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東京高等裁判所 平成12年(ネ)4189号 判決 2000年11月30日

控訴人

日本微生物化学株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

堀口均

被控訴人

株式会社西原環境衛生研究所

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

武田正彦

主文

原判決を取り消す。

本件を前橋地方裁判所高崎支部に差し戻す。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人は、控訴人に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年五月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  (当審において追加された選択的請求の一ー技術料支払の請求)

被控訴人は、控訴人に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年五月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  (当審において追加された選択的請求の二ー不当利得返還の請求)

被控訴人は、控訴人に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴人の当審における新請求をいずれも棄却する。

3  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

一  控訴人

1  債務不履行に基づく損害賠償請求(遅延損害金請求は、当審において、年五分の割合から年六分の割合に拡張された。)

(一) 控訴人(株式会社)と被控訴人(株式会社)は、昭和六一年三月一日及び平成三年三月一日の二度にわたり、酵母を利用して行う廃水処理プロセス及びこのプロセスから生産される菌体を原料とした製品のそれぞれの開発に関し、次の内容の条項を含む覚書(以下「本件覚書」という。)により、同内容を含む契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

第一条(目的)控訴人及び被控訴人は、右開発の実用化を目的として共同で右開発を行う。

第六条(成果の実施)

(1) 本プロセスの実施のために使用される装置の製作と販売またはリースは被控訴人が行う。この場合、被控訴人は控訴人に売上金額に応じた技術料を支払う。

(2) 被控訴人が販売またはリースした本装置から生産される菌体を原料とした製品の製造および販売は控訴人が行う。この場合、控訴人は被控訴人に売上金額に応じた技術料を支払う。

(3) 右技術料の詳細については、控訴人被控訴人別途協議のうえ定める。

(4) 成果の実施について(1)、(2)に定めのない事項については、(1)、(2)の主旨にのっとり、控訴人被控訴人協議のうえ決定する。

(二) 控訴人及び被控訴人により本件契約に基づく開発が行われ、その成果が実施された。

(三) ところが、被控訴人は、右第六条(3)で定められた、技術料支払の協議に応じず、技術料の支払もしない。これは、被控訴人が負っている本件覚書第六条(3)所定の協議をする債務の不履行である。

(四) 被控訴人が技術料を定める協議に応じれば、被控訴人が控訴人に対して適正な技術料を支払う協議が整う状況にあった。したがって、控訴人は、被控訴人が右協議に応じていれば、適正な金額の技術料債権を取得できた。ところが、被控訴人による協議をする債務の不履行により、技術料債権の額が具体化しなかったため、控訴人は、これを取得することができなかった。右適正な技術料債権の金額は七億七五〇〇万円であり、控訴人は同額の損害を受けた。

(五) よって、控訴人は、被控訴人に対し、一部請求として、右債務不履行に基づく損害賠償金の内金五〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年五月一五日(訴状送達日の翌日)から支払済みまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  技術料支払の請求(当審において追加された選択的請求の一)

(一) 1(一)と同じ。

(二) 1(二)と同じ。

(三) 本件覚書第六条(1)は、「売上金額に応じた適正な技術料を支払う」という趣旨である。したがって、被控訴人は、控訴人に対し、同条(1)により、売上金額に応じた適正な技術料を支払う義務がある。

(四) 右適正な技術料は、七億七五〇〇万円である。

(五) よって、一部請求として、右技術料の内金五〇〇〇万円及び商事法定利率による遅延損害金の支払を求める。

3  不当利得返還の請求(当審において追加された選択的請求の二)

(一) 1(一)と同じ。

(二) 1(二)と同じ。

(三) 被控訴人は、協議に応じないことにより、本来控訴人に支払うべき技術料の支払を免れるという利益を、悪意で利得している。他方、控訴人は、本来受領すべき正当な対価を得ることができないという損失を受けている。

(四) 右受益及び損失の額は、七億七五〇〇万円である。

(五) よって、一部請求として、右不当利得金の内金五〇〇〇万円及び民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被控訴人

控訴人の主張1ないし3は、いずれも(一)、(二)を認め、(三)、(四)を否認し、(五)を争う。

第三当裁判所の判断

一  債務不履行に基づく損害賠償請求について

1  第二の一1(一)(本件覚書による本件契約の締結)及び同(二)(本件契約に基づく開発と成果の実施)の事実は、当事者間に争いがない。そして、右事実及び甲第一七、第一八号証によれば、被控訴人は、本件覚書第六条(3)により、控訴人に対し、技術料を決定する協議に応じる債務を負っていること、及び、右債務は、同条(1)、(2)において、互いに既に売上金額に応じた支払をすることを約束している技術料の具体的金額を定めるためのものであるから、単に形式上「協議」をすればよいというものではなく、協議において、売上金額に応じた適切な技術料を算定するための努力をしなければならないという債務であることが認められる。そして、被控訴人において、売上金額に応じた適切な技術料を算定するための努力をし、控訴人が、協議債務履行の受領として同様の努力をすれば、双方は、売上金額に応じた適切な技術料を定めることができることは明らかである。なお、控訴人の「協議が整う状況にあった」(第二の一1(四))との主張は、控訴人において協議債務履行の受領の意思があったとの趣旨を含むものと解される。

そうである以上、控訴人は、被控訴人に右債務の不履行がある場合には、これにより、右債務が履行されたならば取得できたはずの具体的な「売上金額に応じた適切な技術料」債権を取得できなかったのであるから、右債権は、被控訴人の債務不履行と因果関係のある損害であるところの、控訴人の得べかりし利益である。

2  したがって、本訴の債務不履行に基づく損害賠償請求を判断するに当たっては、①被控訴人に右債務の不履行があるか否かを認定し(例えば、控訴人が被控訴人に対して協議を求めていない状態では、被控訴人に債務不履行があるとはいえない。しかし、本訴の和解期日における協議も、同条(3)の「協議」に当たり得ることは、当然である。また、協議において不適切な金額に固執して譲らないとすれば、「売上金額に応じた適切な技術料を算定するための努力」をしないのであるから、協議債務の本旨に従った履行ではないことは前示のとおりである。)、これがあると認められた場合には、②控訴人の得べかりし利益、すなわち、「売上金額に応じた適正な技術料」債権の価額について認定判断すべきである。

3  原判決は、協議が合意に達していないために控訴人が具体的な技術料債権を有しないことを理由に、控訴人に具体的な損害が生じていないとの見解により本訴請求を棄却したため、原審においては、右2①、②の点について十分な弁論がなされていない。しかし、「具体的な『売上金額に応じた適切な技術料』債権」が控訴人の得べかりし利益であることは前示のとおりであるから、控訴人がこれを有してないことを理由に、控訴人に損害が生じていないということはできない。

原判決は不当であり、右2①、②の点について更に弁論をする必要がある。その場合に、当審において審理判断することは、当事者の審級の利益を失わせることになる。

二  技術料支払の請求及び不当利得返還の請求について

本件記録及び右一において述べたことによれば、当審における新請求である、技術料支払の請求及び不当利得返還の請求は、直ちに認容し得るものではないことが、明らかである。したがって、本件においては、債務不履行に基づく損害賠償請求のほかに、これと選択的請求として技術料支払の請求及び不当利得返還の請求がなされているけれども、そのことによって、本件について更に弁論をする必要がなくなるものではない。

三  結論

よって、原判決を取り消したうえ、民事訴訟法三〇八条一項を適用して、本件を原審に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

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