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東京高等裁判所 平成15年(行ケ)336号 判決 2004年4月14日

原告

株式会社ジャパン・システム・アドバイス

原告

今田哲夫

両名訴訟代理人弁護士

高橋隆二

同弁理士

福田賢三

福田伸一

福田武通

加藤恭介

被告

特許庁長官今井康夫

指定代理人

吉村宅衛

治田義孝

矢島伸一

高橋泰史

伊藤三男

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が訂正2002-39221号事件について平成15年6月16日にした審決を取り消す。

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告らは,発明の名称を「遊技機用釘間隔測定装置」とする特許第3010543号発明(平成4年9月18日出願,平成11年12月10日設定登録,以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。

本件特許につき,無効審判請求がされ,特許庁に無効2001-35179号事件として係属したところ,原告らは,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載等の訂正の請求をした。特許庁は,上記事件につき審理した結果,平成14年7月16日,「訂正を認める。特許第3010543号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件無効審決」という。)をした。

原告らは,本件無効審決の取消請求訴訟(当庁同年(行ケ)第438号事件)を提起した後,同年10月18日,特許請求の範囲の減縮等を目的として,本件明細書の特許請求の範囲の記載等の訂正(以下「本件訂正」という。)を求める訂正審判の請求をし,特許庁に訂正2002-39221号事件として係属した。特許庁は,上記事件につき審理した結果,平成15年6月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月26日,原告らに送達された。

2  本件訂正に係る本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】記載の発明の要旨

2個の接触ゲージ部にそれぞれ接続する2個の杆体により前記2個の接触ゲージ部を所定の対向間隙を配して対向させ,当該2個の接触ゲージ部の最厚点において測定すべき1対の遊技機障害釘の内法間隔をなす2個の内法点に接触するように構成された釘接触ゲージ手段と,前記2個の杆体の間に設けられ,当該釘接触ゲージ手段の2個の接触ゲージ部が測定すべき1対の遊技機障害釘に自在に追随するように前記対向間隙を伸縮調整するゲージ間隙調整手段と,動作制御信号を発することにより1対の遊技機障害釘に接触ゲージ部を接触させた後の測定動作の実行または測定動作の停止を制御する動作制御手段と,測定を実行すべき当該動作制御信号が発せられた場合には,前記2個の最厚点間の距離の読取値を前記2個の杆体の動きによる読取ディジタルデータ信号として出力するゲージ間隔読取手段と,前記接触ゲージ部を1対の遊技機障害釘の間に挿入した際に接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込むようにし,測定すべき1対の遊技機障害釘の内法間隔値を当該読取ディジタルデータ信号に基づいて演算するとともに,演算されたディジタルデータを数値表示し,また当該演算したディジタルデータを,逐次もしくは一旦記憶収集した後にまとめて,コンピュータ等に釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータを外部出力するデータ演算出力手段と,を備えたことを特徴とする遊技機用釘間隔測定装置。

(以下「本件訂正発明」という。)

3  審決の理由

審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件訂正発明は,特開平4-95704号公報(甲4,以下「刊行物2」という。),実願平1-94280号(実開平3-33302号)のマイクロフィルム(甲3,以下「刊行物1」という。),昭和59年6月6日株式会社三豊製作所発行「みつとよ技報25号」(甲5,以下「刊行物3」という。),特開昭58-55709号公報(甲6,以下「刊行物4」という。),実公平1-20653号公報(甲7,以下「刊行物5」という。)及び実願昭55-83622号(実開昭57-8560号)のマイクロフィルム(甲8,以下「刊行物6」という。)に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,本件訂正に係る審判の請求は,特許法126条4項の規定に適合しないとした。

第3原告ら主張の審決取消事由

審決は,刊行物2に記載された発明(以下「刊行物2発明」という。)が未完成発明であることを看過した(取消事由1)上,本件訂正発明と刊行物2発明との相違点(ⅰ)~(ⅲ)に関する判断を誤った(取消事由2~4)結果,本件訂正は認められないとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(刊行物2発明が未完成発明であることを看過した誤り)

(1)  遊技機障害釘の間隔の測定には特殊の技術上の問題が存在することから,刊行物2に記載された技術はおよそ実施不能であって,刊行物2発明は未完成発明にすぎないから,他の技術と組み合わせて新しい技術を創作する前提を欠くものである。したがって,審決が,刊行物2発明を,本件訂正発明の進歩性を判断するための引用発明としたことは違法である。

(2)  遊技機障害釘の間隔は,遊技機障害釘の頭部を打ち,基盤に対する釘の方向と傾斜角度を何時方向に何度というように変えることにより,基盤から高さ方向の中間部(5.5mmの高さ)の内法寸法において,パチンコ玉の直径部分(最厚部)が通過(又は非通過)できるようにする必要があるから,遊技機障害釘の頭部近傍や基盤近傍における間隔を測定しても意味がない。遊技機障害釘には,何時方向に何度曲げられたものや,遊技機障害釘が植設された時点で根元が異なる位置で植設されたものがある。曲げられた二本の障害釘間隔の測定においては,光の投射やノギスのゲージで測定する場合,斜め方向から測定すると,その角度と高さ方向の測定位置によって,異なった距離として測定されてしまう。また,基盤上には,多数植設されている遊技機障害釘,複数個の入賞装置(役物),風車,ランプ等が存在しており,これらが邪魔になるため,一般的測定器によっては二本の遊技機障害釘の所定高さにおける間隔を正しく測定することはできない。

(3)  刊行物2には,2本の遊技機障害釘に対して平行な光を投光し,反対側の受光素子でこれを受光することにより,その間隔が測定できると記載されている。

しかし,上記方法による遊技機障害釘の間隔の測定には,垂直に植設された2本の遊技機障害釘の間隔と,光が進む方向と同じ方向で,互いに反対方向に角度を傾斜させた2本の遊技機障害釘(例えば,0時方向から6時方向に向かって光を当てた場合において,0時方向と6時方向に傾斜された釘)の間隔とは,根元が同じ位置に植設されたものであっても,所定の高さにおいて異なる距離として測定されるべきところ,同じ距離として測定されてしまうという問題がある。さらに,測定器を当てた高さ位置や測定器の方向によって遊技機障害釘の間隔が異なって測定される,他の遊技機障害釘が障害になり,目的の遊技機障害釘の間隔が測定できない,光発光部からの光が遊技機障害釘で反射して雑音になり正確な測定ができない,光発光部の配置により遊技機障害釘の頭部による死角エリアができるなど,遊技機障害釘の間隔の正確な測定を阻害する要因もある。

このように,光を利用した遊技機用釘間隔測定装置には,正確な測定を阻害する要因があるところ,刊行物2には,正しいディジタルデータを得るためのゲージ部の構造,例えば,多数の遊技機障害釘等の間に入れるコンパクトなゲージ部の具体的な形状,遊技機障害釘の植設態様や測定する者の熟練度の違いによって生じる正しいディジタルデータを得るために必要な時間の差異への対応等について,具体的な技術的思想が開示されていない。また,刊行物2の4図を見ても,障害釘の間隔を測定する位置は特定されないから,「投光手段」及び「受光手段」等のゲージ部を,光の直進性及びゲージ部の形状を斟酌した遊技機障害釘の最適位置,すなわち,本件訂正発明の構成である「2個の接触ゲージ部の最厚点において測定すべき1対の遊技機障害釘の内法間隔をなす2個の内法点に接触するよう」に配置することができないから,正しいディジタルデータを得ることができない。

そうすると,刊行物2発明は,単なるアイデアにすぎないものというべきであり,現在においても,光を利用して遊技機障害釘の間隔を測定する装置は存在しない。

(4)  以上のとおり,刊行物2発明は未完成発明にすぎず,これを引用例として本件訂正発明と対比した審決は誤りであるから,取り消されるべきである。

2  取消事由2(相違点(ⅰ)に関する判断の誤り)

(1)  審決は,本件訂正発明と刊行物2発明との相違点(ⅰ)として,「釘ゲージ手段とゲージ読取手段が,本件訂正発明にあっては,2個の接触ゲージ部にそれぞれ接続する2個の杆体により前記2個の接触ゲージ部を所定の対向間隙を配して対向させ,当該2個の接触ゲージ部の最厚点において測定すべき1対の遊技機障害釘の内法間隔をなす2個の内法点に接触するように構成された釘接触ゲージ手段であり,前記2個の杆体の間に設けられ,当該釘接触ゲージ手段の2個の接触ゲージ部が測定すべき1対の遊技機障害釘に自在に追随するように前記対向間隙を伸縮調整するゲージ間隙調整手段を具備し,また前記2個の最厚点間の距離の読取値を前記2個の杆体の動きによる読取ディジタルデータ信号として出力するゲージ間隔読取手段であるのに対して,引用刊行物2(注,刊行物2)にあっては,投光手段(M1)と受光手段(M2)とを具備し,これにより明度信号(lig)の光学的読取データとして出力するものである点」(審決謄本11頁下から第2段落)を認定した上,相違点(ⅰ)について,「刊行物1,3,4及び周知の技術的事項を参酌することにより当業者が容易になし得ること」(同13頁第2段落)であると判断したが,誤りである。

(2)  刊行物1には,相違点(ⅰ)に係る技術的事項が記載されているものの,刊行物2に記載される投光手段(Ml)及び受光手段(M2)に換えて刊行物1に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)における釘接触ゲージ手段の構成を採用することは当業者にとって容易なことではない。

遊技機用釘間隔測定装置の技術分野にあっては,機械式手段によるゲージ手段(本件訂正発明,刊行物1発明)と非接触の光学式手段によるゲージ手段(刊行物2発明)とはその構造及び測定原理が全く異なり,測定装置の重要な部分に関するゲージ手段の置換が容易であるとはいえない。その置換が周知事項であるとする証拠もなく,刊行物3,4には単に機械式寸法測定器が記載されているにすぎないから,その置換容易性を裏付けるものではない。

また,刊行物2発明は,光学的手段により非接触の状態で釘間隔を客観的かつ正確に測定することがその技術的思想の中核であるのに対し,刊行物1発明は,釘接触ゲージ手段という機械的手段により釘間隔を測定するものであるから,遊技機用釘間隔測定装置という共通の技術分野に属するものではあっても,刊行物2発明の技術的思想の中核である光学式手段を放棄して,刊行物1発明の機械的手段に置換する動機を見いだすことはできない。さらに,刊行物1発明はデータをディジタル的に処理しようとする発想がない機械的手段を有するアナログ方式であるから,ディジタル方式に係る刊行物2発明に直ちには適用できない阻害要因があるとみなければならない。被告は,刊行物2発明は「非接触」に限定されないと主張するが,刊行物2発明における当該光学式手段は障害釘に非接触の状態で釘間隔値を測定するものであることは明らかである。

(3)  上記1(2)のとおり,遊技機障害釘の間隔測定には特殊性があり,刊行物1発明の遊技機用釘間隔測定装置によっても,多数複雑な方向と傾斜角度で植設された遊技機障害釘の中で,釘師にとって代わることができるような測定ができなかった。

これに対し,本件訂正発明は,手で持ったままの状態で,遊技機障害釘の所定の高さにおける間隔をディジタルデータとして正確に測定できる初めての測定装置に係るものであるにもかかわらず,審決は,本件訂正発明を一般的な計測器の技術分野のものとして判断しており,遊技機障害釘を有する遊技機における本件特許出願当時の技術レベル及び特有の課題を解決した点を看過したものである。

(4)  以上のとおり,審決は,相違点(ⅰ)に関する判断を誤ったものであるから,取り消されるべきである。

3  取消事由3(相違点(ⅱ)に関する判断の誤り)

(1)  審決は,本件訂正発明と刊行物2発明との相違点(ⅱ)として,「本件訂正発明にあっては,前記接触ゲージ部を1対の遊技機障害釘の間に挿入した際に接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込むようにしたものであるのに対して,引用刊行物2(注,刊行物2)にあっては,この構成を具備するものではない点」(審決謄本11頁最終段落~12頁第1段落)と認定した上,相違点(ⅱ)について,「刊行物4乃至6及び周知の技術的事項を参酌することにより当業者が容易になし得ること」(同13頁下から第2段落)であると判断したが,誤りである。

(2)  刊行物4(甲6)における測定器は,一般的な測定処理であるため,測定に先立ち,一律に0.4秒遅延させるものであり,そうすることで,誰が測定しても正確に測定できるというものである。また,刊行物5(甲7)及び刊行物6(甲8)に係る技術は,液体容器内における液量を検出し表示するというもの,あるいは穀物の含水率測定装置に関するもので,試料穀物を1対の電極間で圧砕挟持して通電した際,電極間に発生する電気抵抗を測定するものであり,測定時間を一定時間又は所定時間遅延させている。

これに対して,本件訂正発明は,上記各刊行物とは全く異なる技術分野に係る発明であり,解決しようとする課題,構成及び効果の点で相違するものである。また,上記各刊行物は,遊技機用釘間隔測定装置の技術分野において,いまだかつて引用されたことがなく,適用することが慣用手段になっていない。

(3)  さらに,上記刊行物4~6に係る技術は,すべての測定に対して一定時間又は所定時間の遅延を行うものであるが,本件訂正発明は,方向と傾斜角度が異なる多数の遊技機障害釘が植設されている状態の中で,熟練した測定者であっても,2個の杆体からなる接触ゲージ部の最厚点において遊技機障害釘の間隔を正確に測定することが難しいという課題を解決するために,遊技機障害釘の植設態様の違い,測定者の熟練度による測定時間の差異に対応するべく,「接触ゲージ部を1対の遊技機障害釘の間に挿入した際に接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込むようにした」データ演算出力手段を有するようにしたものである。すなわち,審決は,本件訂正発明における遊技機障害釘の間隔の測定は,熟練した者であっても,遊技機障害釘の植設態様によって正しいディジタルデータを得るまでの時間が異なるという特殊な技術であるのに,その点を無視して上記刊行物4~6に係る技術と同一視した点において誤りがある。

(4)  以上のとおり,審決は,相違点(ⅱ)に関する判断を誤ったものであるから,取り消されるべきである。

4  取消事由4(相違点(ⅲ)に関する判断の誤り)

(1)  審決は,本件訂正発明と刊行物2発明との相違点(ⅲ)として,「データ演算出力手段が,本件訂正発明にあっては,2個の杆体の動きによる読取ディジタルデータ信号に基づいて演算するとともに,前記2個の杆体の動きによる読取ディジタルデータ信号に基づいて演算したディジタルデータを,逐次もしくは一旦記憶収集した後にまとめて,コンピュータ等に釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータを外部出力するものであるのに対して,引用刊行物2(注,刊行物2)にあっては,このような構成を具備するものではない点」(審決謄本12頁第2段落)を認定した上,相違点(ⅲ)に係る構成は,刊行物3,4に記載された事項又は周知の技術的事項であって,刊行物2の「外部入出力回路(7e)を介して『逐次もしくは一旦記憶収集した後にまとめて,コンピュータ等に釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータを外部出力する』ことができるように構成することは,当業者が容易になし得ることである」(同14頁第1段落)と判断し,さらに,「本件訂正発明が奏する作用効果も,当業者が予測できる程度のものであって格別なものとは認められない」(同第2段落)と判断したが,上記判断はいずれも誤りである。

(2)  本件特許出願当時における遊技機障害釘の間隔の測定に関する技術は,熟練した釘師の勘によるものであり,遊技機用釘間隔測定装置は実用化されていなかった。また,パチンコホールを運営する店舗には,多数の遊技機が設置されており,個々の遊技機の有する釘間隔値と出玉データ等を有機的に関連してパチンコホール全体の経営状況を管理する遊技機管理システムを構築する発想は全く存在していなかった。そのため,刊行物1発明及び刊行物2発明が公知であったとしても,それは,釘師が釘間隔を調整する際の確認手段としての道具として考えられていたにすぎない。

本件訂正発明に係る「釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータを外部出力するデータ演算出力手段」は,単に計測値をディジタル表示するためのものではなく,外部コンピュータ等に出力し,即座に測定データの整理,処理を行うためのものであり(本件明細書の段落【0039】),測定した多数の遊技機に関する釘間隔測定値を事後的に遊技機管理システム上において整理,処理を行い,パチンコホール全体の経営状況を管理することが可能となるという格別の効果を奏するものである。

(3)  審決は,本件訂正発明が奏する作用効果は,当業者が予測できる程度のものであって,格別なものとは認められないというが,本件訂正発明の効果である「測定データの事後処理が可能となる」ことは,本件特許出願当時における当業者の予測の範囲を超えている。確かに,刊行物3,4には,読取データの外部出力に関する記載があるものの,本件訂正発明の技術分野における,上記のような効果を示唆するものではない。審決は,相違点(ⅲ)につき,本件訂正発明の技術分野の特殊性を考慮せず,一般的なディジタルデータの処理技術を念頭において判断したものであって,誤りである。

(4)  以上のとおり,審決は,相違点(ⅲ)に関する判断を誤ったものであるから,取り消されるべきである。

第4被告の反論

審決の認定判断は正当であり,原告らの取消事由の主張はいずれも理由がない。

1  取消事由1(刊行物2発明が未完成発明であることを看過した誤り)について

刊行物2(甲4)の発明の詳細な説明や図面は,当業者が実施することができるように記載されているから,仮に,刊行物2発明に原告らが主張するような短所があるとしても,このことから刊行物2発明が実施不能あるいは未完成発明であるとはいえない。また,刊行物2において,「遊技盤上の2本の釘Kg1とKg2との釘間隔lは,一律に,しかも正確に1/100[mm]の単位以上に細かく容易に客観的に求めることができるという効果を有する」(3頁左下欄最終段落)と記載されているように,刊行物2発明を引用発明とすることに支障はなく,これを他の技術(刊行物1に記載の技術)と組み合わせることにも障害はない。原告らは刊行物2発明の測定態様を図示して種々主張するが,これらは専ら特異な測定態様を図示するものであって,「使用不可能」,「現在においても使用されていない」とはいえないし,また,仮に,「現在においても使用されていない」としても,そのことが刊行物2における引用発明の認定の障害になるものではない。

2  取消事由2(相違点(ⅰ)に関する判断の誤り)について

(1)  刊行物2発明と刊行物1発明とは,いずれも「遊技機」に関する技術分野に属するものであり,かつ「測定装置」に関する技術分野に属するものであって,本件訂正発明の属する技術分野とも相違しないものであるから,両発明を組み合わせることに困難性はない。

(2)  機械式手段によるゲージ手段(本件訂正発明及び刊行物1発明)と光学式手段によるゲージ手段(刊行物2発明)は,いずれも遊技機障害釘の間隔の測定手段として共通するものであり,本件において,ゲージ手段として置換が容易にできないような重要な部分を置換するものではない上,原告らも自認するとおり,刊行物1には,相違点(ⅰ)に係る技術的事項が記載されているのであるから,両者の構造及び測定原理の相違が置換を阻害する要因となるものではない。

原告らは,両者の置換が周知事項でない旨主張するが,審決は,両者の置換が「周知」であると認定しているわけではないから,原告らの上記主張は審決の論旨と関係のないものである。さらに,原告らは,刊行物1発明の測定装置がアナログ方式であることは,ディジタル方式に係る刊行物2発明には直ちに適用できない阻害要因があるとみなければならないとも主張するが,測定装置においてディジタル方式とすることは,刊行物3,4に開示されており,アナログ方式とディジタル方式の選択が当業者の設計事項であることは技術常識(刊行物4にも,アナログ式からディジタル式への設計変更,置換が記載されている。)であるから,阻害要因となるものではない。

なお,原告らは,刊行物2発明の光学式手段によるゲージ手段を「非接触」のものであると主張するが,刊行物2には「非接触」であるとの記載及び「非接触」に限定した構成であるとの開示はないから,刊行物2発明の光学式手段によるゲージ手段は,「非接触」のものに限定されるものではない。

(3)  原告らは,審決は,本件訂正発明を一般的な計測器の技術分野のものとして判断しており,遊技機障害釘を有する遊技機における技術レベル及び特有の課題を看過したものである旨主張する。しかしながら,審決は,本件訂正発明を一般的な計測器の技術分野のものとして判断しているものではなく,遊技機障害釘を有する遊技機における本件特許出願当時の技術レベル,課題等を勘案した上で,本件訂正発明の進歩性の判断を行っている。

なお,本件訂正発明は,その発明の名称に示されるとおり,「遊技機用釘間隔測定装置」の発明であり,技術分野としては遊技機の技術とともに,一般的な測定装置に関する技術をも参酌し,また,当該分野の技術常識に基づいて認定,判断を行うことは当然である。そして,刊行物1発明及び刊行物2発明は,いずれも,「遊技機」に関する技術分野に属するものであり,かつ「測定装置」に関する技術分野にも属するものであって,本件訂正発明の属する技術分野と何ら相違しないものである。刊行物3~6は,相違点(ⅰ)の判断に当たり,技術常識,周知技術として,「測定装置」に関する技術を参酌したものであって,これらを参酌すべきことは当然である。

3  取消事由3(相違点(ⅱ)に関する判断の誤り)について

本件訂正発明が規定する「追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込む」ことは,「自動的に表示可能」で「読取誤差も生じない」(本件明細書の段落【0039】)という技術的意義を有するものであると認められるから,刊行物4~6に開示された技術と差異を有するものではない。なお,本件明細書にも,実施例の説明として,所定期間の後に測定することが記載されている(段落【0017】)。

他方,例えば,刊行物4(甲6)には「時限素子により信号処理は測定に対して少なくとも約0.4秒遅延される」(3頁左上欄最終段落)と記載されており,また,上記のとおり技術的意義においても差異がないのであるから,そこに開示された測定時間を一定時間又は所定時間遅延させるとの技術的思想は,本件訂正発明の規定する「追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込む」ものと変わりがない。

4  取消事由4(相違点(ⅲ)に関する判断の誤り)について

(1)  刊行物1,2は,いずれも,本件特許出願前のものであって,これらに開示された技術は,「遊技機」及び「釘間隔測定装置」に関する技術であるから,審決が,本件特許出願当時における遊技機障害釘の間隔の測定に関する従来技術及び周知技術を考慮していることは明らかである。また,審決の論旨は釘間隔測定装置が実用化されていることを前提としているものではないから,その点に関する原告らの主張は失当である。

(2)  また,本件訂正発明のデータ演算出力手段は,「演算されたディジタルデータを数値表示」し,「逐次もしくは一旦記憶収集した後にまとめて,コンピュータ等に釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータを外部出力する」ものであればよいのであるから,「外部出力」後のデータの処理態様までをも,その要旨としているものではない。すなわち,本件訂正発明は,外部コンピュータ等に「外部出力」されたディジタルデータをどのように利用するかまでをも構成要件として規定しているものではないから,原告ら主張のように,それが「即座に測定データの整理,処理を行うためのもの」であるということはできない。原告らの主張する本件訂正発明の作用効果は,本件特許請求の範囲の記載に基づくものではない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(刊行物2発明が未完成発明であることを看過した誤り)について

(1)  原告らは,遊技機障害釘の間隔測定の特殊性を主たる理由として,刊行物2発明は未完成発明であると主張する。

そこで検討すると,刊行物2(甲4)には,以下の各記載がある。

ア 「遊技盤上の複数本の釘に対して所定光量の光を投光する投光手段と,該投光された光を受光する受光手段と,該受光された光の明度を所定値と比較することにより上記複数本の釘の間隔を測定する釘間隔測定手段と,を備えて構成されたことを特徴とする釘間隔測定装置。」(特許請求の範囲)

イ 「本発明は,パチンコ機やアレパチ機等の弾発遊技機に関し,詳しくは遊技盤上の釘の間隔を測定する装置に関する」(1頁左下欄下から第2段落)

ウ 「本発明-実施例の釘間隔測定装置は,第2図に示すように,指向性の強い光を発するレーザー発振器1と,レーザー発振器1による光を遊技盤上の2本の釘Kg1及びKg2に投光するための後に詳述する光学素子系2と,該光学素子系2により投光された光を釘Kg1及びKg2の反対側で受光する光学素子系3と,該受光された光を電気信号に変換するためのイメージセンサ4と,該イメージセンサ4より出力されるアナログ信号としての電気信号をデジタル信号に変換するデジタル変換回路5と,該デジタル化された信号から上記釘Kg1と釘Kg2との離間距離を演算する釘間隔演算回路6と,から構成されている」(2頁左下欄下から第2段落)

エ 「本実施例では,デジタル変換回路5と釘間隔演算回路6とは,第3図に示すように,電子制御装置7として一体に構成されている。電子制御装置7は,CPU7aを中心として,これとROM7b,RAM7c,A/Dコンバーター7d及び外部入出力回路7eをパス7fにより相互に接続した論理演算回路として構成されている。電子制御装置7の外部入出力回路7eにはデジタル表示装置8が接続されている」(2頁左下欄末行~右下欄第1段落)

オ 「光学素子系2は,第4図及び第5図に示すように,レーザー発振器2からの光をその断面が幅約2cmの一文字状の光とするビームスプリッタ2aと,ビームスプリッタ2aからでる光を遊技盤上の釘Kg1及びKg2に直角に投光するための光通路2bとから構成されている。光学素子系3は,光学素子系2の光通路2bと同様の構成であり,釘Kg1及びKg2に投光された後の光をイメージセンサ4に導くための光通路3aから構成されている。これらの光通路2b及び3aのうち光を直角に屈曲させる部分はガラスより構成されている」(2頁右下欄第2段落~第3段落)

カ 「尚,本実施例では,レーザー発振器1及び光学素子系2が投光手段(M1)に,光学素子系3及びイメージセンサ4が受光手段(M2)に,デジタル変換回路5及び釘間隔演算回路6としての電子制御装置7が釘間隔測定手段(M3)に,各々対応する」(3頁左上欄第1段落)

キ 「この『釘間隔測定ルーチン』は,電子制御装置7のCPU7aにより実行される処理である。まず,イメージセンサ4からの出力があるか否かが判定され(ステップS100),出力が有ると判断されるとA/Dコンバーター7dを介してイメージセンサ4の出力するアナログ信号をデジタル信号に変換してRAM7cに明度信号ligとしてセイブする(ステップS110)。・・・レーザー発振器1から発される光は,第4図に示すように,ビームスプリッタ2aによりその断面が横真一文字状の光とされ,光通路2bにより遊技盤上の2本の釘Kg1及びKg2に直角に投光され,しかる後に光通路3aを介してイメージセンサ4に入力される。このとき光通路2bにより投光されるレーザー光たる光は,第5図に示すように,2本の釘Kg1及びKg2により遮られる。これにより明度信号ligの内,2本の釘Kg1及びKg2に対応する部分は明度の低い信号llとなる。これは,レーザー光が,指向性の強い光であることから明度の差が特に激しくなる。・・・明度信号ligを2値化信号とする処理を行う(ステップS130)。これにより第7図のタイミングチャートに示す2値化信号Sgが得られる。次にこの2値化信号Sgから2本の釘Kg1とKg2との釘間隔lを演算する処理が行われる(ステップS140)。・・・2本の釘Kg1とKg2との釘間隔lが演算されると,この釘間隔lは外部入出力回路7eを介してデジタル表示装置8に出力され表示される(ステップS150)」(3頁左上欄第2段落~左下欄第2段落)

ク 「遊技盤上の2本の釘Kg1とKg2との釘間隔lは,一律に,しかも正確に1/100[mm]の単位以上に細かく容易に客観的に求めることができるという効果を有する」(3頁左下欄最終段落)

ケ 「更に,釘調整を行った後の釘の間隔lを正確に知ることができるので,営業後の売上等と正確に比較してデータ分析を行うことができるという優れた効果も奏する」(3頁右下欄第2段落)

(2)  上記各記載及び刊行物2の第1図~第5図によれば,刊行物2発明においては,レーザー発振器2からの光を,ビームスプリッタ2aによりその断面が幅約2cmの横真一文字状の光とし,この光を光学素子系2の光通路2bから光を直角に屈曲させて遊技盤上の釘Kg1及びKg2に直角に投光し,両釘を通過した光を再度直角に屈曲させて光学素子系3の光通路3aで受光してイメージセンサ4に導き,イメージセンサ4より出力されるアナログ信号をデジタル変換回路5によりデジタル信号に変換し,釘間隔演算回路6により該デジタル信号から釘Kg1と釘Kg2との離間距離を演算するものであり,釘間隔演算の具体的処理についても,電子制御装置7のCPU7aにより実行される釘間隔測定ルーチン処理として開示されている。

以上によれば,刊行物2発明は,刊行物2において,当業者がその反復実施をすることができる程度に具体的,客観的に開示されていると認められるから,未完成発明であるということはできない。

(3)  これに対し,原告らは,遊技機障害釘の間隔は基盤からの高さ方向の中間部(5.5mmの高さ)の内法寸法において測定する必要があるところ,刊行物2発明では,①根元が同じ位置に植設された遊技機障害釘の間隔は,両釘が光の進行方向であって反対方向に傾いていても同じ距離として測定されてしまう,②測定器を当てた高さ位置や測定器の方向によって遊技機障害釘の間隔が異なって測定される,③他の遊技機障害釘が障害になり,目的の遊技機障害釘の間隔が測定できない,④光発光部からの光が遊技機障害釘で反射して雑音になり正確な測定ができない,⑤光発光部の配置により遊技機障害釘の頭部による死角エリアができるなど,遊技機障害釘の間隔の正確な測定を阻害する要因があると主張する。

しかしながら,遊技機障害釘の間隔は,パチンコ玉の直径部分が通過できるか否かを決定するものであり,基盤から高さ方向の中間部(パチンコ玉の半径に相当する5.5mmの高さ)において内法寸法を測定すべきであることは,当業者にとって自明の事項であるから,刊行物2発明においても,光が通過するのは基盤からの高さが5.5mmの位置であり,「釘Kg1及びKg2に直角に投光」するとは,高さが5.5mmの断面において,両釘を結ぶ直線に対して直角に投光することを意味していると解するのが相当である。そして,このように測定器を配置すれば,遊技機障害釘の間隔を正確に測定できることは明らかであるから,上記①及び②の主張は理由がない。また,上記③の主張についても,光通路2b及び光通路3aは,断面が幅約2cmの横真一文字状のレーザー光を通過させることができるものであれば足り,厚みが極めて薄いものを使用することが可能であるから,ハカマ釘やカゴ釘等の密に接触した釘を除けば,他の命釘などの間隔を測定することに支障があるとは考えられない。さらに,光が釘で反射して雑音になる,光発光部の配置により死角エリアができるとの原告らの主張(上記④,⑤)は,いずれも,「釘Kg1及びKg2に直角に投光」するという刊行物2発明の測定器の配置を前提にすれば問題にならないと解されるから,採用の限りではない。

(4)  また,原告らは,刊行物2には,多数の遊技機障害釘等の間に入れるコンパクトなゲージ部の具体的な形状,遊技機障害釘の植設態様や測定する者の熟練度の違いによって生じる正しいディジタルデータを得るために必要な時間の差異への対応等について具体的な技術的思想が開示されていないから,刊行物2発明は単なるアイデアにすぎないなどとも主張する。

しかしながら,原告らの上記主張は,光を利用した遊技機用釘間隔測定装置には,正確な測定を阻害する要因があるとの上記(3)記載の主張を前提とするものであるところ,刊行物2の記載及び当業者の技術常識に基づいて,光を利用した遊技機用釘間隔測定装置を使用して,正確な遊技機障害釘の間隔を測定することは可能であると認められるから,原告らの主張はその前提において誤りというべきであり,採用することができない。すなわち,例えば,刊行物2発明において,投光部と受光部とを基盤から5.5mmの高さに位置させ,その高さにおいて二つの遊技機障害釘を結ぶ直線に対して正対する方向になったことを検知する手段(機械的接触手段,光,音,電波,電磁気的変量を使用した距離測定手段等,どのような手段でも使用可能)を利用して,基盤からの高さが5.5mmの断面において,二つの遊技機障害釘を結ぶ直線に対して直角に投光することができるようにゲージ部を配置すればよいのであるから,ゲージ部の具体的な形状を特定する必要はないというべきであるし,正しいディジタルデータを得るために必要な時間は,上記の検知する手段として何を選択したかに応じて適宜決定されるべきものであるから,これも当業者の技術常識にゆだねれば足りる事項である。

さらに,原告らは,現在においても,光を利用して遊技機障害釘の間隔を測定する装置は存在しないとも主張するが,光を利用した遊技機用釘間隔測定装置が実施されているかどうかは,刊行物2発明が未完成発明か否かの問題とは関係しないというべきであるから,原告らの上記主張は,それ自体失当である。

(5)  以上のとおり,刊行物2発明は未完成発明であるとは認められないから,原告らの取消事由1の主張は理由がない。

2  取消事由2(相違点(ⅰ)に関する判断の誤り)について

(1)  審決は,本件訂正発明と刊行物2発明との相違点(ⅰ)として,「釘ゲージ手段とゲージ読取手段が,本件訂正発明にあっては,2個の接触ゲージ部にそれぞれ接続する2個の杆体により前記2個の接触ゲージ部を所定の対向間隙を配して対向させ,当該2個の接触ゲージ部の最厚点において測定すべき1対の遊技機障害釘の内法間隔をなす2個の内法点に接触するように構成された釘接触ゲージ手段であり,前記2個の杆体の間に設けられ,当該釘接触ゲージ手段の2個の接触ゲージ部が測定すべき1対の遊技機障害釘に自在に追随するように前記対向間隙を伸縮調整するゲージ間隙調整手段を具備し,また前記2個の最厚点間の距離の読取値を前記2個の杆体の動きによる読取ディジタルデータ信号として出力するゲージ間隔読取手段であるのに対して,引用刊行物2(注,刊行物2)にあっては,投光手段(M1)と受光手段(M2)とを具備し,これにより明度信号(lig)の光学的読取データとして出力するものである点」(審決謄本11頁下から第2段落)を認定した上,相違点(ⅰ)について,「刊行物1,3,4及び周知の技術的事項を参酌することにより当業者が容易になし得ること」(同13頁第2段落)であると判断した。これに対し,原告らは,刊行物1には,相違点(ⅰ)に係る技術的事項が記載されているものの,遊技機用釘間隔測定装置の技術分野にあっては,機械式手段によるゲージ手段と非接触の光学式手段によるゲージ手段とはその構造及び測定原理が全く異なり,刊行物2発明は,光学的手段により非接触の状態で釘間隔を客観的かつ正確に測定することがその中心的思想であるから,その中心的技術思想である光学式手段を放棄し,刊行物1発明の機械的手段に置き換える動機を見いだすことはできないとして,審決の上記判断は誤りであると主張する。

(2)  しかしながら,本件訂正発明,刊行物1発明,刊行物2発明は,いずれも遊技機用釘間隔測定装置に関する技術分野に属するものであるから,刊行物1発明の技術的事項を,刊行物2発明に適用することに格別の困難性は認められないというべきである。原告らは,機械式手段によるゲージ手段と非接触の光学式手段によるゲージ手段との相違を強調するが,間隔測定装置として,機械式手段や光学的手段などの適宜の手段を用いることは,当業者が必要に応じて選択し得る設計的事項というべきものであり,現に,本件明細書(甲1)においても,「例えば,上記実施例においては,ゲージ間隔読取手段として,ロータリーエンコーダとパルスカウンタを用いる例について説明したが,これは,距離を検出できる手段であれば,いかなる形式のものであってもよく,電気的,磁気的,光学的,機械的等,種類を問わない」(段落【0038】)と,杆体4Lと杆体4Rとの間隔を光学的,機械的等いかなる形式のもので検出してもよいことが記載されている。

また,原告らは,刊行物1発明はデータをディジタル的に処理しようとする発想がないアナログ方式であるから,ディジタル方式に係る刊行物2発明に直ちには適用できない阻害要因があるとみなければならないとも主張する。しかしながら,刊行物4(甲6)に,「従来より公知のパス腕形測定計器においては,リング形状の目盛と協働する指針が設けられている。したがって,アナログ表示を行なうことができる」(3頁左下欄最終段落~右下欄第1段落),「パス腕形測定計器において,本発明に従い,測定機構軸に増分発生器を設け,該増分発生器により,軸回転に比例する数の信号を発生し・・・センサの出力を信号処理装置に接続し,該信号処理装置において信号列をディジタル表示装置のためのディジタル信号に変換することにより解決される」(4頁左上欄第3段落)と記載されているように,アナログ方式はディジタル方式に変更可能なものであるから,アナログ方式の測定装置をディジタル方式の測定装置に適用することに阻害要因があるとはいえない。

以上によれば,原告らの上記各主張は,いずれも採用することができない。

(3)  さらに,原告らは,審決は,本件訂正発明を一般的な計測器の技術分野のものとして判断しており,遊技機障害釘を有する遊技機における出願時の技術レベル及び特有の課題を解決した点を看過している旨主張する。

しかしながら,刊行物1発明及び刊行物2発明は,いずれも本件訂正発明と同様の遊技機用釘間隔測定装置に関する発明であるから,審決が,本件訂正発明を一般的な計測器の技術分野のものとして判断しているということはできず,原告らの上記主張は失当である。

(4)  以上によれば,原告らの取消事由2の主張は理由がない。

3  取消事由3(相違点(ⅱ)に関する判断の誤り)について

(1)  審決は,本件訂正発明と刊行物2発明との相違点(ⅱ)として,「本件訂正発明にあっては,前記接触ゲージ部を1対の遊技機障害釘の間に挿入した際に接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込むようにしたものであるのに対して,引用刊行物2(注,刊行物2)にあっては,この構成を具備するものではない点」(審決謄本11頁最終段落~12頁第1段落)と認定した上,相違点(ⅱ)について,「刊行物4乃至6及び周知の技術的事項を参酌することにより当業者が容易になし得ること」(同13頁下から第2段落)であると判断しているところ,原告らは,①刊行物4~6に係る技術は,本件訂正発明とは全く異なる技術分野に属するものである,②刊行物4~6に係る技術は,測定時間を一定時間又は所定時間遅延させるものであるが,本件訂正発明は,遊技機障害釘の植設態様の違い,測定者の熟練度による測定時間の差異に対応するために,接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込むようにしたものであるのに,審決は,遊技機障害釘の間隔測定における技術の特殊性を無視して,刊行物4~6に係る技術と同一視したものであるとして,審決の上記判断は誤りである旨主張する。

(2)  そこで検討すると,本件明細書(甲1)において,データの取り込みについて記載されているのは,「上記基板内に遅延回路等を設け,接触ゲージ部2R,2Lが釘の間に挿入された場合に一旦縮み,次いでバネ8の弾性復元力により接触ゲージ部2R,2Lが釘の内面に追随するまでの期間(例えば,ゲージの接触から0.5秒間など),データの取り込みを一時行わず,接触ゲージ部2R,2Lが釘の内面に十分追随した後にデータを取り込むような構成としてもかまわない」(段落【0017】)との記載のみである。上記記載によれば,「接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随するまでの期間」とはバネ8の弾性復元力に関連する時間であり,例えば,遅延回路等により,ゲージの接触から0.5秒間だけデータを取り込まないようにするものであると認められるから,本件訂正発明における「接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込む」との構成は,遊技機障害釘の植設態様の違い,測定者の熟練度による測定時間の差異に対応するものであるとの原告らの主張は,明細書の記載に基づくものではない。

また,刊行物5(甲7)には,「このゲートに入力されるラッチ信号は前記測定開始パルス発生回路24で作られるものであるが,第4図ホに示す様に,測定開始パルスから一定時間遅れて発生する。この時間はコンデンサCxの充電に要する最大時間及び,カウンタ29の遅れ時間から設定されている」(6欄20行目~25行目),刊行物6(甲8)には,「このタイマーTAの設定時間は,測定開始から電極間で圧砕された試料穀物の電気抵抗値が測定時間の経過に従って十分安定するまでの時間になるようにあらかじめ設定されている」(明細書11頁第1段落)と記載されているように,測定装置においては,測定値が安定するまでの一定時間データを取り込まないようにすることは周知の技術的事項であると認められるところ,原告ら主張に係る「遊技機障害釘の植設態様の違い,測定者の熟練度による測定時間の差異に対応する」データを取り込まない時間とは,測定者が遊技機障害釘の植設態様を観察し,自らの熟練度を考慮して,正確な測定値が得られると判断した一定の遅延時間を指すものと解されるから,原告らの主張を前提としたとしても,本件訂正発明における「接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込む」との構成と,上記周知の技術的事項とは,当該技術が対象とする測定の具体的状況に対応して,正確な測定値を得るべく一定の遅延時間を設定するという点において,技術的な差異は認められないといわざるを得ない。原告らは,本件訂正発明と刊行物4~6に記載された技術とは技術分野を異にする旨主張するが,本件訂正発明は「遊技機用釘間隔測定装置」の発明であり,刊行物2発明も「釘間隔測定装置」の発明であるから,「測定装置」における上記周知技術を適用することに困難性はないというべきである。

そうすると,刊行物1発明を適用してゲージ手段を機械的手段とした刊行物2発明に上記周知技術を適用すれば,「接触ゲージ部を1対の遊技機障害釘の間に挿入した際に接触ゲージ部が遊技機障害釘の内面に追随するまでの期間データを取り込まないで,充分に追随した後にデータを取り込むようにしたもの」となるから,審決の相違点(ⅱ)に関する判断に誤りはない。

(3)  以上によれば,原告らの取消事由3の主張は理由がない。

4  取消事由4(相違点(ⅲ)に関する判断の誤り)について

(1)  審決は,本件訂正発明と刊行物2発明との相違点(ⅲ)として,「データ演算出力手段が,本件訂正発明にあっては,2個の杆体の動きによる読取ディジタルデータ信号に基づいて演算するとともに,前記2個の杆体の動きによる読取ディジタルデータ信号に基づいて演算したディジタルデータを,逐次もしくは一旦記憶収集した後にまとめて,コンピュータ等に釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータを外部出力するものであるのに対して,引用刊行物2(注,刊行物2)にあっては,このような構成を具備するものではない点」(審決謄本12頁第2段落)を認定した上,相違点(ⅲ)に係る構成は,刊行物3,4に記載された事項又は周知の技術的事項であって,刊行物2の「外部入出力回路(7e)を介して『逐次もしくは一旦記憶収集した後にまとめて,コンピュータ等に釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータを外部出力する』ことができるよう構成することは,当業者が容易になし得ることと認められる」(同14頁第1段落)と判断し,さらに,「本件訂正発明が奏する作用効果も,当業者が予測できる程度のものであって格別なものとは認められない」(同2段落)と判断しているところ,原告らは,本件訂正発明の「釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータを外部出力するデータ演算出力手段」は,外部コンピュータ等に出力し,即座に測定データの整理,処理を行うためのものであり,測定した多数の遊技機に関する釘間隔測定値を事後的に遊技機管理システム上において整理,処理を行い,パチンコホール全体の経営状況を管理することが可能となるという格別の効果を奏するものであるとして,審決の上記判断はいずれも誤りである旨主張する。

(2)  しかしながら,相違点(ⅲ)に係る本件訂正発明の構成は,「演算したディジタルデータを,逐次もしくは一旦記憶収集した後にまとめて,コンピュータ等に釘間隔をディジタル値で計測したディジタルデータを外部出力する」ものであり,「外部出力」後のデータの処理態様までをも要旨としているものではないから,原告らの主張する本件訂正発明の作用効果は,特許請求の範囲に記載された構成に基づくものではない。

また,刊行物2(甲4)には,「更に,釘調整を行った後の釘の間隔lを正確に知ることができるので,営業後の売上等と正確に比較してデータ分析を行うことができるという優れた効果も奏する」(3頁右下欄第2段落)と記載されており,刊行物2発明は,釘間隔と営業後の売上等とを正確に比較してデータ分析を行うことができるという効果も奏するものと認められるところ,この効果は,原告らの主張する本件訂正発明の作用効果と同じである。したがって,原告らの主張する本件訂正発明の作用効果を前提としたとしても,「本件訂正発明が奏する作用効果も,当業者が予測できる程度のものであって格別なものとは認められない」とした審決の判断は正当であって,審決に原告ら主張の誤りはないというべきである。

(3)  以上によれば,原告らの取消事由4の主張は理由がない。

5  以上のとおり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって,原告らの請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 岡本岳 裁判官 早田尚貴)

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