東京高等裁判所 平成14年(行ケ)407号 判決 2003年4月22日
原告
ダイセル化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士
吉澤敬夫
牧野知彦
弁理士
古谷馨
溝部孝彦
古谷聡
持田信二
義経和昌
被告
特許庁長官太田信一郎
指定代理人
鐘尾みや子
鈴木紀子
森田ひとみ
林栄二
一色由美子
主文
特許庁が異議2000-70303号事件について平成14年7月1日にした決定を取り消す。
訴訟費用は各自の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
原告が特許権者である本件特許第2925753号「光学異性体の分離方法」は,平成3年1月22日に出願され(国内優先権主張:平成2年2月23日),平成11年5月7日に設定登録された。本件特許についてはその後特許異議の申立てがあり,異議2000-70303号事件として審理された結果,平成14年7月1日に請求項1ないし14に係る本件特許を取り消す旨の決定があり,その謄本は同月20日原告に送達された。
原告は,決定の取消しを求める本訴提起後の平成14年11月5日,本件特許につき特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判の請求をし(訂正2002-39235号),平成15年3月25日に訂正を認める旨の審決(訂正審決)があって確定した。
2 本件特許の設定登録時の特許請求の範囲
【請求項1】内部に光学分割用充填剤を収容し,かつ前端と後端とが流体通路で結合されて無端状になっていて液体が一方向に循環している充填床に,光学異性体混合物含有液及び脱離液を導入し,同時に充填床から分離された1種類の光学異性体を含有する液ともう一方の種類の光学異性体を含有する液を抜き出すことからなり,充填床には,脱離液導入口,吸着されやすい光学異性体を含有する液(エクストラクト)の抜出口,光学異性体混合物含有液導入口,吸着されにくい光学異性体を含有する液(ラフィネート)の抜出口を流体の流れ方向に沿ってこの順序で配置し,かつこれらを床内の流体の流れ方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動することによりなる擬似移動床方式を用いることを特徴とする光学異性体の分離方法。
【請求項2】光学分割用充填剤が光学活性高分子化合物,担体に担持された光学活性高分子化合物,及び担体に担持された光学分割能を有する低分子化合物の群から選ばれる請求項1記載の光学異性体の分離方法。
【請求項3】光学分割用充填剤が光学活性高分子化合物,又は担体に担持された光学活性高分子化合物である請求項2記載の光学異性体の分離方法。
【請求項4】光学活性高分子化合物が多糖誘導体である請求項3記載の光学異性体の分離方法。
【請求項5】光学分割用充填剤が担体に担持された光学分割能を有する低分子化合物である請求項2記載の光学異性体の分離方法。
【請求項6】低分子化合物がシクロデキストリン誘導体である請求項5記載の光学異性体の分離方法。
【請求項7】光学分割用充填剤が粒子の形態である請求項2記載の光学異性体の分離方法。
【請求項8】粒子径が20~50μmである請求項7記載の光学異性体の分離方法。
【請求項9】溶離液が有機溶媒からなる請求項2記載の光学異性体の分離方法。
【請求項10】有機溶媒がアルコール及び/又は炭化水素である請求項9記載の光学異性体の分離方法。
【請求項11】有機溶媒がアルコールと炭化水素の混合物である請求項10記載の光学異性体の分離方法。
【請求項12】アルコールがイソプロパノールであり,炭化水素がヘキサンである請求項11記載の光学異性体の分離方法。
【請求項13】脱離液が塩を含む水溶液からなる請求項2記載の光学異性体の分離方法。
【請求項14】塩を含む水溶液が硫酸銅水溶液又は過塩素酸水溶液である請求項13記載の光学異性体の分離方法。
3 訂正審決による訂正後の本件特許の特許請求の範囲(下線が訂正部分)
訂正前の請求項6~10の削除に伴い項番号が繰り上がった。請求項13,14も削除。
【請求項1】内部に光学分割用充填剤を収容し,かつ前端と後端とが流体通路で結合されて無端状になっていて液体が一方向に循環している充填床に,光学異性体混合物含有液及び脱離液を導入し,同時に充填床から分離された1種類の光学異性体を含有する液ともう一方の種類の光学異性体を含有する液を抜き出すことからなり,充填床には,脱離液導入口,吸着されやすい光学異性体を含有する液(エクストラクト)の抜出口,光学異性体混合物含有液導入口,吸着されにくい光学異性体を含有する液(ラフィネート)の抜出口を流体の流れ方向に沿ってこの順序で配置し,かつこれらを床内の流体の流れ方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動することによりなる擬似移動床方式を用いる光学異性体の分離方法であり,光学分割用充填材が,担体に担持された光学活性高分子化合物又は担体に担持された光学分割能を有する低分子化合物で,かつ粒子の形態であり,粒子径が20~50μmであることを特徴とする光学異性体の分離方法。
【請求項2】光学分割用充填剤が,担体に担持された光学活性高分子化合物又は担体に担持された光学分割能を有する低分子化合物で,かつ粒子の形態であり,粒子径が30~50μmである請求項1記載の光学異性体の分離方法。
【請求項3】光学分割用充填剤が担体に担持された光学活性高分子化合物である請求項1又は2記載の光学異性体の分離方法。
【請求項4】光学活性高分子化合物が多糖誘導体である請求項3記載の光学異性体の分離方法。
【請求項5】多糖誘導体がセルロースエステル,アミロースエステル,セルロースカルバメート又はアミロースカルバメートである請求項4記載の光学異性体の分離方法。
【請求項6】脱離液がアルコールと炭化水素の混合物である請求項5記載の光学異性体の分離方法。
【請求項7】脱離液がイソプロパノールとヘキサンの混合物である請求項6記載の光学異性体の分離方法。
4 決定の理由の要点
訂正前の本件発明1ないし14は,下記刊行物1~7,9,10,12~25に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1 Mitsubishi Kasei R&D Review,Vol.3,No.1,1-12頁(1989)
刊行物2 特開昭62-210053号公報
刊行物3 化学工学,第45巻,第6号(1981)第391~398頁
刊行物4 ケミカル・エンジニヤリング,1988年3月号,49~53頁
刊行物5 ケミカル・エンジニヤリング,1989年9月号,46~50頁
刊行物6 化学工業,1984年10月号,65~70頁
刊行物7 化学の領域,第36巻,1982年,305~316頁
刊行物9 ケミカル・エンジニヤリング,1988年5月号,44~48頁
刊行物10 化学経済,1988年2月号,52~62頁
刊行物12 化学経済,Vol.23,2月号,54~60頁(1976年)
刊行物13 ケミカル・エンジニヤリング,第29巻,第7号,86~92頁(1984年)
刊行物14 化学技術誌 MOL,第22巻,昭和59年6月号,47~51頁
刊行物15 化学工学シンポジウムシリーズ,15,「移動層技術の現状と新展開」,48~55頁(昭和63年2月25日,化学工学協会発行)
刊行物16 化学工学シンポジウムシリーズ,15,「移動層技術の現状と新展開」,120-125頁(昭和63年2月25日,化学工学協会発行)
刊行物17 化学経済,Vol.23,3月号,54~59頁(1976年)
刊行物18 化学機械技術41,「高度分離技術の新しい展開」,163~195頁
(1989年5月20日,さんえい出版発行)
刊行物19 特開昭60-142930号公報
刊行物20 特開昭61-176538号公報
刊行物21 特開昭60-214749号公報
刊行物22 有機合成化学協会誌,第42巻,No.11,995~1004頁(1984年)
刊行物23 日本化学会編「光学異性体の分離」,季刊化学総説,NO.6,132~141頁,167~174頁,212~224頁
(1989年10月10日学会出版センター発行)
刊行物24 JOURNALl of CHROMATOGRAPHY,Vol.400,p.68,1987
刊行物25 JOURNALl of CHROMATOGRAPHY,Vol.405,p.148,1987
5 訂正審決の理由の要点
訂正後の請求項1~7に係る発明は,下記刊行物1~23に記載の発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものではない。他に,訂正後のこれら発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとすべき理由を発見しない。
刊行物1 Mitsubishi Kasei R&D Review,Vol.3,No.1,1-12頁(1989)
刊行物2 特開昭62-210053号公報
刊行物3 化学工学,第45巻,第6号(1981)第391~398頁
刊行物4 ケミカル・エンジニヤリング,1988年3月号,49~53頁
刊行物5 ケミカル・エンジニヤリング,1989年9月号,46~50頁
刊行物6 化学工業,1984年10月号,65~70頁
刊行物7 化学の領域,第36巻,1982年,305~316頁
刊行物8 ケミカル・エンジニヤリング,1988年5月号,44~48頁
刊行物9 化学経済,1988年2月号,52~62頁
刊行物10 化学経済,Vol.23,2月号,54~60頁(1976年)
刊行物11 ケミカル・エンジニヤリング,第29巻,第7号,86~92頁(1984年)
刊行物12 化学技術誌 MOL,第22巻,昭和59年6月号,47~51頁
刊行物13 化学工学シンポジウムシリーズ,15,「移動層技術の現状と新展開」,48~55頁(昭和63年2月25日,化学工学協会発行)
刊行物14 化学工学シンポジウムシリーズ,15,「移動層技術の現状と新展開」,120-125頁(昭和63年2月25日,化学工学協会発行)
刊行物15 化学経済,Vol.23,3月号,54~59頁(1976年)
刊行物16 化学機械技術41,「高度分離技術の新しい展開」,163~195頁
(1989年5月20日,さんえい出版発行)
刊行物17 特開昭60-142930号公報
刊行物18 特開昭61-176538号公報
刊行物19 特開昭60-214749号公報
刊行物20 有機合成化学協会誌,第42巻,No.11,995~1004頁(1984年)
刊行物21 日本化学会編「光学異性体の分離」,季刊化学総説,NO.6,132~141頁,167~174頁,212~224頁
(1989年10月10日学会出版センター発行)
刊行物22 JOURNALl of CHROMATOGRAPHY,Vol.400,p.68,1987
刊行物23 JOURNALl of CHROMATOGRAPHY,Vol.405,p.148,1987
第3原告主張の決定取消事由
決定は,訂正審決による訂正前の請求項に基づき本件発明の要旨を認定し,特許を取り消すべきものとしているが,訂正審決により特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正が認められたことによって,本件発明の要旨を結果的に誤認したことになり違法となったものである。
第4当裁判所の判断
原告主張の事由により決定は取り消されるべきものであり,本訴請求は理由がある。よって,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民訴法62条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 塩月秀平 裁判官 田中昌利)