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東京高等裁判所 平成12年(行コ)199号 判決 2001年2月22日

主文

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  1審原告らの控訴費用は1審原告らの,1審被告の控訴費用は1審被告の,1審原告共同訴訟参加人らの控訴費用は1審原告共同訴訟参加人らの各負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人ら

①  各控訴の趣旨

ア 原判決中,1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの敗訴部分を取り消す。

イ 1審被告は,新座市に対して,原判決認容額のほか,711万6300円及びこれに対する平成9年4月1日から支払済みに至るまで年5分の金員を支払え。

ウ 訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。

エ 仮執行の宣言

②  1審被告の控訴の趣旨に対する各答弁

主文と同旨

2  1審被告

①  控訴の趣旨

ア 原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。

イ 1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの上記取消しに係る部分の請求をいずれも棄却する。

ウ 訴訟被告は,第1,2審とも1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの負担とする。

②  1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第2当事者の主張

当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決「事実」欄第二記載のとおりであるから,これをここに引用する。ただし,原判決6頁5行目の「A」を「E」と改める。

1  当審で付加した1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの主張

①  地方自治法242条1項ただし書の「正当な理由」については,「普通地方公共団体の住民が相当の注意をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか」によるべきものである。1審原告らが本件の怠る事実を知ることができたのは,平成9年12月2日に開催された新座市市議会全員協議会において1審被告の発言により本件滞納者に対する国税差押えがあることを知ったときからである。同年9月の市議会の傍聴はたまたまこれを行った限られた住民のみが知り得るもので,新聞,テレビ,市報等で情報提供がされない限り,一般市民は相当な注意力をもって調査しても知り得ない事情である。

②  本件滞納者については,電話,面接による度重なる納税指導,多数回にわたる催告書の送付にもかかわらず,租税納付を拒んでいた事情があり,不動産登記簿謄本の調査により,同人に担税力があることは容易に判明し得た筈である。したがって、徴税吏員の人員不足,滞納者の数等は本件滞納者について差押えを行うことができなかった合理的理由となるものではない。

2  1審被告

①  地方税法331条1項に規定する滞納処分による差押えの実施に関する規定は訓示規定であり,これに違反した場合に直ちに違法となるものではない。滞納処分に踏みきるか否かは,第1次的には地方税法により権限が認められている徴税吏員の判断を尊重すべきものであり,強制執行を命じなかった市長に裁量権の濫用はない。

②  本件滞納者に対しては,朝霞税務署の職員が所得税の修正申告をさせる際に,住民税は本件滞納者の市外転居のため3年分しか遡らないという誤った指導をしていたという事情があり,新座市としても,滞納処分等の強硬な手段を控えるべきであるとの判断をせざるを得なかったのであり,市長に故意過失があるということはできない。

③  新座市においては例年1万数千件の滞納者があり,市長がこれらを逐一監督し,その処理の支持をすることは不可能である。市税の催告は納税課長の専決事項となっており,その催告書の発送関係の事実を市長は了知していない。発送の後6か月以内の差押えなどに時効中断効が生ずる催告書発送などの事務は部下職員の判断で行われており,そのために結果として1審被告に損害賠償責任を課すのは相当ではない。

④  また,監査請求をするに際しては,財務会計上の怠る事実を特定して必要な措置を講ずべきことを請求すれば足り,措置の内容及び相手方を具体的に明示することは必要なく,監査請求に添付する「証する書面」には,事実を特定する必要はなく,他人から聞知したことを書面に作成したものであっても足りる(昭和23年12月25日自治省行政実例)。したがって、平成9年12月2日の市議会の後でなければ本件監査請求をすることができなかったわけではないから,監査請求期間の徒過につき正当な理由があるとはいえない。

理由

第1本案前の主張について

1  1審被告の本案前の主張に関する前提事実の認定判断は,次のとおり補正するほか,原判決「理由」欄の一の1のとおりであるから,これをここに引用する。

原判決28頁6行目の「甲第一、第二号証、」を「甲第1,第2,第4号証,原審平成10年(行ウ)第17号事件の甲第2号証,」に改め,同7行目の「第一一号証」の次に「,第19号証,1審原告共同訴訟参加人B」を加え,同31頁8行目の「全く」を「滞納処分による差押えの決済書に押印する際に説明を受けて知り得るもののほかは,殆ど」に,同34頁11行目の「、賦課の遡及期間とその理由、賦課に不満があったこと」を「の事務を担当した朝霞税務署の職員が平成3年ごろに,国税の資料を利用する市民税の賦課決定においては3年を超えて遡及することはないというような教示をしていたから,これを信じたとして市民税の賦課について不満を述べていたこと」に,同38頁8行目から9行目にかけての「本件薬局経営者に対して、」を「上位4名の滞納者には1年間」にそれぞれ改め,同9行目の「である」の次に「(弁論の全趣旨)」を加える。

2  以上の事実に基づいて,1審被告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの監査請求期間について判断する。

①  本件「怠る事実」の内容と終期について

1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの本件請求は,本件滞納者に対する新座市市民税の徴収権が消滅時効完成によって消滅したことによる1審被告の公金徴収の怠った事実についての同法242条の2第1項4号の損害賠償請求である。1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らが違法と主張する1審被告の行為は,本件滞納者の昭和60年度から昭和63年度までの各市民税の徴収権を消滅時効により消滅させたことをいうものであり,すなわち,徴収権の不行使ないし管理懈怠を違法として監査請求及び本件損害賠償の請求をしているものである。この不行使ないし管理懈怠の「終わったとき」(地方自治法242条2項本文)とは,いずれも各市民税の徴収権が消滅時効により消滅したことによって行使ないし管理の余地がなくなったものであるから,その時点をもって違法な財産管理行為が終わったものと解するのが相当である。

本件滞納者の昭和60年度,昭和61年度及び昭和63年度の各市民税の徴収権は,いずれも平成8年9月30日に消滅時効の期間(5年)が経過したため同日に消滅時効が完成し,同時に徴収権が消滅したものと認められるから,その徴収権を行使すべき地位にあったと主張されている1審被告の「怠る事実」の終わった日も平成8年9月30日であると認められる。

また,本件滞納者の昭和62年度の市民税の徴収権については,平成8年12月2日に消滅時効の期間(5年)が経過したと認められる。もっとも,昭和62年度の市民税については,平成8年11月28日に市当局の職員により本件滞納者に対して催告書が発送されていることが認められるから(甲第2号証によれば,翌29日に到達したものと推認することができる。),1審被告は,その到達の日から6か月を経過するまでの間は,民法153条所定の措置をとって平成8年12月2日の時効期間が経過した消滅時効を中断することができたと認められ,したがって,その消滅時効中断の措置をとらなかったことも不行使ないし管理懈怠の中に含まれることとなるが,実際には,その消滅時効の中断の措置がとられることはなかったから,昭和62年度の市民税の徴収権の消滅時効が完成したのは平成8年12月2日であるというべきである。1審被告は,その後の中断の措置をとり得たとしても,時効消滅の日は平成8年12月2日であるから,この日が怠る事実の終了した日であると主張するが,前示6か月間内に1審被告が時効中断の措置をとった場合には,消滅時効の完成を防止することができたのであって,その間にも不行使ないし管理懈怠があったといわざるを得ず,消滅時効の中断の措置をとることができた前示の6か月の間はなお1審被告に「怠る事実」が継続していたというべきであるから,その「怠る事実」の終わった日は平成9年5月29日である。

②  監査請求期間の徒過について

前記認定のとおり,1審原告らの本件監査請求は,平成10年1月26日にされ,1審原告共同訴訟参加人らの本件監査請求は同年2月4日にされていることが認められるから,本件滞納者の昭和60年度,昭和61年度及び昭和63年度の各市民税徴収権の時効消滅に関する監査請求は,1年の期間を超えていることが明らかであるが,昭和62年度の市民税徴収権の時効消滅に関する監査請求は,地方自治法242条2項の法定の期間内にされていることが明らかであるから,1審被告の本案前の主張は,昭和62年度の市民税徴収権の時効消滅に関する怠る事実については,理由がない。

なお,1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らは,昭和60年度,昭和61年度及び昭和63年度の各市民税徴収権の時効消滅に関する1審被告の責任は,1審被告が自らに損害賠償請求権を行使しないことが「怠る事実」であるから,前示の各市民税に関する「怠る事実」の終了は未だなく,1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの監査請求期間は経過していないと主張する。しかしながら,市民税徴収権の不行使ないし管理懈怠による違法な財産管理行為を理由とする1審被告の損害賠償義務は,同時的にかつ選択的に発生しており,遅くとも市民税徴収権が時効消滅したときに違法な財産管理行為が終了している。1審被告の自らに対する損害賠償請求権を行使しないこと自体を「怠る事実」であるとして,その損害賠償請求権が時効等によって消滅するまでは怠る事実が終わらないとすることは,一つの過去の怠った事実と実質的に同じ内容の事実を形式を変えて監査請求することによって監査請求の期限を設けた趣旨を没却するものであって,著しく合理性を欠くから,監査請求期間が未経過であるとする1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの主張は採用できない。

③  「正当の理由」の存否について

1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らは,昭和60年度,昭和61年度及び昭和63年度の各市民税の時効消滅についての「怠る事実」は,秘密裡に存在しており,平成9年12月2日の新座市議会全員協議会の議事により1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らは初めてこれを知り,その後約2か月が経過した後に各監査請求がされているから,これらの監査請求については,地方自治法242条2項ただし書の「正当な理由」があると主張する。

前記認定事実と甲第2,第4号証に弁論の全趣旨を総合すると,新座市においては,平成9年3月31日に本件滞納者の昭和60年度,昭和61年度及び昭和63年度の各市民税について時効消滅による不納欠損処理をしたが,そのことは一般市民の知り得るところではなかったこと,同年8月上旬ころ,C市議会議員のもとに,匿名の市民から1審被告の後援会の有力メンバーである本件滞納者が約1000万円の市県民税について時効消滅により納付義務を免れているが,1審被告に市民税徴収義務に違反があるのではないかという趣旨の電話があったこと,そこで,C議員は,同年9月8日に市当局に質問通告と資料要求を行い,同月11日の第3回定例市議会の本会議において,新座市長たる1審被告に対して本件滞納者は平成8年度の市民税の滞納による不納欠損額の最上位の者であることを指摘して,滞納処分を行わなかった理由を質問したところ,市当局は,本件滞納者の不満が税務署職員のした市民税賦課決定についての教示内容にあり,滞納処分をせずに昭和60年度,昭和61年度及び昭和63年度の各市民税の徴収権を時効消滅させてしまったことなどを答弁したこと,その内容は,日本共産党新座市委員会が平成9年9月28日に発行した「にいざ民報」に掲載されたほか,同年10月に発行された1審原告らが構成員となっている「新座市手作りオンブズマン」10月号,新座市議会事務局が平成9年11月10日に発行した「にいざ市議会だよりNo.119」にもそれぞれ掲載されたものの,一般新聞及びその他のマスコミでこのことを取り上げたものはなかったこと,市議会議員である1審原告Dが,同年12月1日の定例本会議で本件滞納者の所有不動産の登記簿謄本に基づいて,本件滞納者に対しては国税の滞納処分による差押えがされているにもかかわらず新座市からの参加差押えがされていない理由等を質問し,これを受けて,市当局が同年12月2日に開催された市議会全員協議会において,正式に参加差押えをしなかった旨を答弁したという経緯があったことが認められる。

住民が法定の監査請求期間が経過しているにもかかわらず,なお監査請求をし得る「正当な理由」があったか否かは,特段の事情のない限り,一般住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみていつ当該行為を知り得たかどうか,監査請求が当該行為を知り得たと認められる時から当該事実関係に照らして必要最小限度の準備等のための期間内になされたか否かによって判断するのが相当である。前記認定事実によれば,1審原告らは,いずれも平成9年8月上旬ころのC議員に対する匿名の電話を契機として,同議員が同年9月11日に市議会本会議において本件滞納者の市民税に関する不納欠損処理の事実に関する質問をしたころには,1審被告の「怠る事実」について事実関係を把握していたものと推認されるが,相当な注意力を有する一般市民にそのことが知り得る状況となったのは,前示の日本共産党新座市委員会が平成9年9月28日に発行した「にいざ民報」,同年10月に発行された「新座市手作りオンブズマン」10月号の各流布に続いて,新座市議会事務局が平成9年11月10日に発行した「にいざ市議会だよりNo.119」に前記市議会における質問の内容が掲載されたころであると認めるのが相当である。したがって,遅くとも平成9年11月中旬ころには,1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らにおいて,1審被告の前記「怠る事実」を知ることができたと認められる。1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らは,同年12月2日の市議会全員協議会において市当局が本件滞納者の所有不動産に国税滞納処分による差押えがされていることを答弁し,本件滞納者に対する市民税徴収の余地があることが判明したときに「怠る事実」を知ったと認めるべきであると主張する。もともと本件滞納者は薬局経営者であって,滞納処分による差押えの対象となる財産権は不動産のみに限られないのであるから,その経営規模,経営状況及び営業収入が市民税負担に耐え得るのではないかという疑いがあることなどについては,地元の住民である1審原告らと1審原告共同訴訟参加人らを含めて相当な注意力を有する一般市民であれば,遅くとも平成9年11月20日ころまでには知ることができたと推認される。したがって,必ずしも前記市議会全員協議会の市当局答弁によって初めてその市民税支払能力を知ったと認めることはできないから,この点の1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの主張は採用できない。また,甲第4号証と1審原告共同訴訟参加人Bの尋問結果によれば,1審原告共同訴訟参加人らが協議のうえ,監査請求をすべきであると判断したのは平成9年12月中旬であったと認められるが,この1審原告共同訴訟参加人らの判断は,1審原告共同訴訟参加人らが共同歩調をとって監査請求をしようとする意思決定であったと認められるのであり,その意思決定のときに各1審原告及び各1審原告共同訴訟参加人が「怠る事実」を知ったということにはならない。

このようにして,前示のとおりの客観的事情を前提とすれば,1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らを含む相当な注意力を有する一般市民は,平成9年11月20日ころまでには,1審被告の前記「怠る事実」の存在を知り得たと認められ,法定の監査請求期間は経過しているものの,その後必要最小限度の準備のための期間内に監査請求をするについては,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があったというべきである。

そこで,この必要最小限度の準備等のための期間について検討するに,地方自治法242条1項の住民の監査請求は,監査の対象となる財務会計上の怠る事実を特定して必要な措置を講ずべきことを請求すれば足るものであり,事前の調査に基づく詳細な事実関係の主張を要するものではない。したがって,前記認定の平成9年11月20日ころまでに相当の注意力を有する一般市民に知ることができた事実は,本件滞納者の市民税滞納額の概略,その営業,営業の規模,その営業収入が市民税滞納額を負担できる可能性があること,市当局がその徴収を怠って消滅時効により平成8年度の不納付欠損としてこれを処理したことなどであったと推認されるから,これらの事実のみに基づいて監査請求をすることが著しく困難であったとはいえない。甲第1号証,原審の平成10年(行ウ)第17号事件記録の甲第3号証及び弁論の全趣旨によれば,1審原告らの本件監査請求の請求の趣旨は,1審被告は平成3年度の市民税743万3174円を滞納した本件滞納者に対する徴収を5年間怠り,これを消滅時効にかからしめて平成9年3月31日に不納欠損処分に付したこと,1審被告と市の職員は,本件滞納者の資産を名寄せによって容易に把握することができ,国税については滞納処分による差押えにより徴収ができているにもかかわらず,本件滞納者の市民税を時効にかからしめたことを挙げたうえ,市が被った被害を填補するため必要な措置を講ずるよう勧告することを求めるとするものであり,1審原告共同訴訟参加人らの監査請求の請求の趣旨は,市の平成8年度の市民税の不納欠損の中に743万円余の高額滞納者がおり,資産がありながらこれに対する差押えを行わず時効消滅させてしまったこと,本件滞納者に対する特別な扱いは,税徴収の公平さに欠け看過できないこと,国税については平成4年に滞納処分による差押えをしており,市の処置は地方税法331条に違反することを挙げたうえ,市に対して事実経過を明らかにし,責任の所在と今後の防止策を講ずること,1審被告において損害の填補を行うべきことを勧告するよう求めるものであったと認められる。したがって,この程度の1審原告らと1審原告共同訴訟参加人らの各監査請求書の記載内容は,平成9年11月20日ころまでに,同人らが知ることができた事実に加えて,更に詳細な事前調査を要するものであったとはいえず,相当な注意力をもってすれば,遅くとも平成9年末ないし最大限の2か月後の平成10年1月20日までには,これを把握し得るものであったと認められる。したがって、1審原告ら及び1原告共同訴訟参加人らは、遅くとも平成10年1月20日までには、十分に本件各監査請求をすることができたと認められる。

④  以上のとおり,昭和60年度,昭和61年度及び昭和63年度の各市民税徴収権の時効消滅についての1審被告の「怠る事実」に関する1審原告らと1審原告共同訴訟参加人らの本件監査請求は,いずれも法定の期間内にされたものではなく,法定の期間内されなかったことについて「正当な理由」があったとも認められないから,1審原告らと1審原告共同訴訟参加人らの昭和60年度,昭和61年度及び昭和63年度の各市民税についての1審被告の「怠る事実」を原因とする本件損害賠償の請求は,適法な監査請求を経たものとはいえず,いずれも不適法である。

第2昭和62年度等の市民税を時効消滅させたことの違法性

昭和62年度等の市民税を時効消滅させたことの違法性についての認定判断は,次のとおり補正するほか原判決「理由」欄の二記載のとおりであるから,これをここに引用する。

1  原判決59頁3行目及び同6行目の各「参加差押」をいずれも「滞納処分による差押え又は参加差押え」に改める。

2  同61頁4行目の「前記認定した」から同6行目の「あったこと、」までを「乙第15号証によれば,1審被告は,平成5年11月ごろ本件滞納者から市民税の滞納について市長と税務署長との三者で話し合いを行いたいという申出を受け,これに応諾する返答をしていたことから,その話し合いは実現しなかったものの,本件滞納者が市民税を滞納していることを知っていたと認められ,1審被告自身も監査委員会に対する意見陳述の機会において,このことから,本件滞納者の滞納額,消滅時効がいつ完成するのかについて関心を持つべきであったと陳述していることが認められる。もっとも,前記認定事実によれば,」に改め,同62頁5行目の「徴収事務については、」の次に「平成5年11月に本件滞納者から滞納市民税について話し合いをしたいとの申出があったにもかかわらず,滞納処分による差押えをする場合に決済するほかは,」を加え,同6行目の「全く」を「殆ど」に改める。

3  同63頁7行目の「前記に説示のとおり、」の次に「自らの選挙の支援者であった本件滞納者が市民税を滞納していることを平成5年11月以降は知っていたと認められ,1審被告自身が後日滞納市民税の徴収権の時効消滅について関心を持つべきであったと監査委員会に陳述しているところであって,」を加える。

第3結論

以上によれば,1審原告ら及び1審原告共同訴訟参加人らの本件請求のうち,昭和60年度,昭和61年度及び昭和63年度の市民税徴収権の時効消滅を原因として1審被告に711万6300円を新座市に支払うべき旨を求める部分を不適法として却下すべきであり,昭和62年度の市民税徴収権の時効消滅を原因として1審被告に44万0600円及びこれに対する平成9年4月1日から支払済みに至るまで年5分の遅延損害金を新座市に支払うべき旨を請求する部分は認容すべきである。

よって,上記結論と同旨の原判決は正当であり,本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 慶田康男 裁判官 河村吉晃)

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