東京高等裁判所 平成12年(行ケ)438号 判決 2001年5月30日
原告
ノートン ベタイリグングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(異議決定上の表示)ノートン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
訴訟代理人弁護士
上谷清
同
宇井正一
同弁理士
永坂友康
同復代理人弁護士
笹本摂
被告
特許庁長官及川耕造
指定代理人
石井良夫
同
小林明
同
森田ひとみ
同
宮川久成
主文
特許庁が平成10年異議第71375号事件について平成12年6月13日にした決定を取り消す。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は、名称を「耐火性物質および該物質の製造方法」とする特許第2655699号発明(昭和63年10月5日出願、1987年11月23日及び同年12月17日優先権主張・ドイツ連邦共和国、平成9年5月30日設定登録)の特許権者である。
(2) 平成10年3月23日、本件特許につき特許異議の申立てがされ、この申立ては、平成10年異議第71375号事件として特許庁に係属し、特許庁は、上記事件につき審理した結果、平成12年6月13日、「特許第2655699号の請求項1ないし5、9ないし11、16ないし19に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年7月22日、原告に送達された。
(3) 原告は、平成12年11月16日、本件決定の取消しを求める本件訴えを提起した後、同年12月11日、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載の訂正(以下「本件訂正」という。)をする訂正審判の請求をし、訂正2000-39152号事件として特許庁に係属した。特許庁は、同年3月28日、本件訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)をし、その謄本は、同年4月11日、原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の記載
(1) 本件訂正前のもの(以下、【請求項1】~【請求項19】に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明19」という。)
【請求項1】 63~82重量パーセントのSiC、15~27重量パーセントのSi3N4および3~10重量パーセントの無機酸化物からなる耐火性物質。
【請求項2】 SiCの量が67~72重量パーセントであることを特徴とする、請求項1記載の耐火性物質。
【請求項3】 Si3N4の量が23~25重量パーセントであることを特徴とする、請求項1記載の耐火性物質。
【請求項4】 Si3N4の量が23~25重量パーセントであることを特徴とする、請求項2記載の耐火性物質。
【請求項5】 無機酸化物の量が5~8重量パーセントであることを特徴とする、請求項1記載の耐火性物質。
【請求項6】 無機酸化物が酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムであることを特徴とする、請求項1記載の耐火性物質。
【請求項7】 無機酸化物が酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムであることを特徴とする、請求項5記載の耐火性物質。
【請求項8】 完全にあるいは一部、酸化鉄を酸化亜鉛に、酸化アルミニウムを酸化チタンおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種に、そして酸化ナトリウムを酸化カルシウム、カリウムおよびマグネシウムの少なくとも1種に置換することを特徴とする、請求項1記載の耐火性物質。
【請求項9】 請求項1記載の耐火性物質の製造方法であって、
a)63~82重量パーセントの炭化珪素粉末、10~36重量パーセントの珪素粉末および10重量パーセントまでの、最大300μmの粒度を有する無機酸化物、を安定な懸濁液に混合し、
b)成形し、
c)乾燥し、そして
d)窒素大気中で1380~1450℃で燃焼する、ことを特徴とする方法。
【請求項10】 70~80重量パーセントの炭化珪素粉末、15~22重量パーセントの珪素粉末および8重量パーセントまでの無機酸化物粉末を混合することを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】 17~20重量パーセントの珪素粉末および5重量パーセントの無機酸化物を用いることを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項12】 酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムを酸化物として用いることを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項13】 2重量パーセントまでの酸化鉄、1~6重量パーセントの酸化アルミニウムおよび0.4重量パーセントまでの酸化ナトリウムを用いることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】 0.5~1.5重量パーセントの酸化鉄および0.1重量パーセントまでの酸化ナトリウムを用いることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】 完全にあるいは一部、酸化鉄を酸化亜鉛に、酸化アルミニウムを酸化チタンおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種に、酸化ナトリウムを酸化カルシウム、酸化カリウム、および酸化マグネシウムの少なくとも1種に置換することを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項16】 用いる粉末の粒度が0.1~150μmであることを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項17】 可塑剤を有機結合剤として用いることを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項18】 脂肪、ワセリン、ポリビニルアルコールおよびトリステアリンの少なくとも1種を可塑剤として用いることを特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項19】 燃焼温度が1420℃であることを特徴とする、請求項10記載の方法。
(2) 本件訂正に係るもの(訂正部分には下線を付す。)
【請求項1】 63~82重量パーセントのSiC、15~27重量パーセントのSi3N4および3~10重量パーセントの、酸化鉄及び酸化アルミニウムである無機酸化物からなる耐火性物質。
【請求項2】 無機酸化物の量が5~8重量パーセントであることを特徴とする、請求項1記載の耐火性物質。
【請求項3】 無機酸化物が酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムであることを特徴とする、請求項1記載の耐火性物質。
【請求項4】 無機酸化物が酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムであることを特徴とする、請求項2記載の耐火性物質。
【請求項5】 完全にあるいは一部、酸化鉄を酸化亜鉛に、酸化アルミニウムを酸化チタンおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種に、そして酸化ナトリウムを酸化カルシウム、カリウムおよびマグネシウムの少なくとも1種に置換することを特徴とする、請求項3記載の耐火性物質。
【請求項6】 請求項1記載の耐火性物質の製造方法であって、
a)63~82重量パーセントの炭化珪素粉末、10~36重量パーセントの珪素粉末および10重量パーセントまでの、最大300μmの粒度を有する、酸化鉄及び酸化アルミニウムである無機酸化物、を安定な懸濁液に混合し、
b)成形し、
c)乾燥し、そして
d)窒素大気中で1380~1450℃で焼結すること、を特徴とする方法。
【請求項7】 70~80重量パーセントの炭化珪素粉末、15~22重量パーセントの珪素粉末および8重量パーセントまでの無機酸化物粉末を混合することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】 酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムを酸化物として用いることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項9】 2重量パーセントまでの酸化鉄、1~6重量パーセントの酸化アルミニウムおよび0.4重量パーセントまでの酸化ナトリウムを用いることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】 0.5~1.5重量パーセントの酸化鉄および0.1重量パーセントまでの酸化ナトリウムを用いることを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】 完全にあるいは一部、酸化鉄を酸化亜鉛に、酸化アルミニウムを酸化チタンおよび酸化ジルコニウムの少なくとも1種に、酸化ナトリウムを酸化カルシウム、酸化カリウム、および酸化マグネシウムの少なくとも1種に置換することを特徴とする、請求項8記載の方法。
3 本件決定の理由の要旨
本件決定は、本件発明の要旨を本件訂正前の本件明細書の特許請求の範囲記載のものとした上、本件発明1~5は、いずれも本件特許出願前に刊行された、セラミックデータブック編集委員会編「セラミックデータブック1982」(昭和57年3月工業製品技術協会発行)266~271頁、山下景久編「セラミックデータブック'76」(昭和51年11月工業製品技術協会発行)250~251頁、特公昭45-10070号公報(以下「刊行物3」という。)、特開昭60-166265号公報及び西独国特許出願公開第3,343,577号明細書(1984年公開、以下「刊行物5」という。)に記載された発明であり、本件発明9~11は、いずれも刊行物3、5に記載された発明であるから、特許法29条1項により、また、本件発明16~19は、いずれも刊行物3、5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項により、それぞれ特許を受けることができないものであって、これら発明に係る本件特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであり、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により取り消されるべきものであるとした。
第3原告主張の決定取消事由
本件決定が、本件発明の要旨を本件訂正前の本件明細書の特許請求の範囲記載のとおりと認定した点は、訂正審決の確定により特許請求の範囲の記載が上記のとおり訂正されたため、誤りに帰したことになるから、本件決定は、本件発明の要旨の認定を誤った違法があり、取り消されるべきである。
第4被告の主張
訂正審決により本件明細書の特許請求の範囲の記載が上記のとおり訂正されたことは認める。
第5当裁判所の判断
訂正審決により本件明細書の特許請求の範囲の記載が上記のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく、本件訂正によって、本件明細書の特許請求の範囲は減縮されたことが明らかである。
そうすると、本件決定が本件発明の要旨を本件訂正前の本件明細書の特許請求の範囲記載のとおりと認定したことは、結果的に本件発明の要旨の認定を誤ったこととなり、この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用は、原告の申立て等本件訴訟の経過にかんがみ、原告に負担させることとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 長沢幸男)