東京高等裁判所 平成15年(ラ)82号 決定 2003年5月27日
抗告人
甲 野 太 郎
同代理人弁護士
蔭 山 文 夫
主文
1 原決定を取り消す。
2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
理由
1 本件執行抗告は,抗告人が,抗告人を原告,株式会社△△△ことオツカワジロウ(以下「本件債務者」という。)を被告とする洲本簡易裁判所平成14年(ハ)第100号不当利得返還等請求事件の執行力ある判決正本(以下「本件債務名義」という。)に基づいて,株式会社大和銀行(現在の株式会社りそな銀行。以下「本件第三債務者」という。)池袋支店の口座番号<省略>,口座名義オツカワジロウの預金口座(以下「本件預金口座」という。)が本件債務者の預金口座である旨主張して,本件預金口座に係る預金債権について債権差押及び転付命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をしたところ,原審が本件預金口座に係る預金債権が本件債務者の責任財産に属することの証明がないとして,本件申立てを却下したため,申し立てられたものである。
そして,本件執行抗告の趣旨及び理由は,抗告人提出に係る執行抗告状のとおりであるが,要するに,預金債権を差し押さえるについては口座番号で特定すれば足り,債務者の名称と預金口座の名義人の名称とが一致していれば当該預金口座に係る預金債権が債務者の責任財産に属することの証明は不要というべきであるし,仮にこの証明が必要だとしても,本件債務名義である判決で認定された事実については新たな証明は不要であり,抗告人の提出した資料によって差押えの対象とした本件預金口座の預金債権が本件債務者の責任財産に属することの証明はされているのに,この証明がないとして,抗告人のした本件申立てを却下した原決定は不当であるから取り消されるべきであるというものである。
2 そこで,検討するに,口座番号を特定してこれを債務名義上の債務者の預金口座と主張し,その預金口座に係る預金債権の差押えを申し立てるについては,債務名義に記載された債務者の住所・氏名と当該預金口座の名義人の住所・氏名が一致する場合を除き,当該預金口座の預金債権が当該債務者の責任財産に属することを証明する必要があるものというべきである。
ところで,抗告人が本件債務者の預金口座であると主張する本件預金口座の名義人の氏名と本件申立てに係る本件債務者の氏名とは,カタカナの表記の限りではあるが,一致するといえるものの,本件預金口座の名義人の住所は本件記録上明らかでない。
そこで,本件預金口座の預金債権が本件債務者の責任財産に属することにつき証明が必要になるところ,本件記録によれば,抗告人は,本件申立てに先立って,本件預金口座を本件債務者の預金口座として債権仮差押命令の申立てをしてその命令を得ているが,この仮差押命令は,本件債務者及び本件第三債務者にそれぞれ送達されていること(本件申立ての添付書類),この債権仮差押に対しては本件債務者からも本件預金口座の名義人からも特段争われておらず,本件債務者は,本件債務名義上の債権については上記の債権仮差押に係る預金債権から回収することを求め,任意弁済には応じない態度を示していること(甲6),抗告人は,本件債務者から,本件債務者に対する借入金の返済は本件預金口座に振り込む方法でするよう指示され,現に本件預金口座に返済金を振り込んでいること(甲3,4),以上の事実が認められる。
上記の事実,とりわけ本件債務者が返済金を振り込む口座として本件預金口座を抗告人に指示していること,抗告人がした債権仮差押については本件預金口座の名義人等から特段争われておらず,本件債務者も本件債務名義上の債権は債権仮差押に係る預金債権から回収することを求めていることなどに照らすと,本件預金口座は本件債務者の預金口座であると認めるのが相当である。
3 そうであれば,本件預金口座の預金債権が本件債務者の責任財産に属することの証明はあるものというべきであるから,本件預金口座の預金債権を本件債務者の責任財産であるとしてされた本件申立ては,これを認容すべきものといえる。
したがって,本件預金口座の預金債権が本件債務者の責任財産に属することの証明がないとして本件申立てを却下した原決定は不当であって,本件執行抗告は理由があるというべきである。
4 よって,原決定を取り消し,本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 久保内卓亞, 裁判官・大橋 弘, 裁判官・長谷川 誠)