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東京高等裁判所 平成12年(ネ)2606号 判決 2000年11月29日

控訴人

被控訴人

株式会社セブンーイレブン・ジャパン

右代表者代表取締役

被控訴人

フジフーズ株式会社

右代表者代表取締役

右両名訴訟代理人弁護士

西村文明

保田眞紀子

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の当審で追加した請求を棄却する。

三  当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金九五万円及びこれに対する平成一一年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二事案の概要

本件は、控訴人が、被控訴人らによる「サンドおむすび牛焼肉」(具の牛焼肉をサンドイッチ状にはさんだおにぎり、以下「本件商品」という。)の製造販売行為が、不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号及び三号)に当たり、また、控訴人の著作権(複製権)を侵害する(当審で追加した請求)と主張して、損害賠償を求めている事案である。

一  基礎となる事実(証拠を掲げた部分以外は当事者間に争いがない。)

1  控訴人は、次の実用新案権(以下その考案を「本件考案」という。)を有していたところ、被控訴人フジフーズ株式会社(以下「被控訴人フジフーズ」という。)の無効審判の請求に基づき、平成一二年八月四日、その実用新案登録を無効とする旨の審決がされ、同審決はそのころ確定した。(乙三の1、2、九、弁論の全趣旨)

考案の名称  おかずを挟んだごはん

出 願 日   平成六年九月七日(特許出願日、平成一一年一月に実用新案登録出願に変更)

登 録 日   平成一一年六月一六日

登録番号    第三〇六〇九四一号

実用新案登録請求の範囲

「上下のごはん1、ごはん2により、おかず3を挟みのり4で覆いのりで覆われた背面の反対側の正面から見ておかずを横の直線上にはっきりと見えるようにした食べ物」

2  被控訴人フジフーズは、本件商品を製造して、被控訴人セブンーイレブン・ジャパン(以下「被控訴人セブンイレブン」という。)に納入し、被控訴人セブンイレブンにおいて本件商品を全国的に販売している。

二  争点

1  不正競争防止法に基づく請求について

(一) 被控訴人らによる本件商品の製造販売行為が不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号及び三号)に当たるかどうか

(控訴人の主張)

控訴人は、平成七年九月ころ、被控訴人セブンイレブンを含むコンビニエンスストアのフランチャイズ本部商品企画担当者宛に、本件考案と同じ内容の「ごはんとおかずの加工品」の商品アイデア(以下「控訴人商品アイデア」という。)を記載し、その商品化について検討を促す書面を送付した。右書面の送付先は多数にわたり、控訴人商品アイデアは控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されるに至った。

ところが、被控訴人らは、平成八年四月から、右書面に記載されたものと同様の本件商品(原判決別紙物件目録一のとおり特定されるもの)を製造販売している。このことは、既に周知となっている控訴人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用するとともに、控訴人の商品形態を模倣するものであるから、不正競争防止法二条一項一号及び三号の不正競争行為に当たる。

なお、見本市に出展するなど販売を前提とした準備行為を行ったときは、その時点において商品化が完了したというべきところ、控訴人はこの意味での商品化を完了している。

(被控訴人らの主張)

控訴人商品アイデアの商品としての販売実績は皆無である上、ありふれた商品であるから、これが不正競争防止法二条一項一号にいう商品等表示とはいえないこと及び商品等表示としての周知性を獲得していないことは明らかであり、また、模倣の対象となる同条一項三号の「他人の商品」にも当たらない。本件商品は、控訴人商品アイデアを模倣したものではない。

(二) 被控訴人らに先使用権が成立するかどうか

(被控訴人らの主張)

仮に、控訴人商品アイデアが控訴人の商品等表示に当たり、かつ、これが周知となっていたとしても、被控訴人フジフーズはそれよりも以前の昭和六一年四月から具をサンドイッチ状にはさんだおにぎりを製造販売し、被控訴人らは本件商品を平成八年一〇月二一日から製造販売しているので、被控訴人らには不正競争防止法一一条一項三号の先使用権が成立している。

(控訴人の主張)

被控訴人フジフーズが製造販売していたサンドイッチ状おにぎりは、形状が三角形でのりに覆われておらず、おかずが端までないから本件商品とは別物である上、被控訴人らによる本件商品の製造販売行為は、控訴人商品アイデアが商品等表示として周知となった後に始められたから、被控訴人らに先使用権が成立する余地はない。

2  著作権侵害に基づく請求(当審で追加した請求)について

(一) 本件考案に係る公開特許公報(甲第一号証)の図面並びに【目的】及び【構成】の記載(以下「本件公開公報の記載」という。)の著作物性

(控訴人の主張)

本件公開公報の記載も著作権の対象となり、控訴人はその著作権者である。この記載からは、おかずが端まであり背面に平行になっていることからくる豊かさや量感、開放感がわき、そのおかずが好きな人にはうれしく楽しいという感情がわくとともに、背面がのりで覆われていると安心感があるという感情を表現するものである。

(被控訴人らの主張)

著作物とは思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、美術又は音楽の範囲に属するものであるところ、本件公開公報の記載は、技術的考案又は着想を示す実用品に関するものであって、著作権法が保護する芸術的価値のある精神的創作物とはいえない。

(二) 被控訴人らによる本件商品の製造販売行為が著作物の複製に当たるかどうか

(控訴人の主張)

被控訴人らによる本件商品の製造販売行為は、本件公開公報の記載の複製である。

(被控訴人らの主張)

仮に、本件公開公報の記載が著作物に当たるとしても、その複製とは複写であるところ、被控訴人は本件訴訟に証拠として提出するための複写以外に複製に該当する行為はしていない。また、被控訴人らによる本件商品の製造販売行為は、独自の創意に基づくものであって、本件公開公報の記載とは無関係である。

3  控訴人の損害について

(控訴人の主張)

不正競争防止法に基づく請求及び著作権侵害に基づく請求のいずれに関しても、被控訴人らによる本件商品の製造販売行為によって、控訴人が通常受けるべき金銭の額は、被控訴人らの売上げの三パーセントであり、控訴人は右と同額の損害を被ったところ、その額は九五万円を下らない。

(被控訴人らの主張)

控訴人の主張は争う。

第三当裁判所の判断

一  不正競争防止法に基づく請求について

1  前記第二の一1の事実と証拠(甲四、五、六の1、2、一六の1、2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人は、平成六年九月七日に本件考案につき特許出願をした後、平成七年九月ころから、コンビニエンスストアのフランチャイズ本部の商品企画担当者らに宛てて、控訴人商品アイデアを記載し、その商品化について検討を促す書面を送付したが、自らは、控訴人商品アイデアを控訴人の商品として商品化し市場で流通に供されることを目的として製造販売したことはないことが認められる。

そして、本件考案は右特許出願の実用新案登録出願への出願の変更に基づき実用新案登録もされたが、後にこの実用新案登録を無効にすべき旨の審決が確定したことは前示のとおりである。

2  右認定の事実に照らすと、控訴人商品アイデアは、控訴人の商品として商品化されて製造販売されたことはなく、単なるアイデアの域にとどまったものといわざるを得ないから、控訴人商品アイデアは不正競争防止法二条一項一号にいう「商品等表示」及び同条一項三号にいう「他人の商品」のいずれにも当たらないというべきである。

控訴人は、控訴人商品アイデアについて、見本市に出展するなど販売を前提とした準備行為を行い、その商品化を完了していた旨主張するが、右1の事実をもってしても販売を前提とした準備行為が行われたとはいえないし、他に控訴人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、被控訴人らによる本件商品の製造販売行為が、控訴人に対する関係で不正競争防止法二条一項一号及び三号の不正競争行為となる余地はない。

3  よって、控訴人の不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

二  著作権侵害に基づく請求(当審で追加した請求)について

1  控訴人は、本件公開公報の記載は著作物であって、被控訴人らによる本件商品の製造販売行為は、その複製に当たる旨主張する。しかし、著作権法上の保護を受ける著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、アイデアや着想がそれ自体として著作権法の保護の対象となるものではない。したがって、仮に、本件公開公報の記載の著作物性をひとまず前提とするとしても、その保護の対象となるのは、控訴人商品アイデアそれ自体ではなく、そのようなアイデアないしアイデアに基づく物品を説明、図示した本件公開公報の記載にその表現の形式及び内容に従って存在すべき創作的な表現の部分にほかならない。ところが、本件商品は、原判決別紙物件目録一のとおりに特定される物品であって、これ自体が、本件公開公報の記載にその表現の形式及び内容に従って存在すべき創作的な表現の部分を有形的に再製したものと認めるに足りる証拠は全くないから、被控訴人らによる本件商品の製造販売行為が本件公開公報の記載の複製に当たるということはできず、控訴人の前記主張は採用することができない。

2  よって、控訴人の著作権侵害に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三  結論

以上のとおり、控訴人の被控訴人らに対する不正競争防止法に基づく請求を棄却した原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、また、控訴人の当審で追加した請求も棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 宮坂昌利)

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