東京高等裁判所 平成13年(行コ)117号 判決 2002年10月29日
控訴人
東京都固定資産評価審査委員会
代表者委員長
沼田明
訴訟代理人弁護士
川上俊宏
指定代理人
日置豊見
外二名
被控訴人
山崎康男承継人山崎元子
外三名
右四名訴訟代理人弁護士
本田俊雄
同
田中宏明
同
桐生貴央
同
金子悦司郎
同
水成直也
同
森哲也
同
国吉歩
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人が平成一〇年三月二四日、東京都渋谷区××町八三番三一宅地355.09平方メートル及び同町二六番二八宅地50.24平方メートルの平成九年度の固定資産税課税台帳の登録価格についてした審査申出の棄却決定は、八三番三一の土地について金三億八九二九万九七二八円、二六番二八の土地について金五四八九万二五三二円を超える部分について取り消す。
3 被控訴人らのそのほかの請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らの請求を棄却する。
2 被控訴人ら
控訴棄却
第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人らが、その所有の東京都渋谷区××町八三番三一宅地355.09平方メートル及び同町二六番二八宅地50.24平方メートルの平成九年度の土地課税台帳に登録された価格(七億七七〇六万五四六〇円及び一億〇九九四万三三〇〇円、合計で八億八七〇〇万八七六〇円)が適正な時価を上回るなどと主張して、被控訴人らの先代山崎康男の審査申出を棄却した控訴人の決定(本件決定)の取消しを求める事件である。
原判決は、本件土地の適正な価格は、四億一二九七万〇七三〇円及び五八四二万九二七〇円、合計で四億七一四〇万円であると認定した上、登録価格が賦課期日における対象土地の適正な時価以下でないときは、その限度で登録価格の決定は違法となり、この違法事由の存在は、本件決定の全部の取消事由となるとして、被控訴人らの請求を全部認容した。そのため、控訴人が不服を申し立てたものである。
2 上記のほかの事案の概要は、次に記載するほか、原判決の該当欄(三頁以下)記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の当審における主張)
(1) 原判決は、控訴人の決定の一部しか取り消されないとすると、控訴人が改めて行う決定と取り消されなかった決定の残部の両方が残存し、その間の論理的な整合も期しがたいとして、決定の全部を取り消した。
しかし、適正な時価を超える部分のみを取り消したとしても、取消判決の拘束力(行政事件訴訟法三三条一項)によって、市町村長は審査決定と同様の措置をとることが義務づけられるのであるから、改めて決定を行う必要はないし、仮に、改めて新たな決定をしなければならないとしても、同法条の趣旨からすれば、一部取消判決の判断内容を尊重した処分を行うことが求められるのであるから、一部取消判決が認められないとする理論的根拠はない。
また、原判決のように解すると、事件が裁判所と控訴人との間を往復することになって迂遠であるし、裁判所の判決理由中の判断に不服のある者は、再度の決定あるまで不服の機会が引き延ばされることになり、不服申立方法として機能的でないのみならず、是正すべき評価方法が一義的に明らかにならず、紛争の抜本的な解決を図ることができなくなる。
したがって、本件のような場合には、一部取消判決をするべきである。
(2) 原判決は、土地課税台帳又は土地補充課税台帳(土地課税台帳)に登録される価格(登録価格)が当該固定資産の基準年度に係る賦課期日における対象土地の客観的時価以下でないときは、その限度で登録価格の決定が違法となると解すべきであり、その客観的時価の算定のため個別の鑑定を行うことが許されるとした。
しかし、地方税法(法)は、自治大臣の定めた固定資産評価基準(昭和三八年自治省告示第一五八号)という定型的・統一的な基準に従ってその評価を行わせることとし、これによって大量に存在する固定資産の評価を一定の期間内に適正に行い、各市町村相互間、各市町村内の各固定資産の間の評価の均衡を確保し、評価に関するものの個人差に基づき、評価の不均衡が生じることを防止しようとしている。こうした立法趣旨からすれば、評価基準自体が違法であるというような特別の事情がない限り、固定資産の価格の評価が評価基準にしたがって適正に行われている以上、その価格は、適正な価格とみるべきであり、個別の鑑定による時価の立証は許されない。
(3) 原判決の依拠した不動産鑑定士増田浩二の鑑定(甲5号証、増田鑑定)には、以下のような誤りがある。増田鑑定は、一体として有機的に機能している本件土地を幅員約三メートルに接する北西側部分と国道二四六号線に接する路地状南東側部分にあえて分離し、それぞれの価格を個別に求めた上で、合算しており、一体として外形的にも機能的にも利用されている状態に対応する価格が求められていない。なお、増田鑑定では、前記幅員三メートルの街路が建築基準法上の位置指定道路に該当するかどうかの言及もない。本件土地は、前記国道に接する敷地延長部分があることによって、全体として国道に面する側を正面あるいは主たる進入部分にすることが可能なものであり、全体として、国道沿いの地域と行政的要因及び環境的要因を同じくする土地であるから、そのような評価をすべきである。また、具体的な鑑定手法においても、価格時点の修正や比準価格の算定に誤りがみられること、さらに、収益価格の試算においても一階の全フロアを駐車場等に充てたり、その建物再調達原価も非常に高額であるなど、収益価格が安く抑えられており、妥当性を欠く。
したがって、増田鑑定に依拠して本件土地の登録価格が適正な時価を上回るとした原判決は、事実を誤認したものである。
(4) 固定資産税は、資産の所有という事実に着目して課税される財産税であり、資産から生じる現実の利益に着目して課税される収益税とは異なるものであって、このことはシャウプ勧告等の固定資産税の導入の経緯とその趣旨からしても明らかである。そして、その資産が土地である場合には、土地の所有という事実に着目して課税するのであって、個々の所有者が現実に当該土地から収益を得ているか否か、当該土地が用益権又は担保権の目的となっているか否かを問わず、その更地価格に着目して課税されるものであり、評価基準においても、借地権等が設定されている土地の評価については、これらの権利が設定されていない土地として評価するものとされている。このような固定資産税の性質からすると、その課税標準又はその算定基礎となる土地の「適正な時価」(法三四一条五号)とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格すなわち純粋な客観的交換価値をいうものと解すべきである。
したがって、固定資産税の登録価格の上限は、収益還元価格に制限されない。これを上回る売買実例価格であってよい。法がそのように算定することを命じているのである。これは立法政策としてそのようにしているのであるから、立法機関でない裁判所が、それを変更することはできない。
(5) 固定資産税における価格とは、税額を算定するに当たり、その基礎となるものであり、その価格を決定するに当たっては、実体面においては公平な税負担をもたらすものであること、手続面においては簡易であること及び客観的であることが必要とされる。
しかし、対象不動産の単年度の収益を還元利回りで除して価格を求める評価法(総合還元利回り法あるいは直接還元法、以下、これを「収益還元法」という。)に基づき、収益を資本還元した価格(収益還元価格)は、取引事例を中心とした現在の評価方法に比べて簡易に価格の決定ができるとはいえない。また、収益還元価格を算定するには、将来の予想収益や標準的な収益額を想定し、あるいは、土地と建物の収益を別個に算定する必要があるが、土地と建物が別個の不動産とされている日本の法制度のもとで、土地の収益である地代の標準的な金額を算定することは困難である。さらに、資本還元の利率(還元利回り)を標準的な市中金利によることとし、経済情勢の変動に合わせると、不景気で利率が低下すると、収益還元価格は高騰することになり、好景気で利率が上昇すると、収益還元価格は低落することとなり、不合理である。そして、このような不合理を避けるために、資本還元の利率を経済情勢の変動に左右されない一定の利率であるとすることは、対象不動産の個別的な収益状況や経済情勢の変動を無視することになるうえ、それは収益の一定割合を固定資産税の税額とするに等しく、法に定めがないことからして、採用できない。
そうすると、収益還元法によって価格を決定することが、取引事例を中心とした現在の評価方法に比べて、実体面でも手続面でも優れているとはいえない。
(6) 固定資産たる土地の標準的な収益を土地所有者と地方公共団体との間で分配する割合は、登録価格と税率(1.4%。都市計画税を加えて1.7%)で決められる。このことから、登録価格は、売買実例価格でなく、収益還元価格であると解釈するのは、誤りである。法は、登録価格を売買実例価格であるとし、税率は1.4%(都市計画税を加えて1.7%)と定めているが、それによって納税すべき額が正しい税額であって、これにより納税者と課税する地方公共団体の間の課税の公平も保たれているものである。
登録価格を売買実例価格によって評価し、税率を1.4%(都市計画税を加えて1.7%)とすると、これによって算定される税額は、その土地の標準的な収益額を上回り、標準的な収益では支払えないということも起こりえよう。その場合、所有者は、その土地の収益ではまかなえない分を、自分の他の所得で支払い、あるいは貯蓄を取り崩して支払うことが求められることもありうる。しかし、それも立法機関が決めたことであるから、やむを得ないことである。
(7) (6)のような結果は不合理であるとして、登録価格の上限を収益還元価格とする解釈は、登録価格を「適正な時価」と規定する法三四一条五号の明文に反する解釈であり、実質上、立法機関の役割を司法機関が果たそうとするもので、三権分立に反する。(6)のような結果が不合理であるならば、立法によって、税率を下げ、不合理な結果を回避するべきもので、登録価格を売買実例価格でなく、収益還元価格で評価するべきではない。
第3 当裁判所の判断
1 総括的判示
当裁判所は、賦課期日における本件土地の適正な時価は、八三番三一の土地について金三億八九二九万九七二八円、二六番二八の土地について金五四八九万二五三二円合計で四億四四一九万二二六〇円(平方メートル当たり一〇九万五八七八円)であったものと認定する。そうすると、控訴人の本件決定は、上記の価格を超える部分について取り消さなければならず、被控訴人らの請求は、この限度で理由があるが、これを超える請求は理由がないものと判断する。
このように認定判断する理由は、次のとおりである。
2 固定資産税の制度の概要
固定資産税は、固定資産税課税台帳に登録された固定資産の価格(登録価格)を課税標準として(法三四九条)、固定資産の所有者に対して課される地方税である。標準税率は1.4パーセントである(法三五〇条。なお多くの場合都市計画税が0.2ないし0.3パーセント加算される。)。その固定資産の価格は、法三四一条五号により、「適正な時価」と規定されているが、原則として、市町村長が自治大臣の告示する固定資産評価基準(法三八八条一項)によって(法四〇三条一項)、毎年二月末日までに決定し、直ちに固定資産税課税台帳に登録されることとなっている。そして、この登録価格に不服があるときは、当該市町村の固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(法四二三条)、委員会の審査の決定で登録価格を修正すべきとされたときには、市町村長は修正すべきものとされている(法四三五条)。また、納税者は、この審査の決定に対してのみ、取消訴訟を提起することができる(法四三四条)。
3 固定資産評価基準の拘束力
(1) 固定資産評価基準による価格の評価は、多数にのぼる対象土地について、逐一鑑定するなど、手数と費用をかけて評価することに代えて、地域ごとにいわば全体を代表する土地(標準宅地)を決めて、これを正確に評価し、残りの土地については、これをもとに類推して、価格を決める仕組みである。課税にかかるコストを低減しながら、ある程度の幅での価格の妥当性を確保する手法として、法によって認められたものであるから、この基準によって評価されていれば、その価格に一応の妥当性があるものと推認することができる。しかしながら、例えば標準宅地の選定や価格の判定においては、一義的に決定し難い様々な要素や価値判断が混入してくるのであり、この基準によって評価されたというだけでは、常に評価の妥当性が保証されるものでもないものである。
(2) したがって、訴訟における審理や評価審査委員会における審査の結果、この基準による評価と異なる価格をもって相当と認められる場合には、審理や審査の結果相当と認められる価格に修正しなければならない。
また、訴訟の審理や委員会の審査では、前記のような評価基準の定める手法に限定されず、適正な価格の認定にとって有用なものであれば、例えば鑑定などで直接その不動産の適正な時価を判定することも可能である。固定資産評価基準は、市町村長を拘束するが、法規のように裁判所や委員会及び国民を拘束するものではない。
この点に関する控訴人の主張は、いずれも採用することができない。
4 適正な時価の意義
(1) 控訴人は、固定資産税は、資産の所有という事実に着目して課税される財産税であることから、法三四一条五号の「適正な時価」は、売買実例価格あるいは市場価格であるとし、その上限は、収益を資本還元した収益還元価格によって限定されないと主張する。
しかし、「適正な時価」の意義について、法に規定があるわけではない。法は、固定資産税の制度の趣旨からして、適正な評価をすることを求めているに過ぎない。
(2) そして、財産税であるから常に売買実例価格でなければならないとすれば、固定資産である建物や農地も売買実例価格によって評価しなければならないこととなろう。しかし、建物の評価については、売買実例価格や市場価格は採用されず、再建築費で評価されている。また、農地の評価についても売買実例価格ではなく、収益還元価格が採用されている。このこと一つをとっても、財産税だからアプリオリに売買実例価格あるいは市場価格になるということに、根拠のないことは明らかである。
売買実例価格(市場価格)説は、一種のドグマにとらわれた解釈であり、法の適正な解釈は、固定資産税の制度趣旨の探求によってのみ、実現されるべきものなのである。
5 市場価格の形成要因と固定資産税
(1) 土地の市場価格は、①将来の一定時期における売却により取得する現金収益をそれまでの中間利息を控除して現在価格に直した価格のほか、②将来の各年度ごとの賃料収入による現金収益について、それまでの中間利息を控除して現在価格に直した価格、及び③評価年度自体の賃料収入による現金収益、以上①ないし③を合計して算出する(いわゆる割引現在価値法、DCF法)。
①によって、市場価格の中には、将来土地が値上がりすると予想されるときは、その値上がり益が含まれる。また、②によって、市場価格の中には、将来の収益の現在価値部分が含まれる。
(2) ところで、固定資産税は、財産税であるが、我が国の敗戦直後に課せられた財産税や富裕税のように、個人を基準にその所有する財産の多寡によって税額を決定する人税ではなく、個人を離れ財産や収益に着目して課される物税である。最高裁昭和四七年一月二五日判決民集二六巻一号一頁が判示するとおり、固定資産税は、人税ではなく、物税なのである。そして、固定資産税は、毎年課される税金である。
人税としての財産税では、財産の市場価格によって個人が所有する財産の多寡を評価しても、特に問題を生じない。しかし、物税である財産税であって、かつ、毎年課される固定資産税については、値上がり益や、将来の収益の現在価値部分に課税することは、その制度本来の趣旨に反することである。
けだし、物税とは、いわば物それ自体が税を負担する税であるが、値上がり益は、本来売り主に帰属するものであって、物それ自体や買い主には帰属しないからである。帰属しない利益をあたかも帰属するかのようにして課税するのは、税の制度そのものを否定するに等しく、容認されえないものといわねばならない。控訴人は、この点に関して、その物の標準的な収益で固定資産税が支払えなければ、所有者がその他の所得や貯蓄を取り崩して支払えばよいと主張する。しかし、これは、物それ自体が税を負担するという物税の意味を理解せず、固定資産税をあたかも人税(その人個人の所得や資力などの担税力で支払う税)であるかのように主張するものであり、採用することができない。
また、毎年課される物税において、その年以外の将来の収益の現在価値に課税することは、その収益が生まれる年度の課税の財源を先食いするものである。その将来の年度が到来したときには、課税のもとになる税源は失われていることになるから、制度自体がみずからその存在根拠を否定するに等しい。商法の分野でのいわゆるたこ足配当などと同じく、不健全な考え方であるといわねばならない。
(3) 以上のようなことから、固定資産税の課税標準である「適正な時価」は、値上がり益や将来の収益の現在価値を含まない、当該年度の収益を基準に資本還元した価格によって算定されねばならないのである。
6 標準的な収益と資本価値
(1) 固定資産税は、固定資産が毎年生み出す現実の収益に課される税金ではない。その固定資産によって標準的にあげうる収益に課される税金である。現実の収益であれば、その固定資産の利用の巧拙その他の所有者個人の事情に影響される。これに対して標準的にあげうる収益は、利用の巧拙その他の個人的な事情に影響されない。そこで、標準的な収益を資本還元した価格(収益還元価格)によって、その物の資本としての価値を把握することにより、個人的な事情によって左右されず、物それ自体が税を負担する物税としての固定資産税が成立するのである。法にいう「適正な時価」とは、このような意義を有する資本価値を意味するものと解される。
(2) 控訴人は、収益還元価格によって物の資本としての価値を把握すると、財産税ではなくなるかのように主張する。しかし、これは、財産税はすべて値上がり益や将来収益への課税がなければならないものであるかのように、すなわち財産税はすべて人税としての財産税であるかのように誤解するか、あるいは、財産の資本価値の把握は、標準的な収益を基準としてされることを理解しないもので、失当である。
7 収益還元価格と実定法の解釈
(1) 控訴人は、売買実例価格あるいは市場価格によって算定するのが法の命じるところで、収益還元価格によるのは、実定法に反するかのように主張する。
しかし、先に指摘したように、法には、適正な時価が何を意味するかについての明確な規定はない。そして、平成六年度の評価替えにおいて、公示価格の七割を基準に算定するよう通達が発出されるまで、売買実例価格や市場価格によって評価されたことはなかった。収益還元価格を踏まえた控えめな価格で評価されてきたのである(なお、別件における当事者の主張によれば、固定資産税の創設を指導したシャウプ使節団の勧告では、土地の資本価格の算出につき収益還元法の利用を勧告したとのことである。)。すなわち、表現はどうであれ、法の解釈の実態は、収益還元価格説であったのを、上記の通達は、市場価格(値)説に転換したものといえる(成田頼明先生古希記念「政策実現と行政法」・金子宏「固定資産税制度の改革」三五七頁(乙57号証)は、このことを指摘する。)。
このような制度の基本に関わる転換が、租税法律主義を標榜する現行憲法のもとで、法律の改正なくして行いうるものかどうか疑問である(この点について当裁判所の審理において質したが、控訴人からなんらの応答もなかった。)。法改正のない現状において実定法を解釈するのである以上、租税法律主義を踏まえたその穏当な解釈は、従前どおりの収益還元価格説によるべきものと考える。
(2) そして、法は、固定資産税に関する納税者の不服を、最終的には、訴訟で解決できるよう規定しているのである。また、そのような不服が訴訟で解決できることは、憲法の裁判を受ける権利の保障の一つである。
しかし、固定資産税の課税標準を固定資産の収益の水準とは無関係の市場価格によらせる説(市場価格(値)説)は、固定資産であげうる標準的な収益のどの割合まで課税されるのかについて、納税者が争いうる途を閉ざすものである。これに対して収益還元価格説による場合には、課税標準が収益に比例して設定されるから、課税標準の額の当否が法廷で検討されることによって、納税者は、固定資産であげうる標準的な収益のどの割合まで課税されるのかについて、実質的に内容のある裁判を受けることができる。このように課税標準である資本価値と収益との関係を否定するかどうかは、裁判を受ける権利が実質的に保障されるのかどうかに、直接関係するのである。
上記の点に関し、控訴人は、課税標準である固定資産の価格さえ争えれば、裁判を受ける権利は保障されるとする。しかし、内容のある争いができるかどうか不明瞭なまま、形式さえ整えればよいとするもので、当裁判所として到底賛成することができない。納税者は、その企業努力によって取得する収益のうちどれだけの割合が税として徴収されるかについて、関心を持っているのであって、固定資産の価格それ自体に関心を持っているのではない(日本経済新聞平成八年一一月一二日付け記事(甲36号証)、同平成八年一一月一三日付け記事(甲37号証)参照)。
上記の点について法的な手当をすることなく、通達のみによって、市場価格(値)説に転換することは、裁判を受ける権利を保障する憲法の観点から見て許されることかどうかはなはだ疑問である。
(3) このように租税法律主義及び裁判を受ける権利の保障という憲法上の問題を考慮に入れると、従前の法解釈を変更して、新たに市場価格(値)説を採用することは、現行の実定法秩序に照らして無理があるというべきである。以上のとおりであって、実定法が市場価格による評価を命じているとする控訴人の主張は、失当であって、採用することができない。
8 収益還元価格の算定方法(その1―収益の把握)
(1) 控訴人は、収益還元法について、将来の予想収益を算定することが困難であるからとして、これを採り得ないとする。
しかし、上記のように、固定資産の評価において採用すべき収益還元法とは、当該不動産が当該年度において標準的にあげうる収益を基準に算定されるのである。その価格には、将来の収益の現在価値を含まないものであるから、予想収益の把握が困難であるとする点は、問題とならない。
(2) また、控訴人は、土地と建物が別個の不動産とされている日本の法制度のもとで、土地の収益である地代の標準的な金額を算定することの困難を主張する。
しかし、土地建物一体の法制度であるか、別個の法制度であるかは、それほど大きな影響を生じない。土地建物一体の法制度でも、別個の法制度でも、結局は、建物の賃料を元に収益を算定するのである。別個の法制度では、この建物の賃料のうち、建物のみに帰属する部分と、それを除いた残余、すなわち土地に帰属すべき地代とを区別するに過ぎず、このような計算方式(土地残余法といわれるもの)は、これまででも土地価格の算定で行われてきたものである。それ自体は、経験済みのことで困難であるわけではない。
そして、その標準的な収益(地代)は、その土地の利用の仕方が通常のもので(最有効使用ではなく、その地域の平均的な利用の水準であればよい。)、地上建物の賃料水準が一般的なものであるならば、その建物の賃料から上記の土地残余法で割り出されるものであり、それが特段の事情のない限り、土地の標準的な収益である。それ以上に困難な算定方法によらなければ、標準的な地代を割り出せないというものでもない。
そして、未利用地その他平均的な利用水準に達しない土地の標準的な収益は、通常の利用を想定し、その地上建物の一般的な賃料水準により、土地の地代を計算することにより算定することができる。
(3) そして、多くの場合、建物賃料の一般的な水準は把握することができるのであり、それを元に標準的な地代を算定することは可能なものであるから、必ずしもそれが取引事例比較法等に比べて複雑なものであるとか、あるいは、その算定が特に困難であるとはいえない。
9 収益還元価格の算定方法(その2―還元利回り)
(1) 控訴人は、資本還元の利率(還元利回り)を標準的な市中金利によることとし、経済情勢の変動に合わせると、不景気で利率が低下すると、収益還元価格は高騰することになり、好景気で利率が上昇すると、収益還元価格は低落することとなって不合理であること、このような不合理を避けるために、資本還元の利率を経済情勢の変動に左右されない一定の利率であるとすることは、対象不動産の個別的な収益状況や経済情勢の変動を無視することになるうえ、それは収益の一定割合を固定資産税の税額とするに等しく、法に定めがないなどと主張し、この面からも収益還元法は採用できないとする。
しかし、固定資産税の課税標準は、前述のとおり、固定資産の資本価値であるが、それは直ちに市場価格を意味するものではないのである。標準的な収益を適正な利率で資本還元した価格なのであり、その適正な利率とは、固定資産税の制度において想定されている範囲内の標準的な利子率であれば足り、現実の市場において日々変動する利子率を基準とするとか、当該不動産の個別的な収益状況あるいはそれと類似の不動産の収益率を反映させたものとすべき必然性はない。したがって、それを一定のものとしたからといって、それが直ちに不当であるとはいえない。
(2) そこで、その固定資産税の制度において想定されている範囲内の標準的な利子率について検討するに、これを現実の市場の利子率を一つの基準として定めることも考えられる。しかし、現実の市場の利子率を基準にするとすれば、それは常に変動して止まないものであるから、それをどこの時点に合わせるかが問題となる。
現在、市場の利子率(例えば市中金利もその一つである。)は、極めて低下しており、物の見方にもよろうが、例えば二%ということも考えられる。ただ、固定資産税及び都市計画税の税率は、合計1.7%で、市場の利子率の大きな変動があるにもかかわらず、長期間にわたり変更されてこなかったのである。もし、市場の利子率が二%であるとして、これにより資本還元するとするならば、税金は、収益の大部分、すなわち1.7%÷2%=85%を費やして初めて支払うことができるということになる。しかし、そのようなことを法が想定し、かつ、国民が現実に負担可能であるとは考えがたい。
また、かつてのバブルのころの拘束性預金の利子率のように、これを一〇%近いものとし、これにより資本還元するとすれば、税金は、1.7%÷10%=17%となり、収益の約六分の一に過ぎないことになる。なお、利息制限法で一〇〇万円以上の貸金すなわち金融資本についての上限利率として定められているのは一五%であるが、これにより資本還元するとすれば約11.33%となり、収益の約一割ということになる。
(3) このように前記の標準的な利子率を現実の市場の利子率を基準にするとすれば、その基準とする率によって税額の割合が大きく左右され、そのいずれをとるべきかについて困難な問題が生じる。ところで、民事法定利率(年五分)は、このように一般的な市中金利が種々の幅で増減する可能性を念頭に置きつつ、金融資本から得るべき標準的な収益すなわち利潤を一定の割合に定めており、それは不動産資本から得られる収益の割合を検討する上でも有力な参考になると考えられる。また、前記のように、固定資産税及び都市計画税の税率は、合計1.7%で、市場の利子率の大きな変動があるにもかかわらず、長期間にわたり変更されてこなかったことも、このように前記の標準的な利子率を固定的なものとみることと整合するものである。なお、このように還元利回りを固定的なものとすれば、当該固定資産の標準的な収益の一定割合が固定資産税の税額とされることになるが、それは単なる結果であって、そのことから直ちにこのような固定資産の評価方法が許されないとか、法に根拠がないなどといえないことは明らかである。
(4) さらに、前記5で述べたように、固定資産税は、物税であり、資産の保有の継続を前提にしたものであるから、当該年度の標準的な収益で支払うことが予定されている。所有者がその他の所得や貯蓄を取り崩して支払うという性質のものではない。そうすると、その税額は、当該資産からの収益によって継続的に負担が可能なものでなければならないが、このような視点は、前記の標準的な利子率がいかにあるべきかを検討する上でも重要であると考えられる。
前記のように民事法定利率にしたがって課税標準たる不動産価格を算定するとすれば、当該不動産に資本価値の五%の標準的な収益があるとすると、資本価値の1.7%の固定資産税等の額は、標準的な収益のほぼ三〇%に当たることになる。このような税の負担割合は、昔から租税負担の限界といわれる三公七民(田中圭一著・日本の江戸時代一二四頁、二五〇頁など参照)と一致するものであり、資産の有する収益力を損なうことなく、標準的な収益の中から税を負担することが一般的に可能になると考えられる。
(5) これらのことを総合考慮すると、固定資産税において想定されている範囲内の標準的な利子率、すなわち収益還元価格を算定するに当たって適用すべき還元利回りは、民事法定利率と同じ五%とするのが相当である。
そして、このような一定の標準的な利子率によって、収益還元価格(課税標準である資本価値)を算定すれば、市場の利子率の変動によって、地方公共団体の財政収入が変動することもなく、安定的な財政運営が可能となる。この点に関する控訴人の心配は、杞憂のものとなるのである。
10 本件土地の収益還元価格
(1) 本件土地の収益還元価格については、次の算定結果がある。
ア 不動産鑑定士増田浩二作成の不動産鑑定評価書(甲5号証)別紙7記載の金額(本件土地に一〇階建ての事務所ビルを建築することを想定した計算結果であり、資本還元利率は五%である。なお、その計算過程は、本判決の別紙1記載のとおり。)
これによれば、本件土地の収益還元価格は、一平方メートル当たり一〇七万円であり、合計四億三三七〇万三一〇〇円となる。
イ 被控訴人ら代理人作成の平成一三年九月一三日付け準備書面第1、2記載の金額(本件土地に建築面積三〇〇〇平方メートルのビルを建築することを想定した計算結果であり、資本還元利率は五%である。なお、その計算過程は、別紙2の準備書面写しのとおり。)
これによれば、本件土地の収益還元価格は、一平方メートル当たり五九万六八七六円であり、合計二億四一九三万一九二〇円となる。
ウ 被控訴人ら代理人作成の平成一三年九月一三日付け準備書面第1、3記載の金額(本件土地の現在の利用状況である建築面積1237.32平方メートルのビルがありこれを賃貸している状況を前提とした計算結果であり、資本還元利率は五%である。なお、その計算過程は、別紙2の準備書面写しのとおり。)
これによれば、本件土地の収益還元価格は一平方メートル当たり一一二万一七五六円であり、合計四億五四六八万一四二〇円となる。
(2) 上記(1)のうち、イの計算結果は、本件土地の最有効使用を前提としたものであるとされているのに、他の計算結果に比較して、もっとも少額となっている。そして、その差額もかなり大きい。本来最有効使用であれば、土地に帰属する収益は最大となるべきものである。また、イの計算は、本件土地上に同じく建築面積三〇〇〇平方メートルのビルを建築することを想定したアの計算結果と比べると、その坪当たり賃料も保証金運用益も低額なものになっているところ、その理由についての合理的説明もない。イの計算結果については、このような疑問があり、直ちに採用することを躊躇させられる。
これに対して、ア及びウの計算結果は、特段疑問とする点を発見できない。
(3) なお、控訴人は、アの収益価格の試算は、建築予定の建物の一階の全フロアを駐車場に充てたり、その建物再調達原価も非常に高額であるなど、収益価格が非常に安く抑えられていると主張する。
しかし、控訴人の主張によっても、その建物一階に一〇台近い駐車スペースは確保すべきであるとするのであるから、想定される建物の一階床面積三〇〇平方メートルについて、その全部を駐車場とするか、駐車場を確保した残りの部分を他の形で利用するかはそのいずれをとっても合理的な建物利用方法の選択の範囲内であると考えられる。また、本件建物は、現況では、接面道の幅員が狭く、また、国道二四六号線に接する部分の間口が狭い(約4.4メートル)ことからすれば、高層の建物の建築に費用が嵩み、通常の建築原価よりも割高になると考えられること(甲5号証)からすれば、前記アの試算で想定された建物再調達原価が不相当に高額であるともいえないと考えられる。
(4) そうすると、本件土地の収益還元価格は、上記(1)ア及びウの計算結果の平均値である四億四四一九万二二六〇円(平方メートル当たり一〇九万五八七八円)であると認めるのが相当である。
そして、この金額は、そのうち国道二四六号線に面するが狭小な路地状部分である二六番二八の土地(50.24平方メートル)と、国道二四六号線から見ると奥になる八三番三一の土地(355.09平方メートル)の土地の合計の金額であるが、これらの二つの土地で、その単位面積当たりの単価にどのような違いがあるか、的確に認定する資料が見当たらない。そこで、面積割りで計算することとして、二六番二八の土地の収益還元価格は五四八九万二五三二円、八三番三一の土地の収益還元価格は三億八九二九万九七二八円と認定するのが相当である。
(5) そして、前述のとおり、固定資産税の課税対象である土地の評価は、その制度本来の趣旨からして、土地の収益力を資本還元した価格(収益還元価格)を上限とすべきものである。そうすると、上記の収益還元価格を超えて定められた本件土地の登録価格は、上記の金額を超える部分において違法があり、これを修正すべきものであり、上記の登録価格についてされた審査の申出を棄却した本件決定にも同じ違法性があるものといわねばならない。
11 一部取消判決の可否及び当否
(1) 原判決は、適正な時価を超える部分のみの一部取消判決を許容することができないとしている。しかし、当裁判所は、この見解を採用することができない。
(2) 本件訴訟は課税処分の適否ではなく、本件価格決定にかかる登録価格の適否を判断するものである。適正な時価を超える部分のみを取り消す一部取消判決をしたとしても、取消判決の拘束力(行訴法三三条一項)によって、市町村長は審査決定と同様の措置を採ることが義務づけられている。したがって、委員会が改めて審査請求に対して決定する必要はない。したがって、一部取消判決の場合に、改めて行う新たな決定と取り消されなかった決定の残部の両方が存在して、その整合が期しがたい事態になることはない。
また、行訴法三三条は、同一処分の繰り返しを禁止する効力ないし同一過誤の反復を禁止する効力を規定しているのであって、一部取消判決を否定しているわけではない。行政庁には、一部取消判決に基づいて、判決の判断内容を尊重した処分を行うことが求められているのである。したがって、一部取消判決の判断内容を尊重した新たな決定されることがあるとしても、それが取り消されなかった決定の残部と論理的に矛盾することは、判決の拘束力により認めがたい。
(3) 以上のとおりであって、行訴法三三条二項を根拠に裁決の一部取消は認められないとする原判決は失当である。
原判決のように決定の全部を取り消して控訴人にやり直しを命じたのでは、事件が裁判所と控訴人との間を往復することになる。また、判決理由中の認定額に不服のある原告は、再度の決定があるまで不服申立ての機会を引き延ばされることになる。本件土地の固定資産税評価額が「適正な時価」を上回るとして、安易に全部が取り消されると、是正すべき評定方法が一義的に明らかにならず、場合によっては紛争の抜本的解決を図ることができなくなる。
(4) 以上のことを考慮すると、一部取消判決をしてこのような不都合を回避するべきものである。
本件で、一部取消しの内容となった前記10(4)の本件土地の価格は、原判決の理由中の判断よりも低額である。しかし、本件で、被控訴人らは本件土地の適正額を請求中に明示していないのであるから、このような認定をしたからといって、弁論主義に反するとはいえない。なお、この点については、原判決の認定は理由中の判断であり、被控訴人らはそれに不服があっても、原判決の主文との関係では請求が認容されているため、控訴できないという点も考慮する必要がある。
12 結論
したがって、被控訴人らの請求をすべて認容し、本件決定の全部を取り消した原判決は失当であり、原判決はこれを上記1のとおりの内容で変更するべきである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・淺生重機、裁判官・及川憲夫、裁判官・原敏雄)
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別紙2準備書面
第1 収益還元価格による評価
1 平成一三年七月一九日における本件控訴第一回期日において、裁判所から、評価額は収益還元価格を上限とする旨の指摘を受けたので、収益還元価格に基づく本件土地の評価を以下に示す。
2 有効利用を前提とした場合
(1) まず本件土地の面積は以下のとおりである。
二六―二八 50.24m2
八三―三一 355.09m2
合計 405.33m2
(2) 本件土地を有効利用しうる建物について
本件土地にどのような建物が建築可能か、建築専門家の意見、役所との調整等を経なければ確定しないが、法律上の建築可能な建築面積は、三、〇〇〇m2である(甲6号証四ページ)。本件土地は変形しており、しかも、駐車場設置義務を勘案すると、建築費の総額を算出することは非常に困難であるが、現在の建築価額を、仮に坪七〇万円(m2二一万二千円)と仮定すると、建築費は、
三、〇〇〇×二一二、〇〇〇=六三六、〇〇〇、〇〇〇円となる。
(3) 賃料
当初本件建物は一般賃貸用のビルとして建築され、一〇%は所有者の住宅とし、五〇%は所有者の経営する同族会社に賃貸され、残り四〇%は一般に賃貸されていた。しかし近隣に条件の良い貸しビルが増加するに従い一般賃貸は減少し、空き室は同族会社に割り当てて使用させてきた。現在は住居も移転し、全室が同族関係の会社への賃貸となっている。賃料はバブルの頃の設定のまま経過し(原状賃料平均坪一三、三四七円)、本件建物の一般的賃料相場と比較すれば、三〇%程割高である(賃料相場報告書坪一〇、〇〇〇円弱)。本件土地に新しく建物を建築したとしても、新建物も道玄坂表通り(二四六号道路)から一二m通路を入った裏側建物としてその相場は、表側の相場一五、〇〇〇円の八〇%、一二、〇〇〇円が相当であろう。控訴人が準備書面(2)五ページ一行めにおいて、(乙第39号証二ページ五行めを準用)路地状部分に建物を建築し、且つ一階を本件建物の駐車場への進入路とする利用方法を述べているが、本件路地状土地は、間口4.48m奥行き11.41mである。もしここに裏側土地と合わせて一体の建物を建築するとすれば、隣地境界線から建築中の足場スペース40×2=80cm、地上八階建ての柱幅80×2=160cm、これ等をこの路地状土地の間口四四八cmから控除すると、建物の有効間口は二〇八cm、この幅に車両の進入路と三、〇〇〇m2の大型建物の入口乃至は建物への進入路をどうやって確保出来るのか、控訴人の意見は机上の空論と言わざるを得ない。この路地状土地は通路としてのみ利用可能なもので、現実に建築可能な建物は裏側土地上であって表道路に面して建築は出来ない。
建築面積 三、〇〇〇m2
賃貸面積 七〇% 二、一〇〇m2
共用面積 三〇% 九〇〇m2
(尚、駐車場設置義務があり、この賃料が全体にどう影響するか現状では計算不能であるので、ここでは賃貸面積七〇%の中に包含させた。)
坪当たり賃料 一二、〇〇〇円
(m2三、六三〇円)
一か月賃料 二、一〇〇×三、六三〇=七、六二三、〇〇〇円
一年賃料 七、六二三、〇〇〇×一二=九一、四七六、〇〇〇円
権利金、更新料 三年 一ヶ月
七、六二三、〇〇〇÷三
=二、五四一、〇〇〇円
空室控除五% 九一、四七六、〇〇〇×五%=▲四、五七三、八〇〇円
賃料収入計(消費税抜き)
八九、四四三、二〇〇円
(4) 受入保証金運用益(保証金六ヶ月)
七、六二三、〇〇〇円×六×年五%
=二、二八六、九〇〇円
(5) 収益合計
九一、七三〇、一〇〇円(A)
(6) 必要経費
① 固定資産税
土地 平成七年、八年平均
三、八二四、八〇〇円
建物 636,000,000×70%×1.7%
=7,568,400円
計 一一、三九三、二〇〇円
② 建物修繕、維持費
賃貸収入額の七%
六、二六一、〇二四円
③ 管理費
賃貸収入額の五%
四、四七二、一六〇円
④ 減価償却費
建物本体 636,000,000×0.7×0.9×0.02
=8,013,600円
付属設備 636,000,000×0.3×0.9×0.066
=11,333,520
減価償却合計
一九、三四七、一二〇円
必要経費合計 ①〜④の計
四一、四七三、五〇四円(B)
(7) 差引純益 (A)−(B)
=五〇、二五六、五九六円
(8) 建物投資に対する純益
① 建物投資額に対する利息相当建物投資額×0.5×8%
636,000,000×0.5×
8%=25,440,000円
② 賃貸営業に対する報酬 建物投資額×0.5×4%
636,000,000×0.5×
4%=12,720,000円
合計 三八、一六〇、〇〇〇円
(9) 土地に対する純益
五〇、二五六、五九六―三八、一六〇、〇〇〇=一二、〇九六、五九六円
(10) 収益還元価額
土地に対する純益の五%による還元
一二、〇九六、五九六÷五%
=二四一、九三一、九二〇円
(11) 以上より、本件土地の有効利用を前提として考えた場合に、本件土地の収益還元価格は、二四一、九三一、九二〇円を越えることはない。尚、賃借人の支払う共益費はすべてその為に使用するものとして、ここでは考慮していない。
3 本件土地の現在の利用状況を前提とした場合
(1) 建物の現況について
鉄筋コンクリート造 地下一階地上六階建 事務所・店舗
建築面積 1,237.32m2
内 賃貸面積 852.67m2
共用面積 384.67m2
(2) 賃料(平成一三年五月より。但し平成七年一月より総額に変更無し)
① (株)美好屋商店 573.38m2
(173.75坪)
賃貸期間三年(保証金一一、五三六、〇〇〇円)
月額賃料 二、四三三、二〇〇円(消費税抜き)
m2単価四、二四三円(坪単価一四、〇〇四円)
年額 二九、一九八、四〇〇円(消費税抜き)
② ジュバンスコスム(株)
79.97m2(24.23坪)
賃貸期間三年(保証金二、六〇〇、〇〇〇円)
月額賃料 二九〇、八〇〇円(消費税抜き)
m2単価三、六三六円(坪単価一二、〇〇〇円)
年額 三、四八九、六〇〇円(消費税抜き)
③ 東京ソティス販売(株)
29.37m2(8.9坪)
賃貸期間三年(保証金二〇〇、〇〇〇円)
月額賃料 一〇六、八〇〇円(消費税抜き)
m2単価三、六三六円(坪単価一二、〇〇〇円)
年額 一、二八一、六〇〇円(消費税抜き)
④ 山崎伊久江美容室
169.95m2(51.5坪)
賃貸期間五年(保証金三、五〇〇、〇〇〇円)
月額賃料 六一八、〇〇〇円(消費税抜き)
m2単価三、六三六円(坪単価一二、〇〇〇円)
年額 七、四一六、〇〇〇円(消費税抜き)
⑤ 更新料 三年更新
(①+②+③)÷三=九七三、六〇〇円
五年更新
④÷五=一二三、六〇〇円
計 一、〇九七、二〇〇円
⑥ 空き室控除(①〜⑤)×五%
=▲二、一二四、一四〇円
賃貸収入合計 ①〜⑥
四〇、三五八、六六〇円(消費税抜き)
852.67m2(258.32坪)
(保証金一七、八三六、〇〇〇円)
月額賃料 三、四四八、八〇〇円(消費税抜き)
m2単価四、〇四五円(坪単価一三、三四七円)
(3) 受入保証金運用益
一七、八三六、〇〇〇円×年五%
=八九一、八〇〇円
(4) 収益合計(賃貸収入合計、保証金運用益)
四一、二五〇、四六〇円(A)
(5) 必要経費
① 固定資産税 平成七年、八年平
均 四、一一八、〇五〇円
② 建物修繕、維持費
賃貸収入額の七%
二、八二五、一〇六円
③ 管理費
賃貸収入額の五%
二、〇一七、九三三円
④ 減価償却費
帳簿上からすれば、平成七、八年平均で一、八一〇、四〇九円となる。
しかし、本件建物本体は現帳簿上、昭和三八年六月、二六、三四二、八五六円にて取得となっているが、本件建物はその前年、二六―二八土地が前面道路の拡幅に伴い、一部収用されたことによる買替資産として取得したもので、当時租税特別措置法の収用による買換資産の特例を適用したと考えられるが、その詳細を立証する資料が無く正確な取得価額は不明である(平成一三年度固定資産税評価額は二九、八一二、七〇〇円)。
そこで「建築費指数集録」から、平成七年度におけるRC事務所推定建築費m2二三四、〇〇〇(坪七七五、〇〇〇)の23.6%=五五、二二四円で建築したと推定すると、当初建築費は×1,237.32m2=68,329,000円となる。これに、取得後使用変更等に伴う数回の改造の内、資本的支出に相当する価額三七、三四七、八五六円を加算して適正減価償却費を算出すると、
建築費合計 一〇五、六七六、八五六円
内建物本体七〇% 一〇五、六七六、八五六×七〇%=七三、九七三、八〇〇(耐用年数五〇年)
付属設備三〇% 一〇五、六七六、八五六×三〇%=三一、七〇三、〇五六(耐用年数一五年)
減価償却費
建物本体 73,973,800×0.9×0.02=1,331,528円
付属設備 31,703,056×0.9×0.066=1、883、161円
減価償却合計 三、二一四、六八九円となる。
必要経費合計
①〜④の計 一二、一七五、七七八円
(B)
(6) 差引純益 A―B
二九、〇七四、六八二円
(7) 建物投資に対する純益
① 建物投資額に対する利息相当
建物投資額×0.5×8%
105,676,856×0.5×8%=4,227,074円
② 賃貸営業に対する報酬 建物投資額×0.5×4%
105,676,856×0.5×
4%=2,113,537
合計 六、三四〇、六一一円
(8) 土地に対する純益((6)―(7))
二九、〇七四、六八二―六、三四〇、
六一一=二二、七三四、〇七一円
(9) 収益還元価額
土地に対する純益の五%による還元
二二、七三四、〇七一÷五%=四五
四、六八一、四二〇円
(10) 以上より、本件土地の現状を前提とした場合の収益還元価格は、四五四、六八一、四二〇円を超えるものではない。尚、賃借人の支払う共益費については、すべてその為に使用するものとして、ここでは考慮していない。