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東京高等裁判所 平成12年(ネ)3674号 判決 2000年11月29日

控訴人 A野花子

右訴訟代理人弁護士 杉本喜三郎

被控訴人 株式会社 駿河銀行

右代表者代表取締役 岡野光喜

右訴訟代理人弁護士 井口賢明

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第二事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原審被告A野梅子に関する部分を除く。)。

一  原判決書九頁八行目の「締結した」の次に「(ただし、他の保証人との関係において保証受託者である被控訴人の負担部分は零とされている。)」を、同一二頁九行目の「被告花子は、」の次に「太郎の代理人として、」をそれぞれ加え、同一三頁一行目冒頭から同四行目末尾までを次のとおり改める。

「 また控訴人は、太郎の代理人として、平成五年二月一日環境衛生金融公庫に対し、本件代理貸付に関し竹夫が環境衛生金融公庫に対して負担する債務につき連帯保証した(以下「本件連帯保証契約(二)」という。)(甲五)。」

二  控訴人の当審における補足主張

1  控訴人は妹に頼まれて太郎の名前を書類に記載したにすぎず、連帯保証の意味を正しく理解していなかった。しかも控訴人は本件連帯保証契約(一)(二)の契約書に代理人として署名等をしておらず、被控訴人も控訴人が太郎の代理人であるとは認識していなかった。以上の事実からすると、控訴人に無権代理人としての責任を問うことはできない。仮に無権代理になるとしても、被控訴人は控訴人に代理権がないことを知っていたか、代理権があると信ずるについて過失があったから、控訴人の責任を問うことはできない。金融機関である被控訴人が書面により連帯保証の意思確認をしただけで保証人に直接意思確認をしなかったことは右の過失に当たるというべきである。

2  太郎が痴呆状態であることを知りながらあえて本件融資を実行した被控訴人が控訴人に無権代理人としての責任を追求することは権利の濫用として許されない。

第三証拠関係《省略》

第四当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する主位的請求は理由がなく、予備的請求は理由があると判断する。その理由は次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原審被告A野梅子に関する部分を除く。)。

一  原判決書一九頁二行目の「被告」を「控訴人」に改め、同二六頁三行目の「、一六の1、2」を削り、同二八頁六行目の「被告花子は、」の次に「太郎を代理して」を加える。

二  控訴人は妹に頼まれて太郎の名前を書類に記載したにすぎない等と主張して無権代理人としての責任を否定する。しかし、「保証」という言葉は日常的にも耳目に触れる用語であって特に難解ではなく、通常の知識、能力を有する成人であればその意味内容を理解することができるし、書類に実印を押捺することが重大な結果を伴うことも通常容易に理解することができる事柄に属するから、連帯保証の意味を理解していなかった旨の控訴人本人の供述は容易に採用することができず、ほかにそのように認めるに足りる証拠はない。そして控訴人と太郎との身分関係や控訴人が太郎の署名押印をするに至った動機その他原判決認定の諸事実を総合すると、控訴人は本件連帯保証契約(一)(二)の連帯保証人欄に太郎の氏名を記載し、いわゆる「署名代理」の方法により太郎の代理人として意思表示をしたものと推認するのが相当であり、このようないわゆる「署名代理」の方法により代理行為がされた場合であっても権限なく代理行為をした者が無権代理人としての責任を問われることは代理人であることを表示して代理行為をした場合と異なることはない。

また控訴人は、被控訴人の担当者の大井は太郎が痴呆症に罹患していることを竹夫から聞かされて知っていた旨主張し、竹夫は右主張に沿う証言をしている。しかし、大井が竹夫から右事実を知らされたとすれば大井はその点を太郎の妻である控訴人に確認すると考えられるが、本件全証拠を検討してもその事実を認めることはできず、大井が太郎の病状を知りながらあえて融資手続を進めたと認めるに足りる証拠はない。したがって、右竹夫の証言は大井の証言と対比して容易に採用することができない。そして被控訴人が太郎に直接連帯保証の意思を確認しなかったとしても、そのことから被控訴人が控訴人に代理権のないことを知らなかったことについて過失があるとすることはできない。

以上のとおりであるから、控訴人の当審における補足主張1は失当である。

三  控訴人の権利濫用の主張が前提を欠く失当なものであることは原判決の判示するとおりであり、控訴人の当審における補足主張2は採用することができない。

第五結論

よって、原判決中控訴人に関する部分は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 笠井勝彦)

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