東京高等裁判所 平成14年(ネ)3644号 判決 2005年11月30日
控訴人兼被控訴人(1審原告) 甲野太郎 ほか約6000名
被控訴人兼控訴人(1審被告) 国
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 別紙3<略>「飛行差止及び交渉義務確認請求原告」目録記載の原告らの飛行差止請求及び交渉義務確認請求をいずれも棄却する。
(2) 原告らの慰謝料等損害金の支払請求のうち、平成17年12月1日以降に生ずべき慰謝料等損害金についての主位的請求及び予備的請求に係る訴えを、いずれも却下する。
(3) 被告は、別紙2<略>「居住期間等一覧表」1―1から1―3002まで及び2―1から2―138までの各原告に対し、同表の「損害額合計」欄(「承継額」欄に記載のある者については同欄)記載の各金員及びこれらのうち平成8年11月分までに生じた金員の合計額については同年12月19日から、同年12月分以降に生じた金員についてはそれぞれの発生月の翌月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告は、別紙2<略>「居住期間等一覧表」3―1から3―2781まで、4―1から4―34まで及び5―3の各原告に対し、同表の「損害額合計」欄(「承継額」欄に記載のある者については同欄)記載の各金員及びこれらのうち平成10年5月分までに生じた金員の合計額については同年6月4日から、同年6月分以降に生じた金員についてはそれぞれの発生月の翌月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 別紙1<略>「原告目録」記載の氏名末尾に「*」印を付した原告らの、平成13年7月28日から平成17年11月30日までに生ずべき慰謝料等損害金についての請求に係る訴えのうち、上記(3)及び(4)を除く部分を、いずれも却下する。
(6) 原告らの慰謝料等損害金の支払請求のうち、その余の請求をいずれも棄却する。
2(1) 別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「原状回復」欄に記載のある原告は、被告に対し、同欄記載の金員及びこれに対する平成14年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告の原判決の仮執行の宣言に基づく給付の返還及び損害賠償についてのその余の申立てをいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1審、第2審を通じ、次のとおりとする。
(1) 平成17年11月30日までに生じた損害の賠償請求を全く認容されなかった原告らについて生じた費用は、当該原告の負担とする。
(2) その余の原告ら及び被告について生じた費用は、これを3分し、その2を同原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項(3)及び(4)に限り、本判決が被告に送達された日から14日を経過したときは、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨等
1 原告ら
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 飛行差止及び交渉義務確認請求(別紙3<略>「飛行差止及び交渉義務確認請求原告」目録記載の原告ら)
ア 主位的請求(飛行差止請求)
被告は、別紙3<略>「飛行差止及び交渉義務確認請求原告」目録記載の原告らに対し、アメリカ合衆国をして、在日米軍横田飛行場において、毎日午後9時から翌日午前7時までの間、航空機の離発着をさせてはならない。
イ 予備的請求(交渉義務確認請求)
被告は、アメリカ合衆国に対する別紙3<略>「飛行差止及び交渉義務確認請求原告」目録記載の原告らの、アメリカ合衆国が横田飛行場において、毎日午後9時から翌日午前7時までの間、航空機の離発着をしてはならないとの請求について、地位協定18条5項の処理として、その実現のために同協定25条1項に基づき設置された合同委員会において、アメリカ合衆国と外交交渉をする義務があることを確認する。
(3) 慰謝料等損害金請求
ア 訴状送達日までの慰謝料等
(ア) 被告は、別紙4<略>「控訴の趣旨(慰謝料等損害金請求)」1記載の原告らに対し、それぞれ同別紙1「過去分損害」欄記載の各金員及びこれに対する平成8年12月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(イ) 被告は、別紙4<略>「控訴の趣旨(慰謝料等損害金請求)」2及び3記載の原告らに対し、それぞれ同別紙2及び3の「過去分損害」欄記載の各金員及びこれに対する平成10年6月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 訴状送達日の翌日以降の慰謝料等
(ア) 主位的請求
被告は、別紙4<略>「控訴の趣旨(慰謝料等損害金請求)」1記載の原告ら(「居住終期」欄に「居住なし」との記載のある者を除く。)に対し、平成8年12月19日から、同別紙2及び3記載の原告ら(「居住終期」欄に「居住なし」との記載のある者を除く。)に対し、平成10年6月4日から、アメリカ合衆国が在日米軍横田飛行場において、毎日午後9時から翌日午前7時までの間、航空機の離発着をしなくなり、かつ、その余の時間帯において一審原告らの居住地に60ホンを超える一切の航空機騒音が到達しなくなるまで(「居住終期」欄に「年月日」の記載のある原告に対してはその日まで)、それぞれ毎月「将来損害月額」欄記載の金員を当該月の末日限り、及びこれに対する当該月の翌月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(イ) 予備的請求
<1> 原告目録<略>1記載の原告ら
被告は、別紙4<略>「控訴の趣旨(慰謝料等損害金請求)」1記載の原告ら(「居住終期」欄に「居住なし」との記載のある者を除く。)に対し、平成8年12月19日から、同別紙2及び3記載の原告ら(「居住終期」欄に「居住なし」との記載のある者を除く。)に対し、平成10年6月4日から、下記のイからハまでのいずれかの事由が発生した日まで、毎月「将来損害月額」欄記載の金員を当該月の末日限り、及びこれに対する当該月の翌月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
記
イ 横田飛行場についての、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律による現行の第1種又は第2種区域の指定を変更する旨の告示
ロ 原告各自につき、口頭弁論終結時の居住地からの転居
ハ 原告各自につき、口頭弁論終結後にする生活環境整備法4条による新たな防音工事の完了
<2> 原告目録2<略>ないし4<略>記載の原告ら
被告は、別紙4<略>「控訴の趣旨(慰謝料等損害金請求)」1記載の原告ら(「居住終期」欄に「居住なし」との記載のある者を除く。)に対し、平成8年12月19日から、同別紙2<略>及び3<略>記載の原告ら(「居住終期」欄に「居住なし」との記載のある者を除く。)に対し、平成10年6月4日から、原告らの居住地が生活環境整備法による第1種ないし第3種区域の指定から外れるまで(「居住終期」欄に「年月日」の記載のある原告に対してはその日まで)、それぞれ毎月「将来損害月額」欄記載の金員を当該月の末日限り、及びこれに対する当該月の翌月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告
(1) 原判決中、被告敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分に係る原告らの請求をいずれも棄却する。
3 仮執行の原状回復及び損害賠償の申立て(被告)
別紙5<略>「仮執行一覧表」記載の原告らは、被告に対し、それぞれ、同別紙「仮執行合計額」欄記載の金員及びこれに対する平成14年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要(略語等は、原則として、原判決に従う。)
1 本件は、被告が安保条約に基づき米軍の使用する施設及び区域としてアメリカ合衆国に提供した横田飛行場の周辺に居住する者又は居住していた者若しくはその相続人である原告らが、横田飛行場を利用する米軍の航空機が発する騒音等により、受忍限度を超える被害を受けていると主張して、被告に対し、夜間の航空機の飛行の差止めや損害賠償等を求めた、いわゆる横田基地騒音公害訴訟の第5次訴訟(東京地方裁判所八王子支部平成8年(ワ)第763号)、第6次訴訟(同庁平成9年(ワ)第327号)及び第7次訴訟(同庁平成10年(ワ)第895号)を併合審理した事件である。なお、別紙1<略>「原告目録」の行頭に「1」又は「2」の記載がある者は第5次訴訟の原告又はその承継人、「3」の記載がある者は第6次訴訟の原告又はその承継人、「4」又は「5」の記載がある者は第7次訴訟の原告又はその承継人である。
各原告(<1>の請求については、別紙3<略>記載の者に限る。)は、被告に対し、<1>人格権又は環境権に基づき、アメリカ合衆国をして横田飛行場において夜間(毎日午後9時から翌日午前7時まで)航空機の離発着をさせないこと(主位的請求)又は同請求についてアメリカ合衆国との外交交渉義務があることの確認(予備的請求)を求め、<2>民事特別法1条1項、同法2条1項、国家賠償法1条1項又は同法2条2項に基づき、訴え提起日(第5次訴訟につき平成8年4月10日、第6次訴訟につき平成9年2月14日、第7次訴訟につき平成10年4月20日)から遡って3年間の騒音等による損害(慰謝料72万円、弁護士費用8万円)(第5次訴訟の原告らのうち、第3次訴訟(口頭弁論終結日平成6年1月12日)についても原告となっていた者は、平成6年2月以降の損害として慰謝料54万円及び弁護士費用6万円)の賠償を求め、<3>民事特別法1条1項、同法2条1項、国家賠償法1条1項又は同法2条2項に基づき、将来分の損害として、訴状送達日(第5次訴訟につき平成8年12月18日、第6次訴訟及び第7次訴訟につき平成10年6月3日)の翌日から1か月当たり2万2000円(慰謝料2万円、弁護士費用2000円)の割合による賠償を求めた。
なお、被告は、X1の訴え提起は、同原告の意思に基づかないと主張するが、同主張を採用できないことは、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」1(3)(原判決29頁17行目から30頁24行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 原審は、<1>夜間の航空機飛行差止請求及び外交交渉義務確認請求を主張自体失当として棄却し、上記<2>及び<3>の損害賠償請求のうち、口頭弁論終結日(平成13年7月27日)までの損害の賠償請求については民事特別法2条1項に基づき一部認容し、口頭弁論終結日の翌日以降の損害についての賠償請求に係る訴えを却下した。
原審は、騒音被害を受けていると認められる原告の口頭弁論終結日までの損害の賠償請求につき、昭和52年の調査に基づいて作成された騒音コンター(告示コンター)のW値を基準とし、W値75を受忍限度と認め、1か月当たりの各原告の損害(慰謝料)額を、W値75以上80未満の地域に居住する者については3000円、W値80以上85未満の地域に居住する者については6000円、W値85以上90未満の地域に居住する者については9000円、W値90以上の地域に居住する者については1万2000円と認定し、原告らのうち被告から住宅防音工事の助成を受けた者及びその同居者の慰謝料額を、上記の額から防音室数1室につき1割減じ、さらに、昭和41年1月1日以降に、<1>横田飛行場周辺の騒音地域に居住を開始した者、<2>以前から騒音地域に居住していたが、その後騒音地域外に転出し、再び騒音地域内に転入した者、<3>騒音地域内に居住し、その後騒音地域内のより騒音レベルの高い地域に転居した者につき、その回数に応じて、1回につき1割慰謝料額を減じ、算出された額に1割の弁護士費用相当額を加算して、認容額(元本)を算定した。
3 原判決に対して控訴した一審原告らの一部は、当審において、訴えを取り下げ、又は控訴を取り下げた。
当審において、原告らは、上記1記載の各請求のうち、慰謝料等損害金の請求(上記<2>及び<3>)を、原告ら1人当たり月額1万7000円(慰謝料1万5000円、弁護士費用2000円)に改め、また、原告らのうち原告目録1記載の者は、将来の損害についての予備的請求を、前記控訴の趣旨の1(3)イ(イ)<1>記載のとおり改めた。
4 原告らの一部が、原判決の仮執行宣言に基づいて仮執行をしたところ、被告は、当審において、これらの原告らに対し、仮執行の原状回復及び損害賠償を命ずる裁判を申し立てた。
5 当裁判所は、航空機飛行差止請求及び外交交渉義務確認請求については、原審と同様に、主張自体失当として棄却すべきものと判断した。
損害賠償請求については、本判決言渡日(平成17年11月30日)の翌日以降の損害の賠償請求に係る訴えは、不適法として却下すべきであり、本判決言渡日までの損害の賠償請求は、その一部を認容すべきものと判断した。損害額の算定については、騒音コンターを基準としてW値75を受忍限度とする点は原審と同様に判断したが、原審と異なり、平成10年度コンターを基準とし、住宅防音工事の助成を理由とする慰謝料の減額を、防音室数が1室を超えても一律1割とし、危険への接近の法理による慰謝料の減額をしなかった。
被告の仮執行の原状回復及び損害賠償を命ずる裁判の申立てについては、当審において請求を棄却された原告に係る分についてのみ認容すべきものと判断した。
6 前提事実(当事者間に争いのない事実、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実等)
(1) 別紙2<略>「居住期間等一覧表」記載の「権利承継割合(相続人)」欄に記載のある原告は、横田飛行場周辺地域に居住していたがその後死亡した者(被承継人)の、騒音被害についての損害賠償請求権を、同欄記載の割合で承継した。
(2) 各原告又は被承継人(以下、単に「原告」ということがある。)は、別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「居住地」欄記載の土地に、「居住期間」欄記載の期間(居住月数は同一覧表の「居住月数」欄記載のとおり)居住していた。
原告らのうち、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10、X11、X12、X13、X14については、本件損害賠償請求に係る期間内に各原告主張の場所(別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「居住地」欄記載の場所)に居住していた事実を認めるに足りる証拠はなく、X15及びX16については、各原告主張の住所(別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「居住地」欄記載の場所)のうち、当事者間に争いのないもの以外は、居住の事実を認めるに足りる証拠がないところ、その理由は、次のとおり訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」7(3)アのうち上記各原告についての判断部分(原判決67頁11行目から69頁13行目、69頁20行目から71頁21行目、73頁7行目から13行目まで、73頁末行から74頁13行目まで、75頁24行目から76頁12行目まで、77頁6行目から25行目まで、82頁3行目から15行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。さらに、X17、X18、X19、X20、X21、X22、X23、X24、X25、X26、X27についても、各原告主張の住所のうち、当事者間に争いのないもの以外は、居住の事実を認めるに足りる証拠がない。
ア 原判決67頁24行目から25行目「X28、X29」を削る。
イ 原判決69頁6行目から7行目「X30、X31」を「X32、X33」に改める。
ウ 原判決70頁25行目から26行目「(但し、同原告は、後記のとおり、危険への接近の理法の該当者として、その損害賠償請求は、認められない。)」を削る。
エ 原判決71頁11行目及び17行目「X34」を「X10」に改める。
オ 原判決75頁末行「平成5年4月11日」を「平成6年4月30日」に改める。
(3) 原告らの上記の居住地の告示コンターによるW値は、別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「W値」欄の「告示コンター」欄記載のとおりであり(争いがない。)、平成10年度コンターによるW値は、同表の「W値」欄の「H10コンター」欄記載のとおりである(<証拠略>)。
(4) 別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「住防室数」欄に記載のある原告らは、その住居のうち同欄記載の部屋数につき、被告の助成を受けて防音工事を施した者又はその同居者である。
(5) 別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「危険への接近」欄の「免責の法理」欄に<1>ないし<8>のいずれかの記載のある原告は、昭和41年1月1日(基準日)以降に以下の<1>ないし<8>の類型に該当する転居をした者であり、「危険への接近」欄の「減額の法理」欄に1以上の数字の記載のある原告は、基準日以降に告示コンター内での居住を開始した者である(数字は転居を経て告示コンター内での居住を開始した回数である。)。
<1> 基準日以降に告示コンター内に居住を開始したが、その後、告示コンター内外の転出入を繰り返している者
<2> 基準日以降に告示コンター内に居住を開始したが、その後、告示コンター外に転出し、再び告示コンター内に転入した者
<3> 基準日において既に告示コンター内に居住し、その後、告示コンター内外の転出入を繰り返している者
<4> 基準日において既に告示コンター内に居住していたが、その後、一旦告示コンター外へ転出し、再び告示コンター内に転入した者
<5> 基準日以降告示コンター内に居住を開始したが、その後、告示コンター内のより騒音レベルの高い区域に転居した者
<6> 基準日以降告示コンター内に居住を開始したが、その後、告示コンター内の移動を複数回繰り返した者
<7> 基準日において告示コンター内に居住していたが、その後、告示コンター内のより騒音レベルの高い区域に転居した者
<8> 基準日において告示コンター内に居住していたが、その後、告示コンター内の転居を複数回繰り返した者
(6) 別紙5<略>「仮執行一覧表」記載の原告らは、原判決の仮執行宣言に基づく仮執行により、平成14年6月27日、同一覧表のとおり、被告から、同欄記載額の支払を受けた。
7 争点及び争点に対する当事者の主張は、当審において原告ら及び被告がそれぞれ追加整理した主張を別紙6<略>及び別紙7<略>のとおり加えるほかは、原判決の事実及び理由の「第2 事案の概要」2及び3(原判決27頁11行目から16行目まで(引用文書を含む。))に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決引用に係る被告最終準備書面<略>278頁5行目から279頁7行目まで、279頁16行目から25行目まで、280頁24行目から283頁3行目、283頁14行目から285頁25行目、286頁8行目から19行目、287頁20行目から289頁18行目、290頁5行目から292頁23行目、293頁8行目から297頁24行目までを削る。
第3当裁判所の判断
1 航空機の飛行差止請求及び外交交渉義務確認請求
上記いずれの請求も主張自体失当であり、棄却を免れないところ、その理由は、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」2(原判決31頁初行から33頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 損害賠償請求についての適用法令及び被侵害利益
原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」3及び4(原判決34頁初行から37頁末行まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 横田飛行場周辺地域における航空機騒音等
(1) 航空機騒音の評価方法等、横田飛行場周辺地域における航空機騒音等の実態
以下のとおり訂正し、最近の横田飛行場周辺地域の航空機騒音の実態等についての認定を次項に加えるほかは、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」5及び6(原判決38頁初行から65頁7行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決52頁20行目から21行目「南方向の離着陸機の飛行コースの直下にある。」を、「南方向の離着陸機の飛行コースのほぼ直下にあるが、飛行コースとの距離は、大神測定所と飛行コースとの距離よりも若干長い。」に改める。
イ 原判決58頁17行目から21行目までを削る。
ウ 原判決60頁15行目「横田基地においても、」から17行目末尾までを、次のとおり改める。
「航空機の離着陸により相当程度の振動が生じていることが推認されるが、その具体的な程度を認めるに足りる証拠はない。」
エ 原判決64頁12行目から14行目までを削る。
オ 原判決64頁21行目末尾に、次のとおり加える。
「ただし、平成13年以降は、事実上、横田飛行場においては夜間離着陸訓練は実施されていない。」
(2) 最近の航空機騒音の実態等
ア 平成13年5月から平成14年6月にかけて、横田飛行場の滑走路の全面改修工事が行われ、平成13年10月から約9か月間は、滑走路の2分の1が閉鎖された。この滑走路改修工事期間中は、横田飛行場における航空機の離着陸の頻度が減少した。(<証拠略>)
イ 米軍横田基地の第374航空医療搬送中隊の解散に伴い、平成15年9月、横田飛行場に常駐する航空機のうちC―9ナイチンゲール医療空輸機が退役した。(<証拠略>)
ウ 横田飛行場における夜間離着陸訓練(NLP)は、平成13年以降は、実施通告は数回あったが、実施はされていない。(<証拠略>)
エ 固定測定地点の騒音の測定結果
東京都及び昭島市の固定測定地点における近時の測定結果を踏まえた騒音の測定結果の推移は、別表1から13までのとおりである。(前記引用に係る原判決の認定事実、<証拠略>)
(ア) 1日当たりの平均騒音測定回数(別表1<略>)
(イ) 夜間、早朝における1日当たりの平均騒音測定回数
<1> 午後10時から午前6時までの1日当たりの平均騒音測定回数(別表2<略>)
<2> 午後9時から午前7時までの1日当たりの平均騒音測定回数(別表3<略>)
(ウ) 日曜日等の騒音測定回数
<1> 日曜日の騒音測定回数(別表4<略>)
<2> 国民の祝・休日の騒音測定回数(拝島二小測定所)(平成15年11月から平成16年10月まで)(別表5<略>)
(エ) 騒音持続時間(拝島二小測定所)(別表6<略>)
(オ) 騒音値
<1> 大神測定所等(別表7<略>)
<2> 箱根ヶ崎測定所等(別表8<略>)
<3> 拝島二小測定所(別表9<略>)
(カ) W値の推移(別表10<略>)
(キ) 1日最高騒音測定回数
<1> 大神測定所等及び箱根ヶ崎測定所等(別表11<略>)
<2> 拝島二小測定所(別表12<略>)
オ 固定測定地点以外の東京都の分布調査の12地点の推定W値の推移は、別表13のとおりである。(前記引用に係る原判決の認定事実、<証拠略>)
(3) 以上によれば、東京都及び昭島市の固定測定地点における平成5年以降の平均騒音測定回数(1日当たり)は、平成11年まで減少の傾向にあったが、平成12年に若干増加し、平成13年及び平成14年は大幅に減少し(滑走路改修工事が原因であると推認される。)、平成15年は平成12年と同程度の水準(24回から33回程度)となったことが認められる。また、拝島二小測定所の平成5年以降の1日当たりの平均騒音持続時間は、ほとんどの月が4分から9分弱程度で、平成11年以降は7分以内におさまっており、それ自体は極めて長いとはいえない。
日曜日の平成5年以降の平均騒音測定回数は、年間の騒音測定回数の1日平均の概ね3分の1にとどまるが、国民の祝・休日の平均騒音測定回数は、30回を超えることも多く(拝島二小測定所)、年間の騒音測定回数の1日平均と明らかな違いは認められない。
平成5年11月の日米合同委員会で、飛行及び地上における活動を、緊要と認められるものに制限する旨が合意された時間帯である午後10時から午前6時までの騒音測定回数は、平成5年以降、減少の傾向が著しく、近時は1日平均0.1ないし0.2回程度である。ただし、本件訴訟で一部の原告らが航空機飛行差止めを求めている時間帯である午後9時から午前7時までの測定回数は、午後10時から午前6時までの測定回数の10倍を上回ることが多い。
1日最高測定回数は、大神測定所等では、平成13年度が約101回、平成14年度が約95回、箱根ヶ崎測定所等では、平成13年度が約119回、平成14年度が約118回、拝島二小測定所では、平成14年が129回、平成15年が101回と、近時でも非常に多い。
固定測定地点の年別W値の平成5年以降の推移については、大神測定所においては、平成10年までは減少の傾向が認められるが、その余の測定地点及び時期については、平成13年5月から平成14年6月にかけて滑走路の改修工事が実施されたこと、大神測定所等の測定地点が平成10年10月に変更されて飛行コースから遠くなったこと、箱根ヶ崎測定所等の測定地点が平成9年4月に変更されて飛行コースに近くなったことを考え併せると、明らかな変化の傾向は認められない。
固定測定地点以外の東京都の分布調査対象の12地点の測定結果に基づく推定W値によれば、平成13年から平成14年にかけて行われた滑走路の改修工事を考慮に入れると、平成5年以降は明らかな増加又は減少傾向は認められないものの、昭和62年ころのW値と比較すると、平成5年以降のW値の水準は全体に低下していることが認められる。
なお、東京都や昭島市による騒音測定結果に基づく上記のW値の算定は、昭和48年環境基準で採用された方式(環境基準方式)に従っているが、防衛施設庁は、防衛施設周辺において騒音コンターを求める際のW値の算出方法につき、自衛隊等が使用する飛行場から出る騒音の、公共用飛行場とは異なる特殊性にかんがみて、環境基準方式とは異なる方式を採用しており(防衛施設庁方式)、防衛施設庁が横田飛行場周辺地域について作成した騒音コンター(告示コンター及び平成10年度コンター)は、防衛施設庁方式に基づいている。環境基準方式と防衛施設庁方式の相違点は、<1>ピーク騒音レベルに応じた重み付けをした上での1日当たりの標準総飛行回数につき、環境基準方式では単純平均回数で求めるのに対して、防衛施設庁方式では累積度曲線を求めて累積度数の90%に当たる回数とすること、<2>騒音の継続時間の補正に関して、環境基準方式では、実際の継続時間にかかわらず一定値を補正するのに対し、防衛施設庁方式では、継続時間に応じて、飛行中とエンジン調整中とで異なる補正をすること、<3>着陸音の補正に関して、環境基準方式では補正をしないのに対し、防衛施設庁方式ではジェット機の着陸音に対して2dBの補正を行うということであり、一般的には、環境基準方式で求めたW値は防衛施設庁方式で求めたW値を3ないし5程度下回るといわれている。
(前記引用にかかる原判決の認定事実、<証拠略>)
4 騒音等による被害
(1) 横田飛行場周辺地域に居住する原告らが騒音等により受けている被害については、以下のとおり訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」8(2)から(4)まで(原判決90頁20行目から118頁6行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決101頁14行目「しかしながら」から19行目末尾までを、次のとおり改める。
「また、聴力障害を訴えていない原告らも多いのであり、本件請求が、原告ら全員が最小限度等しく被っていると認められる被害を、原告らに共通する損害として、その限度で慰謝料という形で賠償を求めるものであることに照らすと、横田飛行場を使用する航空機騒音による難聴や耳鳴りといった聴力障害又はそれと同視しうる健康被害を、原告らの共通損害として認めるには足りないというべきである。」
イ 原判決103頁11行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。
「 原告提出に係る小松基地における調査結果(<証拠略>)及びこれに関するA教授の証言調書(<証拠略>)によっても、上記結論を左右するに足りない。」
ウ 原判決116頁14行目から16行目までを、次のとおり改める。
「(エ) 一部の原告らが主張する病気療養の障害、育児妨害、ペットに対する悪影響等は、騒音による日常生活の妨害の発現の具体的態様の一つとして認められる(<証拠略>)。」
エ 原判決117頁8行目から15行目までを削る。
オ 原判決117頁16行目「ウ」を「イ」に改める。
カ 原判決117頁24行目から25行目「難聴、耳鳴り等の身体的被害の可能性及びその恐れといった被害、」を削る。
キ 原判決118頁初行「破壊」の次に、「知的作業や業務の妨害、思考の中断、読書の妨害」を加える。
(2) 原告ら提出にかかる科学的研究結果や疫学調査結果等の証拠によれば、横田飛行場の周辺住民の中には、同飛行場の航空機騒音を原因として、聴力障害や高血圧等の身体的不調の症状を生じている者が含まれることが窺われるものの、個別の原告につき訴える症状と当該原告が受けている航空機騒音との因果関係を立証するには至っていないといわざるを得ないし、そもそも、本件訴訟においては、原告らは、横田飛行場の騒音等によって全員が最小限度等しく被っていると認められる被害を、共通損害として賠償を求めていると解され、睡眠妨害、心理的・情緒的被害、生活妨害、身体的不調につながる危険性を有するストレスといった被害は、その程度や具体的発現の態様は各人の生活条件等によって違いがあるものの共通の被害として認められるが、それを超える被害については、横田飛行場に離着陸する航空機の騒音等が、周辺住民である原告らに共通の損害として身体的被害等を生じさせていると認めるに足りる証拠は存しないというべきである。
なお、横田飛行場に離着陸する航空機の騒音等により自らが受けている被害についての陳述書を提出しない原告らが当審でも残るものの、このような原告らについても、広大な地域に極めて大きな騒音を及ぼすという航空機騒音の特徴、本件において提出された騒音被害に関する書証、大多数の原告らから提出されている陳述書、一部の原告らについて実施した本人尋問の結果(原審、当審)を総合すれば、騒音被害地域に居住していることから、一定の範囲で他の原告らと同様に騒音による被害を受けていると推認できるというべきである。
5 騒音対策
(1) 被告が実施している横田飛行場周辺の騒音対策についての認定は、以下のとおり訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」9(1)及び(2)(原判決119頁2行目から130頁15行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決123頁16行目末尾に、次のとおり加える。
「そして、平成14年度までに、約3万6500世帯の住宅防音工事が完了している。これらに対する補助金総額は、約1219億2000万円にのぼっている。」
イ 原判決123頁20行目末尾に、次のとおり加える。
「そして、平成14年度までに約2万1000世帯の追加防音工事が完了した。」
ウ 原判決123頁25行目から124頁12行目までを削る。
エ 原判決128頁24行目末尾に、改行の上、次のとおり加える。
「カ 周辺対策の費用の総額
上記の横田飛行場周辺対策事業に被告が平成14年度までに費やした費用は、別紙9<略>「横田飛行場周辺対策事業総括表」記載のとおりである。」
オ 原判決129頁15行目末尾に、次のとおり加える。
「ただし、平成13年以降は、横田飛行場においてはNLPは事実上実施されていない。」
(2) 原告らのうち、被告から住宅防音工事の助成を受けて防音工事を実施した者及びその同居者は、別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「住防室数」欄に数字の記載がある者であり、防音工事を実施した室数が、同欄記載の数のとおりであることは、当事者間に争いがない(前提事実)。
なお、被告は、平成14年度から、W値85以上の区域に所在する住宅を対象として、世帯人員にかかわらず、全居室のみならず浴室、トイレ、廊下等も防音区画に取り込み、住宅全体を一つの防音区画として防音工事を実施する外郭防音工事の助成を実施しており、横田飛行場周辺の住宅については、平成14年度に15世帯(約3700万円)の外郭防音工事の助成を実施したが(<証拠略>)、原告らが外郭防音工事の助成を受けた事実は認められない。
(3) 騒音対策の効果
ア 住宅防音工事
被告が行っている周辺対策のうち、住宅防音工事の助成については、防音工事施工室の内外音圧レベル差で25ないし30数デシベル程度の遮音効果が確認されており(<証拠略>、原審平成10年10月27日検証の結果)、騒音被害を軽減する効果を上げていることが認められる。
しかし、防音工事を実施していない住宅であっても建物自体が一定の遮音効果を有するのであり(例えば、原審平成10年10月27日検証の際のB宅、原審平成11年7月6日検証の際のC宅は、防音工事が実施されていない箇所であっても20デシベル程度の屋外との騒音レベル差が認められた。)、防音工事を施工した部屋の遮音効果の一部は防音工事に起因するものではなく、防音工事に大した効果がないと訴える原告もかなり多い(原審原告X35、X36、同X37等)。また、防音工事による遮音は、窓を閉め切らなければ期待した効果を得られないが、窓を閉め切って生活することによる不快感、換気や室温調節に必要な空調機器の稼働に伴う電気料金の問題もあって、常に窓を締め切った状態で生活することは現実的ではなく、また、防音工事に伴う結露や湿気等の問題も生じている(原審原告X38、同X36等)。
なお、平成15年度から、原則としてW値が90以上の区域に所在する住宅を対象として太陽光発電システムの設置工事助成のモニタリングが実施されており(<証拠略>)、同システムの導入により、閉め切った状態で空調機器を使用する際の電気料金の負担の軽減が期待できるが、これは平成15年度からモニタリング事業として一部の世帯に対して開始されたにすぎず、本件訴訟において原告らの被害との関係でこれを考慮に入れることはできない。
以上を総合すると、住宅防音工事は、防音工事が実施された室内にいる時には航空機騒音の被害を一定程度軽減する効果を有するものの、原告らが受けている騒音被害を根本的に解消し、又はそれに近い効果を上げているとは到底いえないから、騒音被害の受忍限度の判断に影響を及ぼすとは認められず、慰謝料額の判断にあたって考慮すべき事情にとどまるというべきである(具体的な考慮の程度については、後に検討することとする。)。
イ その他の周辺対策
住宅防音工事以外に被告が実施している周辺対策については、これが、被告が横田飛行場の周辺地域の環境の保全に資するといえるとしても、これにより原告らが受ける航空機騒音が軽減されたという効果を認めるに足りる証拠がない以上、騒音被害についての原告らの被告に対する損害賠償請求権の存否及び内容に影響を及ぼすということはできない。
6 受忍限度
(1) 受忍限度の判断の前提については、原判決136頁23行目から137頁8行目までを、次のとおり改めるほかは、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」10(1)から(6)イまで(原判決131頁初行から139頁20行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
「 前示のとおり、被告が騒音対策として行っている住宅防音工事の助成は、受忍限度の判断に影響を及ぼすとは認められず、被告によるその他の騒音対策は、原告らが受けている騒音被害を軽減すると認めるに足りないから、結局、被告が採った騒音対策を受忍限度の検討にあたって斟酌することは相当でないというべきである。」
(2) 個々の原告の住居の構造、勤務条件や生活状況等により、騒音への具体的な暴露の時間や態様は様々であるが、横田飛行場周辺の広大な地域に居住する極めて多数の原告らが受けている航空機騒音の状況を個別に測定することは現実には不可能であること、原告らが主張する損害賠償請求権は、原告らが共通して被っている損害を前提としていることに照らし、個々の条件の相違を捨象して、横田飛行場周辺地域の騒音コンター(等音線)をもって、各原告が被っている航空機騒音被害の程度の近似値を認定するのが相当であり、<1>横田飛行場の騒音被害は、広大な周辺地域に及び、多数の周辺住民の静謐な日常生活の営みを妨害し、身体的被害につながる可能性も否定することができないストレスを与えていること、<2>昭和48年環境基準等で、横田飛行場の周辺地域は、10年を超える期間内に可及的速やかに、類型Iの地域(もっぱら住居の用に供される地域)についてはW値70以下に、類型IIの地域(I以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域)についてはW値75以下とし、中間段階における達成目標として、5年以内に、W値を85未満とし、又はW値が85以上の地域においては屋内で65以下とし、10年以内に、W値を75未満とし、W値が75以上の地域については屋内で60以下とする旨の基準が定められてから現在に至るまで、30年を超える期間が経過していること、<3>横田飛行場周辺地域においては、類型Iの地域についてはW値75以上、類型IIの地域についてはW値80以上の騒音が、受忍限度を超えて違法である旨の判決が、これまでに平成5年(第1、2次訴訟についての最高裁判所判決)及び平成6年(第3次訴訟についての東京高等裁判所判決)の2度にわたり確定していること、<4>W値75以上の区域に居住する原告らが、航空機騒音による睡眠妨害や生活妨害等の深刻な騒音被害を訴えていること(<証拠略>)、<5>欧米諸国において、W値に換算してほぼ70から75の騒音レベルから、住宅建築の制限等の規制がされていることを総合すると、横田飛行場周辺の騒音コンターのW値75以上の地域に居住する原告らが受けている騒音被害は、受忍限度を超えて違法であると認めるのが相当である。
(3) 騒音コンター
ア 横田飛行場周辺の騒音コンターには、昭和52年の調査に基づいて作成され、生活環境整備法4条及び同法施行令8条に基づく防衛施設庁長官の区域指定(告示)の基準とされたもの(告示コンター)に加え、平成10年の調査に基づいて作成された平成10年度コンターがあるところ、平成10年度コンターの作成経緯については、次のとおり認められる。(<証拠略>)
(ア) 防衛施設庁から委託を受けた整備協会は、横田飛行場周辺地域において、昭和52年の調査から約20年が経過したことにより、騒音分布状況に変化があるか否かを確認することを目的として、平成10年5月8日から同年8月31日まで、以下のような騒音調査を行った。
(イ) 現地事前調査
被告が従前から24時間連続測定を実施している自動騒音測定地点13か所(横田飛行場の滑走路の両端及びほぼ延長線上に位置し、告示コンターの区域外1か所、W値75以上80未満の地域4か所、W値80以上85未満の地域3か所、W値85以上90未満の地域3か所、W値90以上の地域2か所である。)を測定地点として選定した上、平成10年5月20日、離着陸訓練等の飛行態様を現地で把握するとともに、測定地点を踏査し、航空機の飛行状況が確認できる場所であるかを判断した。また、選定した測定地点を地図上で確認するとともに、周辺の既存住宅や主要道路等について調査をした。
(ウ) 現地本調査
平成10年5月21日から同月27日までの7日間(午前8時から午後8時まで)にわたり、現地(13か所の測定地点)において実施した。同調査では、航空機の飛行経路を確認(昭和52年度の標準飛行経路等の変更等についての確認等)するとともに、現地において確認した航空機の飛行時刻、機種、飛行経路、飛行態様と自動騒音測定データ(騒音発生毎に、騒音ピークレベルが70dB以上であり、かつ、騒音継続時間が3秒以上のものが記録される。)とを照合し、調査対象の航空機のピーク騒音レベルと継続時間を調査した。
ただし、現地調査の際に、自動騒音測定機に記録された騒音データのうち、75dB(A)以上で継続時間が5秒以上のデータに含まれる航空機以外の騒音の割合が確認できたことから、その割合により、自動騒音測定機に記録された騒音データに含まれる航空機以外と思われるものを除き航空機の騒音として採用することとされた。
(エ) 飛行回数の調査
横田飛行場の滑走路の南北両端に被告が設置している2か所の自動騒音測定機(飛行方向識別機能を有する。)で、平成9年4月1日から平成10年3月31日までに測定した騒音発生回数のデータ(騒音発生毎に、騒音ピークレベルが70dB以上であり、かつ騒音継続時間が3秒以上のものが、方向識別データと共に記録されている。)に基づき、現地調査において観測した機種別、飛行態様別、飛行経路別の割合を適用して、機種別、飛行態様別、飛行経路別の1日の標準飛行回数を決定した。
なお、1日の総標準飛行回数の算出方法は、昭和52年調査の際と同様に、防衛施設庁方式に準拠している。
(オ) W値の算出
上記調査に基づく機種別、飛行態様別、飛行経路別の、ピーク騒音レベル、継続時間、標準飛行回数データに基づき、昭和52年調査の際と同様に、防衛施設庁方式により、各測定地点のW値を算出した。
(カ) コンター図の作成
上記(オ)により算出されたW値に基づき、メッシュ法によって、滑走路の中心を原点として500mメッシュ(編目)ごとに計算処理する方法で、コンター図を作成した。具体的には、昭和50年代から収集してきた現地における航空機の機種ごとの騒音測定データに基づき、音源からの距離に応じた騒音値とその継続時間に関するデータから任意の点における騒音値を予測し、この予測値を計算処理する方法で、千数百か所の地点におけるW値を算出した上、同一のW値の地点を結んで騒音コンターを作成した。(<証拠略>)
さらに、上記の方法で作成したコンター図について、13か所の自動騒音測定機の測定値との整合性を検証した。
(キ) 防衛施設庁は、平成12年6月、これを住宅地図に転記して、新しいコンター図を作成した。(<証拠略>)
(ク) 東京防衛施設局事業部施設対策第三課長は、平成12年7月31日、東京都と埼玉県を含む横田飛行場周辺自治体に対し、「横田飛行場周辺の騒音度調査結果について(情報提供)」と題する書面を添付して、平成10年度コンター図を交付した。上記書面には、平成10年度に横田飛行場周辺の騒音度調査を実施したこと、この結果求められた騒音コンター図を、参考のため情報提供することが記載されている。(<証拠略>)
(ケ) 立川、昭島、武蔵村山、羽村、福生各市長及び瑞穂町長は、平成12年9月1日、東京防衛施設局長に対し、「横田飛行場周辺の騒音度調査結果に基づく第一種区域指定等の見直しについて」と題する書面を提出した。同書面には、平成10年度コンターではW値75以上の地域が大幅に狭まっているところ、この調査結果に基づいて横田飛行場に係る第1種区域等の指定線の見直しが行われた場合、現行の第1種区域の多くの部分が住宅防音工事助成の対象外となることが懸念されるとして、<1>現行の指定区域が縮小されるような指定区域の見直しをしないこと、<2>区域指定線の見直しに当たっては、第1種区域をW値70以上の地域まで拡大することを要望する旨が記載されている。(<証拠略>)
(コ) 防衛施設庁長官による第1種区域(住宅防音工事の助成が必要とされる区域。現在、告示コンターのW値75以上の地域が指定されている。)及び第2種区域(第1種区域のうち建物等の移転の補償等が行われる地域。現在、告示コンターのW値90以上の区域が指定されている。)の指定告示は、昭和59年3月31日以降、変更されていない。
イ 原告らは、平成10年度コンターの問題点として、<1>事前調査がわずか1日であり、測定地点の適不適の調査しかしていないこと、<2>本調査が行われたのが5月のみであること、<3>測定地点が13か所のみであること、<4>標準飛行経路の設定方法が明らかでないこと、<5>常時測定地点の飛行回数のデータの信用性につき疑問があることを挙げ、平成10年度コンターは信頼性を欠くと主張するので、以下検討する。
(ア) 平成10年度コンター作成の前提となった調査(平成10年度調査)では、現地事前調査は1日のみであり、その主な内容は測定地点の適不適の調査であったが(上記原告ら主張<1>)、告示コンター作成の前提となった調査(昭和52年度調査)では、事前調査は3月14日から同月21日まで及び7月8日から同月13日まで行われ、その際、航空機の機種や飛行コース等の様々なデータの収集がされている。(上記認定事実、<証拠略>)
しかし、昭和52年当時は、飛行回数等の充分な資料が得られないので、長期間の実測により機種別、飛行方法別及び時間帯別の飛行回数等の資料を求める必要があったが(<証拠略>)、平成10年度調査では、昭和52年以降のデータの蓄積により、事前調査としては1日を使って測定地点(13か所)が航空機の飛行状況が確認できる場所か否かという観点から適切か否かを判断すれば足りた旨の被告の説明内容に照らすと、事前調査の期間及び内容についての上記の差異は、平成10年度調査の信頼性が昭和52年度調査のそれを下回ると評価すべき根拠とはならないというべきである。
(イ) 平成10年度調査では、現地本調査は5月に7日間行われたのに対し、昭和52年度調査では夏期及び冬期の2回にわたり行われた(上記原告ら主張<2>)。
昭和48年環境基準は、W値の測定については、原則として連続7日間行うことや、測定は屋外で、気象条件も考慮し、航空機騒音を代表すると認められる地点及び時期を選定することを定めるところ、平成10年度調査において現地本調査を5月21日から27日までの7日間実施したことは、上記環境基準の要件を充たしているというべきである。
1年のうち2度にわたり本調査をしなかったことは、調査自体の信用性を否定すべき根拠にはならないし、昭和52年度調査でも、7月18日から同月25日までの本調査に加えてされた2度目の調査(冬期)は、昭和53年2月13日及び同月14日の2日間行われたにすぎず(<証拠略>)、この点を理由として、平成10年度調査の信頼性が昭和52年度調査を下回るということはできない。
(ウ) 昭和52年度調査では、滑走路近傍及び飛行コース直下では原則として500~1000mおき、その他の地域では原則として1~2kmおきに、約150か所の騒音を現地で測定し、測定地域全域の現地測定を行った(<証拠略>)のに対し、平成10年度調査における現地測定地点は13か所のみであった(上記原告ら主張<3>)。
上記の測定地点の数の違いについては、昭和52年度調査では、基礎データの蓄積が無いため、現地で飛行経路、音響データ及び飛行回数を測定し、これらのデータのみに基づいて告示コンターを作成せざるを得なかったため、現地測定地点を多くとる必要があったが、平成10年度調査においては、航空機ごとの基礎騒音データも整ってきたので、航空機から任意の点までの距離によりW値を計算できるようになった旨の被告からの説明に照らし、測定地点を多くとらなかったことが平成10年度調査の信用性を否定すべき根拠となるとはいえない。
なお、告示コンターも、現地測定した約150か所の騒音値は実測に基づくデータを用いたが、その他の地点については、騒音の実測地点の特定データを基に騒音値を推定し、この推定値を計算処理することによりW値を算出して作成されたのであって、予測値計算が利用されている点は平成10年度調査と変わりがない。
(エ) 原告らは、平成10年度調査の標準飛行経路の設定方法が明らかでないと主張する(上記原告ら主張<4>)。
しかし、平成10年度調査でも、7日間にわたって実施した現地本調査において、昭和52年度調査に基づく標準飛行経路等の変更等についての確認をするなどして飛行経路を確認している上、基礎データが無かった昭和52年度調査当時と異なり、昭和52年に調査した標準飛行経路や、他の施設における同機種の飛行経路等を参考にすることができた旨の被告の説明に照らしても、飛行経路の設定に問題があるとはいえない。
そもそも、横田飛行場に離着陸する軍用機の飛行は、通常時の離発着のみならず、訓練時における旋回飛行等、種々の飛行形態があり、その飛行経路についても多少のばらつきがあるから、昭和52年度調査も完全に飛行経路を把握できていたとは必ずしもいえず、平成10年度調査では、ばらつきを考慮して、標準偏差による幅をもって飛行経路の設定をしていること(<証拠略>)に照らしても、平成10年度調査の際の標準飛行経路の設定方法が、昭和52年度調査の際の標準飛行経路の設定方法に劣ると認めるに足りない。
(オ) 原告らは、常時測定地点のデータの信用性につき疑問があると主張する(上記原告ら主張<5>)。
上記のとおり、平成10年度調査では、1日の標準飛行回数を決定するにあたり、13か所の常時測定地点のデータのうち滑走路の両端に位置する2か所の自動騒音測定機で平成9年4月1日から平成10年3月31日までに測定された騒音発生回数が用いられ、また、航空機のピーク騒音レベルと継続時間を決定するにあたり、現地本調査で実際に確認された航空機の飛行時刻、機種、飛行経路、飛行態様との照合に、現地本調査当日の13か所の測定地点の自動騒音測定機のデータが用いられた。
証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、上記の13か所に設置された自動騒音測定機中、滑走路両端に位置する2か所の自動騒音測定機(測定機種NA―34)は、騒音発生毎に、騒音ピークレベルが70dB以上であり、かつ騒音継続時間が3秒以上のものを記録しており、それ以外の場所に設置された自動騒音測定機(測定機種SY―68、NA―33、NA―35)は、騒音発生毎に、騒音ピークレベルが70dB以上であり、かつ騒音継続時間が5秒以上のものを記録していることが認められる。
原告らが指摘するとおり、上記自動騒音測定機で測定されたデータは、例えば、大神会館測定地点(昭島市大神町3―10―5)では、東京都の固定測定地点である大神測定所(昭島市大神町2―5―1)の測定記録と比較して、平成8年度の1日平均が54.6回(<証拠略>)(東京都固定測定地点32回)、平成9年度の1日平均が48.2回(<証拠略>)(東京都固定測定地点31回)であるなど、かなり多いことが認められ、航空機の離着陸以外の騒音も測定対象に含まれていることが推認されるが、測定データが恣意的に操作された形跡や、測定機器の問題は窺われない上、13か所の自動騒音測定機で測定されたデータは、平成10年度コンターの作成にあたっては、滑走路の南北両端の測定地点のデータが飛行回数の算定根拠に用いられたほかは、現地本調査の際に現地で確認された航空機の飛行時刻等を基にピーク騒音レベルと継続時間を調査するのに用いられたのみであること、現地調査の際に確認できた航空機以外の騒音の割合を基に、自動騒音測定機に記録された騒音データから航空機以外のものによると思われる部分を除く処理を施していることを考え併せると、平成10年度の調査の信用性を否定すべき事情とまではいえない。
(カ) 他方、告示コンターは、昭和52年度調査に基づいており、本件の損害賠償請求に係る期間(平成5年~平成16年)の16年以上前の横田飛行場周辺地域の騒音の実態を把握したものである。
騒音被害について見たとおり、その後、平成13年及び平成14年に滑走路の改修工事が実施されて一時的に騒音被害が軽減されたことを除くと、現在に至るまでに横田飛行場周辺地域のW値が大きく変動したと認めるに足りる証拠はないものの、東京都と昭島市の固定測定地点では、昭和62年ころと比較して、一日平均測定回数(全平均、日曜日、夜間)は減少していること、平成5年以降の東京都の固定測定地点のW値が、昭和60年ころと比較して若干低下していること(<証拠略>)、東京都が分布調査を実施している12地点の測定結果に基づく推定W値(ただし、告示コンターや平成10年度コンターが採用しているW値の算定方法(防衛施設庁方式)と異なる算定方法(環境基準方式)に基づく値であり、環境基準方式で算定したW値は、一般的には、防衛施設庁方式で算定したW値を3ないし5程度下回る。)も減少していることに照らすと、昭和52年当時の横田飛行場周辺地域の航空機騒音の実態(W値)に、その後平成5年から平成16年まで変化が無いと考えるのは困難である。
ウ 以上のとおり、平成10年度コンターの作成過程が、告示コンターの作成過程と比較して、特に信頼性に欠けるとはいえないこと、告示コンターは本件損害賠償請求に係る期間(平成5年~平成16年)の16年以上前の騒音調査を前提にして作成されたのに対し、平成10年度コンターは、前記期間のほぼ中間である平成10年に行われた調査に基づいて作成されたことを総合すると、平成10年度コンターの方が、本件損賠償請求に係る期間に原告らが受けた騒音の実態をより正確に反映していると評価できる。
平成10年度コンターによると、告示コンターよりもW値75以上の区域が狭まることが認められるところ、これは、平成5年以降の東京都の固定測定地点のW値が、昭和60年ころと比較して若干低下しているとの前記認定事実に合致する。原告らは、騒音コンターが縮小したといえるためには、ただ単にW値が下がったというだけでは足りず、基地施設の大幅な縮小、基地機能の相当部分が移設されるなどの客観的な変更と、それに伴うW値の格段の減少が必要であると主張するが、本件訴訟において平成5年から平成16年までの騒音の実態を推認する資料として平成10年度コンターを採用することは、同コンターを基準として生活環境整備法に基づく区域指定を行うことに当然につながるわけではないから、原告らの主張は、上記判断を左右しない。
よって、平成10年度コンターを基準として、W値75以上の区域に居住する者は、平成5年4月以降、横田飛行場に離着陸する航空機の騒音により受忍限度を超えた被害を受けてきたと推認するのが相当である。
7 危険への接近
(1) 被告は、原告らのうち、昭和41年1月1日(基準日)までには横田飛行場における騒音が社会問題化していたから、基準日以降に前期前提事実(5)の<1>ないし<8>の類型に該当する態様で転居をした者(別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「危険への接近」「免責の法理」欄に<1>~<8>のいずれかの記載がある者)は、騒音被害の程度を認識した上でこれを容認して転入したということができ、免責の法理としての危険への接近が認められて当該原告の被告に対する慰謝料請求は理由がないというべきであり、上記の類型に該当せず、又は免責の法理としての危険への接近が認められない場合であっても、上記基準日以降に、騒音被害地域であるコンター内で居住を開始した者(別紙2<略>「居住期間一覧表」の「危険への接近」「減額の法理」欄に1以上の数字の記載がある者)は、転入にあたって、騒音被害の危険を認識しており、又は認識しなかったことにつき過失があるから、減額の法理としての危険への接近が認められて損害額の減額事情として考慮されるべきであると主張する。
(2) 被告が主張する免責又は減額の法理としての危険への接近の適用の可否を検討するにあたっては、以下の諸事情を考慮すべきである。
ア 騒音被害に対する積極的な容認の有無
(ア) 原告らが、横田飛行場周辺の騒音コンター内に転入するにあたり、騒音被害を受けることを積極的に容認していた事実を窺わせるべき証拠はない。
(イ) 被告は、X16及びX39は、横田飛行場の航空機騒音によって被害を受けているとして本件訴えを提起した後に横田飛行場周辺地域に転入しているところ、訴え提起時には横田飛行場の航空機騒音によって周辺住民に被害が生じていることを熟知していたことが明らかであるから、その後の横田飛行場周辺地域への転入にあたっては航空機騒音により被害を受けることを容認していたと主張する。
上記原告らの本件損害賠償請求の前提とされている横田飛行場周辺地区での居住期間は、本件訴え提起時よりも後であり(X16は、平成8年4月10日の訴え提起の後である平成11年12月以降、X39は、平成9年2月14日の訴え提起の後である平成11年2月以降)、同原告らがそれより前から横田飛行場周辺地域に居住していた事実を認めるに足りない。
しかし、同原告らの横田飛行場周辺地域の居住地は、いずれも家族が以前から居住していた場所であることが認められ(<証拠略>)、この事実に照らすと、本件訴え提起以前から騒音被害地域に居住していた事実を認められないからといって、同原告らが騒音被害地域に転入するにあたって騒音被害を受けることを積極的に容認していたことが窺われると評価することはできない。
(ウ) 原告らの中には、横田飛行場周辺地域に転入する以前から横田飛行場の航空機騒音等を差止めないし減少させる運動を支援する活動を行っており、その後本件訴訟の原告に加わった弁護士であるX40並びにその家族であるX41、X42、X43、X44及びX45が含まれているところ、証拠(<証拠略>)によれば、これらの原告らがコンター内での居住を開始した経緯等につき、次の事実が認められる。
<1> X40は、昭和46年、所属していた法律事務所に横田基地に関する訴訟提起についての相談が寄せられたのを契機に、横田飛行場の騒音被害の問題を担当することになった。同人は、立川市に居住していたが、夜間飛行及び年末年始と休祭日の飛行停止等をスローガンとして被害地域の住民により昭和47年に結成された「横田基地爆音をなくす会」の活動に参加して多くの時間を被害地域において割いた上、会議が夜遅くまで続くことも多く、通勤が負担になった。同人は、強固な運動体を作るには、住民の努力だけではなく、長期にわたり持続的に地域での活動に参加していく弁護士が必要であり、離れた場所から通いながらではその仕事は不可能であると考え、昭和48年12月、妻であるX43及び長女X46と共に、現住所である<住所略>(W値80以上)に転居した。
<2> X40とX43の二女であるX44、三女であるX45及び四女であるX42は、現住所で生まれた。
<3> X40の義母であるX41は、昭和51年ころ、X40夫婦の育児を助けるために、X40方に転居してきた。
<4> 昭和51年4月以降、数次にわたって横田基地騒音公害訴訟が提起されたが、X40は、平成8年4月に提起された本件の第5次訴訟に至るまでは、原告に加わらず、弁護団の一員として活動した。
<5> X43、X44、X45及びX42は、本件訴訟に先立つ昭和57年7月にも、第3次訴訟の原告として訴えを提起した。
(エ) X40は、騒音被害地に転入してから22年が経過した後に初めて横田基地騒音公害訴訟の原告に加わっていることに照らし、被告に対する訴えを提起する当事者としての立場を取得するためにあえて騒音コンター内に転入したとは認められないし、横田飛行場の航空機騒音等の差止めないし減少を目的とする運動を支援するという目的を有していたことをもって、自らが騒音被害を受けることを積極的に容認していたと評価することはできず、結局、X40が騒音被害を積極的に容認していたと認めることはできないというべきである。
また、X40の妻であるX43及び同人の母であるX41は、X40の決断に従い、家族として共に暮らすために騒音コンター内に転入したのであり、同原告らについても騒音被害を受けることを積極的に容認したといえないことは明らかである。
X40の二女であるX44、三女であるX45、及び四女であるX42は、いずれも出生した時点の居住地が騒音コンター内であり、自らの判断で騒音コンター内に転入したものではない。
イ 原告らの騒音被害の認識
(ア) 騒音コンター外から騒音コンター内へ転入した者について
横田飛行場周辺の騒音被害地域は広大であること、外部から騒音コンター内に転入する者に対する航空機騒音についての情報提供は特に行われていないことに照らすと、航空機騒音被害を受ける騒音コンター内に外部から転入する者にとっては、転入前に、転入先の住所と横田飛行場との位置関係や、騒音の影響を知る資料を入手することは、現実的には極めて困難であるというべきである。被告は、昭和41年1月1日(基準日)ころには、横田飛行場周辺地域での騒音被害が社会問題化していたことを指摘するが、それまで被害地域の外に居住してきた者にとっては、横田飛行場周辺の騒音被害について新聞やテレビ等で一般的な知識を得たとしても、自らの転入先が騒音コンター内であることや、どの程度の騒音を受けるかを認識する契機となるとは必ずしもいえない。また、被告は、一部の原告らがコンター内の公団住宅を購入する際に交付されたパンフレットには、航空機騒音等への言及がある(<証拠略>)と主張するが、このようなパンフレットの騒音への言及は極めて簡単なもので、実際の騒音被害の程度を認識させるに足りるものとは到底いえず、上記判断を左右しない。
自衛隊等の使用する飛行場を離着陸する航空機による騒音は、前記認定のとおり、民間航空機の離着陸の用に供される公共用飛行場と異なり、騒音の程度や頻度に極めてばらつきが多く、飛行場周辺住民は、夜間を含めて予測できない機会に到来する激甚な騒音により、長期間にわたって睡眠や日常生活が妨害される被害を受ける。このような被害は、騒音被害地域での居住を継続することによって深刻さが増す性質のものであり、原告らの中には、転入前に現地に赴いた際に航空機の飛行による騒音を経験した者もいるが、そのような経験があったとしても、そこで生活する際に受ける騒音被害の程度を認識できたとは認められない。
原告らの陳述書(<証拠略>)並びに原審及び当審における原告らの本人尋問の結果によっても、被告が基準日として主張する昭和41年1月1日以降であったか否かにかかわらず、騒音コンター内へ初めて転入した原告らが、転入にあたって、転入先での居住に伴って受ける騒音被害の程度を認識していたとは認められない(例えば、X47、X48、X49、X50、X51、X52、X53、X54、X55、X56、X57、X58、X59、X60、X61、X62、X63、X64、X65、X66、X67、X68、X69、X70、X71、X72、X73、X74、X75、X76、X77、X78、X79、X80、X81、X82、X83、X84、X85、X86、X87、X88、X89、X90、X91、X92、X93、X94については、原判決(145頁初行から157頁5行目まで)認定のとおりである。)。
なお、X40は、転入前に騒音被害地域での活動に長時間を費やしており、騒音についてかなりの知識及び経験を有していたと認められるが、自宅において夜間・早朝や休日を含めた時間に騒音被害を受けることと日中の勤務中に騒音を耳にすることとは大きな違いがあり(<証拠略>)、X40についても、騒音被害の程度及びその影響をコンター内への転入前に認識していたとはいえない。
また、上記の検討に照らすと、被告が基準日として主張する昭和41年1月1日以降に初めて騒音コンター内に転入した原告が、騒音被害の程度を認識していなかったことにつき、過失があったと認めることもできないというべきである。
(イ) 騒音コンター内での居住を経験した後、騒音コンター内ではあるが、元の住所地とは離れた場所での居住を開始した者
被告は、このような転居をした原告については、騒音被害を認識した上で騒音コンター内に住居を定めたのであるから、騒音被害を受けることを容認したというべきであると主張する。
しかし、横田飛行場周辺の騒音被害地域が広大であり、騒音被害についての情報提供が広く行われてはいない以上、騒音コンター内に居住して騒音被害を受けた経験を有するからといって、騒音コンター内の他の土地に転居する際に、転居先での騒音被害の有無及び程度の認識が可能になるとはいえず(騒音コンター内を移動する場合でも、騒音コンター外に転出した後に騒音コンター内に転入する場合でも同様である。)、騒音被害の認識又は容認の有無について、外部から初めて被害地域に転入してきた場合(上記(ア))と区別して考える必要は認められず、被告の上記主張は採用することができない。
原告らの陳述書及び本人尋問の結果(原審原告X48、同X50、同X51、同X72、同X76、同X79、同X91、同X93、同X86等)によっても、騒音コンター内での居住の経験を有する原告らが、居住していた土地とは離れた騒音コンター内の土地に転居する際に、転居後の住所地における騒音の程度及びその影響を認識していたとは認められない。(これらの原告のうち、X48、X49、X50、X51、X52、X68、X72及びX73、X76及びX77、X78及びX79、X86、X90及びX91、X93及びX94についての認定は、原判決(145頁初行から157頁5行目までのうち上記各原告についての記載部分)の認定のとおりである。)。
また、コンター内に居住して騒音被害を受けた経験を有するからといって、その後の転居にあたって、騒音被害の有無を慎重に検討すべき義務があるということはできず、横田飛行場周辺地域の騒音被害の有無及び程度についての被告による情報提供が国民に対して充分に行われているとはいえない現状に照らしても、転居先の騒音被害を認識しなかったことにつき当該原告の過失を認めるのは相当でない。
ウ 原告らの騒音被害からの回避可能性(転居を経てコンター内の元の住所地又はその近接地に戻った者)
騒音コンター内に居住して騒音被害を受けた後、騒音コンター内外への転居を経てまた元の住居地又は近接地に戻った者、又は騒音コンター内に居住して騒音被害を受けていたにもかかわらずその近接地に転居した者については、転居先の住居地の騒音被害の程度を認識していたと認められる。
しかし、いったんある土地に居住すると、そこでの不動産の取得、家族の存在、友人や勤務先等の社会的生活基盤の形成等により、当該地域との結びつきが強まることは明らかであり、子育てに際し親の協力を求めるため(X53等)、実家の親や祖父母との同居(X56、X60、X80等)、子供の通学の便(X54、及びX55、X63及びX64、X88、及びX89等)、住居周辺の友人関係を維持するため(X54及びX55、X65及びX66、X92等)などの理由で、騒音被害の存在を認識しつつも、転居先を元の住所地又はその近接地に定めることは、騒音被害を受けながら被害地域外へ転居せず一定地点での居住を続けている者と本質的に異なるところはなく、やむを得ない行動というべきであって、これにより、被告の損害賠償責任を問うことが妨げられ、又は制限を受けると解することは相当ではない。
エ 被害の重大性
横田飛行場周辺地域に居住する原告らが受けている騒音被害として認められるものは、上記検討のとおり、原告らが共通損害を主張する以上、基本的には精神的苦痛ないし生活妨害のごときものであるといわざるを得ないが、騒音によるストレスは、程度によっては健康被害につながる危険を有する性質のものである。
また、現代社会においては、静謐な生活環境への要求水準がますます高まっているのであり(<証拠略>)、騒音による被害が主として精神的苦痛ないし生活妨害であるからといって、生活の本拠地で日常的に騒音にさらされることによる被害を軽視することはできない。
オ 違法な騒音被害の継続
原告らが受けている航空機騒音の原因である横田飛行場における米軍の航空機の離着陸自体には、大きな公共性が認められるものの、飛行場周辺地域に居住する住民に対してW値75又は80以上の騒音を被らせることが違法である旨の判決が、平成5年(第1、2次訴訟)及び平成6年(第3次訴訟)の2度にわたって確定したにもかかわらず、その後も、違法な水準の航空機騒音が解消されずに現在に至っている(本件訴訟では、平成5年4月11日以降の騒音被害についての損害賠償請求等がされている。)。
カ 国民の生活環境を保全すべき被告の責務
被告は、民事特別法に基づき、横田飛行場の設置又は管理の瑕疵により周辺住民に生じた騒音被害について賠償責任を負うべき立場にあると同時に、国として、憲法25条及び環境基本法(同法施行前は、廃止前の公害対策基本法)に基づき、国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するため、環境の保全に関する基本的かつ総合的な施策を策定、実施する責務を負う。
横田飛行場周辺地域は昭和40年代以降に著しく市街化が進んだが、これには被告の機関による分譲住宅の販売などの住宅政策も重要な要因となっていると認められ(<証拠略>)、上記の責務を負う被告が、騒音被害地域への住宅建設の規制や転入者に対する同地域における騒音被害についての十分な情報提供を行わないばかりか、その機関を通じて住宅の建設をするなど、横田飛行場周辺地域への人口流入をむしろ促すような政策をとっていたにもかかわらず、昭和41年1月1日以降に騒音被害地域に転入した原告らについて、騒音被害を容認又は認識しており、認識していなかったとしても過失があると主張して、そのような原告らに対する被告の損害賠償義務の減免を主張することは、被害防止に関する自らの不作為を原告らに転嫁するに等しく、当を得ない。なお、被告は、地区住民に対して、住宅防音工事の補助事業についての周知徹底を図るべく広報活動を行っていると主張し、これに沿う証拠(<証拠略>)を提出するが、この種の情報提供は、既に騒音被害を受けている者を対象としたものであり、危険への接近の法理の適用の可否の判断には影響を有しない。
(3) 以上のとおり、<1>原告らのうち騒音被害を受けることを積極的に容認する意図を持ってコンター内での居住を開始した者がいるとは認められないこと、<2>コンター内に初めて転入した原告らや、コンター内に居住して騒音被害を受けた経験がありながらその後コンター内の離れた地域に住居を定めた原告らが、転入にあたって、転入先で日常的に被る騒音被害の程度及び影響を認識していたとは認められず、認識を有しなかったことに過失があったともいえないこと、<3>違法と評価される程の騒音による被害を受ける居住地で生活基盤を形成した原告らが、転居を経て元の居住地に戻ることや、近接地に転居することを避けるべき義務を負ういわれはないこと、<4>原告らが受ける騒音被害の深刻性・重大性、<5>本件訴訟で損害賠償請求の対象となっている騒音被害は、平成5年4月以降分であり、それまでに横田飛行場周辺住民が受けている騒音被害が違法な水準に達している旨の司法判断が2度にわたって確定したにもかかわらず、違法状態が解消されないままであること、<6>このような事情の下で、国民を騒音等の被害から守るべき責務を負う立場にある被告が、被害地域に転入した原告らの行動を理由に損害賠償義務の減免を主張することが不当であることを総合考慮すると、衡平の見地に照らし、本件において危険への接近の法理を適用して被告の損害賠償責任を否定又は減額することは、相当でないというべきである。
8 慰謝料額
(1) 前記検討のとおり、本件の騒音被害の受忍限度につき、平成10年度コンターを基準として、W値75以上の区域に居住する原告らは受忍限度を超える騒音被害を受けていると認めるべきであるところ、受忍限度を超える騒音による損害(慰謝料)の額の認定にあたっても、各原告が被っている被害は、その住居の構造、勤務条件や生活状況等により様々であるという点を捨象して、居住地域のW値(平成10年度コンターによる。)が大きければ航空機騒音の被害がより深刻になるという観点から検討すべきである。
(2) 慰謝料額については、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」13(2)(原判決165頁7行目から23行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(3) 減額事由
ア 住宅防音工事の助成
騒音対策につき既に検討したとおり、原告らのうち、被告から住宅防音工事の助成を受けてこれを実施した者及びその同居者については、一定程度騒音被害が軽減されたことは認められ、慰謝料額の算定にあたって斟酌するのが相当である。
しかし、防音工事の効果は本件の騒音被害を根本的に解消するものとは到底いえない上、窓を閉め切って生活することによる不快感や電気料金等の不都合もあることも、前記認定のとおりであり、被告からの助成を受けて住宅防音工事を実施した者及びその同居者は、防音工事を実施した居室の数に関わりなく、慰謝料の額を一律に10%減額するにとどめるのが相当である。
イ 危険への接近の法理
既に検討したとおり、本件においては、危険への接近の法理を理由とする慰謝料の減額を行うことは、相当でない。
(4) 月額慰謝料
以上によれば、各原告が被告から支払を受けるべき慰謝料の月額は、居住地の平成10年度コンターのW値に応じた基準額(W値75以上80未満3000円、W値80以上85未満6000円、W値85以上90未満9000円、W値90以上1万2000円)に、防音工事をしている場合は10%の減額を加えた額となる。
9 将来の損害賠償請求
(1) 原告らの一部は、本件口頭弁論終結の日(別紙1<略>「原告目録」1及び2記載の原告らは平成16年12月8日、同目録3記載の原告らは平成17年1月26日、同目録4記載の原告らは同年3月16日)の翌日以降の損害(この損害の賠償の請求に関する弁護士費用を含む。)についても賠償を求めている。
あらかじめ請求する必要があることを条件として将来の給付の訴えを許容する民事訴訟法135条は、およそ将来に生ずる可能性のある給付請求権のすべてについて前記の要件のもとに将来の給付を認めたものではなく、主として、いわゆる期限付請求権や条件付請求権のように、既に権利発生の基礎をなす事実上及び法律上の関係が存在し、ただ、これに基づく具体的な給付義務の成立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証しうる別の一定の事実の発生にかかっているにすぎず、将来具体的な給付義務が成立したときに改めて訴訟により同請求権成立のすべての要件の存在を立証することを必要としないと考えられるようなものについて、例外として将来の給付の訴えによる請求を可能ならしめたにすぎないものと解される。継続的な違法行為を理由とする損害賠償請求権についても、たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても、それが現在と同様に損害賠償請求権を成立させるか及び賠償すべき損害の範囲いかん等が、流動性をもつ今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができるとともに、その場合における権利の成立要件の具備については当然に債権者においてこれを立証すべく、事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生として捉えてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては、将来の請求権としての適格を有するものとすることはできないと解するのが相当である。(最高裁昭和51年(オ)第395号昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁参照)
(2) 原告らの被告に対する損害賠償請求権は、原告らが受けている横田飛行場の航空機騒音が受忍限度を超えて違法であることを理由として、民事特別法2条に基づいて認められるものであり、航空機騒音が受忍限度を超えて違法性を帯びるか否か及びこれによって原告らが受けるべき損害の程度いかんは、今後、横田飛行場の利用状況、飛行場周辺住民への騒音被害の防止・軽減等のために被告により実施される諸方策の内容及び実施状況、原告らの居住地の変動等の多様な因子によって左右されるべき性質のもので、明確な具体的基準によって賠償されるべき損害の変動状況を把握することは困難であり、このような損害賠償請求権は、それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成立の有無及び内容を判断すべく、かつまた、その成立要件の具備については請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものといわざるをえない。
もっとも、既に認定した口頭弁論終結時までの横田飛行場周辺地域の騒音測定回数やW値の推移等に照らすと、口頭弁論終結後も、本判決の言渡日である平成17年11月30日までの8か月ないし1年間といった短期間については、口頭弁論終結時点に周辺住民が受けていた航空機騒音の程度に取り立てて変化が生じないことが推認され、受忍限度や損害額(慰謝料、弁護士費用)の評価を変更すべき事情も生じないから、終結後の損害の賠償を求めて再び訴えを提起しなければならないことによる原告らの負担にかんがみて、口頭弁論終結時について認められる損害賠償請求権と同内容の損害賠償請求権を認めるべきである。口頭弁論終結後の原告らの居住地の変更といった請求権に影響のある事由は、請求異議の訴えによりその事実を証明して執行を阻止する負担を被告に課しても、格別不当とはいえない。
以上によれば、口頭弁論終結後に生ずべき損害の賠償を求める原告らの請求部分は、口頭弁論終結時点で受忍限度を超える損害を被っていると認められる原告ら(平成10年度コンターのW値75以上の区域に居住する者)については、本判決言渡日である平成17年11月30日までは、口頭弁論終結時と同様の内容の損害賠償請求権を認めるのが相当であるが、その後の損害の賠償を求める部分は、権利保護の要件を欠き、違法であるから却下すべきである。
なお、原告らは、将来の損害の賠償請求につき、種々の終期を設定しているが(主位的請求、予備的請求)、いずれの終期の設定によっても、平成17年12月1日以降の損害についての賠償請求が不適法であるとの上記判断に影響を与えるとはいえない。
10 各原告が被告から支払を受けるべき慰謝料の額
以上の検討によれば、被告は、各原告に対し、民事特別法2条に基づき、判決言渡日(平成17年11月30日)までの横田飛行場の航空機騒音による損害についての慰謝料として、別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「慰謝料合計」欄記載の金員の支払義務を負う(ただし、本件訴訟の原告数が約6000人にも及ぶことにかんがみ、1000円未満の金額を切り捨てて計算することとする。)。
11 弁護士費用
本件訴訟は、原告数が約6000人にものぼる大規模訴訟である上、航空機騒音が周辺住民に与える影響等、専門的な論点をも含み、主張・立証活動に多大な労力を必要とすること、他方、本件訴訟に先立ち、横田飛行場に関する騒音訴訟(第1、2次訴訟、第3次訴訟)に対する司法判断が2度にわたって確定しており、本件訴訟とこれらの訴訟とでは、多くの論点が重複していること、各原告の個別立証と比較して全原告に共通する総論の主張立証に必要な訴訟活動の比重が重いことが窺われることなど、本件に現れた諸事情に照らすと、原告らが本件訴訟の追行のために原告ら代理人弁護士に支払った弁護士費用のうち被告に負担させるべき額としては、慰謝料認容額の7%(1000円未満切捨て)をもって相当であるというべきである(別紙1<略>「原告目録」2から4までに記載の原告らは、当審では弁護士に訴訟追行を委任していないが、当審における訴訟追行の委任の有無によって上記判断を区別するまでの必要は認められない。)。
12 損害認容額
(1) 元金
以上によれば、原告ら(生存被害者)の被告に対する本件の損害賠償請求は、別紙2<略>「居住期間等一覧表」の「損害額合計」欄記載の金額の限度で理由があり、その余は理由がない。
また、別紙2<略>「居住期間等一覧表」記載の「権利承継割合」欄に記載のある原告(被害者承継人)は、横田飛行場周辺地域に居住していたがその後死亡した者(被承継人)の、航空機騒音についての被告に対する損害賠償請求権(「居住期間等一覧表」の「損害額合計」欄記載の金額)を、「権利承継割合」欄記載の割合で承継した(前提事実)から、同表の「承継額」欄記載の金額の被告に対する損害賠償請求権を有する(これについても、1000円未満の金額を切り捨てて計算する。)。
(2) 遅延損害金
各原告は、被告への訴状送達日(第5次訴訟につき平成8年12月18日、第6次訴訟及び第7次訴訟につき平成10年6月3日)までの損害(ただし、1か月を単位とし、1か月に満たない居住期間については請求していない。)については、損害額に対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、それ以後の損害については、各月分の損害額に対する当該月の翌月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めているところ、上記の損害賠償認容額を前提として、原告らの遅延損害金の請求は、理由がある。
13 仮執行の原状回復及び損害賠償
別紙5<略>「仮執行一覧表」記載の「仮執行合計額」欄に記載のある原告らが、原判決の仮執行宣言に基づく仮執行により、平成14年6月27日、同一覧表のとおり、被告から、同欄記載額の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。
以上の検討によれば、上記原告らのうち別紙2「居住期間等一覧表」の「原状回復」欄に記載のある者については、本件損害賠償請求を棄却すべきであるから、仮執行により受領した同欄記載の金員及びこれに対する仮執行の日の後である平成14年6月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息を被告に返還すべきである。
その余の原告らに対する被告の仮執行の原状回復及び損害賠償を命ずる裁判の申立てについては、原告らの損害賠償請求の認容額が仮執行による受領額を上回るから、理由がない。
14 おわりに
国の防衛のために基地を提供する政策が国民大多数の支持に基づくもので、近隣国による軍備の増強等による脅威の下では、現下においてこれを終結する選択肢がないとしても、このことは、当然には、基地の騒音等による被害を近隣住民に堪え忍ばせることを正当化するものではない。いわゆる横田基地の騒音についても、最高裁判所において、受忍限度を超えて違法である旨の判断が示されて久しいにもかかわらず、騒音被害に対する補償のための制度すら未だに設けられず、救済を求めて再度の提訴を余儀なくされた原告がいる事実は、法治国家のありようから見て、異常の事態で、立法府は、適切な国防の維持の観点からも、怠慢の誹りを免れない。
また、本件は、原告数約6000人に及び、当審においては訴訟代理人を選任しない原告が多数に上る。係属することに意義を見出すのであれば、格別、裁判所の判断を求めるのであれば、迅速、かつ適正な判断を可能にする原告の員数についても、念頭に置かれるべきであろう。電子機器の利用と当事者の協力という恵まれた事情の下、情報の大量処理が可能となったものの、本件は、国の存立の基本となる国防に関する論点を含み、中心的な法的論点については、既に最高裁判所の判断が示されていることを考慮すると、住民の提起する訴訟によるまでもないように、国による適切な措置が講じられるべき時期を迎えているのではあるまいか。
第4結論
以上のとおりであるから、原告らの<1>航空機飛行差止請求及び外交交渉義務確認請求をいずれも棄却し、<2>本判決言渡日の翌日以降に生ずべき損害の賠償請求に係る訴えを却下し、<3>本判決言渡日までの損害賠償請求を、本判決主文第1項(3)及び(4)の限度で認容し、<4>その余の損害賠償請求をいずれも棄却することとし(ただし、当審において控訴人としての立場のみを有する原告らの訴えのうち原審において却下された部分(原審口頭弁論終結日の翌日以降に生ずべき慰謝料等損害金の支払請求に係る訴え)中、請求を棄却すべき部分については、不利益変更禁止原則に従い、却下判決を維持するにとどめる。)、被告の仮執行の原状回復を命ずる裁判の申立てを、一部の原告に係る分つき認容し、その余をいずれも棄却することとする。
本判決のうち、損害賠償請求を認容した部分については、仮執行の宣言を付するのが相当であり、仮執行免脱の宣言は相当でないので付さない。ただし、仮執行の宣言の執行開始時期については、本判決が被告に送達された日から14日を経過したときと定めるのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 江見弘武 橋本昇二 市川多美子)
別紙目録
1 原告目録<略>
1 当審で代理人を選任している原告ら
2 当審で代理人を選任していない原告らのうち、平成16年12月8日に終結した者
3 当審で代理人を選任していない原告らのうち、平成17年1月26日に終結した者
4 当審で代理人を選任していない原告らのうち、平成17年3月16日に終結した者
2 居住期間等一覧表<略>
3 飛行差止及び交渉義務確認請求原告<略>
4 控訴の趣旨(慰謝料等損害金請求)<略>
5 仮執行一覧表<略>
6 原告らが当審において追加補足した主張<略>
7 被告が当審において追加補足した主張<略>
8 別表1~13<略>
9 横田飛行場周辺対策事業総括表<略>
10 原告らの住民票等上の表記一覧表<略>