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東京高等裁判所 平成16年(行コ)77号 判決 2004年6月10日

控訴人 甲

同訴訟代理人弁護士 満尾直樹

被控訴人 川越税務署長

内田守一

同指定代理人 中村葉子

同 櫻井保晴

同 神田福男

同 小髙愛子

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成11年4月30日付けで控訴人に対してした、控訴人の平成7年分の所得税の更正の請求に対してその更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

3  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

第2  事案の概要

1  控訴人は、被控訴人に対し、控訴人の平成7年分の所得税について、自己所有の土地の譲渡所得に関し、埼玉県富士見市所在の土地(以下「本件譲渡土地」という。)の譲渡については、租税特別措置法(平成8年法律第17号による改正前のもの。以下「措置法」という。)31条の2「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(以下「本件特例」という。)」第2項所定の「優良住宅地等のための譲渡」に、同県入間郡三芳町所在の土地(以下「本件土地」という。)の譲渡については、同第3項所定の「確定優良住宅地等予定地のための譲渡」にそれぞれ該当し、いずれも同第1項の適用があることを前提に、原判決別表記載のとおり、納付すべき税額を5068万7900円として確定申告(以下「本件確定申告」という。)をしたが、確定優良住宅地等予定地のための譲渡部分である本件土地については、同第3項所定の期間内に同第2項9号所定の開発行為の許可を得ることができなかったため、本件特例の適用を受けることができないこととなったことから、同第7項に基づき、納付すべき税額を8171万1600円として修正申告をするとともに、本件土地に関する部分の売買契約を売主側に税法上の問題が生じたことなどを理由に合意解除した(以下「本件合意解除」という。)上、本件合意解除が国税通則法(以下「通則法」という。)23条2項3号及び同法施行令(以下「通則法施行令」という。)6条1項2号所定の「契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され」た場合に当たるとして、同法23条2項に基づき、納付すべき税額を1766万4200円として更正の請求をしたところ、被控訴人は、控訴人に対し、平成11年4月30日付けで、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。

本件は、控訴人が、被控訴人に対し、本件土地に開する部分の売買契約は錯誤により無効であり、又は契約の成立後生じたやむを得ない事情によって合意解除されており、錯誤無効の点は所得税法152条、同法施行令274条所定の更正の請求の特例の対象となる事実に当たり、また、本件合意解除の点は通則法6条1項2号所定の事由に当たり、錯誤無効又は本件合意解除により上記売買契約により生じた経済的成果が失われているから、本件通知処分は違法であると主張して、その取消しを求めた事案である。

原審は、仮に上記売買契約に錯誤による無効原因があり、あるいはそれについて本件合意解除がされたとしても、本件通知処分までの間に上記売買契約により生じた経済的成果が失われたといえないから、いずれについても更正の要件を満たさず、本件通知処分に違法がないとして、控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

2  法令の定め等、基本的事実関係及び当事者の主張は、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」2ないし4記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決4頁8行目の「所得税法152条」の次に「、同法施行令274条」を加え、同9行目の「事業所得」を「事業所得等」に改め、5頁13行目の「原告は、」の次に「本件土地について、」を加え、7頁未行の「19万0100円」を「192万0100円」に、12頁下から10行目の「同項7号」を「同第2項7号」にそれぞれ改める。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も、仮に本件土地に関する部分の売買契約に錯誤による無効原因があり、あるいはそれについて本件合意解除がされたとしても、本件通知処分までの間に上記売買契約により生じた経済的成果が失われたといえないから、いずれについても更正の要件を満たさず、本件通知処分に違法はないと判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1及び2記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決22頁10行目の「甲1」から10、11行目の「8の15」までを「甲1ないし11、13、14ないし26、乙1ないし8(技番のあるものは、技番を含む。)」に改める。

(2)  24頁下から10、9行目の「措置法施行令20条の2第15項6号」及び「措置法施行規則13条の3第9項」の次に、いずれも「。ただし、平成9年ないし10年当時のもの」をそれぞれ加える。

(3)  25頁11行目から14行目までを、次のとおり改める。

「控訴人は、平成10年6月29日、被控訴人に対し、本件更正請求をしたが、本件合意解除の数日前に相談をした税理士から、Aから受領した売買代金を返還した形を作らないと更正請求は認められないと聞かされ、また、いったん農協から金員を借り入れた上、この金員でAに返還し、次いで、Aの取締役から返還相当額を借り入れて、この金員で農協に返済する方法があるとの指導を受けていた。

そこで、控訴人は、翌30日、Aに対し受領代金の返還時期の変更を申し入れた結果、Aとの間において、本件土地の売買代金2億3328万3900円のうち、9000万円を直ちに返還し、残金は本件土地の売却代金をもって返還する旨を合意し(甲6)、同日、農協から9000万円を借り入れてAに9000万円を返還し(甲22)、次いで、その10日後である同年7月10日、Aの実質上の代表者である丙(以下「丙」という。)がAから9000万円を借り入れてこれを控訴人に貸し付け(甲26、乙4)、控訴人は、同金員をもって上記農協からの借入金9000万円を返済した。なお、丙が控訴人に貸し付けた9000万円については、平成15年8月27日現在においても、返済が未了であるが、丙は控訴人に対して返済の催告をしておらず、両者の間に具体的な返済計画もない。」

(4)  25頁下から6行目の「売買契約」を「坪単価を本件売買契約と同額の57万円とする売買契約(甲10)」に改め、26頁2行目の「代金返還がなされたとされているが、」の次に「上記9000万円の返還以外は、本件通知処分後のものである上、」を加え、同下から9行目の「一般に、」から同下から4行目末尾までを削り、27頁下から3行日の「71条2号」を「71条1項2号」に改める。

(5)  27頁下から2行目の「認定したとおり」から28頁3行目の「返還しているに過ぎない。」まで、29頁下から13行目の「認定したとおり」から同下から9行目の「返還しているに過ぎない。」までを、いずれも次のとおり改める。

「認定した事実によれば、控訴人がAに返還した9000万円は、本件更正請求が認められることを目的に、当初から同金員を還流させることを意図して控訴人が農協からこれを借り入れ、控訴人からA、同社の実質上の代表者の丙を経由して、再び控訴人に還流させ、農協に返済されたというべきものであって、上記9000万円の返還は、経済的成果が失われたように形式を整えたものにすぎず、これをもって、実質的に本件土地の売買代金2億3328万3900円の一部である9000万円がAに返還されたとみることはできない。また、上記9000万円の返還以外は、本件通知処分後のものである上、帳簿上の処理だけのことで、実際に金員が控訴人からAに返還されたわけではなかったことは、前記認定のとおりである。

以上によれば、平成11年4月30日の本件通知処分の時点において、控訴人が本件売買契約によって本件土地に関して2億3328万3900円の売買代金を受領したという控訴人の経済的成果が失われていないことは明らかである。」

2  よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横山匡輝 裁判官 佐藤公美 裁判官 萩本修)

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