東京高等裁判所 平成12年(ラ)2337号 決定 2000年12月05日
抗告人(申立人) X
被抗告人(相手方) Y
主文
1 原審判を取り消す。
2 本件を横浜家庭裁判所に差し戻す。
理由
第1本件抗告の趣旨
抗告人の本件抗告の趣旨は、別紙「即時抗告申立書」及び「即時抗告申立理由書」(各写し)に記載のとおりである。
第2当裁判所の判断
本件は、4年制の大学に進学し、20歳に達した後も、その大学の学業を続けようとする子が、20歳に達するまではその学費・生活費の一部を出捐していたが20歳に達した段階でその出捐を打ち切った父に対し、その学費・生活費について扶養を求めた事案である。
4年制大学への進学率が相当高い割合に達しており、かつ、大学における高等教育を受けたか否かが就職の類型的な差異につながっている現状においては、子が義務教育に続き高等学校、そして引き続いて4年制の大学に進学している場合、20歳に達した後も当該大学の学業を続けるため、その生活時間を優先的に勉学に充てることは必要であり、その結果、その学費・生活費に不足を生ずることがあり得るのはやむを得ないことというべきである。このような不足が現実に生じた場合、当該子が、卒業すべき年齢時まで、その不足する学費・生活費をどのように調達すべきかについては、その不足する額、不足するに至った経緯、受けることができる奨学金(給与金のみならず貸与金を含む。以下に同じ。)の種類、その金額、支給(貸与)の時期、方法等、いわゆるアルバイトによる収入の有無、見込み、その金額等、奨学団体以外からその学費の貸与を受ける可能性の有無、親の資力、親の当該子の4年制大学進学に関する意向その他の当該子の学業継続に関連する諸般の事情を考慮した上で、その調達の方法ひいては親からの扶養の要否を論ずるべきものであって、その子が成人に達し、かつ、健康であることの一事をもって直ちに、その子が要扶養状態にないと断定することは相当でない。
これを本件について見るに、抗告人は、高等学校卒業後、それまで養育されてきた母の許を離れ、母及び父である被抗告人の扶養(被抗告人は毎月4万2000円を出捐)を受けながら4年制の私立大学に進学し、成人した途端、被抗告人がその扶養を止めたが、なおその学業を続けようとしているものであり、本件記録を見ても、抗告人が受けることが可能な奨学金の関係、アルバイトによる収入を得る見込みなどの収入関係、これらによる学費・生活費の全額を賄うことの可否、抗告人の学費・生活費の現実の不足額、母であるA及び父である被抗告人のそれぞれの資力、被抗告人が従前の出捐を打ち切った現実的な原因など、抗告人の学業継続の経済的可能性を判断するための事実関係がほとんど調べられていない。そうすると、原審判は、上記のような諸点を具体的に考慮することなく、成人に達した普通の健康体である抗告人には潜在的稼働能力が備わっていることのみを根拠に抗告人が要扶養状態にないものと速断して本件扶養申立てを却下したことになるから、その取消しを免れない。
第3結論
以上の次第であるから、原審判を取り消し、改めて上記諸点に関し必要な審理、判断をさせるため、本件を横浜家庭裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 雛形要松 裁判官 小林正 萩原秀紀)
即時抗告申立書及び即時抗告申立理由書<省略>