東京高等裁判所 平成12年(く)206号 決定
少年A
〔抄 録〕
論旨は、要するに、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである。そこで、原審記録及び当審における事実取調べの結果(附添人提出の資料)に基づいて検討する。
一 本件は、平成一二年二月二〇日、少年が遊び友達のBらと遊んでいたところ、女性グループをナンパして少年側の一人のアパートに行き、男性四名、女性五名(少年以外はいずれも二一歳前後)で飲酒しているうち、Bが本件麻薬を持ち出して少年らに勧めたことから、少年が錠剤半分を服用した事案である(このときBと女性三名も服用している。)。なお、本件麻薬は、麻薬及び向精神薬取締法別表第一の七五号を受けた政令に指定されている麻薬(同政令一条の二十、別名MDMA)で、俗にエクスタシーと呼ばれているものである。
二 少年の生活史等をみると、少年は、高校一年の途中でサッカー部を退部し、サーフィンやバイクに興味を覚える一方、学習意欲は低下して、高校二年の平成九年九月に学校を中退した。その後、サーフショップで五か月間働いたものの、平成一〇年三月以降は、父母が経営する生花店をときおり手伝う程度で、ほとんど無職の状態であった。少年は、高校中退のころから髪を染めて長髪にし、平成一〇年ころには足のすねに入れ墨を入れた。少年は、平成九年夏にBと知り合い、平成一一年以降、海に行ったり食事をしたりして親密な交際をするようになり、平成一二年一月からは、一緒に行動することが多くなって夜遊びも増えた。ところで、Bは、平成一〇年ころ暴力団幹部と親しくなって、その組事務所に出入りするようになり、後に組員となったが、少年はBが暴力団組員であることを知った上で付き合っており、Bが少年の前で他人に暴力を振るったこともあった。少年は、平成一二年一月ころ、Bから「エックスだ」と言われて本件の物と似た錠剤をもらい、これを飲んでみたが、さしたる効果は感じなかった。そのころ、覚せい剤密売人らしき人物から、覚せい剤の試供品ということで若干の結晶をもらい、加熱気化させて吸引した。
以上を踏まえて考えると、少年の問題行動としては、<1>サーフショップ退職後、遊び中心の生活をするようになったこと、<2>その中で、暴力団員であるBとも抵抗感なく付き合い、Bが暴力を振るう場面に出会っても付き合いを続けていたこと、<3>同時に違法薬物への興味も強め、本件を含め三回にわたり、Bらから抵抗なく受け入れていること(本件以外の二回については、少年の自白以外に証拠がなく、所論のとおり、実際に違法薬物であったのかは明らかでないが、少なくとも、少年が違法薬物と認識しながら安易に使用したことは認められる。)、を指摘することができる。加えて、鑑別調査の結果、調査官による調査結果を総合すると、少年には、その外見にも現れているように流行の若者文化への傾斜がみられるところ、さらにすすんで、積極的に社会規範を軽視する傾向や、違法薬物の使用を先端の若者文化と感じる傾向が窺われ、今後、暴力団や違法薬物への接近を強めていくおそれは否定できないところである。一方、両親は、少年と同居しているものの、近年の少年に対しては放任といわれてもやむを得ない状況で推移しており、このような事情に照らせば、原決定が、少年の要保護性は高いとして、一般短期処遇の勧告を付した上、少年を中等少年院に送致したことも、それなりに理解できないわけではない。
三 しかしながら、他面で、次の事情も存在する。少年が違法薬物と接触を始めたのはごく最近のことである。その回数も多いとはいえず、いずれもBから勧められるなど受動的な態様であり、少年が積極的に求めたことは窺われない。Bとの関係については、B自身の暴力団員としての活動実態が明らかでないが、少なくとも、少年が、組事務所に同行したり、Bが暴力団的な不良行為をすることを知りながら、これに同行したりした様子はない。二人の関係は今のところ遊び仲間であり、少年自身に暴力団への傾斜はないと認められる。また、B以外には、暴力団関係者や薬物使用者との交際は認められない。
少年には、これまで家庭裁判所の係属歴がなく、補導歴もない。Bとの交遊が始まってからも、前記薬物関係以外に何らかの非行に関わった様子はなく、もともとの少年にはそれなりに規範意識が備わっていたともいえ、現在の少年には、前記のように社会規範を軽視する等の問題傾向があるものの、その深刻さについてはなお検討の余地がある。そして、少年は、十分とはいえないまでも、観護措置など本件一連の手続を通じて、自己の問題性や薬物濫用の違法性を認識するに至り、今後については、Bとの交際を絶つと述べ、仕事に就く意欲を示している。生花店を経営する両親も、もともと監護の意欲と能力は有しており、これまでも節目においては、少年や教師、雇い主と話し合うなど、熱心に監護に当たったこともあり、今回の事件を機に、これまでの放任的であった態度を改めて、生花店で働かせたいと申し出ている。従来、親子関係自体には特に問題はなかったことから、一九歳という少年の年齢を考えても、今後、両親による監護にも一定の効果を期待することができる。
右の事情に照らすと、少年については、社会内における専門家の指導によって、暴力団関係者との交友を断ち、規則正しい生活を確立して、その改善、更生を図る余地も十分残されていると判断される。したがって、試験観察などにより、少年の動向を観察してその可能性を検討することなく、直ちに少年に対して中等少年院送致の決定を言い渡した原決定は時期尚早というべきであり、著しく不当であるといわざるを得ない。
(角田正紀 土屋哲夫 半田靖史)