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東京高等裁判所 平成13年(行ケ)186号 判決 2001年10月17日

原告

原告

デイビイエス株式会社

両名訴訟代理人弁護士

大村金次郎

同弁理士

樺澤襄

樺澤聡

山田哲也

島宗正見

被告

特許庁長官及川耕造

指定代理人

石井良夫

森田ひとみ

宮川久成

主文

特許庁が平成11年異議第73990号事件について平成13年3月13日にした決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告ら

主文と同旨

2  被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

(1)  原告らは、名称を「ばっ気槽の濾過装置」とする特許第2885981号発明(平成3年11月12日特許出願、平成11年2月12日設定登録、以下、この発明を「本件発明」と、その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。

平成11年10月22日、本件特許につき特許異議の申立てがされ、平成11年異議第73990号事件として特許庁に係属したところ、原告らは、平成12年4月25日に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求をし、平成13年1月16日に訂正請求書の補正をした。

特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、平成13年3月13日、「特許第2885981号の請求項1に係る特許を取り消す。」と決定(以下「本件決定」という。なお、本件特許の特許請求の範囲は請求項1だけである。)をし、その謄本は同年4月4日原告らに送達された。

(2)  原告らは、本件決定の取消しを求める本訴提起後の平成13年6月14日、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正審判の請求をしたところ、特許庁は、同請求を訂正2001-39096号事件として審理した上、平成13年8月21日、上記訂正を認める旨の審決(以下「本件訂正審決」といい、本件訂正審決に係る訂正を「本件訂正」という。)をし、その謄本は同年9月3日原告らに送達された。

2  特許請求の範囲の記載

(1)  本件訂正前の特許請求の範囲の記載

【請求項1】間隔保持用の通水性多孔質材を間に介在させて重ね合わせた通水性シートの周囲を密封して形成した袋状の濾過体をばっ気槽内にばっ気部の上方に位置して処理水中に浸漬配設し、

前記濾過体内より低い水頭差により濾過水を低い吸引力で引き抜く吸引管を前記ばっ気槽の外部に導出させたことを特徴とするばっ気槽の濾過装置。

(2)  本件訂正によって訂正された特許請求の範囲の記載(注、訂正部分を下線で示す。)

【請求項1】間隔保持用の通水性多孔質材を間に介在させて重ね合わせた不織布または織布の通水性シートの周囲を密封して形成した袋状の濾過体をばっ気槽内にばっ気部の上方に位置して処理水中に浸漬配設し、

前記濾過体内より、吸引力を低く保つことにより前記濾過体に形成される汚泥のケーキ層を脆弱にして前記濾過体へのケーキ層の付着と剥離が繰り返されるような低い水頭差によって濾過水を低い吸引力で引き抜く吸引管を前記ばっ気槽の外部に導出させ、

前記ケーキ層のフィルター作用で前記処理水中の微細な粒子が捕捉されることを特徴とするばっ気槽の濾過装置。

3  本件決定の理由

本件決定は、平成13年1月16日付けの補正(訂正請求書)は特許法120条の4第3項において準用する同法131条2項の規定に違反するものとして、平成12年4月25日付けの訂正請求は同法120条の4第2項の規定及び同条3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の同法126条3項の規定に違反するものとして、いずれもこれを認めず、本件発明の要旨を本件訂正前の特許請求の範囲の記載のとおり認定した上、本件発明は、特開平2-86893号公報及び特開昭57-87808号公報記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により取り消されるべきものとした。

第3当事者の主張

1  原告ら

本件決定が、本件発明の要旨を本件訂正前の特許請求の範囲の記載のとおり認定した点は、本件訂正審決の確定により特許請求の範囲の記載が上記のとおり訂正されたため、誤りに帰したことになる。そして、この瑕疵は本件決定の結論に影響を及ぼすものであるから、本件決定は違法として取り消されるべきである。

2  被告

本件訂正審決の確定により特許請求の範囲の記載が上記のとおり訂正されたことは認める。

第4当裁判所の判断

本件訂正審決の確定により、特許請求の範囲の記載が上記のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく、この訂正によって特許請求の範囲が減縮されたことは明らかである。

そうすると、本件決定が、本件発明の要旨を本件訂正前の特許請求の範囲のとおりであると認定したことは、結果的に誤りであったことに帰する。そして、これが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は、瑕疵があるものとして取消しを免れない。

よって、原告らの請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)

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