東京高等裁判所 平成16年(ネ)727号 判決 2004年6月23日
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
3 当裁判所が平成16年2月13日にした、東京地方裁判所平成14年(ワ)第15141号事件及び同第20515号事件の執行力ある各判決正本に基づく強制執行に対する各停止決定は、いずれもこれを取り消す。
4 上記3は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人会社が、関東緑営株式会社(関東緑営)に対する東京地方裁判所平成14年(ワ)第20515号の執行力ある判決の正本に基づき、平成15年5月3日、原判決別紙第1物件目録記載の物件に対してした強制執行は、これを許さない。
3 被控訴人生田が、関東緑営に対する東京地方裁判所平成14年(ワ)第15141号の執行力ある判決の正本に基づき、平成15年5月27日、原判決別紙第2物件目録記載の物件に対してした強制執行は、これを許さない。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、被控訴人らに対し、被控訴人らがそれぞれ関東緑営に対する執行力ある判決の正本に基づき強制執行をしたところ、差押えに係る各物件(本件各物件)はいずれも控訴人が所有ないし占有するものであるとして、各強制執行の不許を求める第三者異議の訴えである。
2 本件の争点は、控訴人は、法人格を濫用するものであり、あるいは、控訴人の法人格は形骸にすぎないとして、控訴人の法人格は否認されるか否かにあるところ、本件における判断の前提となる事実及び当事者双方の主張は、当審における下記3ないし5の当事者の主張をそれぞれ付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の第1項ないし第3項(原判決2ページ26行目から同7ページ5行目まで)に摘示するとおりであるから、これを引用する。
原判決は、関東緑営は、控訴人をその意のままに道具として利用し得る支配的地位にあり、かつ、債権者の強制執行を妨害するという違法不当な目的の下に控訴人の会社形態を利用しており、関東緑営は控訴人の法人格を濫用しているものと認められ、被控訴人らとの関係においては、控訴人の法人格は否認されなければならない旨判断し、控訴人の本件請求をいずれも棄却したので、控訴人が控訴した。
3 当審における控訴人の主張
(1) 関東緑営が所有し、かつ、管理、経営する旨の記載のある社団としてのメイフラワーゴルフクラブの当初の会則(乙8)2条が、変更されていない点について
控訴人は、株式会社メイフラワーゴルフクラブ((株)メイフラワーゴルフクラブ)から、本件ゴルフ場の運営業務を受託した会社であって、「会員の基本的な規範」である会則を変更する権限を持たない。
また、関東緑営は、ゴルフコースの土地については、その所有権を一定の信託目的の下に、株式会社三桜(三桜)に対して、信託的に譲渡したにすぎず、したがって、確定的に所有権を失ったものではなく、建物についても、(株)メイフラワーゴルフクラブとの間で賃貸借契約が締結されているだけであり、所有権を失ったわけではない。(株)メイフラワーゴルフクラブは、関東緑営に対して、信託目的に従って信託財産を管理、運営する義務を負っており、しかも、本件ゴルフ場の会員の入退会の管理等の権限は、関東緑営に残されている。控訴人としては、関東緑営がゴルフコース及びこれに付帯するクラブハウスその他の施設を所有・管理しており、少なくとも本件ゴルフ場の会員との関係では経営権を有していると認識していた。したがって、控訴人は、少なくとも前記会則2条を変更すべき必要性はないと考えていた。
しかし、他方、控訴人は、本件ゴルフ場の運営業務を遂行することによって業務委託費を得ており、業務委託の目的の範囲内で積極的かつ主体的な運営を行っており、(株)メイフラワーゴルフクラブや関東緑営に支配される関係にはない。
また、控訴人の取締役であるAは、本件ゴルフ場の理事であったが、控訴人は、前述のとおり、前記会則2条を変更すべき必要はないと考えており、しかも、会則が控訴人が本件ゴルフ場の運営業務を積極的・主体的に遂行して行く上で、何ら支障となっていない以上、Aが理事であったとしても、控訴人が会則変更を求めることは容易であったとはいえない。したがって、Aが本件ゴルフ場の理事であった事実から、関東緑営が控訴人に対して支配的地位にあったと推認することはできない。
(2) 本件ゴルフ場の料金その他の事項が事実上関東緑営の意向に従って決せられる状況にあったか否かについて
控訴人は、ビジターフィの金額を決定する際に、(株)メイフラワーゴルフクラブに対して、近隣のゴルフ場との価格競争を視野に入れながら、積極的に金額を提案しており、最終的には同社を通じて、関東緑営の承認を得て決定されるが、控訴人の自主的かつ主体的な判断に基づいて決定されており、関東緑営の意向に従って決せられるというような状況にはない。
また、メンバーフィについても、控訴人は、同様に、積極的に提案して、決定されており、実質的には、控訴人の自主的かつ主体的な判断に基づいて決定されており、関東緑営の意向に従って決せられるというような状況にはない。
(3) 関東緑営が本件ゴルフ場を運営して利益を得ているとの点について
関東緑営は、別件訴訟(東京高等裁判所平成15年(ネ)第2202号事件)で、関東緑営においては、運営利益の中から、今後15年で相当程度の蓄積を予定していると主張しているようであるが、控訴人が全く関与していない別訴での主張を根拠に、本訴において、関東緑営が控訴人に対し支配的な地位を有するか否かを認定すべきでないし、また、上記主張の趣旨は、関東緑営は、控訴人が(株)メイフラワーゴルフクラブに業務委託契約に基づいて支払った金額から、利益を得ているという趣旨であって、関東緑営が控訴人を支配することによって本件ゴルフ場を運営しているという趣旨ではない。
(4) 控訴人にゴルフ場の運営実績がほとんどなかったことについて
控訴人代表者Bは、別会社で飲食店の運営業務を受託する会社を経営しており、そのノウハウを活かしてゴルフ場運営を行うことができると判断したものである。
Bが、ゴルフ場に関する調査を行ってみると、ゴルフ場が集客力を上げるためには、顧客満足度を上げることはもちろんのこと、効果的な広告や企画を打ち出すなど、ビジターを惹き付けてリピーターを増やす対策が必要であり、また、ゴルフ場の運営をコスト面から検討した結果、ゴルフ場が効率よく利益を上げられない要因は、バブル期の高コスト体質が十分改善されていないことにあるのではないかと考えるようになった。そこで、Bとしては、高コスト体質を徹底的に見直し、飲食店の運営で身につけた接客能力や企画力や情報発信能力を活かしてゴルフ場を運営すれば、利益を上げられるのではないかと思うに至り、ゴルフ場を運営することとしたものであり、控訴人がゴルフ場の運営経験を有していなかったことは、関東緑営が控訴人を支配していた事実を何ら推認させるものではない。
(5) 控訴人が、(株)メイフラワーゴルフクラブの従業員を引き継いだとの点について
控訴人は、従前の雇用契約をそのまま引き継いだのではなく、人件費削減を目指して、独自に賃金体系を大幅に見直して新たな雇用契約を締結したものである。例えば、営業職は、基本的に歩合給とし、経費も一部自己負担とし、キャディも約4分の1に削減して、仕事量に応じた歩合給の割合を高め、その他の従業員も、基本給を約3分の1に削減した上、貢献度に応じて手当を積み増す賃金体系とし、課長以上の役職者も年俸制に変更するなどした。
このように、控訴人が、独自に従業員の賃金体系等を変更した事実は、控訴人が、関東緑営や(株)メイフラワーゴルフクラブから独立していることの徴表であるというべきである。
(6) 控訴人による本件ゴルフ場運営の状況について
控訴人は、次のとおり、本件ゴルフ場を主体的に運営している実体のある会社であり、関東緑営に支配されて本件ゴルフ場を運営しているわけではない。
<1> コース整備上の問題点を早急に改善するために、新しい機械を導入し、バンカーの改修を手始めとして、コースの補修に着手するように指示した。
<2> 本件ゴルフ場には乗用カートが備置されていなかったが、(株)メイフラワーゴルフクラブに乗用カートの導入を提案し、その導入に踏み切った。
<3> 本件ゴルフ場の利用者の意見を反映するために、(株)メイフラワーゴルフクラブとも相談し、会員を管理している関東緑営の理解を得て、本件ゴルフ場の会員で構成される分科委員会を設置した。
<4> 本件ゴルフ場の予約期間に制限を設け、予約数をほぼ正確に把握できるようにした。
<5> インターネットを利用した予約を開始した。
<6> 集客のための新たな企画として、クラブハウスを利用したウェディングパーティを企画・運営し、最近1年間では20ないし30組が結婚式を挙げているが、これは、Bがこれまで培った飲食店運営のノウハウを活かしたものである。
<7> 近隣のゴルフ場との価格競争に巻き込まれないために、ビジターフィについては、なるべく下げない方針を採り、さいたま市内や後には東京都内に予約センターを設け、県外からの集客に努めたため、その割合は増加している。
<8> レストラン部門の徹底的な見直しを図り、料理の種類や質にもこだわり、味を損なわずに、原価率を下げる施策を行っている。
(7) Bは、(株)メイフラワーゴルフクラブから本件ゴルフ場の運営業務を受託することとなり、平成12年2月、控訴人会社(当時の商号は、メイフラワー株式会社)を設立し、東京都港区<以下省略>所在の奥主ビル3階に本店を置き、同年4月から業務を開始したが、同ビルは住居用建物であり、会社業務を行う事務室としては不適当であったために、同年6月29日、東京都港区<以下省略>所在六和ビル(六和ビル)3階の事務所について、賃貸借契約を締結した。その後、控訴人は、東京都内での営業を強化するためと、会員が多く住んでいる埼玉県に近いこともあって、現住所に本店を移転したものである。
このように、控訴人は、一時期、関東緑営の会員管理課と同じビルに入居していたことはあったものの、それ以前も、現在も、別の場所で営業しており、その意味でも、控訴人が関東緑営に支配される地位にないことは明らかである。
(8) 控訴人の登記簿謄本上の旧本店所在地における張り紙について
平成15年8月8日、六和ビル3階にあった控訴人会社の当時の本店事務所のドアに「ご用の方は4階にお願いします。」との張り紙をした経緯について、次のとおり、補充する。
控訴人は、平成12年6月29日、前記のとおり、六和ビル3階の事務所について賃貸借契約を締結し、同所で、Bが代表者あるいは全株式を所有しているグループ会社である、控訴人を含むマネージメントグループの業務を開始した。Bは、平成12年4月ころ、六和ビル4階にあった六本木ビル管理株式会社(六本木ビル管理)の株式を取得していたが、平成13年3月ころ、Bの10年来の友人であるCを六本木ビル管理の代表取締役に迎え入れていたところ、同年4月、Cは、3階に移りたいと申し出たので、(株)メイフラワーゴルフクラブのDと相談の上、4階の賃料の3分の1を支払うことで、4階の面積の半分を、六本木ビル管理が使用することに合意した。その後、六本木ビル管理は、平成15年8月のお盆までに4階の事務所を閉鎖し、3階に統合することとなった。関東緑営は、同年8月6日には既に4階から退去しており、六本木ビル管理も同月10日までに明け渡すこととなったために、前記張り紙がなされていた8月8日は、従業員が4階で梱包作業をしており、3階は不在となるために、かかる内容の張り紙をしたものである。
(9) 控訴人と関東緑営とでは、株主構成が異なるなど、その間には、人的・物的結合関係は存しないけれども、このことは、会社の背後にある者が、その会社を道具として利用し得る支配的地位にあるか否かを判断する上で極めて重要な要素である。
なお、控訴人の取締役Aは、本件クラブの理事をしているけれども、理事会と関東緑営とは別組織であり、これにより控訴人と関東緑営が人的につながっていることにはならない。
(10) 関東緑営が違法不当な目的の下に控訴人の会社形態を利用しているものではない点について
<1> 控訴人と(株)メイフラワーゴルフクラブが、平成12年3月21日に、本件業務委託契約を締結した時は、本件ゴルフ場の開場から約8年経過していたこと自体は知っていたが、関東緑営とは直接の契約関係になく、しかも、何人の会員が預託金の返還請求をするかについては、到底予想もつかなかった。関東緑営に対して預託金返還請求訴訟が提起されたことは抽象的には知っているが、その件数等の詳細は、現在でもよく知らない。
<2> 関東緑営が過去に強制執行を妨害する目的で短期賃貸借契約を締結したか否かは、控訴人は知らない。
<3> 控訴人は、本件ゴルフ場の運営にとつて必要な料金その他の事項について、自主的・主体的に関わっており、事実上関東緑営の意向に従って決せられているような状況にはない。
<4> 控訴人は、既に述べたとおり、本件ゴルフ場の運営を実際に行っている。 (11) 法人格否認の法理は、取引上の問題を処理するために適用することはあり得るとしても、権利関係の公権的な確定及びその迅速確実な実現を図るために手続の明確、安定を重んじる執行手続においては、その性格上、その執行力の範囲はあらかじめ債務者との関係が確定されていなければならないものであるから、取引法において形成されてきた法人格否認の法理を強制執行手続に適用することは許されない。
(12) 被控訴人生田は、控訴人が主張するように、控訴人の本件ゴルフ場の運営が積極的かつ主体的であるというのであれば、経営の実態が一目瞭然となる決算書を示せば解決するにもかかわらず、控訴人はこれをしないことからしても、控訴人の運営がかかるものでなかったことを物語るものである旨主張する。
しかしながら、控訴人の税務申告書類及び付属の決算書類等を開示し、損益計算書等に基づいて従業員に対する給与や取締役の報酬の支払や、(株)メイフラワーゴルフクラブに対する精算に関する事実を立証したとしても、これによって、控訴人の本件ゴルフ場の運営が積極的かつ主体的であるかどうかまで明らかにならないことは自明であり、むしろ、これらを開示すれば、当該記載内容に基づいて強制執行を受ける可能性を否定できないし、そのために、これらの書類にマスキング等をして提出しても、そのような書類の証明力ははなはだ疑問である。
4 当審における被控訴人会社の主張
(1) 会則2条が変更されていない点について
会則2条が変更されていないことは、信託契約が締結されても、賃貸借契約が締結されても、また、運営委託契約が締結されても、関東緑営がゴルフコース及びクラブハウスその他の施設を所有し、管理・経営しているという実態に変化がなかったことを強く推認させる事実であり、控訴人が本件ゴルフ場を運営しているといっても、全くの形骸で実態がないか、もしくは、関東緑営に支配される地位にありながら本件ゴルフ場を運営しているとの事実を強く推認させるものである。
(2) 本件ゴルフ場の料金決定が、関東緑営の意向に従って決定されていることは、控訴人自身認めるところであり、このことは、本件ゴルフ場を管理・経営しているのが関東緑営であることを強く推認させる事実である。
(3) 運営利益を得ているという別訴における関東緑営の主張には、第三者に運営を委託することによって運営利益を上げるなどという留保は全くなく、自ら運営に当たって利益を上げることを前提とした主張と解される。
関東緑営が、控訴人の主張するとおりの運営利益を得ているのであれば、控訴人は関東緑営の協力を得るなどして、容易にそれを立証できるにもかかわらず、それをしていない。また、運営業務委託契約(甲21)3条によれば、営業利益の3割を業務委託料として支払うこととされているけれども、関東緑営が自ら運営していたときに比べ3割以上の営業利益を上げることは通常考えられないが、控訴人が運営に入ったことによって、従来に比べて3割を超える営業利益が上がったとの証拠は一切提出されていない。
(4) 関東緑営は、飲食店業界に強い影響力をもっており、飲食店業務を受託する会社を経営していたB及びその会社そのものが、関東緑営ないし関東緑営の経営者一族の支配下にあったと推認するのも難しくはない。
ゴルフ場運営の実績のほとんどないBが、ゴルフ場の運営委託を受けること自体不自然であり、ゴルフ場経営は関東緑営が行っていたことが推認される。
(5) 控訴人が従業員をそのまま引き継いだことについて
(株)メイフラワーゴルフクラブの従業員をそのまま引き継いだことは、運営実態に変化がないこと、本件では、関東緑営が本件ゴルフ場を運営しているという実態に変化がないことを推認させるものである。
控訴人は、従業員を単純に引き継いだものではない旨主張するけれども、控訴人主張のようなことは、関東緑営自身でも行える事柄であり、そのことで、関東緑営の支配下にないことの事実を推認できるものではない。
(6) 本件ゴルフ場の運営状況が明らかでない。
控訴人が主張するような業務運営は、関東緑営自体でも行うことが可能であり、また、これらをBが行ったとしても、そのことが、控訴人が関東緑営の支配下にないとの事実を推認させるものではない。
控訴人は、運営状況を明らかにしようとして種々の書類を提出するけれども、金銭の収支を裏付ける証拠等は一切なく、運営状況は依然として明らかでない。
(7) 控訴人の主張する本店所在地の移転は、当初、会社業務を行うのには不適切な場所に設立され、まもなく、関東緑営に従って、六和ビルを本店とし、関東緑営が六和ビルを退去するや、またも、これに従って六和ビルを退去したものであって、これらの関係からしても、控訴人の法人格が全くの形骸で実態がないか、少なくとも控訴人は関東緑営に支配される地位にあることが強く推認される。
(8) 六和ビル3階の張り紙について
六和ビル3階の張り紙は、実質的には、控訴人と関東緑営が一体の関係にあり、控訴人の法人格が形骸であるか、少なくとも関東緑営に支配される地位にあることを強く推認させるものである。
控訴人が当審で主張する本店所在地移転の経緯は、関東緑営の支配下にあることをかえって推認させるものである。本店の移転は、法人格が形骸であることを取り繕うための弥縫策にすぎない。
(9) 控訴人取締役Aはメイフラワーゴルフクラブの理事であるが、同理事は、関東緑営が委嘱した者が選任されるものであるから、人的つながりがあると言わざるを得ない。
また、関東緑営も控訴人経営者も、いずれも飲食店業界で活躍していたことが強く推認でき、人的結びつきがあったことが推認できる。
(10) 関東緑営が債権者の強制執行を妨害するという違法不当な目的の下に控訴人の会社形態を利用していることについて、控訴人は、訴訟を提起されるなどの関東緑営が置かれていた状況及び短期賃貸借が設定された経緯を知らない旨主張するけれども、ここでは、関東緑営の違法不当な目的の有無が問題なのであり、控訴人の知・不知はその判断に影響しない。本件ゴルフ場の運営にとって必要な料金その他の事項は、事実上関東緑営の意向に従って決定されている状況にある。
控訴人が当審で提出した証拠をもってしても、本件ゴルフ場の運営状況は明らかでなく、控訴人の会社形態を利用しているものというべきである。
(11) 控訴人が第三者異議事件には法人格否認の法理を適用することができないと主張する事案は、和解調書に基づく強制執行において法人格否認の法理を適用することについて消極的に解した事案であり、控訴人の主張は、執行目的物の債務者の責任財産への帰属やこれに対する他人の権利の有無に関して形式的に審査する権限職責しか与えられていない執行機関によって行われる執行手続と、執行目的物の債務者の責任財産への帰属やこれに対する他人の権利の有無を実体的に審査する判決手続たる第三者異議訴訟を混同するという誤った前提に基づく主張にすぎない。
5 当審における被控訴人生田の主張
(1) 控訴人は、平成11年11月ころ、控訴人代表者が、当時の(株)メイフラワーゴルフクラブ専務取締役Dから運営を依頼され、調査の上、Dに所感を述べて運営を任された旨主張するけれども、控訴人代表者が述べたような理由で、関東緑営が全くの第三者である控訴人に全面的に運営を任せたりすることは考えられない。
本件ゴルフクラブのような有名なゴルフ場をわずかのリサーチで営業委託契約を合意したり、具体的な記載のないわずか一枚の契約書を作成するにとどまることは考えられない。
(2) 控訴人が主張するように、控訴人の本件ゴルフ場の運営が積極的かつ主体的であるというのであれば、経営の実態が一目瞭然となる決算書を示せば解決するにもかかわらず、控訴人はこれをしないことは、控訴人の運営がかかるものでなかったことを物語るものである。
6 証拠関係
証拠関係は、原審及び当審訴訟記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、関東緑営は、控訴人の法人格を濫用するものであって、被控訴人らとの関係では、控訴人の法人格は否認されるべきであるから、控訴人の本件請求は、いずれも理由がないものと判断する。そのように判断する理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の第1項ないし第5項(原判決7ページ7行目から同14ページ21行目まで)に説示するとおりであるから、これを引用する。
2(1) 控訴人は、関東緑営が、控訴人を支配していたような事実はなく、控訴人は、その自主的かつ主体的な判断に基づいて本件ゴルフクラブを運営していたとして、重ねて種々の主張をする。
(2) まず、控訴人は、メイフラワーゴルフクラブの会則(乙8)2条が当初から変更されていないのは、控訴人は、かかる会則を変更する権限を有しないし、また、その必要性もなかった旨主張する。
しかしながら、ゴルフクラブにとって、所有主体と運営主体が異なり、しかも、運営主体が所有主体から独立して自主的に運営するのであれば、かかる関係は、ゴルフクラブの会員にとっては、会則に記載されるべき極めて重要な事項であると考えられるが、これがゴルフクラブの会則に明記されないことは奇異なことというべきであるし、かかる記載のないことは、重要な事項を会員に知らせないことにもつながるものというべきである。
そうして見ると、運営主体が異なることが会則に記載されていない事実は、運営上の営業行為の担当者がいずれであるにせよ、ゴルフクラブの運営上も、会員の経済的利害関係においても、関東緑営の経営方針が貫かれるという関係にあることをうかがわせる事実というべきである。
(3) 控訴人は、本件ゴルフ場の料金その他の事項は、控訴人の提案に基づいて決定されており、実質的には、控訴人の自主的かつ主体的な判断に基づいて決定されていた旨主張する。
しかしながら、控訴人の主張を認めるに足りる証拠はないし、控訴人の主張によっても、結局は、関東緑営が最終的に決定したことは控訴人の認めるところであって、控訴人の自主的かつ主体的な判断に基づいて決定されているとはいえない。
(4) 控訴人は、関東緑営の別訴における主張を本件における判断の資料とすべきでないし、また、関東緑営の主張の趣旨は、控訴人の業務委託契約に基づき支払う金額から同社が利益を得るという趣旨である旨主張する。
しかしながら、本訴において、関東緑営と控訴人との関係を検討する上で、関東緑営の別訴における訴訟対応をも、その判断資料の一つに加えることは何ら不当なことではないし、別訴における関東緑営の主張は、自らが運営主体となって、経営改善に邁進している状況を訴えているものと理解するのが自然であるから、控訴人の主張は採用できない。
(5) 控訴人は、控訴人にはゴルフ場の運営実績がなかったとしても、控訴人代表者が、飲食店運営業務受託会社を経営して得たノウハウを活かして、ゴルフ場運営を行うことができると判断したものである旨主張する。
しかしながら、飲食店の運営とゴルフ場の運営とは、その業態を著しく異にするものであり、特に、ゴルフ場の経営が著しく困難になっていた当時において、ゴルフ場運営に全くの素人と言っても過言でない控訴人をして、自主的・主体的に運営できる資質ないし適応性を具備するものとは当然には考え難いところであって、控訴人の主張には、疑問を抱かざるを得ない。
(6) 控訴人は、(株)メイフラワーゴルフクラブの従業員を引き継いだ点について、それを機に、人件費削減を目指して、賃金体系の見直し等を行っており、これらは、むしろ、関東緑営から独立して運営していることの徴表である旨主張する。
しかしながら、従前の従業員をそのまま引き継いだ事実自体は、むしろ、控訴人による運営と従来の運営との連続性を示す事実と理解する方が自然であるし、控訴人の主張する賃金体系の見直し等がどれほど実行されたのか必ずしも明らかではないけれども、仮に、その際に、何らかの変更が加えられたとしても、それは、従来の経営上の問題点の改善を行ったものとも見うるのであって、関東緑営からの独立性の徴表であるとまではいえない。
(7) 控訴人は、本件ゴルフ場を主体的に運営しているとして、コース整備、乗用カートの導入、分科委員会の設置等、種々の事象を指摘する。
控訴人の主張する個々の事項が実際にどの程度実行されているのか、必ずしも明らかでないけれども、その点を暫く措くとしても、控訴人主張のような改善がなされることは、いわば、ゴルフクラブ運営上の営業行為の実施(ないしその巧拙)の次元に属する事項というべきであって、そのこと自体は、直ちに控訴人が関東緑営から独立して運営していることを裏付ける事実となるものとは解されないから、控訴人の主張は当たらないというべきである。
(8) 控訴人は、控訴人の本店所在地を変更した経緯を主張して、控訴人は、関東緑営に支配される地位になかった旨主張する。
しかしながら、控訴人の主張するところは、当初、会社業務に不適当な場所で業務を開始したが、3か月程度で、関東緑営の入っている六和ビルに移転し、同社が退去する時期とほぼ同時期ころに、控訴人も転出したことを述べるものであり、そうすると、控訴人の主張する経緯をもって、控訴人が関東緑営に支配される地位にないことを示す事実であるとまでは到底いうことができない。
(9) 控訴人は、平成15年8月8日に、六和ビルの3階事務所に掲示されていた張り紙について、るる弁解する。
控訴人の主張するところは、これを裏付ける客観的証拠が乏しいといわなければならないが、その点を措くとしても、そのような張り紙による掲示がなされた事実は、控訴人と関東緑営との間に密接な関係が存することを端的に物語るものであって、控訴人の主張するところは、前記引用に係る原判決の認定説示を動かすには至らない。
(10) 控訴人は、関東緑営との間に、人的・物的結合関係が存しないと主張する。
しかしながら、控訴人代表者Bは、(株)メイフラワーゴルフクラブ代表者Dに請われて、本件業務委託に至ったことは、B自身認めるところであり、控訴人取締役Aは、本件ゴルフクラブの理事であるなど、両者の間に人的関係が存しないとはいえない。
また、Bの陳述書(甲11)によれば、控訴人が受託業務を開始する以前に生じた費用の一部について、控訴人が(株)メイフラワーゴルフクラブとともに支払責任を負うことを合意しており、ゴルフ利用税の負担では、税務署の指導に従い、控訴人名義で納税しているにもかかわらず、内部的には、(株)メイフラワーゴルフクラブが負担しているなど、同社、関東緑営、控訴人との間には、経理上も、截然と区別されていない関係がうかがえるにもかかわらず、控訴人は、これらの点について、明確な立証を行っておらず、上記の経理上等の関係を始め、原判決が適切に整理し、指摘するような関係に徴すると、これらの三社(ないし三桜を含めた四社)の間が混然としている関係にあることは否定できないところというべきである。
(11) 控訴人は、関東緑営に対する訴訟の詳細を知らないとか、同社が過去に強制執行を妨害する行為をしたことは知らないなどと主張する。
しかしながら、本件ゴルフ場の運営を委託されながら、関東緑営に対する預託金返還請求訴訟については抽象的にしか知らない旨の弁解は、その運営を受託している会社としては、実に理解し難い弁解というほかないし、関東緑営が、過去に強制執行妨害を目的とする短期賃貸借契約を締結したか否かについて、控訴人が知らなかったとしても、そのことは、前記引用に係る原判決の認定判断を左右するものではない。
(12) また、控訴人は、取引法において形成されてきた法人格否認の法理は、権利関係の公権的な確定及びその迅速確実な実現を図るために、手続の明確、安定を重んじる執行手続においては、適用されない旨主張する。
しかしながら、ゴルフクラブの財産を、他の法人の所有であるかのごとき形式を装って、債権者からの執行を免れるために、法人格を濫用するような事案において本件のような執行関係訴訟が提起された場合には、執行を免れるためのかかる行為を許さず、法人格否認の法理を適用することがあり得ることは論を待たないところであり、そして、そのような訴訟の判断において当該法理を適用することが執行手続を害することにならないこともいうまでもないところであるから、控訴人の主張は、およそ採用の余地はない。
(13) その他、控訴人は、関東緑営から支配される地位になく、自主的かつ主体的に運営しているとして、るる主張するけれども、いずれも採用することができず、前記引用に係る原判決の認定説示するように、控訴人は、法人格を濫用するものといわなければならない。
第4 結論
以上のとおりであるから、控訴人の本件請求は、いずれも理由がなく、棄却すべきところ、これと同旨の原判決は正当であり、本件控訴は、いずれも理由がないから、棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法67条1項、61条を適用して、主文のとおり判決する。