適法であると判断する。その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」一(原判決二〇頁八行目から二八頁二行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二二頁五行目の次に改行して次のとおり加える。
「 さらに、当審に至って、被控訴人は、本件について、平成八年七月九日付けで、課税価格を二四億四〇四六万四〇〇〇円、納付税額を一五億三九一五万七六〇〇円とする再更正処分(以下「本件再更正処分」という。)がされたことを主張し、証拠(乙二一)によれば、右事実が認められるから、本件再更正処分後は、本件更正処分のみならず、本件修正申告も、本件再更正処分に吸収されてこれと一体となり、独立の存在意義を失っていることになる。」
2 二三頁一〇行目の末尾に「さらに、本件再更正処分後は、本件修正申告も、本件再更正処分に吸収されてこれと一体となり、独立の存在意義を失っていることは前記のとおりである。」を加える。
3 二三頁一一行目から二五頁四行目までを削る。
4 二五頁五行目の「(三)」を「(二)」に改め、同一〇行目から二七頁八行目までを次のとおり改める。
「 本件決定処分は、本件更正処分を前提として、これにより納付すべきこととなった増差税額(一万円未満切捨て)に一五パーセントの割合を乗じて算出される無申告加算税を課したものであるから、仮に、本件更正処分が違法であれば、これを基としてされた本件決定処分も違法のものとして、取消しを免れないというべきであるが、そのためには、本件更正処分が違法であることが判断されればよいのであって、本件更正処分が取り消されなければならないものではない。
したがって、控訴人の右主張は理由がない。」
5 二八頁一行目の「原則として、」を削る。
二 争点2(本件決定処分の適否)について
1 本件更正処分の適否
(一) 信義則違反の有無
本件申告に至る経緯は、後記認定のとおりであり、神田署長又は高田統括官が本件山林について倍率方式により評価すべきことを指導、指示した事実は認められないから、控訴人の信義則違反の主張は、理由がない。
(二) 過大認定の違法の有無
本件更正処分の課税根拠は、原判決別表1、2並びに3の1及び2各記載のとおりであるところ、控訴人は、過大認定の違法として、もっぱら本件山林(丙山林及び丁山林)の評価額について争っていることが明らかであるので、以下この点について判断する。
(1) 本件山林の評価方式
控訴人は、倍率方式によるべきであると主張するが、市街地山林である本件山林については、倍率方式による場合の倍率が定められていない(乙五、八)のであるから、倍率方式によることはできず、原則として、比準方式によるべきことになる(財産評価基本通達(乙四。以下「評価通達」という。)四五、四九)。
控訴人が倍率方式によるべきであるとする根拠は、神田署長又は高田統括官が本件山林について倍率方式により評価すべきことを指導、指示したということに尽きるところ、このような事実は認められないから、倍率方式によるべきとする控訴人の主張は理由がない。
ところで、被控訴人は、本件山林について、本件更正処分においては、原判決別表3の1備考欄記載のとおりの評価額によっているのに対し、本訴においては、比準方式による評価として、別表4の1及び2記載のとおり主張しているところ、比準方式による評価額は本件更正処分による評価額を超えているから、被控訴人主張の比準方式による評価額に過大認定の違法がなければ、本件更正処分による評価額は、その範囲内のものとして過大認定の違法はないことになり、被控訴人が本件更正処分において比準方式と異なる評価を採用したこと自体は、違法にならないと解すべきである。
そして、控訴人は、被控訴人の比準方式による評価を前提として、その評価の過誤を主張しているので、以下に順次この点について判断する。
(2) 丁山林のがけ地補正の要否
比準方式により市街地山林の評価を行う場合には、山林を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除することになっている(評価通達四九)から、原則として、この造成費の控除のほかに、がけ地補正をする必要は認められない。
また、丁山林は、その傾斜度が三〇度以上の箇所が存在するとは認められない(乙一二、一三)から、控訴人の主張は、この点においても失当である。
(3) 本件山林の造成費用
比準方式によれば、市街地山林の価額は、山林が宅地であるとした場合の一平方メートル当たりの価額から、国税局長の定める一平方メートル当たりの造成費に相当する金額を控除した金額に、山林の地積を乗じて算定される(評価通達四九)。
そして、証拠(乙一二ないし一四)によれば、丙山林及び丁山林の平均傾斜度はそれぞれ一〇度以内であると認められるから、東京国税局長の定める概算造成費の額は五六〇〇円である(乙五)。右概算造成費の額は、造成費の実態調査によって得られた数額の平均値を「建設物価」及び「積算資料」という月刊誌に掲載された統計と比較検討して算出されたものであり(弁論の全趣旨)、合理的に算出された相当な金額と認められる。
これに対し、控訴人は、本件山林に必要な造成費として四万円を主張し、これに沿う証拠(甲四の一・二)を提出するが、その工事内容は山林から宅地への造成工事を超えるものである上、その金額の計算根拠も全く不明であり、本件山林を宅地へ造成する場合の相当な造成費として認めることができないし、右に説示したとおり、評価通達に定める比準方式により山林を評価する場合には、国税局長の定める金額を造成費として控除することになるのであるから、控訴人の右主張は、採用することができない。
(4) 本件山林の有効宅地化率
証拠(乙七)によれば、本件山林の有効宅地化率は、四五・二二パーセントと認めるのが相当である。
(5) 丁山林の奥行(長大)補正の要否
丁山林については、別表4の1記載のとおり不整形地(「不正形地」は誤記)補正を行っているところ、右不整形地補正は、奥行長大補正の要素をも含んでいると認められるから、不整形地補正を行った上に重ねて奥行長大補正を行う必要はない。
(6) 地役権の設定された本件山林の評価
特別高圧架空電線の架設等を目的とする地役権が設定されている土地の評価については、地役権の価額を控除した金額によって評価すべきところ(評価通達五一(4))、地役権の設定により建造物の築造や、送電線路の支障となる竹木の植栽が禁止されているとしても、土地所有者は、それ以外の利用が全く禁止されているものではなく、かつ、利用の制限に見合う地役権設定の対価を受けているのであるから、その土地の評価を零とすべき理由は全くなく、被控訴人が、別表4の1及び2記載のとおり評価通達(二七―三、五三―三)に基づき区分地上権に準ずる地役権の価額を算出し、これを自用地としての価額から控除して相続税評価額を算出したことに過大認定の違法はない。
以上に説示したとおりであり、被控訴人主張の比準方式による本件山林の評価に過誤は認められず、被控訴人のした本件更正処分の本件山林の評価額に過大認定の違法はない。
2 信義則違反の有無
当裁判所も、本件決定処分に控訴人主張の手続的な違法事由はないものと判断する。その理由は、原判決の「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」二2(原判決二九頁七行目から三四頁七行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
三 よって、控訴人の本件更正処分取消しの訴えを却下し、本件決定処分岐取消請求を棄却した原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 杉山正己 裁判官 沼田寛)
別表4の1
丙山林、丁山林の評価計算明細表
<省略>
別表4の2
区分地上権に準ずる地役権の価額
<省略>