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東京高等裁判所 平成12年(行コ)225号 判決 2000年12月21日

控訴人 竹原健亮 ほか2名

被控訴人 国税庁長官

代理人 大圖明 林俊夫 ほか3名

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が、控訴人らの平成九年一二月一八日付け租税特別措置法四〇条の規定による承認申請に対し、平成一〇年一一月一八日付けで行った不承認処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、控訴人らが、公益法人に対する株式の贈与に伴うみなし譲渡所得課税について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)四〇条一項後段の規定により非課税の承認申請をしたところ、被控訴人に不承認とされたことから、これを不服としてその不承認処分の取消しを求める事案であり、原審裁判所は、控訴人らの請求をいずれも棄却したことから、これを不服とする控訴人らが控訴したものである。

二  争いがない事実、法令等の定め、当事者双方の主張及び争点は、原判決「事実及び理由」欄第二「事案の概要」の一ないし四(原判決三頁九行目から二一頁五行目まで)記載のとおりであるからこれを引用する。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断するものであり、その理由は、次の二のとおり、控訴人らの当審における主張とこれに対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄第三「争点に対する判断」の一ないし五(原判決二一頁七行目から二六頁五行目まで)に説示のとおりであるからこれを引用する。

二  控訴人らの当審における主張とこれに対する判断

1  控訴人らの主張

(一) 原判決は、寄附財産である本件株式をそのまま萩市社協において保有し、その配当金をその公益事業の費用に充てるなら事業の用に供したといえるが、本件株式を譲渡し、その譲渡代金を定期預金にしてその利息をもって公益事業の費用に充てても、これをもって公益事業の用に供したとはいえないという被控訴人の措置法及び措置法施行令の解釈を認める。

しかし、原判決の右判断は、民間公益事業の変遷と実態について、十分な認識を欠くものであり、現代における措置法及び措置法施行令の解釈を誤ったものであって、不当である。すなわち、社会福祉協議会は、住民や公私の社会福祉事業関係者等を会員として成り立っている公共性の高い民間団体であり、地域福祉の拠点としての役割を果たすことが求められているところ、その財政基盤の充実は、国家・地方自治体の財政拠出が余り期待できない以上、民間からの寄附などによらざるを得ないのが実態である。しかるに、措置法及び措置法施行令について、原判決及び被控訴人が解釈したように限定的に解釈するときは、右のような公益法人の財務基盤の充実という社会的要求に反する結果をもたらす。

したがって、萩市社協において本件株式を譲渡し、その譲渡代金を定期預金にしてその利息をもって公益事業の費用に充てた場合にあっても、これをもって公益事業の用に供したといえるとするように解釈されるべきものである。

よって、原判決のような限定解釈は、措置法施行令二五条の一七第二項二号の解釈の誤りであり、その理由は以下に述べるとおりである。

(二) 措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書は、「寄附財産について、一定のやむを得ない理由があり譲渡する」場合で、かつ「当該譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利を取得したときには」「その資産について事業供用要件の有無を判断する」旨を規定するのみであり、「当該財産の譲渡につき第四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由によらなければならない」との規定ではなく、「代替資産が当該譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって取得された減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利に限定される」旨規定しているものでもない。

(三) 原判決は、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書において、減価償却資産、土地又は土地の上に存する権利である寄附財産を譲渡して代替資産を取得する場合だけを確認的、注意的に規定すべき理由は見出せない旨述べる。

しかし、措置法四〇条二項かっこ書は、政令への委任について「…収用等があったことその他政令で定める理由により当該財産の譲渡をした場合…」とし、「収用等」との文言があるが、収用等の対象となるのは土地建物等であり、株式は収用の対象とならない。このことから、株式などが譲渡された場合について、措置法施行令二五条の一七第二項二号には規定されていないと考えられる。

また、有価証券の譲渡所得は平成元年から原則課税に改められ、本件のような問題が新たに生じることになった。しかも、その課税は申告分離課税によるか、源泉分離課税によるかは納税者の選択となった。このような改正が行われたにもかかわらず、措置法四〇条関係法令には何ら改正が行われなかった。このことから、立法者においては、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書の寄附財産には有価証券を含まないとの考えがあったものと推認できる。なぜなら、公益法人が寄付された有価証券を現金化すると寄付した個人に課税が及ぶものとすると、そのときの課税について、申告分離か、源泉分離かの選択権についても規定があるはずであるところ、その規定がないからである。

(四) 原判決は、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書は、譲渡の対象となる寄附財産について「当該財産」と規定するだけであって、これを減価償却資産、土地又は土地の上に存する権利に限定していない旨述べる。

しかし、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書は、当該財産について、措置法施行令二五条の一七第四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由により当該財産の譲渡をする場合、当該譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利を取得するとき、「これらの資産」について、事業供用要件を満たすことを要するものとしたものにすぎない。

すなわち、譲渡の対象となる寄附財産について限定はないが、事業供用要件を判断する対象について、当該譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利を取得するときには、これらの資産について、事業供用要件を満たすことを要するものとしたものにすぎない。

この法令の文言解釈として、右以外の代替財産について、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書は何ら規定していないとみるべきである。

(五) 原判決は、「非課税規定はみだりに拡張して解釈適用すべきものはないところ、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書の定める要件に該当する譲渡は措置法施行令二五条の一七第四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由によって譲渡した場合に限られていることからして、控訴人らの主張は採用し難い」旨述べる。

しかし、原判決は、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書の定める要件に該当する譲渡が措置法施行令二五条の一七第四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由によって譲渡した場合に限られていることから、なぜ当該譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって取得する減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利に代替資産を限定するのか、その理由を明らかとしていない。

そして、被控訴人・原判決のとおりに解釈することは政令に具体的規定を委任した措置法の政策的考慮と税負担公平の原則のバランスを崩すものではないかとの控訴人らの主張に対しては、「措置法四〇条一項後段の委任の限度を超えるものではないから、控訴人らの右主張は前提を欠き失当である」旨述べるのみであり、やはり何ら実質的な理由を示していない。

被控訴人は、措置法における非課税要件規定は、課税要件規定とは異なる何らかの財政、経済政策的配慮から定立されるものである旨述べ、原判決は被控訴人の主張を認めるかのようである。しかし、本件特例は、単なる財政、経済政策的配慮に基づくものではなく、もっと根元的な、「社会費用の分担」という点において、税金の支払も民間公益事業への寄附も変わるところがないことから、このような「社会費用の分担」に対する課税が社会的費用の分担を二重に課する結果となることを一定限度で排除する社会政策的な配慮・要請に基づくものである。本件特例の解釈適用において、他の非課税規定と同様の立場から解釈することは、余りに大雑把すぎるものである。

(六) 措置法施行令二五条の一七第二項二号の事業供用要件の判定は、「当該財産そのものが、直接、当該公益事業の用に供されるかどうかにより」判定するものとされている(措置法四〇条通達八本文)。

このことから、当初行政当局の解釈としては、寄附財産そのものを公共の用に供する場合のみを想定していたことは明らかである。

しかし、行政当局は、措置法四〇条通達八ただし書として、寄附財産が株式、著作権等の場合に、果実の全部が直接かつ継続して公益事業の用に供されるか否かにより事業供用要件を判定する取扱いを行っている。

これは、「寄附財産の性質上直接公益事業の用に供することができないものであっても、」本件特例を認めるべき場合のあることを、被控訴人自身認識し、かつ、本件特例を認めても本件特例の趣旨に反しないものと被控訴人自身認めたものにほかならない。

被控訴人は、措置法四〇条通達八ただし書について、「株式の配当金や著作権の印税収入など、当該寄附財産を他の事業の用に供することなく、寄附財産そのものから必然的に発生する利益があればその利益も寄附財産そのものと同視しうるとも考えられることを根拠としている」としている。しかし、配当金請求権や著作権の印税請求権は、法律上株式や著作権とは別個の独立した権利である。株式の配当金を受領することと、株式の売得金全額をもってする定期預金の利息金を受領することと、どこに実質的な違いがあるのであろうか。そして、株式の売却金であっても、その全額をもってする定期預金として特定性が維持され、他の事業の用に供することがない場合には、右定期預金も株式そのものと同視できると解する余地があるのではないか。

また、株式・著作権などは、その権利の管理が公益法人には困難である。株式・著作権に伴う権利義務を適切に行使しなければ、その権利自体を失効させてしまう可能性もある。このような権利維持の手間・暇を強要することが法の趣旨なのか。このようなことを考えれば、株式そのもの、著作権そのものを保有するより、これを換価した金銭を保有する方が、公益法人にとっては有益である。このような事情を考え合わせるときは、売却金全額をもって定期預金とするなど特定性が維持されており、その特定された金員から生じる果実を公益事業に役立てている場合には、「これらに準ずるやむを得ない理由」ありと考えることができるものと考える。

そして、このように解釈することは、「課税要件規定が実現維持しようとする租税負担の公平等の理念」を何ら阻害するものとはならない。なぜなら、措置法施行令二五条の一七第二項三号は、「当該贈与者若しくは遺贈者の所得に係る所得税の負担を不当に減少させ、又は当該贈与者若しくは遺贈者の親族その他これらの者と相続税法第六四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税若しくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること」として、租税負担の公平等の理念を阻害する場合について、既に規定があるからである。

(七) 以上のように、措置法施行令二五条の一七第二項二号は、寄附財産と実質的に同一性があると評価できる代替資産(金銭を含む)を公益事業の用に供する場合も、事業の用に供しているものと評価される旨を規定したものと解すべきである(同号かっこ書は、その一定の特殊な場合について確認的、注意的に規定したものにすぎない)。

したがって、本件株式の寄附の場合も、譲渡代金(証券会社手数料を控除したのみでその全額)を定期預金にしてその利息をもって公益事業の費用に充てられているのであるから、寄附財産と定期預金とは実質的には同一性があると評価されるべきであり、事業供用要件を満たしているというべきである。

2  控訴人らの主張に対する判断

(一) 控訴人らは、措置法施行令二五条の一七第二項二号は、寄附財産と実質的に同一性があると評価できる代替資産(金銭を含む)を公益事業の用に供する場合も、事業の用に供しているものと評価される旨を規定したものと解すべきであり、同号かっこ書は、その一定の特殊な場合について確認的、注意的に規定したものにすぎないのであって、寄附財産の売却金全額をもって定期預金とするなど特定性が維持されており、その特定された金員から生じる果実を公益事業に役立てている場合には、事業供用要件を満たしているというべきであるとして、その理由についてるる主張する。

しかし、措置法施行令二五条の一七第二項二号は、措置法四〇条一項後段が、公益法人に対する財産の贈与等で、当該贈与等が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することその他の政令で定める要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたものについては、所得税法五九条一項一号のみなし譲渡所得課税の規定の適用に当たって、当該財産の贈与等がなかったものとみなす旨規定しているのを受け、「政令で定める」場合として、「当該贈与又は遺贈に係る財産(当該財産につき第四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由により当該財産の譲渡をする場合において、当該譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利を取得するときは、これらの資産)が、当該贈与又は遺贈があった日以後二年以内に、当該財産を受けた法人の当該贈与又は遺贈に係る公益を目的とする事業の用に供され、又は供される見込みであること」と規定するものである。

その規定の仕方に照らすと、同規定の解釈としては、当該贈与等に係る財産が、当該贈与等があった日以後二年以内に、当該財産を受けた法人の当該贈与等に係る公益を目的とする事業の用に供され、又は供される見込みであるときは、事業供用要件を満たすものであり、また、当該贈与等に係る財産につき第四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由により当該財産の譲渡をする場合において、当該譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利を取得するときは、これらの代替資産が、当該贈与等があった日以後二年以内に、当該財産を受けた法人の当該贈与又は遺贈に係る公益を目的とする事業の用に供され、又は供される見込みであるときも事業供用要件を満たすものであるとしたものと解すべきである。

これに対し、贈与等に係る財産について、やむを得ない理由として国税庁長官が認める理由以外の理由により譲渡された場合、あるいは、譲渡による収入金額をもって減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利以外の財産が取得された場合には、その取得された代替資産について、当該贈与等があった日以後二年以内に、当該財産を受けた法人の当該贈与等に係る公益を目的とする事業の用に供され、又は供される見込みであるとしても、事業供用要件を満たすものと解すべき根拠規定はないといわざるを得ない。

(二) 控訴人らは、控訴人らの主張(一)において、事業供用要件について右のように限定的に解釈するときは、公益法人の財務基盤の充実という社会的要求に反する結果をもたらすと主張する。しかし、措置法四〇条一項後段が本件特例を定めた趣旨として、公益法人の財務基盤の充実という面があるからといって、そのことから直ちに、寄附財産と実質的に同一性があると評価できる代替資産(金銭を含む)を公益事業の用に供する場合も、事業の用に供しているものと評価される旨を規定したものであると解すべきことの根拠となると認めることはできない。

(三) 控訴人らは、控訴人らの主張(二)において、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書は、「当該財産の譲渡につき第四項各号に規定する理由その他これらに準ずるやむを得ない理由として国税庁長官が認める理由によらなければならない」との規定ではなく、「代替資産が当該譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって取得された減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利に限定される」旨規定しているものでもないと主張する。しかし、(一)で述べたとおりの本文とかっこ書の規定の仕方に照らすと、控訴人らの主張するような解釈を採用することはできない。

(四) 控訴人らは、控訴人らの主張(三)において、措置法四〇条二項かっこ書には「収用等」との文言があるが、株式は収用の対象とならないから、株式などが譲渡された場合について、措置法施行令二五条の一七第二項二号には規定されていないと考えられると主張する。しかし、措置法四〇条二項かっこ書は、収用等があった場合と並列して、その他政令で定める理由により当該財産を譲渡した場合を挙げているのであり、収用の対象とならない財産については、措置法施行令二五条の一七第二項二号に規定されていないと解することはできない。

また、控訴人らは、控訴人らの主張(三)において、有価証券の譲渡所得は平成元年から原則課税に改められ、申告分離課税によるか、源泉分離課税によるかは納税者の選択となったが、このような改正が行われたにもかかわらず、措置法四〇条関係法令には何ら改正が行われなかったから、立法者においては、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書の寄附財産には有価証券を含まないとの考えがあったものと推認できると主張する。しかし、平成一一年法律第九号による改正前の措置法三七条の一一によれば、上場株式等に係る譲渡所得等の源泉分離選択課税は、一定の場合に限定されており、公益法人が寄付された上場株式等を譲渡したことにより、非課税承認を取り消された場合、納税者たる寄付者において、源泉分離課税を選択できるものと解すべき根拠を肯定することはできない。

(五) 控訴人らは、控訴人らの主張(四)において、法令の文言解釈として、減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利以外の代替資産については、措置法施行令二五条の一七第二項二号かっこ書は何ら規定していないとみるべきであると主張する。しかし、(一)で述べたとおりの本文とかっこ書の規定の仕方に照らすと、控訴人らの主張するような解釈を採用することはできない。

(六) 控訴人らは、控訴人らの主張(五)において、原判決は、減価償却資産、土地及び土地の上に存する権利に代替資産を限定する理由を明らかにしておらず、また、措置法の政策的考慮と税負担公平の原則のバランスを崩すものではないかとの控訴人らの主張に対しても何ら実質的な理由を示していないが、本件特例は、社会的費用の分担を二重に課する結果となることを一定限度で排除する社会政策的な配慮・要請に基づくものであるから、本件特例の解釈適用において、他の非課税規定と同様の立場から解釈することは、余りに大雑把すぎると主張する。しかし、(一)で述べたとおりの本文とかっこ書の規定の仕方に照らすと、代替資産についても事業供用要件を満たすとされる場合が一定の場合に限定されていることは明らかであり、措置法四〇条一項後段が本件特例を定めた趣旨を考慮したとしても、そのことから直ちに、他の非課税規定とは異なり、本件特例の適用される場合について拡大解釈をすべきことの根拠となると認めることはできない。

(七) 控訴人らは、控訴人らの主張(六)において、措置法四〇条通達八ただし書として、寄附財産が株式等の場合に、果実の全部が直接かつ継続して公益事業の用に供されるか否かにより事業供用要件を判定する取扱いを行っているが、これは、「寄附財産の性質上直接公益事業の用に供することができないものであっても、」本件特例を認めるべき場合のあることを認めたものにほかならないのであって、管理が困難な株式そのものを保有するより、これを換価した金銭を保有する方が公益法人にとっては有益であるから、売却金全額をもって定期預金とするなど特定性が維持されており、その特定された金員から生じる果実を公益事業に役立てている場合には、「これらに準ずるやむを得ない理由」ありと考えることができると主張する。しかし、寄附財産の性質上直接公益事業の用に供することができないものであっても、本件特例を認めるべき場合があるとされているからといって、そのことから直ちに、寄附財産が譲渡された場合であっても、譲渡代金全額について定期預金とするなど特定性が維持され、その特定された金員から生じる果実を公益事業に役立てている場合には、なお事業供用要件を満たすものと解することができるといえるものではなく、また、寄付された株式をそのまま保有するより、換価した金銭を保有する方が公益法人にとっては有益な場合があるからといって、その換価のための譲渡について、措置法施行令二五条の一七第四項各号に列挙する理由に準ずるやむを得ない理由による譲渡に該当するものと認めるには足りないというべきである。

第四結論

以上によれば、控訴人らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当であり、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 石垣君雄 芝田俊文 橋本昌純)

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