東京高等裁判所 平成13年(行コ)6号 判決 2001年7月05日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 控訴人の平成5年4月1日から平成6年3月31日までの事業年度に係る法人税について,被控訴人が,平成8年6月5日付けでした更正処分のうち総所得金額1億1686万3383円,納付すべき税額4221万8700円を超える部分及び同日付けでした過少申告加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税額209万9000円を超える部分を取り消す。
第2事案の概要
事案の概要は次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第二事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
(控訴人の主張)
1 スリーエス総研及びホロニックはいずれも控訴人のみを唯一の株主とする会社であるから,それぞれの増資による新株の発行に当たり,1株当たりの払込金額を高く設定しても安く設定しても,不合理の問題は生じない。すなわち,通常は,払込金額を高く設定すれば従前からの株主に有利であり,安く設定すれば新株取得による株主に有利になるが,本件においては,従前からの株式も新株発行による株式も,控訴人一人に帰属することとなるのであるから,有利不利の問題を生じることはないからである。したがって,本件各増資による新株について控訴人の払込金額が高額であるから経済的合理性に反するとの判断は,誤りである。
2 控訴人は,スリーエス総研に2億3000万円を払い込み,直ちに同社から同額を貸金の返済として回収し,ホロニックに5億円を払い込み,直ちに同社から同額の貸金の返済として回収している。一方,控訴人は,結果として,不良債権化したスリーエス総研及びホロニックに対する貸金債権を失ったものの,スリーエス総研及びホロニックの株式を取得した。したがって,控訴人の一連の行為を経済的側面からみれば,控訴人は,現金を支出してスリーエス総研及びホロニックの株式を取得したものではなく,控訴人の支出した現金は,貸金の回収として直ちに控訴人に戻っているのであるから,この点で経済的合理性を云々する余地はなく,他方,本件の一連の行為で控訴人が失ったものは不良債権化した貸金債権であり,取得したものはスリーエス総研及びホロニックの株式である。すなわち,本件は,経済的には価値のない不良債権を原資として,経済的には価値のない不良有価証券を取得したにすぎず,控訴人の資産内容は良くも悪くもなっていないのに比し,控訴人の100%子会社であるスリーエス総研及びホロニックにおいては,債務が減少し,資本金及び資本準備金が増加し,その資産内容は格段に良くなっているのであるから,控訴人にとっても経済的価値のあることであり,経済的合理性があったというべきである。そうすると,控訴人の一連の行為は,経済的合理性がないとも不当ともいうことはできず,法人税法132条に該当しないというべきである。
3 法人税法は,債権の評価損を所得の金額の計算上損金にすることはできないとするのみであり,売却損を損金計上できないとは規定していないのであるから,売却損が法人税法22条3項3号の損失に該当することは間違いないところ,放置すれば評価損として損金計上できない性質のものを,経済的取引をすることによって売却損に持ち込む行為を禁止する法令はどこにもない。そうであるのに,原判決は,評価損を売却損とすることはできないと断定するものであるところ,この断定によって法律上の根拠なく損金を否定し,したがって,法律上の根拠なく所得の金額を高額化させ,その結果,新たに租税を課すものであり,憲法84条の租税法律主義に違反するというべきである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本件請求は,いずれも理由がないから棄却すべきものと判断するが,その理由は,原判決の「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,控訴人の主張にかんがみ,次のとおり理由を付加することとする。
(1) 控訴人は,スリーエス総研及びホロニックは,いずれも控訴人のみを唯一の株主とする会社であったから,その新株発行価格をいくらに設定しようと控訴人が取得するものである限り,経済的合理性を失わない旨主張する。
しかしながら,本件で問題となるのは,新旧株主間の公平の問題ではなく,被控訴人が否認した控訴人の行為,計算,すなわち控訴人が上記2社の株式を取得するため新株発行を引き受け,払込金を払い込んだ行為が,経済的合理性を有するか否かであり,上記2社が直近の決算書において債務超過の状態にあったこと,引受,払込額が額面額を大きく上回るものであること等,上記引用に係る原判決認定のもとでは,通常の経済人であれば,このような新株を引き受け,払い込むはずはないのであるから,経済的合理性を肯定できないことは明らかである。よって,控訴人の上記主張は失当である。
(2) 控訴人は,経済的にみれば本件一連の行為により,各貸金を原資としてスリーエス総研とホロニックの新株を取得したにすぎず,経済的合理性に欠けるものではないと主張する。
しかしながら,本件において,控訴人の主張するような貸金を原資として株式を取得する行為は存在しないのであるから失当である。すなわち,本件に関連する控訴人の行為は,①控訴人が払込金を払い込んで上記2社の各新株を取得した行為,② 控訴人が取得した各新株の全部及び一部をセムヤーゼに譲渡した行為,③控訴人が上記2社からそれぞれの貸金の返還を受けた行為であり,控訴人は,これらの一連の行為を一体として行ったものであるが,被控訴人は,これを容認すれば,控訴人の法人税の負担を不当に減少させる結果となるところから,上記行為のうち経済的合理性の認められない①の行為を否認したものであって,控訴人の上記主張は当を得ないものといわざるを得ない。
(3) 控訴人は,損金を否定することは上記のような理由から憲法84条の租税法律主義に違反すると主張するが,控訴人が本件一連の行為を行った目的及び控訴人のスリーエス総研及びホロニックに対する払込行為が不合理な経済行為あることは,上記引用に係る原判決説示のとおりであり,同払込行為を容認した場合には,法人税の負担を不当に減少させる結果となるところから,被控訴人は,法132条によってその払込行為を否認してその認めるところにより法人税額を算出したのであるから,正に法に基づく処分であり,租税法律主義に反するとの控訴人の主張は失当である。
2 よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森脇勝 裁判官 池田克俊 裁判官 松本光一郎)