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東京高等裁判所 平成15年(ラ)1719号 決定 2003年12月26日

東京都●●●

抗告人(原審申立人・本案原告)

●●●

同代理人弁護士

荒井哲朗

東京都目黒区三田1丁目6番21号

相手方

(承継前の原審相手方・本案被告「GEコンシューマー・クレジット有限会社」承継人である合併後の存続会社)

GEコンシューマー・ファイナンス株式会社

(旧商号 ゼネラル・エレクトリック・キャピタル・コンシューマー・ファイナンス株式会社)

同代表者代表取締役

●●●

同代理人弁護士

●●●

主文

1  原決定を次のとおり変更する。

2  相手方は,本案の受訴裁判所に対し,承継前の原審相手方・本案被告GEコンシューマー・クレジット有限会社の業務に関する商業帳簿(貸金業の規制等に関する法律19条に定める帳簿)又はこれに代わる貸金業の規制等に関する法律施行規則16条3項,17条2項に定める書面のうち,抗告人と同会社との間の昭和61年12月27日から平成5年7月18日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)が記載された部分の文書(電磁的記録を含む。)を提出せよ。

3  抗告人のその余の本件文書提出命令の申立てを却下する。

理由

第1当事者の申立て

1  抗告の趣旨及び理由

抗告人の本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」,「抗告人準備書面」及び「抗告人準備書面2」に記載のとおりである。

2  抗告の趣旨及び理由に対する答弁

本件抗告の趣旨及び理由に対する相手方の答弁は,別紙「即時抗告の理由に対する相手方GEの主張」と題する書面に記載のとおりである。

第2事案の概要

本件は,抗告人を原告,GEコンシューマー・クレジット有限会社(以下「旧相手方」という。)を被告とする本案訴訟において,抗告人が旧相手方に対し,民事訴訟法220条3項後段,231条に基づき,昭和57年1月1日から平成14年4月8日までの金銭消費貸借取引における継続的な借入及び弁済により生じた過払の事実を証するため,別紙文書目録記載の文書の提出命令の申立て(以下「本件文書提出命令の申立て」という。)をしたところ,これに対し旧相手方は,抗告人が提出を求めている文書のうち平成5年7月19日から平成14年4月8日までの取引履歴については既に乙3(取引履歴計算書)として提出済みであり,それ以前の文書は10年が経過しているのでコンピューターのデータから削除され現在これを所持していない旨主張した事案である。

原審は,旧相手方の上記主張を容れて本件文書提出命令の申立てを却下したことから,抗告人が旧相手方を相手方として即時抗告したものである。なお,抗告人は,当審において,本件文書提出命令の申立てに係る開示すべき文書の範囲を「承継前の原審相手方・本案被告GEコンシューマー・クレジット有限会社の業務に関する商業帳簿(貸金業の規制等に関する法律19条に定める帳簿)又はこれに代わる貸金業の規制等に関する法律施行規則16条3項,17条2項に定める書面のうち,抗告人と同会社との間の昭和57年1月1日から平成5年7月18日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)が記載された部分(電磁的記録を含む。)」(以下「本件文書」という。)に変更した。

なお,旧相手方は,平成15年10月1日にGEコンシューマー・ファイナンス株式会社(旧商号 ゼネラル・エレクトリック・キャピタル・コンシューマー・ファイナンス株式会社。以下「相手方」という。)に吸収合併されたので,当審において同月20日に同社が相手方の地位を承継した。

第3当裁判所の判断

1  本案訴訟について

一件記録によると,本案訴訟は,原告である抗告人が旧相手方に対し,(1)別紙計算書(GEコンシューマー・クレジット有限会社)記載のとおり継続的な金銭消費貸借取引により借入及び返済を繰り返し,これを利息制限法所定の制限利息に引き直して計算すると少なくとも196万4215円の過払金があるとして,不当利得返還請求権に基づき,196万4215円及びうち194万5496円に対する平成14年4月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(2)旧相手方が貸金業者として抗告人との取引経過の全容を開示すべき義務を怠ったとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料10万円及び弁護士費用10万円,合計20万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

本案訴訟の争点は,(1)①抗告人主張の昭和57年1月1日から平成14年4月8日までの期間における継続的な金銭消費貸借取引の貸付内容,返済の年月日及び金額,②旧相手方主張の貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)43条1項所定のみなし弁済の成否,(2)抗告人主張の不法行為の成否である。

2  本件文書の存在及び相手方の所持等について

(1)  一件記録によると,旧相手方は,本案訴訟において,平成5年7月19日以前に抗告人との間で金銭消費貸借取引があったのか否かについては不明である旨主張していたが,相手方は,当審における平成15年10月23日の審尋において,本件文書に関するデータが過去に存在したこと自体は認め(ただし,その年月日は特定しない。),また,当審で提出した相手方作成の同年11月10日付け報告書(3)において,顧客との金銭消費貸借取引については,当該取引の都度逐一各支店のATMからオンラインでホストコンピューターの磁気デスクに記録されそのデータが保存されていたことを認めている。

さらに,一件記録によると,ア.抗告人は,株式会社レイク(以下「レイク」という。)との間で継続的な金銭消費貸借取引を行い,その返済についてはレイクの収納代行者である日本リースに対し支払うことになっていたところ,本案訴訟の甲1(レイク宛の平成15年7月19日付けエントリーカード(エルカード会員入会申込書お客様控))には,「再作成」と記載され,また,甲2(レイク宛のカード発行依頼書)の「再発行」欄には「新デザインカードとの交換」に○印が記入され,更に甲3(レイクの領収書兼ご利用明細書)には「カード再発行」と記載されていること,イ.レイクは,一般消費者等に対する無担保・小口の貸付を主な業務とする貸金業者であり,抗告人との間の金銭消費貸借取引においても貸金業法19条及び同法施行規則16条所定の事項を記載した帳簿を作成して貸金債権を管理するとともに,多数の顧客の取引履歴の記録を電算化し,抗告人の取引履歴についてもコンピューターの磁気デスクに記録していたこと,ウ.レイクは,旧相手方に対し,平成10年11月2日,営業譲渡をし,旧相手方は,抗告人との間の上記金銭消費貸借取引をすべて引き継いだこと,エ.旧相手方は,原審の本件第1回弁論準備期日である平成15年5月13日,本案の受訴裁判所に対し,乙3(取引履歴計算書)を提出して,抗告人と旧相手方(レイクを含む。以下同じ。)との間の平成5年7月19日から平成14年4月8日までの間における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)を抗告人に開示したこと,オ.乙3のうち平成5年8月27日から平成10年9月28日までの間の返済の「年月日」及び「支払済の金額」欄記載の抗告人の旧相手方に対する返済状況は,甲4の⑧ないし⑬(いずれも抗告人の夫である●●●名義の総合口座通帳)における「日本リース」名義で引き落とされた各年月日及び金額の記載と符合していること,カ.甲4の①ないし⑧(いずれも抗告人の夫である●●●名義の総合口座通帳)においても,上記甲4の⑧ないし⑬と同様に昭和62年1月27日から平成5年8月27日までの間にほぼ毎月27日ないし29日ころ「日本リース」名義の引き落としが記載されていること,キ.旧相手方は,平成15年10月1日,相手方であるGEコンシューマー・ファイナンス株式会社(旧商号 ゼネラル・エレクトリック・キャピタル・コンシューマー・ファイナンス株式会社)に吸収合併されたことが認められる。

以上の事実を総合すると,抗告人は,平成5年7月19日以前からレイクとの間で金銭消費貸借取引があり,遅くとも昭和62年1月27日からレイクの収納代行者である日本リースに対しその貸金の返済をしているので,少なくともこれより1か月前には金銭消費貸借取引が開始されたものと推認することができる。したがって,旧相手方は,抗告人との金銭消費貸借取引について,上記乙3(取引履歴計算書)以外に,少なくとも昭和61年12月27日から平成5年7月18日までの間の金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)を記載した業務帳簿(電磁的記録を含む。)を所持し,そして,相手方は旧相手方を吸収合併したのであるから,相手方から上記業務帳簿を引き継いで現在所持しているものと推認することができる。

(2)  もっとも,相手方は,顧客が数百万人もあるのでコンピューターの磁気デスクに記録したデータをすべて保存することは相手方に設置されたコンピューターの容量との関係で不可能であり,また,貸金債権の消滅時効は10年であるから10年を超えてデータを保存する必要はなく,そして,貸金業法上の取引履歴の保存期間は3年であって(貸金業施行規則17条),10年を経過した取引履歴の保存義務はなく,もっとも,取引履歴は商業帳簿ではないが,商業帳簿の保存期間は帳簿閉鎖時から10年間であること(商法36条)も考慮して,10年を経過した取引履歴につきコンピューターの磁気デスクに記録したデータを消除することにしており,その方法は,10年経過後の翌月10日に自動的にコンピューターのデータから削除される方式であり,当該訴訟が係属していたり,金銭消費貸借取引が継続していたとしても,相手方のコンピューターには上記のように1か月に1回自動的に消去される独自のコンピューターソフトが組み入れられている旨主張する。

しかし,一件記録に照らしも,相手方が使用するコンピューターの機種,性能,台数,磁気デスクの種類,容量,その保管・管理方法等はまったく不明であり,また,仮に相手方が顧客に対して有する貸金債権がその発生から10年を経過したとしても,顧客が分割弁済をしていれば,消滅時効は中断しているのであり,そして,貸金債権に関する訴訟が係属しているのに,相手方がこれに関する取引履歴を消除すると,相手方において当該訴訟の追行上支障が生じあるいは不利益となることもありうるから,取引履歴が10年を経過すると,このような事情を一切捨象して,その途端に自動的にその翌月に取引履歴を消除するというのは,貸金債権の管理上極めて不都合かつ不合理である。したがって,相手方がその経営上,貸金債権につきこのような不都合かつ不合理な管理や処理をしているというのは,俄に肯けない。さらに,相手方提出の平成15年11月10日付け報告書(3)には,相手方は上記のコンピューターソフトを独自に開発したから,同業他社は模倣することができず,他社が10年以上のデータを自動的に消除できないのは,そのような機能を備えたコンピューターソフトを開発できないためであるとの記載があるが,相手方が開発したという上記コンピューターソフトについては,その具体的なプログラムの要旨は不明であり,また,相手方は,このようなコンピューターソフトの存在そのものについても,これを裏付ける客観的資料を何ら提出していない。

したがって,相手方の上記主張は採用することはできない。

3  文書の提出義務について

(1)  本案訴訟の上記各争点に照らすと,本件文書のうち,相手方が所持すると認められる昭和61年12月27日から平成5年7月18日までの間の金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)を記載した業務帳簿(電磁的記録を含む。)は,これを取り調べる必要があるものと認められる。

(2)  そして,貸金業者は,その業務に関する帳簿を備え,債務者ごとに貸付けの契約について契約年月日,貸付けの金額,受領金額等を記載しなければならない(貸金業法19条)ことを考慮すると,相手方の業務に関する商業帳簿(貸金業法19条に定める帳簿)又はこれに代わる貸金業法施行規則16条3項,17条2項に定める書面のうち,上記抗告人と旧相手方との間の昭和61年12月27日から平成5年7月18日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)が記載された部分の文書(電磁的記録を含む。)は,貸金業者である旧相手方と債務者である抗告人との間の金銭消費貸借契約という法律関係について作成された文書(民事訴訟法220条3項後段,231条)に該当すると認めるのが相当である。

したがって,相手方は,本件文書のうち抗告人と旧相手方との間の昭和61年12月27日から平成5年7月18日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)が記載された部分の文書(電磁的記録を含む。)の提出義務があるというべきであるから,その限度で本件文書提出命令の申立ては理由がある。ただし,抗告人と旧相手方との間の昭和57年1月1日から昭和61年12月26日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)が記載された部分の文書(電磁的記録を含む。)については,相手方が現在これを所持していると認めるに足りる証拠はないから,当該期間に係る本件文書提出命令の申立ては理由がない。

第4結論

よって,本件文書提出命令の申立ては上記の限度でこれを認容すべきであり,その限度で原決定は不相当であるから,本件抗告の一部を容れることとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 水谷正俊 裁判官 河野清孝)

(別紙)

文書目録

承継前の原審相手方・本案被告GEコンシューマー・クレジット有限会社の業務に関する商業帳簿(貸金業法19条に定める帳簿)又はこれに代わる貸金業法施行規則16条3項,17条2項に定める書面のうち,抗告人と同会社との間の昭和57年1月1日から平成14年4月8日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)が記載された部分(電磁的記録を含む。)。

(以上)

<以下省略>

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