東京高等裁判所 平成11年(行コ)278号 判決 2000年6月28日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対して平成六年一〇月一四日付けでした株式会社アズマの滞納国税に係る譲渡担保権者に対する国税徴収法二四条二項に基づく告知処分を取り消す。
第二被控訴人
主文第一項と同旨。
第二事案の概要
本件は、(一)(1) 伊那税務署長が、株式会社アズマ(以下「滞納会社」という。)の滞納国税債権を徴収するため、滞納会社が第三債務者である株式会社三協精機製作所(以下「三協精機」という。)に対して有する売掛債権について、国税徴収法六二条一項の規定に基づき、差押えの手続をし、(2) その後、右滞納国税債権の徴収の引継ぎを受けた被控訴人が、滞納会社の財産について滞納処分を執行してもなお右国税債権に不足すると認められるとして、控訴人、滞納会社及び三協精機との間で締結された、いわゆる一括支払システム契約(譲渡担保契約及び停止条件付き代物弁済契約)に基づき右売掛債権について譲渡担保権を有している控訴人に対し、同法二四条四項及び同条二項の規定に基づき、同条一項の規定に基づき譲渡担保財産である右売掛債権から右国税債権を徴収する旨の告知処分をしたのに対し、(二) 控訴人が、(1) 右差押えは同法二四条四項の要件を満たさない違法な差押えであり、(2) 右告知処分がされた時点で一括支払システム契約の代物弁済条項によって右売掛債権は消滅したのであるから、右告知処分は違法である旨主張し、右告知処分の取消しを求めた事案である。
一 本件の前提となる事実関係は次のとおりである。
1 控訴人は、滞納会社及び三協精機との間で、平成二年四月二日、次の内容の譲渡担保契約及び停止条件付き代物弁済契約(以下この契約を一般的に「一括支払システム契約」と称し、本件の契約を「本件一括支払システム契約」という。)を締結した。
(一) 滞納会社は、控訴人に対し、控訴人の滞納会社に対する当座貸越契約に基づく債権を担保するため、滞納会社の三協精機に対する売掛債権を、三協精機が所定の譲渡代金債権明細書兼承諾書(以下「明細書兼承諾書」という。)を控訴人に対して交付したときに譲渡する。
(二) 右によって譲渡された滞納会社の三協精機に対する売掛債権に対して国税徴収法二四条及びこれと同旨の規定に基づく譲渡担保権者に対する告知が発せられたときは、右売掛債権を担保とする控訴人の滞納会社に対する当座貸越債権は当然にその弁済期が到来したものとし、担保のために譲渡された滞納会社の三協精機に対する右売掛債権は控訴人の滞納会社に対する右当座貸越債権の代物弁済に充当される。
2 控訴人は、本件一括支払システム契約に基づき、次のとおり三回にわたって、三協精機から明細書兼承諾書の交付を受けて、当座貸越契約に基づく控訴人の滞納会社に対する債権を担保するため、滞納会社から三協精機に対する合計五九三万六一一六円の売掛債権(以下「本件売掛債権等」という。)の譲渡を受け、その都度、三協精機から確定日付ある証書による譲渡の承諾を受けた。
(一) 平成六年六月二〇日、三協精機から同日付け明細書兼承諾書の交付を受けて、滞納会社の三協精機に対する売掛債権一一六万八四四三円(同年五月締め分)の譲渡を受け、右明細書兼承諾書に同年六月二〇日付けの確定日付を受けた。
(二) 同年七月一九日、三協精機から同日付け明細書兼承諾書の交付を受けて、滞納会社の三協精機に対する売掛債権二三〇万六〇五一円(同年六月締め分)の譲渡を受け、右明細書兼承諾書に同年七月一九日付けの確定日付を受けた。
(三) 同年八月一八日、三協精機から同日付け明細書兼承諾書の交付を受けて、滞納会社の三協精機に対する売掛債権二四六万一六二二円(同年七月締め分)の譲渡を受け、右明細書兼承諾書に同年八月一八日付けの確定日付を受けた。
3 滞納会社は、同年九月五日ころ、従業員を全員解雇し、会社整理に入った。
4 国は、同月二八日、滞納会社に対して、原判決別紙租税債権目録記載のとおり、既に納期限を経過した本税、加算税及び延滞税の合計一六六一万九八九一円の租税債権(以下「本件租税債権」という。)を有していた。
5 伊那税務署長は、右同日、本件租税債権を徴収するため、国税徴収法六二条一項の規定に基づき、滞納会社が三協精機に対して有する本件売掛債権等を差し押さえ(以下「本件差押え」という。)、三協精機に対し、同日、債権差押通知書を送達した。
6 被控訴人は、同年一〇月一三日、伊那税務署長から、国税通則法四三条三項の規定に基づき、本件租税債権の徴収の引継ぎを受けた。
7 被控訴人は、滞納会社の財産について滞納処分を執行してもなお本件租税債権に不足すると認められるとして、同月一四日、控訴人に対し、国税徴収法二四条四項及び同条二項の規定に基づき、同条一項の規定に基づき譲渡担保財産である本件売掛債権等から本件租税債権を徴収する旨の告知(以下「本件告知処分」という。)をし、同月一七日、控訴人に対し、本件告知処分に係る告知書を送達した。
二 国税徴収法二四条一項は、「納税者が国税を滞納した場合において、その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの(以下「譲渡担保財産」という。)があるときは、その者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができる。」と、同条四項は、「譲渡担保財産を第一項の納税者の財産としてした差押は、同項の要件に該当する場合に限り、前項の規定による差押として滞納処分を続行することができる。この場合において、税務署長は、遅滞なく、第二項の告知及び通知をしなければならない。」と、同条二項は、「税務署長は、前項の規定により徴収しようとするときは、譲渡担保財産の権利者(以下「譲渡担保権者」という。)に対し、徴収しようとする金額その他必要な事項を記載した書面により告知しなければならない。この場合においては、その者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。以下同じ。)の所在地を所轄する税務署長及び納税者に対しその旨を通知しなければならない。」と、同条五項は、「第二項の規定による告知又は前項の規定の適用を受ける差押をした後、納税者の財産の譲渡により担保される債権が債務不履行その他弁済以外の理由により消滅した場合(譲渡担保財産につき買戻、再売買の予約その他これらに類する契約を締結している場合において、期限の経過その他その契約の履行以外の理由によりその契約が効力を失ったときを含む。)においても、なお譲渡担保財産として存続するものとみなして、第三項の規定を適用する。」とそれぞれ規定している。
原審において、被控訴人は、(一) 国税徴収法二四条四項にいう「譲渡担保財産を第一項の納税者の財産としてした差押」の意義は、差し押さえようとした財産について、当該財産が既に担保のために譲渡された事実を確知し得ず、または、担保のために譲渡された事実を確認できないために、当該財産が未だ納税者に帰属する財産としてした差押えの意であり、ある財産が譲渡担保財産であることを確知するということは、有効に成立した譲渡担保契約に基づいて、譲渡担保財産の帰属が譲渡担保権者に移転し、かつ、第三者対抗要件を備えていることを現実に確認することにほかならないと解されるところ、伊那税務署の徴収職員は、本件差押えに先立つ平成六年九月一三日から本件差押えを執行した同月二八日にかけて、三協精機の事務所及び控訴人のα支店に赴いて調査を行い、本件売掛債権等に関して、本件一括支払システム契約に基づく債権譲渡の合意が存することを確認したが、確定日付ある書面による本件売掛債権等に係る譲渡の通知又は譲渡の承諾についてはその存否を確認することができなかったのであるから、本件差押えは適法にされたものである、(二) 本件差押えは、国税徴収法二四条四項に規定する差押えに該当するから、同条二項の告知書が送達される前に譲渡担保権が実行されたとしても、同条五項の規定によって、本件売掛債権等はなお譲渡担保財産として存続するものとみなされる、などと主張した。
本件の主要な争点は、(一) 本件告知処分の前提となる本件差押えは、伊那税務署長(その徴収職員)において、本件売掛債権等が譲渡担保財産であることを知りながらあるいは容易に知ることができたにもかかわらずこれを知らずにしたものであって、違法であるか否か(争点1)及び(二) 控訴人は、本件告知処分がされた時点で、本件売掛債権等が本件一括支払システム契約の代物弁済条項によって消滅したことを国に対抗することができるか否か(争点2)、である。
原審は、(一) 伊那税務署長が本件売掛債権等を滞納会社に帰属するものとしてした本件差押えに違法はなく、(二) 控訴人は本件告知処分がされた時点で本件売掛債権等が本件一括支払システム契約の代物弁済条項によって消滅したことを国に対抗することはできない、と判示して、控訴人の被控訴人に対する本件請求を棄却した。
控訴人は、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
争点に係る当事者双方の主張を含む本件事案の概要は、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決五頁二行目及び五行目の「時」をいずれも「とき」と、四〇頁一一行目の「国税債権者であるき国」を「国税債権者である国」と改める。)。
第三争点に対する判断
当裁判所も、本件差押えに違法はなく、また、控訴人は本件告知処分がされた時点で本件売掛債権等が本件一括支払システム契約の代物弁済条項によって消滅したことを国に対抗することはできないから、結局、本件告知処分に違法はなく、したがって、本件告知処分の取消しを求める控訴人の被控訴人に対する本件請求は理由がないものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第三 争点についての判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
一 本件告知処分の前提となる本件差押えは、伊那税務署長(その徴収職員)において、本件売掛債権等が譲渡担保財産であることを知りながらあるいは容易に知ることができたにもかかわらずこれを知らずにしたものであって、違法であるか否か
(争点1)について
控訴人は、国税徴収法二四条四項にいう「譲渡担保財産を第一項の納税者の財産としてした差押」とは、徴収職員において当該財産が譲渡担保財産であるか否かについて適切かつ十分な調査を尽くしたにもかかわらず譲渡担保財産であることが判明しなかった場合に当該財産を納税者の財産としてした差押えをいうものと解すべきであるとし、この見解に立った上で、本件においては、伊那税務署の徴収職員は本件差押えまでに控訴人に対して「譲渡代金債権明細書兼承諾書」(明細書兼承諾書)の写しの提出を求めるなど第三者対抗要件の具備について当然行うべき調査をしなかったとして、本件差押えは違法であると主張する。
しかしながら、(一) 国税徴収法二四条は、国税と譲渡担保権の被担保債権との優劣関係については、国税の法定納期限等と譲渡担保権設定との先後関係で決する旨(同条六項)を規定した上、国税が優先する場合で、納税者の財産につき滞納処分をしてもなお徴収すべき国税に不足があると認められるときは、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができる旨(同条一項)を規定し、他方、税務署長による書面による告知等の後に、譲渡担保権の被担保債権が債務不履行その他弁済以外の理由により消滅した場合においても、なお譲渡担保財産として存続するものとみなして滞納処分を執行することができる旨(同条五項)を規定して、国税の徴収と譲渡担保権者の利益を調整していると解されること、(二) 国税徴収法二四条四項は、第三者である徴収機関は、譲渡担保財産についてその事実を容易に認識することができないことから右譲渡担保財産を滞納者の財産として差し押さえることがあり得るところ、その差押えを解除して同条二項及び三項の手続により譲渡担保権者の財産として再び差し押さえるといったはんさな手続を省略し、かつ、このような手続を取っている間に譲渡担保権者が本来国税に劣後する譲渡担保権を実行するなどして譲渡担保財産を処分し国税の徴収ができなくなるといった不都合を避けるため、同条一項の規定に該当する場合に限り、滞納者の財産としてされた譲渡担保財産に対する差押えを第二次納税義務者とみなされた譲渡担保権者の財産としてされた差押えとして同条三項の規定により滞納処分を続行することができるとして規定されたものであると解される。このような国税徴収法二四条各項の規定が置かれていること及びその趣旨とするところを前提にすると、同条四項にいう「譲渡担保財産を第一項の納税者の財産としてした差押」とは、差し押さえようとした財産について、当該財産が既に担保のために譲渡された事実を確知し得ず、または、担保のために譲渡された事実をこれを裏付ける資料等をもって確認し得ないために、当該財産が未だ納税者に帰属する財産としてした差押えをいい、また、ある財産が譲渡担保財産であることを確知したといえるためには、有効に成立した譲渡担保契約に基づいて、譲渡担保財産の帰属が譲渡担保権者に移転し、かつ、第三者対抗要件を備えていることを現実に確認したことを必要とすると解することが相当である。そして、徴収職員において納税者が譲渡担保に供した特定の財産について譲渡担保財産であることを確知できずにこれを納税者の財産として差押えをした場合については、その確知できない原因が、調査によって得られた資料から譲渡担保財産であることが明らかであるのに故意又は過失によってこれを看過し、あるいは更なる調査をすれば関係者の協力を得て容易に右事実を認識し得たのに殊更に調査を懈怠したことによるためであるなどの事情がなく、右差押えが同条一項の要件を満たすものである限り、右差押えは国税徴収法二四条四項にいう「譲渡担保財産を第一項の納税者の財産としてした差押」に該当するというべきである。
そして、これを本件についてみると、原判決認定のとおり、(一) 滞納会社は、平成六年九月五日ころ、従業員を全員解雇し、会社整理に入ったこと、(二) 伊那税務署管理徴収部門統括国税徴収官であったA(以下「A統括官」という。)及びその部下の国税徴収官であったBは、同年七月以降、滞納会社の滞納整理を担当していたところ、A統括官は、右(一)の事実の報告を受けて、B徴収官に対し、滞納会社の滞納税の徴収に関する調査を行い、必要な措置を講じるよう命じたこと、(三)(1) B徴収官は、同年九月九日、滞納会社の取引銀行である控訴人のα支店に臨場し、同支店のC次長らと面接して、調査への協力を依頼したが、滞納会社の同支店における預金残高及び借入金残高しか確認できなかったこと、(2) 次いで、B徴収官は、同月一三日、三協精機の下諏訪工場に臨場し、同工場の経理担当者であるEらと面接して調査を行い、滞納会社が三協精機に対し本件売掛金債権等を有していることを確認したこと、また、(3) B徴収官は、右調査の過程で、控訴人、滞納会社及び三協精機の間で一括支払システム契約を締結しているとの情報を得たので、Eらに対し、関係書類の提出を求めたところ、Eらから、「一括支払システム申込書」(乙一の二)、「一括支払システムに関する契約書」のひな形(乙一の三)及び「『一括支払システム』のご案内」(乙一の四)の各写しを提示され、これらの書類の説明を受けたものの、同日、本件一括支払システム契約に係る契約書自体を見ることはできず、結局、本件差押えに係る調査を行うまでは、一括支払システム契約というシステム自体を知り得なかったのであり、右Eらから提示された各書類を頼りとして一括支払システム契約の理解に努めていたこと、(4) B徴収官は、同月一四日には、控訴人のα支店のC次長に電話をして、C次長に対し、滞納会社に係る一括支払システム契約の存否等を確認したところ、C次長は、B徴収官に対し、① 控訴人は、滞納会社及び三協精機との間で本件一括支払システム契約を締結していること、② 控訴人は、滞納会社に対し、本件一括支払システム契約によって、本件売掛債権等を譲渡担保として当座貸越契約に基づく当座貸越をしていること、などの説明をしたこと、(5)そこで、B徴収官は、同月二〇日、控訴人のα支店に臨場し、同支店の融資課長Dと面接して、本件一括支払システム契約に係る契約書及び本件一括支払システム契約に係る「明細書」等の関係書類の提示を求めたところ、D課長は、B徴収官に対し、右各書面は控訴人のα支店には存在しない旨回答し、後日提出することを確約したこと、(6) C次長は、同月二一日にD課長から右(5)の面接内容の報告を受けたので、控訴人の伊那支店を通じて、伊那税務署に対し、同月二七日までに、本件一括支払システム契約に係る契約書である「一括支払システムに関する契約書(代金債権担保契約書)」(乙一の五)及び「一括支払明細リスト(譲渡代金債権明細表)」三通(乙一の六ないし八)を届けたこと、なお、控訴人は、右「一括支払システムに関する契約書(代金債権担保契約書)」はその東京支店において保管していたが、右「一括支払明細リスト(譲渡代金債権明細表)」はそのα支店において保管していたこと、しかし、C次長は、伊那税務署に対し、提示を求められた明細書兼承諾書を届けなかったこと、(7) A統括官らは、右(6)の控訴人から届けられた各書類によって、控訴人、滞納会社及び三協精機の間で本件一括支払システム契約が締結されていることを確認することができたものの、その書類の中に明細書兼承諾書がなかったことなどから、① 本件売掛債権等が譲渡担保の被担保債権に含まれているか否か、また、② 本件売掛債権等の譲渡担保について第三者対抗要件を具備しているか否か、を確認することができなかったこと、(8)そこで、A統括官は、同月二八日、三協精機の下諏訪工数に臨場し、原田らと面接して、本件一括支払システム契約によって、本件売掛債権等が譲渡担保の被担保債権に含まれているか否かを再度調査したが、B徴収官が既に得た資料・説明以外に新たな資料・説明はなかったこと、そこで、A統括官は、同日、本件売掛債権等は滞納会社に帰属するものと判断して、本件売掛債権等について本件差押えをしたこと、(四)(1) 本件一括支払システム契約に係る契約書である「一括支払システムに関する契約書(代金債権担保契約書)」(甲三)には、「甲(滞納会社のこと。以下同様。)は、乙(三協精機のこと。以下同様。)が第五条に定める譲渡代金債権明細書兼承諾書(以下「明細書」という)を貴行(控訴人のこと。以下同様。)に交付した時に、明細書記載の債権を貴行に譲渡したものとします。」(三条二項)、「乙は、明細書を貴行に交付することにより、明細書記載の代金債権が貴行に譲渡されたことを異議なく承諾したものとします。」(同条三項)との記載があること、明細書兼承諾書は、控訴人の本店において作成し、三協精機の東京本社においてその内容を確認した上、控訴人の東京支店において確定日付を得て、同支店において保管していたものであること、(2) しかし、「『一括支払システム』のご案内」を含めB徴収官が収集したその他の書類には、「明細書」といった記載はないこと、(3) 控訴人のα支店において保管していた「一括支払明細リスト(譲渡代金債権明細表)」は、滞納会社に対する当座貸越を管理するために作成された控訴人の内部資料であること、(五)(1) 伊那税務署長から国税通則法四三条三項の規定に基づき同年一〇月一三日に本件租税債権の引継ぎを受けた被控訴人は、その後、本件一括支払システム契約に基づき、本件売掛債権等がいずれも確定日付ある各明細書兼承諾書によって、譲渡担保として控訴人に譲渡され、第三者対抗要件を具備していることを確認したこと、(2) しかし、被控訴人は、滞納会社の財産について滞納処分を執行してもなお本件租税債権に不足する状況にあったことから、同月一四日付けで、控訴人に対し、国税徴収法二四条四項及び同条二項の規定に基づき、本件告知処分を行い、同月一七日、控訴人に対し、本件告知処分に係る告知書を送達したこと、などを認めることができ、Cの陳述書(甲一〇)中及び原審における証人Cの証言中には、B徴収官が、平成六年九月二〇日、控訴人のα支店のD課長に対して提示を求めた「明細書」は明細書兼承諾書ではなく「一括支払明細リスト(譲渡代金債権明細表)」である旨陳述・証言する部分があるが、本件においては、前示のとおり、(一) 明細書兼承諾書は、本件一括支払システム契約に係る契約書である「一括支払システムに関する契約書(代金債権担保契約書)」では譲渡担保の対抗要件を具備する重要な書類としてその条項に明記され、また、右契約書では「明細書」と略記されていること、(二) 「『一括支払システム』のご案内」を含めB徴収官が収集したその他の書類には「明細書」という記載はないこと、(三) 「一括支払明細リスト(譲渡代金債権明細表)」は控訴人のα支店で保管していたものであるが、明細書兼承諾書は控訴人の東京支店で保管していたものであり、これはD課長のB徴収官に対する平成六年九月二〇日の回答内容に沿うものであること、などを認めることができるのであって、これらの事実に照らすとその信用性は著しく低いものと評価せざるを得ないから採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、右認定した事実によれば、本件においては、伊那税務署の徴収職員であったA統括官及びB徴収官は、本件差押えに至る調査の過程で、国税徴収法一四一条の質問検査権を行使して相当程度の調査を行ったにもかかわらず、なお本件一括支払システム契約によって本件売掛債権等が確定日付ある明細書兼承諾書をもって控訴人に対して担保のために譲渡されていたことを確認できなかったものと認めるのが相当であり、以上にみた調査の過程・結果に弁論の全趣旨を併せみる限り、A統括官らにおいて、控訴人らから提示された資料によって本件売掛債権等が譲渡担保として譲渡され三協精機が確定日付ある明細書兼承諾書をもって異議なく承諾していたことを知り得たのに故意又は過失によってこれを看過し、あるいは更なる調査をすれば関係者の協力を得て容易に右事実を認識し得たのに殊更に調査を懈怠した上、本件差押えをしたなどの事情があるとはおよそ認めることができず、他に右事情があることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、伊那税務署長が、本件売掛債権等を滞納会社に帰属するものとしてした本件差押えは、国税徴収法二四条四項にいう「譲渡担保財産を第一項の納税者の財産としてした差押」に該当することは明らかであって、本件差押えに違法はない。
二 控訴人は、本件告知処分がされた時点で、本件売掛債権等が本件一括支払システム契約の代物弁済条項によって消滅したことを国に対抗することができるか否か
(争点2)について
控訴人は、本件売掛債権等は、被控訴人が本件告知処分に係る平成六年一〇月一四日付け告知書を発した時点で、本件一括支払システム契約の代物弁済条項によって消滅し、右告知書が控訴人に到達した時点では、滞納会社が提供した譲渡担保財産は既に存在しなかったのであるから、本件告知処分は違法である旨主張する。
しかしながら、本件差押えが国税徴収法二四条四項の規定の適用を受ける差押えであることは前示のとおりであり、また、本件一括支払システム契約の代物弁済条項には、「貴行に担保のために譲渡した代金債権に対して国税徴収法第二四条、地方税法第一四条の一八およびこれと同旨の規定に基づく譲渡担保権者に対する告知が発せられたときは、これを担保とした貴行の当座貸越債権は何らの手続きを要せず弁済期が到来するものとし、同時に担保のため譲渡した代金債権は当座貸越債権の代物弁済に充当されるものとします。」(「一括支払システムに関する契約書(代金債権担保契約書)」(甲三)三条の二前段)と定めていることからみれば、右契約の当事者間においては右契約に基づき本件売掛債権等が代物弁済によって消滅した場合であるといえるとしても、そもそも本件差押えがされたのは被控訴人が本件告知処分に係る平成六年一〇月一四日付け告知書を発する前の同年九月二八日のことであるから、国税徴収法二四条五項の規定によって、被控訴人は、本件売掛債権等はなお譲渡担保財産として存続するものとみなして、控訴人に対して滞納処分の執行をすることができるものというべきであり、この点についての詳解は原判決が説示するとおりであって、これと異なる控訴人の主張は採用することができないというほかない。
そうすると、控訴人は、本件告知処分がされた時点で、本件売掛債権等が本件一括支払システム契約の代物弁済条項によって消滅したことを国に対抗することができないというべきである。
三 以上にみたとおりであって、本件告知処分の前提となる本件差押えには違法はなく、また、控訴人は、本件告知処分がされた時点で、本件売掛債権等が本件一括支払システム契約の代物弁済条項によって消滅したことを国に対抗することができないから、本件告知処分に違法はない。
第四結論
以上によれば、原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 鈴木敏之 裁判官 小池一利)