東京高等裁判所 平成12年(ラ)821号 決定 2000年5月17日
抗告人(申立人・債務者) 医療法人社団X
上記代表者理事長 A
上記代理人弁護士 阿部能章
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨は、原決定を取り消し、抗告人に対して再生手続を開始するとの裁判を求めるというものであり、その理由は、抗告人は、所属する医師や職員らに対しその給与を二〇パーセント前後カットする案を提示し、その承諾を求める予定であり、これが実現すれば、抗告人には月額二〇〇〇万円の余剰資金が確保でき、抗告人の収支は黒字となり、また、株式会社三和銀行に対し債権譲渡されたり、社会保険事務所から差し押さえられている抗告人の診療報酬請求権については、平成一二年四月末日までに差押の解除を得るように折衝する予定であり、かつ、抗告人に対しては、経営権の譲渡を求める者が数名存在し、これについても協議中であるので、これらの諸点を考慮すれば、抗告人の再生は十分に可能であるというものである。
二 本件記録によれば、抗告人は、その資金残高が僅少であり、当面の資金繰りにも窮していること、抗告人の主たる収入源である診療報酬請求権は、平成一二年七月末日までに請求が予定される社会保険診療報酬請求権については、大口債権者である株式会社三和銀行に対し債権譲渡がされており、また、平成一二年二月から平成一三年一月までに請求が予定される社会保険診療報酬請求権、平成一二年四月から平成一三年三月までに請求が予定される国民健康保険診療報酬請求権については、いずれも蒲田社会保険事務所により差押えがされていて、抗告人の経営を維持するにはこれらの診療報酬請求権を抗告人の現実の収入として確保する必要があるところ、三和銀行、社会保険事務所ともに差押の解除などに応ずることには消極的であり、抗告人の再生手続を支援する見込みが乏しいこと、また、抗告人は、回収の見込のない多額の不良債権を抱えており、その処理の見通しもないことが認められる。
抗告人は、医師、職員らの給与のカットあるいは三和銀行、社会保険事務所との折衝などにより再生が可能であると主張するが、その主張自体からして、これらの折衝が成功を収めるという具体的可能性に乏しく、上記事実によれば、抗告人の再生の見込みは困難なものというべきであり、再生計画案の作成、再生計画の認可の見込のないことが明らかな場合に当たるものというべきある。
したがって、これと同旨の原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 小田泰機 合田かつ子)