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東京高等裁判所 平成15年(ラ)670号 決定 2003年8月15日

抗告人 X

相手方 Y

未成年者 A

主文

原審判を次のとおり変更する。

抗告人は、相手方に対し、55万5000円の支払をせよ。

抗告人は、相手方に対し、平成15年8月1日から未成年者が成年に達する日まで毎月末日限り1か月2万円の割合による金員の支払をせよ。

理由

1  抗告の趣旨及び理由

本件抗告は、「原審判を取り消す。本件を東京家庭裁判所に差し戻す。」との決定を求めるものであり、その理由の要旨は、(1) 本件養育費の算定に当たっては、抗告人が支払を受けていた給与について相手方により差押えがされたこと及び抗告人がその後無職となったことを斟酌すべきである、(2) 抗告人と未成年者との面接交渉につき審理、審判するため本件を原審に差し戻すべきである、というものである。

2  当裁判所の判断

(1)  抗告人並びに相手方及び未成年者の関係、生活の状況、抗告人及び相手方の各収入、支出の状況等は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原審判の「理由」の2(1)アないしオ(原審判2頁3行目ないし4頁6行目)のとおりであるから、これを引用する。

ア  原審判2頁5行目の「○月○日生」を「○月○日生」に、同行の「B」を「B1」に、12行目の「○月○日」を「○月○日生」に改め、13行目の「戸籍附票」から14行目の「説明によれば、」までを削り、24行目の「移住」を「移転」に改め、27行目の「弁護士」の前に「代理人」を加える。

イ  同3頁1行目から2行目の「弁護士」の前に「代理人」を、5行目の「(福岡市)」の次に「(以下「○△○△」という。)」を加え、6行目から7行目及び同行の各「である」を「であった」に改める。

同行の次に、改行して次のとおり加える。

「ただし、平成14年12月分から平成15年3月分までの給与については、相手方の後記エの仮執行宣言付き判決正本に基づく強制執行(債権差押え)により、合計19万7434円の部分(平成14年12月分につき5万5973円、平成15年1月分につき5万0173円、同年2月分につき4万3440円、同年3月分につき4万7848円)が差し押さえられたため、抗告人は、その部分の支払は受けていない。

抗告人は、平成15年3月31日限り契約期間の終了により○△○△を退職し、無職となった。」

8行目の「平成○年○月○日」を「平成○年○月○日」に改め、11行目の「及び未成年者」を削り、13行目の「終わり」から21行目の「係争中である。」までを「終わった。相手方は、抗告人を被告として、未成年者についての認知と、婚約ないし内縁の不当破棄を理由とする損害賠償とを求める訴えを提起した(東京地方裁判所平成12年(タ)第○○○号。認知請求の訴えは、後に取り下げた。)。抗告人は、これを争うとともに、自らも内縁の不当破棄を理由として相手方に損害賠償を求める訴えを提起し(同裁判所平成12年(ワ)第○○○○号)、前者の訴えに併合して審理された。また、相手方は、未成年者の法定代理人として、抗告人に対し、認知を求める訴えを提起した(同裁判所平成12年(タ)第△△△号)。この認知の訴えについては、平成12年11月29日請求認容の判決がされ、同年12月16日確定した。上記各損害賠償請求の訴えについては、平成14年11月14日相手方の請求を一部認容し、抗告人の請求を棄却する判決(相手方の勝訴部分につき仮執行の宣言が付されている。)がされたが、抗告人が控訴を申し立て、控訴審に係属中である。

この間の平成13年6月23日、相手方は、養育費の支払を求めて本件審判の申立てをした。」に改め、21行目の「申立人」から23行目末尾までを削り、24行目の「○○建設」の次に「株式会社」を加え、26行目の「収入月額は」から末行の「2万0170円」までを「収入は、上記会社の事務又は家事の手伝いの報酬として上記会社又は父母から受け取る1か月3万円程度である(そのほか、1か月合計1万8500円の児童手当及び児童育成手当を支給されているが、公的扶助の補充性からして養育費の分担額の決定に当たりこれを相手方の基礎収入に加えることは相当でない。)。支出のうち公租公課等は、月額2万0170円」に改める。

ウ  同4頁1行目の「のほか、不足分の費用」を「である。そのほかにかかる費用の不足分」に、2行目の「C」から4行目の「であるところ、」までを「C方に居住し、○△○△に在職していた当時の給与収入は、上記ウのとおり月額約17万7840円(税込み)であり、その当時の」に、5行目の「にのぼり」から6行目末尾までを「であった。」に改める。

同行の次に、改行して次のとおり加える。

「抗告人は、上記ウのとおり平成15年3月31日限り○△○△を退職し、その後は、無職である。現在は、肩書地に転居し、関西方面で就職口を探していると述べている。抗告人は、雇用保険法に基づく失業給付(求職者給付のうちの基本手当)として、同年4月14日から同年5月5日までの分12万1968円及び同月6日から同年6月2日までの分15万5232円を支給された。」

(2)  上記(1)に認定した事実によると、抗告人は、相手方に対し、抗告人が○△○△に勤務することになった翌月の平成13年9月1日以降の養育費の分担額を支払うべきである。そして、関係法規の規定等から導かれた公租公課の収入に対する標準的な割合及び統計資料に基づき推計された費用の収入に対する標準的な割合から算定される抗告人及び相手方の各基礎収入並びに生活保護の基準及び統計資料に基づき推計された子の生活費の割合を基に、抗告人が平成15年3月31日限り○△○△との間の雇用契約の終了により無職となっていること、抗告人及び相手方の現在の収入(負担能力)及びその今後の見通し、両者間の損害賠償を巡る争いの状況等を加味して考慮すれば、上記の分担額は、平成13年9月1日から平成15年3月分までは1か月2万5000円、同年4月以降は1か月2万円とするのが相当である。

(3)  相手方の主張は、次のとおり採用することができない。

ア  相手方は、未成年者の養育には1か月12万円余を必要とするとし、抗告人はその半額を負担すべきであるという趣旨の主張をするが、それらは、平成14年2月ころの支出額を示すものにすぎず、恒常的にそれだけの費用が養育にかかると認めることのできる証拠はないから、相手方主張の上記金額を養育費算定の基礎とすることはできず、相手方の主張は前提において採ることができない。

イ  相手方は、抗告人のいう母への手渡し、借入返済、裁判費用、同僚との会食費用等の合計額に当たる1か月11万7000円を、養育費として支払うことの可能な原資であるとし、これで賄うことができる以上養育費の額は相手方の主張する1か月6万円とすべきであると主張するが、先にも説示したとおり、未成年者の養育に1か月6万円を超える額の費用が必要不可欠であると認める根拠はないから、この主張も前提を欠く。

ウ  相手方は、抗告人が現金45万円を同居中に蓄えて保有しているとし、この点からも、抗告人の支払うべき養育費の額は1か月6万円とすべきであるとの趣旨の主張をするが、上記説示のとおり1か月6万円を超える金額が必要であるとする前提を採用し難い上に、抗告人が上記金員を保有している事実を認めることのできる証拠もない。

(4)  以上によれば、抗告人は、相手方に対し、未成年者の養育費の分担として、平成13年9月から平成15年7月までの分合計55万5000円を直ちに、同年8月1日から未成年者が成年に達する日まで1か月2万円の割合による金員を毎月末日限り、支払うべきであるから、これと一部異なる原審判は相当でなく、本件抗告は一部理由があることとなる。

よって、家事審判規則19条2項の規定に照らし(抗告人は、養育費支払の履行に伴い、未成年者との面接交渉権を行使する意向であるので、面接交渉につき審理、審判するため、本件を原審に差し戻すべきであるというが、抗告人と未成年者との面接交渉に関する事項は、本件審判事件と併合し、又は並行して審理することが相当なものとはいえない。)、当審において上記に従い原審判を変更することとする。

(裁判長裁判官 赤塚信雄 裁判官 小林崇 長屋文裕)

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