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東京高等裁判所 平成14年(行ケ)542号 判決 2004年2月10日

原告

トムソン コンシユーマ エレクトロニクス インコーポレイテツド

訴訟代理人弁理士

伊東忠彦

湯原忠男

大貫進介

被告

特許庁長官 今井康夫

指定代理人

中塚直樹

江藤保子

高橋泰史

涌井幸一

主文

1  特許庁が異議2001-72627号事件について平成14年6月10日にした決定を取り消す。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

1  原告の請求

(1)  主文1項と同旨。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  当事者間に争いのない事実

(1)  特許庁における手続の経緯

原告は,発明の名称を「フェースプレートパネル改良形カラー受像管」とする特許第3149350号の特許(平成8年2月9日出願(パリ条約による優先権主張1995年2月15日,米国),平成13年1月19日設定登録,以下「本件特許」という。登録時の請求項の数は3である。)の特許権者である。

本件特許に対し,請求項1及び2につき,特許異議の申立てがあり,特許庁は,この申立てを,異議2001-72627号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成14年3月18日,本件特許の出願に係る願書に添付した明細書の訂正の請求をした。特許庁は,上記事件につき審理し,その結果,平成14年6月10日,この訂正を認めた上で(以下「本件第1訂正」という。),「特許第3149350号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」(取り消された請求項に係る発明をまとめて「本件発明」という。)との決定をし,同年7月1日にその謄本を原告に送達した。

(2)  決定の理由

要するに,本件発明は,いずれも公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に該当する,したがって,本件特許は,請求項1及び2のいずれについても,この規定に違反して登録されたものである,ということである。

(3)  訂正審判の確定

原告は,本訴係属中に,本件特許の出願に係る願書に添付した明細書の訂正をすることについて審判を請求した。特許庁は,これを訂正2003-39232号事件として審理し,その結果,平成15年12月19日に訂正(以下「本件第2訂正」という。)をすることを認める旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)をし,これが確定した。

3  本件第1訂正後の本件特許の特許請求の範囲

「【請求項1】フェースプレートパネルと,ファンネルと,ネックとからなるエンベロープを有し,該フェースプレートパネルは内面上のカソード発光スクリーンと周辺側壁とを含む透明矩形フェースプレートを有し,該フェースプレートパネルは二つの長辺と二つの短辺と四つのコーナー部とにより構成され,該パネルの短軸は該パネルの中心を通り該二つの短辺と平行しているカラー受像管であって,該フェースプレートパネルは該パネルの周辺部の回りで変化する該フェースプレートから該側壁への内部ブレンド径を有し,該パネルの上記各コーナー部における該内部ブレンド径は最小内部ブレンド径であり,上記短軸の各端における上記内部ブレンド径は最大内部ブレンド径であり,長軸の各端における上記内部ブレンド径の長さは上記最大及び最小内部ブレンド径の長さの間にあり,該フェースプレートパネルは該パネルの周辺部の回りで変化する該フェースプレートから該側壁への外部ブレンド径を有する,カラー受像管。

【請求項2】上記最大内部ブレンド径は少なくとも上記最小内部ブレンド径の2倍の長さであり,上記外部ブレンド径は上記長軸の端及び上記短軸の端で大きくされる,請求項1記載のカラー受像管。」

4  本件第2訂正後の本件特許の特許請求の範囲(下線部が本件第1訂正後のものと比較した場合の訂正箇所である。)

「【請求項1】 フェースプレートパネルと,ファンネルと,ネックとからなるエンベロープを有し,該フェースプレートパネルは内面上のカソード発光スクリーンと周辺側壁とを含む透明矩形フェースプレートを有し,該フェースプレートパネルは二つの長辺と二つの短辺と四つのコーナー部とにより構成され,該パネルの短軸は該パネルの中心を通り該二つの短辺と平行しているカラー受像管であって,

該フェースプレートパネルは該パネルの周辺部の回りで変化する該フェースプレートから該側壁への内部ブレンド径を有し,該パネルの上記各コーナー部における該内部ブレンド径は最小内部ブレンド径であり,上記短軸の各端における上記内部ブレンド径は最大内部ブレンド径であり,長軸の各端における上記内部ブレンド径の長さは上記最大及び最小内部ブレンド径の長さの間にあり,

該フェースプレートパネルは該パネルの周辺部の回りで変化する該フェースプレートから該側壁への外部ブレンド径を有し,

該フェースプレートパネルの外面側の応力が上記長軸の端及び上記短軸の端で低減されるように,上記長軸の端及び上記短軸の端における上記外部ブレンド径を大きくすることにより,該フェースプレートパネルと該側壁の接合部に,より薄い区画を生じさせる構成とした,

カラー受像管。」

【請求項2】 上記最大内部ブレンド径は少なくとも上記最小内部ブレンド径の2倍の長さである請求項1記載のカラー受像管。」

5  当裁判所の判断

上記当事者間に争いのない事実によれば,本件第2訂正前の特許請求の範囲(本件第1訂正後の特許請求の範囲)請求項1及び2の記載に基づき,その発明を認定し,これを前提に,特許法29条2項の規定に違反して登録された特許であることを理由に,上記各請求項につき本件特許を取り消した決定の取消しを求める訴訟の係属中に,当該特許に係る特許請求の範囲の減縮を含む訂正の審判が請求され,特許庁は,これを認める審決(本件訂正審決)をし,これが確定したということができる。

決定は,これにより,結果として,上記各請求項のいずれについても判断の対象となるべき発明の要旨の認定を誤ったことになり,上記各誤りがそれぞれの請求項についての決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって,決定は,上記各請求項のいずれについても,取消しを免れない。

6  以上によれば,本訴請求は理由がある。そこで,これを認容し,訴訟費用の負担については,原告に負担させるのを相当と認め,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法62条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 設樂隆一 裁判官 高瀬順久)

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