東京高等裁判所 平成12年(行ケ)133号 判決 2000年10月05日
原告
東京カリント株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
高橋隆二
同弁理士
【B】
被告
特許庁長官【C】
指定代理人
【D】
同
【E】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成10年審判第18882号事件について平成12年3月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、指定商品を商標法施行令別表第30類の「蜂蜜入りかりんとう」として、別紙審決書の写しの「本願商標」欄のとおりの商標(以下「本願商標」という。)について、平成8年10月17日に商標登録出願(平成8年商標登録願第117349号)をしたところ、平成10年10月19日に拒絶査定を受けたので、平成10年11月30日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成10年審判第18882号事件として審理した結果、平成12年3月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同月27日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
別紙審決書の写しのとおり、本願商標は、①商標法3条1項3号に該当し、②同条2項の規定に該当するとも認められないから、登録することができないと認定判断した。
第3原告主張の審決取消事由の要点
審決は、本願商標が、商標法3条2項に該当することを看過し(取消事由1)、審理不尽、理由不備の誤りをも犯したものであって(取消事由2)、これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(商標法3条2項該当性に関する認定判断の誤り)
(1) 原告は、昭和33年ころから今日に至るまで、はちみつを用いる独自の製法によるかりんとうを、「はちみつかりんと」又は「はちみつかりんとう」の称呼を生じる商標(以下、これらをまとめて「はちみつかりんと商標」という。)を付して製造・販売してきた。これらの商標のうち、昭和38年以降使用されたものは、別紙第1ないし第11目録記載のとおりであり(以下、別紙第1目録記載の商標を「第1商標」といい、他についてもこれにならう。)、各商標の使用時期は、次のとおりである。
第1商標 昭和38年~現在
第2、第3商標 昭和51~52年ころ
第4、第5商標 昭和53~56年ころ
第6商標 昭和57年ころ
第7商標 昭和58年ころ
第8商標 昭和59~60年ころ
第9商標 昭和61~平成4年ころ
第10商標 平成元年ころ
第11商標(本願商標の構成と同じである) 平成4年~現在
原告によるこのような製造・販売の結果、はちみつかりんと商標は、昭和47年ころには出所表示機能を獲得するに至っていた。すなわち、これらの商標を付した原告のかりんとうは、昭和47年ころには、既に他を圧倒してトップブランドの地位を確立し、かりんとう市場において確固たる地位を占めていて、「蜂蜜かりんとう」の名称を使用する者は原告のみであった。このことは、「蜂蜜かりんとう」といえばトップブランドの地位を確立した原告の出所を示すものであることが、業界において認知されたからにほかならない。これは、1990年代においても変わりはない。
原告は、はちみつかりんと商標について、継続してラジオによる広告宣伝をしており、今日に至るまで、企業努力によって、トップブランドの地位を維持している。
(2) かりんとうの販売は、小売店でのものが中心であり、需要者は、販売店舗において、販売棚に配置されている多数の商品の包装袋を見て判断し、商品を選択している。原告の商品の包装袋の表面には「蜂蜜かりんとう」の名称が上部中央に大きく記載され、原告の名称は裏面の下部に小さく記載されているのみである。需要者は、「蜂蜜かりんと」の名称を見て、すなわち、本願商標を含むはちみつかりんと商標を見て選択しているのである。
(3) かりんとうの商品の種類は、「白かりんとう」と「黒かりんとう」があるのみで、「蜂蜜かりんとう」は、かりんとうの商品の種類ではない。
このような状況により、原告が使用してきた商標に共通する称呼である「はちみつかりんとう」が原告の業務に係る商品のかりんとうを示すことは、需要者に広く認識されているのである。
(4) 被告は、現在、他の競業者が、「蜂蜜かりんとう」や「蜂蜜入り」の文字を、商品の品質を表示するものとして普通に使用している事実があると主張する。しかし、それらの商品は、単に風味原料たる「蜂蜜」が含有されていることが記述的に記載されているものであり、しかも、それらの商品のかりんとう市場における販売量は、本願商標の出所識別力を否定するほどの程度ではない。
2 取消事由2(審理不尽、理由不備)
(1) 商標法3条2項に該当する事実については、出願人である原告が立証責任を負っている。そのため、原告は、審判手続において、書証を提出するとともに、原告代表者本人尋問の申出を行った。原告代表者本人尋問は、本願商標の使用状況や書証の成立時期、証明力を判断するために重要な証拠方法であるのに、審決は、これを採用せずになされたものであって、審理不尽の違法がある。
(2) 審決は、審決の甲第1ないし第68号証について、理由を全く示さずに本願商標の文字の他に自他商品の識別標識としての機能を果たしうる部分を有するものがほとんどであると認定した点で、理由不備の違法がある。
第4被告の反論の要点
1 取消事由1(商標法3条2項該当性に関する認定判断の誤り)について
(1) 商標法3条2項は、登録出願された商標の使用を前提として登録が認められる規定であるから、本願商標を、使用により自他商品の識別機能を獲得するに至ったものであるとして、商標法3条2項にいう「商標登録を受けることができる」商標と認めるための根拠になるのは、本願商標と同一の態様で使用された商標に限られるものと解すべきである。
原告の提出に係る証拠の多くは、本願商標とは異なる態様の文字であったり、ラジオ放送による宣伝であったり、製品の名称として印刷されたにすぎないものであったりであって、本願商標の使用事実を立証するものではない。
(2) 本願商標と同一の態様の文字が使用されているかりんとうの袋には、原告が商標権者である登録第4194087号商標(蜂をデザインした図形である。)、「東京カリント」の文字、並びに「くろはち」及び「黒蜂」、「しろはち」及び「白蜂」、「ピーカリ」のいずれかの文字が併用されている。この袋に入った蜂蜜入りかりんとうに接する取引者・需要者は、「蜂蜜かりんとう」の文字ではなく、蜂をデザインした図形、「東京カリント」の文字、並びに「くろはち」及び「黒蜂」、「しろはち」及び「白蜂」、「ピーカリ」等の文字により出所を識別しているとみるのが自然である。
(3) 現在、他の競業者が、「蜂蜜かりんとう」や「蜂蜜入り」の文字を、商品であるかりんとうの品質を表示するものとして普通に使用している事実がある。菓子業界の中の油菓子業界の、さらにその中のかりんとう業界という限られた業界の中での同業者が、原告が使用している文字と同一又は類似の「蜂蜜」及び「かりんとう」、「はちみつかりんとう」等の文字を、原告が長年使用し続けたと主張する現在においても使用しているということは、その文字が、原告の業務に係る商品を示す表示として広く認識されるようになってはいないことを示すものである。
2 取消事由2(審理不尽、理由不備)について
審判において申し出られた原告代表者本人の尋問事項は、本願商標と態様の異なる「蜂蜜カリント」の文字の使用に係るものであり、また、原告が審判において提出した書証の中に、本願商標を使用したことを証明する客観的証拠が一つとしてなかったため、本願商標の使用事実が原告代表者本人尋問によって証明される可能性はないと判断し、この尋問を採用しなかったのである。
審判において原告が提出した証拠の中には、本願商標と同一の態様による文字のみによる使用の事実は見当たらず、本願商標と同一の態様の文字を有する表示があるものについても、他に自他商品の識別標識としての機能を果たしうる文字や図形を併用するものであったから、その旨認定したのである。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条2項該当性に関する認定判断の誤り)について
(1) 昭和47年ころにおける本願商標の出所表示機能について
原告は、本願商標が昭和47年ころには出所表示機能を獲得していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
もっとも、甲第3、第4号証の各1、2、第35ないし第37号証、第50号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和33年ころから「品名」を「『蜂蜜カリント』(黒蜂)」等とする商品を販売し、昭和38年ころからは、その包装袋の表面に、別紙第1目録記載の標章(以下「第1標章」といい、その他の目録記載の標章を、これに準じてその目録の番号を付して呼ぶ。)ないし第1標章の下部の5角形部分を変形させた標章、及び「東京カリント株式会社」という文字を付していたこと、東京都所在の文化放送のラジオ番組の中で、昭和33年ころから、週3日ないし5日程度、一回当たり15秒ないし30秒の形式等で「蜂蜜カリント」を宣伝していたこと、昭和50年ころ、「菓子食品新報」の調査(ただし、誰に対して、何を調査したのかは明らかでない。)で、原告の「蜂蜜カリント」はかりんとうの分野で首位であったとされていることが認められる。しかし、上記事実をもって、昭和47年ころ、需要者が、「はちみつかりんとう」という名称を原告の業務に係るものであると認識していたと認めるに足りるものとすることはできない。
すなわち、第1標章は、擬人化された蜂の図形を含む特色のあるものであって、「蜂蜜かりんとう」という文字を普通に用いられる方法で表示した標章のみからなるものではないうえ、その包装袋には原告の名称も同時に表示されているものであって、「蜂蜜かりんとう」という名称によって需要者がその出所を識別していたとは認められず、また、かりんとうは、日本全国の一般大衆が需要者となるものであって、東京における前記の程度のラジオ放送によって、需要者一般が、「蜂蜜かりんとう」という名称を原告に結び付けて出所を認識するようになるとは考えられず、さらに、「菓子食品新報」の調査は、需要者が「蜂蜜かりんとう」という名称によって出所を認識していたか否かを調査したり、あるいはこれを反映したりしているものとは認め難いからである(ちなみに、上記「菓子食品新報」には、「調査の対象となった専業小売店」(上段)、「かりん糖 スーパー同順位」(中央見出し)、「スーパーと同じく専業小売店の場合も」(3段目)との記述があり、需要者を対象とした調査ではないことがうかがわれる。)。
(2) 審決時における本願商標の出所表示機能について
ア 甲第3ないし第6、第8、第11ないし第15号証の各1、2、第58ないし第63号証、第73号証、検甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和47年以降も、第1標章を使用した商品を販売していたほか、これとは別に、その製造・販売するかりんとうの包装袋に、昭和51年ころ第2標章を含む標章及び第3標章を含む標章を、昭和53年ころ第5標章を、昭和58年ころ第7標章を、昭和59年ころ第8標章を、昭和61年ころ第9標章を、平成4年以後現在まで第11標章(本願商標と同一の構成である。)を含む標章を使用したこと、原告の「蜂蜜かりんとう」と称する商品は、平成4年ころには、販売額11億円で市場占有率は5.9%(ただし、原告ブランドのものは6億6000万円程度で、その余はいわゆるプライベートブランドである。)、平成10年には販売額11億1500万円で市場占有率は6.1%であったことが認められる。
また、甲第37号証ないし第41号証、第68号証によれば、原告は、昭和47年以降も、ラジオ、テレビによる「蜂蜜かりんとう」のCM(宣伝)をしてきており、その程度は、例えば、平成9年には、一年間で、一回20秒前後の放送を、札幌テレビで400回以下、東京放送、ニッポン放送、文化放送というラジオで合計400回強したというものであり、他の年も、これと同程度ないしこれ以下という程度であったことが認められる。
イ 原告が、上記認定のとおり「はちみつかりんと」ないし「はちみつかりんとう」の称呼を生ずる標章を長年にわたり使用し、その商品がある程度販売されていたとしても、そのことから直ちに、需要者が「はちみつかんりとう」の名称について、原告の業務に係る商品であることを認識するに至っているものと認めることはできない。なぜなら、「はちみつかりんとう」という名称は、蜂蜜入りのかりんとうの名称としてごく自然なものであるから、需要者が、「はちみつかりんとう」という言葉を知っているとしても、それを「白かりんとう」、「黒かりんとう」、「ピーナツかりんとう」等の名称と同様に、かりんとうの品質に関する普通名詞であると認識しているにすぎないということも十分あり得るからである。換言すれば、原告が「はちみつかりんとう」を販売していると認識することと、「はちみつかりんとう」といえば原告の業務に係るものであると認識することは、別の事柄であって、前記ア認定の程度の「はちみつかんりと」ないし「はちみつかりんとう」の称呼を生ずる標章の使用から、直ちに需要者が「はちみつかんりとう」の名称について、原告の業務に係る商品であることを認識するに至っているものと認めることはできないのである。
原告がしていた前記CMは、その程度に照らし、前記認定を左右するに足りるものではない。
ウ この点に関して、原告は、原告の商品の包装袋の表面には「蜂蜜かりんとう」の名称が上部中央に大きく記載され、原告の名称は裏面の下部に小さく記載されているのみであるから、需要者は、「蜂蜜かりんとう」の表示を見て選択していると主張する。しかし、需要者が、「蜂蜜かりんとう」の表示を見て選択しているとしても、そのことは、「蜂蜜かりんとう」の表示に出所表示機能を認めたからであるということにはならない。かりんとうの品質、原材料を表示するものとしての「蜂蜜かりんとう」の表示に着目して選択していることが十分考えられるからである。また、仮に、出所に着目してこれによって選択しているとしても、前記認定に用いた各証拠によれば、上記各標章が使用された包装袋の表面には、同時に、擬人化された蜂の図形(乙第4号証の2によれば、原告が商標権者である商標登録第4194087号商標ないしこれに酷似した商標と認められる。)又は「東京カリント株式会社」の文字の少なくとも一つが記載されていることが認められることからすれば、需要者がこれらによって選択していることも考えられるからである。なお、甲第55ないし第57号証の各1では、擬人化された蜂の図形も「東京カリント株式会社」の文字も識別できないが、甲第62号証及び検甲第1号証によれば、これは、甲第55ないし第57号証の各1の原本となった包装袋には擬人化された蜂の図形と「東京カリント株式会社」の文字が記載されていたものが、写しをとる際に欠落したにすぎないものと認められる。
エ 甲第51ないし第54、第66、第67号証には、「蜂蜜カリント」ないし「蜂蜜かりんとう」の名称に出所表示機能がある旨の記載があるが、これは、かりんとうの製造業者、流通業者のごく一部の者の証明書にすぎないから、これをもって、「はちみつかりんとう」の名称について、需要者が、原告の業務に係る商品であることを認識していたということはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
オ また、乙第1、第3、第6、第8、第9号証の各1、2によれば、株式会社ダイエー(同社が平成9年以前から審決時まで、大規模な小売業者であって、全国的に多数の顧客を集めていたことは当裁判所に顕著である。)は、遅くとも平成9年ころから審決時まで、原材料に蜂蜜を使用したかりんとうについて、「SAVINGS」「セービング」の文字を含む商標(この商標は、株式会社ダイエーが、自己の業務に係る商品であることを表示するために用いているものと認める。)を右上部に大きく記載するとともに、中央の右に「蜂蜜」、左に「かりんとう」の各文字を並べて大きく表示した包装袋を使用して販売していたこと、「北国のかりんとう本舗」という商号を使用する者が、遅くとも平成8年ころから審決時まで、郵便局で取り扱われている「ふるさと小包」として、「彩(いろどり)」という商標を付したかりんとうのうち、原材料に蜂蜜を使用したものについて「はちみつかりんとう」の表示をして販売していたこと、オタル製菓株式会社が、遅くとも平成8年ころから審決時まで、かりんとうについて「蜂蜜入り」の表示を付した包装袋を用いて製造・販売していたことが認められる。上記認定のとおり、審決時において、蜂蜜入りのかりんとうは原告以外の同業者によっても、「蜂蜜」ないし「はちみつ」を含む表示を伴って販売されていたのであり、このうち、株式会社ダイエー及び「北国のかりんとう本舗」という商号を使用する者は、「はちみつかりんとう」の名称について、単に蜂蜜入りのかりんとうであることを示すものと認識しており、これらの者の顧客として、これらの者が付した「『蜂蜜』『かりんとう』」や「はちみつかりんとう」の表示に接した需要者も、上記表示について同様の認識を有したものと認められる。この事実は、「はちみつかりんとう」の名称について、需要者が、原告の業務に係る商品であることを認識していたという事実がなかったことを裏付けるものというべきである。
原告は、これらの者の商品のかりんとう市場における販売量は、本願商標の出所識別力を否定するほどの程度ではないと主張する。しかし、重要なのは、これらの者の販売量ではなく、これらの者が、「はちみつかりんとう」の名称について、単に蜂蜜入りのかりんとうであることを示すものと認識し、これを使用していたという事実であって、このことが、「はちみつかりんとう」の名称が出所識別力を有していなかったことを裏付けるのである。
のみならず、株式会社ダイエーの前記事業規模及び「ふるさと小包」が郵便局で取り扱われている事実に照らせば、これらの者の使用する「『蜂蜜』『かりんとう』」や「はちみつかりんとう」の表示「はちみつかんりとう」に接した需要者がわずかなものであると認めることもできない。甲第75号証(日本全国製菓会社大名鑑」)には、株式会社ダイエーないしこれに納入している製造業者の製造額は記載されていないけれども、同証は平成4年に発行されたものであるのに対して、株式会社ダイエー内部で、「セービング蜂蜜かりんとう 180g」の包装袋の表示事項が提案されたのは平成7年である(乙第6号証の3によって認める。)ことに照らせば、甲第75号証の記載は、前記認定を左右するに足りるものではない。
カ 以上の認定に係る、「蜂蜜かりんとう」という言葉の有する性質、使用期間、市場占有率を始めとする諸事実を前提にした場合、本件全証拠によっても、需要者が、本願商標により原告の業務に係る商品であることを認識することができたという事実を認めることはできない。本願商標について、商標法3条2項の規定に該当するものとは認められないとした審決の認定判断に誤りはない。
(3) なお、甲第7、第9、第10、第16号証の各1、2によれば、「飯田百貨店」という商号を使用する者が、昭和53年ころ、第4標章を、「ダ」の字を図案化した標章や「飯」の字を枠で囲んだ標章とともに包装袋に、ジャスコ株式会社(同社が昭和57年以前から審決時まで、大規模な小売業者であって、日本全国で多数の顧客を集めていたことは当裁判所に顕著である。)が、昭和57年ころ第6標章、平成元年ころ第10標章を、「J」の字を図案化したような標章や「ジェーフード」ないし「J・FOOD」という文字とともに表示した包装袋に、それぞれ使用してかりんとうを販売していたことが認められる。仮に、これらの包装袋の内容物であるかりんとうの製造者が原告であるとしても、原告の製造・販売に係るものである旨の表示がない以上、需要者は、第4、第6、第10標章を飯田百貨店やジャスコ株式会社が使用する標章であると認識したことは明らかである。上記事実は、需要者が、本願商標について原告の業務に係る商品であることを認識することを妨げる事実である。
また、平成4年ころには、原告の製造する「蜂蜜かりんとう」の販売額11億円のうち、原告のブランドとして販売されたものは6億6000万円程度で、その余の約4億4000万円は、いわゆるプライベートブランドであったことは、前認定のとおりであり、上記事実によれば、平成10年における原告の製造する「蜂蜜かりんとう」も、販売額11億1500万円のうち、約4億4000万円はプライベートブランドであったことが推認される。プライベートブランドの場合、甲第9、第10、第16号証、乙第6号証の各1、2にみられるように、商品に製造者名は表示されず、販売者名のみが表示される例が普通であることは、当裁判所に顕著であるから、原告の製造するプライベートブランドも、同様に原告の名称は表示されておらず、販売者名のみが表示され、これを購入した消費者も、販売者名のみを認識していたものと推認される。上記事実は、需要者が、本願商標について原告の業務に係る商品であることを認識することを妨げる事実である。
以上の事実に照らせば、審決時において、需要者が、本願商標について原告の業務に係る商品であることを認識することができなかったことは、一層明らかというべきである。
2 取消事由2(審理不尽、理由不備)について
(1) 弁論の全趣旨によれば、原告は、審判手続において書証を提出し、その他に、原告代表者本人尋問を申し出ていたことが認められる。しかし、審判体は、当事者が申し出た証拠について必要でないと認めるものは、取り調べることを要しないのであって(特許法151条、民事訴訟法181条1項)、原告代表者本人を尋問しなかったことを、審理不尽ということはできない。
(2) 審決の、審決の甲第1ないし第68号証について、本願商標の文字の他に自他商品の識別標識としての機能を果たしうる部分を有するものがほとんどであるとの認定は、上記各証拠の記載を根拠とするものであることが、審決の記載自体から明らかである。審決に、各証拠の各部分について識別標識としての機能を果たすか否かの検討内容の詳細まで逐一記載しなければならないものではない。審決に理由不備の違法はない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
<以下省略>