東京高等裁判所 平成13年(ネ)5029号 判決 2002年1月29日
東京都港区赤坂七丁目6番11号
控訴人(被告)
株式会社バーニングパブリッシャーズ
代表者代表取締役
周防郁雄
訴訟代理人弁護士
矢田次男
同
渡邉誠
東京都渋谷区神宮前六丁目17番11号
被控訴人(原告)
株式会社アンリミテッドグループ
代表者代表取締役
眞下幸孝
訴訟代理人弁護士
北村行夫
同
大井法子
同
大江修子
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
原判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文と同旨
第2 事案の概要及び当事者の主張
本件は、被控訴人(原告)と控訴人(被告)との間で締結された、音楽の共同著作物に係る共有著作権行使の代表者の地位を控訴人とした契約(本件各契約1、2)の被控訴人による解除の効力が争われ、解除を有効と判断して、控訴人が原判決添付の別紙楽曲目録1、2記載の共有著作物について著作権法65条、64条所定の共有著作権行使の代表者の地位にないことを確認した原判決に対する控訴事件である。
当事者の主張は、次の1及び2のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第1 事案の概要」欄に記載のとおりである。
1 当審における控訴人の主張の要点
(1) 本件基本合意及び本件プロモート契約
控訴人と被控訴人は、平成9年ころアーティスト「GLAY」が訴外株式会社ジャパンミュージックエージェンシー(JMC)から被控訴人(変更前の商号「株式会社ボーダレスコレクション」)に所属事務所を移籍したのに伴い、移籍後の「GLAY」の楽曲について、控訴人を代表出版社として、控訴人と被控訴人の共同出版契約を締結する旨の合意(以下「本件基本合意」という。)を締結した。
また、「GLAY」の楽曲については、以前からJMAと控訴人との間で、控訴人が「GLAY」の楽曲の録音物についてプロモーション活動を行い、JMAが控訴人に対して所定のプロモート印税(録音物の価額を基礎に算出)を支払うことを内容とするプロモート契約(乙第2号証)が締結されていたところ、「GLAY」の被控訴人への移籍に伴い、訴外進商事株式会社(以下「進商事」という。)と被控訴人との間で、移籍後発売される「GLAY」の楽曲について、乙第2号証の契約と同様のプロモート契約を締結する旨の合意がなされた(以下「本件プロモート契約」という。)。
なお、進商事は、控訴人の代表取締役である周防郁雄の妻が代表取締役を務める会社であり、控訴人の関連会社であるが、被控訴人は、もともと控訴人ないし周防郁雄を中心とするバーニンググループ全体によるプロモート活動を期待し、進商事も周防郁雄も、バーニンググループ全体でプロモート活動することに合意したものである。
(2) 本件各契約の締結及び本件プロモート契約の履行
本件基本合意に基づき、控訴人と被控訴人との間で、平成10年4月29日発売の「誘惑」等の楽曲以降、控訴人を代表出版社とすること等を内容とする本件各契約1が締結された。また、被控訴人に所属するその他のアーティストの楽曲についても、控訴人を代表出版社とすること等を内容とする本件各契約2が締結された(本件各契約1、2の詳細は原判決の事実及び理由欄「第1 事案の概要」の「1 契約の成立」に記載のとおりである。)。
また、本件プロモート契約についても、平成10年7月29日発売のアルバム「PURE SOUL」以降、それぞれ履行され、被控訴人からプロモート印税の支払いがなされていた。
(3) 被控訴人の債務不履行(本件基本合意の債務不履行及び本件プロモート契約に基づくプロモート印税の不払い)
ところが被控訴人は、本件基本合意に反して「GLAY」の楽曲をJASRACに届け出て登録を受けた(本件基本合意の債務不履行)。また、被控訴人は、平成12年8月16日付け通知書により、進商事に対して、本件プロモート契約に基づくプロモート印税の支払いを一方的に取りやめる旨通知した(乙第4号証)。本件プロモート契約の期間は、原盤を使用したレコードが発売されている期間中であり、一方的に終了させることができないものであるから、プロモート印税の不払いは、被控訴人の進商事に対する債務不履行に当たる。
控訴人は、本件基本合意の遵守とプロモート印税の支払いを求めて被控訴人との間に協議を持ったが不調に終わり、その後も被控訴人は不誠実な態度に終始した。
(4) 解除権の濫用
上記のとおり、本件基本合意を被控訴人が一方的に破棄し、本件プロモート契約に基づくプロモート印税を支払わないために、控訴人及び進商事は、多額の損害を受けたので、控訴人は、本件各契約1及び同2に基づく著作物使用料を支払う必要がないと考え、支払いをしなかったのである。
本件基本合意は、控訴人と被控訴人との間の合意であり、本件各契約1の対象となる共同著作物が「GLAY」の楽曲であることから、本件基本合意と本件各契約1、2とは極めて関連性が高い。また、本件プロモート契約は、契約当事者が進商事であるものの、プロモート活動は、控訴人を中心とする関連会社全体でなすものであり、かつ、プロモート印税として被控訴人が支払ってきた対象楽曲は、本件各契約1の対象楽曲とほぼ同一であるから、これについても関連性が高い。
以上の事情の下で、本件各契約1、2との関連性の高い本件基本合意及び本件プロモート契約を一方的に不履行にし、かつ、不誠実な態度をとった被控訴人が、控訴人の共同著作物使用料の不払いを理由に本件契約1、2について解除権を行使することは、契約当事者の信義誠実に著しくもとる行為であり、被控訴人が平成13年6月11日に控訴人に対してした解除の意思表示は、解除権の濫用に当たる。
よって、被控訴人のした解除の意思表示は無効であり、被控訴人の請求は棄却されるべきである。
2 被控訴人の反論の要点
(1) 被控訴人は、控訴人との間で控訴人主張の「本件基本合意」を締結したことはないし、訴外進商事との間で「本件プロモート契約」を締結したこともない。共同出版契約やプロモート契約は、個々の原盤ごとに、順次締結されてきたものである。
仮に、本件基本契約や本件プロモート契約が締結されていたとしても、本件各契約についての控訴人の債務不履行を理由として、被控訴人が本件各契約を解除することに何ら違法な点はない。
(2) 被控訴人は、進商事に対し、「ご通知」と題する書面(乙第4号証)によって同書面記載の各原盤についてプロモート印税の支払い期間満了を通知した。同書面記載の各原盤についてのプロモート契約は、期間の定めのない契約であり、一方的に終了させることができるものであるから、同書簡による被控訴人の意思表示によって終了した。したがって、以後、進商事に対してプロモート印税を支払わないことが進商事に対する債務不履行になることはない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も原告の請求は理由があるものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第2 当裁判所の判断」の「1 請求原因について」の説示のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人は、平成13年6月11日に被控訴人が控訴人に対してした解除の意思表示は、解除権の濫用に当たるものである旨主張し、濫用を基礎づける事実として、被控訴人に本件基本合意及び本件プロモーション契約の債務不履行があったこと等を主張する。
しかしながら、控訴人の主張する本件基本合意及び本件プロモーション契約は、本件各契約1、2と何らかの関連性を有するとしても、それらとは別個独立の法律関係であると評価されるものであるから、控訴人の主張する事実はいずれも解除権濫用の主張を理由あらしめる事実とは認めることができず、控訴人の主張は、主張自体失当である。
2 加えて、控訴人が本件基本合意及び本件プロモーション契約の成立を証するものであると主張する共同出版契約書(乙第1号証)及びプロモーション活動に関する契約書(乙第2号証)は、各契約書に掲記された特定の楽曲ないし原盤を対象とする契約であると認められ、控訴人が主張する本件基本合意及び本件プロモーンヨン契約の成立を裏付けるものとは認められない。また、他に控訴人主張の本件基本合意及び本件プロモーション契約の成立を認めるに足りる証拠はない。
したがって、控訴人の主張は、前提を欠くものであって、この点からも採用することができない。
3 よって、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法67条1項、61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 古城春実)