東京高等裁判所 平成14年(行ケ)308号 判決 2003年6月10日
原告
インターディジタルテクノロジーコーポレーション
訴訟代理人弁護士
増田健一、宮垣聡、城山康文、岩瀬吉和
同弁理士
内原普、船山武
被告
特許庁長官太田信一郎
指定代理人
西川正俊、吉見信明、高橋泰史、小曳満昭、小林信雄、
林栄二
主文
特許庁が平成11年異議第74498号事件について平成14年2月5日にした「特許第2899805号の請求項1ないし11に係る特許(ただし、訂正審決によって、「請求項1」は訂正の上番号は変更されず「請求項1」、「請求項6」と「請求項9」は訂正の上番号も変更されてそれぞれ「請求項2」と「請求項3」となり、その余の請求項はいずれも削除された。)を取り消す。」との決定を取り消す。
訴訟費用は各自の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告は、発明の名称を「通信システム」とする特許第2899805号(本件特許)の特許権者である。本件特許は、昭和63年11月11日に出願され、平成11年3月19日に設定登録がされた。その後、請求項1ないし11に係る特許に対して特許異議の申立てがあり(平成11年異議第74498号)、特許庁は、平成14年2月5日、「特許第2899805号の請求項1ないし11に係る特許を取り消す。」との決定をし、同年2月25日にその謄本を原告に送達した(出訴期間として90日付加)。
原告は、上記決定の取消しを求める本訴提起後に、本件特許につき特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判の請求をし(訂正2003-39011号)、平成15年4月22日、「特許第2899805号に係る明細書及び図面を審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」との審決(訂正審決)があり、確定した。
2 特許請求の範囲の記載
(1) 訂正前(異議の決定時)のもの
【請求項1】電話局と交信状態にあるとともに繰返し時間スロットおよび複数の周波数チャンネル経由で複数の加入者局に接続された基地局を有する通信システムであって、前記時間スロットおよび前記周波数チャンネルが前記加入者局に選択的に割当て可能であり、割当てずみ時間スロットおよび周波数チャンネルの少なくとも一方を通話の進行中における多電話機構成の中の他の加入者からの呼要求または前記基地局と通話中の加入者局との間の信号伝送劣化に応答して個々の加入者ごとに空状態または使用中の状態の時間的スロット/周波数チャンネルに選択的に再割当てする割当て手段を含む通信システム。
【請求項2】前記割当て手段が、前記時間スロットおよび前記周波数チャンネルの割当てを、変調の切換、周波数チャンネル間干渉および装置誤動作の少なくとも一つに起因する前記信号伝送劣化に応答して行う請求項1記載の通信システム。
【請求項3】前記割当て手段により制御される少なくとも一つの通話を各々が行う多数の二電話機型加入者局を有し、それら二電話機の各々の電話機が被選択周波数チャンネルの互いに隣接する時間スロットに前記割当て手段により別々に割当て可能な請求項1記載の通信システム。
【請求項4】前記割当て手段が所定の割当て表に従って前記加入者局への割当てを行う請求項1記載の通信システム。
【請求項5】前記加入者局の再割当て先の前記時間スロットおよび前記周波数チャンネルが空き状態にある請求項1記載の通信システム。
【請求項6】基地局および相互間で交信可能であるとともに複数のポート付きの外部通信網との間で交信可能な複数の加入者局を含む通信システムにおいて、前記基地局が、前記外部通信網の前記ポートに接続する交換手段と、基地局制御チャンネル経由で前記交換手段に接続され、前記時間スロットおよび前記周波数チャンネルの状態を継続的にモニタし、前記時間スロットの各々のモニタ結果に応答して各加入者局に個別に割り当てられた時間スロットおよび周波数チャンネル経由で前記ポートと前記加入者局との間の接続を前記交換手段に完結させる遠隔接続プロセッサであって、各時間間隔で前記接続の状態を記憶するメモリを有し、それによって通話中における加入者局への空状態または使用中の状態の時間スロットや周波数チャンネルの随時再割当てを可能にし、一つの加入者局を被選択周波数チャンネル内の一つの時間スロットからもう一つの時間スロットへまたはもう一つの周波数チャンネルのもう一つの時間スロットへ個々の加入者ごとに選択的に移動させることを可能にする遠隔接続プロセッサとを含む通信システム。
【請求項7】前記加入者局の移動先の前記時間スロットおよび前記周波数チャンネルが空き状態にある請求項6記載の通信システム。
【請求項8】電話局と交信状態にあるとともに無線周波数(RF)チャンネル経由で複数の加入者局と交信状態にある基地局、すなわち多数の逐次繰返し時間スロットおよび複数の周波数チャンネルを有する基地局を備える通信システムにおいて被選択加入者局に時間スロットおよび周波数チャンネルを通話進行中に再割当てする方法であって、加入者局に現在割当てずみのものも含むすべての時間スロットおよび周波数チャンネルの状態をメモリに保持する過程と、被選択周波数チャンネルにおいて空き状態または使用中の状態にある被選択時間スロットを被選択加入者装置に割当てルーチンに従って個々の加入者ごとに選択的に再割当てする過程であって、多電話機構成の中の他の加入者による呼要求に応答してまたは前記基地局と前記加入者局との間の信号伝送の劣化によって行われる再割当て過程とを含む再割当て方法。
【請求項9】多数の逐次繰返し時間スロット経由でユーザデータストリームの送受信を行う基地局とその基地局と交信状態にある複数の加入者局との間の無線通信のための通信システムであって、前記基地局と前記加入者局との間の前記無線通信の形成のために無線周波数チャンネルおよび時間スロットの特有の組合せを割当て手段によって各加入者局に個別に割当て可能であり、それら組合せの各々において前記ユーザデータストリームの一つによる変調をかける通信システムにおいて、第1の加入者局によるユーザ通話の進行中にその第1の加入者局への前記割当て手段による前記時間スロットおよび周波数チャンネルの個々の加入者ごとの個別的な再割当てが、前記第1の加入者局を当初の時間スロットからもう一つの時間スロットへ、当初の周波数チャンネルからもう一つの周波数チャンネルへ、または当初の割当てずみ周波数チャンネルおよび時間スロットからもう一つの周波数チャンネルおよび時間スロットへ再割当てすることによって可能であり、前記再割当てが前記基地局とその交信相手の前記第1の加入者局との間の交信の劣化または多電話機構成の中のもう一つの加入者の呼要求に応答して行われ、前記交信の劣化によりまたは前記呼要求に応答してある時間スロットおよび周波数チャンネルをすでに割当てずみであって実際に通話中の他の加入者局を前記ある時間スロットおよび/または周波数チャンネルの利用のために別の時間スロットおよび/または周波数チャンネルに個別に再割当てできることを特徴とする通信システム。
【請求項10】前記再割当てを前記信号伝送劣化に応答して行う請求項1記載の通信システム。
【請求項11】電話局と交信できるとともに無線周波数(RF)チャンネル経由で複数の加入者局と交信できる基地局、すなわち被選択周波数チャンネルの被選択空き状態時間スロットまたは使用中の状態の空きスロットに前記加入者局を割り当てることにより被選択加入者局への割当てが可能な多数の逐次繰返し時間スロットおよび複数の周波数チャンネルを有する基地局を備える通信システムにおいて、被選択加入者局への時間スロットおよび周波数チャンネルの割当てを、被選択周波数チャンネルの被選択空き状態時間スロットに前記加入者局をメモリマトリクスにおける使用中時間スロットとの隣接性に従って割り当てることによって個々の加入者ごとに行い、その割当てが多電話機構成の中のもう一つの加入者からの呼要求または前記基地局と前記加入者局との間の信号伝送劣化の少なくとも一方に応答して行われるようにする方法。
(2) 訂正審決による訂正後のもの
(訂正前の請求項2、3、4、5、7、8、10、11を削除。同1、6、9を訂正の上、請求項6、9をそれぞれ請求項2、3と項番変更。下線は訂正による付加箇所)
【請求項1】
電話局と交信状態にあるとともに繰返し時間スロットおよび複数の周波数チャンネル経由で複数の加入者局に接続された基地局を有する通信システムであって、前記時間スロットおよび前記周波数チャンネルが前記加入者局に選択的に割当て可能であり、割当てずみ時間スロットおよび周波数チャンネルの少なくとも一方を通話の進行中における前記基地局と通話中の加入者局との間の信号伝送劣化に応答して個々の加入者ごとに空状態または使用中の状態の時間的スロット/周波数チャンネルに選択的に再割当てする割当て手段を含み、前記信号伝送劣化を時間スロット構成切換え、すなわち前記複数の周波数チャンネルの一つの中の二つの互いに隣接する時間スロットを一つの長い時間スロットの形に組み合わせる時間スロット構成切換えによって修正し、時間スロット構成切換え後も干渉に起因する信号伝送劣化が残っている場合は高いAGCレベルを示す周波数チャンネルから低いAGCレベルを示す周波数チャンネルヘの周波数切換えによってその信号伝送劣化を解消する通信システム。
【請求項2】
基地局および相互間で交信可能であるとともに複数のポート付きの外部通信網との間で交信可能な複数の加入者局を含む通信システムにおいて、前記基地局が、前記外部通信網の前記ポートに接続する交換手段と、基地局制御チャンネル経由で前記交換手段に接続され、前記時間スロットおよび前記周波数チャンネルの状態を継続的にモニタし、前記時間スロットの各々のモニタ結果に応答して各加入者局に個別に割り当てられた時間スロットおよび周波数チャンネル経由で前記ポートと前記加入者局との間の接続を前記交換手段に完結させる遠隔接続プロセッサであって、各時間間隔で前記接続の状態を記憶するメモリを有し、それによって通話中における加入者局への空状態または使用中の状態の時間スロットや周波数チャンネルの随時再割当てを可能にし、前記基地局と通話中の加入者局との間の信号伝送劣化に応答して一つの加入者局を被選択周波数チャンネル内の一つの時間スロットからもう一つの時間スロットへまたはもう一つの周波数チャンネルのもう一つの時間スロットへ個々の加入者ごとに選択的に移動させることを可能にする遠隔接続プロセッサとを含み、前記信号伝送劣化を時間スロット構成切換え、すなわち前記複数の周波数チャンネルの一つの中の二つの互いに隣接する時間スロッ卜を一つの長い時間スロットの形に組み合わせる時間スロット構成切換えによって修正し、時間スロット構成切換え後も干渉に起因する信号伝送劣化が残っている場合は高いAGCレベルを示す周波数チャンネルから低いAGCレベルを示す周波数チャンネルへの周波数切換えによってその信号伝送劣化を解消する通信システム。
【請求項3】
多数の逐次繰返し時間スロット経由でユーザデータストリームの送受信を行う基地局とその基地局と交信状態にある複数の加入者局との間の無線通信のための通信システムであって、前記基地局と前記加入者局との間の前記無線通信の形成のために無線周波数チャンネルおよび時間スロッ卜の特有の組合せを割当て手段によって各加入者局に個別に割当て可能であり、それら組合せの各々において前記ユーザデータストリームの一つによる変調をかける通信システムにおいて、第1の加入者局によるユーザ通話の進行中にその第1の加入者局への前記割当て手段による前記時間スロットおよび周波数チャンネルの個々の加入者ごとの個別的な再割当てが、前記第1の加入者局を当初の時間スロットからもう一つの時間スロットヘ、当初の周波数チャンネルからもう一つの周波数チャンネルヘ、または当初の割当てずみ周波数チャンネルおよび時間スロットからもう一つの周波数チャンネルおよび時間スロットヘ再割当てすることによって可能であり、前記再割当てが前記基地局とその交信相手の前記第1の加入者居との間の交信の劣化に応答して行われ、前記交信の劣化によりある時間スロットおよび周波数チャンネルをすでに割当てずみであって実際に通話中の他の加入者局を前記ある時間スロットおよび/または周波数チャンネルの利用のために別の時間スロットおよび/または周波数チャンネルに個別に再割当てでき、前記交信の劣化を時間スロット構成切換え、すなわち前記複数の周波数チャンネルの一つの中の二つの互いに隣接する時間ネロットを一つの長い時間スロットの形に組み合わせる時間スロット構成切換えによって修正し、時間スロット構成切換え後も干渉に起因する信号伝送劣化が残っている場合は高いAGCレベルを示す周波数チャンネルから低いAGCレベルを示す周波数チャンネルヘの周波数切換えによってその交信の劣化を解消することを特徴とする通信システム。」
3 決定の理由の要点
本件特許の請求項1ないし11(訂正前のもの)に係る発明は、いずれも下記刊行物1ないし4に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1 米国特許第4777633号
刊行物2 特開昭61-218297号
刊行物3 「SYSTEM FEATURES - NEXT GENERATION CELLULAR RADIO」
David S Cheeseman and Robin Potter, British Telecom Research Laboratories, 37 th IEEE VEHICULAR Technology Conference (1-3 June, 1987)152頁~156頁
刊行物4 特開昭63-187739号公報
第3原告主張の取消事由
決定は、訂正前の請求項の記載に基づき本件発明の要旨を認定し、請求項1ないし11に係る発明の特許を取り消すべきものとしたが、訂正審決により特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正が認められたことによって、決定は、本件発明の要旨を結果的に誤認したことになる。よって、決定は取り消されるべきである。
第4当裁判所の判断
原告主張の事由により決定は全部につき取り消されるべきものであり、本訴請求は理由がある。よって、訴訟費用の負担につき行訴法7条、民訴法62条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 塩月秀平 裁判官 古城春実)