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東京高等裁判所 平成12年(行ケ)214号 判決 2001年4月11日

原告

三菱マテリアル株式会社

訴訟代理人弁理士

志賀正武

高橋詔男

青山正和

鈴木三義

被告

特許庁長官及川耕造

指定代理人

中村達之

小林武

桐本勲

大野覚美

内山進

主文

特許庁が平成9年異議第74760号事件について平成12年5月8日にした決定中、特許第2597449号の請求項11、12に係る特許を取り消すとした部分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

(1)  原告は、名称を「研磨ヘッド及びリテイナの使用方法」とする特許第2597449号発明(以下、この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。

本件特許は、平成4年12月21日にサイベック・システムズが特許出願をし、平成9年1月9日に設定登録を受けた後、サイベック・ナノ・テクノロジーズ・インクが特許権の譲渡を受けて同年7月28日にその旨の移転登録を受け、さらに、平成11年6月24日に原告が特許権の譲渡を受け、同年9月14日にその旨の移転登録を受けたものである。

本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3、11~14につき特許異議の申立てがされ、平成9年異議第74760号事件として特許庁に係属したところ、サイベック・ナノ・テクノロジーズ・インクは、平成10年7月30日、明細書の記載を訂正する旨の訂正請求をし、さらに、平成11年7月9日、原告が訂正請求書の補正をした。

特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、平成12年5月8日に「特許第2597449号の請求項11、12に係る特許を取り消す。同請求項1ないし3、13、14に係る特許を維持する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同月29日、原告に送達された。

(2)  原告は、平成12年6月22日、本件決定中、特許第2597449号の請求項11、12に係る特許を取り消すとした部分の取消しを求める本件訴えを提起した後、平成13年1月15日、明細書の記載を訂正する旨の訂正審判の請求をしたところ、特許庁は、同請求を訂正2001-39006号事件として審理した上、同年3月6日、上記訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」といい、訂正審決に係る訂正を「本件訂正」という。)をし、その謄本は、同月16日、原告に送達された。

2  本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11及び同12の記載

【請求項11】下端面にウエーハが支持されるキャリアと、上記キャリアの周囲を覆うリテイナとを有する研磨ヘッドを用い、上記ウエーハ表面を研磨盤面と接触させる動作を含む方法によりウエーハの表面を研磨する間、ウエーハに作用する横方向の力に抵抗するため、上記キャリアの下方に、上記リテイナで囲まれたポケットを形成するための、上記リテイナの使用方法であって、

(a)  上記接触の間、上記ウエーハの表面と上記研磨板面との間で上記リテイナが上下に動くことを許容する工程と、

(b)  上記ウエーハ表面が上記研磨板面と接触していないときに上記ポケットを形成させるために上記リテイナを上記研磨ヘッドに支持させる工程とを含むことを特徴とするリテイナの使用方法。

【請求項12】上記リテイナの動きを許容する工程は上記接触の間は上記リテイナの位置がフローティングすることを許容する工程を含むことを特徴とする請求項11に記載のリテイナの使用方法。

3  本件訂正によって訂正された特許請求の範囲の請求項11及び同12の記載(下線部が訂正個所である。)

【請求項11】下端面にウエーハが支持されるキャリアと、上記キャリアの周囲を覆うリテイナとを有する研磨ヘッドを用い、上記ウエーハ表面を研磨盤面と接触させる動作を含む方法によりウエーハの表面を研磨する間、ウエーハに作用する横方向の力に抵抗するため、上記キャリアの下方に、上記リテイナで囲まれたポケットを形成するための、上記リテイナの使用方法であって、

(a)  上記接触の間、上記ウエーハの表面と上記研磨盤面との間の角度変化に対応するために、上記リテイナが下方向に動くように空気又は他の流体の所定の圧力に維持された正圧を作用させ、かつ上記リテイナが上下に動くことを許容する工程と、

(b)  上記ウエーハ表面が上記研磨盤面と接触していないときに上記ポケットを形成させるために上記リテイナを上記研磨ヘッドに支持させる工程とを含むことを特徴とするリテイナの使用方法。

【請求項12】下端面にウエーハが支持されるキャリアと、上記キャリアの周囲を覆うリテイナとを有する研磨ヘッドを用い、上記ウエーハ表面を研磨盤面と接触させる動作を含む方法によりウエーハの表面を研磨する間、ウエーハに作用する横方向の力に抵抗するため、上記キャリアの下方に、上記リテイナで囲まれたポケットを形成するための、上記リテイナの使用方法であって、

(a)  上記接触の間、上記ウエーハの表面と上記研磨盤面との間の角度変化に対応するために上記リテイナが上下に動くことを許容する工程と、

(b)  上記ウエーハ表面が上記研磨盤面と接触していないときに上記ポケットを形成させるために上記リテイナを上記研磨ヘッドに支持させる工程とを含み、上記リテイナは、研磨ヘッドの主要部にダイヤフラムで結合されており、上記リテイナの動きを許容する工程は上記接触の間は上記ダイヤフラムの両側の空間に圧力差を付与してリテイナが下方向に動くように空気又は他の流体の正圧を作用させ、かつ上記リテイナの位置がフローティングすることを許容する工程を含むことを特徴とするリテイナの使用方法。

4  本件決定の理由

本件決定は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3、11~14に係る各発明の要旨を本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~3、11~14記載のとおり認定した上、①請求項11、12に係る各発明は特開昭56-146667号公報(審判甲第2号証、本訴甲第3号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項11、12に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである、②特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3、13、14に係る特許を取り消すことはできないとした。

第3当事者の主張

1  原告

本件決定が、特許請求の範囲の請求項11、12に係る各発明の要旨を本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11、12記載のとおり認定した点は、訂正審決の確定により特許請求の範囲の記載が上記のとおり訂正されたため、誤りに帰したことになるので否認する。

本件決定が特許請求の範囲の請求項11、12に係る各発明の要旨の認定を誤った瑕疵は、その結論に影響を及ぼすものであるから、本件決定は、違法として取り消されるべきである。

2  被告

訂正審決の確定により特許請求の範囲の請求項11、12の記載が上記のとおり訂正されたことは認める。

第4当裁判所の判断

訂正審決の確定により、特許請求の範囲の請求項11、12の記載が上記のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく、この訂正によって、新たな構成要件が付加されたことにより、上記各請求項に係る特許請求の範囲が減縮されたことは明らかである。

そうすると、本件決定が、特許請求の範囲の請求項11、12に係る各発明の要旨を本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11、12記載のとおりである旨認定したことは、結果的に誤りであったことに帰し、この要旨認定を前提として、請求項11、12に係る各発明が特開昭56-146667号公報(甲第3号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたと判断したことも、誤りであったものといわざるを得ない。そして、この誤りが、本件決定中、特許第2597449号の請求項11、12に係る特許を取り消すとした部分の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定の上記部分は、瑕疵があるものとして、取消しを免れない。

よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 宮坂昌利)

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