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東京高等裁判所 平成15年(ネ)2380号 判決 2003年10月08日

控訴人(原告)

特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制委員会

被控訴人(被告)

有限会社アイプレック

訴訟代理人弁護士

三好徹

吉田哲

根本雄一

藤川浩一

岩本康一郎

石田央子

津田直和

西尾政行

宮下正臣

中山素子

井川真由美

主文

1(1)原判決主文第2項の控訴人敗訴部分のうち,金員返還請求権不存在の確認請求部分(原判決の「事実及び理由」の「第1請求の趣旨」第4項の請求に関する部分)を取り消す。

(2)  控訴人と被控訴人との間において,控訴人の被控訴人に対するAAA審査の審査料・認定料としての2万円の返還債務が存在しないことを確認する。

2  その余の本件控訴を棄却する。

3  訴訟費用は,第一,二審を通じこれを15分し,その1を被控訴人の負担とし,その余は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴人の求めた裁判

原判決中,原判決の「事実及び理由」の「第1 請求の趣旨」第3項ないし第5項の請求に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人は,控訴人に対し,12万5825円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  主文第1項(2)と同旨。

3  被控訴人は,控訴人に対し,2万4000円を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,控訴人が被控訴人に対し,原判決3頁2行目から4頁3行目まで及び4頁10行目から11行目までに記載(原判決の別紙訴状の引用部分を含む。)のとおりの請求原因に基づき,原判決2頁3行目から17行目まで及び2頁22行目から24行目までに記載の「請求の趣旨」第1項ないし第7項及び第9項の請求(以下,この項の番号に対応して,各請求を「請求1」などという。)をした事案である。

原判決は,請求5について,控訴人から被控訴人に対する2万4000円の請求権が存在するとしたが,一方で,被控訴人から控訴人に対するAAA審査の審査料・認定料としての2万円の返還請求権も存在するとして,被控訴人主張の相殺の抗弁を認めた結果,4000円の限度でのみ請求5を認容した。そして,これ以外の請求1ないし4,6,7,9については,いずれも全面的に請求を棄却した。

これに対し,控訴人は,原判決中,請求3ないし5に関する部分についてのみ本件控訴を提起した(請求5についての不服は棄却された2万円の部分について)。

なお,原審では,株式会社日本家庭教師センター学院も原告となり,請求8及び9を求めたが,いずれも棄却され,これに対する控訴の申立てはされていない。

当審での審理の対象となる請求についての当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 当事者の主張」のうち,原判決3頁1行目,3頁11行目から25行目まで,4頁12行目から13行目まで,4頁23行目から11頁12行目までに記載(原判決の別紙訴状の引用部分を含む。)のとおりであるから,これを引用する。

2  当審における控訴人の主張の要点

(1)  控訴人は,原判決に対する控訴の理由として,次のように主張した。

(1-1) 請求3について

平成13年11月8日の控訴人の第4回理事会で,理事が分担金を支払うことが議決された。よって,被控訴人代表者に支払義務がある。被控訴人代表者は,個人としてではなく,被控訴人の代表者であることで,控訴人の理事会ほか,控訴人の活動などに出席,参加などをしている。控訴人の理事登記は個人であるが,法人の意識で参画しているので,控訴人は,被控訴人に上記支払いを求める。

(1-2) 請求4,5について

AAA審査料2万円の問題の最大の原因は,Y審査委員長と被控訴人などが不正に結託,謀議し,最終AAA審査会をボイコットし,理不尽に審査を辞退したことにある。

平成13年11月8日の控訴人第4回理事会において,同年12月5日に最終審査会を開催し,そこで,Yが審査資料を提出することを議決した。

しかし,Yは,被控訴人の所属する家庭教師優良業者全国ネットワーク(ネットワーク)の会員には,審査料2万円でAAA認定することを約束していた。Yは,各業者から適切な審査資料を集めることもせず,すべて一人で行った。これは,「サービス評価システムの在り方に関する調査研究報告書」(株式会社三菱総合研究所)に基づく,経済産業省のサービス評価審査マニュアルに違反する審査である。Yは,ネットーワーク会員に有利な審査取扱いをしたものであり,適切な審査資料がなく,ずさんなAAA審査方法が最終審査会で明らかになり,同会員らがAAA不合格となることをおそれた。そこで,Yと被控訴人はじめネットワークの会員が結託し,謀議を行い,理不尽なAAA審査中止,審査辞退という契約違反をした。

AAA審査の辞退の原因は,新規AAA申請者を対象とした認定料5~15万円の請求とは全く関係がない。

被控訴人などが審査料2万円を振り込んだ段階は,AAA認定の仮契約であり,後日,審査に必要な資料等を控訴人に提出した時点で本契約が成立するものである。しかし,被控訴人は,上記資料を提出しなかった。仮に,被控訴人がYに提出したとしても,Yから控訴人に提出されていない。

審査料2万円ということは,控訴人の理事会で未承認である。しかし,AAA審査は実施することとした。そして,審査に必要な資料が提出されておれば,控訴人は,2万円でも,最終審査会で問題がなければ,AAA認定証の交付を予定していた。

認定料5~15万円(新規申請者用)は,第3回理事会で了承済みである。控訴人は,被控訴人に対し,追加の意味で認定料5~15万円の振り込みの案内を出したわけではない。なお,被控訴人は,「認定料・登録料・交付料15万円」なる請求書が届いたと主張するが,被控訴人は理事であるので,請求書の金額は5万円である。

(2)  控訴人は,当審において次の主張をした。

請求4の債務不存在確認請求については,主位的には,2万円の返還債務自体が存在しないことを主張するものであるが,仮にそうでないとしても,被控訴人主張の相殺の結果,上記返還債務が消滅した場合も含め,控訴人の被控訴人に対するAAA審査の審査料・認定料としての2万円の返還債務の不存在確認を求める。

3  当審における被控訴人の主張の要点

(1)  請求3について

被控訴人は控訴人の理事ではない。法人と代表者は別個の権利義務主体である。

(2)  請求4,5について

被控訴人は,控訴人宛に,平成13年3月3日にアンケート用紙とともに,審査に必要な資料一式を送付している。控訴人は,仮に,被控訴人が提出していたとしてもYから控訴人に提出されていないというが,それは,控訴人の内部事情である。

控訴人が理不尽なAAA審査中止と審査辞退として主張する点は否認する。被控訴人は,審査料2万円を支払った後に,「認定料・登録料・交付料15万円」なる請求書が届いたため,控訴人に対して審査をキャンセルする旨連絡したのである。

控訴人が仮契約の成立について主張する点は争う。控訴人は,審査に必要な資料が未提出ゆえに本契約は成立していないと主張するようであるが,そうであれば,控訴人が被控訴人に2万円の返還を拒む理由は存在しない。

第3当裁判所の判断

1  請求3について

(1)  当裁判所も,請求3については,理由がなく,これを棄却すべきものと判断するが,その理由は,次の(2)を付加するほかは,原判決12頁17行目から21行目までのとおりであるから,これを引用する。

(2)  控訴人の主張は,被控訴人代表者に理事としての分担金の支払義務があるとした上で,被控訴人に対して理事分担金の支払いを請求するものと解される。被控訴人代表者とは別の権利義務主体である被控訴人に対し,理事分担金の支払義務があるというためには,これを根拠付ける事由が必要であるが,控訴人の主張を精査しても,これを根拠付け得るだけの事実の主張立証がない(上記主張中には,「被控訴人代表者は,個人としてではなく,被控訴人の代表者であることで,控訴人の理事会ほか,控訴人の活動などに出席,参加などをしている。」,「控訴人の理事登記は個人であるが,法人の意識で参画している。」との主張があるが,これらによっては,被控訴人の義務を根拠付けることはできない。)。

2  請求4,5に関する控訴理由について

(1)  被控訴人が控訴人に対し,年会費として2万4000円の支払義務があることは,原判決16頁5行目から11行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。なお,この点につき,被控訴人からの不服申立ては存在しない。

(2)  次に,被控訴人が控訴人に対して平成13年9月18日にAAA審査の第二次審査の審査料・認定料として支払った2万円については,当裁判所も,控訴人は被控訴人に対して返還義務があるものと判断する。その理由は,次の(3)を付加するほかは,原判決12頁23行目から16頁2行目までのとおりであるから,これを引用する。

(3)  原判決に対する控訴の理由として,控訴人の主張する点を検討する。

(3-1) 控訴人は,本件は,Yと被控訴人はじめネットワークの会員が結託し,謀議を行い,理不尽なAAA審査中止,審査辞退という契約違反をしたものであって,AAA審査の辞退の原因は,新規AAA申請者を対象とした認定料5~15万円の請求とは全く関係がないと主張する。

しかし,そもそも,被控訴人によるAAA審査の第二次審査の申込みの意思表示に要素の錯誤があって無効であることは,上記原判決引用部分のとおりである。そして,本件全証拠によるも,被控訴人がAAA審査の第二次審査を辞退したとの事実を認めるに足りない。また,審査の辞退という以上,審査の申込みが有効であることを前提とするものであるが,この前提を欠くものであることは上記のとおりである。控訴人は,Yによる不正審査などの事情をるる主張するが,上記のとおり,そもそも被控訴人の申込みが錯誤無効なのであるから,これらの主張は,結論を左右しないというほかない。

(3-2) 控訴人は,審査に必要な資料が提出されておれば,2万円でも,最終審査会で問題がなければ,AAA認定証の交付を予定していたが,被控訴人が審査に必要な資料を提出しなかったと主張する。

上記主張が,2万円で最終審査をするつもりであったので,被控訴人に錯誤があったとはいえないとの趣旨であるとしても,採用することができない。すなわち,仮に,主張どおりであったとしても,控訴人から被控訴人に対し,2万円に加えて15万円の追加請求がされたことは事実であり,その後,それを撤回し,従前の2万円で最終審査まですることにつき両者で合意が成立したなどの主張立証はないのであり,仮に,控訴人内部で上記のとおり決定したとしても,それだけでは,前記錯誤無効の認定を覆すに足りるものではない。

また,上記主張が,審査に必要な資料が提出されなかったのが紛争の原因であるとの趣旨であるとしても,採用することができない。すなわち,前記のとおり,被控訴人の審査申込みの意思表示が錯誤無効なのであるから,上記主張自体,結論を覆し得るものではない。なお,本件証拠を検討しても,被控訴人が,上記錯誤とは関係なく,辞退する趣旨で審査に必要な資料を提出しなかったものであることをうかがわせる事情があるとは認められない。

(3-3) 控訴人は,被控訴人に対し,追加の意味で認定料5~15万円の振り込みの案内を出したわけではないこと,被控訴人は理事であるので,請求書の金額は15万円ではなく,5万円であることを主張する。

上記主張が,被控訴人に2万円を超える請求をするつもりはなかったという趣旨であるとしても,上記(3-2)の判示と同様,前記錯誤無効の認定を覆すに足りるものではない。

また,上記主張が,「AAA審査料振込依頼書(一般)」(乙4-2)の送付による請求の事実についての原判決の認定が誤っているとの趣旨であるとしても,以下の理由から採用することができない。まず,振込依頼書(乙4-2)の内容を精査すると,確かに,控訴人主張のとおり,「認定料・登録料・交付料」の15万円というのは,優良AAA家庭教師派遣業者の一般会員用の金額であり,その正会員であれば5万円であることが認められる。しかし,上記のことは,振込依頼書の下部の一覧表に記載してあるだけであり,被控訴人宛に個別に記載された請求内容として,依頼書冒頭に,「下記金額を,平成13年11月30日までに,お振り込みをお願いします。『優良AAA家庭教師派遣業者』認定料・登録料・交付料……150,000円」と明記してあるのであって,15万円が追加請求されたことは明らかであり,控訴人の主張は採用し得ない(仮に,5万円の請求額であることを前提としても,2万円の2.5倍もの追加請求であって,前記錯誤無効の認定を変更すべきものとは認められない。)。

(3-4) 控訴人は,被控訴人などが審査料2万円を振り込んだ段階はAAA認定の仮契約であり,後日,審査に必要な資料等を控訴人に提出した時点で本契約が成立するものであると主張する。

主張の趣旨が明らかではないが,控訴人の主張によれば,被控訴人は資料を提出しなかったというのであるから,文字どおり解釈すると,本契約は成立していないことになり,なおさら,2万円を控訴人が取得する理由はない。

上記主張が,被控訴人が資料を提出しなかったことに結びつけて主張するものであるとしても,既に判示した理由から,やはり採用の限りではない。

(3-5) その他,控訴人の主張をすべて精査しても,控訴人に上記2万円についての返還義務のあることを否定すべきものとは認められない(控訴人は,当審口頭弁論終結後も準備書面や書証写しを提出するが,これらの準備書面や書証写しを精査しても,弁論再開の必要があるとは認められない。)。

(4)  以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,年会費として2万4000円の請求権を有し,他方,被控訴人は,控訴人に対し,上記2万円の返還請求権を有することになる。よって,原判決16頁19行目から17頁1行目までのとおり,被控訴人による相殺の抗弁の結果,控訴人の請求5は,4000円の支払いを求める限度でのみ認容されるべきである。

3  請求4について,控訴人の当審での主張に基づき検討するに,前記のとおり,控訴人は,被控訴人に対し前記2万円の返還債務を有していたが,前記被控訴人の相殺の抗弁によって消滅した。この意味において,控訴人の被控訴人に対するAAA審査の審査料・認定料としての2万円の返還債務は,存在していない結果となる。よって,この点についての原判決を取り消し,請求4の債務不存在確認請求を認容することとする。

4  結論

以上によれば,原判決は,請求4の債務不存在確認請求については,当審における主張の変動により結果として相当でないことになるので,この点に関する控訴は理由があるが,その余の請求3,5についての認定判断は相当であるので,その余の控訴は棄却を免れない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 塩月秀平 裁判官 田中昌利)

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