東京高等裁判所 平成12年(行ケ)73号 判決 2001年1月31日
原告
出光石油化学株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁理士
大谷保
被告
特許庁長官【B】
指定代理人
【C】
同
【D】
同
【E】
同
【F】
主文
特許庁が平成11年異議第71153号事件について平成11年12月22日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は、名称を「ガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法」とする特許第2813559号発明(平成3年5月30日原出願、平成7年6月22日分割出願、平成10年8月7日設定登録)の特許権者である。
チッソ株式会社及び株式会社神戸製鋼所は、平成11年6月28日、それぞれ本件特許につき特許異議の申立てをし、特許庁は、これらの申立てを平成11年異議第71153号事件として審理した結果、平成11年12月22日、「特許第2813559号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、平成12年1月26日、原告に送達された。
(2) 原告は、平成12年3月24日、本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載の訂正(以下「本件訂正」という。)をする訂正審判の請求をし、特許庁は、同請求を訂正2000-39032号事件として審理した結果、平成12年11月7日、上記訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)をし、その謄本は、同年11月27日、原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載
(1) 本件訂正前のもの
下記(A)~(C)成分を含むガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法であり、
(A) ポリプロピレン樹脂24~94.99重量%
(B) 硫化亜鉛0.01~10重量%
(C) 平均繊維径が3~20μmのガラス繊維5~70重量%
[但し、ポリプロピレン樹脂、硫化亜鉛およびガラス繊維の合計重量を、100重量%とする。]かつ、下記(E)~(G)の工程を含むことを特徴とするガラス繊維強化樹脂成型品の製造方法。
(E) ポリプロピレン樹脂の溶融体中に、平均繊維径が3~20μmのガラス繊維からなる繊維束を連続的に通過させ、その繊維束に、前記溶融体を含浸させてストランドを形成する工程
(F) 形成されたストランドを冷却後、ペレタイザーを用いて切断し、ペレットの長さに略等しい長さのガラス繊維およびポリプロピレン樹脂からなる強化樹脂ペレットを作製する工程
(G) 硫化亜鉛を、ポリプロピレン樹脂と溶融混練してペレットとを作製する工程
(H) 上記(F)工程で得られた強化樹脂ペレットと、上記(G)工程で得られたペレットとを、溶融混練して平均繊維長が1~10mmの範囲内の値であるガラス繊維を含むガラス繊維強化樹脂成型品を成形する工程
(2) 本件訂正に係るもの(訂正部分には下線を付す。)
下記(A)~(C)成分を含むガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法であり、
(A) ポリプロピレン樹脂24~94.99重量%
(B) 硫化亜鉛0.01~10重量%
(C) 平均繊維径が3~20μmのガラス繊維5~70重量%
[但し、ポリプロピレン樹脂、硫化亜鉛およびガラス繊維の合計重量を、100重量%とする。]かつ、下記(E)~(G)の工程を含むことを特徴とするガラス繊維強化樹脂成型品の製造方法。
(E) ポリプロピレン樹脂の溶融体中に、平均繊維径が3~20μmのガラス繊維からなる繊維束を含浸させる際に、該繊維束をロッドの中心を通る直線に対して少なくとも一側が10度以上の傾斜角を有した状態でロッドに巻き掛けるようにして連続的に通過させ、その繊維束に、前記溶融体を含浸させてストランドを形成する工程
(F) 形成されたストランドを冷却後、ペレタイザーを用いて切断し、ペレットの長さに略等しい長さのガラス繊維およびポリプロピレン樹脂からなる強化樹脂ペレットを作製する工程
(G) 硫化亜鉛を、ポリプロピレン樹脂と溶融混練してペレットとを作製する工程
(H) 上記(F)工程で得られた強化樹脂ペレットと、上記(G)工程で得られたペレットとを、溶融混練して平均繊維長が1~10mmの範囲内の値であるガラス繊維を含むガラス繊維強化樹脂成型品を成形する工程
3 本件決定の理由の要旨
本件決定は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の発明(以下「本件発明」という。)の要旨を、本件訂正前の本件明細書の特許請求の範囲記載のとおりと認定した上、本件発明は、「Plastics Compounding」JULY/AUG.1985年50頁、52頁、55頁、特開平1-241406号公報、特開昭63-239032号公報及び特開平1-214408号公報に記載された各発明(以下「引用例発明」という。)から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとした。
第3原告主張の決定取消事由
本件決定が、本件発明の要旨を本件訂正前の本件明細書の特許請求の範囲記載のとおりと認定した点は、訂正審決の確定により特許請求の範囲が上記のとおり訂正されたため、誤りに帰したことになる。本件決定は本件発明の要旨の認定を誤った違法があり、取り消されなければならない。
第4被告の主張
訂正審決により本件明細書の特許請求の範囲が上記のとおり訂正されたことは認める。
第5当裁判所の判断
訂正審決により本件明細書の特許請求の範囲が上記のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく、本件訂正によって、製造方法(E)に上記の下線部分が付加されたことにより、本件明細書の特許請求の範囲は減縮されたことが明らかである。
そうすると、本件決定が本件発明の要旨を本件訂正前の本件明細書の特許請求の範囲記載のとおりと認定したことは、結果的に本件発明の要旨の認定を誤ったこととなるから、本件決定がこの認定を前提として本件発明は引用例発明から当業者が容易に発明をすることができたと判断したことも誤りであったといわざるを得ない。そして、この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 長沢幸男)