東京高等裁判所 平成12年(ネ)377号 判決
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
主文と同旨
第二事案の概要
本件は、被控訴人が、百瀬眞一郎(以下「百瀬」という。)所有の控訴人経営の埼玉ゴルフクラブ(以下「本件ゴルフクラブ」という。)の会員権(個人正会員権。以下「本件会員権」という。)を、百瀬から株式会社住地ゴルフ(以下「住地ゴルフ」という。)が、同社から株式会社アルテック(以下「アルテック」という。)が、更に同社から被控訴人が譲り受けた旨主張し、譲渡について本件ゴルフクラブの規約に定められた理事会の承認を得ることなく、百瀬の授権に基づき控訴人に債権譲渡の通知及び退会届出をした上、控訴人に対し、預託金九〇〇万円及びこれに対する請求の日の翌日である平成一一年六月一一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
控訴人は、被控訴人が本件会員権を購入したのは、被控訴人の目的外の行為、又は、弁護士法違反の行為として無効である、被控訴人が、本件会員権の譲り受けについて控訴人の理事会の承認を受けていないから預託金返還請求権を行使することができないなどと主張して争った。
原判決が、被控訴人の請求を全部認容したので、控訴人が控訴をしたところ、当裁判所は、原判決を取り消し、被控訴人の請求は理由がないものと判断してこれを棄却することとした。
一 前提となる事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。)
1 控訴人は、ゴルフ場の建設・経営並びに管理を主たる目的とする株式会社であり、昭和五五年七月二四日、正式開場(甲一三)の本件ゴルフクラブを経営している。
被控訴人は、不動産の所有、管理、不動産売買の代理、仲介、斡旋、ゴルフ会員権の所有、売買、斡旋等を目的とする株式会社である(甲九)。
2 百瀬は、昭和六〇年四月三日、控訴人との間で、本件ゴルフクラブについて、左記内容の会員契約を締結し、控訴人に対し、預託金九〇〇万円(以下「本件預託金」という。)を預託し、控訴人から、会員資格保証金預り証(甲一の1、2)の交付を受けた(以下、右会員契約に基づく百瀬の権利を「本件ゴルフ会員権」という。)。
記
会員権の種類 個人正会員
会員番号 P〇〇〇二号
預託金 九〇〇万円
預託金据置期間 正式開場の日から一〇年間(ただし、会員資格保証金預り証の記載上は、単に一〇年間据置)
証券発行日 昭和六〇年四月三日
3 預託金据置期間経過後の平成一一年六月五日、控訴人に対し、百瀬名義の退会届が送付され、百瀬が本件ゴルフクラブから退会する旨の意思表示がされた(甲二)。
4 平成一一年六月七日、控訴人に対し、百瀬名義でゴルフ会員権譲渡通知書が郵送され、百瀬が被控訴人に対し、同月四日付けで本件ゴルフ会員権を譲渡した旨の通知がされた(甲三)。
5 被控訴人は、平成一一年六月一〇日到達の内容証明郵便(甲四の1)で、控訴人に対し、本件預託金の返還を請求した。
6 控訴人は、本件預託金の返還を拒絶している。
二 主たる争点及び争点に対する双方の主張
1 本件ゴルフ会員権は売買されたのか又は信託的に譲渡されたのか
(一) 被控訴人の主張
本件ゴルフ会員権は、名義書換関係書類一式と共に、百瀬から、住地ゴルフに七〇〇万円で売却され、同社からアルテックに七二五万円で売却され、同社から被控訴人に八〇〇万円で売却されたものである。
百瀬は、最終所持人に退会するか入会するかの選択を任せ、印鑑証明書、預託証券を含む書類と共に自己名義の譲渡通知書又は退会届を流通市場に置き、そのいずれかの発送を最終所持人に授権して、本件ゴルフ会員権を売却したものであり、信託的に譲渡したものではない。
被控訴人は、九〇〇万円で購入する個人を見つけて、アルテックから本件ゴルフ会員権を購入したが、相手がキャンセルしたため、売却を断念し、預託金の返還を請求しているものである。なお、ゴルフクラブ会員権の相場は、預託金返還請求権の額によっても左右されるものであり、預託金返還請求権の額面が高いほど高額で取り引きされているものであるから、被控訴人が、本件ゴルフクラブ会員権を八〇〇万円で購入したことに疑問はない。
(二) 控訴人の主張
被控訴人は、訴状において、直接百瀬から預託金返還請求権のみを譲り受けた旨主張していたものであり、訴訟前の内容証明郵便においても、直接百瀬から預託金返還請求権のみを譲り受けた旨主張していた(甲四)。また、住地ゴルフは、本件ゴルフ会員権については、売買の仲介斡旋をしたのみである旨表明している。さらに、本件ゴルフクラブ会員権の相場は、四五〇万円前後であり、これを九〇〇万円で購入する個人がいたというのは事実無根であるといわざるを得ない。退会届を提出した後の預託金返還請求権のみが市場に出回っているということはないのであって、被控訴人は、真実、本件ゴルフ会員権を購入したのではなく、債権回収のために信託的に譲渡を受けたのではないかとの疑問が存する。
2 被控訴人は控訴人理事会の譲渡承認を受けることなく預託金返還請求権を行使し得るか
(一) 控訴人の主張
本件ゴルフ会員権は、個人正会員に関するものであり、預託金額や会員の権利義務の内容が法人会員とは異なるため、譲渡できる相手は個人に限定されており、また、譲渡には控訴人の理事会の承認が必要とされている。本件ゴルフ会員権の譲渡は、法人に対してされたものである上、控訴人の理事会の承認がないから、被控訴人は、控訴人に対し、本件ゴルフ会員権の譲り受けを対抗することができない。したがって、本件ゴルフ会員権の譲渡を受けたことを前提として、被控訴人が、預託金返還請求権を行使することはできない。
(二) 被控訴人の主張
百瀬は、最終所持人に退会するか入会するかの選択を任せ、印鑑証明書、預託証券を含む書類と共に自己名義の譲渡通知書又は退会届を流通市場に置き、そのいずれかの発送を最終所持人に授権して、本件ゴルフ会員権を売却したものである。被控訴人は、右のようにして「『会員権』を購入したのち預託金返還請求権のみを行使した」ものである。
ゴルフ会員権は、<1>ゴルフ場施設の優先的利用権(プレー権)、<2>預託金返還請求権、<3>年会費納入義務から成り立っている債権・債務を包含する法律上の地位であるところ、入会承認制度が、当該ゴルフクラブの会員として不適格な者を排除するという趣旨で設けられていること、<2>の預託金返還請求は、退会を前提とし、本件では現実に百瀬から退会通知がされていることを考慮すると、<2>の預託金返還請求権は、入会承認を得ないで行使することができるものである。
3 弁護士法違反の有無
(一) 控訴人の主張
百瀬は、本件預託金の約定償還期到来を理由に、控訴人に対し、本件預託金の返還を迫り、これに対し、控訴人が、控訴人の理事会決議による償還延長決議等を理由に返還を拒否していたものである。被控訴人は、百瀬から説明を受けて右のような事情を知悉しながら、右のような係争付の権利を、訴訟による回収を目的として業として譲り受け、譲り受けの対価と訴訟により回収した金員との差額を実質上の報酬として取得しているものであり、弁護士法七二条に違反する。
被控訴人は、本来、譲渡人に対し主張し得る抗弁が付着した本件ゴルフ会員権を譲り受け、控訴人の抗弁の提出を封じた上、訴訟により預託金を回収しようとする目的で、係争付の本件ゴルフ会員権を買い受けているものであり、弁護士法七三条に違反する。このことは、被控訴人が、判明しているだけでも、本件以外にも五件の同種訴訟を提起していること、被控訴人が、当初、預託金返還請求権のみを取得した旨主張していたことから明らかである。なお、弁護士法七三条は、三百代言又は事件屋の存在を無くそうとする趣旨の規定であるところ、被控訴人の主張は、係争付の債権や権利を譲り受けた場合でも、その裁判手続きに弁護士を代理人として委任すれば弁護士法七三条に違反しないというものであり、弁護士法の無理解といわざるを得ない。
(二) 被控訴人の主張
弁護士法七二条は、弁護士以外の者が自ら「業として」「報酬を得て」「法律事務」を取り扱うことを禁じているところ、被控訴人は、本件ゴルフ会員権を買い取ったにすぎず、報酬を得ていないし、ゴルフ会員権の買い取りが法律事務に当たらないことも明らかであるから、弁護士法七二条に違反しない。また、本件預託金返還請求権については、係争性など存在しない。
弁護士法七三条は、本来法律事務に関し代理人となれない者が「係争債権の譲り受け、訴訟などの法的手段によってその権利の実行をはかる」ことを禁じているものであって、当事者として訴訟等をする場合を禁じていない。本件は、弁護士たる代理人に依頼して預託金返還請求権を行使しているのであるから、弁護士法七三条に違反しない。
4 目的外行為の主張の当否
(一) 控訴人の主張
債権回収を目的として係争債権を譲り受ける行為は、被控訴人の目的の範囲外の行為であるところ、本件は、実質上、預託金返還請求訴訟の提起を目的として、預託金返還請求権という金銭債権のみを取得したものであるから、目的の範囲外の行為として無効である。
(二) 被控訴人の主張
被控訴人の目的には「ゴルフ会員権の所有・売買・斡旋」が含まれており、買い取ったゴルフ会員権について、預託金の返還請求をすることは、目的の範囲に含まれる。被控訴人は、当初、本件ゴルフ会員権を個人に転売するため、買い受けたものである。
第三当裁判所の判断
一 争点1(本件ゴルフ会員権は売買されたのか又は信託的に譲渡されたのか)について
1 証拠(甲一の1、2、二、三、四の1、2、七、八、一〇、一四、一九ないし二一、乙一一)及び弁論の全趣旨によれば、百瀬は、平成一一年二月ころ、控訴人に対し、他のゴルフ場の会員権を購入したいので、本件預託金を返してほしい旨打診したこと、これに対し、控訴人は、バブル崩壊後の経営不振による預託金返還の困難性を前提として、百瀬に対し、会員権の相場を上回る額面の預託金返還請求権を有する会員が次から次へと預託金返還請求手続きをすると本件ゴルフクラブの経営が成り立たないので、理事会で預託金の返還を延期する旨の了解を得ており、会員にも協力を得ているので、本件預託金の返還を見合わせてほしい旨説得したこと、百瀬は、控訴人が、本件預託金の返還請求に応じないため、これを第三者に売却することとし、同年六月二日ころないし同月四日ころ、住地ゴルフに対し、本件ゴルフ会員権を、七〇〇万円で売却し、会員資格保証金預り証(甲一の1、2)、同月二日付け印鑑証明書(甲五)、百瀬の署名押印のある退会届(甲二)、同様のゴルフ会員権譲渡通知書三枚(甲三)等を交付したこと、住地ゴルフは、同月四日、アルテックに対し、本件ゴルフ会員権を七二五万円で売却し、右会員資格保証金預り証等を交付したこと、アルテックは、同日、被控訴人に対し、本件ゴルフ会員権を、八〇〇万円で売却し、右会員資格保証金預り証等(ただし、ゴルフ会員権譲渡通知書については二枚。甲一四)を交付したことが認められる。乙第一一号証(岐部典生作成の陳述書)中の住地ゴルフは単に仲介人にすぎない旨の陳述は、右各証拠に照らし信用することができない。
2 右事実によれば、被控訴人は、本件ゴルフ会員権を、百瀬から買い受けた住地ゴルフから更に買い受けたアルテックから購入したものと認められるが、本件ゴルフ会員権は個人正会員権であるから、被控訴人は、控訴人との関係では、有効に本件会員権を取得して会員となることができるものと解することはできない。
二 争点2(被控訴人は控訴人理事会の譲渡承認を受けることなく預託金返還請求権を行使し得るか)について
1 本件ゴルフクラブの会則である「埼玉ゴルフクラブ会則」は、第九条<3>において、「保証金は無利息とし、施設の正式開場の日より満10年間据置」と規定し、<4>において、「据置期間満了後、会員は保証金の返還を請求できる。ただし、会員はその返還を受けたときよりその資格を失う。」と規定している(乙四)。また、会員資格保証金預り証には、その表面に「会員資格保証金は無利息とし、拾年間据置き、その後は貴殿の請求があった場合本証と引換えに返還致します。」と記載されている(甲一の1)。右事実によれば、会員が預託保証金の返還を請求するための要件は、所定の据置期間が経過すること及び会員が控訴人に対し、預託保証金の返還を請求する意思表示をすることであり、本件ゴルフクラブを退会する旨の意思表示は要件とはなっていないと認められる。
2 本件ゴルフ会員権の譲渡の経過は、右一のとおりであるところ、百瀬が、住地ゴルフに本件ゴルフ会員権を譲渡する前には、控訴人に対し、本件預託金の返還を打診したことは認められるが、正式に本件預託金の返還請求をした証拠はない。被控訴人は、平成一一年六月四日、アルテックから本件ゴルフ会員権の譲渡を受け(甲三、七)、同月五日付けで百瀬名義の退会届を控訴人に送付し(甲二)、同月七日付けで、同月四日をもって本件ゴルフ会員権を譲渡した旨の百瀬名義の譲渡通知書を控訴人に送付し(甲三)、同月九日付けで本件預託金の返還を請求する旨の内容証明郵便を控訴人に送付したこと(甲四の1)、本件ゴルフクラブの会則では、会員の地位の譲渡については、譲受人について正会員二名以上の推薦及び理事会の承認を得た上、所定の名義書換料を控訴人に納入する必要があるが、被控訴人は、これらの手続きを履践していないことが認められる。そうすると、被控訴人は、本件ゴルフ会員権の譲渡について、理事会の承認等の手続きを履践しないまま、控訴人に対し、自ら直接に本件預託金の返還請求をしているものといわざるを得ない。なお、被控訴人は、右のとおり、本件ゴルフ会員権の譲渡を受けた後、百瀬名義で退会届を控訴人に送付しているが、右退会届の送付は、本件預託金返還の意思表示であると認めることはできないし、仮に、これが実質的には本件預託金返還の意思表示であると認められる余地があるとしても、右で認定した本件ゴルフ会員権譲渡及び退会届送付の経過にかんがみると、その意思表示は、実質上、被控訴人が行ったものといわざるを得ないから、結局、本件預託金の返還請求は、被控訴人が、控訴人の理事会の承認等を得ないで本件ゴルフ会員権の譲渡を受け、自ら、会員として本件預託金の返還を請求しているものといわざるを得ない。
3 本件ゴルフ会員権は、預託金会員制ゴルフクラブの個人正会員権であり、その法律関係は、会員と本件ゴルフクラブを経営する控訴人との間の、<1>ゴルフ場施設の優先的利用権、<2>据置期間後、請求により返還を受けられる預託金返還請求権、<3>会員としての会費等納入義務をその主たる内容とする債権的契約関係であるが、会員権の譲渡については、譲渡を受けた者は、本件ゴルフクラブ理事会の承認等を得た上、会員権について名義書換えの手続をしなければならないものとされているから、本件ゴルフクラブ理事会の承認等を得ず、名義書換えの手続もしない段階で、譲受人である被控訴人自らが、本件会員権を取得したとして、控訴人に対し、本件預託金の返還請求をすることはできないというべきである(最高裁平成八年七月一二日第二小法廷判決・民集五〇巻七号一九一八頁参照)。
なお、被控訴人は、入会承認制度が、当該ゴルフクラブの会員として不適格な者を排除するという趣旨で設けられていること、本件預託金の返還請求は、退会を前提とし、本件では現実に百瀬から退会通知がされていることを考慮すると、被控訴人が入会承認を得ないで、本件預託金の返還請求権を行使することができる旨主張するが、本件ゴルフ会員権は、<1>ゴルフ場施設の優先的利用権、<2>据置期間後、請求により返還を受けられる預託金返還請求権、<3>会員としての会費等納入義務等の包括的、一体的権利義務関係を内容とする契約上の地位であって、預託金返還請求権のみを分離して譲渡することはできないというべきであるから、本件ゴルフ会員権の譲渡につき理事会の承認等の手続きを経ていない以上、退会が前提となっているからといって、譲受人たる被控訴人が、控訴人に対し、本件預託金の返還請求権のみを分離して行使することはできないものである。なお、このように解したとしても、会員は、据置期間経過後に、自ら預託保証金の返還を請求した上で、これを他に譲渡することにより、預託保証金の回収を図ることができるから、実際上の不都合はないというべきである。
三 争点3(弁護士法違反の有無)について
なお、念のため、争点3について判断する。
1 各項中に掲記した各証拠によれば、被控訴人の本件ゴルフ会員権の購入等に関し、次の事実を認めることができる。
(一) 前記二1(二)のとおり、被控訴人は、本件ゴルフ会員権を買い受けるや、買い受け日の翌日である平成一一年六月五日付けで百瀬名義の退会届を控訴人に送付し、同月七日付けで、同月四日をもって本件ゴルフ会員権を譲渡した旨の百瀬名義の譲渡通知書を控訴人に送付し、同月九日付けで本件預託金の返還を請求する旨の内容証明郵便を控訴人に送付し、同年七月五日に本訴を提起している。さらに、被控訴人は、訴状において、百瀬から、直接、預託金返還請求権のみを買い受けた旨主張していたものであり、また、本件ゴルフ会員権は、個人正会員権であり、法人である被控訴人が取得して会員となることはできないものであった(甲一の1、弁論の全趣旨)。
右事実によれば、被控訴人は、自ら本件ゴルフクラブの会員となる目的ではなく、本件ゴルフ会員権の譲渡を受け、控訴人に対し本件預託金の返還を請求する目的で、百瀬から、本件ゴルフ会員権の譲渡を受けたと認められる。
被控訴人は、本件ゴルフ会員権は、個人に九〇〇万円で転売する予定で購入したものである旨主張するが、右のとおり、被控訴人は、本件ゴルフ会員権を購入後、直ちに、自ら本件預託金の返還請求をしているものであり、また、本件の訴状において、直接百瀬から預託金返還請求権のみを買い受けた旨主張していたこと、本件ゴルフクラブの会員権の相場が五〇〇万円にも達しない状況の中で、預託金の額面九〇〇万円の本件ゴルフ会員権を、九〇〇万円で購入する個人がいるとは到底考え難いこと(被控訴人は、会員権の相場表には「額指」の場合が含まれていない旨主張するが、預託金の額面九〇〇万円の本件ゴルフ会員権についての「額指」の価額が幾らであるかについての書証は提出されていない。)、以上の事実を考慮すると、被控訴人の前記主張はたやすく信用できない。
(二) 本件ゴルフ会員権は、前記一のとおり、百瀬が本件預託金の返還を打診して断られたという事情があり、任意に控訴人が預託金返還に応じる可能性が少ない状況にあったもので、いわゆる係争付の権利であると認められる。
本件ゴルフ会員権は、百瀬、住地ゴルフ、アルテック、被控訴人という順に転々譲渡とされたものであるが、住地ゴルフは被控訴人訴訟代理人が顧問弁護士を務める会社であり(被控訴人が自認している)、アルテックも、被控訴人が本店を移転する前の本店所在地と同一の地番に本店を置く会社であって(甲七、九、一〇、一四)、三社は、全く関連のない会社とは言い難いものであるのみならず、前記一のとおり、本件ゴルフ会員権が、住地ゴルフに売却されるや、即日、アルテック、被控訴人の順に譲渡されていることを考慮すると、被控訴人は、転々譲渡された善意の転買人であるとの外形を作出し、係争付の権利である本件ゴルフ会員権に基づく本件預託金の返還請求権の行使を容易にするため、右のような転々譲渡の形式を取ったのではないかとの疑問を払拭し難い。
(三) 被控訴人は、東京地方裁判所についてだけでも、判明している限りにおいて、本件以外に次の五件の同種訴訟を提起している(乙一一)。
(1) 平成六年(ワ)第一〇九四八号
(2) 平成一〇年(ワ)第二一八二五号(甲二四の1)
(3) 平成一〇年(ワ)第二五二〇一号(甲二四の3、4)
(4) 平成一一年(ワ)第四四九二号(甲二四の2、乙一)
(5) 平成一一年(ワ)第五六三九号(甲二四の5)
右各訴訟のうち、(1) 、(2) は詳細が不明であるが、(3) は、会員が、平成一〇年九月一六日、ゴルフ会員権を訴外会社に譲渡し、同社が、同日、更に別の訴外会社にゴルフ会員権を譲渡し、同社から、同日、被控訴人がゴルフ会員権の譲渡を受け、会員名義で、同日付けで、退会の意思表示がされ、被控訴人が、同月二五日付けで預託金返還の意思表示をした上、預託金の返還の請求を求める訴訟を提起したという事案であり(甲二四の3、4、弁論の全趣旨)、(4) は、会員二名が平成一一年二月九日にゴルフクラブに退会の意思表示をした上、翌一〇日に被控訴人に預託金返還請求権のみを譲渡し、同月一五日到達の内容証明郵便で、二名の会員名義で債権譲渡の通知がされ、被控訴人が翌一六日到達の内容証明郵便で各預託金の返還請求をし、同年三月一日に訴訟を提起したという事案であり、ゴルフクラブ側は、据置期間延長等の抗弁を提出していること(甲二四の2、乙一、弁論の全趣旨)、(5) は、会員が、平成一一年二月一〇日、ゴルフクラブに対し、退会の意思表示をし、被控訴人が、同日ころ、会員から、預託金返還請求権のみの譲渡を受け、会員名義で、同月一五日到達の内容証明郵便で、債権譲渡の通知をし、被控訴人が、同月一七日到達の内容証明郵便で、預託金返還請求をした旨主張し、同年三月一二日、訴訟を提起して預託金の返還を請求した事案である(甲二四の5、弁論の全趣旨)。
なお、被控訴人は、右(3) 以外の訴訟については、当初、訴えの提起自体を否認していたが(被控訴人平成一二年二月四日付準備書面)、控訴人から事件名を特定されて主張されるや、一転してこれを認めるに至った。
2 右(一)ないし(三)の事実及び認定に照らせば、被控訴人は、バブルの崩壊による経営不振のため、預託金返還請求に応じられないゴルフクラブが多数出現し、預託金返還請求を巡って多数の紛争が生じていることから、訴訟等の手段によって強硬に預託金返還を求めることまでは決断しかねているゴルフクラブの会員から会員権の譲渡を受け、自らが当事者となって、訴訟により預託金の返還を請求して利益を得るため、業とする意思で、会員権の譲渡を受け、訴訟を提起しているものであり、本件ゴルフ会員権の購入及び本件訴訟も右の一環としてされたものと認められる。したがって、被控訴人が本件ゴルフ会員権を購入した行為は、弁護士法七三条に違反し無効であるというべきである。
被控訴人は、弁護士法七三条が、本来法律事務に関し代理人となれない者が「係争債権の譲り受け、訴訟などの法的手段によってその権利の実行をはかる」ことを禁じているものであって、当事者として訴訟等をする場合を禁じていない、本件は、被控訴人が弁護士たる代理人に依頼して預託金返還請求権を行使しているのであるから、弁護士法七三条に違反しない旨主張するが、同条は、弁護士であると弁護士以外の者とを問わず、他人の権利を譲り受けて、訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とすることを禁止し、国民の法律生活に関する利益を保護し、法秩序の維持を図る目的に出たものであり、他人の権利を譲り受けた者が、当事者として訴訟等をする場合であっても、また、弁護士たる代理人に依頼して右訴訟等をする場合であっても、訴訟等の手段によって権利の実行をすることを業とするものであれば、同条に該当するというべきであるから、被控訴人の主張は採用できない。
四 よって、被控訴人の請求は理由がないから棄却すべきところ、これを認容した原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 小林正 裁判官 萩原秀紀)