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東京高等裁判所 平成14年(ネ)677号 判決 2002年8月30日

控訴人(被告) 株式会社ザ・クラブ・シェイクスピア・サッポロ

代表者代表取締役 A

控訴人(被告) 株式会社ケー・ケー

代表者代表取締役 A

控訴人(被告) 株式会社レンタピア

代表者代表取締役 B

上記3名訴訟代理人弁護士 亀井美智子

被控訴人(原告) X

訴訟代理人弁護士 深井麻里

主文

1  控訴人株式会社ザ・クラブ・シェイクスピア・サッポロの控訴を棄却する。

2  原判決中、控訴人株式会社ケー・ケー及び同株式会社レンタピアの敗訴部分をいずれも取り消す。

3  前項の控訴人株式会社ケー・ケー及び同株式会社レンタピアの敗訴部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを3分し、その1を控訴人株式会社ザ・クラブ・シェイクスピア・サッポロの、その2を被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決中、控訴人ら敗訴部分をいずれも取り消す。

(2)  前項の控訴人ら敗訴部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。

2  被控訴人

控訴人らの控訴をいずれも棄却する。

第2事案の概要

1  本件は、被控訴人が、控訴人株式会社ザ・クラブ・シェイクスピア・サッポロ(以下「控訴人シェイクスピア」という。)及び同株式会社ケー・ケー(以下「控訴人ケー・ケー」という。)に対し、据置期間を経過したとして、ゴルフクラブの入会契約の際に預託した正会員資格保証金の償還を求めるとともに、控訴人株式会社レンタピア(以下「控訴人レンタピア」という。)に対しては、控訴人シェイクスピアからゴルフクラブの経営の委託を受けてこれに当たっていることに関し、商法26条1項の準用ないし類推適用に基づく責任を負うべきであるなどとして、控訴人らに連帯して上記保証金を償還すべきことを求めた事案である。

2  当事者の主張は、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」欄に記載のとおりである。

3  本件の前提となる事実等は次のとおりである(当事者間に争いのない事実及び末尾掲記の証拠により認定した事実)。

(1)  控訴人シェイクスピア(旧商号は、株式会社北海道クラシック・リゾートであり、平成3年3月9日、現商号に変更した。)は、各種スポーツ施設、娯楽施設の経営及び貸付等を業とする会社である(甲1)。

控訴人ケー・ケー(変更前の商号は、小林企業株式会社であり、平成13年6月21日、現商号に変更した。)は、経済事情の受託調査、保険、自動車販売等を業とする会社であり、上記両会社の代表取締役はいずれもAである(乙12)。

(2)  被控訴人は、平成元年8月下旬、控訴人シェイクスピア(当時の商号は、上記のとおり株式会社北海道クラシック・リゾートである。)との間で、クラブ・シェイクスピア・サッポロゴルフコース(当時の名称は、ノースポイント・ゴルフ倶楽部である。以下「本件ゴルフクラブ」という。)の入会契約を締結し(以下「本件入会契約」という。)、平成元年8月25日、個人正会員資格保証金800万円を10年間据置きの後、請求により返還する旨の約定で預託し(以下「本件預託金」という。)、預り証(以下「本件預り証」という。甲2)の発行を受けた。

本件預り証は、昭和63年10月31日付けで、控訴人ケー・ケー及び同シェイクスピアの各社名(ただし、控訴人ケー・ケー及び同シェイクスピアについては、いずれも当時の商号である「小林企業株式会社」及び「株式会社北海道クラシック・リゾート」)が印字され、社判及び代表者印が押捺されており、「本証書は発行の日より10カ年据置、無利息です。その後御請求により御返金致します。」との記載がある。

(3)  被控訴人の会員資格申請書裏面に記載された本件ゴルフクラブの会則(以下「本件会則」という。乙1)には次の規定がある。

2条「(目的)本倶楽部は小林企業株式会社並びに株式会社北海道クラシック・リゾート(以下会社という)が所有し、且つ経営するゴルフ場及びその付属施設を利用して、ゴルフの普及発展と会員相互の親睦、健康の増進を図り、明朗健全な社交機関たることを目的とする。」

7条「(入会金及び保証金)1項・入会者は会社所定の入会金を会社へ納め、保証金を会社に預託する事を要する。入会金はいかなる場合であってもこれを返還しないものとする。2項・保証金は、当倶楽部が、正式開場した後、満10年間据置き、その後退会の際、請求により会社取締役会又は本倶楽部理事会の承認を得て返還する。但し天災地変その他、不可抗力の事由が発生した場合は、会社取締役会又は本倶楽部理事会の決議により据置期間を延長する事ができる。」

19条「(総会)会員総会は理事会において必要と認める場合に開き、理事長がこれを招集し議長となる。」

なお、乙7の「ノースポイントゴルフ倶楽部会則」によれば、上記2条は、「(目的)本倶楽部は株式会社北海道クラシック・リゾート(以下「会社」という)並びに小林企業株式会社が所有し、且つ経営するゴルフ場及びその付属施設を利用して、ゴルフの普及発展と会員相互の親睦、健康の増進を図り、明朗健全な社交機関たることを目的とする。」)という内容になっている。

(4)  本件ゴルフクラブは、平成3年6月20日、正式開場した。

(5)  控訴人レンタピアは、平成11年11月25日、預託金償還をめぐる問題点の解決のための方策の1つとして、本件ゴルフクラブ理事会で会員の意向に沿ったクラブ運営の実現のため、会員が過半数の株式を保有する運営管理会社の設立が決議されたことに従って設立されたゴルフ場の経営等を業とする会社であり、会員が51%の株式を保有し、役員の大半を会員が占めている。

控訴人シェイクスピアは、同レンタピアに対し、平成12年4月21日、次のとおり定めて、本件ゴルフクラブの経営を同レンタピアに委託するとともに(以下「本件経営委託契約」という。)、会員に対する預託金(会員資格保証金)返還債務の保証委託をした(以下「本件保証委託契約」という。)(乙27)。

1条「(経営委任)控訴人シェイクスピアは、同レンタピアに、平成12年4月1日から3年間本件ゴルフクラブの営業を委任する。」

4条「(経営の報酬)控訴人シェイクスピアは、同レンタピアに、毎月の総売上額の85%相当の金員を、本件営業の報酬として支払う。但し、その額が3000万円を下回るときは、3000万円をもって営業の報酬とする。」、「上記報酬の支払は、上記により算出される報酬額を当月の売上金から差し引く方法による。」

6条「(包括的保証委託契約)控訴人シェイクスピアは、同レンタピアに対し、同シェイクスピアが本件ゴルフクラブに入会した会員に対して負担する会員資格保証金返還債務を、経営委任期間中、会員に立替返済することを委託し、控訴人レンタピアはこれを承諾した。」

8条「(具体的保証委託契約)控訴人レンタピアは、同シェイクスピアから会員を指定して保証委託請求があったときは、請求の日から2週間以内に、同シェイクスピアに代わって、その会員に対し、会員資格保証金を返還する。」

(6)  本件ゴルフクラブの理事会は、平成11年10月4日、会員の代表15名からなる会員権問題対策委員会の答申に基づき、上記(3)の本件会則7条2項ただし書きについて、「天災地変その他、不可抗力の事由が発生した場合」に加え、新たに「保証金の返済を承認することにより倶楽部運営が経済上困難となって、全会員に対する平等な取扱が不可能となり、会員のプレー権が保護されないおそれある場合」を規定するとともに(以下「本件会則変更」という。)、これに基づき会員資格保証金の償還据置期間を平成13年6月20日から10年間延長する旨の決議を行い(以下「本件理事会決議」という。)、会員総会は、平成12年12月15日、同理事会決議を承認した(以下「本件総会決議」といい、本件理事会決議と併せて「本件延長決議」ともいう。)。

(7)  被控訴人は、控訴人シェイクスピア及び同ケー・ケーに対し、本件訴訟の訴状の送達をもって(控訴人シェイクスピアに対しては平成13年5月19日、同ケー・ケーに対しては平成13年5月18日)、本件預託金の返還を請求するとともに、本件ゴルフクラブから退会する旨の意思表示を行った。

4  本件の争点は、(1) 控訴人ケー・ケーは、本件預託金返還義務を負うか否か(争点(1))、(2)本件預託金の据置期間の起算日はいつか(争点(2))、(3) 本件延長決議は有効か無効か(争点(3))、(4) 控訴人レンタピアは、商法26条1項により本件預託金返還義務を負うか否か(争点(4))の各点にある。

5  原審は、(1) 争点(1)につき、控訴人ケー・ケーは、被控訴人に対して控訴人シェイクスピアと共に本件ゴルフクラブへの入会を勧誘、本件預託金の預託を勧奨し、預託された預託金につきその返還を約したものであり、経営本件預託金返還義務を負う、(2) 争点(2)につき、本件預託金の据置期間の起算日は、本件ゴルフクラブの正式開場日である平成3年6月20日である、(3) 本件延長決議は無効であり、被控訴人は、本件ゴルフクラブの正式開場日である平成3年6月20日から10年間経過後である平成13年6月21日から本件預託金返還を請求することができる、(4) 本件においては、本件ゴルフクラブの経営名義は控訴人シェイクスピアに残されているが、その営業は実質的に控訴人レンタピアに移転されたと同視し得る状態にあり、このような場合には、商法26条1項の趣旨を類推して上記営業の譲受人である控訴人レンタピアは譲渡人の控訴人シェイクスピアと共に本件預託金返還義務を負う、と認定判断した上、控訴人ら主張の相殺の抗弁を認めて、結局、被控訴人の控訴人らに対する請求のうち一部を認容し、その余を棄却した。

控訴人らは、原判決には、事実誤認等があるとして上記敗訴部分の取消しを求めて本件控訴を提起した。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は、本件控訴に係る原審により認容された被控訴人の控訴人らに対する請求のうち、① 控訴人シェイクスピアに対して773万9000円及びこれに対する平成13年6月21日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが、② その余の控訴人ケー・ケー及び同レンタピアに対して上記同金員を控訴人シェイクスピアと連帯支払を求める部分は、いずれも理由がないと判断する。その理由は、次の付加訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」欄に記載のとおりである。

2  原判決9頁16行目から11頁13行目までを次のとおり改める。

「 被控訴人は、控訴人シェイクスピアと共に同ケー・ケーとの間で、本件会員契約を締結し、両社に対し、本件預託金を預託したのであり、仮に、被控訴人と控訴人ケー・ケーとの間で、本件会員契約が締結されていないとしても、本件会則や本件預り証の記載からすると、控訴人ケー・ケーは、被控訴人に対し、控訴人シェイクスピアの本件預託金返還債務について保証する旨約したと主張する。

そこで検討するに、前記第2・(3)の本件の前提となる事実に証拠(<証拠省略>)及び本件弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  控訴人ケー・ケーは、タクシー、不動産及びコンピュータ関連事業等の企業から構成される小林企業グループ30数社を統括する会社であり、控訴人シェイクスピアも同グループの一員である。

(2)  控訴人ケー・ケーは、本件ゴルフクラブのクラブ施設であるゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を所有し、同ゴルフ場の開発及び建設をし、これらを同シェイクスピアに賃貸し、同シェイクスピアが本件ゴルフクラブを経営している。

(3)  本件ゴルフクラブの入会募集のために作成された会員募集用パンフレット(乙10)には「ノースポイントゴルフ倶楽部創設にあたって」と題する控訴人ケー・ケーの代表取締役社長であるA名義の文章が掲載され、同3頁には、「事業の目的」と題する「小林企業グループ」名の文書が、また同4頁及び同5頁には、「事業理念とコンセプト」と題する「小林企業グループ・株式会社北海道クラシック・リゾート」名の文書が掲載されているほか、同20頁のコース概要欄には、事業主体は控訴人ケー・ケーの旧商号である小林企業株式会社が、ゴルフ場経営主体は控訴人シェイクスピアの旧商号である株式会社北海道クラシック・リゾートと記載されている。

(4)  昭和63年に作成された本件会則には、2条は目的について「本倶楽部は小林企業株式会社並びに株式会社北海道クラシック・リゾート(以下会社という)が所有し、且つ経営するゴルフ場及びその付属施設を利用して、ゴルフの普及発展と会員相互の親睦、健康の増進を図り、明朗健全な社交機関たることを目的とする。」と規定し、7条は入会金及び保証金について、「入会者は会社所定の入会金を会社へ納め、保証金を会社に預託する事を要する。入会金はいかなる場合であってもこれを返還しないものとする(1項)。」と規定されていた。なお、その後、上記会則2条は、「本倶楽部は株式会社北海道クラシック・リゾート(以下会社という)並びに小林企業株式会社が所有し、且つ経営するゴルフ場及びその付属施設を利用して、ゴルフの普及発展と会員相互の親睦、健康の増進を図り、明朗健全な社交機関たることを目的とする。」と改められた。

(5)  本件ゴルフクラブの入会希望者は、控訴人シェイクスピアが交付した保証金納付の案内状に従って所定の保証金を控訴人シェイクスピアの口座に送金し、送金後、控訴人シェイクスピア名義の領収書及び入会の礼状等が送付されてきた。

(6)  平成3年6月20日に本件ゴルフクラブのゴルフ場が正式開場した際、控訴人シェイクスピアから同控訴人名義の会員証が送付され、本件ゴルフクラブの会員は、年会費を同控訴人の口座に送金して納付した。

以上のとおり認められる。

前記第2の3にみた本件前提事実並びに上記認定事実によれば、控訴人ケー・ケーは、いわば小林企業グループの統括的役割を果たす株式会社であり、その傘下に30数社の企業を収めて経済活動をしていると認められるところ、同社自体は、本件ゴルフ場の所有者であるが、その施設全体を利用して行う本件ゴルフクラブ経営自体は、その傘下にある別個独立の法人として設立された株式会社である控訴人シェイクスピアが日常的に独自にその運営を遂行しているものと認めるのが相当である。

そして、控訴人シェイクスピアだけが本件ゴルフクラブの経営を行っていたことからすれば、上記(4)の昭和63年作成の本件会則の2条所定の「会社」とは控訴人シェイクスピアを示すものであり(改正後の本件会則は、このことを明確にしたものと認められる。)、本件会則7条1項により入会資格保証金は、控訴人シェイクスピアに預託することとされ、現に、本件ゴルフクラブの預託金の受入れ等は控訴人シェイクスピアにおいて行っていたのであるから、控訴人シェイクスピアが本件ゴルフクラブへの入会契約の契約当事者として行動し、各種書面にもその旨表示されていたものと認められる。

なお、この点につき、① 会員資格申請書(乙1)裏面の本件会則に、「本倶楽部は小林企業株式会社並びに株式会社北海道クラシック・リゾート(以下「会社」という)が所有し、且つ経営するゴルフ場及びその付属施設」との記載がされていたこと、② 本件預り証にも、本件預託金について「ご請求により返金致します」との記載の下に、控訴人シェイクスピアと共に同ケー・ケー(小林企業株式会社)の名前が記載され、両社の社判及び代表者印がそれぞれ押捺されており、両社連名での会員に対する預託金償還期限の延長等の要請及びこれに関連する事項や返済方法等の対処方針を説明する内容の文書が多数発送されていたこと、③ 平成11年及び平成12年に会員に送付された、本件理事会決議の決議書(乙18の3)には、据置期間の延長に関し控訴人ケー・ケーの案を了承する旨の記載や、会員権問題対策委員会で検討した会員からの質問に対する回答として、「預託金の償還の責任は、すべて(株)ザ・クラブ・シェイクスピア・サッポロ及び小林企業株式会社にあります。両者は、今後も預託金の償還の責任を自覚して、ゴルフ場の所有者として適切な対処をし、またゴルフ会員権の市場の動向を勘案して、その責任を果たせるよう誠意を尽くしたいと考えます。」との記載があることが認められるが、正式な本件ゴルフクラブの会員資格申請書(乙1)や入会申込書(乙2)には、控訴人ケー・ケーの名が記載されておらず、また、預託金を控訴人ケー・ケーにおいて預託契約の当事者となって受け取った事実はないのである。上記のような二つの会社名を併記したような文書の作成・配布等は、これを一見する者のうちには誤解を招く者がいないとはいえなくもなく、企業として慎むべき面がないとはいえないとしても、こうした事実だけをもって直ちに控訴人ケー・ケーが控訴人シェイクスピアと共に本件ゴルフクラブの入会契約の当事者であると認め、契約者責任を負うべきとすることまではできないというほかない。

以上によれば、被控訴人の本件ゴルフクラブの入会契約は、被控訴人と控訴人シェイクスピアとの間で締結されたものと認めるべきである。

被控訴人は、控訴人ケー・ケーは、被控訴人に対し、控訴人シェイクスピアの本件預託金返還債務について保証する旨約したと解すべきであるとも主張する。しかし、上記のとおり、会員資格申請書裏面の本件会則、本件預り証、会員に対する預託金償還期限の延長等の要請及びこれに関連する事項や返済方法等の対処方針を説明する内容の文書、対策委員会で検討した会員からの質問に対する回答書等に控訴人ケー・ケーの名前が同シェイクスピアと連名で記載され、両社の社判及び代表者印がそれぞれ押捺されているが、これらの記載文言をもって、控訴人ケー・ケー及び同シェイクスピアの両社が本件ゴルフクラブの経営に当たり、本件ゴルフクラブの入会契約の当事者であるとか、控訴人ケー・ケーが本件預託金償還の責任を負うことを前提とするものと解することはできないのであって、これらは、要するに控訴人ケー・ケーが同シェイクスピアの統括的役割を果たす株式会社として上記記載をし、名を併記したものと推察されるのであって、この文面だけを一見して誤解する者がないとも断言できない面があるが、この文言記載をもって控訴人ケー・ケー自身が会員各人に対して控訴人シェイクスピアと共に同預託金を返還したり、その保証債務を負担することを鮮明にしたものとまでは認め難いのである。また、平成11年及び平成12年に会員に送付された、本件理事会決議の決議書(乙18の3)に、据置期間の延長に関し控訴人ケー・ケーの案を了承する旨、対策委員会で検討した会員からの質問に対する回答として、「預託金の償還の責任は、すべて(株)ザ・クラブ・シェイクスピア・サッポロ及び小林企業株式会社にあります。両者は、今後も預託金の償還の責任を自覚して、ゴルフ場の所有者として適切な対処をし、またゴルフ会員権の市場の動向を勘案して、その責任を果たせるよう誠意を尽くしたいと考えます。」との記載があるが、その表示文言、内容等からしても、これにより被控訴人主張に係る上記保証をする意思を表明したものとは解し難いものである。」

原判決12頁11行目から14頁23行目までを次のとおり改める。

「 被控訴人は、商法26条1項の定める商号続用による譲受人の責任は、営業譲渡の場合に限らず、営業の受託者ないし賃借者が自己の名をもって自己の計算で営業を行う場合(いわゆる営業の賃貸借)にも準用ないし類推適用されるべきであるとの見解の下に、本件における控訴人シェイクスピアから同レンタピアへの経営委託は、預託金返還請求訴訟及び強制執行手続から本件ゴルフ場の資産を守ることを目的とするものであるから、このような控訴人シェイクスピアから同レンタピアへの経営委託契約が、上記営業の賃貸借に該当するとして、それゆえ、控訴人シェイクスピアに対しても、同法条の規定を準用ないし類推適用すべきであると主張する。

そこで、この点について検討するに、まず、① 前記第2・(3)の本件の前提となる事実(5)によれば、本件経営委任契約においては、控訴人シェイクスピアに帰属すべき売上げの85%(これが3000万円を下回る場合には、3000万円)が報酬として控訴人レンタピアに帰属する旨定められており、手続的には、同控訴人が管理する売上げからこれに相当する金額を引き去った後、控訴人シェイクスピアに支払うものとされるが、結局は、同レンタピアから同シェイクスピアに対して経営委託の報酬として上記金員が支払われることに間違いはない、② また、証拠(乙20、27)及び弁論の全趣旨によれば、本件経営委任契約においては、控訴人シェイクスピアは、同レンタピアに対し、本件ゴルフクラブの運営事務を委託するのみで、その売上げも本件のような本件ゴルフクラブの会員に対する預託金返還義務をはじめとした債務も従前同様に控訴人シェイクスピアに帰属するとされていることが認められる、③ さらに、控訴人レンタピアは、会員の平等性を重視しプレー権利と資産を守るために設立されたところ(乙18の1)、これは、本件ゴルフクラブの会員代表により構成される会員権問題対策委員会の意見に基づくものであり、本件ゴルフクラブを経営する控訴人シェイクスピアが多額の預託金返還債務を負担している状況の下で、約定どおりに預託金の返還を求める会員と直ちには預託金返還を求めることなく、本件ゴルフ場におけるプレーをする権利を保持したいとする会員との利害の調整をするために、会員が投資して51%の株式を取得して設立した控訴人レンタピアに本件ゴルフクラブの運営を委託し、委託料として一定額を同シェイクスピアが受領することにより、同控訴人の資産状況を安定させるとともに、控訴人レンタピアの経営の実態を会員に明らかにすることにより、会員に本件ゴルフクラブの経営状況を理解させ、もって控訴人シェイクスピアが引き続き本件ゴルフクラブの経営を担当することができるように協力してもらおうとしたものと認められる(乙64、65)、④ それゆえ、平成13年度においては、実際に経営に当たる控訴人レンタピアが赤字となり、同シェイクスピアが黒字となるという事態も生じもしたものと推察される(乙60ないし63)。これら各社による協力関係によりゴルフ場経営難を生き返らせる途を見出したことが、結局会員に経営リースではないかとの疑問を抱かせたり、果ては預託金返還債務その他既存債務と利用利益を得る母体を別会社により分離したのではないかと疑われる面がなくはない。

もっとも、上記のとおり本件経営委任契約においては、控訴人シェイクスピアに帰属すべき売上げの85%(これが3000万円を下回る場合には、3000万円)は報酬の名目で控訴人レンタピアに帰属するとしても、手続的には、控訴人レンタピアが管理する売上げからこれに相当する金額を差し引いた後の残金を控訴人シェイクスピアに支払うものとされ、こうした方法により収入の大半が現実に控訴人レンタピアに実質的に帰属するという契約内容となっており、また、控訴人レンタピアが本件ゴルフクラブの営業を行うために必要な電気、水道等の費用も、同控訴人が負担すべきものとされている(乙27)ことも認められる。もとより本件ゴルフクラブの経営は、上記の方法によるとはいえ、控訴人レンタピアの計算において行われているのであって、本件ゴルフクラブの収入が同控訴人に帰属しているとまではいえない。

商法26条1項が、譲渡人の従前の営業によって生じた債務について、譲渡人の商号を継続使用する譲受人に債務弁済の責任を負わせた趣旨は、商号の継続がある場合において、譲渡人の営業上の債権者から営業主体の交代を知ることができないため、又はその事実を知っていたとしても、譲受人が当然債務も引き受けたと考えがちであるため、債権の保全のための措置を講ずる機会を失うことが多いことから、譲渡人の債権を保護しようとしたものであると解される。ただ、この規定は、商法第4章の商号について定める部分に置かれて、上記の趣旨で規定されているのであるから、同条項の準用ないし類推適用に当たっては、商号の同一性、類似性をも考慮して、商号の継続使用と同視することができるか否かの観点から検討すべきであることはいうまでもない。

これを本件についてみると、控訴人レンタピアの商号と控訴人シェイクスピアもしくは本件ゴルフクラブである「クラブ・シェイクスピア・サッポロ ゴルフクラブ」との商号もしくは名称と明らかに異なり、そこに類似性がないことは明らかである。確かに控訴人レンタピアはゴルフ場の名称として「クラブ・シェイクスピア・サッポロ ゴルフクラブ」という名称を使用しているが、ゴルフ場の名称そのものは商号ではないから、控訴人レンタピアが、同シェイクスピアと同一のゴルフ場の名称を使用することにより、他の債権者に営業主体の混同をさせたり、債務承継等につき誤信させる結果を招くような場合に限り、商法26条1項の準用ないし類推適用が問題とされるべきであると考えられるところ、① 前示のとおり、控訴人レンタピアは、本件ゴルフクラブを経営する控訴人シェイクスピアが多額の預託金返還債務を負担している状況の下で、約定どおりに預託金の返還を求める会員と直ちには預託金返還を求めることなく、本件ゴルフ場におけるプレーをする権利を保持したいとする会員との利害の調整をするために設立されたこと、② すなわち、控訴人レンタピアは、会員の平等性を重視し会員のプレー権と資産を守るために、本件ゴルフクラブの会員代表により構成される会員権問題対策委員会の意見に基づいて設立した株式会社であって、法人格及びその組織も控訴人シェイクスピアとは別個の主体とされていること、③ 控訴人シェイクスピアにおいては、控訴人レンタピアに本件ゴルフクラブの運営を委託し、委託料として一定額を同シェイクスピアが受領することにより、同控訴人の資産状況を安定させるとともに、控訴人レンタピアの経営の実態を会員に明らかにすることにより、会員に本件ゴルフクラブの経営状況を理解させ、もって控訴人シェイクスピアが引き続き本件ゴルフクラブの確実な経営を担当し続けることができるように会員の協賛のもとに実行したものであることからすれば、本件においては、控訴人レンタピアが、同シェイクスピアと同一のゴルフ場の名称を使用することにより、他の債権者に営業主体の混同をさせたり、債務承継等につき誤信させる結果を招くような同一性、類似性があると認めなければならない場合に当たるとは認められない。

また、ゴルフ場の経営についても、前示のとおり、控訴人レンタピアは、本件ゴルフ場の経営会社を控訴人シェイクスピアであることを示して営業していること、控訴人シェイクスピアは、被控訴人を含む会員に対して、控訴人レンタピア設立前である平成11年8月ころから、仮称・札幌石狩ゴルフ株式会社が今後の運営・管理を行うことを説明し、その旨を「会員説明会開催のお知らせ」により通知していたこと(乙13の1ないし6)、会員権問題対策委員会から、平成11年9月17日付けで中間報告(乙17の1、2)がされた際にも、控訴人レンタピアについては運営会社であると説明報告されていたこと、同委員会の最終報告でも同様の記載がされていたこと(乙18の1ないし5)、控訴人レンタピア設立後も、本件ゴルフクラブの会員総会の通知(乙20の1ないし3)も、控訴人シェイクスピアからされていること、預託金返還期間の延長の代償措置として会員権を分割する提案により発行される新たな会員証の名義も控訴人シェイクスピアであること(乙73)などからすれば、本件ゴルフ場の経営は、依然として控訴人シェイクスピアであり、控訴人レンタピアは、控訴人シェイクスピアから委託を受けてその採算と責任のもとに経営を行っている別会社であることは、内部的にも外部的にも認識されているものと認められるのである。少なくとも、本件のような、本件ゴルフクラブの会員である被控訴人が、控訴人レンタピアに対し、同控訴人が本件預託金の受託者であり返還義務者であるとして、本件預託金返還義務者である控訴人シェイクスピアと同様にこれと連帯して、本件預託金返還義務を連帯負担すべき責任があるとまではいうことができないのである。」

4  以上みたところによれば、被控訴人の控訴人シェイクスピアに対する本件請求は、本件預託金額から26万1000円を控除した773万9000円及びこれに対する同預託金返還債務の履行期の翌日である平成13年6月21日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるがその余は理由がなく、また、被控訴人の控訴人ケー・ケー及び同レンタピアに対する各請求はいずれも理由がないといわなければならない。

そうすると、控訴人シェイクスピアの控訴は理由がないからこれを棄却し、原判決中、控訴人ケー・ケー及び同レンタピアに対する請求認容部分を取り消し、この部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 秋武憲一 三代川俊一郎)

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