東京高等裁判所 平成12年(ラ)2266号 決定
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
1 本件抗告の趣旨は、原決定を取り消し、相手方の本件債権差押命令申立てを却下する旨の裁判を求めるというのであり、その理由は、別紙「抗告理由書」記載のとおりである。
2 原決定は、債務者(抗告人)が第三債務者(クレジットカード会社)との間の加盟店契約に基づき、加盟店としてクレジットカード利用者に対してしたサービスの提供や物品の販売等の対価について、第三債務者に対して有する支払請求権のうち、原決定(平成一二年九月一九日付け)送達の日の後から平成一三年三月一三日までの間に支払期日の到来する債権を、債権者(相手方)が債務者に対して有する請求債権額四〇〇万円に満つるまでの限度で、差押債権としたものである。
3 本件のような将来発生すべき債権を差し押さえることができるかを判断するに当たっては、その前提として、当該債権が譲渡することができるものであることを要するので、まず、この点について検討する。
債権譲渡契約にあっては、譲渡の目的とされる債権がその発生原因や譲渡に係る額等をもって特定される必要があり、また、将来の一定期間内に発生し、又は弁済期が到来すべき幾つかの債権を譲渡の目的とする場合には、適宜の方法により同期間の始期と終期を明確にするなどして譲渡の目的とされる債権が特定される必要があるが、このようにして特定された債権は、将来生じるものであっても、特段の事情のない限り、これを有効に譲渡することができるというべきである(最高裁平成一一年一月二九日第三小法廷判決・民集五三巻一号一五一頁参照)。
ところで、クレジットカード取引におけるクレジットカード会社と加盟店との間の基本的法律関係は、クレジットカード会社と加盟店との間で加盟店契約が締結されることにより形成され、加盟店のクレジットカード会社に対する具体的なクレジットカード利用対価支払請求権は、加盟店がクレジットカード利用者に対してサービスの提供や物品の販売をすることにより発生するものであるが、将来発生すべきクレジットカード利用対価支払請求権についても、加盟店契約による基本的法律関係が特定され、譲渡に係る金額が特定され、発生する期間が特定されていれば、上記債権譲渡の要件である特定性は満たされているというべきである。
そして、将来発生すべき債権の債権譲渡契約において、同契約の締結時において同債権発生の可能性が低かったことは、当該契約の効力を当然には左右するものではないと解される(前掲最高裁判決)のであり、将来の具体的クレジットカード利用対価支払請求権の発生が必ずしも確実なものでなくても、これを譲渡の対象にできるというべきである。
したがって、加盟店契約の特定があり、四〇〇万円に満つるまでと金額が特定され、原決定送達の日の後から平成一三年三月一三日までの間に支払期日の到来する債権として、期間の特定がされている本件差押債権については、譲渡適格が認められるというべきである。
なお、抗告人は、加盟店のクレジットカード会社に対するクレジットカード利用対価支払請求権の法的性質が明確でないことを指摘するが、クレジットカード利用対価支払請求の仕組みは加盟店契約において定められており、加盟店がクレジットカード利用による売上代金額(売上票に表示された金額)を加盟店契約に基づきクレジットカード会社に請求することができることは明らかであり、その法的構成が債権譲渡構成か立替払構成かが明確でないとしても、そのことをもってクレジットカード利用対価支払請求権の特定性、譲渡適格性に欠けるということはできない。
4 次に、将来長期間にわたり発生する債権の差押えを許容することになると、執行手続が長期化することになり、また、発生した債権と差押債権との同一性の判断が困難となる場合が生じ得るし、債権が発生した後に当該債権について有効な差押えがされているか否かの判断を求められる第三債務者に過度な負担を強いることになるなどの問題点があるから、将来発生すべき債権の差押えの可否の判断に当たっては、これらの点も考慮しなければならない。
そこで、これらの点を検討するに、本件差押債権は、加盟店契約により債権発生の基礎となる法律関係が特定されており、これが現に存在するものといえるもので、その金額が四〇〇万円に満つるまでと特定されており、債権発生期間について、原決定送達の日の後から平成一三年三月一三日までと六か月以内に限定されており、近い将来において債権が発生することが確実に見込まれる範囲に限定されているものということができる(現在のクレジットカードの普及状況、利用状況等に照らすと、上記のとおり特定された債権の発生は、特段の事情がない限り、確実に見込まれるものといえる。)から、本件差押債権を差押えの対象としても、第三債務者に過度な負担を強いるものではなく、上記の問題点を回避することができるといえる。
したがって、本件差押債権の差押えは許容されるというべきである。なお、第三債務者は、本件差押債権の弁済の意思がある旨を陳述している。
5 よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官杉山正己 裁判官山﨑まさよ 裁判官沼田寛)
別紙抗告理由書<省略>