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東京高等裁判所 平成16年(ネ)4620号 判決 2005年3月03日

東京都●●●

控訴人

有限会社●●●

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

横田俊雄

東京都●●●

被控訴人

●●●こと

●●●

主文

1  原判決の主文1項及び3項を次のとおり変更する。

(1)  控訴人の被控訴人に対する別紙債務目録記載の債務が存在しないことを確認する。

(2)  控訴人のその余の請求を棄却する。

2  訴訟費用は,控訴人に生じた費用の3分の2と被控訴人に生じた費用の10分の1を控訴人の負担とし,その余の費用を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中控訴人に係る部分を次のとおり変更する。

2  主文1項(1)と同旨

3  被控訴人は,控訴人に対し,金15万円及びこれに対する平成16年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  要旨

控訴人は,被控訴人に対し,両当事者間で締結された消費貸借契約に付随する利息の契約が,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)5条に基づき処罰の対象となる高利のものであるから,上記消費貸借契約が全体として公序良俗に違反し,無効である旨主張して,同契約に基づく債務の不存在の確認を求めるとともに,被控訴人が,控訴人の取引先に対する債権について,控訴人に代わって違法に債権譲渡通知書を発送したため,その取引先の信用を失い,業務委託契約を解除され,損害を被った旨主張して,不法行為に基づく損害賠償を求めた。

原判決は,債務不存在確認請求について,上記消費貸借契約のうち利息の契約に限り公序良俗に違反し無効であるとして,同契約に基づく債務が残元金を超えて存在しないことの確認を求める限度で一部認容したほか,損害賠償請求を棄却したため,控訴人が,敗訴部分を不服として控訴したものである。

なお,原審において,控訴人から取引先に対する債権を譲り受けた横田俊雄も,被控訴人に対し,第三債務者が上記債権について供託した供託金の還付請求権が自らに帰属することの確認を求めていたが,原判決は,これを認容し,被控訴人は,控訴しなかった。

2  当事者の主張

原判決の「事実及び理由」中の「第2 当事者の主張」の1(1)及び(3)並びに2(1)及び(3)に記載されたとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決添付別紙債務目録は,本判決添付別紙債務目録に改める。

第3当裁判所の判断

1  債務不存在確認請求について

(1)  控訴人と被控訴人との間では,平成15年6月20日,利息を15日間で2割と定めて,控訴人に現に交付された47万5000円につき,金銭消費貸借契約が成立したものと認めることができる。その理由は,原判決の「理由」中の1(1)に記載されたとおりであるから,これを引用する。

(2)  上記消費貸借契約(本件消費貸借契約)の効力について検討すると,前記認定(本判決で引用する原判決の「理由」中の1(1))によれば,本件消費貸借契約に付随する利息契約は,出資法5条2項により貸金業者が業として金銭の貸付けを行う場合に処罰の対象とされる利率である年29.2パーセントはもちろん,同条1項により一般に金銭の貸付けを行う場合に処罰の対象とされる利率である年109.5パーセントをもはるかに超え,その4倍以上にも達する年486.6パーセント(=365÷15×20% 小数点第2位以下切り捨て)という法外な利率による利息を定めるもので,かかる利息契約は,債務者の窮状に乗じて,利息の名の下に著しく過当な利益を貪ることを目的とするものであるということができるから,原判決の説示するとおり,公序良俗に違反することは明らかである。

さらに,本件消費貸借契約の効力について検討すると,たしかに,本件消費貸借契約の締結において,控訴人にあっては,返済につき確たる見通しも立たないまま借金を重ねるなど安易な意思が看取されなくもなく,しかも,現に元本相当分を収受して会社の運営資金として受益していることを看過することはできず,借主側の履行責任の遵守を促す必要もあることは否定できない。しかし,控訴人が本件消費貸借契約を締結するに至った背景には,厳しい経済情勢から売上げが減少して資金繰りに窮していた上,本件消費貸借契約の前年である平成14年10月に控訴人会社の運転従事者が交通事故を起こしたことにより他に業務を委託することを余儀なくされ,経費がかさむことになったなどの事情があり(弁論の全趣旨),他に控訴人において漫然と債務を重ねて不当に費消したなどの非難すべき格別の事情も認められない。他方,被控訴人側の本件消費貸借契約締結の事情をみると,控訴人が資金繰りに窮していわゆるやみ金融業者から借金を重ねていることに乗じて,あらかじめ強引に債権譲渡通知書まで徴したり,あたかも違法の発覚に備えるかのように架空の名を表明したり,契約書面に不正確な記載をするなどし,その貸付けの仕方も,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)を無視して,同法に定める契約書面や受取証書の交付などの貸金業者の義務を全く履行しないものであり,また,債権回収の対応についてみても,弁護士の関与を察知するや,直ちに債権譲渡通知書を控訴人の取引先に発送するなどし,本件消費貸借契約の締結は,全体として極めて悪性の強いものと評することができる。これらの事情に加えて,本件消費貸借契約の正当性等について自ら主張立証することをしない被控訴人の訴訟追行の態様,現下の経済情勢の下で小口金融の一部にみられる法を逸脱した営業実態(弁論の全趣旨)等をも勘案し,さらに,本件消費貸借契約の締結当時は,未施行であるものの,貸金業を営む者が業として行う金銭を目的とする消費貸借の契約において,年109.5パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは,当該消費貸借の契約を無効とする旨定める貸金業法42条の2の法意をも考慮すれば,本件においては,たとえ控訴人側に不利というべき上記の事情を斟酌しても,利息契約のみに留まらず,本件消費貸借契約そのものにつき,控訴人の窮状に乗じて,極めて悪質といえる利息契約と一体として締結されたものとして,公序良俗に反し,無効とすべき特段の事情があるというべきであり,もはや法の保護に値しないものといわざるを得ない(最高裁昭和26年(オ)第906号同28年12月18日第二小法廷判決・民集7巻12号1470頁,最高裁昭和28年(オ)第691号同29年11月5日第二小法廷判決・民集8巻11号2014頁,最高裁平成5年(オ)第2142号同9年9月4日第一小法廷判決・民集51巻8号3619頁参照)。

(3)  したがって,控訴人の被控訴人に対する別紙債務目録記載の債務は存在しないものというべきである。

2  不法行為に基づく損害賠償請求について

前記認定(本判決で引用する原判決の「理由」中の1(1))のとおり,被控訴人は,控訴人からあらかじめ交付を受けていた債権譲渡通知書の用紙に必要事項を記入の上,●●●宛てに発送したが,本件消費貸借契約そのものが前記のとおり無効であり,しかもその債権譲渡通知書の取得や通知の態様に,原判決の説示するとおり,不当とみられ得る事情があることを考慮すれば,その行為を違法と評価し得る余地があるが,その行為そのものによって,控訴人が,信用を失ったとか,●●●から当該契約を解除されたとか,さらには,取引関係に支障を生ずるに至ったことを認めるに足りる証拠はないから,その余の点について判断するまでもなく,本件損害賠償請求は理由がない。

3  よって,以上の判断と異なる原判決の主文1項及び3項を上記の趣旨に従って変更し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 門口正人 裁判官 福岡右武 裁判官 西田隆裕)

<以下省略>

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