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東京高等裁判所 平成15年(ネ)4056号 判決 2004年12月22日

静岡県<以下省略>

控訴人

X1

静岡県<以下省略>

控訴人

X2

静岡県<以下省略>

控訴人

X3

3名訴訟代理人弁護士

名倉実徳

東京都中央区<以下省略>

日本橋室町センタービル

被控訴人

株式会社SFCG

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

主文

1  原判決中,控訴人らの敗訴部分を取り消す。

2  控訴人らと被控訴人との間における,以下の契約に基づく控訴人らの被控訴人に対する債務がいずれも存在しないことを確認する。

(1)  控訴人X1について,平成11年3月12日付け連帯根保証契約(主債務者有限会社a,根保証限度額200万円)に基づく支払債務

(2)  控訴人X2について,平成11年4月22日付け連帯根保証契約(主債務者有限会社a,根保証限度額200万円)に基づく支払債務

(3)  控訴人X3について,平成11年9月21日付け連帯根保証契約(主債務者有限会社a,根保証限度額500万円)に基づく支払債務

3  被控訴人の反訴請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文と同旨

第2事案の概要

1  本件事案の概要は,原判決を次のとおり改め,当審における当事者双方の主張として2及び3のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄中の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決3頁8行目の「貸金業の」から同頁9行目の「主張して」までを削り,同頁11行目の次に,行を改めて,以下のとおり加える。

「なお,被控訴人は,当審において,控訴人X3に対する従前の請求金額500万円を225万7669円に減縮するとともに,貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用に関する主張をすべて撤回した。」

(2)  同6頁23行目の「原告X1」を「控訴人X1」と訂正し,同7頁7行目から同11頁12行目までを削り,同頁13行目の「(3) 争点3」を「(2) 争点2」に,同頁26行目の「4月5日」を「4月4日」に,同12頁1行目の「同月6日」を「同月5日」に,それぞれ改める。

(3)  同12頁3行目の「(4) 争点4」を「(3) 争点3」に,同頁12行目の「(5) 争点5」を「(4) 争点4」に,それぞれ改め,同頁20行目の次に,行を改めて,以下のとおり加える。

「(5) 争点5(被控訴人の反訴請求金額)

(被控訴人の主張)

被控訴人がDから返済を受けた金員のうち,利息制限法所定の制限利率を超える額を元本に組み入れて計算するならば,残元本額は本判決添付別紙「顧客取引明細」のとおり,225万7669円になる(なお,同表1枚目24番の「約定金額」は,同7番,9番ないし11番の貸付けの残元本額をまとめたものであり,同25番の「約定金額」は,同22番,23番の貸付けの残元本額をまとめたものである。また,同表27段,28段の「入金額」欄の各200万円は,各「計算期間」欄の日に弁済されたものであり,同表29段の「入金額」欄の150万円は平成12年5月9日に弁済されたものである。)。

(控訴人らの主張)

Dが被控訴人に返済した金員について,利息制限法所定の制限利率を超える額を元本に組み入れて計算するならば,残元本額は本判決添付別紙「利息制限法による計算書」のとおり,163万0310円である。」

2  当審における控訴人らの主張

(1)  根保証契約は,その法律関係が一般に理解されているものではなく,また,本件各根保証契約時に立ち会った被控訴人担当者は,控訴人らに対し,根保証について特に説明を加えなかった。そのため,控訴人らとしては,契約時にDに貸し付けられた金額(控訴人X1,同X2においては各200万円,控訴人X3においては300万円)についてだけ,通常の連帯保証をするとの認識であった。

したがって,控訴人らの本件各根保証契約のための意思表示は,要素に錯誤があり,無効であることは明らかであり,また,控訴人らが錯誤に至ったことについて,控訴人らに重大な過失はない。

(2)  仮に,(1)のとおり本件各根保証契約が無効であることに伴い,控訴人らに通常の連帯保証契約の限度で責任があるとしても,

ア 控訴人X1及び同X2の連帯保証債務については,前記引用に係る原判決摘示の控訴人ら主張のとおり,その後支払済みである。

イ 控訴人X3の連帯保証債務については,平成12年4月4日,保証人Eから200万円,同月5日,保証人Fから200万円,同年5月9日,手形により150万円が支払われたが,完済には至っていない。

しかしながら,上記連帯保証に係る被控訴人のDに対する300万円の貸付けは,貸付けと同時に元利金298万0250円が返済されたものとされ,新たな金員が交付されないものであった。控訴人X3は,このような事情を知っていたならば,上記連帯保証をしなかったはずであるから,同控訴人の上記連帯保証契約締結の意思表示は,錯誤により無効である。

3  当審における被控訴人の主張

本件各根保証契約について,控訴人らに要素の錯誤はない。控訴人らの主張する通常の保証であるとの認識は,法律行為の要素の錯誤には当たらず,動機に関する錯誤である。

また,要素の錯誤に当たるとしても,控訴人らには重大な過失があった。

第3当裁判所の判断

1  控訴人X1について(争点1及び2)

(1)  甲第2号証の1ないし5,第11号証,乙第1,第2,第6,第7,第41号証,原審証人G,同Hの各証言及び原審における控訴人X1本人尋問の結果によると,次の事実が認められる。

ア 控訴人X1は,本件第1根保証契約締結日である平成11年3月12日当時,自営により電気製品の製造業を営んでいたが,以前勤めていた会社においてDの部下であったことから,同人との交流がその後も続いていた。

イ Dは,平成11年3月ころ,控訴人X1に対し,Dが被控訴人から200万円を借り入れる予定であることを述べ,その保証人となることを依頼した。控訴人X1は,当初難色を示したが,Dから,「5月の連休までには200万円を返済する予定である。」等として強く要請されたため,結局それに応じることとした。

ウ 控訴人X1は,同月12日,Dの事務所に赴き,D被控訴人の従業員であるI(以下「I」という。)の立会の下に,以下のとおり各書面を作成した。

(ア) 「債務弁済契約証書(債務弁済公正証書作成嘱託委任状)」(甲第2号証の1)

同書面には「債務元本 金2,000,000円也」と記載されていた。

控訴人X1は,その連帯保証人欄に署名,押印をした。

(イ) 「手形割引・金銭消費貸借契約等継続取引に関する承諾書並びに限度付根保証承諾書」(甲第2号証の3,乙第6号証)

同書面には,根保証限度額,根保証期間を記載する欄(「平成 年 月 日から5年間」)があり,それに続いて,「根保証の範囲 本根保証契約締結日現在主債務者が貴社に対して既に負担している債務及び,上記根保証期間に発生する債務。尚,利息・損害金は上記限度額を超えて支払う。」との文言が印刷されていた。

控訴人X1は,同書面の連帯保証人欄に署名,押印するとともに,根保証限度額欄に「金弐百萬円」,「¥2,000,000円」,根保証期間を記載する欄に「平成11年3月12日」とそれぞれ数字を記入し,更に,最下欄の枠内に「上記根保証金額及び契約内容について承諾致しましたX1」と記載した。

(ウ) 「連帯根保証及び重要事項確認書」(甲第2号証の4,乙第7号証)

同書面には,「貸付残高 金壱千五百萬円也」,「根保証限度額 金弐百萬円也」の記載があり,「根保証について」との表題の下に,根保証の説明がイラストとともに記載されていた。

控訴人X1は,同書面の連帯保証人欄に署名,押印するとともに,「保証期限」欄に平成16年3月11日と記入した。

(エ) 「根抵当権設定契約証書兼不動産登記法第32条承諾書」(甲第2号証の5)

控訴人X1は,その「連帯保証人(根抵当権設定者)」欄に署名,押印をした。

エ しかしながら,控訴人X1による上記各書面の記載は,すべてDの一方的な指示によるものであり,同控訴人としては,その指示のままに次々と記入し,署名,押印を繰り返したものである。

また,控訴人X1は,それまでに根保証契約を締結した経験がなく,根保証についての知識を有していなかった。更に,控訴人X1は,当日,Dから根保証の法的性質,極度額の意義等について,十分な説明を受けることがなかった。

そのため,控訴人X1としては,Dから記載を指示された事項について,その法的効果等に特に注意を払うことなく記載したものであり,その際,同控訴人としては,Dから当初依頼を受けたとおり,Dが被控訴人から今回借り受ける200万円について,通常の連帯保証をする意思であった。

(2)  これに対し,Dは,乙第41号証及び原審における証人尋問中において,控訴人X1に対し,根保証について本件契約前及び契約当日に十分な説明した旨述べるが,これを否定する原審における控訴人X1の供述内容に照らし,容易には採用し難い。また,Dも,原審における証人尋問中において,Dが控訴人X1に対し根保証について説明したかのような供述をするが,D自身も,契約当日において,根保証について理解しないままであったとも述べているところに照らすと,Dの面前でIから上記のような理解可能な説明がなされたものとは認め難い。

(3)  以上の(1)の各事実に加え,根保証ないし保証債務極度額等の用語は,一定以上の法律知識を有している者でなければ了解しにくい概念であり,一般人においては,その内容につき十分な説明を受けることなく,単に説明ないし条項を読んだだけでは正確に理解し難いものと考えられること等をも考慮するならば,控訴人X1は,Dの指示に従い,本件第1根保証契約について上記(1)ウの各書面を作成したものの,根保証自体について理解を欠いていた以上,上記各書面を作成することにより,極度額を200万円とする根保証契約を締結する意思を有していたものとは認め難いといわざるを得ない。

そして,根保証契約においては,根保証であるか否かが契約の重要な部分,すなわち要素に当たることが明らかであるから,本件第1根保証契約についての控訴人X1の意思表示は,200万円を被担保債権とする通常の連帯保証を超える根保証部分については,錯誤により無効であるといわざるを得ない。

(4)  そして,上記(3)のとおり,根保証自体が一般に理解されにくい態様の保証であること等を考慮するならば,控訴人X1の上記錯誤については,同控訴人に重大な過失があったとまでは認めることができないというべきである。

(5)  そうすると,控訴人X1においては,本件第1根保証契約について通常の連帯保証の限度で責任を負うべきことになるが,被控訴人が,上記のとおり平成11年3月12日にDに貸し付けた200万円自体については,それが既に弁済されたものであることは被控訴人の自認するところである(本判決添付別紙「顧客取引明細」30頁)。

(6)  以上によると,被控訴人の控訴人X1に対する本件第1根保証契約に基づく請求は,理由がないものというべきことになる。

2  控訴人X2について(争点1及び2)

(1)  甲第4号証の1ないし5,第11号証,乙第3,第4,第8,第9号証,原審証人Gの証言及び原審における控訴人X2本人尋問の結果によると,次の事実が認められる。

ア 控訴人X2は,本件第2根保証契約締結日である平成11年4月22日当時,アルミ製品の加工の下請けを行っていたが,かつてDの部品製造の下請けにも従事したことがあった。

イ 上記の関係があったことから,Dは,平成11年4月ころ,控訴人X2に対し,Dが被控訴人から200万円を借り入れる予定であることを述べ,その保証人となることを依頼した。控訴人X2も,当初は難色を示したが,Dから,「すぐに返済し,迷惑を掛けない。」等として何度も要請されたため,それに応じることとした。

ウ 控訴人X2は,同月22日午後9時ころ,Dの事務所に赴き,I,被控訴人の従業員の立会の下に,以下のとおり各書面を作成した。なお,当時,控訴人X2は,磐田市議会議員選挙の候補者の応援活動にも従事していたため,その途中で抜け出してきたものであった。

(ア) 「債務弁済契約証書(債務弁済公正証書作成嘱託委任状)」(甲第4号証の1)

同書面には「債務元本 金2,000,000円也」と記載されていた。

控訴人X2は,その連帯保証人欄に署名,押印をした。

(イ) 「手形割引・金銭消費貸借契約等継続取引に関する承諾書並びに限度付根保証承諾書」(甲第4号証の3,乙第8号証)

同書面には,根保証限度額,根保証期間を記載する欄(「平成 年 月 日から5年間」)があり,それに続いて,「根保証の範囲 本根保証契約締結日現在主債務者が貴社に対して既に負担している債務及び,上記根保証期間に発生する債務。尚,利息・損害金は上記限度額を超えて支払う。」との文言が印刷されていた。

控訴人X2は,同書面の連帯保証人欄に署名,押印するとともに,根保証限度額欄に「金弐百萬円也」,「¥2,000,000円」,根保証期間を記載する欄に「平成11年4月22日」とそれぞれ数字を記入し,更に,最下欄の枠内に「上記根保証金額及び契約内容について承諾致しましたX2」と記載した。

(ウ) 「連帯根保証及び重要事項確認書」(甲第4号証の4,乙第9号証)

同書面には,「貸付残高 金壱千六百萬円也」,「根保証限度額 金弐百萬円也」の記載があり,「根保証について」との表題の下に,根保証の説明がイラストとともに記載されていた。

控訴人X2は,同書面の連帯保証人欄に署名,押印するとともに,「保証期限」欄に平成16年4月21日と記入した。

(エ) 「根抵当権設定契約証書兼不動産登記法第32条承諾書」(甲第4号証の5)

控訴人X2は,その「連帯保証人(根抵当権設定者)」欄に署名,押印をした。

エ しかしながら,控訴人X2は,前記のとおり,選挙運動に従事していたため急いでいたことから,被控訴人従業員から根保証等についての説明を全く受けることなく,契約書等の内容も読まずに,同従業員の指示に従って上記各書面に次々と記入し,署名,押印を行った上,5分程で同所を辞去した。なお,その際,被控訴人従業員から渡された本件契約についての書類も持ち帰ることなく,Dに預けたままとした。

また,控訴人X2においても,それまでに根保証契約を締結した経験がなく,根保証についての知識も何ら有していなかったこともあって,保証の対象は,Dから依頼を受けたとおり,Dが被控訴人から今回借り受ける200万円であると考え,それを連帯保証する意思であった。

(2)  以上の各事実に加え,前記1(3)のとおり,根保証自体が一般に理解されていない概念であること等をも考慮するならば,控訴人X2も,上記各書面を作成するに当たり,極度額を200万円とする根保証契約を締結する意思を有したものとは認め難いところである。

したがって,本件第2根保証契約についての控訴人X2の意思表示も,200万円を被担保債権とする通常の連帯保証を超える根保証部分については,錯誤により無効であるといわざるを得ない。

(3)  そして,上記(2)のとおり,根保証自体が一般に理解されにくい態様の保証であること等を考慮するならば,控訴人X2の上記錯誤についても,同控訴人に重大な過失があったとまでは認めることができないというべきである。

(4)  そうすると,控訴人X2においても,本件第2根保証契約について通常の連帯保証の限度で責任を負うべきことになるが,被控訴人が,上記のとおり平成11年4月22日にDに貸し付けた200万円自体についても,それが既に弁済されたものであることは,被控訴人の自認するところである(本判決添付別紙「顧客取引明細」31頁)。

(5)  以上によると,被控訴人の控訴人X2に対する本件第2根保証契約に基づく請求も,理由がないというべきである。

3  控訴人X3について(争点1及び3)

(1)  甲第3号証の1ないし5,第11号証,乙第5,第10,第11,第41号証,原審証人Gの証言及び原審における控訴人X3本人尋問の結果によると,次の事実が認められる。

ア 控訴人X3は,本件第3根保証契約締結日である平成11年9月21日当時,個人で電気工事業を営んでいた。

イ Dは,平成11年9月ころ,控訴人X1から控訴人X2の紹介を受けた上,控訴人X3に対し,X3が被控訴人から運転資金300万円を借り入れることについて保証人となることを依頼し,その承諾を得た。

ウ 控訴人X3は,同月21日,Dとともに被控訴人掛川営業所に赴き,以下のとおり各書面を作成した。

(ア) 「債務弁済契約証書(債務弁済公正証書作成嘱託委任状)」(甲第3号証の1)

同書面には「債務元本 金3,000,000円也」と記載されていた。

控訴人X3は,その連帯保証人欄に署名,押印をした。

(イ) 「手形割引・金銭消費貸借契約等継続取引に関する承諾書並びに限度付根保証承諾書」(甲第3号証の3,乙第10号証)

同書面には,根保証限度額,根保証期間を記載する欄(「平成 年 月 日から5年間」)があり,それに続いて,「根保証の範囲 本根保証契約締結日現在主債務者が貴社に対して既に負担している債務及び,上記根保証期間に発生する債務。尚,利息・損害金は上記限度額を超えて支払う。」との文言が印刷されていた。

控訴人X3は,同書面の連帯保証人欄に署名,押印するとともに,根保証限度額欄に「金五百萬円也」,「¥5,000,000円」,根保証期間を記載する欄に「平成11年9月21日」とそれぞれ数字を記入し,更に,最下欄の枠内に「上記根保証金額及び契約内容について承諾いたしました。X3」と記載した。

(ウ) 「連帯根保証及び重要事項確認書」(甲第3号証の4,乙第11号証)

同書面には,「貸付残高 金弐阡参百萬円也」,「根保証限度額 金五百萬円也」の記載があり,「根保証について」との表題の下に,根保証の説明がイラストとともに記載されていた。

控訴人X3は,同書面の連帯保証人欄に署名,押印するとともに,「保証期限」欄に平成16年9月20日と記入した。

(エ) 「根抵当権設定契約証書兼不動産登記法第32条承諾書」(甲第3号証の5)

控訴人X3は,その「連帯保証人(根抵当権設定者)」欄に署名,押印をした。

エ 控訴人X3による上記各書面の記載も,被控訴人担当者の指示によりなされたものであり,同控訴人としては,その指示のとおり記入し,署名,押印を行った。

また,控訴人X3も,それまでに根保証契約を締結した経験がなく,根保証についての知識を有していなかったが,当日,契約書の文章を読んで,根保証の意義についておおよその見当を付けるに至った。しかしながら,具体的に「根」保証とはどういうものかなお不明であり,被控訴人担当者からも根保証についての具体的な説明がなかった上,控訴人X3が,上記の500万円の趣旨及び根保証期間とされた「5年間」について,被控訴人担当者に質問したところ,「Dが返済するので,控訴人X3には関係がない。」との回答であった。したがって,控訴人X3としても,上記ウの各書面における「根保証限度額500万円」について,同控訴人が具体的な法的責任を負うものとは認識せず,保証の対象は,Dが今回借り受ける300万円であり,それを通常の連帯保証するものと理解した。

(2)  以上の各事実に加え,前記1(3)のとおり,根保証自体が一般に理解しにくい概念であること等をも考慮するならば,控訴人X3においても,上記各書面を作成するに当たり,極度額を500万円とする根保証契約を締結する意思を有していたものとは認め難いところである。

したがって,本件第3根保証契約についての控訴人X3の意思表示も,300万円を被担保債権とする通常の連帯保証を超える根保証部分については,錯誤により無効であるといわざるを得ない。

(3)  そして,上記(2)のとおり,根保証自体が一般に理解されにくい態様の保証であること等を考慮するならば,控訴人X3の上記錯誤についても,同控訴人に重大な過失があったとまでは認めることができないというべきである。

(4)  更に,乙第30号証及び原審証人Gの証言によると,Dは,上記の平成11年9月21日,被控訴人から300万円を借り受ける形を取ったが,うち299万0250円は従前の借入金及び利息の返済とされ,実際にDに交付された金員はほとんどなかったことが認められる。

そうすると,本件第3根保証契約については,上記(2)のとおり,被担保債権額を300万円とする通常の連帯保証としての限度において効力を有するとしても,主債務者であるDにおいて現実に金員を取得することがなかったとするならば,運転資金としての借入れのため保証した控訴人X3の意に反することは明らかであり,同控訴人の上記保証の意思表示には要素の錯誤があったものといわざるを得ない。

そうであれば,本件第3根保証契約についての控訴人X3の意思表示は,いずれにしても錯誤により無効であるというべきである。

(5)  したがって,被控訴人の控訴人X3に対する本件第3根保証契約に基づく請求も,理由がないものといわざるを得ない。

第4結論

以上によると,控訴人らの本訴請求は,いずれも理由があるから認容し,被控訴人の反訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。

よって,控訴人らの被控訴人に対する本訴請求を棄却し,被控訴人の反訴請求を一部認容した原判決は不当であり,本件控訴は理由があるから,原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消し,控訴人らの請求をいずれも認容するとともに,被控訴人の反訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条2項,61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根本眞 裁判官 持本健司 裁判官 小宮山茂樹)

<以下省略>

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