東京高等裁判所 平成11年(行ス)7号 決定
本件住民訴訟のように住民が公金の賦課徴収を怠った当該職員個人に対して自治体に代位して地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づき損害賠償請求をした場合において、自治体が当該損害賠償債権の不存在を主張する長個人の言い分が正しいと考えていたにもかかわらず、その存在を前提とする住民勝訴の判決があったときは、自治体は営利を目的とする団体ではないのであるから、自己が不存在と考えている債権を有していることになることが法的に見て利益となるか否かにも疑問があるし、他方、自治体は、私人とは異なり、債権を有する以上これを行使すべき公法上の義務を負うと解すべきであるから(地方自治法二四〇条二項参照。同項はこれを長の義務として規定しているから、直接の行為義務を負うのは機関としての長と解すべきであるが、機関としての長には法人格はないのであるから、右公法上の義務はその機関の属する行政主体としての自治体に帰属すると解すべきである。)、右住民勝訴の判決は、仮にそれが誤りであったとすると、新たに債権行使義務を発生させるという自治体にとってはむしろ不利益を生じさせることとなる。そればかりか住民勝訴の判決の効力については、地方自治法二四二条の二第六項、行政事件訴訟法四三条三項、四一条一項、三三条一項により、その理由中の判断も関係行政庁を拘束し、関係行政庁は同一の処分を繰り返すことを禁止されると解されており、ここでいう関係行政庁とは行政処分を行うべき機関としての長などを指すのであるが、当該機関自体には法人格はないのであるから、右拘束力によって生ずる公法上の義務は結局その機関の所属する行政主体としての自治体に帰属するのであって、自治体は、住民勝訴の判決の理由中の判断により、将来の行動を制約されることとなる。
四 このように自治体は、債権者代位訴訟における私人としての被代位者とは異なり、仮に誤って住民勝訴の判決がされると、その地位の性質から判決の主文自体からも不利益を受けるばかりか、行政事件訴訟特有の効果として判決理由中の判断からも法的不利益を受けることになるのであって、これらはいずれも事実上あるいは反射的な不利益にとどまるものとはいい難いものであり、その法的な立場は、原告である住民と同一とはいい難いものである。
したがって、本件のような住民訴訟に民事訴訟法の補助参加の規定を準用するに当たっては、このような点を考慮して、債権者代位訴訟の被代位者に関する解釈にかかわらず、自治体が、原告である住民の主張が誤っていると判断する場合には、被告となっている当該職員らのために補助参加をし得ると解するのが相当であり、このように解したとしても、対立当事者の一方が他方の補助参加人となるような関係にはなく、民事訴訟における基本的な訴訟構造に反するものでもない。
五 もっとも、住民訴訟において、一般的に当該自治体が、常に補助参加の利益を有するというべきではなく、例えば、被告となった職員の不正行為等を理由とする損害賠償訴訟のような場合はもちろん、本件においても、被告らが単なる個人的怠慢から公金の賦課徴収を放置していたような場合にまで直ちに抗告人に補助参加の利益があるとはいえず、本案事件において、まさに抗告人の徴税行政の当否そのものが問われ、いわば、抗告人自身が隠れた当事者と目されるような場合にのみ補助参加の利益があると解するのが相当である。
そこで、この点について検討するに、一件記録によれば、抗告人(つくば市)において、多くの滞納債権が徴収に至らず、平成八年度の一三二七件(合計金一億二六五六万八〇三一円)の一般会計市税不納欠損処分がなされたのは、抗告人の限定された人員と予算を徴税にどの程度投入するかという徴税行政の裁量の結果、生じた一面があることも窺われるのであって、本案事件の実質的争点は、結局、抗告人の徴税行政の適否に帰着するものと推認され、本件においては、抗告人に補助参加の利益を肯定できるものというべきである。
(高木新二郎 河本誠之 白石哲)