東京高等裁判所 平成14年(行コ)44号 判決 2004年5月27日
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人が被控訴人に対し平成12年8月31日付けでした本件土地に係る平成12年度固定資産課税台帳登録価格についての審査申出に対する価格決定のうち,同土地の価格8765万6461円を超える部分を取り消す。
3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを4分し,その1を被控訴人の,その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決主文第2項を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
2 被控訴人
控訴棄却
第2事案の概要
1 本件土地の共有者である被控訴人は,本件土地につき固定資産課税台帳に登録された平成12年度の価格が適正な時価を上回る違法なものであるとして,平成12年5月29日,控訴人に対して審査申出をし,控訴人は,同年8月31日付けで登録価格を1億9199万6897円から1億5305万7116円へと一部変更する旨の決定(本件決定)をした。
本件は,被控訴人が,本件決定による価格は,なお適正な時価である6309万0646円を上回るから,本件決定は違法であるとして,本件決定の取消し(被控訴人は,当初の本件決定の全部取消しを求めるとの請求の趣旨を,6309万0646円を上回る部分の取消しを求めるとの請求の趣旨に変更する旨の申立てをしている。)を求めている事案である。
原判決は,本件土地の賦課期日(平成12年1月1日)における客観的時価は1億4651万2237円であり,本件決定によって変更された登録価格は,なおこれを上回るものであるから,本件決定は違法であるとした。そして,登録価格の審査決定の一部取消しを求めることはできないものとし,被控訴人の請求の趣旨変更申立てを別訴の提起とみてこれを却下した上で,本件決定を全部取り消した。これに対し,控訴人が不服を申し立てたものである。
2 以上のほかの当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由欄第2(2頁以下)記載のとおりであるから,これを引用する。
(控訴人の当審における主張)
(1) 固定資産の登録価格として法が予定する不動産の「適正な時価」とは,正常な条件の下に成立する当該不動産の取引価格,すなわち客観的交換価値をいうものである。そして,その概念には一定の合理的幅が内包されている。固定資産評価基準(昭和38年12月25日自治省告示第158号。以下「評価基準」という。)を用いた場合でも,その適用,運用によっては,必ずしも同じ価額が算出されるものではないし,評価基準上の算出価額は,適正な時価として法が許容する合理的な幅を想定する目安にはなっているが,直ちに適正な時価を決定づけるものではない。評価基準は裁判所を法的に拘束するものではなく,裁判所としては,控訴人の判断した価額が評価基準に則っていたとしても,必ずしも忠実に則っていなかったとしても,法の要求する客観的な交換価値を反映した価額として妥当性を失していないかを,別途審理を尽くして検討すべきである。しかるに,原判決は,A市固定資産(土地)評価事務取扱要領(取扱要領)が評価基準に照らして合理性を欠くとし,評価基準について独自の解釈を示して,これに従い,裁判所自らが評価基準により本件土地の価額を算出して得られた金額を適正な時価であるとし,本件決定による価格がこれを上回ることから,本件決定を直ちに違法であると判断しており,評価基準自体を過大視するものといわざるを得ない。
評価基準においては,市街化区域農地の基本価額(造成費相当額を控除する前の価格)を評価するに際して,状況が類似する宅地(状況類似宅地)の価額に比準する価額によって定めることとされているのみであり,その具体的方法については,直接規定していない。すなわち,評価基準は,市街化区域農地の基本価額につき状況類似宅地との合理的均衡を保つべきことを要求するが,具体的な評価方法については,格別の手法的拘束をしないことを明らかにしているのである。したがって,市町村長が,上記の合理的均衡を保つにつき一定の合理的な手法を用いて評価し,かつ,評価額が結果として合理的均衡を保っている限りにおいては,評価基準に違反しているものとは解されない。しかるに,原判決は,評価基準は,市街化区域農地に関し,原則として宅地の評価方法を適用することを定めたものと解すべきであるとし,当該市街化区域農地自体に直接的に市街地宅地評価法に基づく画地計算法を原則として適用しなければならないという独特な解釈をしている。
(2) 取扱要領による評価方法は,評価基準に適合し,適正な時価への接近方法として一般的合理性を有する。その具体的方法は,市内を12か所の状況類似地域に分け,各地域内の普通住宅地区内にある宅地の路線価格の平均値に画地計算法等適用相当分としての乗率0.75を乗じて基本価額を求めるものである。路線価に画地計算法等適用相当分の乗率を乗ずるという枠組み自体は,画地計算法とも合致しているし,路線価は平均値であり,しかも,一般に地価が高水準となる併用住宅地区を除く普通住宅地区内の路線価を用いることによって謙抑的なものとしている。12か所の状況類似地域の区分も,A市における道路状況や公共施設等の接近その他の利用上の便等を考慮しながら地域分けをしたものであり,かつ,地域ごとに極端に高値である路線価格を排除しながら,平準化された合理的数値に抑制的に平均路線価を設定しようと試みるものである。また,0.75という乗率も,画地計算法における最も基本的な補正要素である奥行価格補正につき,その補正率の下限値である0.80を超える補正をするものである。本件土地については,直接には道路に接していないという外形があるが,本件土地と道路との間には,その所有者を同一にする別件土地が介在し,本件土地が道路に通ずるにつき何ら支障や障害を与えていないから,本件土地は,無道路地ではない,あるいは,無道路地補正をする必要がないという判断も十分にあり得る。しかし,控訴人は,より謙抑的に,外形上,無道路地的要素が存することを尊重し,一般的合理性のある0.75という数値をさらに0.6まで下方修正して適用したものであり(無道路地補正率として0.6を適用したものではない。),本件土地の基本価額を12万4800円/㎡と判断したことは,別件土地との均衡からみても,適正であり,何ら違法というべきものではない。
(3) 仮に,原判決のような解釈をもって,本件土地に直接的に宅地の評価方法(画地計算法)を適用したとしても,原判決の評価基準の解釈適用には誤りがある。
まず,本件土地と別件土地は,その形状,利用状況からみて,一体をなしているというべきであり,1画地として評価すべきものである。本件土地の公簿上の地目は畑であり,農地とされているが,実際に耕作されるなどの状況はなく,また,両土地の境は,フェンスや樹木等で仕切られているわけでもない。本件土地の現況を評定した場合,本件土地と別件土地の区別は母屋たる建物が別件土地内に存する以外に特に異なるところはなく,これを別々の画地とみるべき必然性は全くない。本件土地と別件土地は1画地として評価されるべきものである。
また,本件土地は評価基準上の無道路地には該当しない。無道路地という用語の本来的な意味は,囲繞地通行権を発生させるような盲地であり,出入口が判然としない場合又は全くない場合のみが評価基準でいう無道路地の取扱いを受けるものである。本件土地のように別件土地を通じて公道と自由に行き来できる状況にある場合,無道路地補正率の適用はないというべきである。仮に,本件土地の出入口が判然としないような場合であっても,本件土地と隣接し,公道に接している別件土地と本件土地の所有者が同一である以上,本件土地につき囲繞地通行権が発生する余地はなく,その所有者が囲繞地通行権の行使等をすることによって被る負担増や土地の経済的価値の低下はないのであるから,無道路地ではない。
さらに,本件土地が無道路地であるとしても,原判決が当然のように無道路地補正率0.6を適用したことは適正さを欠くものである。無道路地補正率は一律に0.6とされているものではなく,0.6はその下限である。本件土地と別件土地の現況,利用状況から別画地とすべきか否かも疑問であるし,本件土地が所有者を同一とする別件土地を介して道路に通じていることからしても,下限を適用する理由はない。上記補正率の決定を左右する近傍の宅地との均衡を考えてみても,最大でも0.7までの適用しかないと解するのが相当である。
ちなみに,本件土地と別件土地は所有者を同一としているのであるから,道路取得費用という架空の経費を控除することは,実際にその費用を必要とする納税者との間に不公平を生ずるのであり,原判示のとおり,通路開設補正の適用はないというべきである。
(4) 乙7の不動産鑑定評価書によれば,本件土地の平成12年1月1日時点における不動産鑑定評価基準に準拠した正常価格は,1㎡当たり19万5000円であり,本件土地全体の正常価格は,2億5090万0650円となり,本件決定による価格は,適正な時価を超えるものではない。また,同鑑定評価書が,正常売買価格を鑑定する上での一判断要素として試算した収益価格は,1㎡当たり17万5000円であり,造成及び道路築造工事費等を控除した場合の最終価格は,1㎡当たり16万7888円であって,やはり本件決定における価額を上回っている。また,乙8の鑑定評価補充書は,本件土地の収益価格を求めるための最も標準的な最有効使用の形態をアパートの建築であると想定して収益還元価格を求めたものであるが,還元利回りを4.5%として算出した価格,5%として算出した価格のいずれもが本件決定における価額を上回っている。
(被控訴人の当審における主張)
(1) 同一の位置にある農地と宅地について,宅地よりも農地の方が価額が高くなるというような算出方法には合理性がない。12か所という大まかな区分に基づき,一律に0.75という画地計算法等適用相当分を乗ずるという取扱要領の評価方法は,当該画地が道路に面しているような場合はともかく,道路から離れている本件土地のような場合には,市街化区域農地でありながら,宅地よりもその価額が高く評価される結果をもたらすものであり,不合理である。税の公平性,客観性,画一性を考えれば,客観的な基準によるべきであり,個別具体的に修正を加えなければならないということは,取扱要領が,基準としての合理性,明確性を欠くものであることを示している。取扱要領の破綻は,控訴人が0.75という一律に定めた乗率ではなく,0.6という乗率を用いたことからも明らかである。
(2) 原判決が,画地計算法を用いて本件土地の価格を算定したことは相当であるが,不整形地補正率を1.00とした点及び通路開設補正率を適用しなかった点は誤りである。
不整形地補正率は,蔭地割合を求めた上でその補正率を定めるものであるが,蔭地割合は,想定整形地の地積から評価対象画地の地積を差し引いて,想定整形地との比率を求めるものである。そして,想定整形地は,路線からの垂線又は画地が路線に接する両端を結ぶ垂線によって画地を囲む矩形のうちもっとも面積の小さいものをいうのである。本件土地は路線に接していないので,その想定整形地は,路線からおろした垂線で囲む矩形により想定するものである。原判決が前提とした想定整形地は,本件土地自体を矩形を囲んだにすぎす,路線から垂線をおろして本件土地を囲んだものではないから,算出された蔭地割合は誤っている。正しい想定整形地を前提とした本件土地の不整形地補正率は,0.72又は0.88である。
また,本件土地を宅地として利用するには,別画地である別件土地に通路を設定しなければならず,その点は,本件土地と別件土地の所有者が同一であったとしても同様である。しかも,本件土地と別件土地は,相続財産であって,共有土地にすぎず,遺産分割の方法によっては,所有者が異なることが予想されるのである。したがって,本件土地の価格の算定に当たっては,通路開設補正率を適用すべきである。
(3) 乙7の不動産鑑定評価書は,いわゆる実勢価格を評価するものであり,固定資産税賦課のための算定評価ではない。不動産所有についての租税である固定資産税における適正な時価はその収益価格を上限とすべきである。しかも,同鑑定評価書は,本件土地と別件土地を1筆として利用することを前提にその価格を算定評価をするという誤りを犯している。また,乙8の鑑定評価補充書は,乙7が本件土地の最有効使用として一戸建て住宅を建築して賃貸することを想定して評価しているにもかかわらず,その最有効使用を共同住宅建築とした上,開発行為の必要性や東京都建築安全条例上の問題等を無視して,現実離れした無理な計画を立てており,これによって算出された収益還元価格は採用することができない。
そして,乙7の不動産鑑定評価書が採用した最有効使用を前提とした上で,本件土地の収益価格を求めると本件土地の価額は5345万8165円となる。すなわち,同鑑定評価書では,土地残余法による収益価格から標準的画地の収益価格1㎡当たり17万5000円としているが,そこで用いられている還元利回り4.5%を民事法定利率と同じ5%として計算すると1㎡当たり15万円となる。さらに,本件土地の個別的要因による格差率(相乗方式によれば69%,相和方式によれば68%)を考慮した上で,本件土地の造成費,本件土地及び別件土地の分筆・道路築造工事費,給排水・ガス工事費,道路用地取得価額等7906万8845円を控除すると,本件土地の収益価格は,相乗方式の場合は5474万4835円,相和方式の場合は5217万1495円となり,その平均値は,5345万8165円となる。本件土地の適正な時価は,この収益価格を上限とすべきものである。
第3当裁判所の判断
1 固定資産税の課税標準について
地方税法は,土地に対して課する固定資産税の基準年度の課税標準は,当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格,すなわち,適正な時価であり,土地課税台帳に登録されたもの(登録価格)であると定めている(349条1項,341条5号)。適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該不動産の取引価格,すなわち,客観的交換価値である。そして,同法は,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を評価基準にゆだね,市町村長は,この評価基準によって,固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(同法388条1項,403条1項)。(最高裁平成10年(行ヒ)第41号同15年6月26日第一小法廷判決参照。)
こうした規定によれば,地方税法は,固定資産税の課税標準となる不動産の登録価格について,「登録価格は賦課期日における当該不動産の適正な時価を超えてはならない。」という規範(第1の規範)を定める一方で,「登録価格は固定資産評価基準によって決定される価格を超えてはならない。」という規範(第2の規範)をも定めているものと解すべきである。
評価基準は,全国一律の統一的基準による評価によって評価の均衡を図るために定められるものであるが,それは固定資産評価における大量処理の制約の下で賦課期日における適正な時価を決定するためのものであるから,不動産の登録価格が評価基準によって決定されたものであっても,それが適正な時価を上回るものであれば,第1の規範に違反することになり違法となる。一方で,その登録価格が個別具体的に算出された当該不動産の適正な時価を下回っていたとしても,これが評価基準によって決定される価格を超えているものと評価される場合には,評価の均衡を失することとなり,第2の規範に違反するものとして違法となる。結局,不動産の登録価格が実体的に適法であるためには,両規範を満たす必要があるものというべきである。
控訴人は,評価基準は裁判所を拘束するものではなく,裁判所は,その評価が評価基準に従っているか否かにかかわらず,地方税法の要求する適正な時価を探求し,登録価格がその合理的な幅の範囲内にとどまっているか否かを判断すべきである旨を主張するようである。しかしながら,上記のとおり,不動産の登録価格が,仮に当該不動産について個別具体的に算出された適正な時価を下回っていたとしても,それが評価基準に従って算出される価格を上回るものであるとすれば,第2の規範に違反するものとして違法となるというべきである。控訴人は,本件土地の適正な時価の根拠として,乙7,8の不動産鑑定評価書及び補充書を提出し,本件決定に係る本件土地の価額が,これらの鑑定評価書等による正常価格を下回るから,適正な時価を超えるものではないという。しかし,第2の規範を充足していない評価は,仮に,それが適正な時価の範囲内であり,第1の規範を充足するものであったとしても,違法であることは上記のとおりである。本件においては,後記のとおり,むしろ,控訴人の評価が第2の規範を充足しているか否かが問題とされているというべきであるから,本件決定による登録価格が,こうした鑑定評価書等に記載された正常価格を下回っていることをもって,本件決定が違法でないということはできない。この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。
2 本件土地の状況,本件決定に至る経緯及び本件決定の内容当事者間に争いのない事実に加え,証拠(甲1,5,8,9,11,乙2,3。枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件土地及びその南側に隣接する別件土地は,被控訴人を含む亡Bの相続人が共有している。
本件土地の不動産登記簿上の地目は畑であり,本件土地上には熱帯性植物であるポポーの木のほか,白樺や白雲木などが生い茂っている。
別件土地は,その南側で幅員約7mの街路(南側街路)に接しており,別件土地上には被控訴人らが居住する建物が建てられている。
本件土地は,路線に接しておらず,本件土地への出入りは,別件土地を利用して行われている。
(2) 本件土地の不動産登記簿上及び現況の地目はいずれも畑であり,地方税法附則19条の2第1項に規定する市街化区域農地に該当する。
評価基準は,市街化区域農地の評価について,沿接する道路の状況,公共施設等の接近の状況その他宅地としての利用上の便等からみて,当該市街化区域農地とその状況が類似する宅地の価額を基準として求めた価額から当該市街化区域農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する額を控除した価額によってその価額を求める方法によるものとしている(第1章第2節の2)。
A市においては,評価基準に基づき,取扱要領を定め,これに基づき土地の評価を行っている。取扱要領は,市街化区域農地の評価については,沿接する道路の状況,公共施設等の接近の状況その他の宅地としての利用上の便等からみて,当該市街化区域農地とその状況が類似する宅地の価額を基準として求めた基本価額から当該市街化区域農地を宅地に転用する場合において,通常必要と認められる造成費相当額を控除した価額によってその価額を求める方法によるという評価基準と同様の一般論を前提とした上で,その基本価額は,市内を12か所の状況類似地域に分け,各地域内の宅地の平均路線価格に画地計算法等適用相当分としての乗率0.75を乗じて得た価額とし,高圧線影響地補正以外の画地計算法は適用しないものと定めている。なお,各地域内の宅地の平均路線価格は,市街地宅地評価法により評定された状況類似地域内の普通住宅地区の路線価格の平均価格とすることとされ,造成費相当額は,東京都から通知される価額を参考にして求めるものと定められている。
(3) A市長は,次のとおり,本件土地に対する平成12年度の固定資産税の課税標準となるべき価格を算出し,その価格である1億9199万6897円を固定資産課税台帳に登録した。
ア 本件土地と状況が類似する地域内の普通住宅地区の各路線について,市街地宅地評価法によって評定された各路線価格の平均価格20万8000円に画地計算法等適用相当分としての乗率0.75を乗じ,平成11年1月1日時点における基本価額を15万6000円と算出した。
20万8000円×0.75=15万6000円
イ 上記基本価額に本件土地の地積1286.67㎡を乗じて平成11年1月1日時点における価額を算出した上,平成11年1月1日から同年7月1日までの地価下落に伴う修正率を0.97として,平成12年度の価額を1億9469万8904円と算出した。
15万6000円×1286.67×0.97=1億9469万8904円
ウ 上記平成12年度の価額から,東京都から通知される価額を参考にして求めた1㎡当たりの造成費2100円に地積を乗じて得られた造成費相当額270万2007円を控除して,本件土地の平成12年度の登録価格を1億9199万6897円と算出した。
1億9469万8904円-270万2007円=1億9199万6897円
(4) 被控訴人は,平成12年5月29日,控訴人に対し,本件土地の登録価格を不服として審査の申出をした。控訴人は,平成12年8月31日,本件土地は1画地として評価すべきであり,直接には路線に接しないことを前提とすると,状況が類似する宅地の価額との関係では画地計算法上の無道路地補正の適用が認められ得る土地であるから,A市長が本件土地の評価に当たって適用した画地計算法等適用相当分の乗率0.75は適当でなく,無道路地補正率に相当する乗率0.6を適用することとして,次の計算のとおり,本件土地の適正な時価を1億5305万7116円と算出し,被控訴人の審査申出はこの限度において理由があるとして,登録価格を同価格と変更する内容の本件決定をした。
20万8000円×0.6=12万4800円
12万4800円×1286.67×0.97=1億5575万9123円
1億5575万9123円-270万2007円=1億5305万7116円
3 市街化区域農地の評価について
本件において問題とされているのは,市街化区域農地の評価であるが,上記認定事実のとおり,評価基準は,市街化区域農地については,沿接する道路の状況,公共施設等の接近の状況その他宅地としての利用上の便等からみて,当該市街化区域農地とその状況が類似する宅地の価額を基準として求めた価額から当該市街化区域農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する額を控除した価額によってその価額を求める方法によるものとしている。こうした評価基準による評価の手法は,市街化区域農地が市街化区域内に存する農地であり,将来的には宅地として利用される蓋然性が高く,実質的にみれば宅地としての潜在的価値を有し,実際の売買価格も宅地と同水準にあることから,近隣の宅地等との均衡を図る必要がある一方,市街化区域農地はあくまでも農地であるから,宅地とするためには土盛り及び整地をしなければならないため,土盛り等の造成費相当分を控除することとしたものと認められる。したがって,評価基準の上記手法は,市街化区域農地の適正な時価を算定するための評価手法として,一般的な合理性を有すると認められる。
そして,通常,A市のような大都市近郊の市街化区域内においては,特段の事情がない限り,同一の位置にある農地の基本価額が宅地(厳密にいえば,未造成であり,宅地として利用するには土盛り及び整地をしなければならない宅地)の価額を上回ることは想定し難いというべきである。そうすると,本件土地の評価については,市街化区域農地について宅地に比準してその価額を求めることとしている評価基準は,市街化区域農地である本件土地が同一の位置にある宅地の価額を上回ることは想定していないものと解すべきであり,本件土地の評価額が,本件土地を宅地と同様に画地計算法に従って評価した額を上回っているとすれば,その評価は,評価基準に従ったものとはいえず,その限度で違法となるものというべきである。
なお,甲29によれば,改正後のA市固定資産(土地)評価事務取扱要領(改正後の取扱要領)においては,市街化区域農地の評価方法については,従前の評価方法から,その基本価額は「市街地宅地評価法」に準ずる方法,評価基準別表第3に定める「画地計算法」を適用し求めるものとするが,農地としての特性を考慮して「画地計算法」の定める側方路線影響加算法,二方路線影響加算法は適用しないものとするという方法に改正されているところである。
4 本件土地の評価について
以下,本件土地につき宅地と同様に画地計算法に従って評価した場合の価額について検討する。
(1) 控訴人は,本件土地と別件土地は,その形状,利用状況からみて,一体をなしているというべきであり,両土地を併せて1画地として評価すべきものである旨を主張する。しかしながら,上記認定事実のとおり,本件土地と別件土地は,不動産登記簿上の地番及び地目を異にするものであるし,その現況も,別件土地上には被控訴人らが居住する建物が建てられている一方,本件土地上には樹木が生い茂っており,両者が一体として利用されているものとは認め難い。現に,控訴人においても,本件土地と別件土地を別の画地として,その評価を行っていたのである。そうすると,本件土地と別件土地の境界にフェンス等がないことを考慮しても,両土地をもって1画地とみることはできないというべきである。この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。
(2) そこで,本件土地を1画地として,宅地における画地計算法に従って評価した場合の価額を検討する。
ア 乙7によれば,本件土地は,市街地的形態を有する区域内に存在すると認められるから,本件土地の評価に当たっては,まず,市街地宅地評価法である路線価方式により,路線価を算定した上で,画地計算法を適用して,価額を算定することとする。
上記認定事実のとおり,本件土地は,直接路線に接しない土地であり,評価基準上の無道路地に当たるというべきである。
控訴人は,本件土地のように別件土地を通じて公道と自由に行き来できる状況にある土地には,囲繞地通行権が発生する余地はなく,無道路地とはならない旨を主張する。しかしながら,本件土地を別件土地とは異なる一つの画地としてみる以上,本件土地は直接路線に接していない土地であるといわざるを得ない。評価基準は,その画地計算法において,路線に接しない土地を無道路地としているのであって,周辺土地の所有者との関係等を考慮して,囲繞地通行権が発生するか否かによって,無道路地となるか否かを決定することとしているものと解することはできない。本件土地を一つの画地として評価する場合には,路線に接していないことにより,その評点が下がることはむしろ当然というべきである。この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。
イ 評価基準(乙1)によれば,無道路地の評点算出法は,当該無道路地を利用する場合において,その利用上最も合理的であると認められる路線の路線価に奥行価格補正率表によって求めた補正率,通路開設補正率表によって求めた補正率及びその無道路地の近傍の宅地との均衡を考慮して定める無道路地補正率(下限0.6)を乗じて1㎡当たりの評点数を求め,これに当該無道路地の地積を乗じてその評点数を求めることとされている。
甲6によれば,本件土地の利用上最も合理的であると認められる路線は南側街路であり,その路線価は24万6000点である。そして,甲5及び弁論の全趣旨によれば,本件土地は普通住宅地区にあり,正面路線からの遠い奥行は約88.5m,近い奥行は30m超である。そうすると,奥行価格補正率は,評価基準別表第3の附表1により,正面路線からの遠い奥行が88メートル以上100メートル未満の場合の0.81が適用される。また,通路開設補正率は,評価基準別表第3の附表9により,正面路線からの近い奥行が30m超の場合の0.6が適用される。
控訴人は,通路開設補正率については,本件土地と別件土地は所有者を同一としているのであるから,道路取得費用という架空の経費を控除すべきではない旨を主張し,取扱要領によれば,実際に利用している街路への通路が同一の所有者である場合等には通路開設補正は適用しないものとしている。しかしながら,本件土地が別件土地とは異なる画地とみるべきことは上記のとおりであり,現に別件土地は本件土地のための通路の負担を伴う土地としては評価されていない(甲1)。そして,評価基準上,本件土地を一つの画地として評価する場合には,その利用に当たって道路の開設が必要となることは,これに接して同一所有者の土地があるか否かにかかわらないというべきであり,道路の取得,開設費用が架空の費用であるなどとはいえない。評価基準は,画地計算法の適用において,市町村長が宅地の状況に応じて,必要があるときは,評価基準別表第3の「画地計算表」の附表等について,所用の補正をして,これを適用するものとする旨を定めている(第1章第3節二(一)4)。しかし,評価基準は,当該宅地の客観的状況を考慮した補正率等の所用の補正を想定しているものと解すべきであり,無道路地である当該宅地に通じる別画地に含まれる通路の権利関係を確定した上で画地計算上異なる取扱いをすることを想定しているものとは解し難い。事実上,同一所有者の土地を利用して街路への通路としている場合につき,通路開設補正率の適用自体を否定することは,評価基準の想定する所用の補正の範囲を超えるものというべきであり,通路開設補正率の適用自体を否定して行う評価は,その限度で評価基準に従った評価とはいえないと解すべきである。そして,取扱要領は,通路開設補正率自体については,評価基準別表3の附表9と同様の補正率を定めている。したがって,評価基準の定める画地計算法に従って評価する場合,本件土地については,通路開設補正率0.6を適用するのが相当であるというべきである。
ウ 評価基準は,無道路地補正率について,その下限を0.6とした上で,その無道路地と近傍の宅地との均衡を考慮して定める無道路地補正率表によるものとしており,その補正率の数値については,具体的な基準を示していない。取扱要領は,この評価基準に基づいて具体的な基準を定めているものであるが,無道路地補正率については,一律に0.6(40%減価)と定めている。
控訴人は,評価基準の定める無道路地補正率は,1.0から0.6まであり,所有者を同じくする別件土地によって街路に通じている本件土地につき,無道路地補正率0.6を適用することはできない旨を主張する。確かに,評価基準は無道路地補正率につきその具体的基準を示していないところであるが,取扱要領は,近傍の宅地との均衡を考慮して定める無道路地補正率表については,段階的な基準を定めることなく,平成12年度からは,一律に下限である0.6を適用すべきものとしている(平成11年度までは一律に0.7を適用するものとしている。)。取扱要領上,近傍宅地との均衡を考慮した段階的な基準を定めていない理由は特に記載されていない。そうすると,A市においては,大都市近郊の市街化宅地の評価につき,無道路地であることによる補正はこうした一律の補正率の適用で足りるとしているものと解されるのであり,そのように定めることが不合理ともいえない。そして,取扱要領が,同一の所有者の土地を利用して街路に通じる土地につき通路開設補正率を適用しないとしていることとの関係で,このような一律の無道路地補正率を定めているのか否かは明らかではない。以上によれば,他にそのような取扱要領の基準の合理性を疑わせるような事情がうかがわれない本件においては,本件土地の無道路地補正率につき,取扱要領の定める0.6の補正率を適用すべきである。
エ 本件土地は不整形地であるが,甲第5号証の1及び2並びに弁論の全趣旨によれば,普通住宅地区にあり,蔭地割合が10%未満であるから,不整形地補正率1.00が適用されるというべきである。
被控訴人は,蔭地割合は,想定整形地の地積から評価対象画地の地積を差し引いて,想定整形地との比率を求めるものであるが,想定整形地は,路線から垂線をおろして囲むことにより想定するものであり,路線と無関係に本件土地を囲む想定整形地を判定することは誤っている旨を主張する。確かに,取扱要領には,想定整形地とは,路線からの垂線又は画地が路線に接する両端を結ぶ直線からの垂線によって画地を囲む矩形のうち最も面積の小さいものをいう旨規定されている。しかし,一方で,取扱要領は,無道路地については,奥行価格補正率,通路開設補正率,無道路地補正を適用するが,近傍の宅地の価格との均衡を考慮し,さらに必要があると認める場合,不整形地補正率を適用するものとするにとどまっている。そうすると,路線からの垂線により想定整形地を判定する旨の上記規定は,当該画地が路線に接していることを想定したものと解することができ,路線と接していない無道路地については,直接の適用がないものと解することができる。実際にも,無道路地である宅地の利用を考慮する場合には,直接接する路線がないため,通路開設等を行うことになり,その通路を介して正面路線と通じることになるのであるから,当該画地それ自体の不整形の点は格別,利用上想定される正面路線と当該画地とが接する角度等は,必ずしも宅地としての利用のしやすさと結び付くものとも考えられない。したがって,無道路地における不整形地補正において,路線と無関係に当該画地を囲む想定整形地を判定することが不合理とはいえない。この点に関する被控訴人の主張は,採用することができない。
なお,甲29によれば,改正後の取扱要領においては,無道路地において不整形地補正率を適用する場合の想定整形地は,当該画地を囲む最も面積の小さい矩形とする旨明記されるに至っているところである。
(3) 以上によれば,本件土地につき,宅地と同様の画地計算法に従った場合の1㎡当たりの評点数は7万1733点となり,その地積を乗じた本件土地の評点数は9229万6699点となる。
24万6000点×0.81×0.6×0.6×1.00=7万1733点
(路線価×奥行価格補正率×通路開設補正率×無道路地補正率×不整形地補正率=1㎡当たりの評点数。小数点以下切捨て。以下同じ。)
7万1733点×1286.67㎡=9229万6699点
(1㎡当たりの評点数×本件土地の地積=本件土地の評点数。)
甲1及び弁論の全趣旨によれば,宅地である別件土地の平成11年1月1日から同年7月1日までの地価下落修正率は0.979であることが認められる。そして,平成12年1月1日時点における本件土地の価額を宅地と同様の画地計算法によって求める場合,すなわち,本件土地を宅地と仮定して,本件土地の造成費相当額控除前の基本価額を求める場合には,別件土地と同様の地価下落修正率を適用して,同日時点の価額を求めるべきである。そうすると,本件土地の同日時点での価額は9035万8468円となる。
9229万6699点×1円×0.979=9035万8468円
(本件土地の評点数×1点当たりの価額×地価下落修正率=平成12年1月1日における価額。1円未満切捨て。)
そして,本件土地は,実際には宅地ではないので,宅地に転用するための造成費相当額を控除すべきであり,その造成費相当額は1㎡当たり2100円であるから,上記価額から造成費相当額270万2007円を控除すると8765万6461円となる。
9035万8468円-270万2007円=8765万6461円
(4) 以上によれば,本件決定により変更された本件土地の登録価格は,なお評価基準に従って算定されるべき価格を上回っていると認められ,その限度で違法というべきである。
なお,被控訴人は,収益価格を上限とした本件土地の適正な時価は,5345万8165円である旨を主張するが,その根拠となる収益価格の算定方法は,本件土地の個別的要因による格差率につき,乙7の不動産鑑定評価書において6m道路を築造することを前提とした道路潰地相当に関する格差率27%,造成・道路工事費等相当に関する格差率2%のうち,前者を含めた格差率を用いた上で,自らの試算に係る多額の造成・道路工事費等だけではなく,本件土地の利用のために6m道路を取得する費用等をも控除するなど,独自の計算に基づくものであり,これをもって,本件土地の適正な時価を示すものとは認め難い。そして,他に,上記(3)認定に係る評価基準に従って算定されるべき本件土地の価格が,適正な時価を上回っていることを認めるに足りる証拠はない。
3 審査決定の一部取消しの可否について
固定資産の登録価格が,その評価の手続過程の適否ではなく,結果として算定された価格が適正な時価ないし評価基準に従って算定される価格を超えるか否かについて争われている場合,登録価格に対する不服は,数額的に可分なものと解されるし,登録価格がどの限度において,違法となるかを観念することができる。したがって,登録価格についての審査決定が当然に不可分なものとはいえず,その取消訴訟においては,審査決定による価格が適正な時価ないし評価基準に従って算定される価格を超える場合には,その超える限度において違法とされ,その超える部分を取り消すことができると解すべきである(前掲最高裁第一小法廷判決参照)。これと異なる原判決の判断は相当とはいえない。
そうすると,本件決定の全部取消しを求める訴えと,本件決定のうち被控訴人が主張する価格を超える部分の取消しを求める訴えとは,本件決定の取消しを求める同一の訴えというべきである。原判決は,被控訴人が主張する価格を超える部分の取消しを求める旨の請求の趣旨変更の申立てを,異なる訴えの提起とした上で,これを却下しているが,その却下の主文は意味がないものというべきである。
4 結論
以上によれば,本件土地に関する価格決定をした本件決定のうち,本件土地の価格8765万6461円を超える部分は違法というべきであり,取消しを免れない。
そこで,本件決定を全部取り消した原判決を変更し,被控訴人の請求を上記の限度で認容し,その余を棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 及川憲夫 裁判官 竹田光広)