東京高等裁判所 平成12年(行ケ)103号 判決 2000年11月20日
原告
日本機電株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
米津稜威雄
同
長嶋憲一
同
佐貫葉子
同
野口英彦
同
世戸孝司
同
西畠義昭
同
高橋利郎
同弁理士
【B】
同
【C】
被告
特許庁長官【D】
指定代理人
【E】
同
【F】
同
【G】
同
【H】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が平成10年異議第74985号事件について平成11年12月27日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成5年5月11日、名称を「仮囲い板取付金具」とする発明につき特許出願(特願平5-109639号)をし、平成10年4月3日に特許第2764520号として設定登録を受けた。
日本セイフティー株式会社及び近畿パネル株式会社は、平成10年10月5日、本件特許につき特許異議の申立てをし、平成10年異議第74985号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成11年7月28日、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)をした。
特許庁は、上記特許異議の申立てにつき審理した上、平成11年12月27日に「特許第2764520号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は平成12年3月1日原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載
(1) 設定登録時の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載
【請求項1】両端部を内側に折り曲げて側面体(2a)を形成し、支持枠組(20)の横枠(20a)に沿って、互いの側面体(2a)を突き合わせて並べるようにした仮囲い板(2)を、前記横枠(20a)に取り付ける取付金具であって、前記横枠(20a)をまたぐようにした把持体(3)を備えると共にこの把持体(3)の中央部に前記横枠(20a)への固定手段(4)を取り付け、さらに把持体(3)の両端部を鉤状に切り欠いて前記仮囲い板(2)の側面体(2a)との係止部(5)を設けたことを特徴とする仮囲い板取付金具。
【請求項2】前記固定手段(4)を止めボルトとしたことを特徴とする請求項1記載の仮囲い板取付金具。
(2) 本件訂正請求に係る訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の記載
【請求項1】両端部を内側に折り曲げて側面体(2a)を形成し、支持枠組(20)の横枠(20a)に沿って、互いの側面体(2a)を突き合わせて並べるようにした仮囲い板(2)を、前記横枠(20a)に取り付ける取付金具であって、前記横枠(20a)をまたぐようにした把持体(3)を備えると共にこの把持体(3)の中央部に前記横枠(20a)への固定手段(4)を取り付け、さらに把持体(3)の両端部を鉤状に切り欠いて前記仮囲い板(2)の側面体(2a)との係止部(5)を設け、互いに隣合う側面体(2a)の両側に使用していることを特徴とする仮囲い板取付金具。
【請求項2】前記固定手段(4)を止めボルトとしたことを特徴とする請求項1記載の仮囲い板取付金具。
(以下、特許請求の範囲の請求項1記載の発明を「本件発明1」、同請求項2記載の発明を「本件発明2」、本件訂正に係る本件発明1を「訂正発明1」、同本件発明2を「訂正発明2」という。)
3 本件決定の理由
本件決定は、別添決定書写し記載のとおり、①訂正発明1、2は、いずれも、特開昭59-68459号公報(甲第4号証、以下「刊行物1」という。)及び実願平2-128649号(実開平4-84502号)のマイクロフィルム(甲第6号証、以下「刊行物2」という。)記載の各発明並びに周知の技術手段及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、同法120条の4第3項において準用する同法126条4項の規定により、本件訂正請求は認められないとし、②本件発明1、2の要旨を、それぞれ本件明細書の特許請求の範囲の請求項1、2記載のとおりと認定した上、本件発明1、2は、いずれも刊行物1、2記載の各発明並びに周知の技術手段及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)4条1項及び2項の規定により、特許を取り消すとした。
第3原告主張の本件決定取消事由
本件決定の理由中、本件訂正請求の適否の判断における、刊行物1の記載事項をそのまま摘示認定した部分(決定書4頁5行目~5頁19行目)、刊行物2の記載事項の認定(同6頁10行目~8頁3行目)、訂正発明1と刊行物1との相違点①~④の認定(同9頁3行目~10頁4行目)、特許異議申立ての判断における、刊行物1、2の記載事項の認定(同16頁4行目~17行目)は認める。
本件決定は、本件訂正請求の適否についての判断中、訂正発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、また、その相違点についての判断を誤り(取消事由2)、さらに、訂正発明2についても、訂正発明1と同様に進歩性についての判断を誤り(取消事由3)、本件訂正請求は認められないとした結果、本件発明1、2の要旨の認定を誤ったものであるから、本件決定は違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
(1) 「横枠(20a)」と「C形鋼」について
本件決定は、訂正発明1の「横枠(20a)」は刊行物1記載の発明の「C形鋼」に相当すると認定する(決定書8頁6行目~14行目)が、誤りである。
すなわち、訂正発明1における横枠20aは、通常は円形パイプ状で支持枠組み20の一部として配設されるものであり、仮囲い板を支えるためのものであって、その工事の期間だけ一時的に使用される構造物である。これに対し、刊行物1記載の発明におけるC形鋼は、構造物の骨組みとして継続的に使用されることを前提とするもので、訂正発明1の横枠20aと比べて、大きく太い部材が用いられるものであり、このC形鋼に取り付けられる左側及び右側掛止金具はC形鋼に乗っかった状態で使用されるものである。
このような使用目的、使用態様の違いからすると、訂正発明1の横枠20aは、刊行物1記載の発明のC形鋼に相当するものとはいえない。
(2) 「係止部(5)」と「係止の開口部」について
本件決定は、訂正発明1の「係止部(5)」は刊行物1記載の発明の「係止の開口部」に相当すると認定する(決定書8頁6行目~14行目)が、誤りである。
すなわち、刊行物1記載の発明の左側及び右側掛止金具は、開口部11a、11bを備えた板状体12a、12bの両端部を下方に折り曲げて掛止片部13a、13bを形成したものであり、訂正発明1における係止部5のように端部を鉤状に切り欠いたものではない。本件決定は、刊行物1の記載事項の認定を誤り、刊行物1記載の発明の係止の開口部が、訂正発明1の係止部5に相当する旨の誤った認定をしたものである。
(3) 「把持体(3)」と「左側及び右側掛止金具」について
本件決定は、訂正発明1の「把持体(3)」は刊行物1記載の発明の「左側及び右側掛止金具」に相当すると認定する(決定書8頁6行目~14行目)が、誤りである。
すなわち、訂正発明1における把持体3は、横枠20aをまたいで、その両端部で仮囲い板の側面体2aに係止されるものであるから、一つの把持体3が二つの係止部5で側面体2aを固定するものである。そして、この把持体3は、隣り合う側面体の両側に使用されるものであるから、合計4つの係止部5でこの側面体を挟むことになり、仮囲い板がこの金具の位置を中心として回転する方向に力が働いたときであっても、しっかりと側面体を把持することができる。さらに、この把持体は、横枠20aを挟んで仮囲い板の反対側にある固定手段4によってこの横枠に固定されるものであるから、この固定手段を強く締め付ければ締め付けるほど、仮囲い板は、この横枠に締め付けられる構造である。
これに対し、刊行物1記載の発明における「左側及び右側掛止金具」は、C形鋼をまたぐものではなく、その上側のリッブ部9上をまたぐだけのものであり、壁板のジョイント部との係止は、左側及び右側掛止金具の各1か所ずつに設けられた開口部の一端で行われる。このため、この掛止金具は、左右の2点からしか壁板のジョイント部を係止することができないものであり、この金具の位置を中心として回転する方向の力に対してはジョイント部を保持する力が弱いという欠点を有している。
また、この左側及び右側の掛止金具は、重ね合わせた上、締付板16と締付具(ボルト17)を用いてC形鋼の上面に固定されるものであるから、訂正発明1と異なり、どんなに強くこの締付け具(ボルト17)を締め付けたとしても、左右の掛止金具同士をきつく締め付けるだけであり、壁板の締付けを強くするものではない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
(1) 相違点①について
本件決定は、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点①(前者が「支持枠組み(20)」を設け、これに横枠を取り付けたのに対し、後者では支持枠組みが明示されていない点)につき、「これらの塀等を取付ける場合、通常、支柱、支保材等と言われる鋼管等の棒状部材を縦横に配置して板を支えることは、従来、広く行われている周知の技術手段にすぎないから、相違点①についてはそれら周知の技術手段から容易に発明をすることができたものである。」(決定書10頁11行目~17行目)とするが、誤りである。
すなわち、刊行物1記載の発明は、通常の支持枠組とは異なるC形鋼が建築用構造体に強固に固定されていなければ実施できない構造であり、この点は壁板を塀板として塀を建てる場合も同じである。刊行物1記載の発明の構造に、「支柱、支保材等と言われる鋼管等の棒状部材を縦横に配置して板を支える」方法を適用することは不可能である。
(2) 相違点②について
本件決定は、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点②(前者の仮囲い板は「互いの側面体(2a)を突き合わせて並べるようにした仮囲い板(2)」であるが、後者の壁板はジョイント部を突き合わせることなく、離して並べた点)につき、「刊行物1記載の発明1及び刊行物2記載の発明に示された構造からみて、相違点②におけるように構成することは容易に発明をすることができた程度のことである。」(決定書11頁8行目~11行目)とするが、誤りである。
すなわち、刊行物2記載の発明は、差込小径端縁12を受溝大径端縁13に差し込んで、建築用構成板を順次連結するものであり、差込小径端縁12と受溝大径端縁13を組み合わせることによって、それ自体が強く把持されている構成である。そして、差込小径端縁12の内側に取付部材4の頭部10を嵌入させ、その後に、鋼管3を挿通して仮囲い板として組み立てられるものである。このような順序となるのは、頭部10を差込小径端縁12の内側に嵌入するのが容易でないからであり、また、いったん嵌入させた頭部10を取り外すのも困難である。一方、訂正発明1における取付金具は係止部5を側面体2aに引っ掛けた後に固定手段4によって強く保持させるものであるから、横枠20aと仮囲い板2を先に配置させた後に取付作業を行うことができる。このように、刊行物2記載の取付部材4と訂正発明1の把持体3とは、横枠をまたぐ点では共通するが、仮囲い板を保持するための機構が大きく異なり、そのため、取付け作業の順番、取付け及び取外し作業の容易さが大きく異なるものである。
また、刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明とは全く異なる種類のものであり、それらの発明に基づいて相違点②における訂正発明1の構成を採用することは容易に想到し得るものではない。
(3) 相違点③について
本件決定は、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点③(前者は、横枠20aをまたぐようにした把持体3を備えるとともに、この把持体3の中央部に横枠20aへの固定手段4を取り付け、さらに把持体3の両端部に係止部5を設けた取付金具であるが、後者はこれらの構成を備えていない点)につき、「本件訂正明細書の請求項1に係る発明の『横枠(20a)』、『把持体(3)』、横枠(20a)への『固定手段(4)』は、それぞれ刊行物2記載の発明における鋼管3、(U字の対向片部8、9を備えた)取付部材4、締結部材5に相当するものと認められ、刊行物1記載の発明1における掛止金具の具体的構成として、刊行物2記載の発明における取付部材を採用するようなことは、刊行物1記載の発明1及び刊行物2記載の発明は、いずれもこの種の壁板の取付について同一の技術分野に属するものであることを考慮すると、格別の困難性を伴うことなく、容易に発明をすることができたものである。」(決定書11頁12行目~12頁5行目)とするが、誤りである。
すなわち、刊行物1の第4、第5図によれば、刊行物1記載の発明において、締付板16は、掛止金具10a、10bの下側、C形鋼8の内側に配置されて、C形鋼8の内側からC形鋼の両リッブ部9を掛止金具10とで挟み込む役割を果たすものである。このように締付板16は、上方が開放し、かつ、両リッブ部9を有するC形鋼にのみ用いられる特殊な部材であって、これを通常の円形パイプ(横枠20a)などに用いることは不可能である。また、ボルト17はC形鋼8の外側に配置されるものではなく、上記第4、第5図に示されるようにC形鋼8の内側に入り込む態様で用いられるものであるから、このボルト17による締付けの構成も通常の円形パイプ(横枠20a)に用いることはできず、上方が開放しているC形鋼にのみ用いられる構成である。さらに、刊行物1記載の発明は、継続的に使用される構造物に用いられるC形鋼への取付金具であるのに対し、刊行物2記載の発明は、一時的な仮囲い板の取付金具である点で、両者はその用途が大きく異なっている。よって、これらを組み合わせて相違点③における訂正発明1の構成を採用することは容易ではない。
また、刊行物2記載の発明における取付部材4は、1個単位で、その頭部を建築用構成板の差込小径端縁に嵌入させて取り付けるようにしたものであって、訂正発明1における把持体3のように二つ1組として側面体2aの両側に使用するようにしたものではない。さらに、刊行物2記載の発明は、まず取付部材4を建築用構成板の差込小径端縁12に固定してから、鋼管3を挿通させるようにしたものであり、訂正発明1のように、あらかじめ配設された横枠20aに把持体3を取り付けるようにした構成とは明らかに異なる。
以上のとおり、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることで容易に訂正発明1を想到することができたとする本件決定の判断は誤りである。
(4) 相違点④について
本件決定は、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点④(前者は、その取付金具を「互いに隣合う側面体(2a)の両側に使用している」のに対し、後者では、左側及び右側掛止金具を「ジョイント部の両側に使用している」点)につき、「刊行物1には、左側掛止金具10aと右側掛止金具10bとにより、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の『側面体(2a)』に相当する、ジョイント部3a、3bの両側に使用することが記載されており、さらに、技術常識からして、仮囲い板(2)の側面体(2a)の一方だけに取付金具を使用すると、使用されない仮囲い板(2)は外れて危険な状態になるので、両側に使用することは、安全面等から見て、極めて当然な構成を記載したにすぎない。従って、相違点④も、刊行物1記載の発明1及び上記技術常識から容易に発明をすることができた程度のことである。」(決定書12頁6行目~18行目)とするが、誤りである。
すなわち、訂正発明1の取付金具は、2枚の仮囲い板の側面体2aが重なった部分を左右の両側から把持するから合計4つの係止部5でこの側面体を挟むものであって、仮囲い板がこの金具の位置を中心として回転する方向に力が働いたときであっても、しっかりと側面体を把持できるものである。このような構成の相違及び後述する格別の作用効果からすると、訂正発明1は刊行物1及び技術常識から容易に発明をすることができた程度のものではない。
(5) 格別の作用効果について
本件決定は、「全体として、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の効果も、刊行物1記載の発明1及び刊行物2記載の発明、及び上記周知の技術手段、並びに上記技術常識から当業者であれば当然に予測することができる程度のものであって、格別のものとは認められない。」(決定書12頁末行~13頁5行目)とするが、誤りである。
本件発明における取付金具は、二つで1組の把持体3と固定手段4という少数の部品で構成され、しかも、形状がシンプルで、左右の把持体3が同一形状であることから、当業者が予測することのできない格別の効果を奏するものである。すなわち、刊行物1記載の取付金具は、その構造からして組立て作業も複雑であるため取り外しの作業が容易でなく、2点で壁板を保持するものであるので保持力が低い欠点がある上、C形鋼は特殊な形状であり建築用構造体へ強固に固定する必要もあるため用途が限定され、しかも、掛止金具は、端部を折り曲げた複雑な形状で、左側と右側で異なる形状であるから製造や保管も容易でない。これに対し、訂正発明1における取付金具は、仮囲い板2を支持枠組みにしっかりと取り付けることができ、取付け、取り外しの作業も容易かつ迅速に行うことができる。また、訂正発明1における把持体3は、1体であっても固定手段4を用いて仮囲い板を保持することができるため、隣り合う板がない両端の仮囲い板には単独で使用することができる。さらに、左右の把持体3が同一形状で、その向きを変えることで側面体2aの左右を係止することができるため、作業効率がよく、在庫管理も容易となる。
なお、被告は、上記のような効果は本件明細書や本件訂正明細書に何ら記載されていないと主張するが、本件明細書の【解決しようとする課題】欄の「(フックボルトを用いた従来の仮囲い板が)取付作業に手間がかかるという課題を有していた」との記載、【発明の効果】欄の「(この発明の仮囲い板取付金具は、支持枠組20に安定した状態で容易に取り付けることができるので、)仮囲い板の取付作業に手間がかかるというようなことはない。」との記載から明らかなように、同一形状の把持体を「互いに隣合う側面体(2a)の両側に使用している」構成によって奏することのできる作業効率の低下防止の効果については、本件明細書に記載されている。それ以外の効果の逐一については、本件明細書に記載されていないが、すべて本件発明に係る取付金具の形状から生み出される効果であり、当業者にとってみれば、図面の記載から容易に把握できるはずである。
次に、刊行物2記載の発明の取付金具は、両端辺に差込小径端縁12と受溝大径端縁13を形成した建築用構成板に使用するものであり、取付部材4の係止の仕方も訂正発明1と全く異なるものである。よって、刊行物2記載の発明は、訂正発明1の進歩性の判断において参考にならないものである。
3 取消事由3(訂正発明2の進歩性の判断の誤り)
訂正発明2に関しても、訂正発明1に関する上記1、2と同様、刊行物1、2記載の各発明とは全く異なる種類のものであり、本件決定は訂正発明2の進歩性についての判断を誤ったものである。
第4被告の反論
本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 「横枠20a」と「C形鋼」について
刊行物1には、「この発明を建物の壁板取付の場合について説明したが、上記壁板1を塀板として塀を建てる場合にも本発明は適用できる」(3頁右上欄15行目~17行目)との記載があるところ、塀を建てる場合においては、C形鋼は建築用構造体に固定されたものに限られない。また、円形パイプ状の横枠もC形鋼も、建築、土木用の資材として通常よく使用されるものあり、それらは仮囲い板、壁板、塀の取付金具を固定するという作用、機能で一致するから、本件決定が、横枠20aはC形鋼に相当すると認定したことに誤りはない。
(2) 「係止部5」と「係止の開口部」について
刊行物1記載の発明の左側及び右側掛止金具の開口部11a、11bは切り欠きであり、掛止片部13a、13bにより鉤状に切り欠いた構成を備えており、これらにより壁板を固定できることは明りょうである。したがって、掛止片部が折り曲げてあっても、訂正発明1と同じように「端部を鉤状に切り欠いた構成」を備えているというべきであり、刊行物1記載の発明の係止の開口部が訂正発明1の係止部5に相当するとの本件決定の認定に誤りはない。
(3) 「把持体3」と「左側及び右側掛止金具」について
訂正発明1の把持体3も、刊行物1記載の発明における左側及び右側掛止金具も、ともに仮囲い板2(刊行物1記載の発明における壁板に相当)と横枠20a(同じくC形鋼に相当)とを固定する金具であるという意味において、これらは一致するものである。
なお、原告の主張は、本件決定において、相違点③として認定し検討を行っている構成の違いをいうものである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 相違点①について
刊行物1記載の発明において塀板を建てる場合、C形鋼を何らかの形で支持する必要があるところ、通常、この種の塀、仕切り、仮囲い板等を取り付けて支持するのに、支柱とか支保材等といわれる支持枠組としての棒状部材等を配置して行うことは、乙第1号証及び乙第2号証等において示すように、広く行われている周知の技術手段である。したがって、刊行物1記載のC形鋼を支持する部材として、上記周知手段である支持枠組を設けるようなことは、当業者であれば格別の困難性を伴うことなく容易になし得る程度のことである。
(2) 相違点②について
刊行物1記載の発明においては、隣り合う壁板の折曲片部4a、4bの個所が互いに突き合わされてはいないが、ジョイント部3a、3bを構成している折返片部5a、5bや背板片部6a、6bの部分で、互いに突き合わせて並べるようにした点が開示されている。さらに、刊行物2記載の発明において、仮設塀等に使用可能な建築用構成板が互いに重ね合わせて接触した状態で並べるようにした点が開示されている。
また、訂正発明1は、「仮囲い板取付金具」をその内容とするものであり、「互いの側面体2aを突き合わせて並べるように」するか、離して並べるかの相違は、「仮囲い板取付金具」の構成そのものに、直接的な強い関連性はない。
よって、刊行物1記載の発明の壁板のジョイント部において離れて位置している折曲片部4a、4bを、訂正発明1の側面体2aのように、互いに突き合わせて並べるように構成するようなことは、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明に示されたものからして、当業者が容易になし得た程度のことである。
(3) 相違点③について
刊行物1記載の発明の掛止金具が備えていない相違点③に係る構成は、刊行物2に開示されている。そして、刊行物1及び2に記載された発明は、いずれもこの種の壁板、塀板等の取付けにおいて同一の技術分野に属するものであり、しかも、刊行物2記載の発明を刊行物1記載の発明に適用するのに際し、その組合せ又は置換を阻害する要因も特にないから、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明におけるような構成を採用することは、格別の困難性を伴うことなく当業者が容易にすることができたものである。
(4) 相違点④について
原告は、合計4つの係止部5で側面体を挟むことができ、より確実に仮囲い板を係止することができ、仮囲い板2が回転する方向に力が働いたときであっても、しっかりと側面体2aを把持できる旨主張するが、これらは金具を数多く用いることによって生ずる当然の効果にすぎない。そして、しっかりと側面体を把持できるように取付金具の数を増やすことは、容易に適用できたことにすぎない。
(5) 格別の作用効果について
原告が種々主張している訂正発明1の効果は、本件明細書にも本件訂正明細書にも何ら記載されていない事項である。また、原告の主張は、訂正発明1である取付金具と、取付金具を仮囲い板に取り付ける方法とを混乱している。
また、刊行物2記載の発明における取付構造も取付部材4と締結部材5から構成されているから、原告主張のような効果は当然に予測することができる程度のことである。さらに、刊行物1、2記載の発明の取付金具は1個の金具で左右2枚の板を1回の取付作業で取り付けることができるのに対して、本件訂正明細書に記載された取付方法においては2個の取付金具と2回の取付作業が必要になるという短所があり、結局、訂正発明1と刊行物1、2記載の各発明とでは、その金具とその取付方法にそれぞれ長所短所があり、本件訂正明細書記載の効果だけが他に比べて格別顕著なものではない。
3 取消事由3(訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について
訂正発明2の進歩性の判断の誤りをいう点に対する反論は、訂正発明1について上記1、2で述べたところと同一である。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 「横枠(20a)」と「C形鋼」について
原告は、刊行物1記載の発明の横枠20aが円形パイプ状であること、訂正発明1におけるC形鋼が構造物の骨組みとして継続的に使用されるものであることを前提に、両者の相違について主張するが、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には、横枠20aが円形パイプ状であるとは記載されておらず、そのような限定を導くべき根拠もない。そして、横枠20aの大きさや太さについても限定されていないから、横枠20aを円形パイプ状に限定することを前提とする原告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、採用することはできない。
また、刊行物1(甲第4号証)には、「以上はこの発明を建物の壁板取付の場合について説明したが、上記壁板1を塀板として塀を建てる場合にも本発明は適用できるものであり、・・・塀を立設できるのである。」(3頁右上欄15行目~20行目)との記載があるから、C形鋼を構造物の骨組みに限定して、訂正発明1の横枠よりも太い部材であるとか使用目的が異なるという原告の主張も採用することはできない。
刊行物1記載の発明の左側及び右側掛止金具がC形鋼に載置された状態で使用されるものであるとしても、C形鋼は掛止金具を通じて壁板を支持する役割を果たすものであるから、その意味において訂正発明1の横枠20aが刊行物1記載の発明のC形鋼に相当するとした本件決定の認定に誤りはない。
(2) 「係止部(5)」と「係止の開口部」について
原告は、刊行物1記載の発明の掛止金具は開口部を備えた板状体の両端部を下方に折り曲げて掛止片部を形成したものであり、端部を鉤状に切り欠いたものではない旨主張する。しかし、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には、係止部5について、「把持体(3)の両端部を鉤状に切り欠いて前記仮囲い板(2)の側面体(2a)との係止部(5)を設け、」としか記載されておらず、また、係止部5が係合する相手である側面体2aについての記載に照らしても、鉤状の切り欠きの形状やその先の端部の形状については限定がないというべきである。したがって、刊行物1記載の発明の掛止金具の先端が折れ曲がっていることや係止の開口部がどのような形状であるかということは、これと訂正発明1の係止部5とを比較する上で問題とならないことである。
かえって、刊行物1(甲第4号証)の「隣合う壁板の嵌合状態にあるジョイント部3に、両(右側および左側)掛止金具10a、10bの各開口部11a、11bを左右から係合させ、掛止片部13a、13bを各折返片部5a、5bの屋外側面に係合させる。」(2頁左下欄19行~右上欄4行)との記載と第1~5図の図示によれば、刊行物1記載の発明においては、1つの壁板のジョイント部3aと隣り合う他の壁板のジョイント部3bとによってジョイント部3が形成され、掛止金具の係止の開口部11a、11bがそのジョイント部3の両側と係合することが認められるところであり、ここでいう「係止の開口部」が、その構成及び機能から、訂正発明1における「係止部5」に相当することは明らかというべきである。
(3) 「把持体(3)」と「左側及び右側掛止金具」について
原告は、刊行物1記載の発明の左側及び右側掛止金具はC形鋼をまたぐものではないとして、掛止金具をC形鋼に支持固定する態様の相違について主張する。しかし、その点は、本件決定が相違点③として認定し、検討しているところであるから、原告の主張は本件決定を正解していないものであって、一致点の認定の誤りをいう主張としては失当である。
そして、上記(1)、(2)で検討したとおり、訂正発明1における「横枠20a」及び「係止部5」は、それぞれ刊行物1記載の発明における「C形鋼」及び「係止の開口部」に相当すると認められるから、そのような支持体(横枠、C形鋼)に固定される構造を備え、かつ、壁板ないし塀板を支持固定するためにこれと係合する構造(係止部、係止の開口部)を有するという技術的意味において、訂正発明1の把持体5が刊行物1記載発明の掛止金具に相当するとした本件決定の認定に誤りはないというべきである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 相違点①について
原告は、刊行物1記載の発明は通常の支持枠組みとは異なるC形鋼が建築用構造体に強固に固定されていることを前提として、支柱、支保材等の棒状部材を配置して板を支えるという周知技術を刊行物1記載の発明に適用することはできない旨主張する。
しかし、刊行物1記載の発明が塀を建てる場合にも適用できるものであり、C形鋼が建築用構造体に固定されている必要があるとの前提自体、これを採用することができないことは前示のとおりであって、建築用構造体以外の構造によってC形鋼を支持することも、当然想定し得るものである。そして、その場合にC形鋼を支持する構造について見るに、昭和52年朝倉書店発行の「改訂新版建築施工ハンドブック」(乙第1号証)245頁~246頁の記載によれば、仮囲いの塀を設置するにつき、縦の鋼管と横の鋼管の骨組み(支持枠組)に鋼板等を取り付けることが周知の技術となっていることが認められ、刊行物1記載の発明において、壁板を塀とする場合にC形鋼をそのような周知の骨組み(支持枠組)に支持固定することは当業者であれば容易になし得ることというべきである。
したがって、相違点①についての本件決定の判断に誤りはない。
(2) 相違点②について
原告は、刊行物2記載の発明と訂正発明1とでは、仮囲い板を保持するための機構が大きく異なり、しかも、刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明は全く異なる種類の発明であるから、それらの発明に基づいて、相違点②に係る訂正発明1の有する構成(仮囲い板の互いの側面体を突き合わせて並べるようにした構成)を容易に想到し得るものではない旨主張する。
しかし、まず、刊行物2記載の発明と訂正発明1の仮囲い板を保持するための機構の相違をいう点に関しては、前示のとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載において、仮囲い板及びその側面体の構造に関しては、仮囲い板の両端部を内側に折り曲げて側面体を形成していること、その仮囲い板は、支持枠組みの横枠に沿って、互いの側面体を突き合わせて並べるようにしていることしか記載はなく、当該側面体が取付金具の係止部によって係止される機能を果たすという以外に、具体的な形状及び構造を規定しているものとは認められない。そうすると、訂正発明1の仮囲い板の構成は、両端部を内側に折り曲げた部分が接触して個々の板がつながって仮囲いとしての区画面をなすことを規定しているにとどまるものと認められる。
他方、刊行物2(甲第6号証)の「建築用構成板1は、略矩形平板状で両端辺に、互いに弾性差込接続可能な、差込小径端縁(小径空胴部)12と受溝大径端縁(大径空洞部)13とを形成し、この受溝大径端縁13が、隣接する同一構成の建築用構成板1aの差込小径端縁12aを受け入れ、一方建築用構成板1の差込小径端縁12がもう1つの隣接する同一構成の建築用構成板1bの受溝大径端縁13bに差し込まれて、順次建築用構成板1、1a、1b・・・が連結される。」(明細書5頁6行目~15行目)との記載及び第1~第6図の図示によれば、刊行物2には、隣り合う建築用構成板(訂正発明1の仮囲い板に相当する。)が重ね合わせて接触した状態で並べ連続した区画面を形成する構造が開示されているものと認められる。したがって、相違点②に係る構成に関して、訂正発明1と刊行物2記載の発明とが原告の主張するような相違があるとはいえず、仮囲い板(建築用構成板)の構成において、両者は共通する構造を有するということができる。そして、刊行物1、2記載の各発明が同一の技術分野に属するものであることを考えると、刊行物2に開示されたこのような構造を刊行物1記載の発明に適用して、隣り合う壁板(塀板)の折曲片部を突き合わせるよう変形する程度のことに格別の技術的な困難性があるとは認められない。
よって、本件決定の相違点②についての判断に誤りはない。
(3) 相違点③について
原告は、まず、刊行物1記載の発明の掛止金具の構造は、C形鋼にのみ用いられる特殊な構成であって、用途も異なるから、刊行物2記載の発明を刊行物1に組み合わせることは容易ではない旨主張する。
確かに、刊行物1記載の発明の掛止金具は、C形鋼の上方開口面上に載置され、リッブ部を掛止金具と締付板16とで挟み込むことによってこれを固定するという構成となっており、これをそのまま円形パイプ等に適用できるものではない。しかし、本件決定は、このような刊行物1記載の発明の構成と刊行物2記載の発明の棒状支持部材との組合せをいうものではなく、上記のような刊行物1記載の発明の掛止金具の構成に代えて、刊行物2記載の発明における取付部材の構成を採用することの容易性を指摘しているものであるから、原告の主張するような刊行物1記載の発明の掛止金具の構造(掛止金具とC形鋼とを支持固定させる構造)の特殊性は、本件決定の指摘する刊行物2記載の発明との組合せを阻害する要因となるものではない。また、用途の相違をいう点については、刊行物1記載の発明におけるC形鋼が継続的に使用される構造物にのみ用いられることを前提とする主張であるが、その前提自体、採用することができないことは前示のとおりである。
次に、原告は、刊行物2記載の発明における取付部材4の構成は、訂正発明1における把持体の構成とは異なる旨主張する。しかし、刊行物2(甲第6号証)の実用新案登録請求の範囲の「建築用構成板を建築用基材に取り付けるための取付構造であって、上記建築用基材としての棒状支持部材と、略U字状で、上記支持部材を跨ぐことができ、底辺に螺孔を形成し、1対の対向片の両先端に上記差込小径端縁に嵌入可能な頭部を有する取付部材と、上記螺孔に螺合され、上記支持部材の胴面を押圧する締結部材とからなる建築用構成板の取付構造」(明細書1頁7行目~14行目)との記載と第1~第6図の図示によれば、刊行物2記載の発明の取付部材は、その1対の対向片の先端部分で建築用構成板(の差込小径端縁)と係合し、他方、螺孔と締結部材は棒状支持部材をまたぐU字状の底部分にあるから、それぞれの部分的な係合構造に直接的な関連はない。そして、刊行物1には、左右の掛止金具の係止の開口部を隣り合う壁板(塀板)のそれぞれのジョイント部3a、3bが嵌合して形成されるジョイント部3の両側に使用する取付態様が記載されているのであるから、刊行物1記載の発明におけるこのような壁板と掛止金具とを係合させる構造は維持しつつ、掛止金具と支持部材とを固定する構造部分に関して、刊行物2記載の発明のU字構造と締結部材に関する構成を採用することに格別の困難性があるとは認められない。そうすると、上記のような刊行物1、2記載の各発明の組合せによって得られる取付金具を二つで1組としてジョイント部3の両側に使用する取付態様とすることは当業者が自然に考えることというべきであり、この点に関する本件決定の認定判断に誤りはない。
(4) 相違点④について
原告は、相違点④に係る刊行物1記載の発明と訂正発明1との構成の相違及び格別の作用効果からすると、訂正発明1は刊行物1及び技術常識から容易に発明をすることができた程度のものではないと主張する。
しかし、刊行物1には、左右の掛止金具の係止の開口部を隣り合う壁板(塀板)のそれぞれのジョイント部3a、3bが嵌合して形成されるジョイント部3の両側に使用する取付態様が記載されていること、このような構成と刊行物2記載の発明の取付部材におけるU字構造と締結部材に関する構成を組み合わせることが容易であることは上記(3)のとおりであるから、この組合せによって得られる取付金具を二つで1組としてジョイント部3の両側に使用する取付態様とすることは当業者が自然に考えることというべきである。
なお、格別の作用効果をいう点については、下記(5)において検討する。
(5) 格別の作用効果について
原告は、訂正発明1における取付金具が二つで1組の把持体3と固定手段4という少数の部品で構成され、形状がシンプルで、左右の把持体3が同一形状であることから、当業者が予測することのできない格別の効果を奏する旨主張する。
しかし、訂正発明1の奏する格別な作用効果の根拠として原告の主張する取付金具の形状に関しては、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1において、「横枠(20a)をまたぐようにした把持体(3)を備えると共にこの把持体(3)の中央部に前記横枠(20a)への固定手段(4)を取り付け、さらに把持体(3)の両端部を鉤状に切り欠いて前記仮囲い板(2)の側面体(2a)との係止部(5)を設け」としか規定されておらず、左右の把持体3が同一形状であることまで具体的に規定するものではないから、この点を前提として在庫管理の容易性等の訂正発明1の効果をいう原告の主張は理由がない。
また、原告は、本件訂正明細書には、「仮囲い板の取付作業に手間がかかるというようなことはない。」との記載があり、この記載から原告主張の種々の効果は容易に把握することができると主張するが、本件訂正明細書に従来技術として記載されているフックボルトを用いた従来の仮囲い板と比較して作業効率が向上するという限度では、明細書の記載から読みとることはできると解されるものの、このような効果は、訂正発明1に係る取付金具の構成から生み出される効果であるから、前示のように刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明との組合せによって訂正発明1の構成を得ることに格別の困難性が認められない以上、当業者であれば、そのような組合せに係る構成自体から当然に予測できる程度の効果にすぎないというべきであって、これを格別の効果であるとする原告の主張は採用することができない。
以上のほか、原告は、訂正発明1は仮囲い板の保持力が優れていること、把持体3は両端の仮囲い板には単独で使用することができること等の効果についても主張するが、これらは本件訂正明細書に記載されていないものであって、失当というべきである。
3 取消事由3(訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について
訂正発明2は訂正発明1の構成を含む発明であるところ、訂正発明2において付加されている要件(固定手段4が止めボルトであること)が、上記1、2の認定判断を何ら左右するものでないことは明らかであり、この点についての原告の主張も、上記1、2で既に検討した訂正発明1に係る主張と同趣旨の内容を訂正発明2についていうものにすぎないから、これを採用することができないことは上記の認定判断で示したとおりである。
4 以上のとおり、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)