大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成13年(行ケ)442号 判決 2004年6月10日

東京都港区<以下省略>

原告

株式会社小松製作所

代表者代表取締役

訴訟代理人弁理士

井上勉

東京都千代田区<以下省略>

被告

特許庁長官 今井康夫

指定代理人

橳島慎二

溝渕良一

大野克人

涌井幸一

八日市谷正朗

立川功

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が異議2001―70501号事件について平成13年8月27日にした「特許第3077064号の請求項1ないし3、6ないし8、10に係る特許を取り消す」との決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「弾性体履板」とする特許第3077064号の特許(国際出願日1998年5月28日(優先権主張1997年9月5日、日本国)、平成12年6月16日設定登録、以下「本件特許」という。請求項の数は12である。)の特許権者である。

本件特許に対し、請求項1ないし3、7ないし11、15(後記訂正後の請求項1ないし3、6ないし8、10)の各発明につき、特許異議の申立てがあり、この申立ては、異議2001―70501号事件として審理された。原告は、この審理の過程で、平成13年7月13日、本件特許の出願に係る願書に添付された明細書の訂正を請求した(以下、この訂正を「本件訂正」といい、本件訂正による訂正後の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)。特許庁は、審理の結果、平成13年8月27日、「訂正を認める。特許第3077064号の請求項1ないし3、6ないし8、10に係る特許を取り消す。」との決定をし、同年9月12日にその謄本を原告に送達した。

2  本件訂正による訂正後の特許請求の範囲(以下、請求項1記載の発明を「本件発明1」という。別紙図面A参照)

「【請求項1】クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記いずれかの芯体の非接地面側は、前記屈曲した芯体端部に対応して非接地面側に張り出してなる弾性体で被覆されることを特徴とする弾性体履板。

【請求項2】請求の範囲1記載の弾性体履板において、

前記弾性体の内部で、かつ前記いずれかの芯体の長手方向端部の下方から前記いずれかの芯体の長手方向端部の外方にわたって、少なくとも一層のケーブル層を備えることを特徴とする弾性体履板。

【請求項3】請求の範囲2記載の弾性体履板において、

前記ケーブル層のケーブル線は、前記いずれかの芯体の長手方向に対し、平行となる方向に配設されるか、または第1層が斜方向に、第2層がそれにクロスする斜方向にそれぞれ配設されることを特徴とする弾性体履板。

【請求項6】クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記リンクの取付け面から前記いずれかの芯体の長手方向端部の高さ方向先端までの高さhと、リンクピッチLpとの比率が、0.05≦h/Lp≦0.25であることを特徴とする弾性体履板。

【請求項7】クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記リンクの取付け面から前記いずれかの芯体の長手方向端部の高さ方向先端までの高さhと、弾性体履板高さHとの比率が、0.08≦h/H≦0.50であることを特徴とする弾性体履板。

【請求項8】クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記いずれかの芯体の幅W1と、前記いずれかの芯体の長手方向先端の幅W2との比率が、0.5≦W2/W1≦0.9であることを特徴とする弾性体履板。

【請求項10】クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記芯体の長手方向端部の先端に対し、前記弾性体の端部が外方に突出し、前記いずれかの芯体の非接地面側は、前記屈曲した芯体端部に対応して非接地面側に張り出してなる弾性体で被覆されることを特徴とする弾性体履板。」

3  決定の理由

別紙決定書の写しのとおりである。要するに、本件訂正を認めた上、本件発明1は、特開平8―301153号公報(甲第4号証。以下、決定と同様に「刊行物1」という。)の図5に記載された発明(以下「引用発明」という。別紙図面B参照。)、並びに、特開平8―301156号公報、実願平1―5077号(実開平2―96382号)のマイクロフィルム、実願平2―99422号(実開平4―56593号)のマイクロフィルムに記載された周知技術、及び、特開昭50―100734号公報(甲第9号証、以下「甲9公報」という。別紙図面C参照)、実願昭60―137028号(実開昭62―43985号)のマイクロフィルム(甲第10号証、以下「甲10公報」という。別紙図面D参照)に記載された周知技術から容易に発明をすることができたものである、と認定判断するものである。

決定が、上記結論を導くに当たり、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点として認定したところは、次のとおりである。

一致点

「リンクと、弾性体で被覆される芯金とを有する弾性体履板において、芯体の長手方向の両端部が非接地面側に屈曲し、前記芯体の非接地面側は、前記屈曲した芯体端部に対応して非接地面側に張り出してなる弾性体で被覆される弾性体履板。」

相違点

「1)本件発明の弾性体履板は、クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志をピンを介して連結するリンクを有し、芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかであるようにしたのに対し、刊行物1に記載された発明の履帯ゴムシューはリンクを有するものの、そのリンクはクローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるものであるのかどうか明らかでなく、芯金がリンクに取着される芯金、及びリンクに取着される金属板へ取着される芯金のいずれかであるのかどうかも明らかでない点。」

「2)本件発明の芯体は、長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲しているのに対し、刊行物1に記載された発明の芯金は、長手方向の両端部が非接地面側に屈曲しているが、屈曲部が傾斜面とはなっていない点。」(以下「相違点2」という。)

第3  原告主張の決定取消事由の要点

決定は、本件発明1と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、本件発明1と引用発明との相違点2についての判断を誤り(取消事由2)、また、本件発明1の顕著な作用効果を看過した(取消事由3)ものであり、これらの誤りが、請求項1ないし3、6ないし8、10のいずれについても、決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、決定中上記各請求項に係る部分は、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(一致点認定の誤り)

決定は、刊行物1には、「芯金の長手方向の両端部の肉厚部4が非接地面側に屈曲し」(決定書21頁18行)との構成が記載されていると認定している。しかしながら、この認定は誤りである。

刊行物1に記載された発明(引用発明も含む。)の特徴は、ゴムクローラ用芯金の先端部をその内側よりも肉厚部となす点にある。引用発明(刊行物1の図5に記載された発明)は、刊行物1に「図5は芯金の先端部の内周側にのみ肉厚部4とされた例である。」(甲4号証2頁2欄39行~41行)と記載されているところから明らかなように、真直な板体よりなる芯金の先端部を内周面(非接地面)側にのみ肉厚部4としたものであって、芯金の先端部を非接地面側に屈曲したものではない。刊行物1の他の記載部分を参照しても、芯金の端部を屈曲させることについての記載は全くなく、またそのことを示唆する記載すらない。

このように、引用発明は、芯金を非接地面側に屈曲したものではないから、決定の上記の一致点の認定は誤りである。

2  取消事由2(相違点2についての判断の誤り)

決定は、相違点2について、「クローラの芯体を、長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲させることは従来周知(例えば、特開昭50―100734号公報(判決注・甲9公報)、実願昭60―137028号(実開昭62―43985号)のマイクロフィルム(判決注・甲10公報)参照)であり、このようにすれば、弾性体履板から岩石が逃げて弾性体の局部的応力集中を避けられ、弾性体端部に亀裂が発生せず、弾性体履板の耐久性が向上することは、当業者が容易に想到しうるところである。してみれば、刊行物1に記載された発明の芯金を長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲させることは、上記従来周知の技術から当業者が容易に行うことができたものと認める。」(決定書23頁2段)と判断した。しかし、この判断は誤りである。

(1)  刊行物1について

刊行物1に記載された発明(引用発明を含む。)は、いずれも、芯金端部におけるゴム部が劣化し、いわゆる耳切れと称するゴム亀裂が生じるのを防止するために、水平状の芯金の先端部を肉厚部とし、その先端部をC面取り又はR面取りとするとの構成のものである。引用発明も、芯金の先端部の上部を肉厚部としたものにすぎない。

かえって、引用発明は、芯金の下面が水平状であるため、この水平状の芯金端部の下面に接する弾性体部分に負荷がかかると、その弾性体部分が芯金端部の下面に直交する方向に圧縮され、その圧縮負荷が分散されることはない。また、引用発明においては、水平状の芯金端部に接していない弾性体部分には圧縮負荷を受け止める芯金が存在しないので、その圧縮負荷が弾性体に変位(歪)を生じさせることになる。この結果、引用発明においては、圧縮負荷が芯金の先端下部の弾性体部(コーナー部)に集中することになって、この応力集中に基づき、当該弾性体部が折れ曲がって、同部に亀裂が発生する。

要するに、刊行物1に記載された発明(引用発明を含む。)は、いずれも芯金の先端部に肉厚部を設けて、先端部の面取りを大きく取ることにより形状的に不連続な部分をなるべく少なくして応力集中を低減させ、弾性体の芯金と接触する部分の亀裂を防止するとの技術思想から成るものであるにすぎない。

これに対し、本件発明1では、芯体の長手方向の端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲しているため、弾性体履板の端部が縁石に乗り上げても、平坦な芯体の傾斜面には弾性歪の集中個所がなく、かつ、その芯体の傾斜面によって荷重が分散するため、芯体の傾斜面下部の弾性体に集中して加わる負荷を和らげることになる。

このように、本件発明1の亀裂防止思想と、引用発明の亀裂防止思想とは全く異なるものであり、刊行物1の記載内容から本件発明1の亀裂防止思想を想起することができないことが明らかである。

本件訂正前の明細書においては、もともと図5ないし図8において、芯体の端部が90度に屈曲した実施例が示されており、それが本件訂正により明細書から削除された(乙第2号証)。この削除された実施例は、縁石等と弾性体履板の側面とが衝突した場合には効果があるものの、弾性体履板が縁石に乗り上げた場合には所定の効果が得られないものであったため、明細書から削除されたものである(乙第2号証14欄18行~27行参照)。

(2)  甲9公報の周知技術について

甲9公報には、「本発明は、クローラにおける履帯に及ぶ地面の軟らかい箇所の保持力を、クローラの幅を増大して大になすものでありながら、この幅広になしたことにより必然的に生じる欠陥をなくし、つまり履帯に埋設せる芯金またはクローラシュー自体の履帯幅方向外側位置における折損を阻止することを目的とする。」(甲9号証1頁左欄15行~右欄1行)との記載がある。この記載から明らかなように、甲9公報に記載された発明は、芯金もしくはクローラシューの折損を防止することを目的とするものであり、弾性体の亀裂発生を防止することを目的とするものではない。

被告は、弾性体から芯金に加わる応力と、芯金から弾性体に加わる応力は、互いに作用、反作用の関係にあるから、芯金の局部的な応力集中を避けるということは、弾性体の局部的な応力集中を避けることである、甲9公報に記載された無端状に形成された弾性体に所定ピッチで芯金を埋設した構造の一体式のゴムクローラにおいても、弾性体に加わる局部的な応力集中による亀裂発生を防止するという技術思想が存在する、と主張している。

しかしながら、甲9公報には、「芯金またはクローラシュー自体の・・・折損を阻止することを目的とする。」(甲9号証1頁左欄下から2行~右欄1行)こと、及び、そのための構成として、「芯金2を埋設するゴム履帯1の前記芯金2の前記傾斜せる下面7の直下部分に付設される弾性体9が外側方なる程その厚さを大に構成されている。」(同2頁右上欄17行~20行)との構成が開示されているにすぎない。芯金の局部的な応力集中を避けることと、弾性体の局部的な応力集中を避けることとは全く別異の技術事項である。場合によっては、芯金の応力集中を避けるために、厚くした弾性体に負荷の負担を強いることもある。芯金の応力集中を避けることと弾性体の応力集中を避けることとが相反するような設計思想、技術思想があり得るのである。甲9公報には、弾性体の応力集中を避けるということについての記述はなく、当然ながらそのような技術思想の開示はない。被告の上記主張は、これらを同一視して、本件発明1と甲9公報に記載された発明の目的及び技術課題が同一であるとするものであり、この主張には明らかに論理の飛躍があり、失当である。

(3)  甲10公報の周知技術について

甲10公報には、「湿田のようにクローラの沈下し易い場所での走行では、芯金の左右両端部を囲って外方へ張出する弾性体部分が、この芯金の端部から急に上側へ向けて屈折されようとするために、弾性体部の左右両側に大きな歪みを生じ老化し易いものである。」(甲10号証2頁5行~10行)との記載がある。この記載から明らかなように、甲10公報に記載された発明は、軟弱地で使用されるクローラにおける弾性体の屈折による老化防止を目的とするものである。

確かに、甲10公報には、このような弾性体の応力集中防止に関する記載はある。しかし、甲10公報に記載された発明は、「軟弱な泥土面では、この無限軌道帯(2)が機体重量によって沈下しようとするため、この無限軌道帯(2)の弾性体部分の左右両側部分が上方へ湾曲されようとする。このとき該芯金(3)の翼部(10)下における弾性体部分は、この芯金(3)の底傾斜面(14)が弾性体(1)の湾曲方向にゞ同調するために、この芯金(3)端から外側部の弾性体部分(12)(13)に亘る上方への湾曲が滑らかに行われ、この芯金(3)端縁下の弾性体部分(12)(13)における応力集中を少くし、無限軌道帯(2)全幅に亘る荷重支持を有効に働かせる。」(甲10号証6頁9行~19行)ものであり、これは軟弱な泥土面における車体の沈下に対する車体の姿勢維持や回向走行の容易化を目的とするものと考えられ、本件発明1とはその目的が全く異なっているものである。甲10公報に記載されているのは、「芯金(3)の受ける荷重の弾性体(1)への伝播方向が外側への分力を有し、弾性体(1)の上方への湾曲を滑らかに行わせ、芯金(3)の側部における弾性体の極端な屈折を少くすることができ」(甲10号証4頁4行~8行)ることのみである。甲10公報には、芯金(3)の傾斜面(7)が荷重を分散させる機能を果たしているとの記載は一切なく、また、弾性体(1)の亀裂発生を防止するという思想も開示されていないのである。

(4)  決定の判断の誤り

甲9公報及び甲10公報には、上記のとおり、芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲しているとの構成が記載されているものの、これらの発明は、いずれも、無端状に形成された弾性体に所定ピッチで芯金を埋設した構造の無端ゴムクローラに関するものであり、リンク同士を結合した輪状体に芯体及び弾性体よりなるパッドを個々に取り付けた構造の本件発明1の弾性体履板とは、その対象となる技術を全く異にするものである。甲9公報及び甲10公報に記載された発明には、弾性体に加わる局部的な応力集中による亀裂発生を防止するという技術思想がないのである。

このように、本件発明1と発明の目的及び技術課題が全く異なる引用発明に、本件発明1と発明の目的及び技術課題が異なる甲9公報及び甲10公報に記載された周知技術を適用して、本件発明1に想到することが容易であるとした決定の上記判断が誤りであることは明らかである。

甲9公報及び甲10公報に開示されている、主として軟弱地で使用される無端ゴムクローラは、互いに隣接する芯金間にゴム層が必ず介在されているために、極めて変形し易い性質を有している。したがって、この無端ゴムクローラの端部が岩石等に乗り上げた場合には、自由に屈曲可能であることから、ねじり変形が大きく、これにより負荷が分散されることになってそもそも応力集中のおそれはないのである。

これに対して、本件発明1の弾性体履板においては、スラスト力が伝達される部分は剛体結合であるために、履板に与える負荷は極めて大きくなる。このため、この弾性体履板の端部が岩石等に乗り上げた際には、芯体相互間を結合しているリンクのねじれ変形が小さく、一つのリンクに加わる負荷を逃がすことができず、瞬間的に荷重が一点に集中することになり、局部的応力集中が問題になる。このような弾性体履板に特有の技術的課題を解決するために、本件発明1では、芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するようにその両端部を非接地面側に屈曲させたのである。本件発明1特有のこの構成は、引用発明に上記の周知技術を適用しても、当業者が容易に想到することができるものではない。

3  取消事由3(顕著な作用効果の看過)

本件発明1は、「リンクに取着される芯体、及びリンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体」を有する「弾性体履板」であることを前提とし、「前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し」(請求項1)との構成により、「走行中に岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げたとき、あるいは衝突しても、芯体の長手方向の端部を非接地面側に屈曲させてあるので、芯体の屈曲部に沿って形成される弾性体端部から岩石が逃げることにより、弾性体の局部的応力集中が避けることができる。・・・したがって、走行中に岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げたり、衝突しても、弾性体端部に亀裂が発生せず、弾性体履板の耐久性が向上する。」(甲2号証8頁7行~14行)との顕著な作用効果を奏するものである。このような作用効果は、引用発明及び上記の周知技術によっては達成できないものである。決定は、本件発明1のこのような顕著な作用効果を看過したものであり、違法として取り消されるべきである。

第4  被告の反論の骨子

1  取消事由1(一致点認定の誤り)について

刊行物1の図5によれば、引用発明は、真直な板体よりなる芯金の先端部を内周(非接地面)側にのみ肉厚部4としたものであるものの、最終的な形状として、芯金の先端部が内周(非接地面)側に折れ曲がっているものであることが明らかであるから、芯金の先端部が内周(非接地面)側に屈曲しているものである。

2  取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について

(1)  刊行物1には、「先端部への応力の集中や歪みの集中が緩和でき、このため芯金の先端部に対応するゴム弾性体の剥離や耳切れといった不具合が解決できたものである。」(甲4号証2頁1欄50行~2欄3行)との記載がある。この記載から明らかなように、刊行物1に記載された発明は、ゴムクローラ用芯金の先端部への応力の集中や歪みの集中を緩和することによって、芯金の先端部に対応するゴム弾性体の剥離や耳切れが発生するとの課題を解決したものであるから、たとえ、同発明と本件発明1とが、応力の集中や歪みの集中を緩和して亀裂を防止するための具体的な手段において異なるものであるとしても、応力の集中や歪みの集中を緩和してゴム弾性体の亀裂を防止する点において、共通の思想を有するものである。したがって、本件発明1の亀裂防止思想と引用発明の亀裂防止思想とは全く異なり、引用発明から本件発明1の亀裂防止思想が想起できるものではないとの原告の主張は失当である。

(2)  甲9公報に記載された発明では、芯金の局部的な応力集中を避けるため、芯金の先端部を傾斜させて弾性体を厚くし、先端部において踏込んだ石塊等を外方側方に押出すようにしている。そして、弾性体から芯金に加わる応力と、芯金から弾性体に加わる応力は、互いに作用、反作用の関係にあるから、芯金の局部的な応力集中を避けるということは、弾性体への局部的な応力集中を避けるということを意味する。このことは、刊行物1に記載された発明が、芯金の先端部への応力集中を避けることによって、先端部に対応するゴム弾性体への局部的な応力集中を避け、ゴム弾性体の耳切れを防止していることからみても明らかなように、当業者において自明な事項である。

甲9公報に記載された、無端状に形成された弾性体に所定ピッチで芯金を埋設した構造の無端ゴムクローラにおいても、弾性体に加わる局部的な応力集中を避けるという技術思想が存在するのであり、甲9公報に記載された発明では、それを、芯金先端部を傾斜させて弾性体を厚くし、踏込んだ石塊等を外方側方に押出すようにすることによって解決したものということができる。

(3)  甲10公報に記載された発明においては、芯金(3)は、その左右両側部の底面が外側上部に向けて傾斜されることにより、この部分の下側の弾性体(1)部の肉厚が厚く形成される。同発明においては、同構成により、芯金(3)の受ける荷重の弾性体(1)への伝播方向が外側への分力を有することになるとともに、芯金(3)端から外側部の弾性体部分(12)(13)に亘る上方への湾曲が滑らかに行われ、この芯金(3)端縁下の弾性体部分(12)(13)における応力集中を少なくするものである。

このように、甲10公報に記載された、無端状に形成された弾性体に所定ピッチで芯金を埋設した構造の無端ゴムクローラにおいても、弾性体に加わる局部的な応力集中を避けるという技術思想が存在するのである。甲10公報では、それを、芯金(3)の左右両側部の底面を外側上部に向けて傾斜させ、荷重を分散させることによって解決したものということができる。

(4)  甲9公報及び甲10公報に記載されている、無端状に形成された弾性体に所定ピッチで芯金を埋設した構造の無端ゴムクローラも、弾性体に加わる局部的な応力集中を避けるという技術思想に基づくものであるということができる。上記各文献に記載された発明は、クローラへの局部的な応力集中を避けるという点で、本件発明1と考え方を共通にするものであり、引用発明に甲9公報及び甲10公報に記載の発明を適用することについて、これを阻害する要因はない。

3  取消事由3(顕著な作用効果の看過)について

本件発明1が奏する作用効果は、甲9公報及び甲10公報に記載された周知の技術手段が奏する作用効果であるにすぎない。原告の主張は失当である。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(一致点認定の誤り)について

原告は、引用発明(刊行物1の図5に記載のもの)は、芯金の先端部を内周面側にのみ肉厚部4としたものであって、芯金の先端部を非接地面側に屈曲したものではない、刊行物1には、「芯金の長手方向の両端部の肉厚部4が非接地面側に屈曲し」(決定書21頁18行)との構成が記載されている、との決定の認定は誤りである、と主張する。

刊行物1には、次のような記載がある(甲4号証)。

【請求項1】ゴムクローラを構成するゴム弾性体中に埋設される芯金であって、芯金の先端部をその内側よりも肉厚部となし、この先端部をC面取り又はR面取りしてなることを特徴とするゴムクローラ用芯金。

【0001】

【産業上の利用分野】本発明はゴムクローラ中に埋設される芯金に係るものであり、ゴムクローラの耐久性の向上と共に芯金の軽量化を目的とするものである。

【0002】

【従来の技術】近年、ゴムクローラは鉄シュークローラに代って広く採用されるようになり、ゴム弾性体中に一定ピッチをもって多数の芯金が埋設される無端ゴムクローラや、ゴム弾性体に対し芯金一個或いは複数個を埋設した履帯ゴムシュー(以下、これらをまとめてゴムクローラと称す)が用いられている。

【0003】しかるに、芯金を埋設したゴムクローラは芯金とゴムとの剥離や芯金端部におけるゴム部が劣化し、いわゆる耳切れと称するゴム亀裂を生ずることがある。このため、芯金の先端部に面取りを施すのが常であるが、芯金の先端部が比較的薄い形状とされているため、面取りが大きく取れず充分な効果を奏することができなかった。

【0006】

【課題を解決するための手段】本発明のゴムクローラ用芯金は、ゴムクローラを構成するゴム弾性体中に埋設される芯金であって、芯金の先端部をその内側よりも肉厚部となし、この先端部をC面取り又はR面取りしてなることを特徴とする。そして、好ましくは、前記肉厚部を芯金の前後端部にまで延長したものである。肉厚部としては全体として断面が円形又は楕円形をなし、或いは方形のコーナー部を面取りした構造のものがある。

【0007】

【作用】本発明はゴムクローラ用芯金を改良したものであり、先端部をその内側より肉厚部とすることによって、C面取り又はR面取りしたものであり、このため、先端部への応力の集中や歪みの集中が緩和でき、このため芯金の先端部に対応するゴム弾性体の剥離や耳切れといった不具合が解決できたものである。芯金としては無端状のゴムクローラに用いる場合もあるが、1ピッチづつ単体とした履帯ゴムシューでも、複数ピッチを一体とした履帯ゴムシューにも用いられるものである。

【0010】図3は前記した芯金の翼部3をゴム弾性体10中に埋設された履帯ゴムシューの要部断面図である。この図でも分るように、芯金の先端部は肉厚部4となっているのでゴム弾性体との接触面積が広がりゴム剥離は低減する。そしてゴムと芯金の先端部とはエッヂ部が存在しないため耳切れの発生も著しく少なくなるという特徴を有する。

【0011】図4は芯金の先端部に形成した肉厚部4の別例を示す部分正面図であり、肉厚部4は芯金の接地例(判決注・「接地側」の誤記と認める。)及び内周側に渡って全体に肉厚とされている。又、図5は芯金の先端部の内周側にのみ肉厚部4とされた例である。これらの肉厚部4は勿論芯金の前後端5、6に伸びて肉厚部とされることもある。

刊行物1のこれらの記載から見ると、刊行物1に記載された発明は、いずれも、従来の芯金が比較的薄い板状の形状をなしているため、その先端部(周縁部)付近においてゴム弾性体に応力や歪みが集中してゴム弾性体の剥離や耳切れといった不具合が生じることに鑑み、先端部を肉厚として従来より大きなC面取り又はR面取りを施し、これにより芯金の先端部付近のゴム弾性体の亀裂を防止することを目的としたものである。刊行物1に記載された発明の一つである引用発明(刊行物1の図5に記載されたもの)は、芯金先端部の上面側(非接地面側)のみを肉厚とした構成のものである。この意味では、引用発明は、芯金の先端部を内周面側にのみ肉厚部4としたものである、との原告の指摘は正当である。

しかし、「屈曲」とは「折れまがること」(広辞苑第5版)を意味するものである(乙1号証)ことからすれば、刊行物1の図5から明らかなように、引用発明の形態のものは、芯金の先端部が非接地面側に折れ曲がっているものと見ることもできるから、これを「芯金の長手方向の両端部の肉厚部4が非接地面側に屈曲し」(決定書21頁18行)と認定すること自体を誤りとまでいう必要はない。

もっとも、本件発明1は、「芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し」(請求項1)との構成であり、「傾斜面を形成するように・・・屈曲」するものであるのに対し、引用発明は、芯金の肉厚部4が非接地面側に90度に屈曲し、傾斜面を構成していないものであることからすれば、両者は、「屈曲」の態様が異なるものであり、このような相違点を看過することが許されないことはいうまでもない。したがって、決定が、本件発明1と引用発明との一致点を「芯体の長手方向の両端部が非接地面側に屈曲し」(決定書22頁16行~17行)と認定することを直ちに誤りという必要はないものの、本件発明1の「傾斜面を形成するように・・・屈曲し」との構成が、引用発明に備わっていないことを相違点として認定し、この相違点について判断をすることは必要である。換言すれば、本件においては、決定が上記相違点を認定し、その相違点について判断をしているかどうかが重要なのであり、そのことを離れて、決定がなした上記一致点の認定に誤りがあるかどうか自体を取消事由として議論する意味はないというべきである。

決定は、本件発明1と引用発明との相違点(相違点2)を「本件発明の芯体は、長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲しているのに対し、刊行物1に記載された発明の芯金は、長手方向の両端部が非接地面側に屈曲しているが、屈曲部が傾斜面とはなっていない点。」(決定書22頁30行~33行)と認定し、この相違点について判断をしている。このことからすれば、決定は、上記相違点を認定し、その相違点について判断をしているのであるから、相違点についての判断の看過がないことは明らかである。したがって、一致点の認定が誤りであるとする原告の主張は、理由がないものというべきである。

2  取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について

(1)  刊行物1について

前記1で認定したとおり、刊行物1に記載された発明(引用発明も含む)は、いずれも、従来の芯金が比較的薄い板状の形状(刊行物1の図6Eに記載されたもの)をなしているため、その先端部(周縁部)付近においてゴム弾性体に応力や歪みが集中してゴム弾性体の剥離や耳切れといった不具合が生じることに鑑み、先端部を肉厚として従来より大きなC面取り又はR面取りを施し、これにより芯金の先端部付近のゴム弾性体の亀裂を防止することを目的としたものである。すなわち、刊行物1に記載された発明は、従来の板状の形状の芯金が有する、その先端部(周縁部)付近においてゴム弾性体に応力や歪みが集中してゴム弾性体の剥離や耳切れといった不具合が生じるとの課題を解決するために、上記の構成としたものである。これに対し、本件発明1は、従来技術における板状の形状の芯金(本件明細書図34に記載されたもの)においては、走行中に岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げたときに弾性体端部に亀裂が発生するため、これを防止することを目的としているものである(甲2号証8頁参照)。したがって、本件発明1と引用発明とは、走行時に生じる弾性体端部の亀裂の発生を防止するという点において、その課題を共通にするものである(引用発明の従来技術として記載されている芯金の形状(刊行物1の図6Eに記載されたもの)も、本件明細書に記載された、本件発明1の従来技術の芯金の形状(本件明細書図34に記載されたもの)と同じ、薄い板状の形状のものである。走行時亀裂を生じさせる原因が、本件発明1については上記のとおりであり、引用発明については特定の記載はないとの違いはあるものの、いずれも走行中に板状の芯金の端部付近の弾性体に亀裂が生じるとの課題を解決しようとするものである点においては共通性を有するものである。)。

しかも、引用発明は、刊行物1に記載された他の発明と異なり、その図5の記載から明らかなように、芯金の下側に肉厚部がなく、面取りも施していないため、芯金の端部下側付近に限っていえば、ゴム弾性体の剥離や耳切れといった不具合が生じるとの、従来技術の同様の課題が未解決のまま残るものである。

刊行物1及び引用発明に接した当業者は、刊行物1に示された課題とその解決手段を理解した上で、その課題を解決するために、既に第三者により特許出願されている刊行物1に記載された発明とは異なる解決手段を模索しようとするはずであり、その際に、引用発明が属する技術分野における周知技術を参照することは、当然のことである。そして、引用発明は、刊行物1の前記【0001】及び【0002】の記載から明らかなように、ゴム弾性体中に一定ピッチをもって多数の芯金が埋設される無端ゴムクローラや、ゴム弾性体に対し芯金一個或いは複数個を埋設した履帯ゴムシューに関する発明であるから、無端ゴムクローラに関する技術である甲9公報及び甲10公報に記載された技術を参照することになることは当然である。

(2)  甲9公報及び甲10公報における周知技術について

(ア) 甲9公報には次の記載がある(甲9号証)。

「本発明は、クローラにおける履帯に及ぶ地面の軟らかい箇所の保持力を、クローラの幅を増大して大になすものでありながら、この幅広になしたことにより必然的に生じる欠陥をなくし、つまり履帯に埋設せる芯金またはクローラシュー自体の履帯幅方向外側位置における折損を阻止することを目的とする。」(1頁左欄下から6行~右欄1行)「本発明のクローラにおける履帯は、転動輪4の外側方に位置する箇所から横外方に離れた位置に履帯1を延出させるに当つて、前記離れた箇所においては、前記芯金2またはクローラシューの下面が、前記転動輪4の位置から横外方側方へ遠ざかるにしたがって、地面から一層離れる側に位置すべく下面7を傾斜させて構成させ、その斜面に附設する弾性体9は外側方に、外側方なる程その厚さを大に構成してあることを特徴とする」(1頁右欄9行~18行)

「芯金2の幅方向における延長した部分の斜面相当箇所に石塊を踏込んでも、この部分を厚くした弾性体9により、その体積が吸収され、芯金2への衝撃が吸収緩和されて直接芯金2の外方側方部分を折損するようなことはない。更に踏込んだ石塊等は、芯金2の傾斜下面7により外方側方に押出され、芯金2に直接力がかかりにくくなり、芯金2の外方側方部分を折損するようなことはない。」(2頁左下欄1行~9行)

甲9公報のこれらの記載によれば、甲9公報には、軟弱な地盤で使用される作業機において、地面への沈み込みを防止するために、クローラの履帯の幅を広げて接地面積の増加を図る際に、幅を広げた履帯中の芯金が石塊等によって折損することを防止することを目的として、芯金の幅方向外側の下面を地面と離れる方向に傾斜させるとともに、当該傾斜部の下側の弾性体の厚さを増加させるとの構成の発明が記載されていると認められる。また、甲9公報には、芯金を傾斜させたことによって、踏み込んだ石塊を外側に排除するとの作用効果が開示されている。

(イ) 甲10公報には次の記載がある(甲10号証)。

「上記のような形態の芯金を埋設したクローラにあっては、湿田のようにクローラの沈下し易い場所での走行では、芯金の左右両端部を囲って外方へ張出する弾性体部分が、この芯金の端部から急に上側へ向けて屈折されようとするために、弾性体部の左右両側に大きな歪みを生じ老化し易いものである。」(2頁4行~10行)

「この無限軌道帯(2)の左右幅方向の中央部分は、芯金(3)で支持する荷重が直上から働き、土壌面との間で圧縮されるようになるが、左右両側端部分は上側に湾曲されるようになり、走行土壌面が軟弱であるほどこの傾向が大きい。

このとき、無限軌道帯(2)の左右両側部で芯金(3)の左右両側端部から張出している弾性体(1)部分が大きく上側へ歪む傾向にあるが、この芯金(3)の左右両側部の底面が外側上部に向けて傾斜されているために、この部分の下側の弾性体(1)部の肉厚を厚く形成されていて、芯金(3)の受ける荷重の弾性体(1)への伝播方向が外側への分力を有し、弾性体(1)の上方への湾曲を滑らかに行わせ、芯金(3)の側部における弾性体の極端な屈折を少くすることができ、前記の如き問題点を解消される。」(3頁13行~4頁8行)

「軟弱な泥土面では、この無限軌道帯(2)が機体重量によって沈下しようとするため、この無限軌道帯(2)の弾性体部分の左右両側部分が上方へ湾曲されようとする。このとき該芯金(3)の翼部(10)下における弾性体部分は、この芯金(3)の底傾斜面(14)が弾性体の湾曲方向にゞ同調するために、この芯金(3)端から外側部の弾性体部分(12)(13)に亘る上方への湾曲が滑らかに行われ、この芯金(3)端縁下の弾性体部分(12)(13)における応力集中を少くし、無限軌道帯(2)全幅に亘る荷重支持を有効に働かせる。」(6頁9行~19行)

甲10公報のこれらの記載によれば、甲10公報には、軟弱な地盤上で使用される作業機において、クローラが泥土に沈下しやすく、その際に、無限軌道帯の弾性体左右両端部が上側に湾曲する傾向があることに鑑み、芯金の両側部の底面を外側上部に向けて傾斜させることにより、弾性体の上方への湾曲を滑らかにさせ、かつ、傾斜している芯金部分の下部の弾性体の肉厚を厚くして、過度な変形を防止し、芯金端部の下部の弾性体への局部的な応力集中を避けるとの構成の発明が記載されていると認められる。

(ウ) 甲9公報及び甲10公報に記載されている上記構成(芯金の両端部を地面と離れる方向に傾斜させるとの構成)は、少なくとも、無限軌道帯の弾性体を利用した無端ゴムクローラにおいては、これを周知技術と認めることができる(甲9、甲10号証)。

甲9公報及び甲10公報に記載されている上記構成は、本件発明1の「前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し」(請求項1)との構成と同一である。そして、本件発明1の作用効果と同一の作用効果は、甲9公報及び甲10公報から読み取ることが可能である。すなわち、本件明細書においては、本件発明1の構成により、「走行中に岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げたとき、あるいは衝突しても、芯体の長手方向の端部を非接地面側に屈曲させたので、この芯体の屈曲部に沿って形成される弾性体端部から、岩石が逃げることにより、弾性体の局部的応力集中が避けることができる。」(甲2号証5頁3段)、「走行中に岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げても弾性体端部に亀裂が発生せず、弾性体履板の耐久性が向上する。」(甲2号証5頁3段)との作用効果が記載されているのに対し、前記のとおり、甲9公報においては、芯金を傾斜させたことによって、踏み込んだ石塊を外側に排除するとの作用効果が開示されており、甲10公報においては、芯金の両側部の底面を外側上部に向けて傾斜させることにより、弾性体の上方への湾曲を滑らかにさせ、かつ、傾斜している芯金部分の下部の弾性体の肉厚を厚くして、過度な変形を防止し、芯金端部の下部の弾性体への局部的な応力集中を避けることが開示されているのである(本件発明1においても、傾斜している芯金部分の下部の弾性体の肉厚が、芯金が水平状のものに比べて厚くなることは、本件明細書の図1(本件発明の第1実施例の説明図)及び図10(本件発明の第2実施例の要部説明図)等から明らかであるし、また、原告が作成した本件発明の実施品のパンフレット(「強化型ロードライナvol.1」・甲12号証)の3頁下段の「強化型」、「標準型」と題する図面と「新形状の芯金を採用しゴム厚をアップ。耳切れの起こりやすい、この部分を強化」、「この部分のゴム厚が薄く、・・・耳切れが起こりやすい。」との記載からも明らかである。)。

(3)  相違点2に係る構成の容易想到性について

以上に検討したところからすれば、刊行物1及び引用発明に接した当業者が、従来の芯金が比較的薄い板状の形状をなしているため、その先端部(周縁部)付近においてゴム弾性体に応力や歪みが集中してゴム弾性体の剥離や耳切れといった不具合が生じるとの課題を解決するために、既に特許出願されている引用発明における解決手段と異なる解決手段を模索することは、ごく自然であり、その際に、上記課題を解決するために、引用発明の履帯ゴムシュー(本件発明1の弾性体履板に相当する。)に対し、引用発明が属する技術分野の一つである無端ゴムクローラに関する甲9公報及び甲10公報に記載された上記周知技術(芯金の両端部を地面と離れる方向に傾斜させるとの構成)を適用して、引用発明の履帯ゴムシューの芯金の先端部をこの周知技術と置き換えることに想到することは容易である、というべきである。したがって、決定が、「刊行物1に記載された発明の芯金を長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲させることは、上記従来周知の技術から当業者が容易に行うことができたものと認める。」(決定書23頁2段)と判断したことに誤りはない。

原告は、本件発明1の亀裂防止思想と、引用発明の亀裂防止思想とは全く異なるものであり、刊行物1の記載内容から本件発明1の亀裂防止思想を想起することができないことが明らかである、と主張する。しかし、刊行物1及び引用発明に接した当業者が、従来の芯金が比較的薄い板状の形状をなしているため、その先端部(周縁部)付近においてゴム弾性体に応力や歪みが集中してゴム弾性体の剥離や耳切れといった不具合が生じるとの課題を解決するために、既に特許出願されている引用発明における解決手段と異なる解決手段を模索することがごく自然であることは上記のとおりである。本件発明1の亀裂防止思想と、引用発明の亀裂防止思想とは異なるものであるとしても、その解決すべき課題を共通にするものであることは前記のとおりであるから、本件発明1とは異なる課題の解決方法(亀裂防止思想)が引用発明に示されていることは、引用発明に前記周知技術を適用して本件発明1に至ることを妨げる理由とならない、というべきである。

原告は、甲10公報に記載された発明は、軟弱な泥土面における車体の沈下に対する車体の姿勢維持や回向走行の容易化を目的とするものと考えられ、本件発明1とはその目的が全く異なっているものである、と主張する。しかし、刊行物1の【0001】及び【0002】の前記記載から明らかなように、ゴム弾性体中に一定ピッチをもって多数の芯金が埋設される無端ゴムクローラに関する技術と、ゴム弾性体に対し芯金一個或いは複数個を埋設した履帯ゴムシュー(本件発明1における「弾性体履板」)に関する技術とは、極めて密接な関連を有する技術であることは明らかであり、芯金端部付近の弾性体への応力集中の回避あるいは傾斜面による石塊の排除等の課題を共通にするものであるから、この無限軌道帯の技術を、これと極めて密接な関係にある、それぞれ独立してリンクに装着される弾性体履板に適用することに格別の困難性はないというべきである。

原告は、甲9公報に記載された発明は、芯金もしくはクローラシューの折損を防止することを目的とするものであり、弾性体の亀裂発生を防止することを目的とするものではない、芯金の局部的な応力集中を避けることと、弾性体の局部的な応力集中を避けることとは全く別異の技術事項である、場合によっては、芯金の応力集中を避けるために、厚くした弾性体に負荷の負担を強いることもある、甲10公報には、芯金(3)の傾斜面(7)が荷重を分散させる機能を果たしているとの記載は一切なく、また、弾性体(1)の亀裂発生を防止するという思想も開示されていない、引用発明に、本件発明1と発明の目的及び技術課題が異なる甲9公報及び甲10公報に記載された周知技術を適用して、本件発明1に想到することが容易であるとした決定の判断は、誤りである、と主張する。

確かに、甲9公報においては、芯金の折損防止を目的とすることが記載されており、弾性体への応力集中を避けることに関する言及はされていない。また、甲10公報においては、弾性体端部が急激に折れ曲がることを防ぐこと、及び、弾性体への応力集中を避けることが記載されているものの、芯金の折損防止についての記載はない。しかしながら、甲9公報及び甲10公報に記載された発明は、いずれも、芯金端部を斜め上方に傾斜させるという、同一の構成を採用するものであることからすれば、同一の外力によりその芯金と弾性体に加わる応力に関する物理的現象は同じものと解すべきであるから、芯金と弾性体に加わる応力は、互いに作用・反作用の関係にあり、芯金の折損を防止することと、芯金端部付近の弾性体の応力集中を防ぎ、耳切れを防止することとは、同じ現象を、荷重を受ける要素に着目して異なった記述をしているにすぎないものと解すべきである。また、甲10公報には、芯金の傾斜面による荷重の分散等に関する記載はないものの、弾性体端部が急激に折れ曲がることを防ぐこと、及び、弾性体への応力集中を避けること等の、芯金の傾斜面と密接に関連する事項が記載されているのである。そもそも、甲9公報及び甲10公報に記載された構成は、芯金の端部を非接地面側に傾斜させて屈曲するものであり、弾性体の亀裂発生を防止するとの引用発明の課題と密接に関連することが記載されているのであるから、引用発明に甲9公報及び甲10公報に記載された周知技術を適用することが困難であるとの原告の上記主張は採用することができない。

原告は、甲9公報及び甲10公報に開示されている、主として軟弱地で使用される無端ゴムクローラは、互いに隣接する芯金間にゴム層が必ず介在されているために、極めて変形し易い性質を有している、したがって、この無端ゴムクローラの端部が岩石等に乗り上げた場合には、自由に屈曲可能であることから、ねじり変形が大きく、これにより負荷が分散されることになってそもそも応力集中のおそれはないのである、これに対して、本件発明1の弾性体履板においては、スラスト力が伝達される部分は剛体結合であるために、履板に与える負荷は極めて大きくなる、と主張する。

しかし、甲9公報及び甲10公報に開示されている無端ゴムクローラにおいても、弾性体への応力集中が問題となることは、前記のとおり、甲10公報に記載されているところである。すなわち、甲10公報には、前記のとおり、軟弱な泥土面では、無限軌道帯が機体重量によって沈下しようとするため、無限軌道帯の弾性体部分の左右両側が上方へ湾曲することになり、その際に、芯金の底部が上方へ傾斜していると、芯金端部の下部の弾性体部分における応力集中が少なくなることが記載されていることは、前記のとおりである。無端ゴムクローラにおいては、弾性体部分への応力集中のおそれはないとする、原告の上記主張はそもそも理由がないことは明らかである。

3  取消事由3(顕著な作用効果の看過)について

原告は、本件発明が、「走行中に岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げたとき、あるいは衝突しても、芯体の長手方向の端部を非接地面側に屈曲させてあるので、この芯体の屈曲部に沿って形成される弾性体端部から岩石が逃げることにより、弾性体の局部的応力集中が避けることができる。・・・したがって、走行中に岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げたり、衝突しても、弾性体端部に亀裂が発生せず、弾性体履板の耐久性が向上する」(甲2号証8頁7行~14行)との顕著な作用効果を奏するものである、このような作用効果は、引用発明及び上記の周知技術によっては達成できない、と主張する。

しかし、原告が主張するこれらの作用効果は、本件発明1の構成のものから、極めて容易に予測し得るものにすぎない。本件発明1の構成が前記のとおり、容易に想到し得るものである以上、本件発明1の構成のものからこのように容易に予測し得る効果をもって本件発明1の進歩性を根拠付け得るものとみることはできないというべきである。原告の主張は採用することができない。

4  結論

以上に検討したところによれば、原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく、その他、決定には、いずれの請求項についても、これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 設樂隆一 裁判官 髙瀬順久)

別紙図面A

【図1】

接地面側

<省略>

【図2】

<省略>

【図3】

<省略>

別紙図面B

【図5】

<省略>

【図6】

<省略>

別紙図面C

第1図

<省略>

第2図

<省略>

別紙図面D

第1図

<省略>

別紙決定書の写し

異議の決定

異議2001―70501

東京都港区<以下省略>

特許権者 株式会社小松製作所

大阪府大阪市<以下省略> 井上特許事務所

代理人弁理士 井上勉

大阪府堺市<以下省略>

特許異議申立人 B

特許第3077064号「弾性体履板」の請求項1ないし3、7ないし11、15に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。

結論

訂正を認める。

特許第3077064号の請求項1ないし3、6ないし8、10に係る特許を取り消す。

理由

【1】手続の経緯

本件特許第3077064号(以下、「本件特許」という。)は、1998年5月28日(優先権主張1997年9月5日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成12年6月16日に設定登録(請求項の数12)されたものであるが、本件特許の請求項1~3、7~11、15の発明に関して、Bより特許異議の申立てがあったので、当審において、当該申立ての理由を検討の上、当審より平成13年4月27日付けで特許取消理由を通知したところ、その通知書で指定した期間内の平成13年7月13日に、特許異議意見書と共に訂正請求書が提出されたものである。

【2】訂正請求の可否

1.訂正の要旨

本件特許異議申立てに係る訂正請求における訂正の要旨は、次の1)~21)のとおりである。

1)請求項1、請求項4、請求項7(新請求項6)、請求項8(新請求項7)、請求項9(新請求項8)および請求項15(新請求項10)において、「前記いずれかの芯体の長手方向の端部が非接地面側に屈曲し、」とあるのを、「前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、」と訂正する。

2)請求項10および請求項11を削除する。

3)請求項2において、「前記弾性体に内部で、」とあるのを、「前記弾性体の内部で、」と訂正する。

4)請求項3において、「ケーブル線の配設方向は、前記いずれかの芯体の長手方向に対し、平行となる方向、又は平行となる方向および斜方向から選択される方向を二以上組合わせる」とあるのを、「ケーブル線は、前記いずれかの芯体の長手方向に対し、平行となる方向に配設されるか、または第1層が斜方向に、第2層がそれにクロスする斜方向にそれぞれ配設される」と訂正する。

5)第5図、第6図、第7図、第8図、第10図、第11図、第12図、第25図、第26図、第27図、第29図、第30図、第31図、第32図、第34図、第35図、第36図、第38図、第40図、第41図を削除する。

6)本件特許公報第3頁第5欄第27行の「図53、図54」を「図33、34」に、同じく、第33行、第46行の「図55」を「図35」に訂正する。

7)本件特許公報第3頁第6欄第14~15行の

「前記いずれかの芯体の長手方向の端部が非接地面側に屈曲している構成としたものである。」とあるのを、

「前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記いずれかの芯体の非接地面側は、前記屈曲した芯体端部に対応して非接地面側に張り出してなる弾性体で被覆されることを特徴とするものである。」と訂正する。

8)本件特許公報第3頁第6欄第34~37行の

「第2発明は、第1発明の構成において、前記弾性体の内部で、前記いずれかの芯体の下方で、かつ前記いずれかの芯体の長手方向の端部近傍に、少なくとも一層のケーブル層を備える構成としたものである。」とあるのを、「第2発明は、第1発明の構成において、前記弾性体の内部で、かつ前記いずれかの芯体の長手方向端部の下方から前記いずれかの芯体の長手方向端部の外方にわたって、少なくとも一層のケーブル層を備える構成としたものである。」と訂正する。

9)本件特許公報第3頁第6欄第44行~第4頁第7欄第2行の

「第3発明は、第2発明の構成において、前記ケーブル層のケーブル線の配線方向は、前記いずれかの芯体の長手方向に対し、平行となる方向および斜方向の内のいずれか一つ、又は平行となる方向および斜方向から選択される方向を二以上組合わせる構成としたものである。

上記構成によれば、ケーブル線の方向を芯体長手方向に対して平行および斜めのうちのいずれか1つ、あるいは、2つ以上のケーブル層で構成すれば、弾性体が強化されるので、」とあるのを、

「第3発明は、第2発明の構成において、前記ケーブル層のケーブル線は、前記いずれかの芯体の長手方向に対し、平行となる方向に配設されるか、または第1層が斜方向に、第2層がそれにクロスする斜方向にそれぞれ配設される構成としたものである。

上記構成によれば、ケーブル線の方向を芯体長手方向に対して平行な方向、または第1層を斜方向に、第2層をそれにクロスする斜方向にそれぞれ配設することにより、弾性体が強化されるので、」と訂正する。

10)本件特許公報第4頁第7欄第32~43行の

「第6発明は、第1発明の構成において、前記いずれかの芯体は、ばね鋼で形成されている構成としたものである。

上記構成によれば、第1発明の構成と同様に、ばね鋼で形成される芯体の長手方向の端部を非接地面側に屈曲させたので、この芯体の屈曲部に沿って形成される弾性体端部は、岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げても、ばね鋼で形成される芯体が上方に変位して、弾性体端部に局部的な応力集中が避けられる。したがって、走行中に岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げても、弾性体端部に亀裂が発生せず、弾性体履板の耐久性が向上する。」とあるのを削除する。

11)本件特許公報第4頁第7欄第44行の「第7発明」とあるのを「第6発明」と、同じく、第48行の「第8発明」とあるのを「第7発明」と、同じく、第8欄第2行の「第9発明」とあるのを「第8発明」と、同じく、第6行の「第7乃至9発明」とあるのを「第6乃至8発明」と訂正する。

12)本件特許公報第4頁第8欄第10~30行の

「第10発明は、クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記弾性体の内部で、前記いずれかの芯体の下方で、かつ前記いずれかの芯体の長手方向の端部近傍に、少なくとも一層のケーブル層を備える構成としたものである。

上記構成は、第2発明の芯体が屈曲していない形状に相当する構成であり、第2発明と同様な作用効果が得られる。

第11発明は、第10発明の構成において、前記ケーブル層のケーブル線の配設方向は、前記いずれかの芯体の長手方向に対し、平行となる方向および斜方向の内のいずれか一つ、又は平行となる方向および斜方向から選択される方向を二以上組合わせる構成としたものである。

上記構成は、第3発明に相当する構成であり、第3発明と同様な作用効果が得られる。」とあるのを削除する。

13)本件特許公報第4頁第8欄第31行の「第12発明」とあるのを「第9発明」と訂正する。

14)本件特許公報第4頁第8欄第44行~第5頁第9欄第19行の

「第13発明は、クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記弾性体は、前記いずれかの芯体に接する部分の硬度が最も高くて、接地面側に向かって順次硬度が低くなる硬度の異なる弾性体を一体形成してなる構成としたものである。

上記構成は、第5発明の芯体が屈曲していない形状に相当する構成であり、第5発明と同様な作用効果が得られる。

第14発明は、クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体は、ばね鋼で形成されている構成としたものである。

上記構成は、第6発明の芯体が屈曲していない形状に相当する構成であり、第6発明とほぼ同様な作用効果が得られる。」とあるのを削除する。

15)本件特許公報第5頁第9欄第20行の「第15発明」とあるのを「第10発明」と訂正する。

16)本件特許公報第5頁第9欄第24~第26行の

「前記芯体の長手方向の端部が非接地面側に屈曲し、

前記芯体の長手方向端部の先端に対し、前記弾性体の端部外方に突出する構成としたものである。」とあるのを、

「前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記芯体の長手方向端部の先端に対し、前記弾性体の端部が外方に突出し

前記いずれかの芯体の非接地面側は、前記屈曲した芯体端部に対応して非接地面側に張り出してなる弾性体で被覆される構成としたものである。」と訂正する。

17)本件特許公報第5頁第9欄第47行~第6頁第11欄第37行の

「図5は本発明に係る弾性体履板の第2実施例の説明図である。

図6は図5のX視図である。

図7は図5の弾性体履板の走行状態を説明する図である。

図8は図5の芯体に接地面側から非接地面側にわたって弾性体を被覆接着した例の説明図である。

図9は本発明に係る芯体の第1例を説明する図である。

図10は本発明に係る芯体の第2例を説明する図である。

図11は本発明に係る芯体の第3例を説明する図である。

図12は本発明に係る芯体の第4例を説明する図である。

図13は本発明に係る芯体の第5例を説明する図である。

図14は図13の芯体に弾性体を被覆接着した説明図である。

図15は図14のW視図である。

図16は本発明に係る他の弾性体履板を説明する図である。

図17は本発明に係る弾性体履板の第3実施例の要部説明図である。

図18は図17の弾性体履板を接地面側から見た要部説明図である。

図19は図17の弾性体履板の耐久性評価に関する図である。

図20~図24は本発明の弾性体履板の第3実施例に適用される芯体形状例を示し、

図20は芯体端部が2段階に屈曲する芯体の要部説明図、

図21は芯体端部が2段階に屈曲する他の芯体の要部説明図、

図22は芯体端部を所定の曲率半径で形成する芯体の要部説明図、

図23は芯体端部を図22と異なる曲率半径で形成する芯体の要部説明図、

図24は芯体端部を複数の曲面で形成する芯体の要部説明図である。

図25は本発明に係る弾性体履板の第4実施例の説明図である。

第26は図25のV視図である。

図27は図25の27―27断面図である。

図28は本発明に係る弾性体履板の第4実施例の応用例の説明図である。

図29は本発明に係る弾性体履板の第5実施例の説明図である。

図30は29のU視図である。

図31は本発明に係る弾性体履板の第6実施例の説明図である。

図32は図31のT視図である。

図33は本発明に係る弾性体履板の第6実施例の応用例の説明図である。

図34は本発明に係る弾性体履板の第7実施例の説明図である。

図35は図34の35―35断面図である。

図36は本発明に係る弾性体履板の第8実施例の説明図である。

図37は本発明に係る弾性体履板の第8実施例の応用例の説明図である。

図38は本発明に係る弾性体履板の第9実施例の説明図である。

図39は本発明に係る弾性体履板の第9実施例の応用例の説明図である。

図40は本発明に係る弾性体履板の第10実施例の説明図である。

図41は図40のS視図である。

図42は図40の弾性体履板の走行状態を説明する図である。

図43は本発明に係る弾性体履板の第11実施例の説明図である。

図44は図43のR視図である。

図45は本発明に係る弾性体履板の第11実施例の応用例の説明図である。

図46は本発明に係る弾性体履板の第11実施例の別の応用例の説明図である。

図47は本発明に係る弾性体履板の第12実施例の説明図である。

図48は図47の弾性体履板を接地面側から見た説明図である。

図49は図48の49―49断面図である。

図50は本発明に係る弾性体履板の第13実施例の説明図である。

図51は図50の弾性体履板を接地面側から見た説明図である。

図52は図51の52―52断面図である。

図53は従来の弾性履板を接地面側から見た平面図である。

図54は図53のZ視図である。

図55は従来の弾性体履板の走行時における不具合を説明する図である」とあるのを、

「図5は本発明に係る芯体の第1例を説明する図である。

図6は本発明に係る芯体の第2例を説明する図である。

図7は図6の芯体に弾性体を被覆接着した説明図である。

図8は図7のW視図である。

図9は本発明に係る他の弾性体履板を説明する図である。

図10は本発明に係る弾性体履板の第2実施例の要部説明図である。

図11は図10の弾性体履板を接地面側から見た要部説明図である。

図12は図10の弾性体履板の耐久性評価に関する図である。

図13~図17は本発明の弾性体履板の第2実施例に適用される芯体形状例を示し、図13は芯体端部が2段階に屈曲する芯体の要部説明図、図14は芯体端部が2段階に屈曲する他の芯体の要部説明図、図15は芯体端部を所定の曲率半径で形成する芯体の要部説明図、図16は芯体端部を図17と異なる曲率半径で形成する芯体の要部説明図、図17は芯体端部を複数の曲面で形成する芯体の要部説明図である。

図18は本発明に係る弾性体履板の第3実施例の説明図である。

図19は本発明に係る弾性体履板の第4実施例の説明図である。

図20は本発明に係る弾性体履板の第5実施例の説明図である。

図21は本発明に係る弾性体履板の第6実施例の説明図である。

図22は本発明に係る弾性体腰板の第7実施例の説明図である。

図23は本発明に係る弾性体履板の第8実施例の説明図である。

図24は図23のR視図である。

図25は本発明に係る弾性体履板の第8実施例の応用例の説明図である。

図26は本発明に係る弾性体履板の第8実施例の別の応用例の説明図である。

図27は本発明に係る弾性体履板の第9実施例の説明図である。

図28は図27の弾性体履板を接地面側から見た説明図である。

図29は図28の49―49断面図である。

図30は本発明に係る弾性体履板の第10実施例の説明図である。

図31は図30の弾性体履板を接地面側から見た説明図である。

図32は図31の52―52断面図である。

図33は従来の弾性履板を接地面側から見た平面図である。

図34は図33のZ視図である。

図35は従来の弾性体履板の走行時における不具合を説明する図である。」と訂正する。

18)本件特許公報第6頁第12欄第33行~第7頁第13欄第15行の

「次に、弾性履板の第2実施例について図5乃至図8により説明する。図5及び図6に示すように、芯体10にはゴム等の弾性体20が被覆接着されている。芯体10に弾性体20を被覆接着したものを弾性体履板3Bと言う。弾性体履板3Bは、図示しないボルトを弾性体20に設けたボルト挿入孔20Cに挿入して、リンク6と取着している。弾性体履板3Bはクローラ進行方向に多数配置されており、互いに隣接するリンク6の端部同志をピン6aにより連結して、無限軌道帯を構成している。図示しない車体に取着される下転輪5は、リンク6の踏面に当接して回転できるようになっている。下転輪5およびリンク6を介して、車体の重量が芯体10に加わっている。したがって、芯体10は変形しないように剛性の高いもので製作されている。芯体端部10a、10bは非接地面側に屈曲している。この屈曲角α2は90゜にしてある。

図5、図6の作動について図7により説明する。走行中に歩道の縁石等に衝突、あるいは乗り上げても、芯体10の長手方向の端部10bが非接地面側に屈曲しているので、芯体10の屈曲部に沿って形成される弾性体端部20bの弾性作用により、弾性体20は、端部20bでの局部的な応力集中を避けることができる。これにより、弾性体端部20a、20bに亀裂が発生せず、弾性体履板3Bの耐久性が向上する。尚、第1実施例と同様に、芯体端部10a、10bの屈曲角α2は10゜~90゜の範囲で適宜設定される。

図8に示す弾性体履板3Cは、芯体端部10a、10bの非接地面側も、弾性体20の端部20c、20dで被覆接着した例を示すものである。それ以外は図5の弾性体履板3Bと同一構成、効果を有するので説明は省略する。

図8の構成によれば、図5の第2実施例の弾性体履板3Bに対して、芯体10を弾性体20により非接地面側にわたって被覆接着したので、芯体10と弾性体20の剥離等は防止される。」とあるのを削除する。

19)本件特許公報第7頁第13欄第16行~第35行の

「次に本発明の弾性体履板に係る芯体の形状について、図9乃至図13で説明する。尚、図9乃至図13では芯体の片側端部のみを示しているが、両側端部とも同一形状で形成される。

図9は、図1の第1実施例に示す芯体1を示しており、図に示す芯体端部1bの屈曲角α1は45°にしてある。図10は、図5の第2実施例に示す芯体10を示しており、図に示す芯体端部10bの屈曲角α2は90°にしてある。

図11の芯体30Aは、角形の端部30aを形成した例を示している。図12の芯体30Bは、円弧形の端部30bを形成した例を示している。図13の芯体30Dは、舟底形の端部30dを形成した例を示している。

図13に示す芯体30Dを例として、弾性体被覆の構成について説明する。尚、図9乃至図12の芯体も同様に構成されるので説明を省略する。図14及び図15に示すように、弾性体31は、接地面側から非接地面側の端部31bにわたって、芯体30Dを被覆して接着している。かかる弾性体履板においても、図1、図5に示す実施例と同様の効果を得ることができる。」とあるのを、

「次に、本発明の弾性体履板に係る芯体の形状について、図5および図6で説明する。尚、図5および図6では芯体の片側端部のみを示しているが、両側端部とも同一形状で形成される。

図5は、図1の第1実施例に示す芯体1を示しており、図に示す芯体端部1bの屈曲角α1は45゜にしてある。図6の芯体30Dは、舟底形の端部30dを形成した例を示している。

図6に示す芯体30Dを例として、弾性体被覆の構成について説明する。図7及び図8に示すように、弾性体31は、接地面側から非接地面側の端部31bにわたって、芯体30Dを被覆して接着している。かかる弾性体履板においても、図1に示す実施例と同様の効果を得ることができる。」と訂正する。

20)本件特許公報第7頁第13欄第36行~第8頁第15欄第23行の範囲内の「図16」を「図9」に、「図17」を「図10」に、「図18」を「図11」に、「図19」を「図12」に、「図20」を「図13」に、「図21」を「図14」に、「図22」を「図15」に、「図23」を「図16」に、「図24」を「図17」に、「図53」を「図33」に、それぞれ訂正し、「第3実施例」を「第2実施例」に訂正する。

21)本件特許公報第8頁第15欄第24行~10頁第20欄第28行の

「次に、弾性体履板の第4実施例について図25乃至図27により説明する。

弾性体履板3Fは、芯体40にゴム等の弾性体50が被覆接着されたものからなっている。弾性体履板3Fは、図示しないボルトを弾性体50に設けたボルト挿入孔50cに挿入して、リンク6と取着している。芯体40の端部40bに対して、弾性体50の端部50bは外側に突出した形状にしてある。弾性体50の内部で、かつ、芯体40の下方には、ケーブル層60Aが配設されている。

図26、図27に示すように、芯体40の下方には、芯体40にほぼ平行で複数本のケーブル線からなるケーブル層60Aが、配設されている。

弾性体50に埋設するケーブル層60Aは、図25では、片側だけ、即ち車体外側だけを示しているが、両側に設けるようにしても良い。また、芯体40の端部40aから、弾性体50の端部50aが外側に突出する長さと、芯体40の端部40bから、弾性体50の端部50bが外側に突出する長さとを、左右対称にしても良い。この外側への突出長さは、図25のように、左右非対称であっても良い。これらは、小型~大型の各機種の重量、弾性体履板3Fの大きさ等を考慮して適宜設計される。

図25乃至図27の作動について説明する。芯体40の長手方向の端部40bの近傍にケーブル層60Aを埋設したので、この部分の剛性が高くなる。これにより、弾性体端部50bが岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げたり、衝突しても、弾性体端部50bな亀裂が発生しない。また、弾性体端部50bが芯体40の端部40bよりも外側に突出する構成としたので、弾性体端部50bは、走行中に歩道の縁石等の突起物に衝突しても、この突起物との衝突による衝撃を和らげることができる。以上のように、走行中に歩道の縁石等の突起物に乗り上げたり、あるいは衝突しても、弾性体端部50bに亀裂が発生しないので、弾性体履板3Fの耐久性が向上する。

第4実施例の応用例として、ケーブル層60Aを弾性体履板33(図17参照)に設けてもよい。例えば図28に示すように、弾性体履板33Fは、弾性体22の端部22dの内部で、芯体11の長手方向端部11hの下方に、ケーブル層60Aを埋設している。かかる構成により、上記と同様にして、弾性体履板33Fの耐久性が向上する。

弾性体履板の第5実施例について図29、図30により説明する。

弾性体履板3Eは、芯体40にゴム等の弾性体50が被覆接着されたものからなっている。弾性体履板3Eは、図示しないボルトを弾性体50に設けたボルト挿入孔50cに挿入して、リンク6と取着している。芯体40の端部40bに対し、弾性体50の端部50bは、外側に突出した形状にしてある。弾性体50の内部で、かつ芯体40の下方には、ケーブル層60Bが斜めに配設されている。図29、図30ではケーブル層60Bを一層だけを示しているが、ケーブル層60Bを複数の層で構成しても良い。

また、弾性体50に埋設するケーブル層60Bは、図29では片側だけの場合を示しているが、両側に設けるようにしても良い。また、芯体40の端部40aから、弾性体50の端部50aが外側に突出する長さと、芯体40の端部40bから、弾性体50の端部50bが外側に突出する長さとを、左右対称にしても良い。図29のように左右非対称であっても良い。

図29、図30の作動について説明する。芯体40の長手方向の端部40bの近傍に、複数のケーブル線を斜方向に配設したケーブル層60Bを、埋設したある。これにより、この埋設部分近傍の剛性が高くなり、弾性体端部50bが突起物に乗り上げたり、衝突しても、弾性体端部50bに亀裂が発生しない。また、芯体40の端部40bより弾性体端部50bが外側に突出する構成としたので、走行中に歩道の縁石等に衝突しても、弾性体端部50bは、縁石等との衝突による衝撃を和らげることができる。これにより、上記実施例と同様に、弾性体端部50bに亀裂が発生せず、弾性体履板3Eの耐久性が向上する。

弾性体履板の第6実施例について図31、図32により説明する。

弾性体履板3Gは、芯体40にゴム等の弾性体50が被覆接着されている。弾性体履板3Gは、図示しないボルトを弾性体50に設けたボルト挿入孔50cに挿入して、リンク6と取着している。

芯体40の端部40bに対して、弾性体50の端部50bは外側に突出した形状にしてある。弾性体50の内部で、かつ芯体40の下方には、二層のケーブル層60Cが配設されている。第1層のケーブル層60Cは、複数のケーブル線を斜方向に配設したケーブル層である。また、第2層のケーブル層60Cの複数のケーブル線は、第1層のケーブル層60Cのケーブル線の斜方向に対し、クロスするように逆の斜方向に配設されている。図31、図32ではケーブル層60Cを二層だけを示しているが、ケーブル層60Cを三層以上で構成しても良い。また、弾性体50に埋設するケーブル層60Cは、片側だけを示しているが、両側に設けるようにしても良い。

図31、図32の作動について説明する。芯体40の長手方向の端部40bの近傍に、ケーブル線の配設方向が異なるケーブル層60Cを複数埋設したので、この部分の剛性が高くなる。これにより、第5実施例と同様にして、弾性体端部50bに亀裂が発生しないので、弾性体履板3Gの耐久性が向上する。

第6実施例の応用例として、複数のケーブル層60Cを弾性体履板33(図17参照)に設けてもよい。例えば図33に示すように、弾性体履板33Gは、弾性体22の端部22dの内部で、芯体11の長手方向端部11hの下方に、ケーブル層60Cを二層埋設している。かかる構成により、上記と同様にして、弾性体履板33Gの耐久性が向上する。

弾性体履板の第7実施例について図34、図35により説明する。

弾性体履板3Hは、図29と同様に、芯体40にはゴム等の弾性体50が被覆接着されている。弾性体50の内部で、かつ芯体40の下方には、ケーブル層60Dが平行に複数本配設されている。図34ではケーブル層60Dを三層を示しているが、ケーブル層60Dを四層以上としても良い。図34では弾性体履板3Hを片側だけを示しているが、前述の実施例と同様に、弾性体50に埋設するケーブル層60Dは、両側に設けるようにしても良い。また、芯体端部40bから弾性体50の端部50bが外側に突出する長さは、左右対称でも、左右非対称であっても良い。これらは、小型~大型の各機種の重量、弾性体履板3Hの大きさ等を考慮して適宜設計される。かかる構成によっても、第5実施例と同様に、弾性体端部50bに亀裂が発生せず、弾性体履板3Hの耐久性が向上する。

弾性体履板の第8実施例について図36により説明する。

弾性体履板3Iは、芯体70にゴム等の弾性体80が被覆接着されている。弾性体履板3Iは、図示しないボルトを弾性体80に設けたボルト挿入孔80cに挿入して、リンク6と取着している。芯体70は、非接地面側の弾性体端部80aも含めた弾性体80により、接地面側から非接地面側にわたって被覆接着されている。これにより芯体70に対し、弾性体80の剥離を防止している。弾性体80は、芯体70に最も近い部分の硬度が最も高く、接地面側に向かって順次硬度が低くなるように、硬度の異なるものを一体形成している。

芯体70に最も近い部分の弾性体80X、最も接地面側部分の弾性体80Z、及び弾性体80Xと弾性体80Zとの中間の弾性体80Yは、それぞれ硬度HS90、硬度HS70、及び硬度HS80に設定されている。弾性体80X、80Y、80Zの硬度は、小型~大型の各機種の重量等の使用によって適宜設定される。

図36の作動について説明する。弾性体80は、硬度が高いと撓み等による偏荷重に対して強いが、反面乗心地が悪く、また耐摩耗性も悪くなるとの性質がある。そこで、芯体70に最も近い弾性体80Xは、硬度を最も高くしてある。そして、接地面側に向かって順次硬度を低くし、弾性体80の接地面側部分は、乗心地が良く、しかも耐摩耗性も考慮して、硬度の低い弾性体80Zにしてある。したがって、走行中に岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げても、弾性体端部80bに亀裂が発生せず、弾性体履板3Iの耐久性が向上する。

第8実施例の応用例として、弾性体80を弾性体履板33(図17参照)に適用してもよい。例えば図37に示すように、弾性体履板33Iの弾性体80は、芯体端部11hを含めて芯体11に最も近い部分の硬度が最も高く、接地面側に向って順次硬度が低くなるように、硬度の異なる弾性体80X、80Y、80Zを一体形成している。かかる構成により、上記と同様にして、弾性体履板33Iの耐久性が向上する。

弾性体履板の第9実施例について図38により説明する。

弾性体履板3Jは、芯体93にゴム等の弾性体90が被覆接着されている。弾性体履板3Jは、図示しないボルトを弾性体90に設けたボルト挿入孔90cに挿入して、リンク6と取着している。弾性体履板3Jは、芯体93の長手方向の端部の近傍に、弾性体90に固着される合成樹脂部材95を備えている。合成樹脂部材95は、芯体93の長手方向の一側端部近傍、又は両側端部近傍に備えられる。

図38の作動について説明する。弾性体90に固着される合成樹脂部材95を摩擦係数の小さいものにすれば、合成樹脂部材95が岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げても、岩石が滑って逃げるので、合成樹脂部材95や弾性体端部90bは、局部的な応力集中が避けられる。したがって、走行中に岩石や歩道の縁石等の突起物に乗り上げても亀裂が発生せず、弾性体履板3Jの耐久性が向上する。

第9実施例の応用例として、合成樹脂部材95を弾性体履板33(図17参照)に適用してもよい。例えば図39に示すように、弾性体履板33Jは、芯体11の長手方向の端部11hの近傍に、弾性体90に固着される合成樹脂部材95を備えている。かかる構成により、上記と同様にして、弾性体履板33Iの耐久性が向上する。

弾性体履板の第10実施例について、図40、図41及び図42により説明する。

弾性体履板3Kは、芯体100にゴム等の弾性体110が被覆接着されている。芯体100は、ばね鋼で形成されている。このような構成によれば、弾性体履板3Kが走行中に突起物に乗り上げても、ばね鋼で形成される芯体100の長手方向の端部101が上方に変位するので、弾性体端部111での局部的な応力集中が避けられる。図40に示す芯体100の端部101はフラットに形成されているが、図1の第1実施例と同様に、芯体100の端部101を非接地面側に屈曲しておけば、さらに弾性体端部111での局部的な応力集中を避けることができる。これにより、走行中に突起物に乗り上げても、弾性体端部111に亀裂が発生せず、弾性体履板3Kの耐久性が向上する。

弾性体履板の第11実施例について図43及び図44により説明する。

弾性体履板3Lは、芯体115に弾性体116を被覆接着してある。また、芯体115の端部115a、115bは非接地面側に屈曲させてある。従って、本実施例に基本的な構成は、第1実施例の図1と同一である。第1実施例と異なる構成は、リンク8に金属板9Aを溶接等で取着(固着)して一体化し、金属板9Aと芯体115とをボルト9により取着している点である。

このような構成によれば、芯体115の端部115a、115bが非接地面側に屈曲しているので、図1の第1実施例と同様に、弾性体端部116a、116bでの局部的な応力集中が避けられる。これにより、走行中に突起物に乗り上げても、弾性体端部116a、116bに亀裂が発生せず、弾性体履板3Lの耐久性が向上する。また、金属板9Aを介して芯体115とリンク8とを取着するようにしたので、ボルト挿入孔を弾性体116に設ける必要がない。これにより、ボルト挿入孔に起因する亀裂、剥離等の不具合が無い。

第11実施例の一体化に関する応用例として、リンクと芯体とを一体化してもよい。例えば、図4の弾性体履板3Aのリンク6と芯体1との一体化構成を図45に示す。弾性体履板33Aは、リンク取付け面6aにてリンク6を芯体71に溶接により取着して一体化している。これにより、図4の芯体1及び弾性体2に設けられてぃるボルト挿入孔2cの形成を廃止すると共に、ボルトを不要としている。

また別の一体化例として、図43のリンク8、金属板9A及び芯体115を一体化してもよい。例えば、図46の弾性体履板33Lは、リンク8、金属板73及び芯体74を溶接により取着して一体化している。これにより、図43の芯体115及び金属板9Aに設けられているボルト挿入孔を廃止すると共に、ボルト9を不要としている。

また、第11実施例の更なる応用例を列挙する。

(1) 弾性体116の内部で、芯体115の下方で、かつ芯体端部115bの近傍に、図28のケーブル層60A、図29のケーブル層60B、図33のケーブル層60C、及び図34のケーブル層60Dにいずれかのケーブル層を配設する。

(2) 弾性体116は、図37の弾性体80と同様な構成となるように、芯体115に最も近い部分の硬度が最も高く、接地面側に向かって順次硬度が低くなるように、硬度の異なる弾性体80X、80Y、80Z(図37参照)を一体形成している。

(3) 弾性体116は、図39の弾性体90および合成樹脂部材95と同様な構成となるように、芯体115の長手方向の端部115bの近傍(ほぼ、弾性体端部116bに相当)に、弾性体116に固着される合成樹脂部材95を備えている。

(4) 芯体115をばね鋼で形成する。

(5) さらに、上記項目(1)~(4)の芯体115を、フラットな形状、即ち芯体端部115a、115bが屈曲していない形状にする。

弾性体履板の第12実施例を図47乃至図49にて説明する。弾性体履板33は、実質的には図17及び図18の弾性体履板33と同じであり、リンク取付け面6b以外の芯体11を、ゴム等の弾性体22で被覆接着している。また、芯体11の長手方向の端部11a、11hは、非接地面側に屈曲している。かかる構成により、上記実施例と同様、走行中に突起物に乗り上げても、弾性体端部22a、22dに亀裂が発生せず、弾性体履板33の耐久性が向上する。

弾性体履板の第13実施例を図50乃至図52にて説明する。」とあるのを、

「次に、弾性体履板の第3実施例について図18により説明する。

弾性体履板33Fは、芯体1Iにゴム等の弾性体22が被覆接着されたものからなっている。弾性体履板33Fは、図示しないボルトを弾性体22に設けたボルト挿入孔に挿入して、リンク6と取着している。弾性体履板33Fは、弾性体22の端部22dの内部で、芯体11の長手方向端部11hの下方に、芯体11にほぼ平行で複数のケーブル線からなるケーブル層60Aを埋設している。

弾性体22に埋設するケーブル層60Aは、図18では、片側だけ、即ち車体外側だけを示しているが、両側に設けるようにしても良い。

図18の作動について説明する。芯体11の長手方向端部11hの下方にケーブル層60Aを埋設したので、この部分の剛性が高くなる。これにより、弾性体端部22dが岩石や歩道の緑石等の突起物に乗り上げたり、衝突しても、弾性体端部22dな亀裂が発生しない。また、弾性体端部22dが芯体11の端部11hよりも外側に突出する構成としたので、弾性体端部22dは、走行中に歩道の緑石等の突起物に衝突しても、この突起物との衝突による衝撃を和らげることができる。以上のように、走行中に歩道の緑石等の突起物に乗り上げたり、あるいは衝突しても、弾性体端部22dに亀裂が発生しないので、弾性体履板33Fの耐久性が向上する。

弾性体履板の第4実施例について図19により説明する。

弾性体履33Gは、芯体11にゴム等の弾性体22が被覆接着されている。弾性体履33Gは、図示しないボルトを弾性体22に設けたボルト挿入孔に挿入して、リンク6と取着している。

芯体11の端部22dの内部で、芯体11の長手方向端部11hの下方に、二層のケーブル層60cが配設されている。第1層のケーブル層は、複数のケーブル線を斜方向に配設したケーブル層である。また、第2層のケーブル層の複数のケーブル線は、第1層のケーブル層のケーブル線の斜方向に対し、クロスするように逆の斜方同に配設されている。図19ではケーブル層60cを二層だけを示しているが、ケーブル層60cを三層以上で構成しても良い。また、弾性体22に埋設するケーフ層60cは、片側だけを示しているが、両側に設けるようにしても良い。

図19の作動について説明する。芯体11の長手方向端部11hの下方にケーブル線の配設方向が異なるケーブル層60cを複数埋設したので、この部分の剛性が高くなる。これにより、弾性体端部22dに亀裂が発生しないので、弾性体履板33Gの耐久性が向上する。

弾性体履板の第5実施例について図20により説明する。

弾性体履板33Iは、芯体11にゴム等の弾性体80が被覆接着されている。弾性体履板33Iは、図示しないボルトを弾性体80に設けたボルト挿入孔に挿入して、リンク6と取着している。芯体11は、非接地面側の弾性体端部80aも含めた弾性体80により、接地面側から非接地面側にわたって被覆接着されている。これにより芯体11に対し、弾性体80の剥離を防止している。弾性体80は、芯体11に最も近い部分の硬度が最も高く、接地面側に向かって順次硬度が低くなるように、硬度の異なるものを一体形成している。

芯体11に最も近い部分の弾性体80X、最も接地面側部分の弾性体80Z、及び弾性体80Xと弾性体80Zとの中間の弾性体80Yは、それぞれ硬度HS90、硬度HS70、及び硬度HS80に設定されている。弾性体80X、80Y、80Zの硬度は、小型~大型の各機種の重量等の使用によって適宜設定される。

図20の作動について説明する。弾性体80は、硬度が高いと撓み等による偏荷重に対して強いが、反面乗心地が悪く、また耐摩耗性も悪くなるとの性質がある。そこで、芯体11に最も近い弾性体80Xは、硬度を最も高くしてある。そして、接地面側に向かって順次硬度を低くし、弾性体80の接地面側部分は、乗心地が良く、しかも耐摩耗性も考慮して、硬度の低い弾性体80Zにしてある。したがって、走行中に岩石や歩道の緑石等の突起物に乗り上げても、弾性体端部80bに亀裂が発生せす、弾性体履板33Iの耐久性が向上する。

弾性体履坂の第6実施例について図21により説明する。

弾性体履仮33Jは、芯体11にゴム等の弾性体90が被覆接着されている。弾性体履板33Jは、図示しないボルトを弾性体90に設けたボルト挿入孔に挿入して、リンク6と取着している。弾性体履板33Jは、芯体11の長手方向端部11hの近傍に、弾性体90に固着される合成樹脂部材95を備えている。合成樹脂部材95は、芯体11の長手方向一側端部近傍、又は両側端部近傍に備えられる。

図21の作動について説明する。弾性体90に固着される合成樹脂部材95を摩擦係数の小さいものにすれば、合成樹脂部材95が岩石や歩道の緑石等の突起物に乗り上げても、岩石が滑って逃げるので、合成樹脂部材95や弾性体端部90bは、局部的な応力集中が避けられる。したがって、走行中に岩石や歩道の緑石等の突起物に乗り上げても亀裂が発生せず、弾性体履板33Jの耐久性が向上する。

弾性体履板の第7実施例について、図22により説明する。

弾性体履板は、芯体100にゴム等の弾性体110が被覆接着されている。芯体100は、ばね鋼で形成されている。このような構成によれば、弾性体履板が走行中に突起物に乗り上げても、ばね鋼で形成される芯体100の長手方向の端部101が上方に変位するので、弾性体端部111での局部的な応力集中が避けられる。また、芯体100の端部101が非接地両側に屈曲されているので、さらに弾性体端部111での局部的な応力集中を避けることができる。これにより、走行中に突起物に乗り上げても、弾性体端部111に亀裂が発生せず、弾性体履板の耐久性が向上する。

弾性体履板の第8実施例について図23及び図24により説明する。

弾性体履板3Lは、芯体115に弾性体116を被覆接着してある。また、芯体115の端部115a、115bは非接地面側に屈曲させてある。従って、本実施例に基本的な構成は、第1実施例の図1と同一である。第1実施例と異なる構成は、リンク8に金属板9Aを溶接等で取着(固着)して一体化し、金属板9Aと芯体115とをボルト9により取着している点である。

このような構成によれば、芯体115の端部115a、115bが非接地面側に屈曲しているので、図1の第1実施例と同様に、弾性体端部116a、116bでの局部的な応力集中が避けられる。これにより、走行中に突起物に乗り上げても、弾性体端部116a、116bに亀裂が発生せず、弾性体履板3Lの耐久性が向上する。また、金属板9Aを介して芯体115とリンク8とを取着するようにしたので、ボルト挿入孔を弾性体116に設ける必要がない。これにより、ボルト挿入孔に起因する亀裂、剥離等の不具合が無い。

第8実施例の一体化に関する応用例として、リンクと芯体とを一体化してもよい.例えば、図4の弾性体履板3Aのリンク6と芯体1との一体化構成を図25に示す。弾性体履板33Aは、リンク取付け面6aにてリンク6を芯体71に溶接により取着して一体化している。これにより、図4の芯体1及び弾性体2に設けられているボルト挿入孔2cの形成を廃止すると共に、ボルトを不要としている。

また別の一体化例として、図23のリンク8、金届板9A及び芯体115を一体化してもよい。例えば、図26の弾性体履板33Lは、リンク8、金属板73及び芯体74を溶接により取着して一体化している。これにより、図23の芯体115及び金属板9Aに設けられているボルト挿入孔を廃止すると共に、ボルト9を不要としている。

また、第8実施例の更なる応用例を列挙する。

(1) 弾性体116の内部で、芯体115の下方で、かつ芯体端部115bの近傍に、図18のケーブル層60A、図19のケーブル層60cのいずれかのケーブル層を配設する。

(2) 弾性体116は、図20の弾性体80と同様な構成となるように、芯体115に最も近い部分の硬度が最も高く、接地面側に向かって順次硬度が低くなるように、硬度の異なる弾性体80X、80Y、80Z(図20参照)を一体形成している。

(3) 弾性体116は、図21の弾性体90および合成樹脂部材95と同様な構成となるように、芯体115の長手方向の端部115bの近傍(ほぼ、弾性体端部116bに相当)に、弾性体116に固着される合成樹脂部材95を備えている。

(4) 芯体115をしまね鋼で形成する。

(5) さらに、上記項目(1)~(4)の芯体115を、フラットな形状、即ち芯体端部115a、115bが屈曲していない形状にする。

弾性体履板の第9実施例を図27乃至図29にて説明する。弾性体履板33は、実質的には図10及び図11の弾性体履板33と同じであり、リンク取付け面6b以外の芯体11を、ゴム等の弾性体22で被覆接着している。また、芯体11の長手方向の端部11a.11hは、非接地面側に屈曲している。かかる構成により、上記実施例と同様、走行中に突起物に乗り上げても、弾性体端部22a、22dに亀裂が発生せず、弾性体履板33の耐久性が向上する。

弾性体履阪の第10実施例を図30乃至図32にて説明する。」

と訂正する。

2.訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否

(1) 訂正事項1)について

上記訂正事項1)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、請求項4、請求項7(新請求項6)、請求項8(新請求項7)、請求項9(新請求項8)および請求項15(新請求項10)において、「前記いずれかの芯体の長手方向の端部が非接地面側に屈曲し、」とあるのを、「前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、」と訂正することによって、特許請求の範囲を減縮するもので、この訂正事項1)については、第1、3、4、28、33、45図等に記載されており、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項2)について

上記訂正事項2)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項10および請求項11を削除することによって、特許請求の範囲を減縮するもので、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3) 訂正事項3)について

上記訂正事項3)は、誤記の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(4) 訂正事項4)について

上記訂正事項4)は、「ケーブル線の配設方向は、前記いずれかの芯体の長手方向に対し、平行となる方向、又は平行となる方向および斜方向から選択される方向を二以上組合わせる」とあるのを、「ケーブル線は、前記いずれかの芯体の長手方向に対し、平行となる方向に配設されるか、または第1層が斜方向に、第2層がそれにクロスする斜方向にそれぞれ配設される」と訂正することによって、特許請求の範囲を減縮するもので、この訂正事項1)については、第26、32図等に記載されており、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(5) 訂正事項5)~21)について

上記訂正事項5)~21)は、訂正事項1)~4)の特許請求の範囲の訂正によって生じる発明の詳細な説明と特許請求の範囲の齟齬を解消しようとするもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.独立特許要件

上記請求項4に係る訂正は、特許異議の申立てがされていない請求項についての訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当するから、訂正明細書の請求項4に係る発明の独立特許要件について検討する。

訂正明細書の請求項4に係る発明は、訂正明細書の請求項4に記載されたとおりのものであって、申立人が提出した全刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認めることができない。

したがって、訂正明細書の請求項4に係る発明は、出願の際、独立して特許を受けることができるものである。

4.訂正請求の認容について

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】 本件特許発明の認定

上記のとおり、平成13年7月13日付けの訂正請求は認められるので、本件特許の請求項1~10に係る発明は、平成13年7月13日付けの訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1~3、6~8、10(訂正前の請求項1~3、7~9、15に対応)に係る発明は、以下のとおりのものと認める(請求項1の発明を、以下「本件発明」という。)。

「【請求項1】クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記いずれかの芯体の非接地面側は、前記屈曲した芯体端部に対応して非接地面側に張り出してなる弾性体で被覆されることを特徴とする弾性体履板。

【請求項2】請求の範囲1記載の弾性体履板において、

前記弾性体の内部で、かつ前記いずれかの芯体の長手方向端部の下方から前記いずれかの芯体の長手方向端部の外方にわたって、少なくとも一層のケーブル層を備えることを特徴とする弾性体履板。

【請求項3】請求の範囲2記載の弾性体履板において、

前記ケーブル層のケーブル線は、前記いずれかの芯体の長手方向に対し、平行となる方向に配設されるか、または第1層が斜方向に、第2層がそれにクロスする斜方向にそれぞれ配設されることを特徴とする弾性体履板。

【請求項6】クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記リンクの取付け面から前記いずれかの芯体の長手方向端部の高さ方向先端までの高さhと、リンクピッチLpとの比率が、0.05≦h/Lp≦0.25であることを特徴とする弾性体履板。

【請求項7】クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履仮において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記リンクの取付け面から前記いずれかの芯体の長手方向端部の高さ方向先端までの高さhと、弾性体履板高さHとの比率が、0.08≦h/H≦0.50であることを特徴とする弾性体履板。

【請求項8】クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記いずれかの芯体の幅W1と、前記いずれかの芯体の長手方向先端の幅W2との比率が、0.5≦W2/W1≦0.9であることを特徴とする弾性体履板。

【請求項10】クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有する弾性体履板において、

前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、

前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲し、

前記芯体の長手方向端部の先端に対し、前記弾性体の端部が外方に突出し、

前記いずれかの芯体の非接地面側は、前記屈曲した芯体端部に対応して非接地面側に張り出してなる弾性体で被覆されることを特徴とする弾性体履板。」

【4】引用刊行物及びその記載事項

これに対して、当審における平成13年4月27日付けで通知した取消の理由に引用した、本件特許の出願前である平成8年11月19日に日本国内において頒布された特開平8―301153号公報(以下「刊行物1」という。)には、ゴムクローラ用芯金に関して次の事項が記載されている。

a) 「芯金としては無端状のゴムクローラに用いる場合もあるが、1ピッチづつ単体とした履帯ゴムシューでも、複数ピッチを一体とした履帯ゴムシューにも用いられるものである。」(第2頁右欄3~6行)

b) 「芯金の先端部のC面取りやR面取りを大きくできたことにより、・・・ゴム弾性体中に埋設した際にも、芯金の先端部に対応する端部の剥離や耳切れといった不具合がなくなった。」(第2頁右欄7~11行)

c) 「芯金の中央部1は図示しないリンクとの連結に供されるものであり、2はこのためのボルト孔である。又、左右の翼部3はゴム弾性体中に埋設される部位である。」(第2頁右欄17~20行)

d) 「ゴムと芯金の先端部とはエッヂ部が存在しないため耳切れの発生も著しく少なくなるという特徴を有する。」(第2頁右欄34~36行)

e) 「図5は芯金の先端部の内周側にのみ肉厚部4とされた例である。」(第2頁右欄39~41行)

f) 図1、2には、芯金の長手方向に位置する左右の翼部3の両端部に肉厚部4が形成されていることが記載されており、、図5には、芯金の長手方向の端部の肉厚部4が非接地面側に屈曲して形成され、芯金の非接地面側は、屈曲した肉厚部4に対応して張り出してなるゴム弾性体10で被覆されていることが記載されている。

上記a)、c)の記載から、上記刊行物1における芯金は、1ピッチづつ単体とした履帯ゴムシューにリンクで連結されて用いられ、e)、f)の記載から、長手方向の端部の肉厚部4が非接地面側に屈曲し、前記芯金の非接地面側は、前記屈曲した芯金端部の肉厚部4に対応して非接地面側に張り出してなるゴム弾性体10で被覆され、b)、d)の記載から、肉厚部4はゴム弾性体10の耳切れを防止しうるものであると認められる。したがって、上記刊行物1には、

「リンクと、ゴム弾性体10で被覆される芯金とを有する履帯ゴムシューにおいて、芯金の長手方向の両端部の肉厚部4が非接地面側に屈曲し、前記芯金の非接地面側は、前記屈曲した芯金端部の肉厚部4に対応して非接地面側に張り出してなるゴム弾性体10で被覆される履帯ゴムシュー。」

の発明が記載されているものと認める。

同じく、当審における平成13年4月27日付けで通知した取消の理由に引用した、本件特許の出願前である平成6年9月27日に日本国内において頒布された特開平6―270856号公報(以下「刊行物2」という。)には、湿田用ゴムクローラに関して次の事項が記載されている。

g) 「1はゴムクローラ、1aはクローラ本体、1bはラグ、1c及び1dはクローラ本体1aに於けるそれぞれ中央部及び側縁部、2は芯金、2a、2b及び2cは芯金2のそれぞれ翼部、転輪案内用の突起及び駆動スプロケットとの係合部、Hは駆動スプロケットの歯先の係合孔、Sはスチールコード、・・・ゴム弾性体で形成したクローラ本体1aの内部に芯金2を周方向に対して横並べに一定間隔おきに埋設し、・・・3a及び3bは側縁部1dの内部の上下に埋設した補強芯であって、本実施例では上記周方向補強材としてのスチールコードSと同じ線条体を所定長さ(補強芯の長さW3)に切断したものを使用してあり、図に示すように補強芯3a、3bのクローラ中央側の端縁は翼部2aの上部及び下部に重複させて(重複巾W23)、それぞれクローラ巾方向へ長く揃えて埋設する・・・」(第2頁右欄最下行~第3頁左欄22行)

h) 図1には、翼部2cが芯金2の長手方向に形成され、補強芯3bが、芯金2の長手方向端部の下方から芯金2の長手方向端部の外方にわたって、芯金2の長手方向に平行に形成されていることが記載されている。

上記g)、h)の記載と、スチールコードがケーブルの一種であることから、上記刊行物2には、

「ゴムクローラにおいて、ゴム弾性体で形成したクローラ本体1aに内部で、かつ芯金2の長手方向端部の下方から芯金2の長手方向端部の外方にわたって、ケーブル層3bを備えるゴムクローラ。」

の発明が記載されているものと認める。

【5】本件発明と刊行物1に記載された発明との対比

本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すれば、刊行物1に記載された発明の「履帯ゴムシュー」、「芯金」、「芯金の長手方向の端部の肉厚部4」、「屈曲した芯金端部の肉厚部4」、「ゴム弾性体10」は、それぞれ本件発明の「弾性体履板」、「芯体」、「芯体の長手方向の端部」、「屈曲した芯体端部」、「弾性体」に相当するから、本件発明は刊行物1に記載された発明と、

「リンクと、弾性体で被覆される芯金とを有する弾性体履板において、芯体の長手方向の両端部が非接地面側に屈曲し、前記芯体の非接地面側は、前記屈曲した芯体端部に対応して非接地面側に張り出してなる弾性体で被覆される弾性体履板。」

である点で一致し、以下の<相違点>で相違している。

<相違点>

1)本件発明の弾性体履板は、クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志をピンを介して連結するリンクを有し、芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかであるようにしたのに対し、刊行物1に記載された発明の履帯ゴムシューはリンクを有するものの、そのリンクはクローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるものであるのかどうか明らかでなく、芯金がリンクに取着される芯金、及びリンクに取着される金属板へ取着される芯金のいずれかであるのかどうかも明らかでない点。

2)本件発明の芯体は、長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲しているのに対し、刊行物1に記載された発明の芯金は、長手方向の両端部が非接地面側に屈曲しているが、屈曲部が傾斜面とはなっていない点。

【6】相違点の検討

(1) 相違点1)に関して

クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクを有し、該リンクに芯体を介して弾性体履板を取着したクローラは、従来周知(例えば特開平8―301156号公報、実願平1―5077号(実開平2―96382号)のマイクロフィルム、実願平2―99422号(実開平4―56593号)のマイクロフィルム参照)であり、その場合、弾性体履板をリンクに取着するのに、芯体をリンクに直接取着するか、リンクに取着される金属板へ取着するかのどちらかの手段を採用することは、当業者が普通に採用する技術である。したがって、刊行物1に記載された発明において、リンクを、クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクとすると共に、芯金を前記リンクに取着される芯金、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯金のいずれかとすることは、上記従来周知の技術から当業者が容易に行うことができたものと認める。

(2) 相違点2)に関して

クローラの芯体を、長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲させることは従来周知(例えば、特開昭50―100734号公報、実願昭60―137028号(実開昭62―43985号)のマイクロフィルム参照)であり、このようにすれば、弾性体履板から岩石が逃げて弾性体の局部的応力集中を避けられ、弾性体端部に亀裂が発生せず、弾性体履板の耐久性が向上することは、当業者が容易に想到しうるところである。してみれば、刊行物1に記載された発明の芯金を長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲させることは、上記従来周知の技術から当業者が容易に行うことができたものと認める。

【7】請求項2の発明に関して

請求項2の発明は、本件発明の弾性体履板において、前記弾性体に内部で、かつ芯体の長手方向端部の下方から芯体の長手方向端部の外方にわたって、少なくとも一層のケーブル層を備えるようにしたものであるが、ゴムクローラにおいて、ゴム弾性体で形成したクローラ本体1aに内部で、かつ芯金2の長手方向端部の下方から芯金2の長手方向端部の外方にわたって、ケーブル層3bを備える発明は、上記刊行物2に記載されており、刊行物2に記載された発明を、刊行物1に記載された発明に適用することに何ら困難性は認められないから、請求項2の発明は、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【8】請求項3の発明に関して

弾性体履板において、芯体下方のケーブル層のケーブル線を、芯体の長手方向に対し、平行となる方向に配設することは上記刊行物2に記載されており、さらに、ケーブル線を、第1層が斜方向に、第2層がそれにクロスする斜方向になるように配設することは周知技術(例えば、特開平3―220071号公報参照)である。してみれば、ケーブル層のケーブル線を、芯体の長手方向に対し平行となる方向に配設するか、または第1層が斜方向に、第2層がそれにクロスする斜方向にそれぞれ配設することは、上記刊行物2に記載された発明と上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に行い得たものである。

【9】請求項6~8の発明に関して

請求項6の発明において、リンクの取付け面から芯体の長手方向端部の高さ方向先端までの高さhと、リンクピッチLpとの比率を、0.05≦h/Lp≦0.25とした点、請求項7の発明において、数値高さhと、弾性体履板高さHとの比率を、0.08≦h/H≦0.50とした点、請求項8の発明において、芯体の幅W1と、芯体の長手方向先端の幅W2との比率を、0.5≦W2/W1≦0.9とした点には、それぞれ数値限定の根拠が示されておらず、しかもこれらの限定は、当業者が普通に採用する好ましい数値の範囲を単に例示したにとどまるものである。そして、弾性体履板において、クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有し、前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲するようにすることは、前記[【6】相違点の検討]で説示したように、当業者が容易に行うことができたものである。してみれば、クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有し、前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲する弾性体履板において、前記リンクの取付け面から前記いずれかの芯体の長手方向端部の高さ方向先端までの高さhと、リンクピッチLpとの比率を0.05≦h/Lp≦0.25とすること、前記リンクの取付け面から前記いずれかの芯体の長手方向端部の高さ方向先端までの高さhと、弾性体履板高さHとの比率を0.08≦h/H≦0.50とすること、前記いずれかの芯体の幅W1と、前記いずれかの芯体の長手方向先端の幅W2との比率を0.5≦W2/W1≦0.9とすることは、当業者が必要に応じてそれぞれ適宜選択し得たものである。

【10】請求項10の発明に関して

弾性体履板において、クローラ進行方向に互いに隣接する端部同志がピンを介して連結されるリンクと、少なくとも接地面側が弾性体で被覆される芯体とを有し、前記芯体は、前記リンクに取着される芯体、及び前記リンクに取着される金属板へ取着される芯体のいずれかの芯体であり、前記いずれかの芯体の長手方向の両端部が傾斜面を形成するように非接地面側に屈曲するようにすることは、前記[【6】相違点の検討]で説示したように当業者が容易に行うことができたものであり、芯体の長手方向端部の先端に対し弾性体の端部を外方に突出させ、芯体の非接地面側を、屈曲した芯体端部に対応して非接地面側に張り出してなる弾性体で被覆することは、刊行物1に記載された発明でも行われている技術であるから、請求項10の発明は、[【6】相違点の検討]で説示したのと同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件の請求項1~3、6~8、10に係る発明による作用効果は、上記刊行物1に記載された発明に、上記刊行物2に記載された発明と上記各従来周知の技術を適用することにより得られる作用効果を越えるものでもない。

【11】むすび

以上、詳述したとおり、本件の請求項1~3、6~8、10に係る発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1~3、6~8、10に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

したがって、本件の請求項1~3、6~8、10に係る発明についての特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

平成13年08月27日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例