大判例

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東京高等裁判所 平成12年(ネ)899号 判決

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  控訴人らに対し、被控訴人らは原判決添付別紙目録二の(一)記載の建物を、被控訴人鷹巣寿子は同目録二の(二)記載の建物を収去した上、同目録一記載の土地(原判決添付図面斜線部分)を明け渡せ。

3  被控訴人らは、控訴人らに対し、連帯して平成九年四月一日以降右明渡し済みに至るまで一か月三〇万円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  被控訴人ら

主文第一項同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付け加えるほかは、原判決「事実」中の「第二当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する(なお、原判決書一〇頁二行目の「被告ら」を「被控訴人寿子」に改め、同行目の「基づき」の次に「その余の被控訴人らに対し所有権に基づき」を加える。)

一  控訴人らの補足主張

1  被控訴人らは、前記のとおり昭和四〇年ころから控訴人らの制止にもかかわらず、無断増改築、控訴人ら所有土地の不法占有、賃料の不払等の背信行為を重ねた上に、更新料も支払わず、<1>昭和六〇年七月に大音響を発する無断工事をし(以下「<1>の工事」という。)、<2>平成四年三月にも無断増改築工事をし(以下「<2>の工事」という。)、<3>更に本件土地の北側三坪の土地を不法に使用しているのであって、右<1>の無断工事の前に控訴人と被控訴人らは裁判上の和解などをしているが、右和解の前後を通じて被控訴人らの背信行為は一体のものであり、右和解があるからといってそれ以前の背信行為が本件の審理の対象外となるものではなく、それら事由も併せて控訴人の更新拒絶の正当事由の有無、解除の理由の有無が考察されなければならない。

2  控訴人らが<1>、<2>の工事の内容を被控訴人らに問い質したのに対して、被控訴人らはこれに答えないばかりか、「自分がどのような工事をしようと今までどおり勝手で一切事前連絡をしない」と放言したり、無断増改築禁止特約に違反している旨を指摘しても「そんなことは忘れちゃいました」などととぼけた態度をとっていたのであり、このような被控訴人らの態度をみても、<1>、<2>の工事が相当大がかりなものだったことが分かる。なお、このような工事を控訴人らが納得したり、了解したりするようなことはあり得ない。

また、被控訴人らが控訴人らに無断で本件土地の北側隣地である控訴人らの所有地に鍵付きの門扉を構築し、本件土地北側の控訴人ら所有にかかる三坪の土地を不法に占有、使用していることは明らかである。

二  控訴人らの補足主張に対する被控訴人らの反論

1  控訴人らの主張は、すべて本件以前の司法手続により判断された事実の蒸し返しに過ぎない。

2  <1>の工事は大音響を発する工事とされていて、何を指しているか特定することは困難であるが、その当時行った扉の建て付けが悪くなったのを金槌で修理したことを指している蓋然性が高い。また、<2>の工事は、単なる外壁の清掃工事である。このようなことが契約違反であったり、信頼関係の破壊になるはずがない。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人らの請求は理由がなく、いずれも棄却すべきものと考える。その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決「理由」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書一〇頁末行冒頭の二の次に「1」を加え、一一頁五行目の「顕在化し」を「次々に起こり」に改め、同頁七行目の「昭和」から同頁八行目の「確定した」までを次のとおり改める。

「まず、控訴人らは、昭和四八年八月被控訴人寿子を被告として本訴でも主張しているのと同一の事由である無断増改築、用法違反、隣接土地の不法占有などの賃貸借契約上の債務不履行と信頼関係の破壊を理由とする契約解除を主張して、本件土地上の建物の収去と本件土地の明渡しを求める訴えを提起したが(以下この訴訟を「第一次訴訟」という。」)、その請求はすべて棄却され、最終的には昭和五六年三月一二日にされた上告棄却の判決によって確定したこと、その一審判決である」

二  同頁末行の「新宿簡易裁判所」から同一二頁四行目の「約定に」までを次のとおり改める。

「控訴人らは被控訴人寿子を相手方として新宿簡易裁判所に賃料増額の調停を申し立て、昭和五八年一二月一日、被控訴人寿子の本件土地にかかる賃借権が昭和五二年四月一日に更新されたことの確認、賃料の増額と右増額された賃料のうち過去の未払分の分割支払、無断増改築や転貸の禁止などを内容とする調停が成立したこと、その後右調停条項における過去の未払分の賃料の分割金の支払がわずかばかり期限に遅れたことを理由に、右調停条項に」

三  同一二頁末行の「原告らが」から同一三頁三行目の「使用していること、」までを削る。

四  同一三頁五行目冒頭から同一五頁五行目末尾までを次のとおり改める。

「2 控訴人らが主張している事実の大半は、第一次訴訟の判決の基礎とされた事実と重複しており、また、昭和六〇年六月二五日に成立した裁判上の和解以後の行為として主張されているのは<1>、<2>の工事と本件土地の北側にある控訴人所有地三坪の不法な使用だけである。

本件においては右にみたように判決や裁判上の和解等によりそれまでの紛争が解決されたという経緯があり、このような場合には、その後長年にわたって不信・背信行為と目される行為が存在しない限り、原則として、右紛争解決以前の行為を審理の対象とする必要はないと解される。

すなわち、平成三年法律第九〇号による廃止前の借地法四条一項に定める更新拒絶の正当事由の存否の判断は、借地に関する従前の経緯なども考慮して行われるものであるから(借地借家法六条参照)、従前の紛争の経緯なども当然考慮の対象とはなるが、本件のように控訴人主張のような債務不履行や信頼関係の破壊行為が存在しないとの判決がされた上、その後に発生した紛争も調停や和解などによって当事者間で解決されている場合には、以後長年借地人(被控訴人ら)側に賃貸借関係の信頼関係を脅かすような不信・背信行為がなければ、その紛争解決の内容が当事者間の衡平を害し正義に反することが明らかであるというような特段の事情のない限り、右紛争解決以前の行為を更新拒絶の正当事由の存否の判断において問題とする必要はないと解される。また、信頼関係破壊を理由とする契約解除についていえば、第一次訴訟においても同様の事情による契約解除に基づく請求がされていたのであるから、少なくとも右訴訟の口頭弁論終結以後に新たな事由が発生していなければ、本訴の請求は結局のところ右第一次訴訟の蒸し返しであって、確定以前の事由について審理判断することは右確定判決の既判力に触れると解されるし、右判決確定以後昭和六〇年六月二五日の裁判上の和解までに発生した事由についても、いったんそこで紛争解決が図られている以上、そのような紛争解決の対象となった事由を再度取り上げて現在の賃貸借契約における信頼関係が破壊されたと判断するのは和解や調停の趣旨に反すると考えられる。

3 そこで、まず、<1>の工事についてみてみると、<1>の工事について控訴人らが主張するところは大音響を発する程の工事とするのみで、それがどのような工事なのかに関する主張はなく、証拠(甲八、二〇の一)によっても「突如屡々大音を発する等何やら大ごとの工事を行っている様子」とされているだけであるから、これだけでは被控訴人らが本件借地契約で禁止されている増改築を行ったと認めることはできない。なお、控訴人らは、工事内容を問い質したのに対して被控訴人らはこれに答えないばかりか、「自分がどのような工事をしようと今までどおり勝手で一切事前連絡をしない」と放言したとして、そのような態度が相当大きな工事であったことを推認させる旨を主張しているが、控訴人が主張する被控訴人の右のような言動を認めるに足りる証拠はない上、仮にそのような言動があったとしても、そのことだけで大きな工事を行ったと推認することもできない。

次に、<2>の工事であるが、証拠(甲九、一五、二〇の一、乙一一、弁論の全趣旨)によれば、被控訴人らは本件各建物の南側に足場を組み、国道(明治通り)沿いの西側の一部にはシートを張るなどの方法で本件各建物の一部に改装を施したが、右工事の内容は、主として、同建物南側の建物が取り壊され本件各建物南側のブロックの外壁がむき出しになったため当該外壁に簡易な外装を施したものであって、右外装によるもののほか右工事前後で建物の外観などにほとんど変化はなく、改築と評価されるようなものではなかったことが認められる。

また、控訴人らは、被控訴人らが本件土地北側の控訴人ら所有地三坪の土地の西側(国道側)に控訴人らに無断で門扉を設けているのであるから、被控訴人らが右三坪の土地を不法に占有、使用していることは明らかであると主張しているが、他方で右門扉を「騙して」構築したと主張する部分もあり、その主張自体矛盾している。この点は、控訴人豊子の夫であり同弘道の父である関谷陽一の供述でも同じである(甲一九、二〇の一、二)。そして、控訴人ら主張の門扉の設置時期は必ずしも明らかではないが、証拠(甲一三、一八の二の(2) 、乙一一)によれば、右門扉はかなり以前から設置されていたことがうかがえ(なお、被控訴人寿子の供述(乙一一)では門扉の設置は昭和六〇年よりずっと以前のことだとされている。)、仮にこれが控訴人らに無断で設置されていたとすれば、これまで被控訴人らの行為に対して執拗に抗議を行い、各種の法的手段に訴えてきた控訴人らがこれをそのまま放置して本件訴訟にまで至ったとは考えられない。したがって、右門扉の設置が控訴人らに無断でされたとは認められないし、また、騙して設置されたことを認めるに足りる証拠もない。さらに、控訴人らの主張によっても、右三坪の土地を被控訴人らが具体的にどのように利用しているのか明らかではないから、同土地を被控訴人らが不法に占有ないし使用していたと認めることもできない。

4 以上のとおりであるから、控訴人らが被控訴人らの背信・不信行為として主張する<1>の工事及び本件土地北側三坪の土地の不法な占有、使用の事実は認められず、<2>の工事を背信的なものと評価することはできず、本件で当事者間に成立している和解や調停などの内容が当事者間の衡平を害し、正義に反することが明らかであるというような特段の事情も認めることはできない。」

第五結論

したがって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 裁判官 田川直之)

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