大判例

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東京高等裁判所 平成12年(ネ)1030号 判決

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件訴えを却下する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、Dの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  主文一と同旨

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

事案の概要は、原判決四頁三行目の「その正しい名称」を「元の名」と、同五頁九行目の「番地」を「番」とそれぞれ改めるほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  一般に、無効確認の訴えにおける原告適格、訴えの利益の有無等の判断は、原告主張事実を前提として判断されるべきであるが、これと同様に、本件のように一五歳未満の養子が養親を被告として両者間の養子縁組の無効確認を求める訴えを提起するにつきその法定代理人となるべき者についても、同縁組が無効であるとの原告主張事実を前提として判断されるべきである。したがって、右養子縁組無効確認の訴えにおける原告の法定代理人は、右縁組が無効である場合に原告の親権者となるべき者、すなわち、実父母が存在すれば実父母であり、実父母が婚姻中である場合は、その一方が親権を行うことができないときを除き、実父母が共同して親権を行わなければならない(民法八一八条三項)から、右除外事由があるときを除き、実父母の一方が単独で原告の法定代理人として提起した養子縁組無効確認の訴えは不適法である。

二  ところで、証拠(括弧内に記載)によれば、次の事実が認められる。

1  E及びDは、平成八年六月一六日、被控訴人を連れて日本に帰国し、被控訴人を控訴人らに託した上、同月三〇日、ダバオ市に帰った。この時以降、被控訴人は、控訴人らのもとで養育されている。(乙第二号証、証人Eの証言、被控訴人法定代理人本人尋問の結果)

2  平成八年一二月七日、E及びDは、本件養子縁組届出用紙の届出人欄に被控訴人親権者父及び同母として、控訴人らは、同養子縁組届出用紙の届出人欄に養父及び養母として、それぞれ署名押印した。E及びDは、同月八日、フィリッピンに帰国したが、Eは、その翌日から家を出て、平成九年二月末ないし三月初めころまでの間は日本に電話を架ける目的等で約二週間に一回の割合でDの住む自宅を訪れたものの、その後はそのようなこともなくなった。(甲第一号証、乙第二号証、証人Eの証言、控訴人行雄本人尋問の結果。右認定に反する被控訴人法定代理人本人尋問の結果は、採用できない。)

3  Eは、その後、フィリッピンにおいて、Dとの婚姻が無効であることの宣言を求める裁判を起こし、E及びDの双方とも弁護士を立てて争っている。なお、現在、Eは、日本に在住し、控訴人ら宅で生活しており、Dは、平成九年九月に来日し、川崎市幸区鹿島田×××番地○○○荘に部屋を借りて居住している。(甲第六号証、第九号証、証人Eの証言、被控訴人法定代理人本人尋問の結果)

三  前記第二の一の「確実な書証による明らかに認められる事実」欄の認定事実及び右二の認定事実によれば、本件養子縁組が無効であるとの被控訴人の主張を前提とすると、被控訴人の親権者は、E及びDであり、両者は婚姻中であるから、Eが「親権を行うことができないとき」と認められない限り、E及びDは、被控訴人に対する親権を共同して行わなければならない。したがって、本件訴えも、Eに親権を行うことができない事情が認められない限り右両者が法定代理人となって提起しなければならず、本件訴えがこれに反して提起されたものである場合には、資格のない代理人が提起した訴えとして不適法といわねばならない。

そこで、Eにつき、被控訴人に対する親権を行うことができないと認められる事情が存するか否かについて検討するに、まず、Eが被控訴人に対する親権を行使することにつき法律上の障碍があることは、一件記録上、これを認めることができない。次に、民法八一八条三項ただし書にいう「親権を行うことができないとき」とは、必ずしも、法律上親権を行うことができないときに限らず、親権者が行方不明であるときなど事実上親権を行うことができないときをも含むと解すべきであるが、Eについて事実上親権を行うことができないと認めるに足りる事情も認められない。すなわち、確かに、前記のとおり、Eは平成八年一二月九日以降別の女性と同棲してDとは別居状態であり、また、EがDとの婚姻が無効であることの宣言を求める裁判を起こしていることなどからすれば、EとDとは事実上の離婚状態にあると認められ、また、EとDとが親権を共同して行使し、法定代理人として本件養子縁組無効確認の訴えを提起することは到底期待できないことが認められる。しかし、証拠(乙第二号証、証人Eの証言、弁論の全趣旨)によれば、EとDとが親権を共同して行使し、両者が被控訴人の法定代理人となって本件養子縁組無効確認の訴えを提起することが到底期待できないのは、E自身において、養親である控訴人らがEの実父母であり、フィリッピンより日本の方が被控訴人の成育にとって環境がよく、本件養子縁組が被控訴人にとって好ましいとの認識を有しているため、本件訴え提起に関してEとDとの意見が一致しないという事情に起因するものであることが容易に認められ、このような親権行使に当たっての意見不一致は、EとDとが事実上の離婚状態にあるか否かにかかわらず生じ得る事柄であるから、両者が法定代理人となって本件訴えを提起することを期待できないのは、EとDとが事実上の離婚状態にあることに起因するものではないというべきである。したがって、EとDとが事実上の離婚状態にあることをもって、本件訴えを提起するにつきEが「親権を行うことができないとき」に該当すると認めることはできない。そして、前記認定事実の下においては、他にEが事実上親権を行うことができないと認めるに足りる事実は認められない。

以上のとおりであるから、被控訴人の実父母であるE及びD両者が法定代理人とならない限り、被控訴人を原告とする本件訴えを提起することは許されないところ、本件訴えは、Dが単独で被控訴人の法定代理人として提起したものであることが記録上明らかであるから、本件訴えは、資格のない代理人によって提起された訴えとして不適法であるといわざるを得ない。

なお、右のような結論を採ると、本件のような事情の下にある一五歳未満の養子にとって、自らが原告となって養子縁組無効確認の訴えを提起することができないこととなるが(もっとも、これは、正常な婚姻関係を営む夫婦間において意見が一致しない場合にも生じることである。)、養子縁組無効確認の訴えはいわゆる確認訴訟であって、養子縁組の無効は人事訴訟手続による確定又は戸籍の訂正をまたず、別個、独立に主張し、また、判断し得るものであり(大審院昭和一五年一二月六日判決・民集一九巻二一八二頁、最高裁昭和三八年一二月二四日第三小法廷判決・刑集一七巻一二号二五三七頁参照)、また、養子縁組当事者以外の第三者であっても、その者が養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けると認められる場合は、養子縁組無効の訴えを提起することが認められている(最高裁昭和六三年三月一日第三小法廷判決・民集四二巻三号一五七頁参照)。したがって、実父母間の意見が一致しないため養子を原告として養子縁組無効確認の訴えを提起することができないとしても、実父母の一方が自ら原告となって右同様の訴えを提起することができるのであるから(実父母が右同様の訴えを提起するにつき法律上の利益を有することは明らかである。)、前記のような結論を採ったとしても、一五歳未満の養子の福祉を損なうことにはならない。

四  よって、本件訴えは不適法であるから、原判決を取り消した上、本件訴えを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 加藤謙一 裁判官 植垣勝裕)

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