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東京高等裁判所 平成14年(行ケ)380号 判決 2003年3月26日

原告

オットー・ボック・ヘルスケア・ゲー・エム・ベー・ハー

同訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

石川義雄

小出俊實

吉田親司

吉野日出夫

松見厚子

幡茂良

宮永栄

被告

積水化成品工業株式会社

同訴訟代理人弁理士

稲岡耕作

畑岸義夫

川崎実夫

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1請求

特許庁が取消2000-30817号事件について平成14年4月16日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,被告が商標権者となっている登録商標について,継続して3年以上,日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが指定商品に使用をしていないとして,原告が,特許庁に対し,商標法50条1項に基づき,商標登録の取消審判を請求したところ,特許庁が,本件審判の請求は成り立たない旨の審決をしたことから,原告が,被告に対し,上記審決の取消しを求めた事案である。

1  争いのない事実

(1)  被告は,登録第3080965号商標(以下「本件商標」という)の商標権者である。

(2)  本件商標は,「テクノゲル」の片仮名文字を書してなり,平成5年1月12日,商標法施行令別表17類「プラスチック基礎製品」を指定商品として,商標登録出願され,同7年10月31日,設定登録された。

(3)  本件商標について,継続して3年以上,日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが,プラスチック基礎製品に使用をしていないとして,原告が,特許庁に対し,平成12年7月14日,商標法50条1項に基づき,商標登録の取消審判(以下「本件審判」という)を請求したところ,本件審判の請求は,同年8月16日,登録された。

(4)  特許庁は,平成14年4月16日,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,商標権者である被告が,プラスチック基礎製品について,本件商標と社会通念上同一と認められるものを使用していたことの証明があったとして,出訴期間として90日を附加して,本件審判の請求は成り立たない旨の審決(以下「本件審決」という)を行い,本件審決謄本は,同月26日,原告に送達された。

(5)  そこで,原告は,被告に対し,平成14年7月24日,本件審決の上記認定は誤りであるとして,本件審決の取消訴訟を提起した。

2  争点

被告は,本件審判請求の登録(平成12年8月16日)前3年以内に,日本国内において,プラスチック基礎製品について,本件商標と社会通念上同一と認められるものを使用していたか否か。

(1)  被告の主張

被告は,平成12年5月24日から27日までの間,大阪市のインテックス大阪にて開催された見本市「テクノピア2000大阪」の被告出展ブースにおいて,プラスチック基礎製品が掲載され,かつ,本件商標と社会通念上同一と認められるものが表記された商品カタログを,カタログスタンドに配置するなどして,見本市に来場した需要者や関連業者に頒布した。

(2)  原告の主張

被告の主張を否認する。

第3争点に対する判断

1  証拠(甲4,乙1から3,8,9)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成12年5月24日から27日までの間,大阪市のインテックス大阪にて開催された見本市「テクノピア2000大阪」の被告出展ブースにおいて,本件商標と社会通念上同一と認められるものが表記された商品カタログ(乙8,以下「本件カタログ」という)を,カタログスタンドに配置するなどして,見本市に来場した需要者や関連業者に頒布したことが認められる。

2  そこで,本件カタログに,プラスチックの基礎製品が掲載されているか否かを検討する。

(1)  この点,商標法施行規則別表17類4「プラスチック基礎製品」には,「板」「帯」「管」「金属はくを蒸着したプラスチックシート」「スポンジ体」「積層板」「接着剤を塗布したプラスチックシート」「繊維入り板」「反射基剤を有するプラスチックシート」「フィルム生地」「棒」「毛状プラスチック基礎製品」が含まれる旨区分されているところ,証拠(乙5)によれば,特許庁商標課編の「商品及び役務区分解説」においては,プラスチック基礎製品には,プラスチックの半加工品が含まれる旨,成型等の加工を何ら施さない原料としてのプラスチックは,商標法施行令1条別表第1第1類の原料プラスチックに属し,プラスチック基礎製品には含まれない旨,「プラスチック製の接着剤」「プラスチック製容器」「プラスチック製くし」及び「プラスチック製タイル」等最終製品となったものは,プラスチック基礎製品には含まれない旨,ガラス繊維,金属繊維等を強化材又は充てん材として使用した「繊維入り板」「繊維入り管」及び「繊維入り棒」等は,プラスチック基礎製品に含まれる旨,上記「反射基材を有するプラスチックシート」とは,硝子小球,微細な金属片等を含んだ反射膜によって,光線の反射効果を有するプラスチックシートであるが,このシートを用いたプラスチック製の「区画表示帯」は,特定の用途に供される最終製品であるから,プラスチック基礎製品には属さない旨記載されていることが認められる。

上記に照らせば,プラスチック基礎製品とは,プラスチック製品のうち,成型等の加工を何ら施さない原料,特定の用途に供される最終製品を除いた半加工品と解するのが相当である。

(2)  これを本件についてみると,本件カタログの写真の左側下方に写っているシート状のものについては,証拠(甲4,6,乙1,2,8,13から15,19から21)及び弁論の全趣旨によれば,ポリエステル系樹脂のネットからなる中間補強材とシリコンコーティングされたポリエステル製フィルムからなる表面保護材とを備えた,アクリル樹脂を主材とするゲル状樹脂シートであり,適当な形状に打ち抜いたり,裁断加工することにより,医療用生体電極用素材,ディスポーザブル工業計測用素材,ディスポーザブルセンサー用素材,非破壊による電気探査実験のための電極(ジオゲル電極)等として用いられるものと認められるから,成型等の加工を何ら施さない原料プラスチックではなく,また,特定の用途に供されるプラスチックの最終製品でもなく,プラスチックの半加工品に該当するというべきである。

(3)  したがって,本件カタログには,プラスチック基礎製品が掲載されているというべきである。

3  1,2によれば,被告は,平成12年5月24日から27日までの間,大阪市のインテックス大阪にて開催された見本市「テクノピア2000大阪」の被告出展ブースにおいて,プラスチック基礎製品が掲載され,かつ,本件商標と社会通念上同一と認められるものが表記された本件カタログを,カタログスタンドに配置するなどして,見本市に来場した需要者や関連業者に頒布したものと認められる。

4  以上によれば,本件審判請求の登録(平成12年8月16日)前3年以内に,日本国内において,商標権者である被告が,プラスチック基礎製品について,本件商標と社会通念上同一と認められるものを使用していたことの証明はあったというべきであるから,これと同旨の本件審決の判断には,取り消すべき事由はない。

よって,原告の本訴請求には理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北山元章 裁判官 絹川泰毅)

裁判官 橋本英史は都合により,署名押印することができない。 裁判長裁判官 北山元章

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