東京高等裁判所 平成13年(行コ)36号 判決 2001年5月31日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人が,控訴人に対し,平成10年12月22日付けでした,控訴人の平成9年4月10日から平成10年2月28日までの事業年度に係る消費税及び地方消費税の更正処分及びこれに対する過少申告加算税賦課決定を取り消す。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は,被控訴人から消費税及び地方消費税の更正処分及びこれに対する過少申告加算税の賦課決定処分をされた控訴人が,被控訴人に対し,控訴人には消費税及び地方消費税の納税義務がないなどと主張して,上記更正処分等の取消しを請求したところ,原審が請求を棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴した事案である。
2 法令の定め,前提となる事実,被控訴人の主張する本件更正処分等の根拠及び適法性,当事者双方の主張及び争点は,以下のとおり控訴審における当事者双方の主張を付加するほか,原判決書3頁2行目から同26頁3行目までに記載するとおりであるから,ここにこれを引用する(ただし,原判決書19頁7行目の「簡易課税制度選択不適用届出書が提出されていなくても」を「簡易課税制度選択不適用の届出がされていなくても」に改め,同22頁8行目から9行目にかけての「簡易課税制度選択届出」を「簡易課税制度選択適用届出書」に改める。)。
(1) 争点1(新設法人に消費税及び地方消費税の納税義務が生ずるか)について
ア 控訴人の主張
(ア) 新設法人に対する消費税の課税関係を規定する法的根拠は,消費税法12条の2と同法9条との規定関係にそれをみるとされるところ,消費税法9条1項は,基準期間の課税売上高が3000万円以下の事業者の納税義務を免除するに過ぎない規定であり,他方,同法12条の2は,基準期間がない事業年度の課税売上高が3000万円以下の新設法人のみが同法9条1項の納税義務が免除されないことを規定したものであって,課税売上高が3000万円を超える新設法人に対する課税関係の法的根拠はどこにも存在せず,法律の規定を欠く現行消費税法の下では,新設法人に対する課税関係は発生する余地がない。
(イ) 被控訴人が消費税の
納税義務の発生根拠とする消費税法5条1項の規定は,宣言的条文であり,その規定により当然に納税義務を負うものではなく,同条項は,課税の根拠にはなり得ない。
(ウ) 消費税法の基本的構成は,基準期間の存在を前提とした課税期間であり,同法12条の2のように,基準期間がないなどと表現すれば,直ちに課税関係が存在しないことを意味し,現行消費税法によっては,基準期間が存しない新設法人に対して課税関係を発生させることはあり得ない。
イ 被控訴人の反論
(ア) 消費税法5条1項は,事業者が,国内において行った課税資産の譲渡等につき,同法により,消費税を納める義務がある旨を明確に定める一方,同法12条の2は,例外的にその納税義務を免除する規定である同法9条1項本文の規定を,新設法人には適用しないことを明確に規定しているので,新設法人が消費税の納税義務を負っていることは明らかである。
(イ) 消費税法は,消費税について,課税の対象,納税義務者,税額の計算方法,申告,納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定める目的で制定されたものであって(同法1条),同法5条1項及び2項が,いずれも同法による消費税の納税義務者を定める規定であることは,その規定の体裁及び内容から明らかである。
(ウ) 基準期間という概念は,小規模事業者に係る納税義務の免除制度及び簡易課税制度を適用するか否かの振り分けを行う一つの基準として使用されているものにすぎず,基準期間のない新設法人に対して消費税を課すことが消費税法全体の構成上,許されないと解すべき理由はない。
(2) 争点2(新設法人が簡易課税制度選択適用届出書を提出した場合に,設立第1期の課税期間の課税売上高により簡易課税適用の可否が決定されるか)について
ア 控訴人の主張
課税期間に係わる基準期間については,その存在が課税関係発生の前提であるから,新設法人の基準期間は設立第1期とすると解することになるが,新設法人の提出した簡易課税制度の適用選択の可否は,設立第1期の課税売上高の額により自動的に判定され,設立第1期の課税売上高が2億円を超えれば,簡易課税制度の適用は否定されるべきである。
イ 被控訴人の反論
簡易課税制度選択適用届出書を提出した新設法人の課税期間について簡易課税が適用されるのは,当該届出書を提出した日の属する課税期間以後の課税期間であり(消費税法37条1項,同法施行令56条1号),基準期間のない新設法人について,設立第1期の課税売上高の金額によって簡易課税適用の有無を判断すべきとする等とした別段の規定も存しないので,控訴人の主張は失当である。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は,争点1につき,新設法人についても消費税及び地方消費税の納税義務が生じ,争点2につき,新設法人が所轄税務署長に対して簡易課税制度選択適用届出書を提出した場合には,設立第1期の課税期間の課税売上高にかかわらず,簡易課税が適用されることとなり,本件更正処分等は適法であると判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」欄に記載するところと同旨であるから,ここにこれを引用する(ただし,原判決書32頁1行目の「簡易課税制度選択不適用届出書が提出されていなくても」を「簡易課税制度選択不適用の届出がされていなくても」に改める。)。
(1) 争点1(新設法人に消費税及び地方消費税の納税義務が生ずるか)について
ア 控訴人は,消費税法9条1項は,基準期間の課税売上高が3000万円以下の事業者の納税義務を免除するに過ぎない規定であり,他方,同法12条の2は,基準期間がない事業年度の課税売上高が3000万円以下の新設法人のみが同法9条1項の納税義務が免除されないことを規定したものであって,課税売上高が3000万円を超える新設法人に対する課税関係の法的根拠はどこにも存在しないので,現行消費税法の下では,新設法人に対する課税関係は発生する余地がないと主張する。
しかし,原判決が説示するとおり,消費税法は,5条1項において,事業者は,国内において行った課税資産の譲渡等につき,同法により,消費税を納める義務があることを明確に規定した上で,その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3000万円以下である者については,同項の規定にかかわらず,その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき,消費税を納める義務を免除する旨の規定(同法9条1項本文)をおいている。しかし,この免税事業者制度は,小規模零細事業者の事務負担への配慮,多数の納税者に対する税務執行への配慮等から定められたものであるから,同項ただし書きは,別段の定めがある場合には,同項本文の規定の適用がないことを明らかにし,これを受けて,同法12条の2は,その事業年度の基準期間がない法人のうち,当該事業年度開始の日における資本又は出資の金額が1000万円以上である法人(新設法人)について,当該事業年度における課税資産の譲渡等につき,同法9条1項本文の規定を適用しないこととしている。要するに,消費税法は,事業者が,国内において行った課税資産の譲渡等につき,同法により,消費税を納める義務があるとの原則を明確に定める一方,例外的にその納税義務を免除する規定である同法9条1項本文の規定は,新設法人には適用しないことをも明確に規定しているのであるから,新設法人が消費税の納税義務を負っていることは明らかである。
したがって,消費税法12条の2と同法9条との関係を独自に解釈し,課税売上高が3000万円を超える新設法人に対する課税関係の法的根拠は存在しないとする控訴人の前記主張は,同法の文理を無視するものであって,採用することができない。
イ また控訴人は,消費税法5条1項の規定は宣言的条文であり,その規定により当然に納税納税を負うものではなく,同条項は,課税の根拠にはなり得ないと主張する。
しかし,この点についても,原判決が説示するとおり,消費税法は,消費税について,課税の対象,納税義務者,税額の計算方法,申告,納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定める目的で制定されたものであり(同法1条),前示のとおり,同法5条1項は,事業者が,国内において行った課税資産の譲渡等につき,同法により,消費税を納める義務があるとの原則を明確に規定しており,同項が同法による消費税の納税義務者を定める規定であることは,その規定の体裁及び内容から明らかである。したがって,同項の規定が宣言的条文であり,課税の根拠にはなり得ないとする控訴人の前記主張は,独自の解釈に基づくものであって,採用することができない。
ウ さらに控訴人は,消費税法の基本的構成は,基準期間の存在を前提とした課税期間であり,同法12条の2のように,基準期間がないなどと表現すれば,直ちに課税関係が存在しないことを意味し,現行消費税法によっては,基準期間が存しない新設法人に対して課税関係を発生させることはあり得ないと主張する。
しかし,原判決が説示するとおり,基準期間という概念は,小規模事業者に係る納税義務の免除制度及び簡易課税制度を適用するか否かの振り分けを行う一つの基準として使用されているものにすぎず,基準期間のない新設法人に対して消費税を課すことが消費税法全体の構成上,許されないと解すべき理由はない。したがって,控訴人の前記主張は,独自の見解を述べるものであり,採用することができない。
(2) 争点2(新設法人が簡易課税制度選択適用届出書を提出した場合に,設立第1期の課税期間の課税売上高により簡易課税適用の可否が決定されるか)について
控訴人は,新設法人の提出した簡易課税制度の適用選択の可否は,設立第1期の課税売上高の額により自動的に判定され,設立第1期の課税売上高が2億円を超えれば,簡易課税制度の適用は否定されるべきであると主張する。
しかし,消費税法37条1項は,事業者が,その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高が2億円以下である課税期間について,簡易課税制度選択適用届出書を提出した場合には,当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には,当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が2億円を超える課税期間及び分割に係る課税期間を除く。)については,簡易課税を適用して計算した金額を当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなすものと規定している。これによれば,新設法人が事業を開始した日の属する課税期間内に簡易課税制度選択適用届出書を提出した場合には,その事業を開始した日の属する課税期間から簡易課税が適用されることとなるが(消費税法施行令56条1号),新設法人については,基準期間における課税売上高がないから,当該課税期間の課税売上高が2億円を超えたとしても,当該課税期間につき簡易課税を適用して仕人れに係る消費税額を計算しなければならないこととなる。このほかに,基準期間のない新設法人について,設立第1期の課税売上高の金額によって簡易課税適用の有無を判断すべきものとする別段の規定も存しないので,上記の場合につき本則課税を適用することができないことは,消費税法の文理から明らかというべきである。
したがって,設立第1期の課税期間の課税売上高の額により自動的に簡易課税適用の有無が決定されるとする控訴人の主張は,採用することができない。
2 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,控訴費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 細川清 裁判官 川口代志子 裁判官 大段亨)