東京高等裁判所 平成14年(行ケ)627号 判決 2003年7月14日
原告
セイコーエプソン株式会社
訴訟代理人弁理士
上村輝之
同
宮川長夫
同
中村猛
被告
特許庁長官 今井康夫
指定代理人
片岡栄一
同
吉村宅衛
同
今井義男
同
高橋泰史
同
涌井幸一
同
伊藤三男
主文
特許庁が異議2002-70690号事件について平成14年11月1日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,名称を「プリントシステム,プリンタドライバ及びプリンタ」とする特許第3209102号発明(平成8年7月19日特許出願,平成13年7月13日設定登録,以下「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。その後,本件特許につき特許異議の申立てがされ,同申立ては,異議2002-70690号事件として特許庁に係属した。特許庁は,上記事件につき審理した結果,平成14年11月1日,「特許第3209102号の請求項1ないし15に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同月22日,原告に送達された。
(2) 原告は,同年12月18日,本件決定の取消しを求める本件訴えを提起した後,平成15年2月18日,本件特許出願の願書に添付した明細書及び図面(以下「訂正前明細書」という。)の特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」という。)をする訂正審判の請求をし,特許庁は,同請求を訂正2003-39033号事件として審理した結果,同年5月2日,本件訂正を認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)をし,その謄本は,同月14日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載
(1) 訂正前明細書の特許請求の範囲の記載(以下【請求項1】~【請求項15】に係る発明を「本件発明1」~「本件発明15」という。)
【請求項1】ホストコンピュータとこれに接続されたプリンタとを備えたプリントシステムにおいて、前記ホストコンピュータが、プリンタに対する描画コマンドを含んだ印刷ジョブデータを生成するためのプリンタドライバを有し、前記プリンタドライバが、少なくとも一部の描画コマンドが第1の中間コードの形式で表現されている中間水準の印刷ジョブデータを生成するための中間水準ジョブデータ生成手段を有し、前記プリンタが、前記中間水準の印刷ジョブデータを受け、前記描画コマンドを第2の中間コードに変換するための中間コード変換手段と、前記第2の中間コードを印刷のためにビットマップイメージに変換するための第3の変換手段とを有することを特徴とするプリントシステム。
【請求項2】請求項1記載のシステムにおいて、前記中間水準の印刷ジョブデータが、前記第1の中間コード形式の描画コマンドがどれであるかを示すための指示情報を含み、前記中間コード変換手段が、前記指示情報に従って前記第1の中間コードの形式の描画コマンドを識別することを特徴とするプリントシステム。
【請求項3】請求項1記載のシステムにおいて、前記プリンタドライバが、全ての描画コマンドが高水準のプリンタ制御言語で表現されている高水準の印刷ジョブデータを生成するための高水準ジョブデータ生成手段と、前記中間水準ジョブデータ生成手段と前記高水準ジョブデータ生成手段の内の一方を選択するためのモード選択手段と、を更に有し、前記プリンタが、前記高水準の印刷ジョブデータを受け、前記プリンタ制御言語で表現された描画コマンドを第2の中間コードに変換するためのグラフィック手段を更に有することを特徴とするプリントシステム。
【請求項4】請求項3記載のシステムにおいて、前記モード選択手段が、前記中間水準ジョブデータ生成手段と前記高水準ジョブデータ生成手段のいずれを選択するかの決定を、印刷ジョブ毎、ページ毎、バンド毎ド、描画コマンド毎又はアプリケーションプログラム毎に自動的に行うことを特徴とするプリントシステム。
【請求項5】請求項3記載のシステムにおいて、前記モード選択手段が、印刷ジョブがプリンタ内部のフォントとを使用する場合は必ず、前記高水準ジョブデータ生成手段を選択することを特徴とするプリントシステム。
【請求項6】請求項1記載のシステムにおいて、前記第1の中間コードは、描画されるべき各文字又は各イメージのビットマップイメージデータを含み、前記第2の中間コードは、描画されるべき各文字又は各イメージのビットマップイメージデータを含まないことを特徴とするプリントシステム。
【請求項7】請求項1記載のシステムにおいて、前記中間水準ジョブデータ生成手段が、事情に応じて前記第1の中間コード形式の描画コマンドからビットマップイメージデータを事前展開する事前展開手段を含むことを特徴とするプリントシステム。
【請求項8】ホストコンピュータとこれに接続されたプリンタとを用いたプリント方法において、前記ホストコンピュータにおいて、プリンタに対する描画コマンドを含み、少なくとも一部の描画コマンドが第1の中間コードの形式で表現されている中間水準の印刷ジョブデータを生成して、前記プリンタに送信するステップと、前記プリンタにおいて、前記中間水準の印刷ジョブデータを受信し、前記描画コマンドを第2の中間コードに変換するステップと、前記プリンタにおいて、前記第2の中間コードを印刷のためにビットマップイメージに変換するステップとを有することを特徴とするプリント方法。
【請求項9】プリンタに対する描画コマンドを含んだ印刷ジョブデータを生成するためのプリンタドライバにおいて、少なくとも一部の描画コマンドが中間コードの形式で表現されている中間水準の印刷ジョブデータを生成するための中間水準ジョブデータ生成手段を有することを特徴とするプリンタドライバ。
【請求項10】請求項9記載のプリンタドライバにおいて、全ての描画コマンドが高水準のプリンタ制御言語で表現されている高水準の印刷ジョブデータを生成するための高水準ジョブデータ生成手段と、前記中間水準ジョブデータ生成手段と前記高水準ジョブデータ生成手段の内の一方を選択するためのモード選択手段と、を更に有することを特徴とするプリンタドライバ。
【請求項11】描画コマンドを含んだ印刷ジョブデータを受信する手段と、受信した印刷ジョブデータ内の描画コマンドが第1の中間コードの形式で表現されているとき、この第1の中間コードを第2の中間コードに変換するための中間コード変換手段と、前記第2の中間コードを印刷のためにビットマップイメージに変換するための第3の変換手段とを有することを特徴とするプリンタ。
【請求項12】請求項11記載のプリンタにおいて、前記プリンタドライバが、受信した印刷ジョブデータ内の描画コマンドが高水準のプリンタ制御言語で表現されているとき、このプリンタ制御言語の描画コマンドを第2の中間コードに変換するためのグラフィック手段を更に有することを特徴とするプリンタ。
【請求項13】ホストコンピュータとこれに接続されたプリンタとを備えたプリントシステムにおいて、前記ホストコンピュータが、プリンタに対する描画コマンドを含んだ印刷ジョブデータを生成するためのプリンタドライバを有し、前記プリンタドライバが、少なくとも一部の描画コマンドが中間コードの形式で表現されている中間水準の印刷ジョブデータを生成するための中間水準ジョブデータ生成手段を有し、前記プリンタが、前記中間水準の印刷ジョブデータを受け、前記描画コマンドに基づいて印刷のためのビットマップイメージを生成するイメージ生成手段を有することを特徴とするプリントシステム。
【請求項14】ホストコンピュータとこれに接続されたプリンタとを用いたプリント方法において、前記ホストコンピュータにおいて、プリンタに対する描画コマンドを含み、少なくとも一部の描画コマンドが中間コードの形式で表現されている中間水準の印刷ジョブデータを生成して、前記プリンタに送信するステップと、前記プリンタにおいて、前記中間水準の印刷ジョブデータを受信し、前記描画コマンドに基づいて印刷のためのビットマップイメージを生成するステップとを有することを特徴とするプリント方法。
【請求項15】描画コマンドを含んだ印刷ジョブデータをホストコンピュータから受信する手段と、受信した印刷ジョブデータ内の描画コマンドが中間コードの形式で表現されているとき、この中間コードに基づいて印刷のためのビットマップイメージを生成するビットマップイメージ生成手段とを有することを特徴とするプリンタ。
(2) 本件訂正に係るもの(訂正部分には下線を付す。なお,上記(1)の【請求項6】,【請求項9】,【請求項10】及び【請求項12】~【請求項15】は削除された。)
【請求項1】ホストコンピュータとこれに接続されたプリンタとを備えたプリントシステムにおいて、前記ホストコンピュータが、プリンタに対する描画コマンドを含んだ印刷ジョブデータを生成するためのプリンタドライバを有し、前記プリンタドライバが、少なくとも一部の描画コマンドが第1の中間コードの形式で表現され残りの描画コマンドが高水準のプリンタ制御言語で表現されているか又は全ての描画コマンドが前記第1の中間コードの形式で表現されている中間水準の印刷ジョブデータを生成するための中間水準ジョブデータ生成手段を有し、前記プリンタが、前記中間水準の印刷ジョブデータを受け、前記描画コマンドを、第2の中間コードに変換するための中間コード変換手段と、前記第2の中間コードを印刷のためにビットマップイメージに変換するための手段とを有し、前記第1の中間コードは、前記第2の中間コードとは相違する形式であって、描画されるべき文字又はイメージのビットマップイメージデータを含み且つ同じ文字又はイメージのビットマップイメージデータの繰り返しを避けた形式になっている、ことを特徴とするプリントシステム。
【請求項2】請求項1記載のシステムにおいて、前記中間水準の印刷ジョブデータが、前記第1の中間コード形式の描画コマンドがどれであるかを示すための指示情報を含み、前記中間コード変換手段が、前記指示情報に従って前記第1の中間コードの形式の描画コマンドを識別することを特徴とするプリントシステム。
【請求項3】請求項1記載のシステムにおいて、前記プリンタドライバが、全ての描画コマンドが高水準のプリンタ制御言語で表現されている高水準の印刷ジョブデータを生成するための高水準ジョブデータ生成手段と、前記中間水準ジョブデータ生成手段と前記高水準ジョブデータ生成手段の内の一方を選択するためのモード選択手段と、を更に有し、前記プリンタが、前記高水準の印刷ジョブデータを受け、前記プリンタ制御言語で表現された描画コマンドを前記第2の中間コードに変換するためのグラフィック手段を更に有することを特徴とするプリントシステム。
【請求項4】請求項3記載のシステムにおいて、前記モード選択手段が、前記中間水準ジョブデータ生成手段と前記高水準ジョブデータ生成手段のいずれを選択するかの決定を、印刷ジョブ毎、ページ毎、バンド毎、描画コマンド毎又はアプリケーションプログラム毎に自動的に行うことを特徴とするプリントシステム。
【請求項5】請求項3記載のシステムにおいて、前記モード選択手段が、印刷ジョブがプリンタ内部のフォントとを使用する場合は必ず、前記高水準ジョブデータ生成手段を選択することを特徴とするプリントシステム。
【請求項6】請求項1記載のシステムにおいて、前記中間水準ジョブデータ生成手段が、事情に応じて前記第1の中間コード形式の描画コマンドからビットマップイメージデータを事前展開する事前展開手段を含むことを特徴とするプリントシステム。
【請求項7】ホストコンピュータとこれに接続されたプリンタとを用いたプリント方法において、前記ホストコンピュータにおいて、プリンタに対する描画コマンドを含み、少なくとも一部の描画コマンドが第1の中間コードの形式で表現され残りの描画コマンドが高水準のプリンタ制御言語で表現されているか又は全ての描画コマンドが前記第1の中間コードの形式で表現されている中間水準の印刷ジョブデータを生成して、前記プリンタに送信するステップと、前記プリンタにおいて、前記中間水準の印刷ジョブデータを受信し、前記描画コマンドを第2の中間コードに変換するステップと、前記プリンタにおいて、前記第2の中間コードを印刷のためにビットマップイメージに変換するステップとを有し、前記第1の中間コードは、前記第2の中間コードとは相違する形式であって、描画されるべき文字又はイメージのビットマップイメージデータを含み且つ同じ文字又はイメージのビットマップイメージデータの繰り返しを避けた形式になっている、ことを特徴とするプリント方法。(注,上記(1)の【請求項8】を訂正した請求項)
【請求項8】描画コマンドを含み、少なくとも一部の描画コマンドが第1の中間コードの形式で表現され残りの描画コマンドが高水準のプリンタ制御言語で表現されているか又は全ての描画コマンドが前記第1の中間コードの形式で表現されている中間水準の印刷ジョブデータを受信する手段と、受信した前記中間水準の印刷ジョブデータの描画コマンドを第2の中間コードに変換するための中間コード変換手段と、前記第2の中間コードを印刷のためにビットマップイメージに変換するための手段とを有し、前記第1の中間コードは、前記第2の中間コードとは相違する形式であって、描画されるべき文字又はイメージのビットマップイメージデータを含み且つ同じ文字又はイメージのビットマップイメージデータの繰り返しを避けた形式になっている、ことを特徴とするプリンタ。(注,上記(1)の【請求項11】を訂正した請求項)
3 本件決定の理由の要旨
(以下,いずれも本件特許出願前頒布の刊行物である特開平5-318839号公報(本訴甲3,審判甲1)を「刊行物1」、特開平6-195182号公報(本訴甲4,審判甲2)を「刊行物2」、特開平7-98636号公報(本訴甲5,審判甲3)を「刊行物3」、特開平4-83663号公報(本訴甲6,審判甲4)を「刊行物4」,特開平6-242897号公報(本訴甲7,審判甲5)を「刊行物5」という。)
本件決定は,本件発明の要旨を,訂正前明細書の特許請求の範囲の記載(上記第2の2の(1))のとおりと認定した上,本件発明1は,刊行物1に記載された発明又は刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明2は,刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明3は,刊行物1,3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明4は,刊行物1,3に記載された発明,刊行物1,3,4に記載された発明又は刊行物1,3,5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明5は,刊行物1,3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明6は,刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明7は,刊行物1,3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明8,9は,上記本件発明1についての判断と同様であり,本件発明10は,上記本件発明3についての判断と同様であり,本件発明11は,刊行物1に記載された発明又は刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明12は,刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明13は,刊行物1に記載された発明又は刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明14は,上記本件発明13についての判断と同様であり,本件発明15は,刊行物1に記載された発明又は刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1~15に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消すべきものであり,本件発明9,10に係る発明は明細書に記載されておらず,本件発明12は明確でないから,本件発明9,10,12に係る特許は,同法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当し,取り消すべきものであるとした。
第3原告主張の決定取消事由
本件決定が,本件発明の要旨を訂正前明細書の特許請求の範囲の記載(上記第2の2の(1))のとおりと認定した点は,訂正審決の確定により特許請求の範囲が上記第2の2の(2)のとおり訂正されたため,誤りに帰したことになるから,本件決定は,本件発明の要旨の認定を誤った違法があり,取り消されなければならない。
第4被告の主張
訂正審決の確定により,本件特許に係る特許請求の範囲の記載が上記のとおり訂正されたことは認める。
第5当裁判所の判断
訂正審決の確定により,本件特許に係る特許請求の範囲の記載が上記第2の2の(2)のとおり訂正されたことは当事者間に争いがなく,この訂正によって,特許請求の範囲が減縮されたことは明らかである。
そうすると,本件決定が,本件発明の要旨を,訂正前明細書の特許請求の範囲の記載(上記第2の2の(1))のとおり認定したことは,結果的に誤りであったことに帰し,これが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件決定は,瑕疵があるものとして取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 岡本岳 裁判官 早田尚貴)