東京高等裁判所 平成12年(ラ)1491号・平11年(ラ)2553号 決定
主文
一 本件抗告を棄却する。
二 本件附帯抗告に基づき、原決定を次のとおり変更する。
抗告人らの本件申立てを却下する。
理由
一 事案の概要
1 本件は、借地権付建物を競売により買い受けた抗告人平田俊雄が同建物の持分各三分の一につき抗告人平田芳子及び同松山昌子に所有権一部移転登記を経由した後、同建物の共有者として抗告人らが借地権譲受許可の申立て(以下「甲事件申立て」という。)をし、これを受けて、地主である相手方らが当該借地権及び建物の譲受けの申立て(以下「乙事件申立て」という。)をした事案である。
2 原審は、抗告人平田芳子及び同松山昌子の甲事件申立てを不適法として却下する一方、抗告人平田俊雄の甲事件申立てを適法とした上、相手方らの乙事件申立てにより、抗告人平田俊雄から相手方らへの代金五八八九万円による借地権及び建物の譲渡を命じた。
3 これに対し、抗告人らは、即時抗告を申し立て、相手方らの乙事件申立ての棄却を求め、相手方らは、抗告人平田芳子及び同松山昌子の甲事件申立てが不適法であることにより共有者のうちの一人のみからの申立てとなった抗告人平田俊雄の甲事件申立ても不適法であるとして、附帯抗告を申し立てた。
二 当裁判所の判断
1 本件記録によれば、抗告人平田俊雄は、平成九年一〇月三〇日に競売による売却により借地権付建物である原決定別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)の所有権を取得し、同月三一日付けで所有権移転登記を経由したこと、抗告人らは、同年一一月二五日付けで本件建物の持分各三分の一につき真正な登記名義の回復を原因として抗告人平田俊雄から抗告人平田芳子及び同松山昌子への所有権一部移転登記を経由した上、本件建物の共有者として同年一二月二六日に借地借家法二〇条一項に基づき甲事件申立てをしたことが認められる。
2 ところで、借地借家法二〇条一項により土地賃借権譲受許可の申立てをすることができるのは、競売等により借地権付建物を取得した者、すなわち代金を納付した買受人であり、買受人から更に当該建物を譲り受けた転得者は右申立てをすることができないと解すべきである。右の場合において、買受人から当該建物を第三者に借地権付きで譲渡しようとする場合には、買受人から同条項による土地賃借権譲受許可の申立てをし、その後又は同時に、右買受人から右建物譲渡前に、(右許可がされる前は、右許可を条件として)同法一九条一項による土地賃借権譲渡の許可の申立てをすべきであり、買受人から第三者への建物譲渡後に、同条項による土地賃借権譲渡の許可の申立てをすることは許されないと解さざるを得ない。
また、競売手続において数人が共同して借地権付建物の買受人となったり、一人の買受人が死亡して共同相続が生じたりした結果、当該建物が共有となった場合には、共有者の一部の者だけで借地借家法二〇条一項の土地賃借権譲受許可の申立てをすることは許されないと解される。なぜならば、右申立ての手続において、裁判所は、申立てを認容するに当たり必要があるときは借地条件の変更等を命ずることができ、また、借地権設定者が自ら建物及び借地権を譲り受ける旨の申立てをしたときは、相当の対価を定めて建物及び借地権の譲受けを命ずることができるものとされているところ、このように借地条件の変更等賃貸借契約の内容に変更が生じる場合には、契約当事者全員が当事者として借地非訟手続に関与する必要があるし、借地権設定者の右建物及び借地権の譲受けの申立てを認容する裁判は、共有物の処分を命じるものであるので、共有者全員が当事者となっていることを要するからである。
買受人が買受建物を他に全部譲渡後に借地借家法二〇条一項(これと同法一九条一項との併用を含む。)による土地賃借権譲受許可の申立てをすることが許されないことは、右に説示したところから明らかであるが、買受人が買受建物の一部持分を他に譲渡し共有状態になった後においては、買受人を除く共有持分者(持分転得者)は、右借地非訟手続において本来的に当事者適格(申立人適格)を有せず、かつ、買受人だけでは、共有者全員が当事者とならないことから、同様に当事者適格を有しないといわざるを得ず、右土地賃借権譲受許可の申立ては、買受人を含む共有者全員からでも、買受人単独でも、不適法といわざるを得ない。
3 抗告人らは、本件建物について抗告人平田俊雄が単独で買受人となって所有権を取得した後、その持分の一部譲渡・譲受けをして、抗告人らの共有とした後に、借地借家法二〇条一項により土地賃借権譲受許可を求める甲事件申立てをしたものであるから、買受人である抗告人平田俊雄からの転得者である抗告人平田芳子及び同松山昌子の右申立てが不適法であるにとどまらず、抗告人平田俊雄の右申立ても不適法なものといわざるを得ない。このような事態が生じたのは、抗告人らにおいて借地借家法に定める手続を履践せずに建物所有権の一部移転をしてしまったことによるものであり、これにより抗告人らが不利益を受けるとしてもやむを得ないところである。
4 以上によれば、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、甲事件申立ては不適法であるからこれを却下すべきであるので、本件附帯抗告に基づきこれと一部結論を異にする原決定を変更することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 杉山正己 裁判官 山崎まさよ 裁判官 沼田 寛)