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東京高等裁判所 平成14年(ネ)4790号 判決 2003年5月29日

控訴人(原告)

茨城県

同代表者知事

橋本昌

同訴訟代理人弁護士

二宮嘉秀

伴義聖

同指定代理人

信田好則

関正史

吉田勝彦

小又眞澄

鈴木誠

石井秀雄

形川憲二

堤谷聡嗣

被控訴人(被告)

株式会社Y1

同代表者代表清算人

Y2

被控訴人(被告)

Y3

Y2

Y4

上記4名訴訟代理人弁護士

保田雄Y2

主文

1  原判決中、被控訴人らに関する部分を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人に対し、各自1億9507万3935円、並びにこれに対する被控訴人株式会社Y1及び被控訴人Y3については平成11年10月2日から、披控訴人Y2については同年9月27日から、被控訴人Y4については同年11月12日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第1、2審を通じ、全部被控訴人らの負担とする。

4  この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第4 当裁判所の判断

1  当裁判所は、被控訴人らに対する控訴人の請求はいずれも理由があると判断するものであり、その理由は、以下のとおりである。

2  不法行為の成否

(1)  前記の前提事実に、〔証拠略〕を総合すれば、以下の事実が認められる。

ア  本件土地は、地目は山林であるが、控訴人が本件土地を買収した平成元年8月から平成2年2月当時、畑としてゴボウ等が作付けされていた(〔証拠略〕)。

平成元年から2年当時の本件土地及びこれに隣接する本件賃借地の状況は、次のとおりである。

<1> 昭和63年1月13日撮影の航空写真(〔証拠略〕)によると、本件土地は畑の状態であり、本件賃借地は、相当数の樹木がある平地であった。

<2> 平成元年9月10日及び同年12月31日撮影の各航空写真(〔証拠略〕)によると、本件土地はきれいな畑であるが、本件賃借地上には、さほど量は多くないものの廃棄物が山積みされている。また、両土地の境には依然として樹木が多数植わっていた。

<3> 平成2年11月5日撮影の航空写真(〔証拠略〕)では、本件土地上には、何らかの車両が通過したことを窺わせる帯状の痕跡があり、他方、本件賃借地上には、相当量の廃棄物が山積みされており、北村証言によると、同廃棄物は、電気冷蔵庫等の電化製品であった。

しかしながら、上記買収当時、本件土地及び本件賃借地に廃棄物が埋設されていた形跡はなかった。

イ  次に、平成4年から平成5年までの本件土地及び本件賃借地の状況は、以下のとおりである。

<4> 平成4年8月29日撮影の写真(〔証拠略〕)によると、本件土地は、雑草の生い茂った荒れ地となっており、中央部の一部が土盛りされていること、一方、本件賃借地には電化製品のような廃棄物が放置されているが、本件土地との境には樹木やトタン塀のような仕切があり、少なくとも 本件土地とは区切られていた。

<5> 同年12月12日撮影の航空写真(〔証拠略〕)によると、上記同様、本件土地の中央部の一部に土盛りした様子が見える一方、本件賃借地には、何らかの廃棄物が地上に放置され、重機も写っている。

<6> 平成5年10月27日撮影の航空写真(〔証拠略〕)によると、不鮮明ではあるが、本件土地の状況は、上記<5>の状態と大きな変化はない。

ウ  被控訴人会社は、平成2年10月23日、一般廃棄物及び産業廃棄物の処理・収集・運搬等を目的として、被控訴人Y3が設立した会社であり、当初は、控訴人の行う本件事業における第3調整池予定地(控訴人の主張する7号箇所)で土砂の販売等の営業を行っていたが、平成4年9月、控訴人から立ち退きを求められたので、容易にこれに応じる姿勢は見せなかったものの、7号箇所以外の場所をも確保することとし、平成5年終わり頃、本件賃借地を賃借したほか、そのころには5号箇所においても作業をするようになった(〔証拠略〕)。

エ  被控訴人らにおいて、被控訴人会社が本件賃借地の使用を開始したことを認める平成6年1月1日以降の本件土地及び本件賃借地の状況は、次のとおりである。

なお、被控訴人会社が本件賃借地を賃借する直前に、被控訴人Y3が同土地を下見に行ったときは、前記のような同土地上の廃棄物はなくなっていた(〔証拠略〕)。

<7> 平成6年5月26日、本件事業に係る控訴人の職員は、本件土地を含む本件事業区域全域について廃棄物の投棄状況等の調査に赴き、本件土地と本件賃借地のいずれかの土地上に、残土がほぼ2つに大きく山積みされ、付近に重機が往来した跡があったことを見つけたが、土が掘り返されたような形跡はなかった(〔証拠略〕)。

<8> 次いで、同年6月14日、控訴人の前記職員が本件土地と本件賃借地を調査したところ、被控訴人会社の重機が土砂の搬入、搬出を繰り返していることが判明したが、当時、職員は、本件土地と本件賃借地の境界を判然と認識していたわけではなかったので、被控訴人会社の従業員に対し格別注意はしなかった(〔証拠略〕)。

<9> 同年7月21日撮影の写真(〔証拠略〕)及び同年8月3日撮影の航空写真(〔証拠略〕)によると、同時期には、本件土地と本件賃借地の境界が不明確となり、被控訴人会社の作業範囲は本件賃借地の範囲を超えて本件土地に及び、バックホウも3台出て、大がかりな作業をしていることが分かる。

<10> 同年8月11日ころ、地元の地権者から苦情が出ているとして、マスコミから取材を受けた控訴人の職員は、同月12日、被控訴人Y3に対し、電話で事実関係を確認し、同被控訴人から、本件土地及び本件賃借地に土砂を仮置きして、別の置き場に搬入しているが、本件土地の土砂は同月15、16日までに撤去する旨の回答を受けた(〔証拠略〕)。

しかし、同年8月18日、上記職員が本件土地に赴いた際には、いまだ土砂が堆積されたままであり、堆積量はかえって増加していた(〔証拠略〕)。その後秋になっても、被控訴人会社は、本件土地を退去しなかった(〔証換略〕)。

<11> 同年11月2日撮影の航空写真(〔証拠略〕)、並びに同年12月15日、同月29日及び平成7年1月11日撮影の各航空写真(〔証拠略〕)においても、本件土地及び本件賃借地を一体として、大規模な作業が行われていた。

<12> 平成7年3月8日、ようやく控訴人は、被控訴人会社との間に、本件土地と本件賃借地に係る4号箇所及び5号箇所に存する土砂等の物件を、同月31日までに撤去する旨の覚書(〔証拠略〕)、並びに7号箇所に係る被控訴人会社の土砂を控訴人が買い取ること等を含む補償契約書(〔証拠略〕)を締結した。

しかし、その後も、被控訴人Y3は、同月16日、控訴人に電話し、本件土地の土砂はダンプ1300台分あり、21日までに運搬するが、多少残るかもしれないので、残したままでよいかとの打診をしてきたため、控訴人の職員は、約束の期限までに全部撤去するよう伝えた(〔証拠略〕)。

しかし、結局、被控訴人会社が同月31日までに上記の撤去をしなかったため、控訴人は、同年4月10日、撤去未了の土砂を被控訴人会社が放棄し、これを控訴人が引き継ぐことで、ようやく被控訴人会社から本件土地の明渡しを受けるに至った(〔証拠略〕)。

<13> その後平成8年10月、控訴人のボーリング調査により、本件土地に、控訴人主張のとおりの大量の本件廃棄物が埋設されていることが判明した(〔証拠略〕)。

以上のとおり認められ、上記認定に反する〔証拠略〕及び被控訴人Y3の原審における供述は採用できない。

また、この点に関し、被控訴人らは、5号箇所は使用していない旨、また、前記〔証拠略〕は、7号箇所の撤去に関する覚書であると思って調印した旨主張するが、同号証の別表には、本件賃借地のほか、5号箇所に関する土地の地番が記載されていること、並びに前記の事実経過に照らし、同主張も採用することができない。

(2)  上記認定事実によれば、被控訴人会社が本件賃借地を使用するようになった時期が、被控訴人ら主張のとおり、平成6年1月1日以降であることを前提としても、同日以前の本件土地及び本件賃借地の状況については、<1>本件土地は畑もしくは荒れ地であり、中央部の一部に土盛りがみられる時期はあったものの、同土盛りはさほど大きなものではなく(〔証拠略〕)、その後の被控訴人会社による本件賃借地使用後にみられる大規模な土砂の山積みの状況とは明らかに異なること、<2>本件土地上に何らかの車両が通過したことを窺わせる帯状の痕跡がみられることもあったが、同痕跡は耕作のためのものともみられ、これも本件廃棄物の投棄・埋設とは結びつかないこと、<3>本件土地と本件賃借地には明確な境を示す樹木やトタン塀があったこと、<4>一方、本件賃借地上には電化製品等の廃棄物が放置されていた時期があったが、被控訴人Y3が同土地を賃借する直前には、同廃棄物がないことを同被控訴人が確認していたこと、以上の諸事実が認められるのに対し、被控訴人会社が本件賃借地の使用を開始した後の本件土地及び本件賃借地の状況は、両土地の境界が不明となり、かつ両土地にまたがって、被控訴人会社による大規模な土砂の山積みと土砂の搬入・搬出等の作業が行われていたことが認められるのであって、その後被控訴人会社が両土地を明け渡すまでの前記事情にも照らすと、本件土地に本件廃棄物を投棄・埋設したのは被控訴人会社以外の者ではあり得ず、本件廃棄物は、被控訴人会社が本件土地及び本件賃借地を使用している間に、被控訴人会社の事業として同被控訴人によって不法に投棄・埋設されたものと認めるほかはない。

3  被控訴人らの責任

〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によると、被控訴人会社は実質上、被控訴人Y3のワンマン会社であり、前記認定の事実関係に照らし、本件廃棄物の投棄・埋設に関する被控訴人会社の作業については、被控訴人Y3が、被控訴人会社の当時の代表者として行ったことが認められるから、被控訴人Y3は民法709条により、また、被控訴人会社は商法261条3項、78条2項、民法44条1項により、それぞれ不法行為責任を負うべきことは明らかである。

この点に関し、被控訴人らは、被控訴人会社の運営をAに一任していた旨主張し、原審における被控訴人Y3本人の供述中には同旨の供述部分もあるが、同供述部分は、前認定の事実経過に照らし信用できないし、仮に、被控訴人Y3が事業の現場をAに任せていた事実があったとしても、これにより当時の代表者としての上記責任を免れるものではないから、この点に関する被控訴人らの主張も採用の限りでない。

次に、被控訴人Y2及び同Y4がいずれも被控訴人会社の取締役であること、並びに被控訴人Y2が平成6年12月26日代表取締役に就任したことは、被控訴人らにおいても明らかに争わないところ、上記各証拠によると、被控訴人Y2及び同Y4は被控訴人Y3の子であり、被控訴人Y2は被控訴人会社に勤務したことはあるが、被控訴人Y4は勤務したこともないことが認められるものの、同被控訴人らは、いずれも被控訴人会社の取締役として、被控訴人会社及び被控訴人Y3の上記の違法な行為を未然に防止し、あるいは違法な行為を継続しないように監視すべき注意義務があるというべきであり、本件において同注意義務を尽くすことなく、漫然とこれを放置した被控訴人Y2及び同Y4については、商法266条の3第1項により、不法行為責任が認められるべきものといわざるを得ない(最高裁判所昭和44年11月26日大法廷判決・民集23巻11号2150頁、同昭和48年5月22日第三小法廷判決・民集27巻5号655頁参照)。

被控訴人らは、被控訴人Y2は取締役の名義を貸しただけであると主張するところ、〔証拠略〕に照らすと、同主張は、被控訴人Y4に関する主張の誤りであると思われるが、そのような事実があったとしても、取締役としての責任を免れないとの判断を左右しないことは、上記判例の趣旨から明らかである。

4  損害

〔証拠略〕、並びに当審提出の〔証拠略〕によれば、控訴人は、平成13年3月から6月にかけて、本件土地及び本件賃借地から本件廃棄物を撤去して処理したが、処理土量は、本件土地が2万3416.55立方メートル、本件賃借地が1万1867.45立方メートルであり、処理に要した費用は総額2億9393万7000円(消費税を含む。)であって、本件土地に係る分を案分計算すると、本件土地に関する処理費用は1億9507万3935円であることが認められ、他に反証はない。

したがって、控訴人は、本件土地について上記費用相当額の損害を被ったと認められる。

第5 結論

以上によれば、被控訴人らに対し、上記の損害金と、これに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人の請求は、全部理由があることに帰するから、これを棄却した原判決は、不当であって、取消しを免れない。

よって、原判決中、被控訴人らに関する部分を取り消し、被控訴人らに対する控訴人の請求をいずれも認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石垣君雄 裁判官 大和陽一郎 長久保尚善)

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