東京高等裁判所 平成15年(行コ)232号 判決 2004年10月07日
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文と同旨
第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人が、その勤務していた親会社のストック・オプション・プランに基づいて付与されたストック・オプション(会社が自社又は子会社の従業員等に対して付与する権利で、自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することができるもの)を行使して得た権利行使益(行使時の株価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益)について、所得税法上の給与所得に当たるか一時所得に当たるかが争われた事案である。
被控訴人は、日本法人マイクロソフト株式会社(以下「日本マイクロソフト社」という。)の代表取締役であったが、平成8年から同11年までの間に、その親会社であるアメリカ合衆国法人マイクロソフト・コーポレーション(以下「米国マイクロソフト社」という。)のストック・オプション・プランに基づいて付与されたストック・オプションに係る権利行使益について、一時所得として確定申告をしたこところ、控訴人は、当該権利行使益は一時所得ではなく給与所得であると認定して各年分の所得税の更正処分及び平成11年分の申告に係る過少申告加算税の賦課処分をした。そこで、被控訴人は、本件各更正処分及び賦課処分について、所得区分の判断を誤った違法なものであるなどと主張して、本件権利行使益を一時所得として算定した課税総所得金額等を超える部分及び過少申告加算税の賦課処分の取消しを求めた。
2 原審は、被控訴人の請求を認容したので、控訴人は、これを不服として控訴した。
3 本件に係る「法令の定め等」、「前提となる事実」、「控訴人による本件各更正処分等の適法性の根拠」、「当事者の主張」及び「争点」は、それぞれ原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1から5までに記載のとおりであるから、これを引用する。控訴審における主張については、原審における主張を追加、補充するものであり、適宜、当裁判所の判断中において摘示することとする。
なお、「前提となる事実」に、「米国マイクロソフト社におけるストック・オプション制度」の内容として、次のとおり加える。
「日本マイクロソフト社にあっては、その会社案内に「昇給・賞与」として、ストック・オプションプログラムがあることを掲載し、「給与規定」には、ストック・オプションについての記載がないものの、採用通知書兼雇用契約書には、被採用者に応じて、特別条件として、米国マイクロソフト社のストック・オプションを提供する旨が記載されている。そして、日本マイクロソフト社において、雇用契約を締結する際、給与の年額を上げるか、給与の年額をそのままとして、米国マイクロソフト社のストック・オプションの付与を受けるか選択させる例があり、また、従業員等に対するパフォーマンスレビュー(人事考課の結果)を基に、日本マイクロソフト社の従業員等の昇進、昇給、インセンティブボーナスの支給、ストック・オプションの付与を決めていたが、その資料は、米国マイクロソフト社のアジア地区担当の副社長のもとにも届けられていた。(甲65、67、乙14、42、44、弁論の全趣旨)」
第3 当裁判所の判断
(争点1 本件権利行使益が、給与所得、一時所得又は雑所得のいずれに該当するか。)
1 本件ストック・オプションの内容
(1) 前記引用に係る原判決の「前提となる事実」によれば、本件ストック・オプションは、米国マイクロソフト社による本件プランに基づき付与されたものであるが、本件プランは、マイクロソフトグループについて、従業員等の経済的利益と株式を長期に保有することによる価値とを結びつけることにより、実質的に責任ある職に最もふさわしい人材を誘引し、かつ、保持し、さらに、その者に付加的なインセンティブを提供し、もって同社の事業の成功を促進させることを目的として、マイクロソフトグループの従業員等に対してのみストック・オプションを付与する制度であり、日本マイクロソフト社においては、ストック・オプションを昇給・賞与の一つとして位置付け、同社及びその従業員等のみならず、米国マイクロソフト社においても、ストック・オプションを行使することによって得られる経済的利益について、従業員等の日本マイクロソフト社に対する労務の提供に対して与えられる給与と同じ性質のものであるものと了解されていたものである。
ストック・オプションの付与に当たっては、米国マイクロソフト社の取締役会によって、従業員等の過去における実績、将来に及ぶ同社への長期的貢献及び当該個人が退職した場合の潜在的な影響等の要因が考慮された上、付与の時期、付与される普通株式の数等が決定され、被付与者は、その決定に従って米国マイクロソフト社と付与契約を締結することになる。そして、その権利は、付与日における株価を権利行使価格として同社の普通株式を取得することができるものであって、遺言又は相続法に基づく方法以外で、ストック・オプションの売却、質入れ、譲渡、担保権設定、移転又は処分することはできず、その行使は、ストック・オプション保有者の生存中は、その保有者に限られ、しかも一定期間に限定されている。
(2) 本件ストック・オプションは、米国マイクロソフト社の普通株式を権利行使価格で取得しうる権利であるが、そもそもストック・オプションの行使は被付与者である被控訴人に委ねられ、その行使がされるか否かは不確定であるということができる。そして、その権利が行使されたときに、米国マイクロソフト社から被控訴人に普通株式が付与されて初めてその経済的利益も実現することになり、被控訴人において、権利の行使の時期における株価に従い、行使時点の株価と権利行使価格との差額分を取得し、一方、米国マイクロソフト社においては、その差額分を負担することになり、したがって、経済的にみれば、権利行使益が米国マイクロソフト社から被付与者である被控訴人に移転することになる。
また、本件ストック・オプションは、米国マイクロソフト社から被控訴人に付与されるものではあるが、被控訴人の日本マイクロソフト社の従業員等の地位と不可分に結びついたものであって、被控訴人が同社に精勤することにより同社の業績を向上させ、それを通して、米国マイクロソフト社の事業にも貢献することになることをもって、同社において、その貢献に報いるとともに、被控訴人に対して、ストック・オプションの行使によって得られる経済的利益を増加させるという目的意識を付与し、その目的達成のために日本マイクロソフト社で一層精勤するように動機付けることを目的とした長期インセンティブ報酬の一種であるということができる。
(3) 本件ストック・オプションの性質について、被控訴人は、権利行使益が含み益に過ぎず、あくまで市場から得られるものであり、自己株式方式、新株引受権方式のいずれの場合にも、権利行使益が権利行使時に付与会社から被付与者に移転するとはいえないと主張する。
しかし、自己株式方式の場合に、付与会社は、ストック・オプションの権利が行使されるまでは、自社株の価値(いわゆる含み益を含む。)を保有するとともに、自社株を任意の価格で売却して含み益を現実化することができるものの、権利が行使されたときは、付与契約に基づき、被付与者に対し、権利行使価格で自社株を譲渡する義務を負い、当該株式を被付与者に移転することによって、付与会社に帰属していた株式の価値(付与後に株価が上昇したことによる株式の含み益を含む。)も被付与者に移転するというべきである。また、新株引受権方式の場合には、権利が行使されたときは、付与会社は、付与契約に基づき、被付与者に対し、新株を発行する義務を負い、この場合において、権利行使価格による新株発行の場合に得られる資金額が市場において時価による株式発行をする場合に比べて少ないから、当該株式を被付与者に移転することによって、被付与者には、権利行使益が発生し、一方、付与会社には、権利行使益に相当する損失が生じ、実質的に権利行使益に相当する価値が付与会社から被付与者に移転されたことになる。当該会社の株式の価値の希釈化は、既存株主の損失に負うものであっても、会社と被付与者との関係における給与所得性を左右するものではない。
したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
2 権利行使益の所得区分の判断順序
ストック・オプションに係る法制については、前記引用に係る原判決の「法令の定め等」に記載のとおりであり、本件ストック・オプションに係る権利行使益の性質をもつ所得について、現行税法上、その所得区分を定める規定はないから、その権利行使益に対する所得区分が、給与所得、一時所得、雑所得のいずれに該当するかについては、所得税法の解釈に委ねられる。所得税法によれば、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいい(28条1項)、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいい(34条1項)、雑所得とは、以上のいずれの所得にも当たらないものをいうから(35条1項)、まず、給与所得該当性について検討する。
3 給与所得該当性
(1) 所得税法28条1項に、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいうと規定されていることは前記のとおりであり、これによれば、給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものと解される。したがって、ある給付が給与所得に該当するかどうかの判断に当たっては、給与支給者との関係において、何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない(最高裁昭和52年(行ツ)第12号昭和56年4月24日第2小法廷判決・民集35巻3号672頁)。
(2) 上記の判旨を受けて、被控訴人は、所得税法28条1項に規定する給与所得について、労務の提供先である給与支給者(使用者)から労務の対価として受ける給付に限ることを当然の前提として、当該労務が雇用契約又はこれに類する関係において、使用者の指揮命令の下に提供されるものであること(雇用類似要件)、当該給付が当該労務の提供による対価であること(対価性要件)の二つの要件を満たす必要があるとした上、<1>被控訴人と米国マイクロソフト社との間には、雇用契約又はこれに準ずる契約が存在しないから、同社をもって使用者ということはできず、<2>被控訴人は、日本マイクロソフト社に対して労務を提供したものであり、米国マイクロソフト社に対して労務を提供したものではないから、本件権利行使益が、対価性の要件を満たさないのみならず、<3>権利の行使は、被付与者の判断に委ねられている上、株価は、企業の業績のほか、金利、為替、株式の格付け、国際情勢等の不確実な材料が複合的に作用して形成され、権利行使益の発生は、極めて偶発的なものであるということができ、しかも、子会社の役員の精勤と親会社の株価の上昇とは直接的には関係しないから、権利行使益を労務の提供の対価ということはできないと主張する。
ア たしかに、前記引用に係る原判決の「前提となる事実」に記載のとおり、被控訴人は、日本マイクロソフト社との間で雇用契約を締結し、この雇用契約上の地位に基づいて、その従業員等として、同社の指揮命令に服して労務を提供していたものであって、その親会社である米国マイクロソフト社に勤務したことはなく、また、前記のとおり、本件ストック・オプションは、日本マイクロソフト社ではなく、米国マイクロソフト社から付与されたものであり、その行使による権利行使益も、実質は、米国マイクロソフト社に属する経済的利益が被付与者である被控訴人に移転したものである。
しかし、所得税法28条1項は、俸給、給料、賃金等を掲げて、通常、雇用契約法上の使用者が給付する給与を例示しているが、明文で、第三者から給付されたものを除外したり、給与所得を使用者から給付されるものに限定しているわけではなく、かえって、俸給、給料、賃金等の性質を有する給与と同一の性質を有する給与を給与所得とすることを定めているのである。そもそも、所得税法は、所得がその源泉や性質によって、担税力が異なるという前提に立って、所得を10種類に分類し、担税力の相違に応じて計算方法や課税方法を定めている。したがって、所得区分の判断に当たっても、その所得の源泉や性質の内実を把握すべきであって、従業員等が使用者である子会社に対して提供した労務に対して給付される経済的利益が、使用者である子会社により給付されたか、又は第三者である親会社により給付されたかにより、担税力を異にするものではなく、使用者以外からの給付である一事をもって給与所得に当たらないということはできない。なお、上記の判決は、弁護士の顧問料収入が事業所得か給与所得かが争われた事案において、事業所得との区別という観点から、給与所得の性質を説示したものであり、使用者と給与支給者とが異なる場合は想定されていないから、上記の判断が同判決に抵触するものではない。
イ 本件ストック・オプションは、前記のとおり、被控訴人が日本マイクロソフト社に精勤することにより、同社の業績を向上させ、それを通して、米国マイクロソフト社の事業に貢献したことに報いるために付与され、一方、その行使により経済的利益を獲得できる権利を与えるとともに、ストック・オプションを行使することによって得られる権利行使益を増加させることを誘因として日本マイクロソフト社に対して一層の精勤を動機付け、ひいては、米国マイクロソフト社の事業の成功を一層促進させることを目的とするもので、長期インセンティブ報酬の一種として位置づけられ、本件ストック・オプションの権利行使をするには、被控訴人が日本マイクロソフト社の従業員等としての継続的な地位を有することが重要な条件となっている。このように、本件ストック・オプションは、被控訴人の日本マイクロソフト社における従業員等としての地位と不可分に結びついたものであって、日本マイクロソフト社が米国マイクロソフト社の100パーセント子会社であることを前提にして、被控訴人が日本マイクロソフト社の従業員等として精勤してきたことを原因及び条件として付与されるものであり、将来も継続して精勤することが、その行使を可能ならしめるものであるから、日本マイクロソフト社における被控訴人の労務の提供と親会社である米国マイクロソフト社により本件権利行使益が給付されることとの間には、給与所得の要件としての対価性があるというべきである。さらにいえば、被控訴人の日本マイクロソフト社に対する労務の提供は、ストック・オプションを行使できるための原因及び条件であり、ストック・オプションの付与から行使までの間、被控訴人にあっては空間的・時間的拘束を受け、一方、米国マイクロソフト社にあっても、日本マイクロソフト社の親会社という立場で、使用者である日本マイクロソフト社と被控訴人との間における上記の関係を利用し、かつ、その成果を得ることができる関係にあるから、これをもって米国マイクロソフト社と被控訴人との間には、所得税法上、雇用契約に類する関係があるということもできる。
ウ なるほど、権利行使益の発生及び多寡は、従業員等による権利の行使に係る判断に委ねられ、しかも、行使時点の株価に従うものであり、その株価といえば、企業の業績のほか、金利、為替、株式の格付け、国際情勢等の不確実な材料が複合的に作用して形成されるものであるから、そもそも偶発的要素に関わるものであり、その上、被付与者が勤務先会社に対して提供した労務の質ないし量とストック・オプションを行使して得られる権利行使益との関係は、間接的で希薄であって、その間に数量的な相関関係を見出すことは困難ないし不可能であるといわざるを得ない。
しかし、権利行使益の発生及び多寡が、被付与者の個人的判断要素に関わる部分があるとしても、その判断要素といえども、あくまで会社と従業員等との間であらかじめ締結された付与契約の内容に従うものであり、また、複合的要素によって形成される株価に従うとしても、株価の形成において当該会社の業績がその重要な要素であることは否定し難く、その業績は、従業員等によって供された労務の集合によって作り出されるものであり、被付与者による労務の提供が付与会社及びその関連企業の業績、ひいては株価に何らかの寄与をしていることも否めない。そして、本件ストック・オプション制度の趣旨、目的及びその内容に照らせば、付与会社である米国マイクロソフト社において、同社の業績を向上させ、その株価に影響を与える一要素として、従業員の業績、将来性等を考慮した上で、子会社の従業員等たる被控訴人に対し、ストック・オプションを付与し、被控訴人にとっては、労務の提供又は会社の業績に対する貢献に対して会社から支給されたものであり、たとえ権利行使益と労務の質及び量との間に数量的な相関関係が認められないとしても、その発生等にたまたま他の要因が与っているというにすぎず、ストック・オプションの被付与者である被控訴人の労務の提供の見返りとして給付がされたという関係が肯定されるから、担税力に質的な相違を認めるべきではないと解され、労務の提供とその給付との間に対価的関係があるというべきである。
付与の時点で給付額が不確定であり、本件権利行使益と被控訴人の労務の質及び量との間に直接の相関関係が認められないことをもって、給与所得の要件として要求される労務の提供とその給付との対価性の要件を否定する主張は、採用の限りでない。
(3) したがって、本件ストック・オプションの行使により発生した本件権利行使益は、被控訴人の日本マイクロソフト社の指揮命令に服して提供した労務の対価として米国マイクロソフト社から被控訴人に対して給付されたものというべきである。
4 課税対象としての権利行使益
(1) 所得税法は、所得金額の計算の通則として、その年分の所得の金額の計算上収入金額とすべき金額として、別段の定めがある場合を除き、その年において「収入すべき金額」と定め(36条1項)、現実の収入があった場合のほか、現実の収入がない場合であっても、収入の原因となる権利が確定的に発生したときには、その時点で所得の実現があったものとして、権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するものとしていると解される。
本件ストック・オプションは、付与後の継続的勤務等を条件として株式譲渡契約を成立させる権利であって、その行使は、原則として付与された本人に限られ、しかも、一定期間の労務の提供後でなければすることはできない上、譲渡性がなく、これを取引の対象とする市場も存在しないから、本件ストック・オプションを付与されたことをもって、担税力を増加させる経済的利得があったものと評価することは困難であり、現実の収入として課税することはできず、また、所得の実現があったと評価しうるような収入の原因となる権利を取得したということもできない。
(2) ところで、被控訴人は、擬似ストック・オプションのうちの成功報酬型ワラントにあっては、会社が給与に代えてワラントを無償で支給した時点で、価額相当部分について給与所得として課税されることからすると、ストック・オプションの権利行使益を課税対象とするのは不合理である旨主張する。
たしかに、甲37、59号証及び弁論の全趣旨によれば、会社が分離型の新株引受権付社債(平成13年法律第128号による改正前の商法341条ノ8第2項5号)を発行した場合に、その後に新株引受権と社債とを分離して、会社が市場から新株引受権証券(ワラント、同法341条ノ13)を買い戻して従業員等に支給するときは、新株引受権証券が支給された時点で、当該新株引受権の価額相当部分について給与所得として課税されることが認められる。しかし、新株引受権証券については、有価証券上の権利を表象するものとして譲渡性があり、しかも、社債と分離して流通に置かれることが予定され、それ自体に客観的な市場価値があるので、所得税法36条1項の金銭以外の物として、その価値を把握することができるから、上記のとおりに課税され、同時に、当該新株引受権の価額相当部分が権利行使益の現在価値に相当するから、権利行使時に重ねて権利行使益に課税されることがないのであって、このことをもって権利行使時に発行会社から権利者に経済的利益の移転がないことを意味するということはできない。本件ストック・オプションにあっては、証券が発行されず、譲渡性がなく、擬似ストック・オプションと性質が異なる以上、新株引受権証券の場合と異なる扱いがされることがあっても、不合理とはいえない。
さらに、被控訴人は、成功報酬型ワラントについて、日本証券業協会の「登録前の第三者割当増資等及び特別利害関係者等の株式等の移動に関する細則」に則って設計されたもので、同細則には、成功報酬型ワラント導入の条件としてワラントの譲渡制限が要求されていたために、同ワラントは、常に譲渡が制限されていたから、譲渡性の有無で、ストック・オプションと区別することができないと主張する。しかし、譲渡制限された新株引受権についても、会社との関係では合意違反の問題を生じるものの、ワラント自体の譲渡性を奪うことはできず(前記商法341条ノ8第2項5号)、また、譲渡制限された新株引受権について、権利行使により経済的利益を得た場合には、所得税法施行令84条3号に基づき、権利行使時に権利行使益に対し課税されることになるから、上記の結論を左右するものではない。
(3) 被控訴人は、ストック・オプションが相続された場合をとらえて、相続時における株価と権利行使価格との差額について相続税が課されることからすれば、ストック・オプションそれ自体を課税対象にしているというべきであるから、本件権利行使益が所得税の対象となり得ないと主張する。
ストック・オプションが付与されると、付与された従業員等だけがストック・オプションを行使することができる地位を取得するが、その者が死亡した場合、付与契約において、相続人がストック・オプションを相続することができる旨合意されていれば、相続人が、被相続人の有していたストック・オプションを行使することができる地位を相続する。そして、相続税は、人の死亡による財産の無償取得によって生じた経済的価値の増加に対して課されるもので、相続税の課税物件は、相続により取得した財産であり(相続税法2条1項)、経済的価値のあるすべてのものが含まれるため、ストック・オプションによる権利を行使することができる地位も、経済的価値を有する以上、課税物件に含まれ、しかも、相続税法が、いわゆる時価主義(同法22条)を採用しているので、相続時点における株価と権利行使価格との差額相当額に相続税が課税されることとなる。一方、所得税の課税物件は、所得税法上の所得であり、ストック・オプションに係る所得は、権利行使益であって、権利の行使がされない限り、所得税法上の所得が未発生であるため、その付与時に課税されることがないというにすぎない。したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
5 関係法令との整合性
(1) 被控訴人は、措置法29条の2の規定が、ストック・オプションについて一般的に行使時に給与所得として課税することを定めているものではない旨主張する。
措置法29条の2は、商法上のストック・オプションのうち、いわゆる税制適格型のものについては、権利行使による株式の取得に係る経済的利益(権利行使益)に対して所得税を課さないこととしているが、同条が「第2章 所得税法の特例」中の「第3節 給与所得及び退職所得」の中に置かれていることに加えて、所得税法施行令84条が、同条各号所定の商法上のストック・オプションを付与された場合における所得税法36条の収入金額について、権利行使益をもって所得税の課税対象とすることを明らかにしていることからすると、措置法29条の2は、権利行使益が給与所得として課税される性質のものであることを前提にして、税制適格型のものについて、所得税法36条の「別段の定め」として、株式の譲渡時まで課税の繰り延べを認める趣旨であるものと解するのが自然である。また、措置法29条の2が発行済株式の総数の100分の50を超える数の株式を直接又は間接に保有する関係にある法人の取締役又は使用人に付与されたストック・オプションについても、上記非課税特例の対象としていることからすれば、同条は、付与会社と被付与者との間に直接の雇用関係等がある場合に限らず、上記のような子会社の従業員等に付与されたストック・オプションに係る権利行使益についても、給与所得に該当することを前提にしているものと解するのが相当である。
本件ストック・オプションについては、上記の法令の適用がされないが、その権利行使益についての所得税法上の所得区分を決定する上において、上記のような商法上のストック・オプションの権利行使益と異なる取り扱いをすべき特段の事情も認められないから、本件権利行使益を給与所得として課税対象とすることは、関係法令の規定(原判決第2の1(3) エ参照)とも整合性があるということができる。
(2) 被控訴人は、ストック・オプション行使時に付与会社から被付与者に対し権利行使益が移転したということができないとの主張を補って、ストック・オプションが将来行使されることにより成立する譲渡の価格については、ストック・オプションの付与日にあらかじめ約定され、権利の行使の際には、被付与者が当該譲渡価額によって株式の発行を受け、又は自己株式を譲り受けるにすぎず、このことは、法人税法施行令136条の4の規定によって、ストック・オプションを付与した法人側にとって、あらかじめ定められた譲渡価額によって譲渡することが正常な取引条件によって行われたものとなるとされ、権利行使益が損失と扱われていないことからも明らかである旨主張する。
しかし、前示のとおり、本件ストック・オプションの付与は、被控訴人と米国マイクロソフト社との間において、同社が、被控訴人に対し、権利付与日を基準にして定められた権利行使価格により同社の普通株式を売却することが合意され、その合意に基づき権利が行使されたときは、被控訴人は、同社に対し、具体的な株式引渡請求権を取得し、他方で、同社は、被控訴人に対し、時価を下回る権利行使価格相当額の金員支払請求権を取得することとなり、その結果、同社が当該株式を市場で売却(発行)すれば得られたはずの権利行使益に相当する分が被控訴人に移転するのであり、付与契約の実質は、米国マイクロソフト社の普通株式の低額譲渡に当たる。被控訴人が指摘する法人税法施行令136条の4は、内国法人が、商法210条ノ2第2項(平成13年法律第79条による改正前のもの)の決議に基づき内国法人とその役員又は使用人との間に締結された契約によりこれらの者に対して与えられた同項3号に規定する株式譲渡請求権の行使があった場合における所得の計算について、あらかじめ定められた譲渡価額(権利行使価額)をもってされた自己の株式の譲渡が正常な取引条件でされたものとして、当該内国法人のその譲渡の日の属する事業年度の所得の金額を計算することを定めているのであって、そもそも本件ストック・オプションとは異なるものである上、法人税課税の合目的性の観点から、法人の会計処理との連動性をも考慮に入れて、その取扱いを明らかにしたものにすぎず、同施行令の規定が、株式譲渡請求権の行使時に、権利行使益に相当する分という経済的利益が付与会社から被付与者に移転することを否定する趣旨によるものと解することはできないから、被控訴人の上記主張及び当審において被控訴人の援用する意見(甲41の1、62)を採用することはできない。
(争点2 本件各更正処分が、理由附記の不備により違法となるか。)
本件各更正処分の各更正通知書にその更正の理由の附記がなかったことについては、当事者間に争いがない。
所得税法は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額等の更正処分について、原則として更正通知書にその更正の理由を附記しなければならないと定めているが(155条2項)、そのほかの更正処分については、理由の附記を要求する規定を置いていない。
一般に、法が行政処分に理由附記を要求する趣旨は、処分庁の判断を慎重ならしめ、その恣意を抑制して公正を担保するとともに、処分理由を相手方に知らせることによって不服申立の便宜を図ることにあると解されるが、所得税の更正については、更正通知書にその更正に係る年分の総所得金額等の所得別の内訳が附記しなければならないと規定されているほか(所得税法154条2項)、不服申立手続等において、処分庁から処分の理由が明らかにされることが予定されているから(国税通則法84条4項、93条2項)、この限りにおいて、処分庁による恣意を抑制し、被処分者に対して処分理由を開示することが制度的に保障されているということができる上、加えて、一定の時期に集中して大量な処理が見込まれる所得税課税事務に円滑な遂行が要請されることを考慮すれば、所得税法及び国税通則法が、更正通知書に理由を附記することを要求していないことをもって、未だ不合理であるということはできず、憲法31条又は32条に違反するものでもない。
したがって、本件各更正処分の更正通知書に理由の附記がされてないことをもって、本件各更正処分を違法ということはできず、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
(争点3 本件各更正処分が、信義則違反により取り消されるべきか。)
1 信義則違反の補足主張
被控訴人は、本件各更正処分が信義則に違反することについて、当審において、原審における主張に加えて、次のとおり補足する。
被控訴人は、平成8年分の所得税の確定申告をするに当たり、被控訴人がその事務を委任した税理士において、大蔵財務協会発行の所得税質疑応答集でストック・オプションに係る利益が一時所得であることを確認したほか、同税理士の事務員を通して、渋谷税務署等複数の税務署に対し、相談のために電話をかけて、その権利行使益が一時所得である旨の回答を得た上で、同年分の確定申告を行い、その後、平成9年分についても同様に申告の手続をとったこと、同税理士が、平成10年末に、雑誌でストック・オプションの権利行使益が給与所得であるという記事を見つけた際には、同税理士の事務員を通して、電話で、渋谷税務署等複数の税務署に対し、権利行使益について所得区分の解釈の変更があったかどうかを確かめたところ、いずれの税務署も一時所得であると回答したこと、特に、被控訴人の管轄税務署である渋谷税務署に対しては、被控訴人が取締役を務めていた会社名を明示して、その海外親会社から付与されたストック・オプションであることを説明したうえで相談したところ、その相談の電話を受けた税務署職員において、署内の意思の確認を経た上で、一時所得であると回答したこと、そこで、被控訴人は、権利行使益を一時所得として申告し、平成11年分についても、同様の申告をしたこと、しかも、被控訴人は、税務署から得た一時所得であるとの回答を信頼し、この信頼に基づき納税すべき額を算出し、その額に基づきストック・オプションを行使するか否か、いくら行使するかを判断して、行使したこと、以上のとおりであり、これらの事情によれば、被控訴人が一時所得として確定申告するという行動に出たほか、納税予定額等を差し引いた分を用いて経済行動を行ったのは、公的見解の表示を信頼したことに基づくものであるから、その行為は保護されるべきであり、本件各更正処分は信義則に反し違法である。
2 信義則違反の有無
(1) 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、租税法律主義の原則の下にある租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別な事情がある場合に、初めて同法理の適用がされうるものである。そして、特別の事情があるといえるためには、少なくとも、<1>税務官庁が納税者に対し、信頼の対象となる公的見解を表示したこと、<2>納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したこと、<3>後にその表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けたこと、<4>納税者が税務官庁の表示を信頼して行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないことが必要である(最高裁昭和60年(行ツ)第125号昭和62年10月30日第3小法廷判決・裁判集民事152号93頁)。
(2) そこで、本件において、納税者にとって信頼の対象となる公的見解の表示がされたか否かについて検討すると、証拠(甲12、21、乙3、11の1から9まで、17、51から53まで)及び弁論の全趣旨によれば、ストック・オプション制度は、米国において、1980年代(昭和55年)以降本格的に導入されるようになったものの、わが国においては、未だ存在しなかった状況下で、課税庁が、昭和50年代に、外資系企業からストック・オプションについて問い合わせを受け、権利行使益が一時所得となるとの回答をした先例はあるが、昭和60年当時にも、我が国にはストック・オプションを付与される者も外資系企業に勤務する従業員等に限られていたことから、課税庁において、米国のストック・オプション制度に関する正確な認識に乏しかったこともあり、ストック・オプションが給与等に代えて付与されたと認められたとき以外は、権利行使益が一時所得となると理解し、財団法人大蔵財務協会発行で、東京国税局直税部長(平成4年版以降のものは、同課税第1部長)監修、同所得税課長編による「回答事例による所得税質疑応答集」昭和60年版には、外国親会社から子会社従業員に対し付与されたストック・オプションの権利行使益について、ストック・オプションが給与等に代えて付与されたと認められたとき以外は一時所得として課税される旨が記載され、また、税務研究会発行の週刊税務通信(昭和60年5月6日発行の1881号)には、国税庁審理室補佐による回答として同旨の内容の記事が掲載され、平成6年版までの「回答事例による所得税質疑応答集」にも同旨の記載がされていたこと、その後平成9年分所得税の確定申告期(平成10年2月ないし3月)ころまで、一時所得としての申告が容認されていたこと、平成7年11月に、特定新規事業実施円滑化臨時措置法の改正により、我が国において初めてストック・オプション制度が導入され、平成9年に、経済構造改革の一環としてストック・オプションを一般的に導入する旨の閣議決定がされた後、同制度が商法改正により本格的に導入されるに伴い、課税庁において、権利行使益が一時所得ではなく、給与所得であるとの共通の認識が形成され、平成10年分所得税の確定申告期以降、給与所得とする統一的な取扱いがされるに至ったこと、そこで、平成8年版(同年6月発行)「回答事例による所得税質疑応答集」では、平成6年版までの前記の記載が削除され、平成10年版(平成10年7月発行)では、外国親会社から付与されたストック・オプションの権利行使益について、給与所得として課税される旨記載されるに至り、財団法人大蔵財務協会発行の国税速報(同年10月26日号)にも同旨の見解が発表されたことが認められ、控訴人にあっても、このような一時所得から給与所得への記載内容の変更は、その当時の課税庁の認識を反映したものであることを自認している。
上記の認定事実、とりわけ、当時の課税状況等と併せて、「回答事例による所得税質疑応答集」及び週刊税務通信に、これらが私的な出版物ではあっても、国税庁職員が顕名で、あるいは客観的に税務を担当する者によるものと認めうる方法で、課税実務が解説され、もって当時の課税庁の認識を反映し、あるいはその意向を受けたものと客観的に認められ、これらの記述が、課税庁の課税行政の内容を国民に周知させる上で、補完的な意味を有するとともに国民に対して指針的なものとして一定の影響力を持ち、国民にとっても、そこに示された内容について、一定の信頼を置くものと推認しうることに照らせば、外国親会社から付与されたストック・オプションの権利行使益について、一時所得として課税される扱いについて、平成10年ころ以前には、国民の信頼を保護すべき程度にまで課税庁による公的見解の表示があったのと同様の状態にあったとみることができる。そのほか、被控訴人は、複数の税務署に対して、電話で相談した結果、一時所得である旨の回答を得たとする主張するが、この点については直ちに認めがたいところであり、仮にその事実を認めうるとしても、当該税務相談における態様、回答者の立場等が明らかでないから、その回答をもって公的見解が表示されたと直ちに判断することは困難である。
(3) 被控訴人は、一時所得とする課税庁の見解に従って、納税額を算出し、その額に基づいて権利行使するかどうかを判断し、権利行使をしたと主張するが、この事実あるいはそれをうかがわせる事情を直ちに認めがたいのみならず、仮に給与所得となるとの見解が示されていた場合には被控訴人において権利行使をしなかったとの事情もうかがえないから、権利行使と前記見解の信頼との間に直接的な因果関係があるとはいえない。なお、本件11年分権利行使益については、権利行使の時期と前記の公的見解の表示と同視しうる時期との関係からしても、因果関係がないといえよう。
また、被控訴人が、納税申告をすることは、所得の発生により国税の納付義務としてすべきことであり、その場合に、所得の把握によって負担すべき納税額に相違を生じることがあるのは当然であって、一定の見解に依拠した申告行為自体を保護すべきものとする被控訴人の主張は、採用しがたい。なお、前記引用に係る原判決の「前提となる事実」によれば、被控訴人は、平成8年分及び同9年分に係る所得税につき、それぞれ同9年3月17日、同10年3月16日に確定申告書を提出したのであるから、少なくとも両年分の申告に当たっては、被控訴人の主張するとおり、課税庁による公的見解の表示と同視しうる状態を信じたことによって一時所得として申告したものと認めることができるものの、同10年分に係る所得税については、本件10年分権利行使益が一時所得に当たるとして、同11年3月15日に確定申告書を提出したが、この時点においては、すでに課税庁による一時所得とする公的見解の表示と同視しうる状態はなく、給与所得とする扱いがされるようになっていたのであるから、前記のとおり、税務署の相談によってなお信頼したか否かを含めて被控訴人が課税庁による公的見解の表示を信頼して申告等をしたことには疑問がないではなく、さらに、平成11年分の所得税については、被控訴人には平成12年3月10日付けで同8年分から同10年分の所得税について、本件更正処分がされ、同月11日には通知されているから(甲4)、同月15日に確定申告書を提出した行為については、課税庁による公的見解の表示と同視しうる状態を信頼したとはいいがたい。
納税資金を除いた権利行使益で被控訴人自身の事業を行ってきたとする被控訴人の主張については、必ずしもその事実を認めうるものではないが、たとえその事実が認めうるとしても、その行為は単に課税額に対する期待に依拠したというに留まるものであって、前記の公的見解の表示と同視しうる状態を信頼したこととの因果関係も不分明であり、保護すべきものには当たらない。
さらに、被控訴人は、ストック・オプションの権利行使益が一時所得に該当するとの税務署の職員からの回答を受けたことにより、予想外の経済的不利益を被ったと主張するが、課税庁の方針に変更があったとはいえ、本来の所得区分に認定された上、本来あるべき課税がされたにすぎないのであるから、結局、被控訴人の上記主張は、本来納付しなければならないはずの所得税を払わなければならなくなったことが不利益であると主張するにすぎない。そのほか、前記見解を信頼したことによって予想に反する課税処分を受けたという以上に特別に経済的不利益を受けたことを認めうる具体的な立証はない。
3 信義則に係るその他の事情
被控訴人は、当審において、予備的主張として、本件については、上記の判例に当てはまらずとも、信義則の法理を適用すべき特別の事情があると主張するが、上記のほかに、控訴人の事情において信義則に違背し、被控訴人の事情において特に保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存することを認めるに足りる証拠はなく、信義則の法理の適用により、本件更正処分等を違法なものとして取り消すべきであるということはできない。
(結論)
以上のとおり、本件権利行使益は、所得税法28条1項所定の給与所得に該当し、本件各更正処分のうち本件権利行使益の所得区分以外の部分については当事者間に争いがなく、被控訴人の本件各係争年分の納付すべき税額は、原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の3(1) ア、(2) ア、(3) ア及び(4) アに記載のとおりであって、本件各更正処分に係る納付すべき税額と同額あるいはこれを上回ることとなり、しかも本件各更正処分には信義則に違反する事由もないから、適法である。
また、本件賦課処分は、被控訴人が平成11年分更正処分により被控訴人の同年分の所得税に係る申告税額が過少になったことにより、国税通則法65条1項に基づきされたものであり、適法である。なお、当該過少申告に同条4項に規定する正当な理由があることに関しては、その主張はないが、念のため全証拠をみてもこれを認め得るものはなく、かえって、前記の信義則に係る事情を通してみれば、過少の申告がやむを得なかったとは到底いえないことを付言しておく。
第4 結語
よって、被控訴人の本件請求はいずれも理由がなく、これを認容した原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消して、被控訴人の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。