東京高等裁判所 平成15年(ネ)5534号 判決 2004年10月13日
控訴兼被控訴人 (以下「1審原告」という。)
浜野ゴルフクラブ会員ら
訴訟承継人再生債務者
株式会社國際友情倶樂部
監督委員訴訟承継人更生会社
株式会社國際友情倶樂部
管財人
手塚一男
同訴訟代理人弁護士
花沢剛男
同
高木裕康
同
木﨑孝
同
幸村俊哉
同
森岡誠
1審原告補助参加人ら
平田淳三
外52名
同訴訟代理人弁護士
清水建夫
同
影山光太郎
同
中嶋靖史
同
鈴木伸太郎
同
田中省二
被控訴人兼控訴人
サウス・ウインド・リアルティ・
(株式会社あさひ銀行引受参加人。
ファイナンス・ケイマン・カンパニー
以下「引受参加人」という。)
日本における代表者
ミルトン・ミルマン
同訴訟代理人弁護士
北澤正明
同
若林弘樹
同
佐藤剛史
同
中谷裕子
1審脱退被告
株式会社あさひ銀行
同代表者代表取締役
伊藤龍郎
(脱退当時の商号及び代表者)
主文
1 1審原告の控訴に基づき原判決第1項及び第3項を次のとおり変更する。
引受参加人は、1審原告に対し、原判決別紙物件目録記載の各土地建物について、原判決別紙登記目録記載1及び2の各根抵当権設定登記並びに同目録記載3の根抵当権変更登記の会社更生法による否認登記手続をせよ。
2 引受参加人の控訴を棄却する。
3 訴訟費用(補助参加によるものを含む。)は、第1、2審とも、引受参加人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 1審原告の控訴の趣旨
主文第1項及び第3項と同旨。
2 引受参加人の答弁
1審原告の控訴を棄却する。
3 引受参加人の控訴の趣旨
(1) 原判決中引受参加人敗訴部分を取り消す。
(2) 1審原告の請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用(補助参加によって生じたものを含む。)は、第1、2審とも、1審原告及び補助参加人の負担とする。
4 1審原告の答弁
主文第2項と同旨。
第2 事案の概要
事案の概要は、次のとおり訂正し、付加し、又は削除するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第2事案の概要」中の1審原告、同補助参加人と引受参加人関係部分に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
1 原判決4頁4行目<編注本号141頁左段16行目>冒頭から同5頁8行目<同141頁右段10行目>までを次のとおり改める。
「1 本件訴訟は、当初は、更生会社株式会社國際友情倶樂部(以下「更生会社」という。)の経営する浜野ゴルフクラブの原判決別紙会員目録記載の会員らが原告となり、更生会社に対する預託金返還請求権を被保全債権として、1審脱退被告あさひ銀行(以下「あさひ銀行」という。)及び1審相被告日東興業(以下「日東興業」という。)に対し、更生会社が、①あさひ銀行との間で、その所有する原判決別紙物件目録記載の各不動産(ゴルフ場の土地及び建物。以下「本件不動産」という。)に親会社である日東興業のあさひ銀行に対する債務を担保するための根抵当権を設定し、極度額を変更する旨の契約を締結し、②あさひ銀行及び日東興業との間で、更生会社が日東興業のあさひ銀行に対する債務を引き受けて代位弁済すること及び日東興業に対する求償権を放棄するとの協定を締結したことがいずれも同会員らを詐害する行為であるとして、民法424条1項に基づき、上記各契約及び協定を取り消し、本件不動産についての原判決別紙登記目録記載1ないし3の各登記の抹消登記手続をすることを求める訴訟であったが、引受参加人が上記根抵当権及び上記協定上の債権を譲り受けたことに伴い、引受参加人があさひ銀行から訴訟を引き受けて参加し、あさひ銀行が本件訴訟から脱退し、また、その後、東京地方裁判所が、更生会社に対して再生手続の開始決定をしたことから、民事再生法上の監督委員が、民事再生法140条1項、2項に基づき、上記会員らから訴訟手続を受継したが、同裁判所が、更生会社に対し、会社更生手続の開始決定をしたことから、1審原告が会社更生法(平成14年法律第154号による改正前のもの。以下同じ。)93条2項、69条1項に基づき、上記監督委員から訴訟手続を受継して、上記①の根抵当権設定及び極度額変更契約並びに上記②の協定の締結がいずれも更生会社の債権者を害する行為であるとして、更生会社の管財人である1審原告が、会社更生法78条1項1号、90条1項1号の規定に基づき、上記①の根抵当権設定契約及び極度額変更契約並びに上記②の協定を否認し、上記根抵当権及び上記協定上の債権の最終譲受人である引受参加人に対し、上記①の根抵当権設定契約に基づく本件不動産についての原判決別紙登記目録記載1ないし7の根抵当権設定登記、根抵当権変更登記、根抵当権移転登記、根抵当権変更登記、根抵当権移転仮登記及び根抵当権変更仮登記の同法21条に基づく否認登記手続をすることを求め、また、日東興業及び引受参加人に対し、更生会社が上記②の協定に基づく債務を引受参加人に対して負担していないことの確認を求めたものであり、さらに、浜野ゴルフクラブの会員らのうち別紙補助参加人目録1記載の者が1審原告に補助参加したものである。
原審が、上記①の根抵当権設定契約に基づく原判決別紙物件目録記載121の土地についての原判決別紙登記目録記載1ないし3の根抵当権設定登記及び根抵当権変更登記の否認登記手続請求並びに上記協定に基づく引受参加人に対する債務の不存在確認請求を認容し、その余の引受参加人に対する請求を棄却し、日東興業に対する訴えを却下したところ、1審原告及び引受参加人がそれぞれ控訴の申立てをした。なお、1審原告は、原判決別紙登記目録記載4ないし7の各登記の抹消登記手続、日東興業に対する敗訴部分に対する控訴の申立てはしなかった。また、当審において、別紙補助参加人目録2記載の者が1審原告に補助参加した。」
2 原判決7頁6行目<同142頁左段27行目>の次に行を改めて、「エ 根抵当権設定契約についての否認権行使は、詐害行為時における債務超過分の限度でのみ認められるのか。」を加える。
3 原判決8頁18行目<同142頁右段24行目>の「上記事情に照らすと、」を「上記各事情及び大栄鑑定は実際の処分に重大な影響を有する預託金返還請求権を有する会員の存在を考慮外としていることに照らし、」に改める。
4 原判決9頁22行目<同143頁左段12行目>末尾に「本件ゴルフ場の処分価格を前記不動産鑑定評価基準及び国土庁土地局長通知(甲7の2)の基準に従って鑑定すれば、45億4500万円となる。」を加える。
5 原判決10頁4行目<同143頁左段23行目>の「こうして更生会社が」から同11行目<同143頁左段33行目>末尾までを「こうして更生会社が本件根抵当権設定により負担するに至った債務及び責任の総額は約332億4056万4000円(1審原告の控訴理由書に『332億0442万4000円』とあるのは誤記と認める。)となったところ、本件根抵当権設定当時、更生会社の積極財産は45億4500万円と評価される本件不動産並びに現金及び預金1億0512万5000円の合計46億5012万5000円しかなかった(更生会社の平成4年9月30日期の決算書には積極財産が合計6億3875万8000円となる旨の記載があるが、これら帳簿価格は時価認定の根拠にはならない。)。したがって、本件根抵当権設定により更生会社は285億9043万9000円(1審原告の控訴理由書に『285億5429万9000円』とあるのは違算と認める。)の債務超過に陥ったものである。
(エ) 本件ゴルフ場を321億4600万円と評価し、唯一の株主である日東興業のために200億円の本件根抵当権を設定することは商法の評価原則(これに従った評価額は134億4902万1000円となる。)、配当規制(商法290条)に反して200億円の配当を行うことと変わりがない更生会社の株主及び取締役の任務違背行為である。」
に改める。
6 原判決11頁25行目<同143頁右段35行目>の次に行を改めて、「なお、ゴルフ場という不動産の評価において預託金返還請求権を有する会員が存在することを考慮して価格を算定し、さらに更生会社の消極財産の算出に預託金返還債務を考慮することは妥当ではない。」を加える。
7 原判決12頁22行目<同144頁左段16行目>冒頭から同24行目から同25行目<同144頁左段20行目>にかけての「128億6290万円にすぎず、」までを「(キ)そして、日東興業は更生会社の完全親会社であり、本件根抵当権の設定を指示したものであるから、仮に本件根抵当権の設定により完全子会社である更生会社に対する債権の回収が阻害されたとしても、それに異議を述べたり、他の一般債権者と同列の取扱いを要求したりすることはあり得ないから、更生会社が負担していた債務は預託金返還債務109億4290万円と一般債務22億9766万4000円から日東興業からの短期借入金3億9600万円を控除した残額との合計128億4456万4000円にすぎず、」に改める。
8 原判決13頁1行目<同144頁左段23行目>の「約87億1700万円」の次に「合計約250億6800万円」を加え、同6行目<同144頁左段30行目>末尾に「したがって、本件根抵当権設定により増加した消極財産の額をその極度額200億円そのものとすることは誤りであり、その増加した消極財産の額は、250億6800万円から上記本件不動産以外の担保等の価値合計80億5500万円(上記17億円+9億1000万円+26億1200万円+28億3300万円)を控除した170億1300万円とするか、少なくとも被担保債権250億6800万円から本件不動産より実行容易な担保の上記28億3300万円及び26億1200万円の合計54億4500万円を控除した残被担保債権196億2300万円を3つの根抵当権額の上記200億円、17億円及び9億1000万円の合計226億1000万円中の本件根抵当権200億円に案分割付けした173億6635万5000円とすべきである。」を加え、同10行目<同144頁左段36行目>の「更生会社の」から同11行目<同144頁左段38行目>末尾までを「本件根抵当権の設定が浜野ゴルフクラブの会員らの預託金債権相当額の回収を危うくするものではなく、更生会社の負っていた債務額を算定するに当たり、預託金返還債務は算入すべきではない。なお、浜野ゴルフクラブの会員らが本件根抵当権設定後も会員権を保有し続け、その会員権の市場価格が預託金の金額を下回った場合に更生会社の資産から回収を図る必要があったという仮定的事実を付加して詐害性を判断することは不当である。」に改め、同15行目から同16行目<同144頁左段43行目>にかけての「約170億1300万円」の次に「(又は前記の173億6635万5000円)」を、同17行目<同144頁左段45行目>の「約189億3300万円」の次に「(又は192億8635万5000円)」をそれぞれ加え、同22行目<同144頁左段52行目>冒頭から同25行目<同144頁右段3行目>末尾までを「上記のとおり、主債務者である日東興業の経営状況に問題がなく、あさひ銀行が更生会社に対して本件根抵当権の実行を申し立てる必要はなかったから、更生会社の積極、消極財産を計算して、本件根抵当権の設定により更生会社が債務超過に陥るか否かを検討することは誤りである。なお、本件根抵当権設定時に更生会社が所有していた不動産は、大栄鑑定において評価の対象とされた土地(その後売却した土地4筆を除く。)と更生会社所有に係る市原市中野字下住寺谷329番の土地1万0710m2を加えるべきであり、その面積合計は106万3394.23m2であったから、その不動産価格は大栄鑑定の算式を用いれば、本件不動産の素地価格240億7311万9000円、造成工事費等61億2000万円及び対象建物の価格20億1500万円を合計した322億0811万9000円と評価される。
なお、仮に更生会社の負担していた債務に預託金返還債務を算入するとしても、更生会社が本件根抵当権設定により負担することとなった責任の総額は約298億7590万円(189億3300万円+109億4290万円)にすぎず、これも積極財産の総額を上回るものではない。また、仮に本件根抵当権設定により増加した消極財産の額をその極度額の200億円そのものとしても、積極財産総額は328億4687万7000円、消極財産総額は128億4456万4000円とすべきであるから、いずれにせよ更生会社は債務超過に陥らなかった。」に改める。
9 原判決14頁21行目<同144頁右段32行目>冒頭から同24行目<同144頁右段36行目>末尾までを削る。
10 原判決15頁2行目<同144頁右段41行目>の「本件根抵当権設定は、」の次に「日東興業とあさひ銀行との良好な関係を維持し、日東興業に対する将来にわたる融資を確保するために必要不可欠の行為であったから、」を加える。
11 原判決17頁4行目<同145頁右段9行目>の「明らかである。」の次に「そして、更生会社は、当時浜野ゴルフクラブ会員から預託金の返還請求をされるとは考えておらず、その上であさひ銀行と協議して本件根抵当権の極度額を200億円としたのである。」を加える。
12 原判決18頁3行目<同145頁右段43行目>の「裏付けられる。)」の次に「、日東興業が更生会社に対して有していた貸付金について他の債権者と同列の取扱いを要求するとは考えられなかったこと、本件根抵当権の被担保債権には本件根抵当権に先立って他の担保が付されていたこと」を加える。
13 原判決19頁1行目<同146頁左段24行目>の次に行を改めて、「(4)争点(1)エについて
ア 1審原告らの主張
債権者取消権は一債権者に対してその債務者の財産処分行為に干渉することを認めるという経済活動の自由競争の原理からは異例の制度であり、その性格上、その適用範囲も狭くなる。これに対し、倒産手続においては、債務者の総財産の管理権を取得した管財人が多数の利害関係人の利害の公平な調節を図ることを主眼とした権能であり、その性格上、おのずから積極的な行使が期待されている。特に取消権と共通の性質を有する故意否認についてこの差異は強調されるべきである。さらに倒産手続の中でも、破産手続においては否認により回復した財産を換価し、債権者に配当することが予定されているのに対し、更生手続においては回復した財産は必ずしも換価されるわけではなく、これによる収益力と企業の価値を回復することにも力点が置かれる。したがって、会社財産の処分行為も、破産法上は否認を否定するいわゆる『正当性』を認め得る場合にも、会社更生法上は、収益力の回復という観点から、『正当性』を否定し、否認の行使の範囲を広く解する余地がある。
これを本件否認について検討するに、本件不動産は、土地294筆、建物3棟からなり、ゴルフ場として有機的一体として利用されることにより高い使用価値・交換価値を有し、これを一筆(棟)ずつ分割する場合はそのゴルフ場の価値は著しく低下するから、不可分物であり、否認権行使の範囲は本件不動産全部に及ぶものである。仮に本件不動産が可分物であるとしても、その価格は一筆ずつに分割すれば著しく下落し、また、実際に本件根抵当権設定後大幅に下落しているから、更生債権の満足のためには本件不動産全部について否認登記がされるべきであり、実際上も妥当である。なお、故意否認が認められれるためには、当該行為により債務者が実質的に財産危機状態に至ったこと又は既に至っていたことは必要であるが、当該行為によって債務超過に陥ること又は既に陥っていたことは必要ではない。
また、本件根抵当権設定は更生会社に負担のみを強いる極めて詐害性の強い行為であること、担保権の実行に至れば預託金債権者に対するゴルフ場優先利用権の提供も不可能となるという重大な損害を与えることなどを考慮すると、本件不動産全部について否認登記がされることが実際上も妥当である。
なお、仮に否認の対象として債務超過額に相当する評価額の土地面積を算出するとした場合には、ゴルフ場として一体利用することを前提とした単価ではなく、通常の素地価格(1万4000円)を単価にすべきである。
イ 引受参加人の主張
1審原告の主張は、本件において否認の対象とされているのが根抵当権の設定行為であることを無視し、財産の物理的移動、所有権の移転を伴う譲渡行為である場合の議論ほ当てはめようとしており不当である。なお、更生会社の債権者を害する行為とは、客観的には当該行為によって更生会社を無資力状態に陥れるものをいう。仮に債務超過部分についてのみ否認権行使が認められるとすれば、土地の評価額から機械的に否認権行使の対象土地を選択することは、選択された土地を除くと本件不動産ゴルフ場としての一体性を欠き、その担保価値が著しく低額に評価される可能性があり、更生担保権者としての引受参加人は予測不可能な損害を受ける可能性があるので、不当である。仮に、部分的な否認権行為が認められ、否認権行使の対象となる土地が選択される必要がある場合には、更生担保権者(引受参加人)に不当な損害を与える可能性が最小の土地、すなわち、本件不動産のゴルフ場としての一体性を損なう可能性が最小の土地が選択されるべきである。また、本件において否認の対象としているのは根抵当権設定行為であり、ゴルフ場の譲渡行為ではないから、取り消すべき範囲を決定する評価基準もゴルフ場として一体利用することを前提とした単価とするべきである。」を加え、同2行目<同146頁左段25行目>の「(4)」を「(5)」に改める。
14 原判決20頁20行目から同21行目<同146頁右段34行目>にかけての「行為ということができる。」の次に「より費消、隠匿しやすい財産である金銭の支払によって、より費消、隠匿し難い財産である本件不動産を更生会社の下にとどめることにもなる。」を、同24行目<同146頁右段40行目>の次に行を改めて「仮に本件協定の締結が客観的にみて更生会社の債権者を害するものであったとしても、否認することができるのは、更生会社の負債が資産を上回る部分についてのみである。」をそれぞれ加え、同25行目<同146頁右段41行目>の「(5)」を「(6)」に改める。
15 原判決21頁5行目<同146頁右段48行目>末尾に「仮に詐害性の客観的要件が充足されたとしても、自動的に主観的要件も充足されるということにはならない。」を加え、同6行目<同146頁右段49行目>の「(6)」を「(7)」に改め、同9行目<同146頁右段52行目>末尾に「すなわち、本件協定はあさひ銀行により価値を把握された本件不動産の範囲内において締結されるものであり、本件協定は代物弁済よりも一般債権者にとっての責任財産を増加させるものであり、あさひ銀行は更生会社とともに本件協定の内容が更生会社にとって極めて有益なものであると認識していた。なお、日東興業が平成11年2月2日和議裁判所に本件協定締結の許可申請をしたところ、整理委員及び管財人も同意し、和議裁判所の許可を得た。」を加える。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、1審原告の控訴に係る請求はいずれも理由があるからこれを認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加し、訂正し、又は削除するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第3 当裁判所の判断」中の1審原告らと引受参加人関係部分に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
(1) 原判決21頁21行目<同147頁左段14行目>の「無資力状態」の次に「(責任財産が減少して債権者に完全な弁済をすることができなくなる状態)」を加える。
(2) 原判決29頁9行目<同149頁右段9行目>末尾に「あさひ銀行は、日東興業に対する債権の担保を求めていたのであるから、抵当権を設定する不動産について適正な評価がされることはあさひ銀行にとっても必要なことだったのである。」を加える。
(3) 原判決34頁22行目<同151頁左段46行目>冒頭から同23行目から同24行目<同151頁左段49行目>にかけての「考えられるから、」までを「しかし、中西鑑定は平成13年4月16日付けの鑑定であるところ、平成4年当時におけるゴルフ場の不動産価格を算定するに当たっては、前記イ(イ)③のとおり、自己資本に対する収益性が低く、再調達原価に基づく積算価格と収益価格との開差が極めて大きくなる状況であり、収益還元法によるよりも原価法によって求められる価格の方が当時の実際価格を表していたものと考えられるから、」に改める。
(4) 原判決35頁15行目<同151頁右段19行目>の「(なお、甲17の1には、」から同36頁15行目<同152頁左段2行目>の「明らかである。」までを「そこで、大栄鑑定の前記1(3)ア(ウ)の計算式を用いて、更生会社の上記各所有地の価格を計算すると(1万4000円×(1+0.2)×105万2684.23×(1+0.1)×(1+30×0.0075)=238億3066万6000円(1000円未満四捨五入)となるから、これに造成工事費等61億2000万円及び対象建物の価格20億1500万円を合算すると、上記土地の価格は合計319億6566万6000円と評価される。また、丙第10号証によれば、更生会社は、当時上記各土地のほかに、中野字下住寺谷329番の土地1万0710m2を所有していたことが認められる。上記土地についてはゴルフ場用地と一体となることを認めるに足りる証拠はないから、その価格は大栄鑑定による標準価格1万4000円により算定した1億4994万円(1万4000円+1万0710)と評価される。以上の更生会社所有地の合計評価額は321億1560万6000円となる。
(4) 以上の認定によれば、平成4年9月30日における更生会社の所有不動産を除く積極財産は6億3875万8000円、消極財産は132億4056万4000円であったと認めることができる(引受参加人は、日東興業は更生会社の完全親会社であり、本件根抵当権の設定を指示したものであるから、仮に本件根抵当権の設定により完全子会社である更生会社に対する債権の回収が阻害されたとしても、それに異議を述べたり、他の一般債権者と同列の取扱いを要求したりすることはあり得ないから、更生会社の日東興業からの借入金3億9600万円は更生会社の債務額から控除すべきであると主張するが、更生会社の日東興業からの借入金は日東興業が実際に債権放棄等をするまでは更生会社の日東興業に対する債務として存在するというほかないから、引受参加人の上記主張は採用することができない。)。そして、証拠(乙15、16の各1、2)によれば、更生会社の第32期(平成3年10月1日から平成4年9月30日)及び第33期(平成4年10月1日から平成5年9月30日)の財務状況にはとりたてて大きな変化はなかったと認められるので、結局、本件根抵当権設定の日である平成5年1月27日の時点における更生会社の積極財産は約6億3875万8000円と約321億1560万6000円の合計約327億5436万4000円、消極財産は約132億4056万4000円程度であったと推認するのか相当である。
そして、このような状況下において、本件不動産に極度額200億円の根抵当権を設定すると、更生会社の負担する債務及び責任の総額は約332億4056万4000円に上るのに対し、積極財産の総額は約327億5436万4000円にとどまるから、本件根抵当権設定により、更生会社の負担する債務及び責任の総額は、その有する積極財産の総額を約4億8620万円上回ることが明らかである。」に改める。
(5) 原判決37頁3行目<同152頁左段24行目>の次に行を改めて、「 引受参加人は、更生会社の親会社たる日東興業が本件根抵当権設定の前の数年間にわたり増収増益の極めて良好な経営状況にあり、平成4年9月期においても640億円を超える預金を有していたこと、日東興業に対して、あさひ銀行以外の銀行も平成4年に新たな融資を行っていたことに鑑みれば、更生会社が融資を受けることも容易であったと推察され、このような更生会社に対する信用をも考慮すると、わずかな債務(責任)超過があったからといって、更生会社がその債務を完全に弁済する資力を失ったとは到底いえない旨主張する。しかし、日東興業が平成5年当時営業利益が減少し、経常損益が黒字から赤字に転落するという財務状態であったことは前記のとおりであり、日東興業の銀行定期預金は会員が銀行からローンを受けて購入した会員権代金が預金され、日東興業がその会員のローン債務を保証しているものであること(証人黒沢)、更生会社の平成元年12月から平成5年10月までの損益を見ても、営業収入は年間10億円前後にすぎず、経常損益は、平成2年10月から平成3年9月までの第31期を除き、常にマイナスで、固定資産を売却した利益を計上してもなお当期末処理損失を計上し続けているような財務状況にあるから、約4億8619万6000円の債務超過状態の解消は極めて困難な状態にあったと認められる(ちなみに、会社更生法30条1項では「事業の継続に著しい支障をきたすことなく、弁済期にある債務を弁済することができない」ことを更生手続開始の要件と定めている。)ことに照らし、引受参加人の上記主張は採用できない。」を加え、同9行目<同152頁左段33行目>の「明らかであり」の次に「(当時の会員がゴルフ会員権取引市場でその会員権を売却すれば、これを購入した新たな会員が更生会社に対する預託金返還請求権を取得することになり、決して更生会社が預託金返還債務を免れることはないのである。)」を、同12行目から同13行目<同152頁左段39行目>にかけての「他の物件等により担保されている分」の次に「又は被担保債権を前記各担保の価値に案分比例した他の担保相当分」をそれぞれ加える。
(6) 原判決38頁15行目<同152頁右段28行目>冒頭から同20行目<同152頁右段37行目>末尾までを「さらに、引受参加人は、本件根抵当権設定は、日東興業とあさひ銀行との良好な関係を維持し、日東興業に対する将来にわたる融資を確保するために必要不可欠の行為であり、本件根抵当権設定によって、日東興業の経営の悪化又は破綻が回避でき、ひいては更生会社の清算も回避されることになるから、本件根抵当権設定の目的は正当であるなどと主張するが、前記認定のとおり、本件根抵当権設定は、日東興業が既にあさひ銀行に対して負っていた債務につき行われたものであり、更生会社が残余の財産では債権者に対して十分な弁済をすることができなくなることを知りながらあさひ銀行に対して自己の財産に担保権を設定することは、更生会社と日東興業とが別個独自の法人格ないし債権者等の利害関係人を有する以上、それが更生会社の親会社である日東興業が所有する財産に設定されていたあさひ銀行の担保権の解消と引換えに行われた場合であっても、本件根抵当権の設定によって更生会社の責任財産の減少という結果が発生したことを否定できないから、詐害性を有する行為として否認の対象となると解される(民法の詐害行為についての最高裁判所平成12年7月7日第二小法廷判決・金融法務事情1599号88頁参照)。」に改める。
(7) 原判決39頁17行目<同153頁左段17行目>の「(なお、大栄鑑定が、」から同26行目<同153頁左段31行目>末尾までを削る。
(8) 原判決40頁10行目から同11行目<同153頁左段47行目>にかけての「厳然として存在している」の次に「(当時の会員がゴルフ会員権取引市場でその会員権を売却すれば、これを購入した新たな会員が更生会社に対する預託金返還請求権を取得することになり、更生会社が預託金返還債務を免れることはないことは前記のとおりである。)」を加える。
(9) 原判決41頁11行目<同153頁右段31行目>の「こうした事実に照らせば、」の次に「あさひ銀行において、本件根抵当権設定契約の締結が更生会社の債権者を害するものであることを知らなかったと認めることはでぎず、かえって、」を加え、同20行目から同21行目<同153頁右段46行目>にかけての「状況に陥るとは考えられなかったことからすると、」を「状況に陥ること、日東興業が更生会社に対して有していた貸付金について他の債権者と同列の取扱いを要求することは考えられなかったこと、本件根抵当権の被担保債権には本件根抵当権に先立って他の担保が付されていたことからすると、」に、同26行目から同42頁1行目<同153頁右段53行目>にかけての「状況に陥るとは考えられなかったとしても」を「状況に陥ること、日東興業が更生会社に対して有していた貸付金について他の債権者と同列の取扱いを要求することは考えられず、本件根抵当権の被担保債権には本件根抵当権に先立って他の担保が付されていたとしても」にそれぞれ改める。
(10) 原判決42頁2行目<同154頁左段3行目>の「日東興業は、」の次に「本件根根抵当権設定の当時、」を加え、同16行目の「債権者を害する限度において」を削る。
(11) 原判決42頁25行目<同154頁左段36行目>冒頭から同44頁1行目<同154頁右段26行目>末尾までを次のとおりに改める。
「4 争点(1)エについて
(1) 会社更生法所定の否認権は、更生管財人が更生手続を円滑に遂行する権限の一つとして、多数の利害関係人の利害を公平に調節することを目的とするものである。そして、債務者が実質的な倒産前後においては、平常時に妥当する債権者競争原理が抑制ないし排除され、債権者平等主義が強化される必要がある。倒産法の否認権が民法の債権者取消権(424条)よりも、対象となる行為が故意否認(破産法72条1号、会社更生法78条1項1号)、危機否認(破産法72条2号ないし4号、会社更生法78条1項2、3号)、無償否認(破産法72条5号、会社更生法78条1項4号)と制度上広範に認められていることも上記の債権者平等主義の強化の表れとして上げられる。
次に、本件の否認の特色を検討するに、本件根抵当権設定は、詐害意思がある故意否認(会社更生法78条1項1号)に該当する上、日東興業のあさひ銀行に対する債務の担保を目的とし、日東興業の子会社とはいえ、全く別個独自の法人格の更生会社自身にとっては、具体的な利益を得たものではなく、無償で財産を処分するたぐいのものであった(会社更生法78条1項4号参照)。そして、本件否認権の対象である本件根抵当権設定契約は、1個の契約で、多数の筆数の土地及び建物からなる本件不動産全てで構成されるいわば有機的一体としてのゴルフ場を目的としたものである。また、有機的一体としてのゴルフ場は更生会社の再建のために少なくとも当面は換価処分することではなく、積極的活用により収益を生むことを期待されている。
(2) 以上に検討したとおり、更生管財人の否認権の権限の趣旨、会社更生法を含む倒産法において、債権者平等主義が強化され、否認が広範に認められていることに加え、更生会社にとっては無償でその所有財産を担保に供することとなる反面、日東興業にとっては福井県内及び群馬県内の所有不動産に既に設定していた根抵当権が解除されることその他本件否認の上記の特色を併せ考慮すると、本件根抵当権設定契約全体を取り消し、全ての土地建物についての根抵当権設定登記抹消登記手続を命じることが更生会社の再建に資するとともに債権者平等主義に基づく債権者間の調節にも資するものであり、更生会社との関係で引受参加人に不公平な負担を強いることになるものではない。
引受参加人は、会社更生法上の否認権の行使は必要な限度で行使すればよいのであり、本件不動産は可分であり、更生会社の消極財産が積極財産を超過することになる限度で一部否認しても不都合はないなどと主張し、これに沿う専門法学者の意見書(丙20、26)を提出している。しかし、民法の詐害行為取消権は、個別の債権者の債権執行の準備手続を目的とすることから、その取消権の行使については、取消債権者の債権額を限度とし、取消しの対象が数筆の不動産である場合にはその債権額の範囲内で取消しの対象とする不動産を限定することが考慮されるが、会社更生法の否認権は、前記のとおり更生管財人が更生手続を円滑に遂行する権限の一つとして多数の利害関係人の利害を公平に調節するものであるから、否認権行使の範囲や効果について民法の詐害行為取消権のそれとは異なった観点から考慮することが必要である。故意否認における債権者を害する行為が、それにより更生会社が無資力状態、すなわち責任財産が減少して債権者に完全な弁済をすることができなくなる状態とするものであることは前記のとおりであり、本件においては、それまで本件不動産の全体が更生会社の総債権者の債権の引き当てとなっていたところ、本件根抵当権設定契約は日東興業のあさひ銀行に対する債務の担保に付するために締結されたのであり、その全体が更生会社を上記の意味の無資力に陥らせるものであるから、否認権の行使もその全体に及ぶとすることが適正な更生手続の遂行に適うものというべきである。なお、甲第31号証、第35号証及び第36号証は上記の考え方に沿う専門法学者の意見書である。
したがって、引受参加人の上記主張は採用することができない。」
(12) 原判決44頁2行目の<同154頁右段27行目>の「4」を「5」に、同15行目<同154頁右段46行目>の「土地面積」から同45頁13行目<同155頁左段27行目>末尾までを「土地面積106万3394.23平方メートルで計算すると、その不動産価格は約90億3885万円(1万円未満四捨五入)となるので、その数値を用いて同鑑定の他の数値である造成工事費56億6000万円、建物の再調達原価23億4000万円の合計額170億3885万円の15パーセント相当額(約25億5583万円)を付帯費用相当額として加算した合計約195億9468万円が再調達原価となり、そこからコース関連施設の減価を16億3000万円、建物の減価を14億5000万円、付帯費用の減価率を60パーセント(25億4000万円の60パーセントは約15億2000万円)として、これらの減価額計算46億円を前記の再調達原価から控除すると149億9468万円となること、したがって、更生会社が本件根抵当権設定後に不動産を新たに取得したとの証拠もない本件においては、本件協定を締結した当時のその所有不動産価格は149億9468万円を超えるものではなかったこと、更生会社の平成10年9月30日時点での流動資産は約1億7100万円、無形固定資産と投資等の総額は約2億6000万円であるのに対し、流動負債は14億4800万円、固定負債は112億2500万円で負債の合計は126億7300万円(うち預託金返還債務総額は112億2100万円)であったことが認められ、これによれば、本件協定締結時点における更生会社の積極財産は、この所有不動産に流動資産を加えた約154億2568万円を超えるものではないのに対し、消極財産は126億7300万円に及んでいたと推認することができる。
そして、このような財務状況下において、更生会社がさらに59億6459万4000円もの債務を引き受けると、更生会社が本件不動産について負担する200億円の責任を別にしても、その負う債務総額は、186億3759万4000円に達するから、本件協定の締結により、更生会社の負担する債務総額は、積極財産の総額を少なくとも32億円上回ることが明らかである。」にそれぞれ改める。
(13) 原判決45頁17行目<同155頁左段34行目>の「引受参加人は、」の次に「本件不動産は本件根抵当権設定によりあさひ銀行に対する200億円の責任を負担し、その範囲内では更生会社の債権者の一般担保の目的とはされないことになったから、その範囲内である59億6459万4000円の弁済をする旨の本件協定の締結は更生会社の責任財産の減少をもたらす行為ではない、また、」を同23行目<同155頁左段42行目>の「しかしながら、」の次に「第三者のために担保権が設定されている不動産については、同担保権の被担保債権額相当分は債権者の一般担保の目的とされないことから、仮に同不動産を代物弁済した場合に上記被担保債権額の範囲においては否認の対象とはならない場合があるとしても、本件協定は、本件不動産を処分するものではなく、新たに59億円余の債務を負担するものであるから、引受参加人の上記主張は当を得ないものである。そして、」をそれぞれ加える。
(14) 原判決46頁13行目<同155頁右段14行目>冒頭から同16行目<同155頁右段18行目>末尾までを「6 争点(2)イ及び同ウについて
(1) 本件協定の締結が客観的には更生会社を無資力状態に陥れるものであったことは前記5で認定のとおりであるところ、そのことは、本件協定の内容や当時の更生会社の財務状況等から、更生会社において当然知っていたものと認められる。
なお、日東興業は、平成11年2月2日、和議裁判所に本件協定締結の許可申請をしたところ、整理委員及び管財人も同意し、和議裁判所の許可を得たことが認められるが(甲28、丙22、23)、日東興業の和議手続において相当と認められた行為であれば、更生会社の債権者を害する行為には当たらないということはできないから、上記和議裁判所による許可等の事実により上記認定が左右されるものではない。」に改める。
2 よって、1審原告の控訴に係る請求は理由があるからこれを認容すべきであり、当裁判所の上記判断と一部異なる原判決を変更し、引受参加人の控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・宮﨑公男、裁判官・上原裕之、裁判官・長谷川誠)