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東京高等裁判所 平成14年(行ケ)219号 判決 2002年10月24日

原告

日本美容医学研究会

代表者

高野成夫

訴訟代理人弁護士

宇野晴海

被告

財団法人日本美容医学研究会

代表者理事

梅澤文彦

訴訟代理人弁護士

網野誠

網野友康

初瀬俊哉

高野明子

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた裁判

「平成九年審判第七九一六号事件について特許庁が平成一四年三月二七日にした審決を取り消す。」との判決。

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

(1)  被告は、登録第二七一三一三五号商標(本件商標)の商標権者である。本件商標は、昭和五二年三月一〇日に商標登録出願され、平成八年三月二九日設定登録された。本件商標は、下記のとおり、漢字「財団」と「法人」を二段に書し、その右に続けて漢字「日本美容医学研究会」を左から右へ横に書したものからなり、その指定商品を第二六類書籍、雑誌、新聞とする。

(2)  原告は、平成九年五月一四日、本件商標は、他人の名称を含む商標であり、かつ、その他人の承諾を得ていないものであり、商標法第四条第一項第八号に該当するとして、本件商標の登録無効の審判を請求した(平成九年審判第七九一六号)。審判請求の理由は、次のとおりである。

① 原告は、その名称を「日本美容医学研究会」とする人格なき社団であり、「専門医師の指導と関与のもとに、医学部外品クロロフィル化粧料の適切なる使用法および正しい取り扱いを調査・研究し、これを広く普及し、以て日本美容文化の向上に資する」ことを目的とし、本件商標の出願(昭和五二年三月一〇日)よりもはるか以前に設立され、現在もその活動を行っている。

② 商標法第四条第一項第八号は、通常、人格権保護の規定といわれているが、ここでいう他人の名称は、必ずしも権利主体となり得る自然人又は法人の名称のみを指称するのではなく、現実の社会の実情に照らして、一定の組織を有し、活動している当事者能力を有する人格なき社団又は財団をも含むものとするのが相当である。しかも、この規定には人格なき社団又は財団の名称を除く旨の規定がないことからも当然である。

③ 本件商標と原告の名称を比較すると、本件商標は、漢字「財団法人日本美容医学研究会」の文字よりなるから、原告の「日本美容医学研究会」の名称を含むことは明らかである。「日本美容医学研究会」の名称を含む本件商標の出願に当たって、原告は、被告に対して何らの承諾も与えていない。

(3)  この審判請求事件については、平成九年審判第七九一六号事件として審理されたが、平成一〇年一〇月一六日「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」旨の審決があった。これに対して、原告は、平成一〇年一二月七日審決取消訴訟を東京高等裁判所に提起したところ(平成一〇年(行ケ)第三八〇号)、平成一一年九月三〇日に、審決取消しの判決(第一次取消判決)があった。

この判決を受けて、特許庁で審理が再開され、平成一二年八月二日、本件商標の登録を無効とする旨の審決があった。これに対して、被告は、平成一二年九月一四日審決取消訴訟を東京高等裁判所に提起したところ(平成一二年(行ケ)第三四五号)、平成一三年四月二六日、審決取消しの判決(第二次取消判決)があった。

この判決を受けて、特許庁で再度審判の審理が再開されたが、平成一四年三月二七日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その謄本は平成一四年四月五日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点<省略>

第3  原告主張の審決取消事由

1  <省略>

2  商標法第二六条第一項第一号にいう自己の名称についてした最高裁第三小法廷平成九年三月一一日判決・民集五一巻三号一〇五五頁の説示に照らせば、商標法第四条第一項第八号の適用においても、権利能力なき社団の名称には著名性は要求されるものではない。

人格なき社団はもともと自己の名において商標登録をすることはできない。したがって、どのように立派な社会活動を営んでいても著名でなければ自己の名称を他人が商標登録をすることを阻止することはできないとするのはいささか公平の理に反する。したがって、人格なき社団が、自己の名称又はその名称を含む商標を他人が登録するのを阻止するための自己の名称の著名性を厳密に解釈されると非常に酷である。原告のように、国や地方公共団体その他多くの者に認知されている名称の著名性については、多少幅があってもよい。

上記1に主張のとおり、原告の著名性は十分に立証されているが、仮にそうでないとしても原告の名称は広く知られているのであるから、被告の本件商標については商標法第四条第一項第八号が適用されるべきである。

第4  当裁判所の判断

1  審判甲号各証の番号にほぼ対応する本訴の甲号各証(審判甲第2号証〜第8号証は本訴甲第4号証〜第10号証に対応し、審判甲第10号証、第11号証の1、2は本訴甲第11号証、第12号証の1、2に対応し、審判甲第13号証〜第284号証は、本訴甲第13号証〜第284号証に対応する。)に照らしてみるに、上記審決の理由の要点の(3)における証拠評価とそれに伴う事実認定に係る説示(原告の「日本美容医学研究会」なる名称が本件商標登録出願時において著名となっていたとは認められないとの事実認定)は優に支持することができ、他に、原告の上記名称が上記の当時において著名となっていたことを認めるに足りる証拠はない。当然のことながら、甲第285〜第369号証は、本件登録出現時よりも後に発行された雑誌であるから、原告の当時の著名性を認定する証拠となるものではない。

2 第二次取消判決は、権利能力なき社団の名称については、法人との均衡上、その名称は、商標法第四条第一項第八号の略称に準じるものとして、同条項に基づきその名称を含む商標の登録を阻止するためには、著名性を要するものと解したが、当裁判所も、この判決の判断を支持するものである。原告が援用する最高裁第三小法廷平成九年三月一一日判決・民集五一巻三号一〇五五頁は、フランチャイズ契約により結合した企業グループの名称も商標法第二六条第一項第一号にいう自己の名称に該当するとしているが、これは、商標法第二六条第一項第一号の適用の上で、権利能力なき社団の名称に著名性が要件とされるものではないとした旨の説示と解される。しかし、この最高裁判決は、商標法第二六条第一項第一号の適用の場面についてのものであって、商標法第四条第一項第八号の規定の適用の場面におけるものではなく、本件に適切ではない。

3  よって、権利能力なき社団である原告の名称が著名であるとは認められないことを理由にして、本件商標は、商標法第四条第一項第八号の規定に違反して登録されたものではないから、同法第四六条第一項第一号の規定によりその登録を無効とすることはできないとした審決の認定判断に、原告主張の誤りはない。

第5  結論

以上のとおりであって、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。

(裁判長裁判官・永井紀昭、裁判官・塩月秀平、裁判官・古城春実)

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