大判例

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東京高等裁判所 平成12年(ネ)1194号 判決

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件を東京地方裁判所に差し戻す。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文と同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり訂正し、又は付加するほかは、原判決の「第二当事者の主張」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決三頁三行目を次のとおり改める。

「一 控訴人の請求原因

控訴人が本件訴訟において請求原因として主張するのは、原判決別紙訴状記載の本件見積書(甲二ないし四)の誤った記載によってされた説明義務違反を理由とする債務不履行による損害賠償請求と次に付加する被控訴人が本件見積書の誤った記載により控訴人に対してした説明が詐欺に当たるとして本件保険契約を取り消したことを理由とする不当利得返還請求の二点のみである。

「被控訴人が本件見積書に誤った記載をしておきながら、これを訂正することなく、控訴人を誤信させて本件保険契約を締結させたのは、詐欺に当たる。そこで、控訴人は、平成一二年六月五日の本件口頭弁論期日において、本件保険契約を取り消す旨の意思表示をした。

よって、控訴人は、被控訴人に対し、払込保険料合計二億一八四六万九六〇〇円から解約返戻金一億二七八五万三八四六円を差し引いた九〇六一万五七五四円の返還を求める。」」

二  原判決五頁七行目の次に行を改めて

「3 控訴人は、詐欺による本件保険契約の取消しを主張するが、被控訴人の細野が本件見積書(甲二ないし四)の記載の誤り(単純な数字の記載ミスである。)に気付いたのは、前訴上告後の控訴人からの当事者照会によってであり、本件保険契約勧誘時に詐欺の故意はなかった。また、変額保険契約を締結するか否かの意思決定に際して問題とされるべき重要なことは、運用実績によって保険金や解約返戻金が変動するというその変動性の理解であり、本件見積書は、その変動性を前提として借入金と本件保険契約の保険金及び解約返戻金との関係を示すための参考資料として提供したものにすぎないのであるから、本件見積書の記載に一部誤りがあったとしても、詐欺を理由として本件保険契約を取り消すことはできない。

また、控訴人の詐欺を理由とする本件保険契約取消しの主張は、前訴事実審の口頭弁論終結前に生じた事由に係るものであるから、控訴人が右取消事由の存在に気付いたのが右口頭弁論終結後であったとしても、前訴判決の既判力によって遮断され、許されない。控訴人は、本件においては、前訴において詐欺による取消しを主張することのできない特別の事情があったと主張するが、そのような事情はなく、控訴人の主張は許容されるべきではない。」

を加え、同八行目の「3」を「4」と改める。

三  原判決七頁二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「また、詐欺を理由とする本件保険契約取消しに基づく不当利得返還請求については、本件では、詐欺の事実が前訴事実審の口頭弁論終結時まで継続し(被控訴人は、本件見積書の虚偽記載に気付きながら控訴人に告知せず、他方、控訴人は、一般消費者であり、本件見積書の虚偽記載を容易に発見することは全く不可能であった。すなわち、前訴の証人尋問の際、前訴被告代理人(本件の被控訴人代理人)が本件見積書に誤りはない旨発言し、さらに、前訴原告代理人が本件見積書の記載について前訴被告代理人に対して当事者照会を行ったのに対し、何らの回答もなく、控訴人側において本件見積書の虚偽記載を指摘することは不可能であった。)、控訴人において前訴事実審の口頭弁論終結前に取消権を行使することを期待し得ない特別の事情があったというべきであるから、後訴において詐欺による取消権を行使してそれによる不当利得返還請求を主張することは、前訴判決の既判力によって遮断されないというべきである。」

第三証拠

本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  当裁判所は、控訴人の本件訴えは適法であり、控訴人の本件控訴は理由があるものと判断する。その理由は、原判決一二頁三行目から同一四頁二行目までを次のとおり訂正するほかは、原判決の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

「2 被控訴人は、仮に前訴の確定判決の既判力が本件訴訟に及ばないとしても、本件訴訟は実質的に前訴の蒸し返しにすぎず、被控訴人に二重応訴の負担を強いるものであって、信義則に照らして許されない、本件見積書の記載は前訴で問題とされた説明義務違反の一部にすぎないから、たとえその記載に誤りがあったとしても、本件訴訟が前訴の実質的な蒸し返しであることに変わりはないと主張する。

確かに、前訴において控訴人が被控訴人の説明義務違反を理由として不法行為に基づく損害賠償請求をし、それについて確定判決を受けながら、それと実質的に同一内容の説明義務違反を主張して損害賠償請求の訴訟を提起することは、それが債務不履行に基づく損害賠償請求としてであっても、前訴の蒸し返しとして信義則に反して許されないとされることのあるのはやむを得ないところである。しかし、前訴において控訴人の主張した説明義務違反の内容は、前記認定のとおり、変額保険の危険性についての説明を怠ったというものであるが、本件見積書の三年後における第二子に対する解約返戻金額の記載に誤りがあったことは主張していなかったところ、控訴人が本訴において主張する説明義務違反の内容は、右の前訴で主張しなかった本件見積書の三年後における第二子に対する解約返戻金額の記載に誤りがあり、本来一〇年後からでなければ解約しても精算金を受領することができないのに、細野は本件見積書の右誤った記載により三年後には解約しても精算金を受領することができ損害は発生しないと説明したというものであり、前訴と本件訴訟とでは、同じ説明義務違反といっても、その内容が異なることは明らかである。そして、前訴の確定判決における説明義務違反の有無の判断が本件訴訟における説明義務違反の有無の判断を包含するものであるとも、また、前者の判断が当然に後者の判断を左右するものであるとも認められない。そうすると、前訴において控訴人自ら本件見積書を証拠として提出しておきながらその記載内容の吟味を怠ったという落ち度はあるにしても、本件見積書はもともと被控訴人側で作成したものであり、右記載の誤りも控訴人においては容易に明らかにすることのできる性質のものではない上、これを作成した側の被控訴人においても前訴の上告審の段階で控訴人から当事者照会を受け初めてその記載の誤りに気付いたと主張しているところに照らせば、控訴人の右落ち度はそれほどとがめるべきものとはいえないから、控訴人が前訴で主張しなかった前記内容の説明義務違反を主張して提起した本件訴訟をもって前訴の蒸し返しであり、信義則に反して許されないとまで解するのは相当でないというべきである。

3 また、被控訴人は、控訴人が当審において新たに追加した詐欺を理由とする本件保険契約取消しに基づく不当利得返還請求について、右詐欺による取消しの主張は、前訴の確定判決の既判力に抵触して許されないと主張する。

確かに、控訴人の右詐欺による取消しの主張は、控訴人の本件保険契約の錯誤無効を理由とする不当利得返還請求を棄却した前訴の確定判決の既判力に抵触するおそれがないではないが、仮に既判力に抵触するとしても、本案判決においてこれと抵触する判断をすることができないだけで、訴え自体が不適法となるものではない。そして、右詐欺による取消しの主張が前訴の確定判決の既判力に抵触するか否か、仮に既判力に抵触しない場合にはその主張が理由があるか否かについては、原審において更に審理を尽くすのが相当である。

4 以上のとおり、控訴人の本件訴えは、すべて適法である。」

二  よって、当裁判所の右判断と異なる原判決は不当であるから、これを取り消し、民事訴訟法三〇七条、三〇八条一項により本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 櫻井登美雄 裁判官 加藤謙一)

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