東京高等裁判所 平成13年(ネ)6133号 判決 2002年7月16日
控訴人
A野
代表者会長
B山松夫
訴訟代理人弁護士
雨宮英明
被控訴人
社団法人東京国際見本市協会
代表者理事
C川竹夫
訴訟代理人弁護士
犬塚浩
同
深澤直之
同
尾﨑毅
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、控訴人に対して、三三三三万八九二二円及びこれに対する平成一二年二月二二日から支払済みに至るまで年五分の金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行の宣言
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二事案の概要
一 本件は、控訴人の設立三〇周年の記念パーティー(以下「本件パーティー」という。)を開催しようとして、被控訴人が管理運営する東京ビッグサイトの施設の一部(以下「本件施設」という。)の貸与を受ける利用予約を締結していた控訴人が、パーティー開催予定日の六日前に被控訴人から一方的に施設利用承認の取消しの意思表示を受けたため、パーティーの開催中止を余儀なくされたと主張して、被控訴人に対し、施設利用契約の債務不履行を理由に、料理のキャンセル料等の損害三三三三万八九二二円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一二年二月二二日から支払済みに至るまでの遅延損害金の支払を請求した事案である。
第一審は、被控訴人の利用予約の取消しの意思表示は、当初の予約の契約内容として被控訴人に留保された利用承認取消事由である「管理の都合上なむを得ない理由が発生したとき」に該当する事由があり、取消権の行使として有効なものであって、被控訴人には債務不履行責任はないと判断して、控訴人の本件請求を棄却した。
二 当事者間に争いのない事実等、争点及び争点に関する当事者の主張
当事者間に争いのない事実等、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の第二の一及び二記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 補正
ア 原判決二頁一〇行目の「ビッグサイトという。)」の次に「の建物、工作物、立木を東京都から無償で貸与を受けて、これ」を、同一三行目の「目的として、」の次に「控訴人の担当者というD原梅夫弁護士を申込人として、」をそれぞれ加え、同一六行目から一七行目にかけての「申込みをした。」を「申込みをし、利用代金九四万二九〇〇円をその場で支払った。」に改め、同二六行目末尾に「被控訴人は、同月二八日、受領していた利用代金九四万二九〇〇円を控訴人の担当者の申込人D原梅夫弁護士に対して弁済供託した。」を加える。
イ 同三頁一四行目から一五行目にかけての「違法な点は存在せず、」を「債務不履行があるとはいえないから、」に、同二六行目の「公的機関」を「公益法人」にそれぞれ改め、同四頁五行目末尾に「また、一部新聞社からも被控訴人に取材があり、同様な指摘をしていた。」を加え、同二四行目及び同五頁六行目から七行目にかけての各「公的施設」を「産業の育成・振興を図るための施設」に改め、同七頁九行目の「翌二三日、」の次に「控訴人の代表者B山松夫は、」を、同二四行目の「防ぐどころか」の次に「、ニュートーキョーに注文していた料理を予定どおり準備するよう指示するなど」をそれぞれ加える。
(2) 当審で付加した当事者の主張
ア 控訴人
(ア) 東京都の委託を受けて被控訴人が管理運営に当たっている本件施設は、地方自治法二四四条一項にいう「公の施設」に当たる。本件施設が、住民の福祉を増進する目的を持って住民の利用に供されていることは明らかである。設置・管理に関する条例がないからといって「公の施設」ではないとはいえないし、同法二四四条の二は、地方公共団体が公の施設の管理を公共団体等に委託することができるとし、その場合には管理受託者による利用料金の設定を認めているのであるから、本件施設の管理、運営に被控訴人の自主性、自律的経営が認められているからといって本件施設が「公の施設」に当たらないとはいえない。したがって、同法二四四条二項により、地方公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならず、同条三項によれば、施設利用につき、不当な差別的取扱いをしてはならないのである。施設の設置目的に反しない限り、住民の利用は原則的に認められるべきものであり、管理者が正当な理由なくこれを拒むことは、憲法の保障する集会の自由の制限となるのである。「公の施設」の利用の拒否処分の違法性が争われた最高裁判所の判例(最高裁判所平成七年三月七日判決・民集四九巻三号六八七頁、同平成八年三月一五日判決・民集五〇巻三号五四九頁)によれば、公の施設の使用を許可しないことが許されるのは、その施設を利用して集会等が行われることによる、人の生命、身体若しくは財産の侵害又は公共の安全が損なわれることの危険を回避し防止することの必要性が優越する場合に限られ、その危険性の程度も単に危険な状態が生ずる蓋然性があるだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される場合に限られるのである。本件においては、人の生命、身体若しくは財産が侵害されるとか、公共の安全が損なわれるという危険は全くなく、明らかに差し迫った危険が具体的に予見されてもいなかったのであり、被控訴人の利用承認の取消しは、地方自治法二四四条、憲法二一条に違反した不当なものである。
(イ) 仮に、本件施設が「公の施設」に当たらないとしても、被控訴人は、東京都から無償で本件施設の貸与を受け、その役員は東京都の知事、職員、退職者で占められ、会計その他の運営全般にわたって東京都の指導を受けているなど東京都と密接な関係を有している公的団体ないしこれに準ずる団体である。したがって、本件施設の利用に関しては、憲法二一条、一四条、地方自治法二四四条の趣旨が類推適用されるべきである。
(ウ) 被控訴人は、本件施設利用を承認することは、暴力団の活動支援と受け取られ、社会的非難を受けるというが、集会の自由を尊重する趣旨の前記最高裁判所の判決で示された限定的な場合以外は、使用を許可しなければならないのであって、仮に社会的非難を受けたとしても、その非難自体が不当なものであるから、このことは使用させない合理的な理由にはならない。
また、控訴人の構成員に暴力団と関係する者がいることは事実であるが、控訴人は、最大級の規模を持つ政治団体であり、綱領等に基づいて三〇年間活動をしてきており、構成員の中に犯罪行為に走った者がいるとしても、組織として違法行為をしたことはない団体である。控訴人に本件施設を利用させることが暴力団活動を助長することにはならない。
さらに、控訴人の本件施設利用により、交通上の混乱が生ずる危険性もなかった。本件施設は交通量も少ない都心から離れた地域にあり、敷地面積は二四万三四一九・四六m2もあり、駐車場も完備していたから、街宣車が出ていたとしても交通の混乱の余地はなかった。
また、招待客が当日施設内外で騒ぎを起こすことはあり得ず、当時右翼団体や暴力団同士の抗争もなかったのである。
控訴人が使用を許可されていたのは、一七〇〇m2のレセプションホールと一八〇m2の一〇一号室及び一〇二号室であり、それらのホワイエ部分も使用が許諾されていたから、二〇〇〇名の招待客を収容することは十分に可能であったし、また、当日他の展示会が開催されていたという事情もなかったから、管理上問題が生ずる余地はなかった。
(エ) 集会、結社、表現の自由は最も重要で優越的な基本的人権であり、思想、信条や所属する集団等に関係なく、平等に保障されなければならないものであり、明白かつ差し迫った具体的な危険もないのに、この重要な基本的人権を制約することは何人にも許されない。被控訴人の本件使用承諾取消しは明らかに不当であって、権利の濫用である。
イ 被控訴人
(ア) 本件施設は、地方自治法二四四条一項にいう「公の施設」ではない。本件施設は、東京都の所有財産であるが、都内の企業のみならず、都外、海外の企業及び団体を利用の対象としており、主として産業の育成・振興を目的としているものであって、住民の福祉を目的とした「公の施設」とは異なる。「公の施設」では、設置、管理、廃止は、当該地方公共団体の長の権限であり、設置、管理に関する事項は、原則として条例で定められる。また、「公の施設」では、「管理委託」の方法で運営され、原則一年前の予約、重複申込みに対しては抽選という平等、公平を図る方法がとられ、条例で料金を定めることとなるが、本件施設では、普通財産の貸与という私的契約の方法がとられ、契約の目的、用途に反しない限り、被控訴人が自ら運営方法を決することができる経営の自主性、自立性が認められ、契約の自由の観点から、利用者との関係でも、継続的利用者や優良な申込みの優先などの措置をとることが可能であり、料金も弾力的な決定が可能となっている。このように、本件施設は、公有財産ではあるが、「行政財産」ではなく、「普通財産」として被控訴人に貸与されているのである。
(イ) したがって、本件施設の利用拒絶の正当性判断基準と、地方自治法上の「公の施設」の「正当な理由がない限り」(地方自治法二四四条二項)又は「不当な差別的取扱いをしてはならない。」(同条三項)という利用不許可事由の判断基準とを同視することはできない。控訴人主張の最高裁判所の判例は、いずれも地方自治法二四四条一項の「公の施設」の利用不許可事由の判断基準に関するものであり、本件施設の場合に適用されるものではない。
(ウ) 控訴人は、指定暴力団E田会と人的結びつき、特に幹部級の結びつきが強く、本件パーティーの参加者にも暴力団の幹部級の者が複数いるのであるから、控訴人と暴力団との結びつきは極めて密接なものがある。また、本件施設の東京都との貸与契約にもあるとおり、本件施設は、本来見本市会場として利用されるものであり、産業の育成・振興を主目的としているものであるから、その目的と行動が反社会的な団体の利用申込みに対しては、これを拒絶すべき必要性を有しているのである。さらに、本件会場周辺の都心に通ずる道路の交通量は多く、控訴人が本件施設利用を予定していた五月二四日には約二万四〇〇〇人もの作業者や来場者が見込まれていた。控訴人関係の来場者の殆どは車両を利用する予定であったから、駐車場及び路上での混乱が十分に予測された。
控訴人は、参加者を偽って六〇〇人として申込みをしたが、招待状だけでも概ね四〇〇〇通を発送していたのであるから、実際には四五〇〇人ないし五〇〇〇人の来場者が予想されることとなる。控訴人には参加人数について的確な情報を被控訴人に開示する意思がなかったし、式典の内容等についても約束どおりの報告を何らせず、被控訴人からの催促によりようやく直前に開示したのである。
第三当裁判所の判断
一 争点(1)(本件施設利用承認取消しの正当性)について
(1) 《証拠省略》によれば、東京都から「東京ビッグサイト」施設の無償貸与を受けた被控訴人が、産業の育成・振興の目的の下で、展示場、見本市会場として企業団体等に利用させている本件施設の利用契約は、私法上の会場貸与契約であることは明らかであり、その契約内容を定めたものといえる「東京ビッグサイト会議施設ご利用案内」には東京ビッグサイトの会議施設の利用細則が定められていることが認められ、《証拠省略》によれば、控訴人は上記案内に定められた利用細則を遵守することを承諾した上で本件施設利用の申込みを行っていることが認められるから、控訴人の施設利用申込みとそれに対する被控訴人の承認によって成立した本件施設利用の合意により、控訴人と被控訴人は、上記案内の利用細則に定められた権利義務を負うこととなる。そして、上記案内の3の(2)には、「お申し込み時の利用目的と利用時の内容が著しく異なるとき」、「管理の都合上やむをえない理由が発生したとき」等の事由が存在する場合、被控訴人に施設利用承認の取消権が留保される旨が定められている。
したがって、本件においても、上記の事由に該当する事実が存在する場合には、被控訴人は本件施設利用承認の取消権を有することとなるから、その場合には被控訴人のした本件利用承認取消しは何ら債務不履行を構成しないこととなる。
以下、上記事由に該当する事実が存在するか否か検討する。
(2) 《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる(争いのない事実も含む。)。
ア 被控訴人の団体としての性質
被控訴人は、当初通商産業大臣認可の公益社団法人として昭和三一年に設立された団体で、東京国際見本市などの見本市開催等を事業としていたが、東京都が東京ビッグサイトを被控訴人住所地に竣工すると、東京都の委託を受け東京ビッグサイトの管理運営にも当たることとなった。被控訴人の認可主体は、平成一二年一〇月から東京都知事に移管している。
東京ビッグサイトは、年間八〇〇万人程度の人が来集する規模を有する施設である。
イ 警視庁等からの中止要請
被控訴人は、平成一一年五月一八日、警視庁暴力団対策課から、控訴人の幹部には暴力団関係者がいるのでそのような団体に本件施設を貸すことを中止するよう強く要請を受けた。また、同日、被控訴人は、本件施設の所有者であり被控訴人に本件施設の管理を委託している東京都からも上記同様の要請を受けた。なお、被控訴人は、上記中止要請を受ける数日前にマスコミや警視庁深川警察署から控訴人に対する本件施設利用承認に関する問い合わせを受け、懸念していたところであった。
ウ 控訴人の団体としての性格
(ア) 控訴人の前身である右翼団体A田は、昭和三六年にB野春夫とC山夏夫が設立した団体である。初代会長はB山春夫であり、同人は、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第三条により指定された指定暴力団であるE田会のE田一家B野会会長でありE田会の幹部であった。上記A田は昭和四四年ころに発展的に解消され、控訴人が発足した。控訴人の初代会長も上記B野であった。
控訴人の現代表者であるB山松夫は、昭和四七年頃から控訴人に所属していたが、同時にE田会E田一家B野会に所属しており、その組織委員長を務めていた者であるが、平成一一年頃B野会を辞め、控訴人の代表者に就任した。
控訴人は、「日本の国体と歴史に基づき政治と文教を粛正し国権と領土を回復」すること等、いわゆる右翼運動を行うことを綱領として掲げ、例えば、中華人民共和国との間の尖閣諸島領有権帰属問題に関し、尖閣諸島の魚釣島に灯台を設置し保守点検を行うなどの活動を行ってきた団体である。
(イ) 控訴人発行の機関誌「D川」平成一〇年一月一日号に記載された控訴人の幹部のうち八名の者は、E田会の上級幹部(E田会E田一家総長一名、E田会会長一名、E田会E田一家B野会四名、E田会E田一家E原五代目A川会二名)であった。すなわち、当時控訴人の最高顧問であったB原秋夫は、E田会E田一家六代目総長であり、控訴人の顧問であったC田冬夫は、E田会会長であった。
また、控訴人が開催を予定していた本件パーティーの式次第に挨拶等をする者として記載された一〇名のうち四名がE田会系の暴力団構成員であり(E田会E田一家D野六代目一名、E田会E田一家E山六代目一名、E田会E田一家E原五代目A川会一名、E田会E田一家B野会一名)、本件に関して被控訴人と交渉した控訴人側担当者四名のうち三名は、E田会E田一家の者であり、特に、控訴人の事務局長として前面にたって被控訴人と交渉したA山事務局長は、控訴人に所属する者ではなく、E田会E田一家B野会の構成員であり、事務局長であった。
(ウ) 控訴人が平成元年ころ自治大臣等に届け出た控訴人事務所所在地は、E田会B野会の本部と同室であり、平成一〇年ころからの控訴人事務所所在地は、同B野会D田本部と同じ建物内の隣室同士であった。
(エ) 控訴人は、E田会系の組織に慶弔事の際に香料等を支払っている。
(オ) 控訴人の構成員や関係者の一部は、控訴人の右翼団体としての威力を背景にして街宣車で業務を妨害すると脅迫するなどして恐喝や恐喝未遂、傷害、暴行、弁護士法違反、建造物損壊などといった犯罪行為を犯している。このような事件は、新聞に掲載されただけで、この一〇年程度の間に少なくとも一五件に上っている。控訴人が所有する街宣車の数は全国で約八〇台(自称)である。
また、平成一二年八月八日白昼、本件パーティーの式次第において「中締め」を行う者として記載のあった訴外B川一郎が会長をしている右翼団体C原の関係者とE田会系暴力団の組員とが、千代田区麹町のビルにおいて短銃を撃ち合い二人が死亡するなど、オフィス街が騒然とする事件が発生した。当時、付近の会社員、住民等が「まきぞえをくわなくて良かった」、「客に流れ弾が当たったらと思うと恐ろしい」等と述べた新聞記事が掲載された。
エ 全日空ホテルの開催拒否
控訴人は、控訴人設立二五周年パーティーを全日空ホテルで開催したが、今回の三〇周年記念パーティーについては、被控訴人に対して本件施設の利用申込みをする前に、全日空ホテルから会場としての利用を拒絶されていた。
オ 参加人数の申告
(ア) 控訴人は、被控訴人に対し、平成一一年三月一九日の本件施設利用申込みに際し、参加者を六〇〇名と申告した。
(イ) 控訴人は、本件パーティーの招待状を約四〇〇〇通発送し、そのうち実際の参加者として当初から二〇〇〇人程度の参加を予定していたが、同年五月一七日に至り、被控訴人からの問い合わせに対して、初めて本件パーティーに約二〇〇〇名が出席することを報告した。
(ウ) 本件施設のうち、レセプションホールとこれに関連する施設の最大収容人数は約一三〇〇名程度である。
(3) 以上の認定事実によれば、控訴人は、本件施設利用申込みに際し、その参加者が二〇〇〇人程度になることを予定しながら、参加者を六〇〇名と虚偽の申告をし、大規模施設である東京ビッグサイトの中では比較的目立ちにくい小規模な政治団体のパーティーであるかのように装って、その利用承認を得やすくしたものと推認される。そのうえ、控訴人と暴力団E田会との人的結びつき、特に幹部級の結びつきは強く、また、本件パーティーにおいて挨拶等を行うことが予定されていた参加者の中にも、暴力団の幹部級の者がいたのであるから、控訴人と暴力団の関係は極めて密接なものといわざるを得ず、控訴人としても、本件パーティーにも相当数の暴力団関係者が主催者及び参加者として出席することや、そのため当日に東京ビッグサイトを利用する者に心理的威圧や不安を感じさせる雰囲気を醸し出すことも容易に予想できたのに、本件施設利用申込みに際し、そのような暴力団関係者も出席する会合であることを殊更に伏せて、その利用承認を受けたものと推認される。
このような状況の下で、東京ビッグサイトという東京都の施設としては最も規模が大きく、国際的にも知名度の高い施設を控訴人に使用させることは、暴力団という反社会的な集団の活動を助長させることにつながり、あたかも公的機関が暴力団のパーティーを利用した資金集め活動や組織示威活動を支援しているとも受け止められかねず、厳しい社会的非難を受けることが当然に予想されたというべきである。また、施設外での交通の混乱や施設内外における不測の事態の起こる危険性もあったといわざるを得ない。
そして、このような事情を考慮すると、本件施設の利用申込みは、利用人数、利用する人物ないし団体イメージ等の点において警備、管理上重要な事情となる点を秘したものであり、「東京ビッグサイト会議施設ご利用案内」3の(2)の「お申込み時の利用目的と利用時の内容が著しく異なるとき」という利用承認取消事由に該当するものであったといわざるを得ないし、また、大規模かつ公的施設である東京ビッグサイトの適正な利用を図り、それを利用する他の顧客、周辺住民、被控訴人職員等の安全を確保すべき義務を強く負っている被控訴人が、被控訴人の事業の監督指導者かつ本件施設の所有者兼管理運営委託者である東京都及び警視庁から、中止と情報提供の要請及び施設利用の問題点に関する指摘を受け、マスコミの動向や本件パーティー参加者の予想人員の変更と施設の収容能力等を勘案して、控訴人に対する本件施設の利用承認を取り消した措置は、事後的にみると「東京ビッグサイト会議施設ご利用案内」3の(2)の「管理の都合上やむをえない理由が発生したとき」という利用承認取消事由にも該当する正当なものであったといわざるを得ないし、取消し当時の状況の下での判断としても同様に正当であったというべきである。したがって、被控訴人のした利用承認の取消しを違法とはいえず、被控訴人に債務不履行責任が生ずると認めることはできない。
なお、控訴人は、被控訴人は当初から控訴人の組織の性格を知っていた旨主張するが、本件全証拠によるも被控訴人が早い段階からその詳細を知っていたと認めることはできない。また、控訴人は、警視庁やその意を受けた東京都の上記中止要請は、憲法上の集会、結社の自由を不当に侵害するものであり、それに従った被控訴人には責任がある旨、あるいは、招待状を発送した招待客である二〇〇〇名が一度に会場に集まることは考えられない旨主張する。しかし、招待状を発送した招待客数が約二〇〇〇名だとすると、実際にはそれ以上の数の客が集まる可能性があり、一度に二〇〇〇名以上が会場に参集する事態もあり得ないとはいいきれず、本件パーティーに参加する人数がレセプションホールの最大収容人数である一三〇〇人を超える可能性も否定できない状況だったというべきである。また、控訴人の本件パーティーの挙行には会場混乱の危険性があったと認められ、その危険性は人の生命、身体、財産の侵害の危険に及ぶ余地があったと認められるのであるから、上記事情の下で被控訴人がとった利用承認取消権の行使は、公共の利益に適うものであり、そのために控訴人の集会、結社の自由が制約されたとしても、これを不当に侵害するものとはいえない。
(4) 以上によれば、被控訴人のその余の抗弁を判断するまでもなく、控訴人の債務不履行を原因とする本件請求は理由がない。
二 当審で付加した控訴人の主張に対する判断
(1) 「公の施設」について
ア 控訴人は、本件施設は、地方自治法二四四条一項にいう「公の施設」に該当し、「正当な理由のない限り」住民の施設利用を拒むことができず(同条二項)、住民の利用につき「不当な差別的取扱いをしてはならない」(同条三項)と主張する。しかしながら、同条一項にいう「公の施設」とは、普通地方公共団体が住民の福祉増進の目的をもって、住民の利用に供するための施設をいうものであり、その施設及び管理に関する事項は条例で定められなければならないものとされ(同法二四四条の二第一項)、地方公共団体以外の者に管理を委託するには、条例の定めが必要であり(同条三項)、施設の利用料金を管理受託者の収入として収受させる場合の料金は、条例の定めるところにより、普通地方公共団体の承認を得て、管理受託者が定めるものとされている(同条四項、五項)。しかしながら、前記認定事実と《証拠省略》によれば、東京ビッグサイトは、その施設を所有する東京都が被控訴人に私法上の契約により無償で貸与し、その契約によれば、被控訴人はこれを東京都の住民に限定されない企業、団体等に対して、展示場の運営のために利用させなければならず、被控訴人は東京都に対して善管注意義務、調査協力義務を負い、地方自治法二五二条の二七第二項に基づく東京都の包括外部監査を受ける対象となっている「公の施設等」に含められているものの、その利用対象者との利用契約の締結などの運営方法、料金の設定等は被控訴人の自主的経営権の行使として行われているものと認められ、東京都が被控訴人とこのような無償貸借の契約を締結している趣旨は、被控訴人に東京ビッグサイトの経営を委託して、首都圏の産業の育成・振興を図ろうとするものであると認められる。したがって、控訴人が被控訴人から東京ビッグサイトの中の本件施設をパーティー会場として貸与を受ける私法上の契約に基づく利用関係は、地方自治法二四四条一項にいう、住民福祉の増進のために、普通地方自治体自身が条例に基づいて設置、管理し、住民の利用に供するため施設である「公の施設」そのものとは異なるものであることは明らかである。そうすると、本件施設につき被控訴人の貸与については、同法二四四条二項、三項の制限が適用されるものと解することはできない。したがって、本件施設の利用関係については、控訴人が主張する「公の施設」である市民会館あるいは市の福祉会館の利用不許可処分に関する最高裁判所の判例(最高裁判所平成七年三月七日判決・民集四九巻三号六八七頁、同平成八年三月一五日判決・民集五〇巻三号五四九頁)の事例とは事案を異にするものであって、同判例が当然に適用になるものではない。
イ 控訴人は、本件施設が地方自治法二四四条一項の「公の施設」に当たらないとしても、被控訴人は東京都から無償で本件施設の貸与を受け、役員には東京都の知事、職員等が加わり、会計その他の運営全般にわたって東京都の指導監査を受けていることなどから、普通公共団体に準ずる公的団体であるから、本件施設の利用に関しては、憲法二一条、一四条、地方自治法二四四条の趣旨が類推適用されるべきであると主張する。被控訴人は、東京都の包括外部監査対象団体である社団法人であり、その構成員(会員)に東京都や東京商工会議所、日本貿易振興会等が加わっていたとしても、民法上の公益法人としての範囲内で権利能力を有するにすぎず、東京都から無償貸与された本件施設の運営管理については、その維持、修繕その他の行為をするため支出する費用は、原則として被控訴人が負担し、運営によって収益が生じた場合は、その一定額を東京都に納付するものの、その余の部分は事業運営に充てられ、経営の独自性を認められているから、これを普通地方公共団体に準ずる公的団体であるということはできず、監査上「公の施設等」に含まれている本件施設の利用関係につき、その施設の設置目的である公共性や公益性を重視すべきであっても、地方自治法二四四条が当然に準用ないし類推適用されるものではない。そのうえ、控訴人に対し、前述のような理由で施設利用権の取消しをしたことが、本件施設の設置された公益的目的や公共的性格に違背するとは到底いえない。
ウ 控訴人の利用についての危険性について
控訴人がE田会を中心とする指定暴力団と密接な関係を有していることは前記認定のとおりである。前記認定事実によれば、控訴人は前記E田会の幹部によって設立され、現在の代表者も同様に幹部であった者であり、本件パーティーにおいて挨拶を予定した者のうち四名はE田会系の暴力団員であり、これらの暴力団員は、被控訴人との契約交渉にも参加し、式次第においてパーティーの運営に当たるべき者が発砲事件を引き起こしたという新聞報道等があったというのであるから、本件施設で本件パーティーが挙行された場合には、暴力団員による混乱が生ずる危険性がないとはいえない。また、前記認定のとおり、控訴人は実際には約二〇〇〇名の招待客を予定していたにもかかわらず、被控訴人に対する利用の申込みの際にはこれを秘し参加人員を六〇〇名として届け出ており、さらには、《証拠省略》によれば、控訴人は、被控訴人から街宣車の乗り入れを控えるよう要望され、これを承諾していたのに、《証拠省略》によれば、全国で約八〇台所有する街宣車のうち相当数の街宣車が地方の支部等の構成員の本件パーティー参加のための交通手段として利用され、そのために会場の駐車場を使用することが予想されていたというのであるから、これらの控訴人の被控訴人に対する対応は、利用契約上の信義に反するものであり、控訴人側がそのような態度を有する限り、本件パーティーが開催されていたとすれば、一三〇〇人程度が収容可能であったと認められる会場において混乱が生じ、駐車場は相当程度の広さを有しているものの、相当な数の街宣車が駐車を求めた場合には混雑混乱が十分に予想される状況であったと認められる。そうすると、当日東京ビッグサイトに出入りしていたと推認される五〇〇〇名ないし七〇〇〇名のイベント準備作業等関係者との間の摩擦ないし混乱が引き起こされる危険性があったと認められ、その会場混乱は生命、身体、財産に対する侵害の危険をもたらす可能性があったと認められる。したがって、控訴人の本件パーティーにおける混乱発生の前記の危険性に照らせば、「東京ビッグサイト会議施設ご利用案内」3の(2)の「お申し込み時の利用目的と利用時の内容が著しく異なるとき」及び「管理の都合上やむをえない理由が発生したとき」という事由に該当すると認めるのが相当であり、被控訴人がこれを理由に控訴人に対する利用承認を取り消したことに、違法ないし債務不履行があるとはいえない。
エ 権利の濫用の主張等について
控訴人は、実質的に被控訴人の本件利用承認の取消しが集会、結社、表現の自由を侵害するものであることを理由に、上記取消しが権利の濫用であると主張する。確かに、被控訴人は控訴人がいわゆる右翼政治団体であることを承知して一旦本件施設利用を承認し、それに基づいて控訴人において本件パーティー開催の準備に着手している段階で、その利用承認を取り消したことは、信義則上、それなりの正当な理由が必要であると解すべきであるが、前記認定のとおり、本件施設の利用案内には利用制限及び承認の取消事由が明記されていたのであり、控訴人の本件利用申込みは虚偽の点があったうえ、控訴人の本件パーティーの挙行には会場混乱の具体的な危険性があったと認められ、その危険性は、生命、身体、財産の侵害に及ぶ余地があったと認められるから、被控訴人の上記取消しによって、控訴人の集会、表現の自由等が事実上制約されたとしても、これをもって、権利の濫用に当たるということもできない。
三 結論
以上によれば、控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却した原判決は正当である。
よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 慶田康男 納谷肇)